~ラヴィンヌ村~
「ここがラヴェンヌ村……ずいぶんのどかなところよね。あ、果樹園があるんだ。」
「果物の生産で知られてるけど、その昔は採掘で賑わったそうよ。北の方に、廃坑になった七耀石の鉱山があるって聞いたわ。」
初めて見るラヴィンヌの風景に興味深そうに見ているエステルにシェラザードは説明した。
「ずいぶん詳しいですね。前にも来たことがあるんですか?」
「正遊撃士になるために、修行の旅をしていた頃にね。あの時は、飛行船に乗らずに王国全土を歩き回ったもんだわ。」
ヨシュアの疑問にシェラザードは昔を懐かしむような表情で答えた。
「え、どうして?飛行船を使った方が便利なのに。」
一方エステルはシェラザードの行動がわからず、首を傾げた。
「『飛行船は確かに便利だが、五大都市しか行き来していない』『その便利さに慣れてしまうと他の場所に目が行き届かなくなる』『まずは、自分が守るべき場所を実際に歩きながら確かめてみろ……』――そんな風にカシウス先生に勧められたのよ。」
「へえ、父さんが……」
「確かに、事件が起こった時、そこが行ったことのない場所だと手遅れになる可能性もありますね。あと、犯罪者を追いかける時にも地理を知っていた方が有利ですし……」
シェラザードの説明にエステルは感心し、ヨシュアは頷いて同意した。
「ふふ、そういうこと。さてと、それはともかく……。例の目撃情報について調べてみるとしましょうか。」
シェラザードに調査を促されたエステルだったが、いきなり村の人全員に聞いて回るのも妖しいので村長に事情を話すことにした。そして村長からはある子供がエステル達が注目していた情報を持っているようなことを聞いて、エステル達はその子供を探した。しばらく村を歩きまわると池の桟橋に一人の男の子がいたので情報の元の少年かと思い近付いた。
「あれ、お姉ちゃんたち、見かけないカオだね……。フルーツ買いに来た商人さん?」
エステル達の足音に気付いた少年はエステル達の顔を見て疑問に思ったことを呟いた。
「ふっ、それが違うのよね。何を隠そう、遊撃士(ブレイサー)よ!」
「ブレイサー?アガットお兄ちゃんと同じ?でもお姉ちゃん、そんなに強そうには見えないけど……」
気取って答えたエステルに少年はエステル達を見て、呟いた。
「うぐっ。はっきり言ってくれちゃって……。でも、この華麗な棒術を見て果たして同じことが言えるかしら!」
少年の呟きにエステルは図星をつかれた表情をした後、気を取り直し棒を取り出し、回転させた。
「わ、わわ!クルクル回ってすごいや!」
「むふふ、思い知ったかね。それじゃ、もっと凄い技を……」
「エステル、はしゃぎすぎ。それよりも……もしかして君がルゥイ君?」
驚いている少年にエステルは胸を張りさらに何かをしようとした時、ヨシュアはエステルの先の言葉を遮って少年に確認するように話しかけた。
「あ、うん……。どうして名前を知ってるの?」
「村長さんに聞いたんだ。君が、空飛ぶ影を見たってね。その時のことを聞きにきたんだ。」
自分の名前を言われた少年――ルゥイは首を傾げて答え、ヨシュアはルゥイに話しかけた理由を言った。
「え、でも……。兵隊さんが調べて何も見つからなかったって……」
「うん、それでもいいんだ。僕たちにも教えてくれないかな?できる限り詳しくね。」
自信なさげに答えるルゥイにヨシュアは諭すように言った。
「う、うん……………………………………」
ヨシュアの言葉にルゥイは頷いて少しの間考え、やがて口を開いた。
「あのね……ボク、星を見るのが好きなんだ。それで、夜中に家を抜け出して、ここで星を見たりするんだけど……。このあいだの夜、夜空に2つの影が動くのを見かけたの。」
「え、ちょっと待って……。空飛ぶ影って2つもあったの?」
ルゥイの言葉とナイアルから得た情報が微妙に違っていることに気付いたエステルはルゥイに確認した。
「うん……。あっ、大きさは違ったよ。まるで親子連れみたいだった。」
「大きさの違う2つの影……」
「定期船と空賊艇……そう考えると辻褄が合うわね。」
「確かに、森に現れた船は定期船よりも小型でしたね。」
ルゥイの情報からエステルは考えるように呟き、シェラザードとヨシュアはその情報に正当性がありそうであることに頷いた。
「それで、その2つの影は北の方に飛んで行っちゃって……。そのまま見えなくなっちゃった。」
「北っていうと……」
「村の裏口からさらに山道が続いているわ。ずいぶん昔に廃坑になった七耀石の鉱山があるみたいね。」
さらに続くルゥイの情報にエステルはシェラザードに場所の確認をして、シェラザードはそれに答えた。
「兵隊さんたち、北の山道をテッテイ的に調べたんだけど、なにも見つからなかったって……。だから、ボクが寝ぼけて夢を見たんだろうって言って……。それで……バカにしたように笑って……」
ルゥイは兵達にバカにされた嫌な記憶も思いだし、顔を下に向け瞳から涙が出始めた。
「ああ、もう……男の子が泣いたりしないの!あたしたちは兵隊とは違うよ。君の話が夢なんかじゃないって、ちゃんと証明してあげるんだから!」
「ほ、ホント……?」
エステルの慰めの言葉にルゥイは顔を上げた。
「ホントもホント。どーんと任せなさいって!……そうだわ!重要な情報を渡してくれたお礼にいいものを見せて上げるわ………パズモ!!」
(今度は何かしら、エステル?)
ルゥイの言葉にエステルは大きく頷いた後、パズモを召喚した。
「わぁ………妖精さんだ!」
ルゥイはパズモを見て目を輝かせた。
「ふふ~ん。こう見えてもお姉さんは妖精さんと仲良しなのよ。パズモ。(お願い、パズモ。少しの間だけでいいからこの子の周囲を飛び回って上げて!)」
(わかったわ、相変わらず優しいわね、エステル。)
エステルの念話にパズモは微笑して答え、ルゥイの周りを飛び回った。
「わ、わ、わ!凄い綺麗!お星様みたいだ!」
自分の周りを飛び回るパズモを見てルゥイははしゃいだ。そしてある程度飛び回ったパズモはエステルの肩に座った。
「妖精さんも君を励ましているんだから、君もベソかいちゃダメだからね?」
「う、うん……。お姉ちゃん達、いいヒトだね!」
エステルの言葉にルゥイは喜びの表情で答えた。
「(フフ、相変わらず子供に好かれやすいみたいね。それにパズモをあんな風に使役するとはね。)」
「(ええ……あれも人徳かもしれませんね。それにあの場面でパズモを出して男の子のケアを頼んだのはブレイサーとしていい選択だと思います。)」
シェラザードとヨシュアはエステルの行動を微笑ましげに見て小声で会話をしていた。
「ん、どうしたの?」
エステルはヨシュア達が小声で会話らしきことをしているのに気付き振り向いた。
「いや、何でもないよ。それよりも、やるべき事は決まったみたいだね。」
「うん!早速、村の裏口から出て、北の山道を調べてみましょ!」
ヨシュアの言葉にエステルは頷き、ルゥイと分かれたエステル達は村の北にある山道の先にある廃鉱山へ向かって行った…………
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第35話