No.448200

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#13.5

高郷葱さん

#13.5:対決 セシリアvs空


先に謝っておきます。
オルコッ党の皆さま、ごめんなさい。

2012-07-07 17:34:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2550   閲覧ユーザー数:2438

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中国の代表候補生鳳鈴音の転入の数日後………

 

「これより、オルコット対千凪の試合を始める。両者、準備はいいか?」

 

授業内の模範演武的な扱いになる筈だった二人の試合が、全校に公開という形に代わり行われようとしていた。

 

噂になっている『教員化した男子生徒』、その相手が第三世代型ISを擁する代表候補生ということでアリーナにはかなりの人が入っていた。

 

 

「はい。」

 

「いつでもどうぞ。」

 

審判兼管制官を務める千冬の声に返事をする二人。

 

それぞれ己が相棒(せんようき)を展開して開始線についている。

 

モニターに簡単なデータが表示されているが、それによると空のISは『薙風』というらしい。

第二世代型で打鉄に似た外見を持つバランス型。

それが表示されたデータの全てだった。

 

(相手は第二世代型。とはいえ、加速性能は第三世代型よりも上のようですし……油断は禁物ですわね。)

 

打鉄をベースにした改造機を纏った空と対峙するセシリアは自分に言い聞かせるようにして浮かびあがってくる慢心を押さえこむ。

 

慢心は勝負においてかなりマイナスな要素をもたらす。

 

それが原因で、素人かつ初心者…IS総搭乗時間三〇分未満の一夏に首の皮一枚残すギリギリまで追い詰められた。

先日の箒との戦闘でも訓練機で近接戦闘を主とする相手であったにもかかわらず互いに『負けないが勝てない』という膠着状態に持ち込まれてしまった。

 

まあ、箒との一戦は互いにクセの読みあいと牽制をやっていたら空に撃墜されたので落とすもなにもない、というのがあるが。

 

(見た目はなんの代わり映えもしない打鉄タイプにしか見えませんけど……)

 

セシリアの脳裏に実習の模範飛行の時に一夏を吊り上げた腕部固定型のウィンチランチャーの事を思い出す。

 

最初に展開された時は装備されていなかったものだ。

 

(固定武装の換装。……厄介ですわね。)

 

固定武装というのは交換が難しいか取り回しに難のあるものが大抵だ。

 

だが、その取り回しの悪さや手持ち武装化ができない代わりに特殊な攻撃方法が使えたり、手持ち火器よりも高火力であったりする。

 

特殊なモノならばセシリア自身のBT兵器、ブルー・ティアーズ。高威力ならばラファールタイプによく使われる六九口径回転式連装型パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』が好例だろう。

 

(少なくともウィンチ以外にも何か装備は持っている筈…固定武装の変更をさせずに封殺するのが一番…かしら?)

 

セシリアは『試合開始』の声がかかるまでの僅かな時間を使って戦術を組み上げていた。

 

とはいえ『何を持っているのか』が判らない以上かなりあいまいなモノにならざるを得ない。

 

それも、固定武装の変更が持つ強みなのだろう。

 

 

「それでは――――――」

 

始め。

千冬の声と試合開始を告げるブザーがアリーナに響いた時―――

 

「へっ?」

 

セシリアの視界は巨大な尖端で埋め尽くされていた。

 

 

「なっ!?」

 

強引に体を横スライドさせてその尖端から逃れると同時、ズドンという轟音と共に直径十センチ余という極太の杭が数瞬前までセシリアの頭があった場所を通り過ぎた。

 

回避に成功したとはいえ、セシリアは自分の血の気が引いていくさぁっ、という音を聞いた気がした。

 

「―――外したか。」

 

続けざまに放たれる、空が左手に保持するアサルトライフルからの射撃を回避しつつセシリアは距離を取る。

 

「あ、危ないじゃないですの!」

 

あんな凶悪なモノ、喰らったら死んでしまう。

 

そんな思いがセシリアに抗議をさせる。

 

「ああ、心配無用。ちゃんと絶対防御を抜かないように炸薬量は調節してあるから。死なない、死なない。まあ、精々脳震盪でしばらく動けなくなるくらいかな。流石、一〇五ミリ。」

が、空の返答は何とも能天気な物でサラっと問題発言までこぼしれくれた。

 

「そう言う問題ではなくてですね、ていうか、十センチもあるんですの!?」

 

蛇足な上に繰り返しになるが一般的に使用される有名どころのパイルバンカー『グレー・スケール』の口径は六九ミリである。

一〇五ミリと言えば最早戦車砲の砲弾レベルの口径だ。

例とすれば、陸上自衛隊が使っていた七四式戦車の主砲が一〇五ミリライフル砲であった。

 

つまり、戦車砲と同じ口径の杭を絶対防御を抜かない程度ギリギリの炸薬量でぶっ放す訳である。

 

取り回しの悪さ、反動の大きさ、どちらも最悪レベルだろうが威力だけは確かそうだ。

 

 

「とりあえず、コレはもうお終いかな。」

 

そう言ってパイルバンカーを収納(クローズ)した空。

 

次に現れた武装は―――

 

 * * *

 

「チェーンソー?」

 

「んー、チェーンソーって言うよりは、チェーンソー・ブレードって処じゃないのかなぁ」

 

「尖端怖いセンタンコワイせんたんこわい………」

 

空がパイルバンカー装備になった途端に錯乱し始めた楯無は放置して、簪は幼馴染にして従者である布仏本音と一緒に分析していた。

 

「なんというか、傍から見てる分には普通のブレードの方がいいんじゃないかと思うけど…」

 

 

『いやぁぁぁぁっ!』

 

『当たっても切れないで削れるだけだよ。―――――当たり続けると削り斬られるけどね。』

 

『こっちにこないでぇぇぇ!』

 

「…十分、効果あるかも」

 

実際、簪としても自分があのソー・ブレードを使われたら泣き叫んで逃げ回る自信があった。

 

ぎゃりぎゃりという刃が回転する音と何故か響き渡るエンジン音。

 

そしてそれを振り回すイイ笑顔の空。

 

その笑顔は千冬の『獲物を見つめる目』と同じなのだから、ああ怖い怖い。

 

「確かに、せっしーの心が折れそうだよね。べきって。」

 

そういえば、本音と今回対戦している二人は同じクラスだったと思い出す簪。

 

 

 

それからしばらくしたら突然、エンジン音が止んだ。

 

『ん?燃料切れか。』

 

心底残念そうな空の声に幾人もが冷や汗を流す。

 

対してセシリアは心の底からホッとしたような顔になる。

 

『よし、次と行こうか。』

 

チェーンソー・ブレードがクローズされて次に呼び出された武装は………棘付の鉄球だった。

 

『さーて、次はこれ。』

 

『もういやぁぁぁ!』

 

ゴウッ、と音を立てて鉄球が火を噴く。

ブースターの加速を得て更に加速する鉄球。

それを必死になって避け、逃げるセシリアという構図は当分崩れそうになかった。

 

 * * *

 

「なんというか、俺、空と戦う事にならなくてホントに良かったって思ってる。」

 

「ああ。そうだな。オルコットはその事を身を以って証明してくれた。アイツは…皆の為に犠牲になったんだ。」

 

合掌しそうな勢いの一夏と箒。

 

多くの生徒がセシリアに同情を寄せるか、冥福を祈っていた。

 

 

その彼女らの眼前では右腕に大きな鋏のようなモノを取りつけてセシリアに迫る空の姿があった。

 

 

 

恥も外聞もなく逃げ惑うセシリア。

 

彼女の辞書からは『無様』や『卑怯』といった言葉が抜け落ち、そのスペースには『いのちはだいじ』とか『三十六計逃げるに如かず』という逃げる事の正当性を訴える言葉が書き込まれていた。

 

 

試合開始からすでに十数分。

 

その間にセシリアの身を襲った珍兵器たちは以下の通りだった。

 

 

最初の一〇五ミリ径回転連装式パイルバンカーに始まり次に出てきたのはチェーンソー・ブレード。その次は人の頭ほどの大きさの鉄球。当然、棘付きで鎖につながれた、某ハイパーなハンマーみたいなアレだった。

 

それで終わりかと思いきや、土木作業で岩を砕くために使いそうな巨大なハンマー、次は塹壕戦における最強兵器である歩兵の友スコップ。

 

そこらへんの近接武装が終わったら今度はベアリング弾をバラまくクレイモア・ランチャーの弾幕に晒され、それをなんとか耐えきった後に今の鋏が来ている。

 

 

はっきり言おう。

 

ほぼ全ての武装が浪漫のみ(・・)を追い求めたとしか思えない凶悪な武装であった。

 

数少ない例外はパイルバンカー使用後の隙を埋めるために使ったアサルトライフル、

あとは今現在左腕に装着されているチェインガンくらいだ。

 

 

だが、その色モノ兵装たちによってセシリアは心身ともにズタボロにされていた。

 

ブルー・ティアーズの装甲は到る所が傷つき、その名前の所以たる自動攻撃端末(ビット)も一機残らず撃破されている。

 

 

「…ていうか、こんだけ強いなら空が代表になれば―――」

「一組最強伝説の出来上がり、だろうな。そしてやる気をなくした他クラスの成績が墜ちる。」

 

「だから、千冬姉は空を代表にしなかったのか」

「まあ、想像だがな」

 

「でもいい線だと思うぞ」

 

「そ、そうか」

 

 

そして…

「あ」

 

会場にいたほぼ全ての生徒の声が重なった。

 

自爆覚悟でミサイルを超至近距離から放ったセシリアが、遂に鋏に捉えられた瞬間だった。

 

 

その胴をがっちりとホールドした鋏にシールドエネルギーはガリガリと削り取られてゆく。

 

『ひやぁぁぁぁぁ!』

 

そして、セシリアの精神が限界に達した時―――

 

かくり、

 

ビー

『そこまで。勝者、千凪空。』

 

精神限界を超えたのか意識を失ったセシリアとシールドエネルギーを全て失ったブルー・ティアーズが機能停止するのは同時だった。

 

余りに当然すぎる宣告が下され、試合は終わった。

 

 

 

但し、後に残ったのは勝負事の後の高揚感では無く、一方的な殺戮劇を見た後の沈痛な、葬送曲が似合いそうな沈んだ雰囲気であったが。

 

 

後日、セシリア・オルコットはこう語った。

 

『私が、馬鹿だった。』と。


 
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