No.448145

Be who you are!

saitou2021さん

今回も紗雪アフターです・・・が、
今回焦点を当てるのは零二となぎさです。
2人のイチャイチャ(?)っぷりをご堪能ください。
ちなみにタイトルの意味は「自分らしくあれ!」です。

2012-07-07 16:40:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1160   閲覧ユーザー数:1142

「・・・あづい」

 

7月25日。星見学園も夏休みに入り、いい感じにダラーっと怠惰に過ごしてやろうと

意気込んでいた矢先。俺は一つの巨大な障害にぶつかっていた。

 

「・・・まさか、クーラーが逝ってしまうなんてな・・・」

 

そう。この夏を戦い抜くための俺の相棒(パートナー)、クーラー様が故障

してしまったのだ。・・・さすがにクーラーのない夏の夜はつらい。

 

「あ゛ー・・・もう限界だ」

 

夏休みの宿題を片付けていた俺だがさすがに限界だ。

こんな暑さの中では順調に進むものも進まない。

・・・シャツも汗で濡れてベットリと肌に絡みついてくる。

意識が勉強から離れたせいかさっきより明確な不快感が俺の身体を伝ってくる。

 

しゃーない・・・一っ風呂浴びて・・・。

いや、今から風呂を沸かし直すというのも結構時間がかかってしまうだろう。

・・・ならシャワーだけで済ますか?

いや、しかし気分的には浴槽にも浸かりたい。・・・さて。

 

「・・・しょうがない、少し出るか」

 

少し時間はかかるが、美鏡温泉まで行くことにした。

この時間でもまだやってるし、人も少ないだろう。

そこで汗を流して、帰りにコンビニでも寄って冷たいものでも買っていこう。

 

そうと決まれば支度支度・・・っと。

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

 

 

 

「やっぱり外の方が涼しいな・・・」

 

俺は紗雪たちに、その旨を伝えて家を出た。

涼風が俺の身体を優しく撫でてゆく。月光が夜空を照らし、虫たちの演奏が

大気を振動する。気分的にも涼しくなれる夜だ。

そうやって夜を感じながら歩いていると、あっという間に目的地へ着いた。

 

そのまま俺は美鏡温泉への入り口をくぐった。

そして、一番最初に俺の視界に飛び込んできたのは・・・

カウンターの机に力無く突っ伏しているひよりの姿だった。

 

「お、おい!ひよりっ!?」

 

俺はすぐさまひよりのもとに駆けより安否を確認する。

見るからに顔色が悪い・・・。

 

「あぅ・・・よ、芳のん・・・?どうして・・・」

 

「『どうして』はこっちの台詞だ!大丈夫か!?ひよりっ!!」

 

「よ・・・芳のん・・・」

 

「ひよりっ・・・!しっかり・・・」

 

「・・・暇すぎて・・・死ぬほど眠い・・・・」

 

・・・・・。

 

「大人一枚な」

 

「ス、スルーはないよ芳のん~~~・・・あぅ・・・」

 

俺はひよりをスルーして、そそくさと脱衣所に向かった。

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

「うぅっ・・・芳のんめ・・・。この怨み・・・晴らさいでかぁぁ・・・」

 

「こんにちわー・・・って、わぁっ!?み、美鏡さん!?ど、どうしたの!?」

 

「そ、その声は鈴白さん・・・?・・・い、いやぁ・・・ちょっと・・・ね・・・眠くて」

 

「・・・眠い?・・・な、なんだぁ、ビックリしちゃった・・・。

どこか具合悪いのかと思っちゃった・・・」

 

「うぅ・・・スルーしないでくれる鈴白さんは天使だよ・・・」

 

「あ、あはは・・・よくわからないけど・・・。温泉、まだ大丈夫だよね?」

 

「あ、うん・・・大人一名様・・・ごあんなーい・・・」

 

「じゃあ、美鏡さん、また後でね」

 

「ほー・・・・い・・・」

 

・・・・・。

 

「・・・あ・・・れ?」

 

・・・・・・・・・・・。

 

「あーーーーーーっ!!この時間混浴じゃーーーーん!!?

・・・ということはつまり・・・。・・・ま、いっか。寝よ・・・」

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

「ふぅっ・・・。あぁ・・・極楽極楽・・・」

 

思わず親父くさい言葉がもれてしまったが本当に気持ちいい。

身体にベットリとついていた汗を綺麗に流してくれていることを体感できるので尚更だ。

・・・そういや、この時間混浴なんだよな。

まぁ、この時間はほとんど人が来ないらしいから大丈夫だろう。

・・・前は紗雪が入ってきたけど。

 

「・・・また、来たいな」

 

今度は兄妹としてではなく・・・恋人として。

 

 

チャポン・・・

 

 

・・・ん?誰か入ってきたのか?・・・まずいな、さすがに赤の他人と

2人きりというのはーーー。

 

 

「・・・え?」

 

「・・・は?」

 

・・・刹那、時が止まった。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

「な、えぇぇっ!!?な、何で、よしっ、よ、よし、芳乃君が!!?」

 

「鈴白こそっ・・・!!どうして・・・!!」

 

俺は鈴白に背を向けながら、素早くタオルを自分の腰に巻きつける。

湯船の中ではマナー違反だがそんなこと言ってる場合ではない。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

さっきまでの心地いい空気から一変、今ではどんよりとした気まずい空気になっている。

 

・・・くそ、惜しいがここは一旦離脱して・・・。

 

「よ、芳乃君っ!!」

 

「は、はいっ!?はいっ!!」

 

柄にも合わず、バカみたいに動揺してしまった。

紗雪が入ってきた時より動揺している気がする。

 

「こ・・・ここ・・・こっち・・・見て」

 

「・・・!?」

 

・・・ちょっと待て。こいつは今なんて言った?

 

「よ、芳乃くぅぅん・・・」

 

何でそんな意味深な声を出すんだよ!?待て、落ち着け芳乃零二。

鈴白は龍一のことが好きなはずだ。つまり俺なんてアウト・オブ・眼中なわけだ。

なのに鈴白はこっちを見てと言ってきて・・・。

一体全体どうなってやがるんだ・・・!?

 

「芳乃・・・くん・・・」

 

くっ・・・!!決断しろ芳乃零二・・・!

俺は・・・俺はーーーーー!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

俺は「男」としての決断をとった。いや、しょうがないだろ。

俺だって健全な思春期男子だし。

何よりここでこの決断をとらなかったら鈴白に対しても失礼だろう?

俺は勢いよく後ろを振り返るーーー!!そこにはーーー!!

 

 

「・・・・・」

 

 

バスタオルで全身を隠した鈴白がいた。ですよねー。

 

「芳乃君・・・どうかな?」

 

「どうって・・・」

 

いや、まぁ十分エロい。腕や脚は布に包まれていないので余計に。

 

「エロいな」

 

俺は素直な感想を述べた。

 

「ばかぁっ!!」

 

バシャァァッ!!

 

「おぶぅっ!」

 

鈴白に思いっきり湯船をかけられた。本能に従っただけなのに・・・。

 

「芳乃君のエッチ!!そうじゃなくてっ!!・・・その・・・私、

太っているように見える?」

 

「・・・はぁ?」

 

太ってる・・・って。

 

「・・・・・」

 

じっくりと鈴白の身体を見つめてみる。

・・・・・・・・・・・・・綺麗な生足だ。・・・じゃなくて。

 

「見た感じはそんなに太っているようには見えないが・・・」

 

「ほ、本当に・・・?」

 

「あぁ。ちなみに何キロなんだ?」

 

「むぅ・・・。女の子に体重訊くなんて、芳乃君デリカシーが足りないんじゃ

ないかな・・・」

 

「まぁ、今のは冗談としても・・・だ。どうして急にそんなことを?」

 

「え!?えーと・・・芳乃君は・・・太ってる女の子とやせてる女の子・・・

どっちがいい?」

 

・・・あー。なるほど、そうか。というかそれしかないか。

 

「まぁ、太ってるよりはやせてる方がいいな。」

 

「だ、だよね・・・」

 

鈴白はガックリと肩を落とす。

 

「龍一だろ?」

 

俺がその人物の名を口にすると、鈴白の肩がピクッと震えた。

・・・図星か。

 

「まぁでも龍一ならそういうのはあまり気にしなさそうだけどな」

 

「そ、そうかなぁ・・・。う~ん・・・でもそれはなしにしても・・・

やせたい・・・かな」

 

「やせる・・・ねぇ。ダイエットとか始めるのか?」

 

「うん、始めようかなって・・・。次こそは成功したいし!」

 

「ということはもう何回も失敗してるんだな」

 

「う゛っ・・・」

 

鈴白は居心地が悪くなったようにうつむいてしまった。

・・・思ったよりも鈴白の心を深く抉ってしまったようだ。

 

「よ、芳乃君っ、何かいいダイエット方法とかないかな!?」

 

鈴白はグイっと俺の顔前まで一気に顔を近づけてくる。うぉ、近・・・。

 

「お、おい鈴白・・・。必死になる気持ちはわかるが・・・近い」

 

「え?・・・あわっ、ご、ごめん!」

 

それに気付くと鈴白が俺から素早く身を引いた。・・・まぁ、いいけど。

 

「で・・・ダイエット方法だっけ?そうだな・・・。まぁ単純に食う量減らしたり、

ダイエットメニューとか食い続けたり?」

 

「・・・何回も挑戦して、三日以上続いた試しがありません・・・」

 

「・・・ならエクササイズ・・・とか?」

 

「それもやったけど続きません・・・」

 

「俺に出来る事はないようだ。じゃあ、鈴白、俺はもう・・・」

 

「ま、待って芳乃君ーーー!!」

 

「いや、だって・・・」

 

続かない、続かないじゃ意味ないだろう。

万策尽きたぞおい・・・。

 

「あー・・・運動は?」

 

「剣道だけです・・・」

 

「鈴白なぎさ終了のお知らせ」

 

「待って!!見捨てないで!!」

 

「やせたいなんて幻想、七海湖に捨ててしまいなさい」

 

「よーーしーーのーーくーーん!!」

 

戦線離脱しようとする俺を涙目になって押しとめようとする鈴白はもう哀れとしか

言いようがないほど必死だった。

 

「・・・ようは鈴白はできるだけ楽に・・・持続性重視のダイエットをしたいと」

 

「う、うん・・・」

 

・・・まぁそれは全国のやせたい人が皆思ってることだろう。

楽にやせられればそれに越したことは無い。・・・うーむ。

 

「芳乃君ってスタイルいいよね・・・。結構筋肉ついてるし」

 

「何だ、鈴白は俺をそんな眼で見てくれていたのか?」

 

「ふぇっ・・・!?え、あ、変な意味じゃないよ!?違うからね!?」

 

鈴白は顔をりんごのように真っ赤にし、ワタワタと慌ただしく手を振っている。

やっぱ鈴白って天然だよな。そこが可愛いんだけど。

 

「今のは・・・芳乃君ってスタイルいいから・・・何かやってるのかな・・・って」

 

あぁ、そういうことか。・・・しかし俺の身体はスタイルがいいと言うのだろうか。

無駄に筋肉がついてるだけの気もするが。

 

「全然。何もやってないぞ。強いて言えば・・・ガキの頃から龍一と殴り合い

ばっかしてたから・・・かな」

 

「け、喧嘩すればやせるのかな・・・」

 

「んなことありえねーから安心しろ。・・・あ、そうだ。カラオケとかどうだ?」

 

「カラオケって・・・何が?」

 

「だからダイエット法。あれも一応はカロリー消費できるし。

楽しみながらできるだろ。・・・といっても消費されるカロリーなんざ

たかが知れてるが」

 

「・・・私・・・音痴だし・・・」

 

鈴白は恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

「いや、音痴とか関係ないだろ。ようは歌いまくってカロリー消費

しまくりゃいいだけなんだから」

 

「で・・・でもぉ・・・」

 

「里村とか雨宮とか誘って行けばいいだろ」

 

「・・・私が音痴なのからかうんだもん、二人とも」

 

「・・・あー」

 

確かに2人なら意地悪くからかいそうだ。

それでカラオケがトラウマになってるのかもな鈴白のやつ・・・。

 

「じゃあ、俺が付き合ってやるから。それならいいだろ?」

 

龍一という手もあるだろうがあいつは元々カラオケなんて行く性質(タチ)

なんかじゃないし、何より鈴白が嫌がるだろう。好きな人に自分が

音痴だということは知られたくないはずだ。

 

「えっ・・・!?で、でも芳乃君に悪いし・・・」

 

「どうせ夏休みなんて家で暇してるだけだし。

鈴白が構わないなら、俺も構わないぜ」

 

まぁ、女子と2人でカラオケに行った・・・なんて紗雪にバレたら大目玉だろうが・・・

そこは何とか誤魔化せるだろう、多分。

 

「わ、私こそ・・・芳乃君さえよければ・・・」

 

「なら決まりだな。予定の空いてる時とかメールしてくれ。

基本いつでも大丈夫だと思うから」

 

「う、うん・・・。ありがとう、芳乃君・・・」

 

鈴白は穢れのない聖なる女神のような微笑みを浮かべた。

 

・・・龍一もバカな奴だ。こんな可愛い女神がすぐ近くにいるのに、

その気持ちに気付いてやれないなんて・・・。

どこまで鈍感なんだ、あのバカは。

 

「鈴白、大変だとは思うが頑張れよ」

 

「ふぇ・・・?・・・な、何が?」

 

「いや、こっちの話だ。・・・あ、そうだ鈴白。他にもいい方法があるぞ」

 

「方法って・・・やせる?」

 

「あぁ。太る太らないには体質があるんだ。代謝の悪いやつは太りやすいし

代謝のいいやつは太りにくい・・・そう、ようは代謝を上げればいいんだ」

 

「な、なるほど・・・でも、どうやって?」

 

「鈴白、足を出せ」

 

「あ、足?・・・えっと・・・はい、これでいい?」

 

「あぁ」

 

・・・しかし鈴白も無防備なやつだ。

少しぐらい疑ったりしてほしいものなのだが・・・。

まぁ、何もこれから卑しいことをしようってわけじゃないし、大丈夫・・・なハズだ。

 

「確か・・・ここら辺だったか」

 

俺はポイントを探り当てるために鈴白の足の裏に指を這わす。

 

「ひゃぁっ!?や、よ、芳乃君っ・・・!くすぐった・・・!」

 

「あ、悪い」

 

「ま、まさか、やせる方法って・・・くすぐられること・・・?」

 

・・・そうだな。そうならばどれだけ楽で幸せだっただろうか。

 

「いや、違う。・・・鈴白、最初にことわっておくが・・・」

 

「な、何・・・?」

 

「泣くなよ?」

 

「・・・・・え?」

 

鈴白が状況を把握する前に俺はアクションを起こした。

それがせめてもの情け・・・。いや、鈴白のためだと思ったから。

 

そしてーーー。

 

「~~~~~っ!!?い、痛い痛い!!よ、芳乃君っ!!?ま、待っ・・・いやっ!!」

 

端からきくと鈴白がいやらしいことこの上ない声をあげているが、

何も変なことはしていない。

ただ俺は鈴白の代謝を上げるための足つぼを押しているだけだ。

 

「~~~!!~~~!!~~~~~っ!!?よ、よよ芳乃君っ・・・!?

ほ、ほんとに待っ・・・!?」

 

「待つわけにはいかない。俺は鈴白をやせさせるって・・・

『決断』したんだ!!」

 

「そんな名言っぽく言ったって痛いものは痛いよ!?

それにそう言ってるわりには顔が愉悦に歪んでるんだけど!!?」

 

「鈴白がやせると思うとなぁ・・・嬉しくて。これこそ真の愉悦」

 

「芳乃君なんかキャラ変わってない!?っんぅっ、やっ!いやぁーー!!」

 

「お、おい鈴白・・・!そんな暴れると・・・・」

 

 

ハラッ・・・

 

・・・ほーら、言わんこっちゃない。

 

「・・・・・」

 

鈴白、思考停止。・・・さてその間に俺は戦略的撤退をーーー。

 

 

 

「芳乃君の・・・エッチーーーーーーー!!!」

 

バシャァァァァァァッ!!

 

さすが剣道部。真夏の海のビッグウェーブ並の熱湯が俺の全身に叩きつけられる。

すごく・・・熱いです・・・。

 

「ぶはっ・・・!待て・・・!鈴白、見えていない!

ほんのちょっとしか見えてな・・・」

 

「結局見たんじゃなーーーーい!!」

 

 

バシャアアアアアアアアッ!!!

 

痛い!!目が、目がぁぁぁぁ!!

く、くそ、ダメージは大きいが撤退に支障はない・・・。

一刻も早くこの殺伐とした空間から逃げ出さなくては・・・。

 

「芳乃君のバカバカ!!エッチ!変態!龍一にも見られたことないのに~~~!!」

 

基準そこかよ・・・。・・・って痛い!!

あいつ、オケまで投げてきやがった・・・。

反撃してやりたいところだが、今はそんな場合じゃないからな・・・。

・・・とか言ってるうちにもうゴールは目前だ。

 

よし、これでーーー。

 

 

「『黄金色の聖約(ティルヴィング)』!!!」

 

「ハァァ!!?」

 

ちょっと待て!!温泉でなんてことしてくれてんだあのバカは!?

 

「・・・ってデッキブラシじゃねぇかよっ!?」

 

後ろを振り返ってみるとなんかすごい勢いで回転しながら俺に迫っている

デッキブラシがそこにあった。

スウァフルラーメのつもりかよ・・・。・・・仕方ない。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

俺は右手にありったけの魔力(ちから)を集め・・・そしてーーー。

 

「『神討つ拳狼の蒼槍(フェンリスヴォルフ)』!!!」

 

という名の右ストレートを繰り出した。

いや、こんなところで本当に撃ったら危ないだろ?な?

 

俺の『神討つ拳狼の蒼槍(フェンリスヴォルフ)』は鈴白の『黄金色の聖約(ティルヴィング)

をあっけなく撃ち破った。手の皮が少しむけたがんなこと気にかけている

場合ではないので俺はすぐさまにその場から撤退した。

 

「ゆっくりつかれよ、鈴白!!」

 

「バカーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・芳乃君のバカ」

 

・・・まだ言ってるのか。

 

「だから悪かったって言ってるだろ」

 

俺と鈴白は無事(?)露天風呂から帰還し、今は俺たち以外誰もいないロビー

(正確にはひよりがいるが爆睡こいてやがる)で2人で椅子に腰かけている。

 

「何かおごってやるから。・・・ほら、飲み物どれがいい?」

 

「・・・コーヒー牛乳」

 

「はいはい」

 

俺はロビーにあった小型の冷蔵庫からコーヒー牛乳を取り出す。

金は・・・ひよりの所に置いときゃいいか。俺も何か買うか・・・。

自販機のコーヒーに目が止まったのでそれを買い、椅子に戻る。

 

「ほら」

 

「・・・ありがとう」

 

鈴白はコーヒー牛乳を素直に受け取り一口、口に運ぶ。

俺もコーヒーの缶のプルタブを開け、一気に口に運ぶ。

 

「・・・はぁ」

 

「・・・鈴白、まだ気にしてるのか?」

 

「う、ううん・・・今のはそうじゃなくて・・・」

 

「龍一か?」

 

「っ・・・」

 

「図星か」

 

「もぉ・・・芳乃君の意地悪」

 

意地悪と言われても鈴白の顔にそう書いてあるし。

まぁ、言わないでおくが。

 

「・・・どうしたら、届くのかな」

 

「・・・・・」

 

どうしたら届く・・・か。そんなのは簡単だ。

自分の想いを直球(ストレート)にぶつければいい。

自分を、自分らしさで包んで・・・真っ直ぐに。

だが、そんなのは鈴白も理解しているだろう。

多分鈴白が困ってるのは・・・

その肝心の『自分らしさ』がわからない・・・といったところか。

 

 

「芳乃君は・・・好きな人、いる?」

 

「・・・いるな」

 

「そ、そうなの?ちょっと意外かも・・・。ちなみに・・・」

 

「バカ、誰が教えるか」

 

紗雪と付き合ってることはまだ皆には言ってないし。

 

「ま、まだ何も言ってないよ!?う・・・うぅ・・・卑怯じゃない・・・?

私の好きな人、芳乃君は知ってるのに、私は芳乃君の好きな人知らないなんて・・・

フェアじゃないよぉ・・・」

 

「恋愛ごとに卑怯も何もない。これ、よく覚えとけ」

 

「う・・・うぅ・・・なら実力行使で・・・」

 

鈴白が何やら自分の指をワキワキさせてるが・・・。やめろ、何か怖い。

 

「そうだな・・・。鈴白が龍一と恋人になったらその時は教えてやるよ」

 

「え、えぇッ!?そ、そんなの・・・」

 

「そんなの・・・何だ?」

 

「・・・無理・・・だよ・・・」

 

「バーカ」

 

俺は鈴白にデコピンを食らわせてやる。

 

「やんっ!・・・うぅ・・・芳乃君、女の子相手にも容赦ないね・・・」

 

「鈴白、お前は何だ?」

 

「え・・・?な、何だ・・・って?」

 

「お前は誰かってきいてるんだ」

 

「へっ?・・・え・・・っと・・・鈴白なぎさです・・・」

 

「その鈴白なぎさは誰のことが好きなんだ?」

 

「・・・りゅ、龍一のことが・・・好きです」

 

「その想いは偽りか?」

 

「そ、そんなわけない・・・!私は龍一のこと・・・ずっと・・・」

 

「なら・・・その想いで誰にも負けない自信はあるか?」

 

「・・・うん。この想いだけは・・・絶対に譲らない」

 

「・・・上出来だな。ちゃんと『鈴白なぎさ』、やれてるじゃねぇか」

 

「・・・え?」

 

「それでいいんだよ。それが『自分』だ。恋愛とかさ・・・難しく考えるもんじゃねぇんだよ。

ようはてめぇの(ここ)に正直になれてことだ」

 

「・・・・・」

 

「鈴白。『自分』が見えてるんだったら・・・もう解るだろう?

自分が何をすべきか」

 

「・・・うん、ありがとう・・・芳乃君」

 

「礼なんていらねぇよ。・・・それより、早くあの唐変木のバカに教えてやれよ。

『恋』ってやつをさ」

 

俺は椅子から立ち上がり空になったコーヒー缶をゴミ箱に捨てる。

 

「それに、ずっと勝ち逃げされてんだろ?ならせめて『恋愛』で勝て。

惚れた方が負けなんてことはないんだからよ。

・・・さて、そろっと帰らないと苺さん達に心配されるな・・・。

じゃあな、鈴白。せいぜい励めよ」

 

俺はそのまま鈴白に背を向け立ち去ろうとするがーーー

 

「芳乃君っ!!」

 

鈴白によってそれは制されてしまった。

 

 

「・・・芳乃君も・・・頑張ってね!!」

 

 

 

恋する乙女(鈴白なぎさ)からの、精一杯のエールだった。

 

「・・・言われなくても!」

 

俺はそのエールに、精一杯の想いで応えた。

・・・頑張れよ、鈴白・・・。

 

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

「・・・・・」

 

芳乃君を見送った後も、私はロビーでボーっとしていた。

 

「自分らしく・・・か」

 

自分に正直になること。それは簡単そうでとても難しいこと。

臆病になるとすぐに自分の中の『自分』が隠れてしまう。

 

・・・でも。

 

「もう大丈夫だよね・・・(なぎさ)

 

芳乃君からもらったこの『想い』と『決断』。無駄にしちゃいけないよね。

 

・・・私も『決断』しなくちゃーーー。

 

 

で、でも告白とかは気が早いから・・・。

明日・・・デートに誘ってみようかな。行くとしたらどこがいいかな。

あ、ミルキーウェイに新しいケーキ屋さんできたんだよね。

あそこに龍一と・・・。

うぅ・・・でも龍一のことだからケーキ屋さんなんかに連れてったら

「相変わらずなぎさは食いしんぼうだなぁ」とか言われそう・・・。

 

・・・ううん。それでいいんだよね。

だって、それが私なんだもん。

 

よし、決めた!明日は龍一とケーキ屋さん!龍一とデート!

 

「・・・よしっ!」

 

 

私は立ち上がる、明日に向かって。

 

好きな人がいる、明日に向かって。

 

 

私は、明日(みらい)に向かって、その足を一歩踏み出したーーー

 

 

 


 
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