No.448108

恋姫外伝~修羅と恋姫たち 五の刻

南斗星さん

いつの時代も決して表に出ることなく

常に時代の影にいた

最強を誇る無手の武術『陸奥圓明流』

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2012-07-07 15:38:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5159   閲覧ユーザー数:4826

【五の刻 修羅】

 

 

 

二千人の賊対たった一人の男

一方的な惨殺が始まった。

だが殺されていくのは男の方ではない、たった一人の男にニ千もの賊がなすすべもなくやられていくのだ。

愛紗は自身の目を疑わずにはいられなかった。

賊達はもはやろくな反撃も出来ず、逃げ惑うだけであった。

陸奥は武器すら持たず、素手のままだった。腰に佩いた村に流れ着いた時から持っていた鉈くらいの大きさの剣すら抜いていなかった。

だというのに陸奥が腕を振るい蹴りを出すたびに、賊が狩られていくのである。

武術と言うにはあまりに凄惨な殺人術、人を殺す為だけに極められた技…

もはや賊に対する恐怖など吹き飛んでいたが、代わりに愛紗は陸奥が怖かった・・・・

陸奥からの殺気は直接こちらに向けられていたわけではない。だというのに愛紗は死に抗えぬほど陸奥が怖いのである。まるで刃物を直接心臓に向けられてるような恐怖、瞬き一つで心臓を抉られるような感覚。

直接陸奥から殺気を向けられていない愛紗たちですらこうなのである。賊達の恐怖はいかほどか判ろうという物。

(アレは何なのだ…陸奥?違うアレが陸奥なわけない。陸奥は普段から飄々として弱虫で子供に好かれていて優しくて…あんな、あんな化物( けもの) なわけない…ならアレはいったいなんだと言うのだろう…。)

愛紗は目の前で行なわれている光景に混乱しながらも、陸奥から目の離せぬ自身の感情に困惑していた。

 

 

 

気がつけば、あれほどいた賊ももはや賊の頭のみを残して皆殺しにされていた。

賊の頭は陸奥に恐怖しながらも、もはや逃げられぬと悟ったか半ば自棄になって陸奥に相対し自身より頭一つ大きい巨大な薙刀のようなものを叩きつける。

しかし陸奥は体を僅かにずらすだけでそれをかわすと、賊の腕の関節を極めて一本背負いのような格好で投げさらに賊の頭部に蹴りを放った。

「陸奥圓明流・雷」

陸奥が呟いたその技の名は愛紗に届いたのだろうか?

賊が全て片付いたと言うのに、誰も喜びの声を上げることはなかった。

皆が昨日まで慕っていた、この男が賊以上に怖かったのである。

賊の返り血を浴び、暁のような赤に染まった男に皆が恐怖の感情を送る。

その視線に陸奥は一瞬だけ悲しげな表情を浮かべた後、いつもの飄々とした顔に戻り村とは逆の方向に歩き出す。

それを見た愛紗は自身の固まっていた体を動かし、陸奥に駆け寄る。

「待てどこへ行くというのだ」

もはや村に陸奥を置けぬことを悟りながら、それでも愛紗はそう陸奥に問う。

陸奥は少しだけ驚いた顔をした後、いつもと同じ飄々とした顔で愛紗に答える。

「さあ?風の向くままにかな…俺は疾風だから」

そう言って歩き出す陸奥いや疾風に愛紗は叫ぶように名乗る

「待て、私の…私の真名は愛紗だ、この名忘れるなよ!」

それに振り向きもせず片手を挙げて疾風は答える

「愛紗か、いい名だ、お前さん別嬪だしその名忘れねえよ…またな。」

そう答えると疾風は愛紗に背を向けたまま歩き出す。

いつか、二人が再び出会える日は来るのだろうか…。

 

それは刻にしかわからない…。

だが、愛紗は疾風とはまたどこかで出会うような、そんな気がしていた…。

※解説 【陸奥圓明流】

雷-いかずち

相手の片手を取り腕の関節を決め、関節を折りながら相手を裏返しの一本背負いのような形で投げ落ちてきた相手の頭部にローキックを決める技。


 
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