~ボース市~
「やっと到着したわね。ここがボース地方の中心地、商業都市ボースよ。」
シェラザードは目的地について一息ついた。
「うわ~……いかにも都会って感じね……」
エステルはボース市の風景を見てロレントでは見られない光景に驚いた。
「リベール五大都市の中では王都に次ぐ大きな街らしいね。確かにロレントと比べると建物が石造りで大きい感じだな。」
ヨシュアは周囲の建物等見て、ボース市がロレントより栄えていると納得した。
「ねえねえリフィア、プリネ。メンフィルにもこんな街あるの?」
「ふむ……メンフィルの商業都市か。メンフィルの商業都市と言えばあそこに決まっておるな、プリネ。」
「はい、リフィアお姉様。”レスぺレント都市国家領”ですね。」
「”都市国家領”……その言い方だとかなり広いみたいだね?」
ヨシュアはプリネの言葉から、メンフィルの商業都市はかなり広いと推測した。
「うむ!メンフィルの中心地でもあるからな。王都・ミルスを含めて周りの王公領から来る名産物や食料はそこに集まり、そこからさまざまな場所へ運ばれていくからな。」
「広さはそうですね……少なくともリベールぐらいの広さの領ですね。」
「凄いね………」
「領一つでリベール全都市並……メンフィルってどれだけ広いのよ………」
ヨシュアとシェラザードはプリネからメンフィルの商業都市の広さを知り、メンフィルの土地の広大さに驚き溜息をついた。
「ふわあ~………メンフィルは本当に凄いわね……ね、あそこにでーんとあるメチャメチャ大きな建物、何かしら?」
エステルは目の前に建っている一際大きな建物を指差した。
「あれはボースマーケット。色々な店が集まった屋内市場ね。食料品、衣類、雑貨、書籍……武器やオーブメントを除いた大抵の買物はあそこで出来るわ。」
「さすが商業都市って言われるだけあるわね~……あーあ……買物目的で遊びに来たかったな……」
エステルはさまざまな買物が出来ると知り、仕事でボース市に来た事に肩を落とした。
「一つの建物の中で市場を開く……メンフィルにはないやり方ですね、お姉様。」
「うむ!屋内で市場を開くことで天候にも買物が目的の民達の足が左右されない画期的な市場じゃ!旅が終わったら早速父に提案してみよう!」
プリネはリベールの商業都市のやり方に感心し、リフィアは祖国をより豊かにするため早速、メンフィルの屋内市場の構造等を考え旅が終われば父親である現皇帝シルヴァンに提案しようと思った。
「さて、早速ギルドへ行こうか。」
ヨシュアの言葉に全員が頷きボース市のギルドへ向かった。
~遊撃士協会・ボース支部~
「おお、シェラザード。思ったより早く着いたな。ロレントからわざわざ歩いて御苦労じゃったのう。」
ギルドの受付、ルグラン老人はエステル達が予想以上に早くついたことに驚いた。
「お久しぶりね、ルグラン爺さん。もしかして、あたし達が来るっていう連絡があったの?」
「うむ、先ほどアイナからな。それでは、そこの嬢ちゃんと坊主がカシウスの子供達というわけか。」
シェラザードの言葉に答えたルグランはエステルとヨシュアを見た。
「えっと、初めまして。エステル・ブライトです。」
「ヨシュア・ブライトです。よろしくお願いします。」
「わしはボース支部を預かるルグランというジジイじゃ。お前さん達の親父さんとは色々懇意にさせてもらっておる。ルグラン爺さんと呼んでくれ。」
「うん、ルグラン爺さん。」
そしてエステル達はギルドの支部の移動手続きをした。
「これでお主たちはボース市で準遊撃士所属じゃ………さて、そこのお嬢ちゃん達が例のメンフィル大使のご令嬢達か?」
エステル達の手続きが済んだルグランはリフィア達を見てエステルに確認した。
「うん……3人共。」
エステルに促されて3人はルグランに自己紹介をした。
「はい……プリネ・ルーハンスです。色々到らない所があるでしょうが精一杯がんばらせていただきます。」
「私、エヴリーヌ……」
「余はリフィア・ルーハンス!!余にかかればどのような難しい依頼もこなしてみようぞ!」
「うむ、よろしく頼みます……しかし、”闇夜の眷属”の……しかも皇族の協力を得れる等ありがたいものじゃ。」
3人の自己紹介に頷いたルグランはリフィア達が遊撃士の仕事を手伝うことにありがたがった。
「どうして、リフィア達があたし達ブレイサーの仕事を手伝うことがありがたいの?」
エステルはルグランが喜んでいる様子がわからず、その理由を聞いた。
「ブレイサーは基本、人手不足じゃからな……それがサポーターとは言え3人も入ってくれたら本当に大助かりじゃ。しかも、”闇夜の眷属”は身体能力がわしたち、人間より優れておるし魔術も使えるから実質正遊撃士クラスの強さな上、メンフィルの皇族達は種族の中でも最強と言われておるしの。喜びたくもなるぞ。”闇夜の眷属”の遊撃士はいまだにおらんようじゃからな……これを期に誰かなってくれんもんかのう?」
「ふむ……それは各自の考えじゃから仕方ないと言えば仕方ないな。」
「ええ……さすがに私達がみなさんに遊撃士になるよう頼むわけにもいきませんものね……多分、お父様や私達が頼めばなってくれるかもしれませんが、それは私達
皇族が絶対にやってはいけないことですし。」
「うむ、個人の考えを我ら皇族が捻じ曲げる訳にもいかないしな。それは権力を悪用する薄汚い権力者共といっしょの行動になる。」
ルグランの呟きにリフィアとプリネは難しい顔をして答えた。
「2人ともその年でもう、そんなこと考えているんだ。さすがね~………それでルグラン爺さん、例のリンデ号の事件はどうなったかさっそく教えてくれない?」
エステルはプリネとリフィアを感心した後、ロレントで知った飛行艇が行方不明になった事件の事について聞いた。
「ウム、それなんじゃが……王国軍による捜索活動はいまだに続けられているらしい。じゃが、軍の情報規制のせいで状況が全く伝わって来ないのじゃ。
一般市民だけではなくギルドにも何の音沙汰なしでなぁ……」
ルグランは溜息をついて情報が全く入って来ないことを嘆いた。
「ええ~!?なんで!?軍とギルドって協力関係じゃないの?」
それを聞いたエステルは驚いた後、疑問に思ったことを聞いた。
「ま、それはあくまで建前ってやつよ。実際には、様々な局面で両者が争うことがあるわ。」
「つまり、縄張り争いですね。」
シェラザードの言葉を補足するようにヨシュアはエステルにもわかりやすいよう説明した。
「そんな……ねえ、2人とも、メンフィルもそうなの?」
エステルはそれを聞いて悲痛な表情をした後、プリネやリフィアに聞いた。
「メンフィル軍は基本的にこちらの世界で起こった事件等はギルドと連携しています。土地勘等は私達、異世界人ではわかりませんから。同盟国であり大使館があるリベールのロレント市は別にして、こちらのメンフィル領は”百日戦役”の際、占領した領ばかりですから民はあまり好意的ではないんです。その点、ブレイサーは普段から民の声を聞いていますから私達ではわからない民の情報もわかるんです。」
「うむ、これはリウイの意向でもある。その土地で起こった事件はその土地の者達に解決させる……彼らの生活に土足で踏み込んでしまった異世界出身の余達は彼らの影となって支えるのが筋というものじゃ。」
「そうなんだ……」
2人からメンフィルとギルドは諍いもないことを知ったエステルはホッとした。
ちなみにプリネ達は知らないことだが、メンフィルがエレボニア帝国領を制圧した当初はメンフィルは恐れられていたが、リウイの卓越した政治手腕により税はメンフィル領となる以前より低くなり、公共で利用できる医療機関の設立や軍による周期的な魔獣の討伐等、領内に住む人々にとって大きな助けとなり、だんだんと信用され始め、「メンフィル領になってよかった。」と言い始める人々も出て来てメンフィルは着実に領内の民からも慕われて来ているのだ。
「さすが大国の王の考えることは違うの……モルガン将軍も見習ってほしいものじゃ……」
メンフィルの寛容さにルグランは感心した後溜息をついた。
「げ、もしかして今回の件、モルガン将軍が関わっているの?」
シェラザードはある人物の名前がルグランから出たのに顔をしかめ確かめた。
「残念ながらその通りじゃ。」
「あっちゃ~……それは面倒なことになったわね……」
シェラザードは嫌そうな表情になった。それを見て、疑問に思ったエステルはシェラザードに聞いた。
「なに、そのモルガン将軍って?」
「10年前、エレボニアの侵略を撃退した功労者として有名な人さ。歴史の教科書にも出てたよ?」
エステルに説明したヨシュアだったが肝心の本人はほとんどわからない様子だった。
「う~ん、見事なぐらい記憶に残ってないわね~あたしが覚えている歴史の教科書に出ていた人は聖女様だけだもん。それで、その将軍がどうしたの?」
「聞いた話だと、その将軍……大のブレイサー嫌いらしいのよ。遊撃士協会なんか必要ないって日頃から主張してるらしいわ。」
「む、無茶苦茶なオッサンね~……じゃあ何、その将軍のせいで情報が入ってこないわけ?」
シェラザードからモルガンのことについて聞いたエステルは怒りの表情になった。
「……それどころではない。軍が調査している地域にはブレイサーを立入禁止にしよる。おかげで、他の仕事にも支障を来しておるのじゃよ。」
「まあ……それはいくらなんでもやりすぎではありません……?」
「全くじゃ!権力の使い方を間違えておる!民の命や生活がかかっておるのじゃぞ!?私情に流されるなど……あの老将軍、それでも国を守る軍の長か!?」
「……エヴリーヌ達の邪魔するやつなら殺しちゃう……?」
ルグランからモルガンがブレイサーの仕事を邪魔している事を聞いたプリネは遠回しにモルガンを非難し、リフィアは怒り心頭になり、エヴリーヌは物騒な言葉を言った。
「エヴリーヌったら何、物騒なことを言ってるんだよ…………あれ、リフィアってもしかして将軍を知っているの?」
ヨシュアはエヴリーヌの発言に冷や汗をかいた後、リフィアがモルガンを知っているように見え聞いた。
「うむ、リベールとの同盟を組む会談や”百日戦役”の講和条約を結ぶ際の会談に会ったことはあるぞ。最も余はあまり興味がなかったから挨拶程度にしか話しておらん。」
「そうなんだ……ねえ、将軍と顔見知りのリフィアが頼めば話してくれるんじゃないの?それにメンフィルの皇女様でもあるし、さすがに将軍も同盟国の皇女様の頼みは無視できないんじゃないの?」
エステルは名案が思いついたように顔なり、その案をリフィアに聞いた。
「ふむ………民のためならそれぐらい別にいいが……しかし………」
エステルの案を聞いたリフィアは難しい表情になり考え込んだ。
「エステル………それはさすがにちょっとまずいと思うよ。」
ヨシュアはエステルの案はまずいと思い、それをエステルに言った。
「へ……なんで?」
「他国の……しかも皇族である私達が国の一大事となる事件に口を挟んでしまったら内政干渉になってしまいますから、できるだけその案はやめたほうがいいです。」
「内政干渉って何?」
プリネの説明した意味がわからなかったエステルはシェラザードに聞いた。
「内政干渉とは他国の政治に介入すること……わかりやすく言えば要らぬ御節介を国のレベルで行う事よ。過去それが原因で戦争になった国や州もあるわ。」
「せ、戦争……」
予想外の言葉が出て来てエステルは何も言えなくなった。
「まあ、さすがにリベールとメンフィルが戦争になんてならないと思うわ。力の差は歴然だし、それに民の平和を願うアリシア女王が戦争なんてこと許さないし、そんな女王が向こうから持ちかけて来た同盟をわざわざ破棄するとは思わないもの。ちょっと大げさに言っただけだから安心しなさい。」
シェラザードはエステルに安心させるために大げさであったことを言った。
「シェラザードの言う通りじゃ。まあ、そう焦るでない。実は今回の事件に関してボースの市長から依頼が来ておる。軍とは別に、ギルド方面でも事件を調査して欲しいとの話じゃ。」
「あら、それは心強いわね。ボース市長の正式な依頼があればこちらが動く大義名分になるわ。」
ルグランから依頼人に関して聞いた時、シェラザードは光明が見えた表情になった。
「なるほど、渡りに船ってやつね。ルグラン爺さん、あたしたち、その依頼受けるわ。」
「うむ、いいじゃろう。詳しい話は市長に会って聞いてきてくれ。」
「わかったわ!」
そしてエステル達はボースの市長に会うために市長邸に向かった………
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第26話