「じゃあお先に失礼します」
「「お疲れ様」」
翠屋での仕事を終わらせた五代は四人分のシュークリームを購入し、士郎達に見送られながら月村家への帰路に着いた。
海鳴の街を歩きながら、ふと五代はある事を思い出して寄り道をした。その行き先は八神家。無論、五代ははやて達がもう海鳴にいないのを知っている。しかし、翔一との話で聞いたある事を気にしたのだ。
「……やっぱり、誰も住んでないんだ」
明かりのない元八神家。五代は来た事がなかったが、翔一やヴィータからの話でどれだけ賑やかで明るい場所だったかは良く知っている。
外観を一しきり眺めて、五代は視線を家からある場所に移した。そこには確かにここに住んでいた者達の痕跡が残っていたのだ。
「……枯れ始めてる……か」
翔一の作った家庭菜園。そこには、おそらく引っ越す前まで世話をし処分する事が出来なかったであろう僅かに残った何かが枯れ始めていた。五代はそれを確認するために小声でお邪魔しますと呟き、庭へと入った。
ゆっくりと近付き、それを確かめる五代。それはいちごだった。翔一がヴィータとの約束のために用意した物を彼女が苦労しながら育てた物の名残だ。そう、ヴィータは翔一がいつ戻ってきてもいいように家庭菜園の世話をしていたのだ。
それを五代は知らない。だが、何となくその枯れたいちごが寂しそうに見えたので彼は誰にもなく告げた。
「ゴメン。抜かせてもらうね」
そう言うと、五代はその枯れたいちごを抜いて菜園の土の中へ埋めた。この家の思い出はもうはやて達が持って行った。なら、これははやて達は知らない物だ。だから枯れたまま朽ちていくのはさせたくない。
そう思ったからこそ五代は土に埋めた。実はこのいちごは処分出来なかったものではない。翔一との思い出残る家を離れる際、ヴィータはこの菜園の植物を中々処分する事が出来なかった。それを何とか処分したのだが、このいちごはその際に種が零れ勝手にここまで育ったのだ。
静かにその場を離れもう一度八神家を眺める五代。もうここにはやて達の明るい声が響く事はないのだろう。そう考えて微かに寂しげな表情を浮かべる。それが五代にある事を思い出させた。
「……翔一君、どこにいるかな」
その五代の呟きは皐月の空へ消える。彼は知らない。既に翔一がこの魔法世界へ戻ってきているとは。五代が翔一と再会するにはまたしばらく時間が必要だった。
食事を終え、五代が買ってきたシュークリームをお茶菓子にすずか達は食後のティータイムを過ごす。すると、ふとすずかがこう言い出した。アリサにも会って欲しいと。もう高校生になり、美人になってますよと付け加えて。
それに五代は苦笑するが、確かにアリサなら美人になっているだろうと思い肯定の意味で頷いた。更にファリンが学校で一番人気なんですよと言うと、五代は軽く驚いた。
「じゃ、アリサちゃんはミス聖祥?」
「そう。本人はどうでもいいって言ってますけどね」
「アリサちゃんらしいなぁ」
「で、すずかちゃんが惜しくも二番です」
「ま、本当はすずかお嬢様が一番人気になるはずだけどな。ほら、日本人って外国人然とした女に弱いから」
ファリンとイレインがそう言うと、すずかはやや照れながら紅茶を飲み出した。五代はそんなすずかの反応に笑みを見せる。それに気付き、すずかは困り顔を返して別の話題を始めた。それは五代がいなかった間の話。
それを五代は楽しく聞いていたのだが、ふとイレインが思い出したように尋ねたのだ。五代の昔話を聞いてみたいと。それにすずかやファリンも興味があったようで話してくれるように頼んだ。誰かにお願いされて無下に断れる五代ではない。ならばと咳払いをして仰々しく姿勢を正したのだ。
それにすずか達が小さく笑う。それに五代も笑みを浮かべると話を始めた。
「まずは家族構成から話そうかな。俺、四人家族だったんだけど……」
そこから始まる五代の昔話。小学生の楽しい時期に父を亡くした辛い思い出と、恩師との約束やサムズアップの意味などの出来事。そこから中学や高校などの話をし、大学の話へ移って冒険話になった途端、五代の目が一番輝き出した。
外国での話や訪れた場所に関する知識や思い出。それらを臨場感溢れるように語る五代。それに三人も引き込まれていたのだが、ふと五代の顔が曇った。それは、何度目かの冒険を一休みし、一旦日本へ戻ったと言った瞬間だった。
まるで、それまで流暢に話していたとは思えない程、五代はぽつりぽつりと話していく。空港で迷子と出会った事や大学に忍び込んで友人の女性に冷たくあしらわれた事などはまだ幾分か良かった。だが、話が長野の遺跡に行った辺りから五代はまるで躊躇うかのような表情を見せた。
その理由が分からず戸惑うすずか達へ五代は絞り出すような声で告げる。それが何よりの答えになると考えて。
「……ここからは、クウガの話なんだ」
五代がそう言うと、三人はそれだけで大体を察した。クウガの話。それは、あの力を使わなければならない状況になったという事。それは、絶対に楽しい事ではない。五代が躊躇う理由はそこにあると誰もが思った。
だがそれを止める事はしない。それを決めるのは五代だからと三人は考えていたのだ。それを五代も悟ったのだろう。意を決したように話し出す。ただ、残酷な話や聞くに堪えないだろう部分は意図的にぼかし、一条達を始めとしたクウガになったからこそ出会えた人達との話を中心にして。
自分に戦う必要はないと告げ、五代が戦う意思を明確に打ち出すようになった後は全力でそれを支えてくれた一条薫。自分の体を検査し、常に警告と心配をしてくれた五代唯一のかかりつけ医師、椿秀一。クウガや未確認の研究をし、裏で支えてくれた科警研の榎田ひかり。
自分を未確認として撃った事を謝り、一条に負けない理解者になってくれた杉田守道。同じくクウガを仲間と認め、どこか憧れてさえくれた桜井剛志。中盤からは、誘導や作戦指示などで助けてくれた合同捜査本部の紅一点、笹山望見。
最後に、ビートチェイサーをクウガへ与える事を上層部に具申し、いつも寛大な配慮と思慮深い決断を下してくれた松倉貞雄。
それだけではない多くの人達との絆や協力があったから、五代は、クウガは未確認に勝てたと言い切った。自分一人では、守り切れずに死なせてしまったかもしれない人達がいただろうとそう続けて。
「だから俺、良かったと思ってるんだ……クウガになって」
「どうして? だって、五代さんは戦う事は嫌いなんでしょ?」
「……うん。でも、誰かがやらないといけなかった。それに俺が選ばれた。嫌な事もあったし、辛い事もあった。……でもね、だからこそ良かったって思うようにしたんだ」
そこで五代が思い出すのはあの吹雪の中でのやり取り。忘れられない一条との会話。そこで告げたある言葉。それをすずか達へも教えたのだ。
———一条さん達に会えたからって。
五代はそう言って黙った。それにすずか達も黙る。静寂が訪れる室内。秒針が刻む音だけが響き渡る。そして、五代は今だからこそ言える気持ちをはっきりとすずか達を見つめて告げた。
———それに、あんな思いをするのが俺だけで良かったって。
クウガにもし自分がならなかったら。もし、他の誰かがクウガになっていたのなら。そう考えると五代は今でも怖くなる。決してうぬぼれではない。自分が一番クウガに相応しいなど考えた事もない。だが、唯一、唯一五代が断言出来る事がある。
それは、タグバとの決戦。あの時、凄まじき戦士でなければダグバには勝てなかった。自分は、憎しみではなく、みんなの笑顔を守る事だけを考えて変身出来た。それがあの力を制御したんだと、今でも思う。だからこそ、五代は思うのだ。自分で良かったと。
あんな想いを、感触を、苦しみを、痛みを、哀しみを、空しさを、誰かに押し付ける事なく自分が終わりに出来て。
得た物は多く、失った物は少ない。それでも、五代はクウガの力をもう使いたくはなかった。”変身”。それを二度としないですむようにと、心から願っていたのだから。
だが、まだ邪眼を倒し切れてない以上、クウガの力は必要とされる。翔一のアギトの力もまた同様に。戦っても、倒しても、どこからか悪は現れる。そう五代の話を聞いた光太郎は悲しそうに言った。それでも、戦い続けるのが仮面ライダーなのだと。
五代がそれを聞き、尋ねた事がある。それは、光太郎よりも昔から戦っていた先輩ライダーの事。
終わる事のない戦い。変わらない世界。助けた命が、明日には消えるかもしれない。そんな状況で、自分以外の十一人は諦めずに戦い続けた。戦うためだけの生物兵器。そんな体にされても尚、彼らは人のために戦ったその理由を。
そこで五代は光太郎から簡単にではあったが歴代ライダーの事を聞いた。改造人間。人でありながら、人でなくなった者。それが仮面ライダーだと言われた瞬間、五代は言葉を失った。
クウガやアギトと同じだと思っていたのだ。何か特殊な力で変身しているのだろうと。だが、違った。それが本当の彼らの姿だと教えられたのだ。彼らの多くは、望んでいないのにその力を与えられ、異形の姿に変えられた。理不尽に人を捨てさせられた。
―――そんな事って……
仮面ライダーの本来の成り立ち。それを知り言葉を失う五代。そんな悲痛な表情の彼へ光太郎はこう言った。どこまで戦っても変わらないかもしれない。そう思った事もあったと。だが光太郎がそんな弱音を漏らすと、始まりの仮面ライダー―――本郷猛はこう言ったのだ。
―――例え未来を変えられなくても、見過ごせない今を救えるのなら……俺は、戦うと決めた。
それを聞き、光太郎は改めて思ったのだ。仮面ライダーとは、今を救い、未来を守る者だと。例え未来が変わらないとしても、いつかそれが変わると信じて戦おう。そう彼は心に誓ったのだから。
五代はその話を聞いた時、自分にはそれは無理だと思いかけた。だが、その言葉をよく考えた途端、無理と言えなくなった。
それは、自分の父が手紙の結びに必ず書いた言葉と、自分の信念に反する事になるからだ。いつか、世界中の人達が笑顔になれますように。それを思い出し、五代は光太郎達がそれを願って戦っている者達だと思い直した。
そして、五代は自身も仮面ライダーを名乗った以上簡単に投げ出す事はしたくないと思った。そう、彼は何度も言ってきたのだ。自分はクウガなのだと。
(なら、必要とされる限りやってやろう。俺だけが辛い訳じゃないって、今ならそう思えるから)
どこかで自分と同じように哀しみながらも、みんなの笑顔のために拳を振るっている仮面ライダーがいる。そう五代は考えていた。その時の事を思い出して彼は若干遠い目をした。
「さてと、じゃあそろそろ時間も遅いし、すずかちゃん達もお風呂入って寝た方がいいよ」
「うん。……あの、五代さん」
「何?」
「クウガの五代さんも好きだけど、私はいつもの五代さんが一番好きだから」
そう言ってすずかは笑顔を見せて去って行く。それを笑顔で見送る五代。イレインとファリンはそんなすずかと同じだと言わんばかりに笑顔を浮かべていた。それを見て五代は嬉しそうに頷いた。
異世界でも自分は一人ではない。そう改めて感じ、五代は誓うのだ。必ずこの世界でもクウガが必要とされなくなるようにしてみせると。それが彼女達との別れになると知りながらも、その笑顔を守るために。
様々な魔力光が飛び交う空間。それは全て同じ相手へと向かっていく。本来、魔法は全て非殺傷と呼ばれる状態になっていて、それを解除し殺傷設定と呼ばれるものにすると同じ罪でも途端に罪状が重くなる。
それ故、余程凶悪な犯罪者でもない限り設定を変更したりはしない。だが、この魔力弾は全てその殺傷設定であった。数十は軽く超えるそれを避けもせず、その相手はそれを叩き落し、あるいは蹴り飛ばし、それを放つ者達の意識を次々と奪っていく。
「な、何なんだ……一体、お前は何なんだ!?」
ついに自分一人となった男の問いかけに眼前の相手は立ち止まり、答えた。
「俺は、太陽の子。仮面ライダーBLACK RX」
「か、仮面ライダー? ま、まさか……あの仮面ライダーか!?」
「答えろ。戦闘機人を作り、その技術を知っている者はどこにいる!」
RXの問いかけに男は首を横に振る。知らない。自分はその技術を欲しがってはいたが手に入れてはないと。それが嘘の類ではないと判断し、RXは分かったと頷いた。それに安心したのか男は脱力するように力なくその場へ座り込んだ。
それを見たRXは近くに落ちているデバイスを拾い上げ、ある女性の事を強く思い描きながら心の中で告げる。
【フェイトちゃん、ここは完全に制圧した。後の事を頼む】
【分かりました。光太郎さんは一度アパートに戻ってください。今後の事も含めて話をしましょう】
RXは念話を使えない。なので、こうして相手がもっているデバイスを使い別の場所で待機しているフェイトに連絡するのが常だった。あの後、フェイトに連絡したRXはアクロバッター達の居場所だけでなく彼女の情報も頼りに戦闘機人に関係ありそうな組織を片っ端から調べていた。
フェイトでは踏み込む事が出来ない状態でも、RXは関係なく踏み込みこうして情報を聞き出す。そして、暴れた現場に調査中だったフェイトが気付いたように装い逮捕する。そんな事を始めてもう二週間になっていた。
フェイト達が来る前にRXは念のためと男を気絶させると急いで現場を離れる。外に停めてあったアクロバッターに跨り、フェイトが用意してくれている仮住まいに向かったのだ。途中で貸し倉庫に寄ってアクロバッターを隠し、変身を解くのを忘れずに。
それは二台を隠してある貸し倉庫からそう離れていない場所にあるデイリーアパート。日雇い労働者用のそこをフェイトは光太郎のために借りてくれていたのだ。
「また情報無しか」
そう呟いて光太郎は部屋のドアを開ける。そこには一人の女性がいた。眼鏡が特徴の女性で、フェイトの補佐をしているシャリオ・フィニーノだ。
「お帰りなさい光太郎さん。フェイトさんは後十分程で来るそうです」
「そっか。で、シャリオちゃんはそれを伝えるためにわざわざ?」
「そうですよ。本当なら現場に行くはずだったんですけど、フェイトさんがここで念のために待っててって。光太郎さんがよく念話を途中で切っちゃうからですよ?」
シャーリーの言い方に申し訳なさそうに頭を掻く光太郎。彼女の言った通り、光太郎は念話を早々に切り上げて何度かフェイトから注意を受けていた事があったのだ。
それもあり、最近ではフェイトが念話を切るまでデバイスを離さないように彼も気を付けている。
「返す言葉もないよ。シャリオちゃんには悪い事したね」
「まぁもういいですよ。光太郎さんも悪気があってしてる事じゃないですし。でも、相変わらず物がないですね、ここ。ちょっと驚きました」
シャーリーはそう言って部屋を見渡す。それに光太郎は苦笑するしかない。何せ、彼はここには寝に帰るぐらいなのだ。故に部屋にあるのは備え付けのベッドと小さな冷蔵庫ぐらい。それも、フェイトがベッドだけではと言って買ってくれた物だ。
しかも、ミッドの通貨を持たない光太郎はそれにいれる物も買えない。よって中身の飲み物等もフェイトやシャーリーが用意してくれた物だった。光太郎はそこまでしてもらう訳にはと断ったのだが、フェイト達は頑として聞き入れなかった。
調査が難航しかねないものを光太郎は次々と解決に導いてくれているのだからと。そう言われては光太郎も何も言い返せない。こうして現状となっていた。
「それで、どうかな。そっちの情報の方は」
「それがあまり。怪しい相手がいるにはいるんですが……」
「ジェイル・スカリエッティ……だね?」
光太郎の言葉にシャーリーは無言で頷く。広域次元犯罪者でフェイトが追いかけている相手。おそらく戦闘機人にも関わっている可能性が高いとフェイトは考えていて、光太郎も何度か犯罪者相手に聞いた事があったが一切情報が入らない存在がジェイルだった。
だがそれも仕方ない。ジェイルは真司と出会ってからほとんど犯罪行為から手を引いていて、ゼスト隊に情報を渡した後は最高評議会からの依頼も出来うる限り断っているのだから。
それを知らない光太郎達は、ジェイルの事を情報隠蔽に長けた相手だと思っていた。光太郎とシャーリーはそのまま少し互いの事などを話していたのだが、近くに車の停止音が聞こえた瞬間彼女が立ち上がったのだ。
「フェイトさんですね」
「みたいだ」
「私、出迎えてきます。光太郎さんはここで待っていてください」
「分かった」
部屋を後にするシャーリーを見送り、光太郎はフェイトから今後の事を含めた話を聞かなければと思い二人が来るのを待った。
外から聞こえてくるフェイトとシャーリーの話し声。それに光太郎はつい耳を傾ける。本人達は聞こえないと思っているのだろうが、改造人間である光太郎の聴覚はそれをはっきりと捉える事が出来たために。
「特に急ぎの案件はありませんし、めぼしい情報もないです」
「そう。なら光太郎さんと今後の事を相談しないとね」
「はい。なので後はお二人でどうぞ」
「しゃ、シャーリー? いつも言ってるけど、私と光太郎さんはそういう関係じゃないって」
「ええ、分かっています。だからこそ二人でどうぞ」
「シャーリー!」
「ふふっ、私は今日の報告書を作成しますからこれで」
そう笑って言いながらシャーリーはフェイトに手を振って去っていく。ご丁寧にフェイトが乗って来た車を使ってだ。これでフェイトは必然的に光太郎に送ってもらうしかなくなると考えたのだろう。
シャーリーに車を降りて歩いて行けとフェイトが言えるはずもなく、それを止めずにただ困ったように彼女はそれを見送った。そしてため息を吐いて光太郎のいる部屋を目指す。そこまで聞いて光太郎は苦笑し、冷蔵庫からコーヒーとスポーツドリンクの缶を二本取り出した。
「お待たせしました」
そう言って入ってきたフェイトへ缶コーヒーが投げられる。咄嗟にそれを受け取るフェイト。それを見て「ナイスキャッチ」と光太郎が笑顔で誉める。その笑顔をフェイトは少し嬉しく思いながら彼の前に座った。
そして部屋を軽く見回しどこか苦笑するように呟く。相変わらず殺風景ですねと。それに光太郎も同じような表情で同意し頷いた。そこで軽く起きる互いの小さな笑い。そのまま光太郎が手にした缶をフェイトへ差し出した。
「まず、今回も無事に終わった事に」
「乾杯……ですね」
カツンと缶同士を合わせ、音を立てさせる二人。これも最近の決まり事。無事に終わった事を喜び、祝う。そんな二人だけのささやかな祝宴だ。
プルタブを開け、互いに口をつけて飲み始める。基本冷蔵庫に補充されるのはコーヒーとスポーツドリンクの二種類。光太郎の好みを知らないフェイトは、自分の義理の兄であるクロノを参考にした故のチョイス。
クロノは基本コーヒー。スポーツドリンクは訓練などで失った水分を補充するための物で彼が好きという訳ではないのだが、光太郎としてはスポーツドリンクは有難かった。手軽に水分が補充出来るのは、変身して戦う彼にとってはうってつけだったからだ。
「……で、どうしようか」
「ミッドで戦闘機人関係へ手を出していそうな組織は今のところありません。たしかに他の管理世界にも闇組織はありますし、戦闘機人関係の技術へ関与してそうな相手もいます。でも、さすがにその確たる情報がない以上光太郎さんを頼る訳にはいきません」
「俺は構わないよ」
「駄目です。今だって、光太郎さんに頼ってばかりですし……」
犯罪を犯しているが逮捕出来ない相手。それを光太郎が踏み込む事で結果的にフェイトは捕まえる事が出来ている。それでフェイトの評価はこのところ良くなる一方だ。だが、それは本来ならば光太郎の手柄でありフェイトのものではない。
それをどこかで嫌がっている真面目なフェイトの気持ちを察し、光太郎は返す言葉に迷う。しかし、それでも早くナカジマ姉妹を改造した存在を見つけ出さねば。そう考えて光太郎は口を開いた。
「でも、もしかしたら今も被害者が出ているかもしれないんだ」
「それでも! ……それでも仮面ライダーの力は、本当は人間同士の事に使う物じゃないはずです」
フェイトのその言葉に光太郎は何も言えなかった。ただ、フェイトの思いは嬉しかった。簡単に人外の力に頼るのではなく、自分達で何とかしようと考える。それは、とても尊い想い。仮面ライダーに頼るのではなく、自分達で何とかしようとする心。
それを人が失わない限り、仮面ライダー達も諦める事なく戦えるだろう。人と自然が調和する世界。真の平和、それが訪れる日まで。そう思って光太郎は何も言わない事にした。
「それで光太郎さんへ一つお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい。局の保護施設にいるエリオって男の子の事覚えてますか?」
「ああ、時々話してくれた子だね。フェイトちゃんが弟みたいに可愛がってるっていう」
「実は、その子を私は引き取りたいって思っているんです。でも、仕事の関係で中々相手をしてあげられないから踏ん切りがつかなくて」
「そうか。それで新しい情報が入るまで俺にその子の相手をしてほしいって事だね」
光太郎の言葉にフェイトは頷いた。出来るだけ施設ではなく家庭で過ごさせてやりたいと考えを告げて。それに光太郎は同意し、その願いを喜んで引き受けた。こうして、光太郎は海鳴へ戻りハラオウン家へエリオと共に居候する事となる。
そこでエリオと過ごす日々。それは光太郎の記憶の中にある思い出を刺激する事になる。そして、エリオの出生の秘密とフェイトの生まれが密接に関わっている事。それをやがて彼は知る事になるのだ。
「なぁ、翔一さん。あんたの言ってたクロノって、クロノ・ハラオウンか?」
ある昼下がり。完全オフのティーダは、翔一が作ったナスの油炒めを食べながらそう問いかけた。他にもナスの味噌汁、マーボーナス、ナスのおひたしが並んでいる。
その言葉に翔一はそれまでしていた掃除の手を止め、ティーダが告げた名前に目を見開いて頷いた。
「そうそう! そうです! クロノ・ハラオウンです!」
「……やっぱりか。あんた、一体いつ頃に知り合ったんだ?」
「え? どういう事です?」
ティーダは翔一へ説明した。クロノはもう一年以上も前から提督に昇進している。故に今まで時間が掛かったのだ。ティーダが念のためと過去の執務官まで当たったおかげでそれが判明したのだから。
そして、こう続けた。そんな事は知り合いならとっくに知ってるはずだと。そう言われ、翔一は驚いた。彼が知る限り、クロノは執務官だったはずだからだ。そして翔一は何か嫌な予感を覚えた。
それは、五代が自分よりも後から海鳴に現れたのに自分よりも以前の時代からやってきていた事を思い出したから。だから、クロノの年齢を教えて欲しいと翔一は言った。それに妙なものを感じるもののティーダは記憶を辿りながら答える。
「確か……今二十一歳ぐらいだったか」
「そんな……俺が出会った時は十四歳でした」
「どういう事だ?」
「……信じられないですけど、俺、未来に来たみたいです」
翔一はそれからティーダに自分がクロノ達と出会った時の事を話した。それを聞いたティーダは驚愕する。局で知らない者はいない有名人の名前ばかり出てきたからだ。高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて。更に守護騎士達の名前も三人程ではないが有名だ。
もしかしたら自分はとんでもない人間と繋がりを持ったのではないかとティーダは思った。だが翔一の話を信じれば、彼は異世界に行ってそこから戻った際、五年以上の時を超えた事になる。それは次元世界の法則から見ても異常としか言えないものだった。
なのでティーダは翔一へ分かる範囲で今のはやて達の事を教えた。その内容に翔一はどこか呆然とする。それを見て無理もないとティーダは思った。少女だと思っていた相手が、もう知らぬ間に大人に近くなっていた。そう考えれば、きっとやるせない気持ちにもなる。そうティーダは思っていた。
「……ティーダさん。ホントに、はやてちゃんが、捜査官をしてるんですね?」
「……ああ」
「ホントに局で働いてるんですね?」
「あ、ああ……」
だが、そこでティーダは気付いた。翔一の声が沈んでいない事に。それどころかむしろ嬉しそうにさえ聞こえる。気のせいか。そうティーダが思った瞬間だった。
「そっかぁ~、はやてちゃん歩けるようになったんだ。良かったぁ~!」
翔一はそう噛み締めるように言うと力強く頷いた。その表情はとても良い笑顔。その言葉を聞いてティーダは思い出した。八神はやては入局当初、車椅子のため自由に動く事が出来ず苦労した事があるという話を。
つまり、翔一ははやてが第一線で活躍していると聞いて自由に歩けるようになった事を察したのだ。だからあそこまでティーダへ確かめた。本当にはやてなのかと。そんな厳しい職場で働いているのが、自分の知る少女なのかと。
(ったく、やっぱ翔一さんはどこかすげぇな)
現状に悩み苦しむのではなく、現状を受け入れてありのまま動く。それを翔一は自然にやってのける。今だって、普通なら動揺し困惑してしまうだろう。それを、翔一ははやての現状を想像し、心から喜んでいる。自分が逆の立場ならとてもではないが真似出来ない。
そう考え、ティーダは翔一に告げた。伝手を使ってその誰かに連絡をつけるから再会は近いと。それに喜ぶ翔一だったが、ふとその顔が曇った。その理由がティーダには分からない。
「どうした?」
「いえ……ティアナちゃんの事を考えて」
「……そういう事か」
翔一がランスター家に居候してから、ティアナは翔一の事をもう一人の兄と呼べる程に慕っている。訓練校へ入校した今も宣言通り休日には翔一に会いに帰って来るぐらいだ。
そんな翔一がいなくなる。それを聞けばティアナが落ち込む事は確実だ。故に翔一は悩んでいた。自分を受け入れ、純粋に慕ってくれたティアナ。それがこれまでどこか寂しい想いをしてきた事はそれとなく翔一も気付いているが故に。
(ティアナちゃんに寂しい想いはさせたくないし、かと言ってはやてちゃん達にも無事を伝えたいし……どうすればいいんだ)
そう翔一が悩んでいるとティーダが気楽に告げた。悩む必要はないと。それに翔一が視線を動かすとティーダは軽く笑ってみせた。
「ティアナには俺から説明しとく。だからあんたは会いに行け」
その言葉に翔一は少し考えたが、頷いて感謝を込めて頭を下げた。それにティーダが苦笑する。感謝するのは自分だと考えていたのだ。今まで家事やティアナの面倒見てもらったんだからと。
それに自身が手間取ったせいで一年近くも時間が掛かった。そう思ってティーダが謝るとそれに翔一は首を横に振った。
「いえ、ティーダさんは悪くないです。俺がクロノ君の苗字まで思い出せばよかっただけですから」
「……たく、あんたも大概だな」
「あ、えっと、すみません」
「あはは。気にしないでいいさ。ただ、一つ頼みを聞いてくれないか?」
「何です?」
「たまにでいい。ティアナに会いに行ってやってくれ」
そうティーダはどこか照れくさそうに告げると視線を外へ移す。翔一はそんなティーダに笑顔を見せると、頷いてサムズアップを送った。それを横目で見てティーダも小さくそれを返す。
次の日、ティーダに連れられて翔一は管理局本局を訪れた。そこで青年になったクロノと再会し、そこからはやて達と引き合わせられる事となる。
再会した途端、はやては涙を溢れさせ、翔一の面倒を見ていてくれたティーダに何度も感謝の言葉を掛けてクロノに苦笑される中、ツヴァイはそんなはやてに戸惑いながらも翔一と初対面を果たして喜ぶのだった。
魔法世界帰還から一年弱。やっと出会えた翔一とはやて。こうして翔一も少女達と再会を果たす。
そして、ついに戦士に渡される想いと力。今はただ、その喜びのみを誰もが噛み締める事になる。
ジェイルラボ内廃棄所。ドゥーエは小さなケースを手にそこを訪れていた。目的は一つ。自分の手にしたケースを捨てるためだ。中身はジェイルのコピー受精卵。他の姉妹達同様に彼女もそれを廃棄する事になったのだ。
そしてドゥーエはケースを安置し来た道を戻ろうとする。だが、その視線がふと止まった。それはある一つのケースへ注がれている。中にあるのは不気味な生物。人型だがどこか醜悪だ。それにさしものドゥーエも顔を歪めた。
「ドクターの研究素体のなれの果てかしら? まぁ、いいか。あまり気持ちの良い物でもないし」
そう言ってドゥーエは興味を無くして歩き出す。と、その途中である事を思い出すのだ。ウーノ達の廃棄した受精卵。それを入れたケースはどこにあったのだろうと。だが、それをどうこうしたい訳でもないのですぐに彼女の意識からそれは消えた。
ドゥーエの足音が遠ざかる。それと同時に先程の生物が微かに動き、その腕らしき物から触手が伸びる。それがケースを突き破りドゥーエが置いたケースへ入り込んだ。触手は中の受精卵を取り込み、また元の位置へと戻る。
それに呼応するように生物が痙攣した。すると、低く不気味な声が誰もいないはずの空間に響く。
―――これで揃った……
その声を聞く者はいない。それは、蠢き始めた闇の産声。今しばらく続く平穏。その裏で、静かに悪が目覚めようとしていた。
こうしてドゥーエが戻り、数日が経過した。この間に変化した場所であるキッチンや男湯などを見て、彼女が告げた感想は一言。
―――ここ、研究施設でしたよね?
それに真司は当然だと頷いたが、何故かジェイルがそれを否定した。ここはもう研究施設ではなく自宅だと。それに真司はやや意外そうにしながらも嬉しそうな笑みを見せた。ドゥーエはそんなジェイルと真司の反応に苦笑し、改めてジェイルへ詰め寄ったのだ。そう、何でもっと早くに戻してくれなかったのかと。
それにジェイルは本当に申し訳なさそうに謝った。すると真司も何となく空気を読んで頭を下げたのだ。それにドゥーエは内心微笑みながらも、表面上は渋々といった感じで許した。
現在、時刻は夜。夕食も終わり、後片付けも終えたナンバーズは姉妹揃って入浴中。総勢十二名の大所帯だが、それを許容出来るぐらいに女湯―――温水洗浄室とはもう呼ばない―――は広くされていた。
これも真司の提案。一度に全員が入れて、尚且つ洗い場もそれを考慮してやるべきだと。まぁ、真司の監修が入った時点でどこか銭湯のような作りと雰囲気になったのは否めない。しかし、それを指摘出来る者は生憎ここにはいなかった。
「にしても、兄貴ってやっぱ強いんだな」
「そうッスね~。アタシとノーヴェの二人でやっとッスから」
「当たり前だ。真司は私とトーレを相手に引き分けるのだぞ?」
湯船に浸かりながら言い合うノーウェコンビ。二人は良く一緒にいるのでこう略されるのだ。その二人の言葉にチンクがどこか誇るようにそう返す。そう、今日は真司との訓練を二人が担当したのだ。
その前日はオットーとディード。真司の強さをデータでしか知らない妹達に、実際の強さを知ってもらおうとジェイルが企画した試みで結果は当然龍騎の勝利。だが、それは内容的にであって実際は引き分けている。
セッテの時と同じで、真司はファイナルベントを封印したままで二人を相手に引き分けているのだ。それは真司が成長しているのもある。トーレやチンク、セッテやディエチとの戦いで真司自身も経験を積み、少しずつではあるがその思考や技術を磨いていたのだ。
仮面ライダーとしての決意を固めた真司は以前よりも訓練への取り組み方も変化し、少しでも強くなろうとしていた。必ず戦いを止めるためにと考えて。それを感覚で感じ取っているのは以前の真司を知る者達だけだったが。
「それに、真司は未だに一度も見せた事のない姿を持っている」
「あ、サバイブだよね。あたしも見た事ないな」
トーレのどこか悔しそうな言葉に、セインが同じように悔しそうに応じる。その悔しさの質が二人はまったく違う所が実にそれらしい。
「一度、ゆりかごの中で使ったって聞いたけど?」
「うん。でも、それは誰も見てないんだ。真司兄さん、自分一人で片付けちゃって」
ドゥーエの声にディエチがそう返した。今でも思い出せるのだ。それを聞いた時のジェイルの必死さを。何せ真司を冗談抜きに絞め殺しかけていたのだから。
もう少しトーレ達が来るのが遅れていたら真司は死んでいたかもしれない。そんな事を思い出し、ディエチは苦笑した。
「でもぉ~、シンちゃんが言うにはサバイブは強力すぎてあまり使いたくないそうですよぉ」
「それに、真司さんは本当なら変身もあまりしたくないらしいわ。あれは、誰かを守るための力だからって」
共に体を洗いながらクアットロとウーノが告げる真司の心情。彼女達二人は、真司の事情をそれなりに聞き出し出身世界の特定などをしていた。その関係から真司の内面的な事も他の姉妹に比べると詳しい。
そんな二人の言葉にどこか感心したように頷いている者がいた。セッテだ。彼女は尊敬する相手と聞かれれば真っ先にトーレと真司を挙げる程、彼らに影響を受けていた。
「さすが兄上。力は誇示するものではなく、他者のために使うものと考えているのですね」
「真司兄様……優しいですからね」
「そう言えばお兄様が言っていたわ。本当の強さは、誰かを傷付けるものじゃないって」
セッテの言葉に続き、オットーとディードがそう告げた。この三人は真司が教育担当となっているため接している時間が他の姉妹に比べると多い。そのため、起動して真司の影響を受けるまでが非常に早かった。
セッテは真司から掃除を、オットーは洗濯を、ディードは炊事をそれぞれ教え込まれていて、暇さえ見つけるとよくラボの家事をしている事からもそれが分かる。最近では真司よりも家事をするようになり、彼は三人のおかげで幾分か楽が出来るようになっていたのだから。
「……ホント、真司君って凄いのね」
口々に真司を誉めるような事を言っていく姉妹達を見て、ドゥーエはどこか呆れたようにそう呟く。そんな自分も少なからず影響を受けているとどこかで自覚しながら。こうして姉妹揃っての入浴時間は過ぎていくのだった。
「っくし!」
「……押さえてくれないかね」
「仕方ないだろ。生理現象なんだから」
同じ頃、真司達も男湯にいた。中々男二人だけで話す事が出来ないので風呂は貴重な男だけの空間だった。ここで二人は他愛もない事や割と真剣な事まで色々話していた。
ちなみに今日はナンバーズの今後の事。ジェイルの計画が成功すれば、元から犯罪者であるジェイルはともかくナンバーズはほぼ何の罪もなく世間に出て行ける。その後の事を二人は話し合っていた。
「で、何だっけ?」
「体の事をどうするかだよ。中々理解され辛いだろうしね」
「だよなぁ。でも、男ってさ。俺もそうだけど、美人に弱いから気にしないと思うけど……」
真司の言葉にジェイルはどこか楽しそうに笑い、頷いた。確かに真司は単純そうだと、そう言って。それに真司は少し憮然とするも自分で言った手前何も言い返せないまま黙った。そんな真司にジェイルは嬉しそうに笑う。
「そんな考えをしてくれる相手がきっとどこかにいるだろう。その相手と巡り合い、愛し合う事を祈るのみだ」
その父親らしい発言に真司が感動した。自分もそれを心から願うと力強く告げたのだ。すると、ジェイルがそんな真司を見つめて一言。
―――意外と近くにいると思うんだけどねぇ……
その言葉に真司は不思議そうな顔をするが、何か自分の中で納得出来るものがあったのか真剣な表情で頷いてこう言った。
「そうだな、近所で出会った人に一目惚れってあるもんな」
その答えにジェイルは呆然。真司は尚も続ける。社会に出て初めて出会った相手に恋する事は有り得る。意外と運命の人とは近くにいるものかもしれない。そう言いのけたのだ。
そんな真司の言葉を聞きながらジェイルは誰にでもなく小さく呟いた。これは相当手を焼くだろうな、と。それに気付かず真司は自説を騙り続けるのだった。
湯上りのナンバーズ。それぞれが寝間着に着替えるのだが、ここにも個性が出ていた。ドゥーエとクアットロはネグリジェ。ウーノとトーレは無地のパジャマ。チンクは三毛猫がプリントされた可愛らしいパジャマ。
セインとウェンディはTシャツにハーフパンツ。ノーヴェはそんな二人をどこか嫌そうに横目で見ながらも同じ格好。セッテはデフォルメされた犬の絵のパジャマ。オットーとディードは揃いの絵柄で星や月がプリントされたパジャマと、それぞれ性格や思考が出ていた。
それに全員着替えると揃って向かうのは食堂。水分補給をするためだ。そして、目的はそれだけではない。
「で、ミサイルとかビームが一斉にさ」
「……それで良く無事でいられたね」
食堂に着いたナンバーズが見たのはパジャマ姿で話している真司とジェイル。その二人の手にはスポーツドリンクが握られていた。そう、風呂上りに真司はジェイルと食堂で熱を冷ますためにこうして雑談するのだが、その内容はライダーバトルに関する事が多いのだ。
今もどうやらそれを話しているらしく、ジェイルがやや引きつった表情をしていた。ちなみに真司が話していたのはゾルダと呼ばれるライダーの話。その重火力を想像し、ジェイルは軽く眩暈を感じていた。
そのキッカケはディエチのIS強化案。現状はチャージ等で時間が掛かるため、もっと別の方法や強化法はないか。そう聞かれた真司が砲撃でゾルダを思い出して話していたのだ。まぁ、途中からはディエチの事そっちのけでジェイルが色々と質問していたが。
「にぃにぃ、アタシらにも聞かせて欲しいッス」
「おっ、何だ。みんなも熱冷まし?」
「ええ。だから私達にも話を聞かせて頂戴」
ドゥーエがそう言うとセインやウェンディが首を縦に振る。セッテやノーヴェなども同じようで話して欲しそうに真司を見つめていた。それに真司は少し嬉しく思い、咳払いをしてから話し出す。それは、真司が小さい頃読んだマンガの話。
人に創られた存在のヒーローが、生みの親である博士の娘などと共に世界征服を企む悪の科学者と戦うストーリー。だが、ヒーローは完全機械だった故に良心回路と呼ばれる心みたいな物を組み込まれた。しかし、それは未完成で不完全な物だったのだ。
そのためヒーローは幾度となく苦しむ。良心の呵責とでもいうのか。悪い事と善い事。その区別があまりに曖昧で、時には善が悪になり、悪が善となる事もある。そんな人間の世の不思議さに翻弄されながらヒーローは成長していく。
生みの親の博士を非情な相手に利用され敵の中に人質として使われたり、やっとの思いで倒したはずの悪の科学者が生きていて、それに対抗するようにヒーローの兄が眠りから目覚めるなど。真司は幼い頃の記憶を辿りながら話していく。
それを聞きながらジェイル達はその世界へ引き込まれていく。特にナンバーズは強く引き込まれる。機械の体。だけど心は人間と同じで迷い悩み苦しむ存在。兄弟とも言える相手を敵として倒さねばならない現実。それは、まるで道を間違えた自分達にも近いものがあるように感じたのだ。
そして、話はいよいよ終盤。ヒーローが仲間や兄弟を人質に取られ、絶対絶命の危機となった。誰もがその後の展開を息を呑んで待つ。だが、そこで真司はそれまでの熱が消え失せる事を告げた。
「……でも、この後どうなるか知らないんだよ。俺、何故かそこで読むのやめちゃって」
それに全員が大ブーイング。続きが気になるとセインが言えば、眠れなくなるとウェンディが続く。きっと救出して大団円ですよねとオットーが尋ねれば、誰かまたヒーローの危機を助ける存在が来るのではとディードが言い出した。
ノーヴェは頭を掻き毟るようにしているのでどうもイライラしているようだ。チンクはそんなノーヴェを宥めると共に、必ず報われるからと諭している。セッテはトーレに良心とは具体的に何かと聞いて困らせ、ディエチはクアットロと自分達がそうなったら嫌だと言い合っているし、ウーノはジェイルに決してもう悪事に手を出さないようにと改めて言い聞かせていた。
「……それ、救いがなかったんじゃない?」
そんな中、ドゥーエが告げた一言に全員が止まった。多くの者がそんな事を言うなと言いたそうな視線を向けるが、真司はその言葉にどこか考え、そうかもしれないと肯定した。
「それも一つの結末かも。でも、でもさ」
「何?」
「救いがないとしても、それでもヒーローは戦ったはずだ。だって、何もしないで終わる事が一番嫌だから、さ」
真司はそう自分の手をじっと見つめて言い切った。救いがない結末。それが自身を待つとしても決して諦めない。自分が戦う事を止める時はただ一つ。誰かを苦しめるライダーバトルが終わりを迎え、ミラーモンスターが消えたその時なのだから。
そんな事を考え何ともいえない雰囲気を漂わせる真司にジェイルを除いた全員が見入った。それを知ってか知らずか、更に真司はこう続けた。
―――それに……やらなきゃ、何も変わらないから……
その自分に言い聞かせるような言葉は、普段の真司にはない力強さがあった。誰もが言葉を失う中、ジェイルだけはそれに頷いて周囲に告げた。
「さ、そろそろ寝ようか。あまり体が冷えると風邪を引くしね」
その言葉にもっともだと全員が動き出す。口々に就寝前の挨拶を交わし、それぞれの部屋へ戻っていく。それを見送り、真司も部屋へ戻っていく。ジェイルも真司を見送って自室へと戻る。そして、ジェイルはベッドに座ると小さく呟いた。
―――救いがない結末を変えられる力。それを必ず君に渡してみせるよ。友人として、ね。
救いがないとしても変わると信じて戦うと決意する男がいる。それを聞いて変えられる力を授けると誓う男がいる。
本来ならば交わるはずのない道が交錯する時、龍騎士は烈火だけではなく爪を得る。恐ろしい闇を打ち砕く異世界の友からの力として。
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空白期も残りは数話。StS編はある意味怒涛の展開かと。StSは龍騎が最初から活躍予定。RXは言うまでもないです。クウガとアギトは……未定。
それと機動六課はかなり凄い事になります。戦力的にも人数的にも、ですが。
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ふとした事でクウガとしての決意を新たにする五代。
RXとしてフェイトの気持ちを嬉しく思う光太郎。
そして、龍騎として覚悟を決める真司。
仮面ライダーの称号を背負う者達は周囲の者達に支えられている事を知っている。
孤独ではない。その事を知るからこそ彼らは戦えるのだから……