~聖side~
町へと向かった俺たちは、広陵郡広陵の近くの村へと来ていた。
ここ、広陵の太守は姓は張、名は超、字を孟高。
確か、三国志だと兄貴に姓は張、名が邈、字を孟卓が居て、政治とかそういうのは、部下の滅洪が優秀だったこともあり、彼がやっていたという。
確か、兄の張邈は曹操と親交があり、仲が良かったのだが、曹操に反抗し謀反したところを曹操によって討たれている。
張超も確か曹操軍によって討たれたはずである。
そんなこの村だが、市もにぎやかとまでは言えないが、活気はある。町と言うには小さい感じだが、平和な村だと分かる。これも部下の滅洪が政事に尽力で挑んでいるから、こういう小さな村でも活気があるんだろうか…。
そんな村の通りを、芽衣と一緒に歩く。
人通りはさほど多いわけでは無いのだが、芽衣のドジっ子ぶりを知ってしまった以上、手をつながなければはぐれてしまう、と思って、今現在手をつないでいるわけなのだが…。
「わぁ~見てください~!! あの、お饅頭美味しそうですね~!!」
…パタパタパタ…
「あ~!! あっちのお饅頭も美味しそう~!!」
…トテトテトテ…
「あ~!! あの巾着可愛い~♪」
…トタトタトタ…
俺の手を握ったまま、右往左往している芽衣。
なんでも、芽衣の故郷は山奥の村落だったらしく、そこは、ここのように市が発展してなかったそうな…。
だからとはしゃぐ芽衣が可愛くて、つい微笑ましく思ってしまう。
芽衣の柔らかい手は握っていて気持ちが良い。
最初は子ども扱いを嫌がるかと思ったが、俺の「はぐれないように」という言葉に素直に従ってくれた。
でもその時、俺の顔を見てくれなかったから、やっぱり怒ってたのかな…。
そうして、村の様子を眺めながら市を見終わると、居住区と思われる一帯に出る。
子供たちは元気に遊び、洗濯物の取り込みやご飯の支度をしている人の姿も見える。
平和なんだな~と改めて思う…。
しかしこの世は、俺の知る限りではこれから戦乱の世になっていく。
俺に出来るのであれば、この世を皆が手を取り合って安心で安全な国にしないと。いや、しなければならないのだろな…。
ふと、そんなことを思うのだった。
「!!」
「どうしたの芽衣!?」
急に芽衣が、俺の手を離して走っていく。
とりあえず俺もそれに従う。
走って行くと、その先では、
直ぐに芽衣に習い、俺もそのお爺さんの手伝いをする。
2人が加わったこともあり、何とか車輪は泥濘から抜けた。
「へぇ、ありがとうございます。」
「良かったですね~、無事に泥濘から抜け出せて~。」
「はい、これもお2人のお陰です。」
「いやいや。ところで、お爺さんはこの荷物をどこまで??」
「はぁ、この先の私の家でございますが…。」
「では、そこまで運びますよ。」
「なんと!! それはありがたいお話しですが…お2人に悪いですし、近くですから大丈夫ですじゃ。」
「…とは言え、この道を見る限り、至る所に轍が存在し、今みたいに車輪を取られ大変なこともあるでしょう。」
「…確かにそうですが…。よろしいので?」
「俺からやると言っているんですから、気にしないで下さい。」
「じゃが…ふむ…。ここまで言ってくださって、その親切を無碍にしては申し訳ないの…。 …では、お言葉に甘えるとしよう。」
「そうしてください。」
道中、予想通り轍に苦しむも、俺と芽衣はお爺さんの荷物を届けたのだった。
「重ね重ねありがとうございます。」
「とりあえず、無事に済んでよかったです~。」
「2人とも旅の者ですかな??」
「…分かるんですか??」
「ここら辺では見たことの無い服を着ていらっしゃいますので…。」
「なるほど…。確かに、俺と芽衣は旅人です。」
「やはりそうですか…。わしとしては荷物を運んでくれたお礼として、何かしたいのですが…。お2人とも今日の宿は決まっていらっしゃいますかな??」
「いやっ、まだです。最悪野宿を考えてたんで。」
「そうですか。この辺では夜になると黄巾賊が出るのです。外で野宿は危険ですじゃ。…ふむ…では、私の家に泊まられるが良い。碌なものを出せませんが、寝床くらいなら与えることは出来ますじゃ。」
「でも…それじゃあ悪いですよ…。」
「いえ、私と婆さんの二人暮らしも少し寂しくなってきたところです…。勿論無理強いはしません。」
そう言われるとせっかくのお誘いを無碍にすることも出来ず、まぁ野宿しないだけ良いかなって事で芽衣と2人、お爺さんの家に泊まることにした。
お爺さんの家は俺の感覚では普通のランク。土間があって囲炉裏があって炊事場があって、見た目的には日本の江戸時代の庶民の暮らしって感じがする…。
でも、この時代でこのクオリティは多分相当上のランクなのだと思う。ただ、中華的ではないが…。
果たして、このお爺さんは一体何者??
「何も無いところですが…。もうすぐ夕ご飯も出来ますし、少しお待ちください。」
そう言って、おばあさんが俺達に話しかけてくる。
「すいません。何か手伝えることはありますか?」
「いいえ。お客様なんですから、ゆっくりしていてください。」
「…ですが、何かしないと申し訳なくて…。」
「良いんですよ。お爺さんがお世話になったみたいですし、私も賑やかな方が楽しいですしね。あっお爺さん!! 灯りの油を足しといてください。」
「あっ!! 俺やりますよ。油はどこにありますか?」
「すいませんね…。油は外の樽の中にありますから、そこの桶にでも入れて持ってきてもらえますか。」
「任せてください。」
「じゃあ私は料理を手伝います~。」
芽衣はお婆さんと一緒に料理をし始めた。俺は外に出て、明かり用の油を探しに行く。
各家からは、微かな明かりだけが見えるだけで、村全体としてはうす暗い。
空には月が出ていて、月明かりに照らされ、地面には自分の陰が出来ていた。
こんな光景を見るのはいつ振りかな…。
すると、村の入り口側から一人の男が、慌てた様子でお爺さんの家に駆けてきた。
その男は、お爺さんの家の扉を開けると、
「村長!! 黄巾賊のやつらがこの村に!! その数およそ50人…。この村の警備兵は今もう全員城に戻っちまってる!! どうしましょう!!」
「なんじゃと!! 黄巾賊のやつらが…。 すぐに皆を集めるのじゃ!!」
「はい!!」
男の声が大きくて、外にいる俺にも聞こえてきていた…。
『黄巾賊』
後漢末期に現れたこの世を乱世に導く者達…。
しかし、元はこの村の人たち同様ただの農民…。なんともやるせないが、黄巾賊になった以上、手加減をすればやられる…。
昔は昔、今は今…。正しきを誠とし、悪・即・斬の精神を持つことも大事である。それが後に自分たちの為になるならば…。
「お爺さん!!どうしたんですか!? …っていうか村長だったんですか!?」
「…すまんな旅の者、別に隠すことではなかったんだが…。」
「お爺さん!! 今はそんなことどうでも良いですよ!! …ごめんなさいね、どうやらこの村を黄巾賊が襲いに来たみたいなんですよ…。ゆっくりおもてなしって感じにはなりそうもないんで本当に悪いねぇ…。まぁ家の中で隠れていてください。」
芽衣に視線を流す。
芽衣も同じ事を考えていたようだ。
お互いこくんっと頷く。
「村長、俺と芽衣で出ます!!」
「そんな無茶だ!! 相手は50人ですぞ。しかも全員武器を持っている。」
「村長!! 俺たちはそれなりに腕には自信があります。だから、大丈夫です。 それよりも、村長は村の人たちの中で戦える人たちに武器を用意させて、村の入り口を固めて、もし俺たちがやられて村に押し入られそうになったときの準備をしてください。」
「…分かりました…。しかし、死ぬことはなりません。まだ、私たちからお礼が出来てないのですから…。」
「ははっそうですね!! じゃあ生きて帰ってきて、皆で勝利を祝いましょう!! 芽衣!!」
「は~い、行きましょう!!」
そう言って、俺は蛇弓を手に芽衣と村の外へ向かうのだった。
~芽衣side~
急に走りこんできた男が発した言葉は、衝撃的なものだった…。
『黄巾賊がこの村を襲いに来た。』
…この村が襲われる…この素敵な村が壊れてしまう…私たちの村のように…。
そんなの…絶対に許さない!! すぐにでも出て行って、討ってやる!!
そう思い聖様を見ると、聖様も同じ事を考えていた様子で私の方を見ていた…。
心が通じているって感じでちょっと嬉しい。
しかし、相手は50人。こっちは2人…。
果たして、勝てるのだろうか…。
確かに、私も豪傑とまではいかないが、撃剣を振るう者として、武には多少の自信はある。
聖様はそんな私を素手で負かした…。なので、聖様も武にはそれなりに自信があるはずだ。
相手は元ただの農民…。負けるはずは無い…。ただ…相手は人を殺めてきている…。そんなやつらが50人…。
人を殺したことが無い私で果たして大丈夫なのか…。
…聖様は…人を殺めたことがあるのだろうか…。後で聞いてみよう…。
「ははっそうですね!! じゃあ生きて帰ってきて、皆で勝利を祝いましょう!! 芽衣!!」
「は~い、行きましょう!!」
生きて帰ってくる。そう聖様は村長さんと約束した。
私も生きて帰ってこなくては…。
自信なんてないけど、これからは人を殺めなくてはいけないんだ…。そう思うとちょっと怖いながらも、緊張は少しはマシになった…。
村の入り口に向かう聖様に声をかける。
「聖様、今飛び出しては危険です。まだ、相手がどこにいるか分かってないんですよ!!」
「あっ!!そっか。 じゃあ、さっきの人に聞いてみよう。どこにいるかな??」
「多分広場とかにいるんじゃないでしょうか。皆を集めるための場所としては最適ですし…。」
「よしっ!! じゃあ行ってみよう。」
「はいっ!!」
広場に行くと、若めの男たちが、鋤や鍬を持って集まっていた。
その中にはさっきの男も居た。
私たちはその男に話を聞くことにした。
「すいません。黄巾賊は今どこにいるんですか??」
「んっ!? お前たちは確か、村長のとこに居た…そんなん知ってどうすんだよ。」
「俺と芽衣で討って出ます。」
「馬鹿か!!相手は50人だぞ!! そんなん敵いっこない、止めとけぇ!!」
「大丈夫です。俺も芽衣も腕には自信があります。」
「…黄巾賊はこの村から西方の山から降りてきているらしい。後半刻後にはこの村に来るだろう。」
「分かりました。じゃあ芽衣、行こう!!」
そう言って、聖様は振り返って歩みだそうとした。
「ちょっと待ちねぇ!!」
「どうかなさいましたか??」
「あんたたちだけで行くのは納得できねぇ。旅人を見捨てたとなってはこの村の男たちの威厳が損なわれかねる。俺たちもあんたたちに着いていくぜぇ!!」
「…気持ちはありがたいけど、お前たちじゃあ足手まといだ…。」
「なんだと!! 確かにあんたたちみたいに武に自信はないが、少しくらいは役に立つと思うぜぇ!!」
「…駄目だ…。」
「どうしてだよ!!」
「じゃあ聞くが、お前たちは人を殺めたことはあるのか??」
「…。」
「今から戦うあいつらは、今まで色んな村を襲っては人を殺めてきたやつらだ。やつらは人を殺すことをなんとも思ってない。そんなやつらとお前たちには、差がありすぎる…。この村の人たちが死ぬ必要なんて無いんだ…。」
そう言う聖様は、少し悲しそうだった。
それを聞いている村の人たちも皆俯いている…。
私もこの村の人たちには生きていて欲しい。わざわざ死にに行く必要なんてない…。
「わかった。でも、俺たちにも何かさせてくれぇ!! じゃねえと治まりつかねぇ。」
「分かってくれたようで何よりです。…もし、俺と芽衣がやられたら、この村に賊が来ます。皆さんはこの村で待機して、賊が来たら交戦してください…。俺と芽衣で出来るだけ数は減らすので、数は少ないはずです。」
「…分かった。」
「お願いします!!」
振り返り、走り出す聖様。私はその後を追った。
「いいかあんたら!! 死ぬなよ!! 生きて帰って来い!!」
最後にその言葉を背に受け、私たちは村を出た。
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どうも、作者のkikkomanです。
出会った女の子が徐庶元直という、三国志では有名な人物だったことが分かる聖。少女との誤解は何とか解け、これから一緒に旅をすることに…。心強い仲間が一人増えた聖の行く先は…?