No.447719

万華鏡と魔法少女(特別編)聖夜と忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-07 00:34:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4873   閲覧ユーザー数:4559

クリスマスイブ、

 

この国にはそういう習慣が毎年あるらしい、

その日を恋人や家族と過ごし、楽しい一日にするそうだ

 

だが、俺にはそんなものは全て失ってしまった

 

そんな日に楽しく過ごせる傍に居るべき人はもう居ない

 

ーーーーーけれど、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

冬の冷え込む十二月二十四日、クリスマスイブ

うちはイタチは雪の降る中、一人綺麗な色で飾られたミッドチルダの街を闊歩していた

 

あちらこちらには幸せそうに寄り添うカップル

 

そして、クリスマスプレゼントを買ってもらい嬉しそうにはしゃぐ子供達の姿があちらこちらにみえた

 

イタチはそんな光景を見て、何処かふと寂しさを感じた

 

それは、その楽しそうに過ごしている家族が見える度に、

自分の手で殺し失ってしまった家族の事を重ねているからかもしれない

「…寒いな…」

 

そう呟くイタチはミッドチルダの中心にある大きなクリスマスツリーの前のベンチに腰を降ろした

 

…虚しい一人だけの時が過ぎてゆく

 

眼の前を過ぎてゆき行き交う沢山の人々

 

特にイタチはこの日誰とも待ち合わせをしているつもりも無い

 

聖夜の習慣が無い自分には特に過ごしたいと思う人も居なければ、恋人もいないからだ

 

だが、イタチは一人だけ虚しく過ぎるこの時間は嫌いでは無かった

 

(…本当に綺麗だ)

 

何故なら、街を彩るイルミネーションを初めて目の当たりにしたイタチはそれを見るだけで満足していたからだ

 

すると、そんな風に一人だけベンチに腰を降ろしているイタチの側に一人の女性がやってくる

 

「…隣、よろしいかしら?」

 

いきなり、ベンチに座っているイタチに訪ねる女性

 

イタチはそんな彼女の声に反応し、ふと振り返る

 

 

「…えぇ…別に構いませんよ」

一人、孤独にベンチに座るイタチの横にそう言って腰掛ける女性

 

だが、イタチはそんな彼女を気に留めずに再びイルミネーションで彩られた街に視線を移し変えた

 

女性はそんなイタチにたいして他愛ない話しをし始める

 

「…一人で過ごす聖夜…というものなかなか趣深いですよね」

 

「…そうか…確かにそうかもしれないな…、」

 

イタチはそう言って、自嘲する様に彼女の言葉に笑みを溢す

 

そんな、イタチの様子を顔を覗かせる様に見た彼女はふと悲しげな表情になった

 

彼のしている哀しい瞳…

 

何かを見失った様なその眼を見た途端に彼女はふとを彼の中にある冷たく深い闇を感じた

 

そして、そんな様子のイタチを横眼で見ていた彼女はまるで独り言を呟く様にイタチにある事をゆっくりと話し始める

 

「…私は実はね、教会に働いているんですよ」

 

淡々と語り出すベンチの隣に座る彼女のその言葉に黙ったまま耳を傾けるイタチ

 

彼女はそんなイタチに対して紡ぐ様に話しを続ける

 

「…私は司教様ではありませんが、今日は聖夜です、キリスト様の聖誕祭ですから、特別に今、私が貴方の懺悔をお聞きして上げますよ?」

 

そう言って、女性はイタチに優しく微笑みながら言う

 

イタチはそんな彼女の意図がわからなかった

 

先程まで他人にも関わらず、彼女は自分の抱えるモノを話してくれと言ってきた

 

だが、これは簡単に人に話せる様なモノでは無い

 

しかも、キリストとは今始めて聞いた名前だ自分の世界にはそんな神など存在していなかった

 

あるとしたら、暁にいた時の仲間であの不死身の馬鹿が信仰していた、ジャシン教とか訳が分からないものぐらいだろう

 

 

まぁ、別にこの女性にならば自分がいままでやってきた事を話しても別に問題あるわけでは無い

 

今夜はクリスマスという特別な日なのだからついうっかり独り言を溢してもどうという事は無いだろう

 

イタチはそんな浮き足だった気軽な気持ちで彼女に自分の事を語り始めた

 

「…俺はいままで、沢山の人間を裏切って来ました…、家族、知人、恋人…」

 

「…………」

 

淡々と語るイタチの話しに耳を傾ける女性

 

イタチは寒い風が吹く中、話しを紡ぐ様に続け出す

 

「…彼等と過ごした毎日は本当に幸せでした、

でも彼等はもう居ません…何故なら…」

 

イタチはそこで一旦言葉を区切った、それはこの事を話して隣にいる彼女がどういった反応をするのか予想がついていたからだ

 

これを話せば間違いなく自分に対する見方が大きく変わる

 

だが、イタチは彼女が真剣に自分の話しを聞き入っている様子にもう話すを自分自身でやめる事が出来なかった

 

イタチは覚悟を決めたようにその言葉を自分の口から語った、

 

「…俺が…皆を殺してしまったから…」

 

「…!?」

 

イタチが発したその言葉に彼女は眼を見開いた

 

家族、知人、恋人…イタチはその全ての人間をその手に掛けた

 

一族の誇り、その下らない事のせいで平和だった国を戦場にしないと阻止しようとした結果だ

 

イタチは眼を見開いたまま自分の話しを沈黙し聞いている女性に自身の心の内を話し始めた

 

「…もう自分には何も無い、家族も親友も恋人も…だけど、それでも俺は歩みを止める訳にはいかなかった、その結末は…大切だった弟との殺し合い…」

 

「…そんな…」

 

気軽な気持ちでイタチの懺悔を聞こうとしていた女性の顔は驚愕しか無かった

 

それ程にイタチが背負っているものの大きさにそうするしか無かったのだ

 

「…俺は弟に怨まれて来ました、当たり前の事です、実の父親と母親を殺されたのだから…

そして孤独のどん底に叩き落としたのも俺なんです、その辛さは計り知れない」

 

イタチは一通りそう語り終えるとそのベンチから立ち上がった

 

もう、自分の事をこれ以上語って、救われない事が分かっていたから

 

イタチはベンチに座る彼女とは別に彩られた街を見つめながら、最後にこう言い放った

 

「だけどわかった事が一つだけある」

 

淡々と静かに彼女に語り出すイタチ、彼の語る言葉とその眼とその姿にベンチに座っていた彼女は釘つけになった

 

「…俺は幾つもの惨劇をこの眼で見て来ました」

 

イタチが語るその話しに引き込まれてゆく彼女

 

それは、イタチが経験して、彼女に語ったいままでの哀しみ、怒り、そして後悔が込められた話しによるものからかもしれない

 

イタチは静かに眼を閉じて話しを紡ぎだす

 

「この世で死にゆく事は全て予定調和」

 

そう語るイタチの眼は哀しく、そして彼女には美しく見えた

 

丁度、その時…彼女の頬に冷んやりとした何かが当たった

 

それは、自然が作り出した白い結晶の集まり

 

イタチはクリスマスの夜に降り出した雪を見上げながら、こう言った

 

「殺し、殺されまた殺し、そうやって…世界は廻ってゆくのだから」

 

彼が語り終えると同時に、雪が降り出した空を見上げていた彼女はベンチから立ち上がったイタチの姿に視線を向ける

 

 

 

 

その時、確かに彼女が見た彼の頬には雫が流れていた

 

雪がただ彼の頬に当たって、それが溶けて流れただけかもしれない

 

たけれど、それは彼女には彼の流した涙に見えた

 

今まで、誰にも話した事が無かったイタチにとって、自身の犯したそれを他人に話すことで心の中にずっと溜め込んでいたものが出て来たのかもしれない

 

イタチはすかさず、自身の頬に流れていたそれを何事も無かった様に手で軽く拭き取った

そして、イタチは優しい笑みを浮かべたまま自分の独り言を黙って聞いてくれていた彼女の方に振り返る

 

「すいません、下らない事をべらべらと…」

 

「……………」

 

そう言って、イタチはベンチに座る女性を置いて踵を返してその場から立ち去ろうとする

 

だが、その女性はそんなイタチの右腕を咄嗟に掴んだ

 

なんだかわからないが彼女自身、よくわからないが気付けば身体が勝手にそういった行動を自然にとっていたのだ

 

腕を掴んだ彼女は次に強引にイタチの服を引っ張り、

 

そして、優しく彼の頭を抱える様に抱き締めた

 

イタチはそんな彼女の行動に思わず眼を丸くして驚く

 

「…一体なにを…」

 

だが、彼女は何も答えず抱き寄せたイタチの頭を何回も撫でる

 

彼女は暫くして、抱き寄せられたイタチに対して慈愛を込めた声で優しくこう言った

 

「…言った筈ですよ、今日は聖夜です…貴方のその罪は赦されない事かもしれません…ですが」

 

彼女はそこで一旦言葉を区切り、ゆっくりとイタチの頭を撫でていた手を止める

 

そして、微笑んだまま静かな声色でこう言い放った

 

「…私が貴方を許して上げます、哀しい事を背負いこれまで生きてきた貴方の人生は想像できないくらい壮絶なのは感じました」

 

「…そうですか…」

 

イタチは一言だけそう呟くと彼女の肩に右手を乗せてゆっくりと身体から引き剥がす

 

そして、自身の事を優しく包み込んでくれた彼女に優しく微笑みこう言った

 

「…少しだけ、貴女に心が救われた様な気がします、ありがとう」

 

それは自分が背負う物を少しだけ理解し、行動をもって癒してくれた彼女への感謝の気持ちだった

イタチは改めて白い雪が降り注ぐ空を見上げ、視線を自分の掌に移す

「…綺麗な雪ですね、初めて見ました…」

 

イタチはそう呟くと満足気に微笑み、再び踵を返すと背を向けたまま彼女にこう問いかけた

 

「…貴女の名前…まだお聞きしていませんでしたね」

 

イタチのその問いに思わず自身の名前の事を教えていなかったのを思い出す女性、

 

それ以前に、彼が自分の名前を聞いて来た事に彼女は驚いていたが、なんだかイタチが自分に興味を持ってくれたのが嬉しかったのか気付けば口元が綻んでいた

 

そして彼女はゆっくりと口を開き自分の名をイタチにへと告げる

 

「…ドゥーエ、私はそう呼ばれています、そう言う貴方は?」

 

嬉しそうにイタチに名前を名乗る彼女、ドゥーエはそう言って微笑みながらイタチに名前を訪ねる

 

イタチはそんな彼女にゆっくりと口を開き答える

 

「…うちは…、うちはイタチです」

 

「うちは…イタチさん? 何だか良い響きの名前ね…」

 

彼女は背を向けたまま名前を名乗るイタチに優しく微笑みながら感想を述べる

 

父と母が自分に授けてくれた名前…

 

彼は自分の名前を彼女に褒められて少しだけだが、嬉しく感じられた

 

そして、名前を名乗り終えたイタチは再びその場から一言だけ告げて彼女の前から立ち去ろうとする

 

「…またどこかで会えると良いですね、俺はこれで」

 

「…待って」

 

だが、立ち去ろうとしたイタチは彼女から右手を掴まれ制されてしまう

 

もう話す事は無いのにも関わらずにだ…

 

イタチは手を掴んだドゥーエの方に首だけ回し振り返った

 

そこには、優しく微笑んでくる彼女の笑顔…

 

彼女はイタチを呼び止めた理由について語り始める

 

「…クリスマス、お暇でしょう? エスコートして貰いたいんですけど」

 

そう言って、彼の手を握っている右手とは別に柔らかな手つきで左手を差し出すドゥーエ

 

立ち去ろうとして呼び止められたイタチはその手に視線を落とし、仕方ないと深いため息をつく

 

そうしてイタチは身体を返し、自身の眼の前に差し出された彼女その手を優しく包む様に右手を添えた

 

イタチはエスコートしてくれと要求してきた彼女に微笑みながらこう付け加える

 

「…ふふ、構いませんが力不足かもしれませんよ?」

 

「…あら、別に構いわよ、単に私は貴方と過ごしてみたくなっただけだから…」

 

色っぽく優しく自身の左手に右手を添えて応えてくれたイタチにそう答えるドゥーエ

 

暫くして、イタチは添えた右手を一旦離し彼女の手を改めて掴み直す

 

「…では、いきましょうか…」

 

ドゥーエから促されて、そうして冬のミッドチルダの街へと消えてゆく二人…

 

 

 

しかしこれは…フェイトやなのは達が知ることがなかった、いつかの空白の記憶…

 

 

この時がドゥーエとイタチが初めて出会った日であった

 

 

雪降る街の奇妙な出会いと奇跡…

 

それはきっと、冷たい世界で身を置いてきた彼にとっての心温まる時間だったに違いない

 

一人宿命を背負う彼の血塗られた過去と記憶

 

これからもイタチはそれと向き合わなくてはならない

 

とある冬の日の遠い記憶と出会い

 

それが果たしてイタチになにをもたらしてゆくのか

 

雪降る街に消えて行った彼にしか、それを知る者はいなかった


 
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