No.447681

IS インフィニット・ストラトス 中毒者 第一話 IS学園へ

ヌタ夫さん

ISが使えることがわかり2年が経った。あの日見た、聞いた映像の意味を知らぬまま、言われるがままに乗り続け、とうとう転機が訪れる。

2012-07-07 00:04:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:773   閲覧ユーザー数:755

 

第一話 IS学園へ

 

 夢の中で記憶が最初から繰り返される。頭の中ではこの先の展開はわかっているはずだが、思い出せない。まるでビデオのリプレイのように、現実と思わせるほどの濃密な夢。夢と思わせるような希薄な現実。混乱。何が現実で、なにが夢なのか分からない。現実が現実であって現実ではないのか、夢が夢であって夢でないのか。理解できない。わからない。

 

 苦しい。

 

 病弱だった小さい頃の苦しみ。自分が世界から切り離され、虚ろになっている。逃げ出したいが逃げ出せない。戦いたいが戦えない。まさに生き地獄、死ですら救済に見える無限の苦しみ。いつになったら終わるんだ……。

「…たい……大尉、テオバルト・ヴァイスマン大尉、大丈夫ですか?」

 目が覚めた。

 運転席から振り返るようにして男が心配そうな顔で見ている。空港からここまで送ってくれたスイス大使館の職員か……。どうやら座ったまま寝てしまったようだ。

「眠ってしまって申し訳ありません。すぐに降ります」

「予定よりも30分早く着いているので急がなくても大丈夫です。それよりもうなされていたようですが、体調が優れないのですか?」

「体調は……良好です、嫌な夢を見ていただけです」

 自分が座っていた後部座席からドアを開けて外に出る。

「送っていただきありがとうございます」

「もう暗いので、気を付けて行ってください」

「はい、ありがとうございます」

 礼を述べ、走り去っていく車を見送り、手をつねる。

 肌が指で圧迫され、赤くなる。痛みはある……どうやら夢でなく現実のようだ。起きて手をつねる癖。夢か現実か見分けるために始めた習慣であるが、これすらも夢でないかと疑ってしまう。しかし『リアルな夢』を見る俺に確認する手段は無いのだから疑ったところで無意味なのである。

 手をつねるのをやめ、後ろにそびえる門に向く。

 IS学園の正面ゲート。

 軍の正面ゲートとは違い、周りに守衛はおらず、門は開放された状態であった。セキュリティー

に絶対の自信があるのか、それとも唯の平和ボケかと考えつつ、足を踏み入れる。

 今日から3年間ここで生活するのか……。

 

 

 

 

 2年前のIS起動後、体の隅から隅まで調べられたが、俺がISを動かした原因は分からなかった。身体強化ナノマシンが影響を及ぼしたのではないのかと、男性ナノマシン強化兵士全員を検査したが、ISが反応する者はおらず、検査は無駄に終わった。とりあえず、原因究明も兼ねてIS部隊に異動が決定。以後、軍のISパイロットとして訓練され、扱き使われることになった。

「久しぶりだな……ヴァイスマン」

「お久しぶりです。」

 一週間前、基地内の更衣室で荷物をまとめていると、昔の上司、ブルクハルト警備部隊長が声をかけてきた。声の感じと目の下にクマから、以前にも増して気苦労が多いのがうかがえる。

「元気そうでよかった……」

 警備部隊長は近くの備え付けられた長椅子に腰を降ろすと、俯いて溜息をつく。

「ところで今日はどのような用件でしょうか?」

「ちょっとからお前を連れて来るように言われてな……」

 疲れた顔に、虚ろになりかけている眼でこちらを向き、俺を指さす。

「隊長が直々に連れてくるようにですか?」

「あぁ。オイラー博士の命令では断るわけにもいくまい……」

 オイラー博士が誰かを呼ぶときは基本、IS部隊員か、サポートの研究員に呼ばせる。わざわざ警備部の、それも部隊長を呼び出したりはしない。

「博士の用とは一体何でしょうか?」

 わざわざ警備部隊長を使って呼びつけるのだから、余程の事なんだろう。

「さあな。ま、聴いてみればわかることだ。そんなに深く考えるな。あまり考え過ぎると俺みたいにノイローゼなるぞ……」

「……気をつけます……」

 

 

 

「テオバルト・ヴァイスマン大尉、貴官のIS学園入学が決まりました。ブルクハルト警備部隊長、机の封筒に書類が入っているので手続きを頼みます。ではよろしく」

 研究室で待っていたら博士はあっさりと現れ、早口で用件を言い終えると、さっさと出て行こうとする。

「博士、マリー・アンベール少尉の在籍と特異ケースであることから俺の入学は予定されてなかったのでは?」

「詳細を一緒に入れてある。後日正式な辞令が送られてくるから」

 それだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。あまりの速さに夢ではないかと疑いたくなるが、これが現実である。

 机に置いてある封筒には入学手続き書類とファイルが入っていたが、ファイルには俺の偽造された経歴などが記されているだけで、おおよそ俺が入学する理由となるものは無い。後日正式な事例が送られてくるのを待って聞く他ないようだ。

「とりあえず、入学手続き書類の記入だけ済ませましょうか?」

「そう……だな」

「……ブルクハルト警備部隊長?」

 様子がおかしいと思って見ると青白い顔のまま、虚ろな目のまま立ちつくしている。

「隊長?」

「なあ……俺って……何なんだろうな」

 その後、ストレスと過労で倒れた隊長が目覚めるまで事情聴取で拘束される羽目になり、宿舎にも戻れずに朝を迎え、訓練と入学手続きに追われた。

 ちなみにオイラー博士が警備隊長を呼んだ理由は面倒な手続きをさせるためだけだった。

 ブルクハルト警備部隊長に幸あれ……というか、休暇あれ。

 

 

 本来なら入学の予定はなかった。だが、特異ケースの発見と彼のIS学園入学が状況を変えた。 

 織斑一夏。

 俺と同じ、男でありながらISを動かせる彼のもとに、同年代の俺を入学させることで特異ケースのデータが盗みやすくなるだけでなく、俺の実験機が実戦経験を積め、各国代表候補生の専用機データ、特に第三世代機『ブルー・ティアーズ』のデータを奪い、研究解析すれば開発計画が確実に進むと言う博士の言葉が上層部を動かした。

 祖国、スイスは周りを欧州連合に囲まれた状態で未だに永世中立を保とうと必死になっている。国際的組織の本部や世界の重鎮御用達の銀行があること、国民皆兵による圧倒的兵数が諸国を牽制する材料になっていたが、ISの登場により状況が変わった。永世中立を守るためにはISが必要不可欠。諸外国と同様に第三世代機の開発が急務となっている。

 だが、政府高官たちが望んでいるのは第三世代機よりも、とあるテーマのIS。

『永世中立を守るためのIS』

 現在オイラー博士と欧州連合や海外研究機関からの引き抜いた研究員や技術者で、IS開発を行なっているが、上層部が求める『永世中立を守るためのIS』は完成していない。開発の手掛かりになるようなデータや情報を集めてくるのが俺の入学に課せられた条件だが、正直どうでもいい。

 データは博士の命令だから収集するが、『永世中立を守るためのIS』とかは別にどうでもいい。俺の目的は闘えるのなら、それで構わない。

 

 

 

 

 

「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

「おめでと〜!」

 夕食後の自由時間、寮の食堂。壁にはでかでかと『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙が張られている。

(……はぁ)

 騒ぐクラスメイトの中、パーティーの主役であるはずの織斑一夏だけは騒ぐ気にはなれなかった

 本来ならば対決で勝ったイギリス代表候補生セシリア・オルコットがなるはずだったが、辞退。大人げなく怒ったことを反省し、IS操縦技術の上達にはには実戦で経験を積むのがベストと言って、クラス代表の譲ったのだ。本当はセシリア・オルコットの「彼のことがもっと知りたい」という異性への好意がそこにはあるのだが、そのことを彼は知る由もない。

「人気者だな、一夏」

「……本当にそう思うか?」

 IS学園に入学して織斑一夏と六年ぶりの再会を果たした篠ノ之箒は不機嫌そうにお茶を飲み干した。恋敵の出現と女子に囲まれた思い人の態度が気に食わず、箒の機嫌は今すこぶる悪い。

「…………」

「なんだよ、箒?」

「何でもない」

 それにつけて、新聞部の先輩が一夏とセシリア・オルコットの手を強引に握手させたものだから、箒の機嫌はどんどん悪くなっていく。

「ずいぶん盛大にやっているな」

「千ふぐぇ!!……織斑先生、どうしてここに」

 思わず姉の名前を言いかけ、気づいた時には一夏はクラス担任でもあり、姉でもある織斑千冬によるチョップの洗礼をうけていた。普段は学級名簿なのでそれに比べれば幾分か痛みは少ないが、十分な威力と痛みが伴っている。

「以後気をつけろ。織斑、部屋替えだ。」

「え、……部屋替え?」

 一夏は担任から言われた言葉が一瞬、理解できなかった。

「言ったはずだぞ、今日新しく来る生徒と同室になってもらうと……」

「て、転入生と?!」

「ど、同室!?」

 一夏と織斑先生の話に聞き耳を立てていた周りが一斉にざわめき始めた。あれこれと憶測やデタラメが飛び交う中、『転入生と同室』について、セシリアと箒は一夏に詰め寄る。

「どういう事だ!?」

「どういうことですの!?」

「す、すまん……すっかり忘れてた」

 朝のSHRの後に呼び出され言われていたが、授業や放課後の特訓に追われて彼の頭からすっかり抜け落ちっていた。

「しかも同室だと!わたしという―いだ!!」

「なぜ、私ではなく転入―キャッ!」

「うるさいぞ! 静かにしろ!」

 興奮し、胸倉を掴む勢いで身を乗り出していたセシリアと箒。だが、織斑先生のチョップにより制止を余儀なくされた。

「詳しい事は明日訊け、いいな。」

「「はい……」」

「織斑、部屋まで案内する。さっさとついてこい」

「え、でも荷物は?」

 部屋替えを忘れていた為、荷物の準備が終わっていない。

「そんなものは後にしろ」

「はい……」

 

 

「寮のことで何かあったら、一年寮長の織斑先生に聞いてね」

「了解しました。笠幡教官」

 持っていた荷物をベッドに置き、敬礼をする。

「ここは学校だから『教官』は『先生』って言ってくれる? あと、敬礼はしないでね。」

 そう言っていきなり、おっとりとした顔をグイッと俺の目の前に出してきた。

「りょ、了解しました、笠幡…せ…先生」

 いい馴れない敬称を言った恥ずかしさと、いきなり目の前に顔を出された驚きから、思わずたじろいでしまった。

「うん、よろしい」

 満足げに頷くと笠幡先生は部屋を見回し始めた。時折、調度品や備え付けの家具に付いた傷を見つけてはクスクスと笑っている。

 笠幡先生こと笠幡清子は4組のクラス担任。俺が担当クラスに転入するため、寮長に代わり、簡単な規則の説明や寮の案内してくれた。ここの卒業生で、IS学園にかなり思い入れがあるようだった。

「楽しそうですね、笠幡先生?」

「楽しいわよ、昔を思い出すのは。特にこの部屋は私がいた部屋だし」

「そうですか……」

 軍での生活が長いため、学園生活に対してイメージがわかない。話を聞いた卒業生たちは楽しそうに思い出話を語り合っていたが、そんなに軍の生活と大して変わらんだろう。

「それにしても君、荷物少ないね」

 ベッドと机の上に置かれた俺の私物を見て笠幡先生が言う。持ってきたものは多少の衣類に日常必需品、選別でもらった懐中時計、携帯食料などである。

「そうですか? これでも多い方かと……」

「ほれ、さっさと来い」

 部屋のドアが開き、腰まである黒髪を後ろでまとめた白いジャージ姿の教員と思しき人が入ってきた。

「一年寮長の織斑千冬だ、貴様のルームメイトの織斑一夏を連れてきたぞ」

 織斑先生の後ろからこちらを覗き込むように男が顔を出しす。

 テレビや雑誌、新聞で何度も見た顔だ。俺以外にISを操れる男。

「え、男……なんで?」

 こいつが織斑一夏。

 その瞬間、俺は嬉しさに似た、魂の高ぶりを感じた。

 

 

 

「え、男……なんで?」

 一夏は見間違いかと思ったが、シルエットはがっしりとした男の、軍人のそれであった。黒ずんだブロンドの髪、血のように紅い眼をした彼は一夏を睨みつけている。

「「「えーーー!?」」」

 叫び声の方を見ると開け放たれたままのドアから女生徒が多数覗き込んでいる。

「う、嘘!?」

「え、なにこれ?!」

「なんで男の子が!?」

「どういうことなの?!」

 廊下にいる野次馬がざわざわと騒ぎ始める。

「うるさいぞ小娘共! さっさと部屋に戻らんか!」

 思い思いに騒いでいた野次馬は織斑先生の怒号に、蜘蛛の子を散らすようにして一斉に帰っていった。

「まったく、手の掛かる奴らだ」

「あら、元気があっていいじゃないですか。私はお通夜みたいな雰囲気で毎日過ごすぐらいなら、多少手がかかる方がいいと思いますよ」

 眉間に皺をよせ、苦い顔をしている織斑先生に満面の笑みで笠幡先生が微笑みかける。

「笠幡先生、それはそうですがあいつ等は……」

「あの、織斑先生?」

 恐る恐ると言った感じで部屋にいた一夏以外の男が笠原先生と織斑先生の話を遮るようにして声を掛けた。

「なんだ?」

「彼が……織斑一夏君ですか?」

「そうか、紹介がまだだったな。こいつが織斑一夏だ。織斑、こいつはテオバルト・ヴァイスマン

。スイス出身の……お前と同じISを使える男だ」

「あ、よろしく……って、えーっぶぅ!」

「静かにしろ」

「はい……」

 一夏は新たに知らされた事実に思わず驚きの声を上げた。だが、織斑先生にチョップで一喝され、痛そうに頭を押さえつつ返事をする。

「織斑君、ヴァイスマン君は4組で違うクラスだけど、できる限り面倒みてくれる?」

「え、あ、はい」

 笠原先生に手を合わせながら頼まれ、一夏は戸惑いながらも返事をする。

「ヴァイスマン」

「何でしょうか」

「聞いた通りだ。わからんことがあったら、織斑に訊け」

「了解しました」

 

 笠幡先生と織斑先生たちが帰った後、俺は荷物を取ってくるという織斑一夏について行くことにした。

 寮の中を歩いていると、笠原先生と来た時よりも向けられる視線の数が多くなっている。廊下の端でこちらから隠れるように話すグループや、見つからないようにドアから頭だけ出して覗いている者たち。どれも織斑一夏が話しかけると、必ず逃げるように立ち去るか、部屋に入ってしまう。

「なんなんだ?」と織斑一夏は言っていたが、当り前だろう。ここ、IS学園で男はいわゆる珍獣奇獣の類と同じ、1人いるだけでもおかしいのに、もう1人いたら何かあると考えて逃げ出すだろ。

「あ、そうだ……」

「何ですか?」

「俺のことは一夏って呼んでくれて構わないけど、何て呼べばいい?」

「…………」

 

 

 

「『ブルー・ティアーズ』よりも『白式』のデータ収集が優先ですか?」

「あぁ、そうだ」

 出発前日、オイラー博士より告げられた命令に俺は首をかしげた。

 現在、スイスのIS強化開発計画においてもっとも重要なのは、欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』の次期主力機候補、イギリスの『ブルー・ティアーズ』のデータ収集と解析であるはず。日本の男性操縦者のデータとその機体データは収集対象であるものの、特殊ビーム兵器、BT兵器を有する第三世代機に比べると優先順位は低いはずだ。

「何故って顔をしているね」

「いえ、そんな……」

「君を含めての男性操縦者と機体データは貴重だから、それだけだよ。」

「…………」

 だとしても、おかしい。博士はいったい何を考えているんだ……。

「国際問題に発展するような行動をしなければ……収集データ種類と収集方法、データの提出時期は任せるよ」

「良いのですか?!」

 博士の言葉に胸が高鳴った。

 国際問題に発展しない方法でデータ収集の許可。完全ではないが、自分勝手ができるという事と同義であった。

「構わないよ。期限はIS学園在学期間中だが、上も収集方法と収集データの選別は君に一任すると言っている……思う存分やっていいよ」

 

 

 

「どうかしたか?」

「いえ、なんでもありません」

 恩人である博士の命令というだけで従うつもりでいたので特に考えていなかったが、博士と上層部は『男がISを動かせた理由』を躍起になって調べていた。比較対象として同じ男性操縦者である織斑一夏のデータが欲しかったのだろう。『男がISを動かせた理由』を何に利用するかは気になるところであるが、そんなものは重要ではない。今、重要なのは自分勝手なデータ収集ができる。つまり、実際に闘って実戦データを提出しても良いという事、闘えるという事。

 一瞬、ここで織斑一夏に喧嘩を吹っかけ、決闘まがいのことをしようと考えたが、やめた。織斑一夏、男の専用機持ちと闘えば、自機の経験蓄積とデータの収集もできる。しかし、織斑一夏はISに触れてまだ間もない。そんな相手と闘っても意味は無い。俺の望む闘いとは全力と本気のぶつかり合い。言い表すなら『果たし合い』や『決闘』、そういったものである。未熟な自分を鍛え、高めた状態で闘った時の高揚は何とも言い表せない。織斑一夏には悪いが、俺が全力を出せるとはいえない。

「で、何て呼べばいい?」

「……テオでお願いします」

 織斑一夏は卵だ。卵も成長させれば鳥となる。どうせ楽しむなら、一口で終わる卵単品よりも様々な味と触感を楽しめる鳥のフルコースの方がいい。うまいと思った事は無いが……。

「そうか。よろしくな、テオ!」

「よろしくお願いします、一夏」

 今は仲良くしておこう。鳥のフルコース、成長した奴との闘いを楽しむために。

 

「いやぁ、それにしても助かった……話し相手少なかったからさぁ」

 テオを連れて一夏は以前の自室、1025室へ向かっている。部屋替えに関して文句も何もないが、私物がない状況は些か問題がある。朝のSHR後に言われ、放課後に準備をするつもりであったが、放課後の特訓とクラス代表就任パーティーにより、忘れていた。姉である担任の織斑千冬に食堂から新しい部屋へ連行されたことで、ようやく荷物をまとめに行けるのである。

「昼休みや放課後ならば、話し相手ぐらいにはなりますよ」

「お、サンキュウ」

(やっぱ男同士はいいな。気兼ねなく話せて)

 IS学園はISが女性にしか扱えないという特徴から女子高と化している。一夏は女性に対して苦手意識は無い。話しかけてくれるクラスメイトや同級生、上級生は多いが、周りが異性ばかりだとさすがに意識してしまう。

「ここで待っててくれ、中のやつにちょっと話するから」

 部屋の前に着くと箒を驚かさないため、テオに入口の脇で待っていてくれるように頼む。テオが頷くのを確認し、ドアをノックして中にいる相手を呼ぶ。

「なんだ一夏か……」

「なんだってのはないだろ、なんだってのは」

 ドアが開くと、食堂で別れた時と同じ不機嫌そうな箒が出てきた。寝間着である浴衣に着替えており、これから寝るところだったようだ。

(悪いことしたかな……)

「ふん、何の用だ」

「ほら、俺今日から別の部屋だろ。だから荷物取りに来たんだ」

 さっさと中に入って取ってくれば良いのかもしれないが、幼馴染である箒に対してするのは気が引けたため一言断ってから持って行こう考えていた。

「新しいルームメイトと仲良くやるのだから、荷物などいらんだろう」

 何という滅茶苦茶な考え方であろうか。しかし、眠ろうとして邪魔されればだれでも機嫌は悪くなるだろう。理不尽なことを言うのも仕方ない。一夏はどうやれば箒の機嫌が良くなるかを考えつつ、なんとなく箒の浴衣姿を見た。

「あれ?」

「な、なんだ?」

「帯が新しいやつだな」

「よ、よく見ているな」

 少しだけ機嫌が良くなったのか、先ほどまで声にあったとげとげしさがなくなっている。

「いや、色も模様も違うから、そりゃ気づくだろ。箒を毎日見てるからな」

「そ、そうか。私を毎日……」

「?」

 箒は何故か上機嫌になり何度もうなずき始めた。

「まぁ、確かに荷物は必要だな。特別に許すとしよう、持って行くといい」

 何故、機嫌が直るどころか上機嫌になったのか分からないが、荷物を持ち出すのを許した箒に、ほっと胸をなでおろす。

「そうだ、箒に紹介したい奴がいるんだ」

「ん? 紹介したい奴?」

「ああ、ルームメイトの転入生、テオだ」

 一夏は入口の脇に居たテオを紹介する。躊躇しつつテオがドアの陰から姿を現した。

「……どうも、はじめまして。テオバルト・ヴァイスマンです」

「……し、篠ノ之箒だ」

 目を点にして驚いている箒にテオは居心地悪そうにしている。

(どうしたんだ?)

 一夏はなぜ二人が驚いたり、居心地悪そうにしているのか、わからなかった。

「……ず、ずいぶんと身長が高いのだな」

「そうですね。自分の国では同年代と比べれば少し高い程度です」

「そ、そうか……ずいぶんと体つきがいいな」

「軍隊にいたのでそのおかげです」

「なんとなく思ったけど、やっぱ軍隊にいたのか」

「そ、そうなのか……ずいぶんと男っぽい声だな」

「男ですから」

「お、男か……そ、そうか…………なにーー!?」

(おかしな奴だな……なんで叫んでるんだ?)

 テオの入学は今のところスイス軍関係者と学園の教員しか知らず、世間と学生への公表は明日行われるはずだった。一夏以外の男性操縦者が入学したのを知っているIS学園の生徒は一夏を除いて数名しかいない。故に箒が驚くのも無理はないことであった。

 そのことに気づいたのは、箒の驚いた声を聞きつけた寮生がテオを見て騒ぎ始め、その騒ぎを聞きつけてさらに野次馬が集まり始めた後、あまりの騒がしさに織斑先生が登場し、寮内を騒がせた罰として一夏とテオににチョップを喰わせた後だった。

 

 

 

 

 

 

 
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