リウイ達が動き始めて数日後、遊撃士協会を始めとし、各国でも事件解決や防止に向けて動いていたが一向に犯罪は減らなかった
~グランセル城~
そこにはアリシア女王を始めとした、各国の大使館の人間や事件解決の指揮をしている人物達がさまざまな確執を捨て秘密裏に集まっていた。
「……あれから、子供達の行方や犯人の手掛かりは掴めたのでしょうか?」
アリシア女王は沈痛な顔をして各国の代表者に聞いた。
「……残念ながら、共和国では依然防げてない上、足取りもつかめません。」
カルバード大使館のエルザは悔しそうな顔をして答えた。
「……我らエレボニア帝国も巡回を増やしたりしているのだが答えは同じだ。」
メンフィルに大敗しながらも未だに少将という地位で収まっているエレボニア帝国のゼクス・ヴァンダールも進展しない今の状況に屈辱を感じ、重々しく答えた。
「……俺達、クロスベル警察は醜い上共の保身せいで、事件が起こっても内密にしようとしてさらに酷くなってて嫌になってくるぜ。」
クロスベル警察からの代表者セルゲイは今の警察内部の状況を吐き捨てた。
「私達ギルドもA、B級を総動員して調べてはいるのですが中々尻尾を出さず悔しい思いをしております……」
遊撃士協会からはリベール軍をやめ遊撃士になったカシウスが来ていて、自分の無力さを嘆いた。
「そういえば、例の異世界の方々は見えておられませんね。」
エルザはここにいる人物を見て疑問に思ったことを言った。
「来ていなくて当然でしょう。メンフィルは文字通り異世界にある上、世界の移動の仕方はメンフィルしか知りませんからな。当然被害は受けていないのでしょう。……それにしても、おかしいですな。メンフィルは以前の戦争でいくつかの都市を得たはずなのに、そこでは事件は起こらなかったのでしょうか?」
リベールの将軍、モルガンはエルザの疑問に答え、あることに気付きメンフィルに疑問を持った。
「……もちろん起こりました、将軍。ですがメンフィルは全て未遂に防いだとメンフィル領にある支部やメンフィル大使館があるロレント支部から報告が上がっています。」
「「な……!」」
「なんと………」
「「いったいどうやって……」」
カシウスの答えた事にそれぞれ驚いた。
「報告によれば、メンフィル兵を本国から大量に呼び寄せ、さらに人でない存在――闇夜の眷属の中でも夜の活動を主にしている者達を巡回させ、未然に防いでいます。彼らの中には翼を持ち、空を自由自在に飛べる者や暗闇の中でも目が利く者等いるのですから誘拐に成功した犯人がいてもすぐに未然に収められるのです。」
「では、メンフィルなら何か情報があるのでは……!」
アリシア女王はカシウスの答えを聞き、希望を持ち聞いた。
「……メンフィルは犯人達をかなり危険視しているようで、犯人は我々遊撃士が駆け付ける前にメンフィル兵や闇夜の眷属によってその場で殺害されております。ですが組織の名は判りました。メンフィルによると犯行グループの名は『D∴G教団』という名でエイドスを否定する集団だそうです。」
「「「「「「なっ!!!!!!」」」」」
カシウスの報告にその場にいた者達はエイドスを否定するという集団に驚愕し、声を上げた。
「なぜ、エイドスを否定するためにそのような凶行を……」
女王は震えながら嘆いた。
「それより、なぜメンフィルがそれほどの情報を持っている!エイドスを否定する教団ということはエイドスとは異なる宗教、アーライナ教が関係してくるのではないか!?アーライナ教が関わっているのだとすると此度の件、メンフィルの仕業ではないのか!!」
ゼクスは憎々しげに自分の意見を言った。
「まさか……リウイ殿やペテレーネ殿、帝位継承者であるリフィア殿とは何度か会談を通じて話しましたが3人とも人格ある方でそのようなことを考える方達には見えません。」
「陛下のおっしゃる通りそれはありえません。例の教団はペテレーネ殿を勧誘し断られさらおうとしたそうです。もちろんその場でリウイ殿達によって討取られたそうです。」
カシウスはメンフィルがある程度の事情を知っている理由を言った。
「ほら、御覧なさい。私も一度だけ聖女殿とお話しましたけどそんなことを考える人には見えませんでしたわ。評判通り正に聖女と言われても可笑しくない他者を労わる優しい方でしたわ。それに聖女殿とて幼い一人娘がいるのにそのようなことをするハズがないでしょう。これだから野蛮なエレボニアは……」
エルザはゼクスの言葉を否定し、さらに挑発した。
「貴様……!何が言いたい!」
ゼクスはエルザの言葉を受け、怒り心頭に聞いた。
「今、共和国で噂になっていますわよ。エレボニアはメンフィルに逆襲の機会を淡々と狙っていると。
無駄なあがきですわよね、以前の戦争でメンフィルによって戦力の半数が壊滅した上、メンフィルは未知の技術、我々には使えないアーツに似た魔法、魔術を持って戦っているのですから。私自身、好戦的なエレボニアなどメンフィルに占領されてしまえばいいと思っていますもの。」
「我らを愚弄するか……!そういうそちらこそどうなんだ!?例の件のせいでそちらからメンフィル領へ亡命する市民が増えていると聞くぞ!」
「なんですって……!それはそちらこそ同じじゃありませんか!」
ゼクスとエルザはお互い睨みあった。
「お、おいおい何喧嘩してんだよ。今はそれどころじゃないだろ。」
「お二人ともやめられよ!」
犬猿の仲である帝国と共和国の代表が喧嘩を始めたことで、慌ててセルゲイとモルガンは仲裁に入った。しかし、2人の罵倒は止まらず、女王も困ったように眉を顰めどうすればいいか迷っていた時カシウスが怒気を猛烈に含み叫んだ。
「静粛に!!!」
その場にいた全員がカシウスを見た時、カシウスのさらけ出す怒気に全員が震えあがった。
「……権力をもつただの大人が……」
少しずつ呟くカシウス。その声が、不自然なほど室内に響き渡りカシウスの言葉ひとつひとつで全員は冷や汗をかいた。
「……自国の利益だけを醜く言い争う。」
「グッ……」
ゼクスは頬を赤くし、唸った。
「そんなくだらない国の事情より、もっと大切なことがあるだろう!今、なお攫われた子供達はその幼い体を苦しめられているというのに!」
エルザはカシウスの言葉に痛い所をつかれ目を伏せた。
セルゲイも悔しそうに拳を握り顔を歪めた。
「我々に出来ることは最も簡単なこと。」
女王はカシウスと視線を交わして静かに頷いた。
「今こそ、1つに集い、事件解決のために必要なメンフィルに積極的な協力を願うよう頭を下げる覚悟をお願いしたい。」
頭を下げるカシウス。そして最初に席を立ったのはセルゲイ。
「クロスベル警察セルゲイ・ロウ以下2名。事件解決のために必要であればこんなオッサンの頭でよければいくらでも下げる。」
「幼い子供が助かるためにはこの老骨、いくらでも頭を下げさせて頂きたい。」
「私も同じ意見です、カシウス殿。」
続くようにモルガンと女王が賛同した。
カルバード共和国大使・エルザがしばらくの間思考した後ゆっくりと立ち上がった。
「我々も、力なき子供たちが犠牲になるのは見過ごせません。そのための協力、いくらでもさせて頂きます。」
そして最後となったのはエレボニアのゼクスのみ。
「我々がこれまでやってきた事は、外道と言われてもおかしくない。好戦的国家と言われても、メンフィルや闇の聖女から裁きの鉄槌を受けたと揶揄されても否定できない。」
正に外道と言われても可笑しくないことをエレボニアはやってきた。リベール侵攻のために一つの村を犠牲にしたことを。
「だが、それでも幼い甥を持つ者としてこの事態は見過ごせない。」
そして席を立つ。
「我々エレボニアも今はメンフィルへの恨みを捨てさせて、頭を下げさせて頂く。カシウス殿あなたが我らの代表者になっていただけないか?」
「私が……ですか?」
ゼクスの提案にカシウスは唖然とし、周囲を見たがみなゼクスの意見に頷いた。
「わかりました……このカシウス・ブライト、此度の事件解決のため必ずメンフィルとの共同作戦を実現させて頂きます!」
全員がその場でメンフィルへの協力要請の紙に調印し、カシウスはそれを大事に受け取り全員に敬礼した。
~ロレント郊外・ブライト家~
そこではレナと最近正遊撃士になったシェラザードが今の状況を話していた。
「……そう、未だに事件解決は難しいのね……」
「はい……私も参加したいのですが今はC級以上の正遊撃士は受けれない状況です……」
レナは暗い顔をし、シェラザードも自分に力のなさを嘆き、悔しそうに唇をかんだ。そこにエステルが2階から降りて来た。
「あ、シェラ姉来てたんだ!いらっしゃい!」
「ちょっとね……ところでエステル、その格好は何?あんた、まさかどこかに出かける気?」
シェラザードはエステルの服装や持ち物を見て疑問に思った。
「そうだけど?」
「今は一人で外に出るのはやめなさい!ロレントはメンフィル大使館があるおかげでメンフィル兵や闇夜の眷属によって市内は平和だけど
この辺りは昼とかそんなに見回りはされていないのよ!?」
「何よもう~シェラ姉ったら~……それに今は一人で外に行かないし!」
慌てたシェラザードの注意にエステルは口を尖らせた。
「じゃあ、お母さん行ってきます!」
「暗くならない内に帰ってくるのよ。」
「はーい。」
「レ、レナさん!」
あっさり外出を許可したレナにシェラザードは慌てた。
「大丈夫よ。今は安心できる友達があの娘にはいるから。」
「それはいったい……」
「すぐにわかるわ。エステル、今日はあの人に挨拶をするわね。」
「うん、いいよ~」
そう言うとエステルは2階に上がった。
「え……なんで外に行くのに2階へ……?」
シェラザードはエステルの行動に疑問を持った。
「まあ、ついて行けばわかるわよ。」
そして2人はエステルについて行き、ついたその先は2階のベランダだった。
「いったいどういう事……?」
「ふふ、最初はビックリするわよ、シェラちゃん。」
そしてエステルは眼を閉じて集中し両手を空にかざした。
「え~い!」
すると両手から紫色の弾が空に向けて放たれ、それが空中に弾けた。
「な………エステル、あんた魔術が使えるの!?」
シェラザードはエステルが魔術を使ったことに驚愕し聞いた。
「うん、でも今できるのはこれだけだよ?」
「これだけって……あんた、わかってんの!?魔術はアーライナ教の司祭以上の人かメンフィル出身の人しか使えないのよ!」
「むう、わかってるわよ~。でも、あたしはできたよ?」
「できたって、いったいどうやって……」
「この聖書に書いてある、え~と……ひいんじゅつ?それのやり方にそって練習したらできたんだよ~」
「いや、あたしもその本読んで魔術を使えるように頑張ったけど無理だったわよ!?」
シェラザードが唖然とする中、空より翼を持った睡魔族の娘、リスティがベランダに降りて来た。
「な………!闇夜の眷属!?」
シェラザードはリスティを見て、驚愕した。
「今日もいっしょに遊ぼう、リスティ!」
「はいですぅ~」
エステルの誘いにリスティはほのぼのと答えた。
「リスティさん、今日も娘のことを守って下さい。」
「エステルに近づく悪い人はリスティが懲らしめますから、安心して下さい~」
「ありがとうございます。」
レナとリスティが普通に会話をしているのを見て、シェラザードは混乱した。
(嘘……レナさんも顔見知りなの!?いったい何がどうなっているの!?)
そして会話をしていたリスティは今の状況に驚いて固まっているシェラザードに気付いた。
「そちらの人は誰ですか~?」
「この人はシェラ姉!遊撃士をやっているんだよ!凄いでしょ!」
「……シェラザード・ハ―ヴェイよ。一応エステルの姉みたいなものよ。」
「リスティですぅ。名前がシェラザードですか~シェラ様の名前に似ていてややこしいですね~」
「シェラ様……か。その人は私達の知っている人かしら?」
シェラザードはほのぼのしているリスティが言った言葉に引っ掛かり聞いた。
「どうでしょう~?でも、その人はたくさんの兵隊に命令していますよ~」
「(兵を率いているということはメンフィル軍の中でも少なくとも隊長クラスね……)その人のフルネームはなんていうのかしら?」
「シェラ・エルサリス様ですよ~」
「「え………!?」」
リスティが出したフルネームにレナとシェラザードは驚いた。
「それって、メンフィル機工軍団団長の名前……!」
シェラザードは新聞に載っていたメンフィルの重鎮の名前を聞き驚いた。
「……そういえば、リスティさん。あなたは以前”ご主人様”の許で暮らしているって言ってましたよね。その方の名前は……?」
「ご主人様ですか~?ご主人様はリウイ・マーシルン様ですよ~」
「「な……!?」」
2人はリスティの言った言葉にさらに驚いた。
「むう~お母さん達ったらあたしにはわかんない話をしている~。リスティ、行こう!」
3人のやり取りが理解できなかったエステルは膨れ先を促した。
「はいですぅ~それじゃあ、私にしっかりつかまって下さいね~」
「うん!」
そしてリスティはエステルを抱きしめ空へ舞い上がった。
「きゃっほ~い!いつものことだけど凄いながめだわ~!エリッサやティオはなんで断るのかしら?すっごく気持ちいいのに!」
エステルは空を飛んでいることに歓声をあげた。
「今日はどこまで行きますか~?」
「今日はミストヴァルトの大樹があるところまで冒険よ!マーリオンともお話したいし!」
「わかりましたですぅ~」
「ちょ、ちょっと!まだ聞きたいことが……!」
シェラザードはリスティを引き留めようと大声を出したが、すでにエステルを抱きしめた状態のリスティは飛び去っていた。
その場にはしばらく沈黙が流れ、やがてシェラザードが口を開いた。
「レナさん、エステルはいったいどうやってあの闇夜の眷属の人と知り合ったんですか?」
「私も詳しいことはわからないんだけど、あの子が言うには森で寝ていた彼女を見て話しかけて最近友達になったそうよ。それにしてもまさかメンフィル皇帝と縁のある方だったなんて……」
「はぁ……あたしの時と言い、相変わらずあの子には驚かされますね……」
「ふふ、そうね。」
シェラザードは自分とエステルの出会いを思い出し、思わず溜息をつきその後真剣な顔をした。
「レナさん、もし今日エステルがあのリスティと云う人と帰ってきた時、引き留めてもらえますか?いろいろと聞きたいことがあるので。」
「リスティさんとはたまにいっしょに食事をしているからいいわよ。」
「ありがとうございます。」
レナに礼を言ったシェラザードは事件解決に向けて何か進展ができるかと思い気を引き締めた………
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第12話