IS~狂気の白~
第一話《狂演開幕》
人生は筋書きのないドラマである、と誰かが言った。
その言葉の通りに考えるならば、世に住まう人々は各々が主演俳優であり観客ともいえるだろうし、
彼ら・彼女らを取り巻く生活は日常という名の演目で、この世界全てが舞台であるといえるだろう。
しかし、如何なドラマであろうとも筋書きがないのならば。
どうしようもなく、どうしようもない。
予想外の事態が起こるのは必然と言ってもいいだろう。
「そう、例えば今の私のようにね…」
「あ、あなた男!?如何して男の人がISを…。ほ、報告を!」
広い一室の中に驚きの声が響き、その甲高い声に青年は顔をしかめた。
慌ただしく部屋を飛び出ていく試験官らしき女性を尻目に、嘆息する。
深く息を吐き出しつつ、こうなった理由に思考を向ける。
青年は家の経済状況のために姉と揉めつつも、最終的に就職率の高い高校の入試を受けにここへやって来た。
しかし、会場案内のパンフレットに描かれた通りの順路に足を進めてみれば、
辿り着いたのは志望校である《藍越》学園でなく《IS》学園の入試会場であった。
そして、そこにいた試験官の勘違いもあって、彼は入試用に置いてあったISに迂闊にも触れてしまったのだ。
その結果、彼が触れてしまったISは起動してしまい、更にはその様子を試験官に見られてしまうという有様だった。
《IS》とは、正式名を《インフィニット・ストラトス》と言い、
とある天才…否、《天災》科学者が発明したパワースーツ型の兵器である。
本来、宇宙開発用に作られたはずだったが、到底そうとは思えないほどの力を持っていた。
既存の兵器・武器とは一線を画す圧倒的性能を持ち、単騎で一国を相手取れるほどの超兵器。
何より特徴的なのは、ISは本来、
『女性しか起動することが出来ない』という点だ。
そんなモノを男性である青年が起動させているのだから、今の彼女もさぞ驚いた事だろう。
「まあ、既に知っていた事ではあったが、折角の秘密が台無しだよ。
不用意に触れた私も悪いが、ね」
だからと言って決して、彼の行動だけが全ての要因というわけではないが…。
自身以外、誰もいない空間で、彼は虚空に向かって語りかける。
「だが、偶には他者の書いた脚本に沿うのも悪くはないよ」
まるで、この場に他の誰かが居るかのように、目前の観客に語りかけるように。
「しかし、全て都合よく事が運ぶとは思わないことだ。さもなくば、思いがけず足元を
すくわれてしまうよ?…因幡の白兎のように、ね」
青年、織斑(おりむら) 一夏(いちか)は今までの笑みを変貌させ、
その端正な顔をまるで三日月の様に歪め、嗤った。
かつての、前世の世界において、《ワラキアの夜》と呼ばれた頃の様に。
―――――同時刻
世界の何処かの闇の中、災厄の兎が、満月の様な満面の笑みを浮かべていた。
開幕のベルが鳴り響く。
天災と狂演の交わりは、如何なる物語を作るのか。
誰も知らない舞台の幕が今、開かれる。
――――――死して、消え去り、滅ぼうと、
タタリの夜は終わらない――――――
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月の姫君と魔眼の青年によって、彼は滅ぼされたはずだった。
しかし気付けば、新たな命として全く知らない世界に生まれていた。
かつてと異なる世界で異なる自身を手にした彼は如何なる道を行くのか。
七月二十七日 文面を改稿。
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