リヴァイアモンが叫んだのは本当に急な事だった。
凛とカードバトルをしていて、山札から一枚カードを引こうとしたその瞬間だった。
「がぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ」
とてつもない音量で凛の家に響き渡ったその声。
家には誰もいなくて聞かれないで済んだけど、これは正直家の外にも聞こえているんじゃないかと心配にもなる。
けど、契は窓の外を見て気付いた。
凛の家の周りには霧が立ち込めていた事に。
「何か暗いな……霧のせいか?」
「廊下の電気付けてくるよ」
「おー」
凛が部屋を出て廊下の電気を点けてみたが、電気が点かない。
その後をリヴァイアモンは付いていく。
「あれ? 電球切れてるのかな?」
2・3度点けたり消したりを繰り返してみたが付く様子もなく、
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「!!!!?」
低い鳴き声が家中に響いた。それと同時に家中の電気が消えた。
「ごめん! 何か来るみたい! リヴァイアモンが興奮しちゃってて……」
凛がリヴァイアモンを連れて廊下を走って戻る。何度も経験したのか、凛は説に停電の原因を説明した。リアルワールドに侵入してきたデジモンのせいじゃないかと自信あり気に言うものの、契からすれば「そんな事を言われても」だ。
「んで、どうすんだよコレ……」
家から外へ出てみればどこも電気が消えていて街灯すらも街を照らしていない。
そしてまた、リヴァイアモンが吠えた。
「……ちょっ……!!」
「ごめんって……!」
音で物が壊れるんじゃないかと思うくらいの大きな声。空気の振動もよく伝わる。
そんな声を見つけてか、はたまたその声で敵が近くにいる事を知らせようとしたのか、
「うっ……わ……?!」
家の周囲は霧がかかり背後には敵が迫っていた。
▼▼▼▼▼
ついさっき部下だなんだ言われて面倒事が過ぎ去ったと思ったら、ベルゼブモンにまた面倒な出来事がやってくる。
七大魔王と呼ばれる"魔王型"に進化した彼。その進化に要した時間は思い返しても途方もない大昔から数えなければならない。
彼は成長期の時代が長かった。それでも過酷なデジタルワールド生き延びるだけの運があった。最初から強かったわけではない。とてつもない強運の持ち主だったのだ。
けど、今回ばかりは不運と言ってもいいかもしれない。何となくダークエリアに戻ってくれば、踏み慣れた筈の地面は柔らかかった。その柔らかさにベルゼブモンは体ごと引き込まれていた。
(オイコラ……ここは何処だ? そして俺は何故、退化した?)
ふわふわと意識がハッキリしない中、小さくなった体は見知らぬ土地に放り出されていて、気付けば歩く事を止めていた。
そして気付けばここはデジモンならば一度は夢見る地、リアルワールドだった。
(俺は進化にはかなりの時間を食らった。リアルワールドに来れた事は嬉しいが、正直退化してまで来たい場所じゃねぇ)
インプモンに退化した体は随分と軽い。そのくせ足は重く、どうしたものかと考えていた時。
『力が欲しい……!』
「あ?」
ふと聞こえた声。強く力を欲する声は自分の想いと共鳴するかのように胸に響いた。声に興味はない、が何となく放っておけない気がした。
「そんなものがあれば寧ろ俺が貰ってやるんだけどなぁ!」
彼がなにかする動機なんていつも何となくで、それでいて彼は強運なのだ。
▼▼▼▼▼
霧の中、凛とリヴァイアモンが必死で戦っている。
狭い街中で、建物多いのでかなり戦いにくいらしい。時間は結構経った。
その時間の中で契は何も出来なかった。仕方がないと思えば仕方がない事なのかもしれない。
「リヴァイアモン!」
デジタルゲートらしきものがずっと開きっ放しになっているせいで、敵が尽きる事がなかった。
だから次第に二人は限界を知っていく。
(俺も、力が欲しい……!)
契は強く強く想った。
誰かが戦っているのに、只見ているだけなんて有り得ない!、と。
その想いの力は奇跡的に彼を呼んだんだ。
「……ん?」
「ベ……ルゼブモン……?」
状況を理解出来てなさそうな黒い人型デジモンを見て、後ろから凛の声がその名を呼ぶ。
「あ? ってそこのニンゲン」
凛の方を一度見たが、ベルゼブモンは契に向かって歩いた。
「お、俺?」
「しかいねぇだろ。で、力が欲しいのはお前か?」
「え、あ、ああ」
「ベヒーモス……」
ジャージのポケットに視線をやったベルゼブモン。
「呼べるよな?」
ポケットに手を入れてみればベヒーモスと書かれたカードと凛が持っていたのと色違いのD‐アークが入っていた。
「力は貰った。だからお前にも貸してやる」
くるりとUターンしたベルゼブモンはガチャリと銃を構え一番前に立つ。
「そこのワニ、あとは任しとけ――おいニンゲン!」
「あ、ああ!」
「しっかり見とけよ。コレが俺の戦い方だ」
ニヤリと笑ったベルゼブモン。
ベヒーモスのカードを握った俺。
「カードスラッシュ――!」
「ベヒーモス!!」
二人に呼ばれたバイクは、空高くから姿を現したのだ。
場所は深の部屋。今、深の部屋では2体のデジモンが目を覚ました。
いきなりの攻撃に澪は戸惑いは隠せなかった。
そりゃそうだ、こんな物理的な攻撃なんて未だ人生一度も受けた事はなかったから。ドアノブを引いたまま固まってしまっている。
全身のどこかに恐怖心が絡みついていたのかもしれない。二人して動けずにいた。
「お、おはよう」
そう言って先に動いたのは深で、顔は若干引きつっているが空いたままの扉の先に足を踏み入れる。
深が近づいたのに対し、2体のデジモンは警戒…というよりは混乱しているようだった。
「えっと、あんたちってデジモン……だよな?」
どんな質問だ!? と心の中で澪が突っ込む。
「(デジモンにデジモンだよなって、デジモンは私たちが呼んでる呼び名であってデジモンが自分たちのことをデジモンだと呼んでなかったら話が通じないじゃないか!)」
ひとしきり心の中で突っ込んでから、
「……深……」
はぁ、と首を振って深を見ると、深は「?」というような顔をしている。
「え、何……」
「デジモン、だけどさ……」
「うん」
そんなやり取りをしているうちに、対して2体のデジモンは状況を見た。ガラスに映っていた自分たちの姿を見ると成長期にまで退化している。
こんなに小さくなったのはいつ以来だろう。随分昔な気がする、と懐かしくなりながらも考えることは意外と呑気だなと自嘲するエグザモンもといドラコモン。
ドラコモン自身がこうなって感じた事だが、他者よりも膨大なデータ量を持ち、その羽を広げていた時間の方が遥かに長かったように思うのだ。
ニンゲン達がデジモンだ何だと話している間に驚きは徐々に薄れていく。
デュナスモン(今はレオルモンだが)も落ち着いてきたようで。
「それはウチたちが呼んでる名前であって……」
「ん?あ、そっか……じゃあ何て聞けば、」
「デジモンだ」
「「え」」
二人の会話に入り込んできた"デジモン"。
その声は低く、デジモンのほうを見ると2体に混乱の目は消えていた。
「我はドラコモン」
「俺はレオルモンだ」
「(ああ、ニンゲンも我らの事を"デジモン"と呼んでいるのか)」
ドラコモンは嬉しくなった。きっとそれは人間とデジモンが歩み寄れる存在なんだと感じたからで。リヴァイアモンよりも、他のデジモンよりも、この世界に来たデジモンの誰よりも速く″多くの可能性″を生めることを理解することとなる。
これが、各々の出逢い。
今日この時、全て物語が始まった瞬間だった。
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※2017.6.05
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4話 これが始まり
5話http://www.tinami.com/view/448487