私は彼を待っていた。
ただ、息を潜め、ひたすらに待つ。
私にできることは、ひたすらに待つことだけだった。
それだけは、得意だと自負している。
時は過ぎ、ゆったりと日も落ちかけた頃だろうか、
伸びきった身体のバネが軋み、動き出すのも億劫に思う
そんな中、彼が現れた。
彼はこちらに気づく気配もなく、だんだんとこちらに近づいてくる。、
私は、はやる気持ちを抑え、待った。
時間にしたら、何秒間かの出来事だったと思う。
だけど、その時は10分も20分も待っているような気がした。
だんだんと近づいてくる彼を目前に控えながら、冷え切った身体はその時を、
今か?
今か?と待った
彼を射程に捉えた瞬間、わたしは抑えていた気持ちを解き放ち、力の限り抱きついた。
「痛ッ!?」
彼は、咄嗟のことに叫び声をあげた。
しがみつく私から逃げようともがくが、逃がすまいと食い下がる私のほうが強かったようで、しばらくすると抵抗しても無駄とわかってか、だんだんと力が弱くなっていった。
私の中では、念願の彼を捕まえた達成感と、明日になれば、すべてが終わり。、彼とはもう二度と会えない気持ちで、頭の中がグルグル回りぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
翌朝、主様が来て言いました。
「やっと、捕まえたのか」
私は、ただただ、だまる事しかできなかった。
返事がないのが返事だとわかると、主様は、私から強引に彼を奪っていった。
私は、こうなることを初めからわかっていた。
彼を捕まえれば、もう2度と会えないことに……。
そして、また
『私は彼を待っている』
兎とトラバサミ 完
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生まれて初めて書いた短編です。タイトルは適当なので、タイトル詐欺なのは言うまでもないです。これだ!!ってタイトルが思い浮かばないです。