No.447094

【獣機特警K-9】K-9隊抹殺計画!?【戦闘】

haruba-ruさん

http://www.tinami.com/view/416803 】←こちらの続き。遅くなりまして申し訳ないのです。
犯人と思わしき科学者の研究所に急行したK-9隊、
しかし事態は思っていたようには進まないのだった……!!

お借りしていますありがとうございます!!

続きを表示

2012-07-06 06:23:28 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:832   閲覧ユーザー数:793

 

K-9メンバーを乗せたナインキャリアーがサージュ・ヴォロンテの研究所に到着、

キャリアーから降りたエルザ隊長にはアレクセイ、イシスの2人が随伴した。

残るメンバー、フィーア、ウー、シス、グーテ、リク、クオンの6人は、

ナインキャリアーで一時待機となった。

あまり大人数で行動すると目立つ上に、忘れてはならない理由もあった。

「サージュ・ヴォロンテが事件と無関係という可能性もあるからな、指示があるまで他のみんなは待機していてくれ」

「「了解!!」」

プシュと軽い音を立ててキャリアーのドアが閉まる、

三人の後ろ姿を見送ったあと、他の6人のメンバーが車内に残った……

 

指示さえあればいつでも動けるようにバックアップ体制を整えておく、といえば

かなり固い印象をうけるが……ガチガチに緊張していてはもちろん話しにならない。

こういった時に適度にリラックスすることも重要なのだ。

……というわけで、6人は飲み物片手に他愛の無い雑談に興じていた。

「イシスさんは、アランさんと上手く行っているんでしょうか?」

「大丈夫じゃないかな?一緒に花火大会見に行ってたみたいだし、次の日機嫌良さそうだったから、アレはきっと良いことあったって事でしょ」

「あの日はイシスだけじゃなくて、リクもずっと顔緩みっぱなしだったよ。幸せいっぱいいいっぱいね」

「(///////)グーテお兄ちゃん、あんまり言わないで……」

「ははは、リア充爆発しろwww」

「……(クスッ)」

 

しばらく話は続いていたが……そのうち皆が違和感を覚えることになる。

エルザ隊長たちの帰りが遅すぎるのだ。

簡単な聴取ならばすでに片がついていてもおかしくない程度の時間はすでに経過している。

だが隊長たちが帰還しないばかりか、連絡すらない。

「何か有ったんでしょうか?エルザ隊長に連絡を取ってみますね」

不審に思ったフィーアが通信用のコンソールに手をかけたその時……

 

突如ナインキャリアーに衝撃が走り、鈍い音と共にキャリアー全体が揺れた!!

 

 

「……敵意……キャリアーに奇襲をかけてきたようだ……」

「攻撃されてるの!?」

シスが感じた思念は、明確にこちらを傷つけようする強く暗い想いだった。

キャリアーの外周を囲むように1、2、3、4人の個別の意思を感じる。

今の状況から考えるとこの4人とは……

「……おそらくトリッカーズのコピーロボット……」

「ビンゴってことか!!あっちの方からわざわざ出てきてくれるなんてな!!みんな行くぜ!!」

ウーの気合の入った一声と共に、

車内に居たメンバーは弾き出されるようにキャリアーから飛び出した!!

そして外には予想通り……

トリッカーズのコピーたちが不敵な笑みを浮かべて彼らを待ち構えていた。

本物と同じようにリーダー格であろうコピーディアがK-9の前に進み出る。

「この前はよくもやってくれたな?借りを返しにきてやったよ、たっぷりと利子つけてやるから覚悟しな!!」

前回もう少しのところで捕まりそうになった事を言っているのだろうか、

相変わらずのその態度にクオンは苦笑した。

「やっぱり、そっくりなのに性格は全然違うね」

「確かに本物のディアだったら絶対言わないだろうし、分かりやすいですよね」

リクも同意の意を示すが、その言葉にコピートリッカーズたちは過剰なまでに反応した。

「ウゼェ、本物とか偽者とかどいつもこいつも……私は“ディア”だ!!他の誰でもねぇ!!」

「……不愉快、至極この上なく不愉快、発言の撤回を求める……」

「あなた頭が悪いのかしら、よっぽど私たちの事を怒らせたいのね」

「……手加減する気が失せた、五体満足で帰れると思うなよ……」

“ディア”が、“バニー”が、“ラピヌ”が、“ルプス”が……

これほどまでに怒りに漲っている姿を見るのは、さすがに皆始めてだった。

「もしかして、言ったらまずい事言っちゃった?」

「意外に気にしてたみたいね……完全にやぶ蛇よ」

「……敵意が大幅に増大している……」

意図しない所で話し合いすら出来なくなってしまったが、

元よりこうするつもりだったのだ、手間が省けたと言ってもいい。

クオンがスタンロッドを、フィーアがレーザー剣を、リクがサッカーボールを、

武器を必要としないウー、グーテ、シスの三人がそれぞれの独特の構えを取り、

K-9メンバーは即座に臨戦態勢を整えた。

相対するはコピートリッカーズ、強敵であろう事は想像に難くなかった。

6対4……かつて無いほどの大混戦が今、始まろうとしていた……!!

 

 

「こちらエルザ!!聞こえるか応答しろ!!ナインキャリアー応答しろ!!……クソッ、繋がらないか!!」

通信機はまるで反応せず乾いたノイズが鳴り響くだけだった。

エルザ隊長が歯噛みする前で、タイニーがさも愉快そうに笑っていた。

「無駄さぁ~、オレのジャミングは完璧だもんね、通信なんてさせるもんかよ」

「だったら早く解除してもらおうか、君の身体に風穴が開く前にね……!!」

アレクセイがライフルの銃口をタイニーに向けるがその笑みは崩れない。

「撃っていいのかい?無抵抗の相手を?天下のファンガルドポリス様が?それに……」

指差して部屋の奥に居るテラナーの男、サージュを見せ付ける。

猿ぐつわを噛まされて縛りつけられた男は芋虫のようになって床の上に転がっていた。

「コレくらいの距離ならアイツに当たっちゃうかもしれないな~、逮捕しなきゃいけない犯人殺しちゃマズイだろ?大丈夫さ、オマエら三人がここから動かなけりゃ、オレもやけになって暴れたりしないからさぁ」

「ック!!」

「卑怯な手を……!!」

聴取のために研究所に踏み込んだエルザ隊長たちを待ち受けていたのは、

容疑者サージュ・ヴォロンテだけではなかった。

以前、ロボット傷害事件を起こした指名手配犯タイニーもそこには居たのだった。

少しでも動けば容疑者を殺すと言われ、

外に残ったメンバーの窮地を知りながらも、三人は動くことすらままならなくなっていた。

「今頃コピーたちが外の犬どもを片付けてる頃かな~?」

「生憎だが、ウチの隊員たちはそうヤワじゃない、きっと君の期待通りにはいかないだろうさ」

タイニーの軽口を看過できず、エルザ隊長の口から鋭い言葉が飛ぶ。

一瞬顔をしかめたタイニーだったが、すぐにその表情を邪悪な笑みに戻した。

「ところがどっこい、期待通りに行くのさ……アンタがここに居るからな」

「なんだと?」

「オレはオマエらK-9が嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いだから、オマエらの弱点を調べたのさ。それがアンタ、エルザ・アインリヒトってわけだ……アンタは正真正銘K-9の頭で、アンタが指示を出さなけりゃ本当の意味でK-9は機能しない。どれだけ個々の実力があろうが烏合の衆ってわけだ」

「なるほどな、だから私たちを足止めして、通信まで使えないようにしたというわけか」

エルザ隊長の中で目の前のロボットの意図が腑に落ちる。

味方を人質にするなど追い詰められてやけになったのかとも思ったが……

どうやら計画的な上、動機ももっと根が深いところにあるようだった。

「そうさ、最近オマエらK-9がゴクセイカイやらローゼン海賊団を出し抜いたのをオレは認めてるんだぜぇ?だから全力で潰してやるよぉ、オレがやりたいのはさ、金塊強盗やら金儲けじゃないんだよ……」

 

「……純然たる、K-9潰しだからなぁ!!」

 

 

 

「シュート!!」

「返すぜ!!」

「……危険……!?」

リクの放ったシュートを“ディア”が蹴り返し、はじき飛ばされたボールがシスを狙う。

当然の如く敵味方の区別などしないボールをシスは寸での所でかわした。

「痛っ!!ウーさんゴメン!!」

「……気にするなよ、それより後ろだ!!」

「余所見しているヒマがあるのかしら?」

乱戦の中、背中がぶつかってしまったクオンとウーに“ラピヌ”が強襲をかける。

体勢の崩れた状態でまともに避けることも出来ず、さらにクオンとウーの脚が絡まる。

「……いつまでも隠れていられると思うなよ……!!」

「だからって防御しないバカはいないのね!!」

「……背後ががら空き……」

「邪魔はさせません!!」

力と防御で拮抗する“ルプス”とグーテ、

両者が真っ向からぶつかりあっていれば、周囲に対する警戒がおろそかになる。

隙を突いてグーテの背後に攻撃しようとした“バニー”をフィーアが食い止めた。

しかし、近くに居る味方を巻き込む事を恐れた攻撃はどうしても浅くなってしまう。

 

K-9隊VSコピートリッカーズ。戦いは混迷を極めていた、

敵味方が入り混じり、誰もが周囲を気にして決定打が打てず……

蓄積していく疲労と焦りのせいでさらに戦況は泥沼化していた。

(こんな時にエルザ隊長がいれば……!!)

クオンの脳裏にそんな言葉が過ぎる。

シャークロイド相手の乱戦とはまた勝手が違うのだ。

数が多いのなら、確実に一体一体捌いていけばだんだんと有利になるものだが、

コピートリッカーズはそれを許してくれない。

各個人が力を集中する前にバラバラに分断されてしまう。

こうなると自分たちもフォーメーションが整えられず、いつものように力が発揮できない。

せめて隊長の指揮があればと思うが、通信は未だ途絶えたままだ。

終わりの無い乱戦に、皆の表情にも疲労の色が濃い。

このままだとコピーたちを捕まえるまで持たないかもしれない……

 

K-9にとってそれは事実上の敗北に等しかった。

 

 

「あんまりいい状況ではないみたいね」

「だね、K-9の皆も偽者と遊ぶので忙しいみたいだし」

屋根の上から高みの見物と洒落込む、ディアとバニー……ちなみに本物の方である。

自分たちそっくりな4人組とK-9のメンバーが争っているのを見れば、

“自分たちって普段こんな風に見られているのかしら?”と、

意味も他愛も無い考えがディアの脳裏に浮かんで来た。

そして背後に近づく足音にふと気がつけば、

そこにはラピヌとルプス(こちらももちろん本物)の馴染みの二人が憤慨しながらそこにいた。

「あの偽者どもめ、絶対に許さねぇぞ……アレじゃオレとラピヌが仲悪いって勘違いされちまうじゃないか!!」

「落ち着いてルプス君!!そんな事お月様が落っこちてもありえないでしょ?誤解なんてすぐに解けるんだから、これまで以上に私たちのラヴラヴっぷりを見せつけてあげれば良いのよ!!」

「……ラピヌ」

「……ルプス君」

ハグッ!!キュウキュウ、イチャイチャ……イチャコラサッサ……チュ!!

(相変わらずこの二人は……!!)

「ディアお姉ちゃん、なんでバニーに目隠しするの?前が見えないよ~?」

刺激が強いからだ、なんて口が裂けてもいえない。

好い加減にしないとこのバカップルはいつまでたっても止まらないのだろうから、

ディアは沸きあがらんばかりの怒りを押し殺しながら、二人に声を掛ける。

「ラピヌ、ルプス……それでK-9の隊長さんの方はどうなってたの?」

カップルはたった今気づいたかのようにディアの方へと顔を向ける。

本当に、本ッ当に名残惜しそうに互いを抱き締めていた両手を離し、

ゆっくりと(ほんのわずかだけ)お互いから距離を取った。

「エルザ隊長さんたちは、見たことも無いネコ型ロボットに足止めされてたの。ちょっと複雑なんだけど、ソイツが犯人を人質にしてるから動けないみたいね」

「外のメンバーと連絡が取りたいのに、通信が邪魔されてるんだってよ」

二人からの報告で、ディアの頭の中に事件の全体像が見えてきた。

すぐに事件の最適解を解き明かし、その頭脳が行なうべき手段を割り出した。

 

「偽者にオシオキするのはちょっと後になりそうね、まずはこの事件を終わらせちゃいましょ?」

 

 

コピーディアは苛立っていた。

理知的で思慮深いオリジナルのディアと違い、

その反対の性格である彼女は常に感情的で、昂ぶりやすい性格だったのだが。

それを差し引いても今の“ディア”の苛立ち具合は尋常では無かった。

「バカにしやがって!!オマエら皆、消えッちまえ!!」

飛ぶような跳躍を可能とする強靭な脚、勢いよく振り下ろせばそれは容易く凶器に変わる。

青いアーマーのロボットに向けて渾身のかかとを振り切る!!

「……まだ、これくらいなら!!」

肩アーマーを強打した一撃にも怯まず、それでもなおこちらに向かってくる真っ直ぐな瞳。

曇りの無い瞳はまだ相手が諦めていない事の証拠だった。

こっちは逃げの一手をもう考え始めているというのに……

 

そう、逃げてしまえば良いのだ。

慣れない格闘戦は分が悪い、この身体の元になったトリッカーズのディアだって、

正面切って戦うようなマネはしないだろう。

ディアの軽快な身体能力は逃走向きで、格闘に向いているとは言いがたい。

力自慢のルプスならともかく、バニーやラピヌだってそれは同じなのだ。

頭じゃ分かっている、分かってはいるのだが……

ディアではない“ディア”は感情でそれを強く否定した。

 

(私は、私だ!!だから私のやりたいようにやってやるんだ!!)

 

無謀に逃げの一手を捨てて、さらに追撃をかけようとするが……

 

蹴り上げたその脚を、真正面から受けとめたものがあった。

気づいた瞬間に“ディア”の身体をはじけたスパーク!!

……クオンの叩き付けたスタンロッドが、ついに彼女を捉えたのだった。

限界状況下で諦めなかったクオンの、渾心の一撃だった。

「クッ……テメェ……」

「やられっぱなしは性に合わないんだよね!!これで、おしまいだっ!!」

 

“ディア”を打ち据えたロッドは空を切り瞬時に反転、

あえて剣技にて例えるならば、クオンのその動きはまさしく“燕返し”!!

かわそうとしたところで、その一挙二斬から逃げおおせるすべなど無く、

返す一撃はさらなる衝撃をもって“ディア”に襲い掛かった!!

 

「ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

断末魔の叫び声と共にコピーディアの身体が崩れ落ちる。

その手に二度目の手錠を掛けながら、クオンは……

……自らの決意を、そっと口にしていた。

「……守りたいものがあるから。だから君が誰だろうと、ボクは負けないよ」

 

 

「君たちのリーダーは逮捕した!!これ以上の抵抗は止めて、大人しく投降しろ!!」

クオンの勇ましい声が響き渡る。

ぐったりと動かないコピーディアを抱えたまま、自身もキズだらけで立っていた。

それでも足取りに危なげは無く、その表情には消えることない隠された闘志が燃えていた。

「クーちゃん、やりましたね……」

「へへっ、見せ場を持っていかれちまったな」

「……感嘆」

「さすがはクオンなのね!!」

「クオンお姉ちゃん、凄い……!!」

惜しむことなくエールを送るK-9隊の面々の目にも、一筋の光明が宿り始めていた。

もう終わりが見えない戦いではない……

クオンの切り開いた一つの希望が、沈みかけた皆の心を照らし出していたのだった。

 

「……終幕……」

「勝てる気がしないわね、これじゃ……」

「……口惜しいが、そうするしかないか……」

さすがに分が悪いと悟ったのか、残るコピートリッカーズも次々と投降してゆく。

事件の終わりとしてはいともあっさりと、その逮捕は成ったのであった。

その潔さは何かの罠ではないかとも思われたが……

全員に手錠を掛け、護送車代わりにナインキャリアーの中に収容して行くさなかで、

その理由はなんとなく分かった。

「この子は、生きているのよね?すぐに目を覚ますのかしら……?」

コピーラピヌの消え入るほどにか細い声がクオンの耳に届く。

「心配してるの?大丈夫だって、ちょっとしびれたくらいだから命に別状はないよ」

「……そう」

コピーラピヌだけではなく、残るコピートリッカーズたちも、

意識を失ったコピーディアの方を食い入るように見つめているのだ。

おそらく純粋に彼女の身を案じての行動だろう。

案外、彼らもトリッカーズと似ているところもあるみたいだ。

 

彼らを収容し終えたちょうどその時、

キャリアーのコンソールから耳慣れた通信音が鳴り響いたのだった。

“「……こちらエルザ!!聞こえるか応答しろ!!ナインキャリアー応答しろ!!」”

フィーアがコンソールの通信スイッチをONすると、

キャリアー内にその声が響き始めた……

 

 

“「ハイ、こちらナインキャリアーです」”

「よし、ようやく繋がったな。敵の襲撃があったと聞いている、全員無事か?」

“「ハイ、ただいまコピートリッカーズの4名を逮捕しました。私たちにも大きな負傷者は出ていません」”

「そうか、皆よくやってくれた」

その言葉にエルザ隊長は安堵に胸をなでおろす。

信じていた通り、自分の部下達は上手くやってくれていたようだ。

「だそうよ、これで残っているのは貴方一人ね」

「すぐに残ったK-9隊の奴らも来るんじゃねぇか?これでお前もオシマイだな」

「クソッ、コピーの奴ら思ってたほど使えねぇな……!!」

タイニーの周囲を取り囲んでいたのは本物のトリッカーズたち。

突如現われて、彼らがジャミング装置を解除したおかげでこうやって通信も回復していた。

今回もトリッカーズに助けられたのだと思うと胸中は複雑だが。

 

じりじりと犯人を追い詰めていくK-9隊とトリッカーズたち。

だが、コピートリッカーズと違ってこちらの犯人は潔さなど持ち合わせていなかった。

「……こうなったら、出て来いゴライアス!!」

 

ドゴーン!!

ギュィィィィィィイイ!!

部屋の壁を壊して現われたのは一体のライドアーマーだった。

ベティ・ゴライアス、ベティ社製のスポーツ用アームローダーだ。

限界を超えて酷使されている事を如実に現しているモーターの異音、完全に暴走していた。

「へへッ、サージュの野郎が作業用にもってた奴だぜ、暴走させるニャもってこいだな。コイツはもうすぐ暴走の負荷に耐えられなくなって大爆発するぜ、テメェらを道連れにな!!……オレはこれでオサラバさ!!アバヨ!!」

「クソッ!!待て!!」

エルザ隊長の制止の声をタイニーが聞くわけも無く、

言いたい事だけ言うとヤツは一目散に逃げ出した、煙幕まで焚いていく徹底ぶりだった。

だんだんと晴れていく煙の中、バニーの甲高い声が響く。

「ディアお姉ちゃん!!本当にマシンが爆発しそうだよ!!」

「仕方ないわね、トリッカーズ全員撤収よ!!……K-9の皆さんも逃げるのならお早めにね!!」

トリッカーズの面々も同じように煙の中へと姿を消していった。

そして爆破崩壊はすでに秒読みなのだろう、

暴れるベティ・ゴライアスの動きがだんだんと鈍くなっていた。

「隊長!!容疑者の救出も完了しています、早くこちらに!!」

縛り上げられた容疑者、サージュを抱えたイシスの声が聞こえる。

さすがにこれ以上止まれば自分達も危ない。

「エルザ隊長、もう時間がありませんって!!」

「分かっている!!……K-9隊全隊員に告ぐ、至急研究所から脱出するんだ!!」

通信機を通して外のメンバーにも危険を知らせると、自らも勢い良く駆け出した。

三人が間一髪、研究所から脱出すると同時に大きな爆発が起こる……

しかし、研究所を破壊するには不十分な爆発であったため、

連絡を受けて到着した消防隊によって、すぐに消火作業が開始されたのであった。

 

 

火災は程なくして鎮火された。

現場を消防隊に任せ、

ナインキャリアーで犯人達をラミナ署まで護送することになったK-9隊だったが……

「……違うんだ“私”はサージュ・ヴォロンテではない、彼のコピーなんだ」

逮捕したサージュは、なんと偽者だった。

コピートリッカーズと同じく、形はそっくりで性格がまるでちがう同種のコピーロボット。

K-9メンバーは知っていなかったが、本物のサージュは自分の事を“ボク”といい、

自己顕示欲の強い性格していて、目の前のコピーとは正反対の性格なのだから。

「なら、本物のサージュはどこにいるんだ!!」

「本物は私を囮にしてどこかに逃げ延びるつもりだったようだが……あぁ、恐ろしい」

コピーサージュは明らかに恐怖していた、何かに怯え、体を抱えて震えていたのだった。

 

「私はあの悪魔達の真意を知ってしまった……私のオリジナルはもう……」

 

 

「オ~イ、居るか~?」

「ふふふ、待っていたよ」

タイニーのとぼけた声が暗がりに響く。

燃え墜ちた研究所からそれほど離れていない場所、

古ぼけたプレハブの小屋にサージュは逃げ込み、息を潜めていたのだった。

「さて、案内してくれたまえ、ドローア研究室へ。ボクの天才的な頭脳を必要としている所にね」

尊大な口調でサージュが言い切る。そう、そういう約束だったのだ。

学会を追放されたサージュは、発明品の技術を提供し、見返りとしてドローア研究室に迎えられる。自由に研究が出来れば場所はどこでも構わなかった。

タイニーはその案内人、というわけだ。

だが、当のタイニーはきょとんとした顔をしていた。

……コイツは何を言っているんだ。その表情はそう語っていた。

「……なんだ、まだ気づいてなかったのかよ」

「何だと……グッ!?」

サージュの身体に突然激痛が奔った。

それもそのはず、彼の腕が中途からばっさりと斬り落とされた。

やったのはもちろん、目の前に居たタイニー。

そして、苦悶にうめくサージュを見ながら、カラカラと笑うのだった。

「いいぜぇ、その表情が良い、なかなか見せてくれるじゃん」

「アアア、手が、ボクの、手がぁあああああああ!!」

腕に気をとられて、もうこちらを見てもいないようだったが、

それでもサージュに聞かせるかのようにタイニーは話し始めた。

「オマエの研究資料はさぁ、コルヴォーに頼んで全部ドローアのじっちゃんの所に送ってあるんだ。本当に気づいてなかったのか?じっちゃんも喜んでたぜ、良い研究材料が手に入ったってさぁ。オマエのわけわかんない発明もじっちゃんなら上手く使ってくれるだろうさ」

含んだ笑いを見せながら、もう一振り爪を振り下ろす。

「オマエは用済みなんだよ」

警察の犬に嗅ぎ付けられた時点でこれは決定していたことだ。

サージュくらいのレベルならいくらでも居る。切り捨てた所で痛くもかゆくもない。

完全に動かなくなった科学者の死体に、見向きもせずにタイニーは小屋を出て行った。

 

「あぁ、疲れた。何か食べて~、肉まんとか~」

殺人現場を見た後なのに、平気で肉を食いたいとか言い出す図太い猫ロボット。

食べたいと考えると、ふと良い考えが思いついた。

「きつね中華まんの露店、あったよな近くに……」

ファンガルドで今大人気のきつね型まんじゅうの事を思い出す。

食べてみるまで中身が分からないのが難点なのだが、

みんなで食べるとそれも楽しかったりする、なかなか憎めないまんじゅうだ。

「オレとじっちゃんの分と、コルヴォーは……アイツいくつ食うかなぁ?」

色んな意味で、マイペース。

何があろうと、悪党は基本的に自分勝手だった。

 

 

「結局、真犯人は殺されてたワケか。後味悪いなぁ」

ため息混じりのクオンの声が車内に響く。

K-9隊はラミナ署に帰還するため、ナインキャリアーでの移動中だった。

あの後、容疑者の死体はすぐに発見され、今回の事件はこれで決着ということになった。

幸いにしてコピーサージュの証言のおかげで事件の顛末もはっきりしているし、

コピートリッカーズだって全員逮捕できた。

結果は良いくらいなのに、どうしても気持ちにカゲりが射していた。

 

沈むクオンを見ながら、エルザ隊長はやれやれ、とでも言いたげに笑っていた。

「まったく、今回のヒーローがそんな顔をするものじゃないぞ」

「エッ!?」

驚いて反射的に顔を上げたクオン、

そして彼女を囲むK-9隊のメンバーの視線が一斉に降り注いだ。

「隊長の言うとおりだぜ、クオンが“ディア”を逮捕したからなんとかなったんだしな!!」

「…同意…」

「クオンは本当に頼りになりますね」

「いや、ボクは、いや、その、みんなありがとう……」

メンバーからの励ましの言葉になぜか妙に照れてしまうクオン。

クオンがやった事は、ただがむしゃらに頑張っただけだけだ。

褒められるような事じゃないと思っていたのだけれど。

なんだか、こういうのも悪くないなぁ、と素直にそう思えた。

 

九段下 九音……K-9隊を象徴するラストナンバー9(ナイン)を持つ少女。

彼女が本当の意味で輝き始めるのは、あともう少しだけ先のこと。

 

 

場所は変わって、トリッカーズたちも目的を果たし帰路につくところだった。

走り去るナインキャリアーを見つめながら、ディアは思案に暮れる。

逮捕された自分たちのコピーロボットたちの事を……。

「これで、トリッカーズの名誉挽回も成ったかしらね?」

「おうさ、これでラピヌと心置きなくラブラブできるぜ!!」

「もう、そんなルプスったら。そんな貴方が大好き!!」

「あんまり変わってないね!!」

本当に変わらない騒がしい私の仲間達。

有名になってきた弊害がまさかこんな形で出てくるとは思わなかったけれど。

これも何とか片付ける事はできた。

唯一心残りなのはコピーたちに自分たちでお灸をすえられなかったことか。

バニーも同じ事を考えていたのか、すぐに同調してくれた。

「あんまりオシオキできなかったね」

「そうね、でも意外と機会はすぐ巡ってくるかもしれないわよ?」

「どういうこと、ディア姉ちゃん?」

可愛らしく小首をかしげる妹分を見つめて、ディアはその答えを示した。

「器物破損に傷害未遂、それと公務執行妨害、それくらいなのよコピーたちの罪状って。しかも生まれたてで右も左も分からない、マスターの命令に従ってただけのロボットたち……減刑されるのは目に見えているわ。数年もしたら余裕で刑務所からでてくるんじゃないかしら?」

「えぇ~!?」

「オシオキはその時にでも遅くないでしょう?」

その時にまだコピーたちがトリッカーズを名乗ってくるようならね。

そう付け加えて、ディアはふわりと飛び上がった。

 

怪盗の活躍にはちょっと不似合いな夕日に向かって飛ぶ。

トリッカーズが心行くまで跋扈する夜も、あと少しだけ先のことだった。

 


 
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