No.446868

戦う技術屋さん 三件目 スフィア攻略戦

gomadareさん

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タグ登録いらないんじゃないかと思い始めてます。

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2012-07-05 23:10:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2267   閲覧ユーザー数:2170

大型スフィアは相変わらずカズヤを狙っていた。いつカズヤがアクションを起こしても直ぐに対処できるように砲身を向け、試験場に迷い込んだ三人目を倒さんが為に。

しかし、その最中、スフィアのセンサーが新しい陰を捉えた。探ってみれば、それは現在試験を受けている受験生である。

迷い込んだ三人目か受験生か。本来Bランク昇格試験の障害として存在しているスフィアは迷うことなく受験生を選択。砲身からの光弾は、簡易的な誘導をしながら、道を走るティアナへ迫る。

その攻撃をティアナは避けようとせず真っ直ぐ突っ込み、着弾。その様子をサーチャー越しに見ていた者達の顔が驚きに染まる中、爆煙の向こうからティアナが現れた。しかし現れたのはティアナだけではない。

彼女を守るように周囲を停滞している直径十センチ程のプレートが五枚あった。

 

(って、防御力は大したもんだけどさっ!)

 

囮になるにあたり、カズヤから預けられた自立行動式の円盤型防御用デバイス、D-03β。カズヤと同じ現場で、このデバイスの防御力には何度も助けられてきたティアナであるから、防御力を疑っていたわけではないが。

 

『ちょっとカズヤ。これ、めっちゃ魔力使うんだけど!』

『フェイクシルエットよりましじゃない?』

『どっこいどっこい!寧ろ、慣れていない分、こっちの方が辛いわ』

『そりゃすまん』

 

念話で謝るカズヤであったが、その口調に罪悪感のような物は感じられず、ティアナは『ああ、もう!』と怒りの声を上げた。

その直後に二発目、三発目と光弾が迫り、D-03βはオートガードを発動。自立行動し、ティアナの前方に壁を作ると、シールドを発動する。そこに着弾し、魔力が削られるのを感じながら、『ああ、もう!』とティアナは念話で怒鳴った。

 

『カズヤ!スバル!時間も無いんだし、一発で決めなかったら承知しないわよ!』

『ああ。任せろ』

『うん』

 

これ以上の魔力の消費を防ぐため、ティアナは一旦念話を切り、念話のチャンネルの中にはスバルとカズヤの二人だけになる。それぞれが待機場所で軽く息を整え、カズヤがスバルへ尋ねた。

 

『スバル。準備は?』

『何時でもいけるよ。カズヤは?』

『ちょい待ち』

 

答えながら、カズヤはA-20αと名付けたグローブとA-20βと名付けたカートリッジシステム付きの足甲を起動、装備し、具合を確かめてから、T-03をその手に持つ。

 

『いつでもいけるぞ。開始は任せる』

『うん。……ねぇ、カズヤ』

『なんだ?』

『発案者的に、成功確率ってどれくらい?』

『……さてな。だが、大丈夫だと思ってる』

 

 

 

* * *

 

 

 

発動したウイングロード。その末端でタイミングを計っているスバルは不安だった。

自分の突破力前提のカズヤの計画は、言い方を変えれば自分が失敗すれば、計画自体が破綻してしまう物。普段の彼らしくない、どこか大味で。なのに絶対の自信を持っているようにも感じた。

 

「……うん。怖い、かな」

 

もし失敗すれば。試験開始時以上の不安がスバルの心を犯していく。

陸士訓練校でルームメイトだった彼女は、自分をどう思うのだろう。

自分で組んで、ガタガタだったローラーを整えてくれた彼は、何と言うのだろう。

信頼しているはずなのに。……否、信頼しているからこそ。

失敗した時の、最悪のイメージが脳裏を離れない。

 

『ちょっとカズヤ。これ、めっちゃ魔力使うんだけど!』

『フェイクシルエットよりましじゃない?』

『どっこいどっこい!寧ろ、慣れていない分、こっちの方が辛いわ』

『そりゃすまん』

 

既にセットを終え、計画の第一段階を始めている相棒たちは、緊張などしていないかの如く、いつものノリでやり取りをしていた。その様子を念話で聞いていると、スバルの気持ちは更に沈む。

陸士訓練校の入学試験ですら、此処まで不安にはならなかったのにと、そう思う。

 

『ああ、もう!カズヤ!スバル!時間も無いんだし、一発で決めなかったら承知しないわよ!』

『ああ。任せろ』

『うん』

 

条件反射の様に、相棒の言葉に肯定を返すと、魔力消費を抑える為か、ティアナが念話のチャンネルから居なくなった。

残ったカズヤから準備が出来たのか聞かれ、それにも肯定で返し、しかし聞き返したスバルの言葉に、カズヤは若干の間を開けた。

その僅かな間がスバルを幾分冷静にし、カズヤが言葉を返した時、スバルはカズヤに尋ねていた。

 

『発案者的に、成功確率ってどれくらい?』

『……さてな。だが、大丈夫だと思ってる』

 

おおよそ、彼らしくない言葉であった。

いつも自信があるように見せかけながらも、大丈夫という言葉は使わず、スバルやティアナが明らかに完璧だと思う仕事をしても、仕事の出来は九割だという。

まるで絶対に似た言葉を嫌っているかのごとく、その言葉を使わないのに、何故か今に限ってカズヤはその言葉を口にした。その言葉にスバルは反応して、だからこそ再び尋ねた。

 

『どうして?』

『どうしてって、お前。そりゃ――』

 

お互いにセットしている場所の関係上、相手の顔は見えない。

にも拘らず、

 

『俺達三人で、やれなかった事なんて無いだろ?』

 

スバルの目にはカズヤが、満面の笑みのカズヤが見えた気がした。

 

『陸士訓練校卒業式の時も。どんなに絶望的な災害現場でも。俺達三人で出来なかった事なんて無い』

『うん……』

 

膝が曲がり、

 

『だからさ。絶対とか、それに類似した言葉が嫌いな俺でも』

『うん』

 

ウイングロードに手を付いた。

 

『俺達三人なら、きっと大丈夫ってそう言えるんだ』

『うん!』

 

曲げていた膝を伸ばし、クラウチングスタートの姿勢に。ローラーが猛回転する中で

 

『だからスバル!』

 

溜めて――

 

『全力で決めろ!!』

「オオッ!!」

 

スバルは叫ぶ。失敗する不安など気がつけば無くなった。

前を、目的地を見据えるスバルの瞳に既に迷いはない。ウイングロードを蹴り、ローラーの回転のまま、全速力での前進。行きつく先にはビルの壁。

 

「はぁああああ!!!」

 

気合一閃。振りかぶった右手で、その壁を打ち砕いて。

その向こう側、此方へ砲身を向け直した大型スフィアへ、スバルはそのまま突撃する。

ロードするカートリッジはまず一発。放たれた光弾をいくらか身を反らせるだけ回避しながら、咆哮と共に己の拳を。ローラーの推進力、腰の回転、魔力運用。様々な要素が折り重なった自身の最高の一撃を、スフィアめがけて振るう。だが、一歩遅く、最後の障害たるスフィアを守るプロテクションが発動。拳は新たな壁へと叩き付けられる。

しかし其処からが勝負。

 

「はぁああああ……」

 

ローラーを稼働限界ギリギリで運用しながら、魔力運用による結界破壊もいくらか使いつつ、基本的には力づくで。新たな壁を破らんと、スバルは更なる力を込める。

カートリッジを更に二発。増加した魔力はそのまま推進力と突破力へ。

とうとう稼働限界を超えたローラーがギュルギュルと悲鳴を上げる中、少しでも先に進もうと拳を開いて、指をプロテクションへと突き立てる。

ローラーの悲鳴をBGMに。スバルの指は、徐々にプロテクションへと刺さり、やがてプロテクションを突破した。

 

「でぇええりゃぁああああああああ!!!!!」

 

其処からは早い。スバルはそのまま突き抜けた指を握るように閉じ、拳を引く。

その一撃で最後の障害の一部分を破壊。固かったプロテクションは、嘘のように其処を起点に瓦解する。しかし、それは同時に大型スフィアからスバルを守る壁が無くなったことも示していた。

慌ててその場を退き、更にバク転をして大型スフィアの光弾を回避しながら、距離を置くスバル。

足元に自信の魔力光と同じ色を持ったベルカ式の魔法陣を展開させ、新たにカートリッジをロードする。

其処から、自らの誇る必倒の一撃を放とうとするも、それより早くスフィアが光弾を放とうとし――。

 

更にそれよりも早くカズヤがスバルと同じ階に、窓を破りながら飛び込んできた。

スバルから自身へと狙いを変えた砲身を打ち砕き、自身は窓から外へ飛び出していく。

 

「決めろスバル!」

「一撃、必倒おおおお!!!」

 

カズヤの声を聞きながら、スバルはその言葉へ声ではなく、行動で答える。

射出前の弓矢の如く、狙いを定めるために伸ばされた左手に、引き絞られた右手。リボルバーナックルではなく、ローラーのサポートの元。そこから放たれるは、弓矢とはかけ離れた一撃。エースオブエースと使う物と同名の、まさしく砲撃と呼べる物。

 

「ディバイィイイイン!バスタァアアアアアア!!!!」

 

腕をつきだす。魔力の奔流が射線上を包み込む。自動稼働出来ない大型スフィアが逃げられる筈が無く、自身を守る壁すらも失っていた最後の砦は、跡形もなく破壊された。

 

「ハァ、ハァ!」

 

息も絶え絶えになりながら、スバルは床を蹴る。ローラーを回し、スバルはそのまま窓から外へと飛び出した。

 

 

 

* * *

 

 

 

「だあああ!アホスバル!ちゃんと合図しやがれ!」

 

とスバルへ悪態をつくカズヤの現在地は、大型スフィアの設置されているビルの屋上。

A-02αとβを装備したカズヤはT-03のアンカーを自らが立つ屋上へ向けて放つと、ロープの下降訓練の要領でビルの壁を下って行く。

本来なら下を確認しながら、ゆっくりと確実に降りて行くのだが、慣れている事と時間が無いからか、たいして下を確認すること無く滑るように降り、スフィアのいる階の直前で壁を蹴ると、此処でも振り子の要領で勢いをつけながら、窓を蹴破りその階へと飛び込む。

足の痛みに耐えながら、受け身をとり、顔を上げた先には大型スフィアがスバルからカズヤへ砲身を向けたところだった。

それでいい、と心中でほくそ笑みながら、カズヤは立ち上がりつつカートリッジを一発ロード。そのまま床を蹴って跳び、大型スフィアの光弾を回避しつつ、空中からスフィアを強襲する。

 

「あっぶねぇだろうが!」

 

怒鳴りながら、前宙を挟み、大型スフィアへ踵を叩き付ける。その一撃で内部から飛び出していた砲身が砕かれ、スフィアは攻撃手段を失った。そこから、カズヤは大型スフィアの体を蹴って身を翻し、同時にM-10を起動。其処に着地すると、窓の外へ向かう。

その去り際、

 

「決めろスバル!」

 

と激励を飛ばせば、返事をするようにスバルが一撃必倒!と叫び、急いでカズヤは窓から飛び出してその射線上から離脱した。その直後、

 

「ディバイィイイイン!バスタァアアアアアア!!!」

「どわっ」

 

光の奔流が窓から飛び出してきた。

 

「おお……」

 

カズヤがローラーを監修するようになってから、カズヤはスバルに頼まれ、ベルカ式なら本来使わないであろう魔力砲撃のサポート用ギミックを様々な形でローラーに組み込んでいた。今回は前回のギミックを少し弄っただけなのだが、充分過ぎる威力をカズヤへ見せつけ、製作者本人の予想を超える結果となった。

 

「す、すげぇな。スバルの奴」

 

幾らデバイスにサポートの為のギミックを入れたとしても、彼処までの大威力を叩き出したのは既存の魔力量に操作能力の高さなど、スバル自身のポテンシャルによるもの。

 

「流石だよ、全く」

 

苦笑気味につぶやきながら、カズヤは何度目かになるアンカーを発射。その直後に飛び出してきたスバルが、そのアンカーに掴まる。

 

「行くぞスバル!」

「うん!」

 


 
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