茶々丸さんに背負われて保健室まで来た私は、茶々丸さんに手当てをしてもらっていた。
「っ!」
「すみません。痛かったでしょうか?」
「いえ、平気です。気にしないでください」
「はい」
「………」
か…会話が続かない…
別によくしゃべる方ではない私でも、この間は辛いものがある。なんとかこの空気に耐えていると、茶々丸さんが手を止めた。足を見ると包帯が巻き終わっていて、治療が終わったらしい。
「終わりました。軽い捻挫でしたので、しばらく動かさなければ明日には完治するでしょう」
「ありがとうございます。結構慣れた手つきでしたが、いつもはエヴァンジェリンさんに?」
「いえ、マスターはあまり怪我をなさらないので…これは猫たちが怪我をしたのを治療していたら、最初の頃よりは早くなりました」
ん?猫?ペットか何かを飼ってっているのか?
「猫…ですか?」
「はい。教会裏に猫たちの溜り場がありまして、よく餌をやりに行っているのですが、偶に怪我をしている猫がいたりするので、治療するために学習しました。人にするのは初めてですが」
「へぇ~そうなんですか」
これは驚いた。いつもは原稿用紙一行にも満たない会話しかしないのに、猫の話になるとこんなに饒舌になるなんて。いつもは同じクラスでもあまり会話しないが、実際にこうやって会話すると意外に表情豊かなんだなと思う。それに、
「なんだか嬉しそうに話しますね」
「嬉しい、ですか?」
「ええ。猫の話をしている茶々丸さん、とても嬉しそうに話してましたよ」
「そう…ですか……」
そう言って茶々丸さんは顔を伏せて考え込んでしまった。何かまずいことを言ってしまったのだろうか!?と、とにかく気に障ったのなら謝らないと。
「えと、気に障ったのなら謝ります!」
「あ、いえ違います。私は『嬉しい』というのがわかりませんでした」
「『嬉しい』が…わからない?」
「はい。でもこれが『嬉しい』と言う事なのですね。刹那さん、ありがとうございます」
そう言って茶々丸さんはお辞儀をしてきた。
「いえ、そ、そんな大したことなんてしてませんよ!頭を上げてください」
「ですが『嬉しい』という気持ちを理解できたのは刹那さんのおかげです。ですからどういう形でもお礼をいなければ……」
「そうですか…なら…」
この時の私はどうかしていたのかもしれない。このちゃ…木乃香お嬢様を影ながらお守りするのが使命なのに…なのに……
「…今度、その猫の溜り場に案内してくれませんか?」
茶々丸さんをもっと知りたいなんて思ってしまったのは…
その後連絡を受けたのかルームメイト兼相棒の龍宮が来て、私を背負い3人で保健室を出た。そして昇降口で話が終わったのかアレンさんとエヴァンジェリンさんと合流し、私と龍宮は寮へ、エヴァンジェリンさん茶々丸さんアレンさんは2人の自宅へ向かった。
「なるほど、そんな事があったのか」
「あぁ…」
寮へ向かう途中龍宮に今夜の事ー茶々丸さんとのやり取りは抜きにーを話した
「そう言えば彼は私の名前に反応していたな」
「そう言えば確かに。知り合いに同じ名前の人が居るんじゃないか?」
「正確には『居た』が正しいかもな」
「ん?どう言う意味だ?」
過去形だなんて、それじゃ『マナ』って人はまるで………
「瞳の中に一瞬見えた悲しみ。恐らく『マナ』はこの世にはもういないだろうな」
「!?」
確かにそう考えるのが正しく思える。動揺の仕方からも大切な人だったのだろう。私に対しての木乃香お嬢様の様に…
(もし、このちゃんが…)
そこまで考えて、急に怖くなってしまい、真名に強く抱き付き顔を埋めてしまった。
「ん?どうしたんだ?」
「…しばらくこのままでいいか?」
「…寮に着くまでだぞ」
アレンさん、茶々丸さん、龍宮と、今夜だけで3人にも背負われている私。本当に情けないと思う自分と、こういうのも悪くないという自分がいる。
甘さは捨てたつもりではいたが、今はこの背中に乗っていたいと思った。
たまにはこういうのも悪くないな…
灰マギ劇場 第5夜 止めの刹那
カーン!
刹那「なぁ龍宮…」
龍宮「ん?なんだ?」
刹「…私って…影が薄いのだろうか……」
龍「……薄いだろうな」
刹「!?や、やっぱりそうなのか!?」
龍「そのまま悩んだら確実に薄くなるだろうな」
刹「な!髪の話じゃない!!!」
龍「いやいや、あながち間違いじゃないぞ?いつかどっかの誰かさんみたいに前頭部が後退していくぞ」
刹「私は剥げてな~い!」
カカーン!
???「ムニャムニャ…心外…です…ムニャムニャ」
ラビ「今の誰さ?」
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第六・七夜(裏) その後の刹那