No.446757

堕天使はがんばる 実戦は泥臭い

目覚めるとハイスクールD×Dの最初の敵レイナーレに憑依していた。将来たいした出世もできないうえ死亡フラグがあることに悲観せず、絶対に生きようと決意する。

2012-07-05 21:47:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2479   閲覧ユーザー数:2455

実戦は泥臭い

 

「よし、これより大規模転移を行う」

 

部隊全員で飛んで行くと思っていたら、どうやら違うようね。

視界が歪み、やたら十字架の多い野営地が眼下に見えた。

一瞬の浮遊感が終わり、私はどんどん地上に向かって落下していた。

 

(飛ぶ練習はまだしてなかったわ!?)

 

急いでアニメで飛んでいたレイナーレをイメージしながら、翼をはためかせた。

 

(セーフ、さすが私、やればできる子なのよ)

 

そのまま地上擦れ擦れを低空飛行しながら敵陣地に向かうことにした。

 

「ぎゃーーー!!!!」

 

悲鳴が聞こえたので上空を見ると、一人の天使と部隊が戦っていた。

 

「このカマエルのいる地に攻め込むとは、その命、最早無いと知れ!!」

 

(あら、いい男……じゃなくて、十四万四千もの能天使の指揮官とか一万二千もの『破壊の天使』を率いているとか言われてる天使がいるなんて聞いてないわよ!?)

 

どうやら三勢力の情報は問題無く知識から引き出せるようで、名前を聞けば誰なのかすぐに分かった。

カマエルは一人で部隊の堕天使全員といい勝負している。

 

(強!! よし、部隊には私が神器を得るまで精々囮になってもらうわ)

 

つくづく思考がレイナーレに引っ張られながら、天使の陣地にこっそりと潜入した。

 

天使の野営地では突然の堕天使の襲撃に浮き足立ていた。

 

「怪我人の搬送を急げ!!」

「カマエル様が御一人で時間を稼いでいただいている間に撤退を完遂させるんだ!」

「くそ、ドラゴン共に能天使様達がやられてなければ返り討ちできたのに」

 

右へ左へローブを被った聖職者や悪魔祓師達が走り回り、それを下級天使達が指揮していた。

 

(十四万四千の能天使は居ないようね。やっぱり天使も二天龍にもかなりやられたみたいね)

 

レイナーレは混乱していることを良いことに、一人で右往左往していたシスターを気絶させて服を奪って変装し、原作の天野夕麻の姿で陣地内のすみで辺りの様子を伺っていた。

能天使の大軍と戦わずにすんで一安心していると二人組みの悪魔祓師と聖職者が走ってきた。

 

「俺はこれから本部にこの事を連絡する」

「分かった。物資の処分は任せておけ。堕天使共に十字架一つでもくれてやるものか!」

 

(これ以上敵が増えるかもしれないのは困るわね)

 

ただ、撤退することを伝えるだけならいいが、徹底抗戦するために援軍を要請されたらたまらない。

二人が別れるのを確認すると、本部に連絡すると言った方について行った。

悪魔祓師が陣地の中で一際大きい十字架がかかった建物に入ったのを確認し、人目を避けて進入する。

内部では、カマエルの代理であろう四枚の翼を持つ天使が悪魔祓師の話を聞いていた。

 

「怪我人の搬送はまもなく完了します。物資の処分に関しては急がせていますがもうしばらくかかりそうです」

「わかりました。本隊には私の方から伝えておきます。貴方達は速やかに徹底の準備が完了しだい退却しなさい」

「し、しかし、カマエル様が御一人で戦っております。我々悪魔祓い師も準備を整え参戦せねば!!」

 

天使は、首を横に振るとよう諭す様に語りかけた。

 

「どうやら堕天使の部隊を指揮しているのは、グリゴリ初期の堕天使の一柱ラミエルです。カマエル様でも容易に倒せる相手ではありません」

 

(へ~、指揮官様はラミエル様だったんだ。生きてたら愛想ふりまいておこうかしら)

 

「それが、どうしたのですか。カマエル様が遅れをとるはずがありません」

「彼の堕天使は幻視を支配する存在、見えているものが必ず正しい保障などどこにもありません。堕天使を全滅させたと思っても、それが全て幻で、本物は無傷である可能性もあります」

「……」

 

(なるほど、ならそれを利用させていただきますよ。ラミエル様)

 

レイナーレは、酷く慌てた様に演技しながら天使のもとに駆け寄った。

 

「た、大変です! だ、堕天使が別の方角からも!!」

 

声を上げて縋り付き。

天使は、やはりと呟きながらレイナーレの背中をさすって落ち着かせようとして動きを途中で止める。

 

「天使様? どうされました?」

 

悪魔祓師が動きを止めた天使に不思議そうに問いかける。

 

「君はいったいどこから入ってきた? 扉の開くおとな、ぐぁ、貴様! 堕て」

「……」

 

レイナーレは無言で天使の胸に特大の光の槍を突き刺さし、天使は光の粒子となって消えた。

 

「な!! 貴様っ」

 

言葉を言い切る前にレイナーレによって頭部を光の槍に貫かれて聖職者は絶命した。

 

「ふん、殺しても何にも感じない……か」

 

(もう、私は戻れない。なら生きていける限り生き抜いていくだけよ)

 

聖職者から武器などを奪い死体を物陰に隠し、建物から出ると先ほど物資を処分すると言って一人向かった聖職者の方へ向けて歩みを進めた。

 

天使と悪魔祓師を殺してすぐに物資を処分するといった聖職者の後を追ったが、敵地で堂々と探す訳にも行かずなかなか見つけられずにいた。

 

(早く見つけないと、私の物資が処分されてしまうわ)

 

もうすでに自分のもの認定した物資の所在に不安を募らせていく。

すでに多くの信者達が撤退し始めている。

周りと違う動きをするだけで、護衛天使の目に留まってしまう恐れがある。

 

(一対一ならともかく、多対一じゃ勝負にもならないわ)

 

逸る気持ちを抑え、目立たず騒がす怯えながら(←演技)人の波に沿って進んでいく。

信者達は憤る者や恐怖している者など様々で、その中に溶け込むことはそう難しいことは無かった。

ただ流れに沿っていてはそのまま天使の拠点に行ってしまう。部隊を離れ独断専行をしているいじょう、功績は多いにこしたことはない。護衛天使の会話に注意を向け続け機会を窺う。

 

「カマエル様は大丈夫だろうか?」

「心配無い、我々全員が束になっても勝てないあのお方が堕天使如きにやられるものか」

「重傷者を急いで転移させたが、これだけの人数を送る余力はもう我々には無い。ここで堕天使に攻められたら一たまりも無い」

「……信者達を不安にさせる発言は慎め」

 

天使達は、厳しい表情で会話をしている。

 

(はぁ、実りのある会話じゃ無いわね)

 

現状を変える様な情報が手に入らず、時間ばかりが過ぎてゆく。

レイナーレがため息をついていると、前方から流れから逆走する(三~四人の)小規模の集団が目に留まった。

不思議に思い、護衛天使に声をかけることにした。

 

「あ、あの、どうされたのですか? 戻れば堕天使達が……」

 

護衛天使は何事かと顔を向けるが、レイナーレが指差す集団を見て納得する。

 

「ええ、先ほど物資の処分を担当していたものから連絡があったのです」

「え!?」

 

欲していた情報がやってきたので、驚きの声をあげてしまう。

落ち着こう、まだ処分が完了したと聞いたわけではないと、自分に言い聞かせ会話を続ける。

 

「どうかしましたか?」

「い、いえなんでも。それで何があったのですか?」

「物資の処分斑がカマエル様をぬけた堕天使と遭遇して戦闘になったのです」

「そんな!? (私の物資は)無事なのですか?」

 

護衛天使は、安心させるために勤めて笑顔を作りレイナーレに答えた。

 

「安心しなさい。堕天使を倒すことには成功した様です」

 

たった一人の聖職者に堕天使が倒されたことに疑問を感じながらも、(物資が無事だった事で)顔に安堵を浮かべ安心する。

 

「彼には優秀な悪魔祓師達共に付けていましたから、堕天使数体を浄化するだけなら問題無かったのですが……。それからすぐに血の臭いに引き寄せられたのか魔獣が数十体が現れ疲弊していた事もあり、重症の神父一人を除き全員死亡したようです。先ほど念話が届いて、有志を募り先ほど向かわせました」

 

(……先に見つけなくて良かったわ)

 

堕天使数体と対等に戦える悪魔祓師達と戦っていたかもしれなかったことに若干冷や汗をかきながら、護衛天使に自分も参加したいと告げる。

 

「必要ありません。歴戦の悪魔祓師二人、神器保有者一人を送るだけでもすでに現状ではギリギリなのです。そんな中に非戦闘員を守りながらでは、彼らの負担が増えるだけです」

 

神器保有者と聞いてよけいに行かないわけにはいかなくなった。

 

「自分の身を守ることぐらいできます。それに私がいれば傷ついた人を(殺して)楽にして差し上げられます!!」

 

(改めて人を送ってまで、堕天使に渡したくない物資。絶対逃しはしないわ)

 

「治療術の心得があるのですか?」

「はい!!」

 

護衛天使は、暫し考え私に微笑みかけた。

 

「許可します。彼等のことよろしくお願いします」

「有難うございます」

 

了承を得ると直にもと来た道を逆走して、集団を追いかけた。

 

処理班を追いかけ、撤退中の部隊の天使の索敵範囲から離れたと感じてから元の堕天使の姿に戻り飛んで天使の陣地に先回りした。

陣地上空ではいまだ、カマエルが一騎当千の活躍で堕天使達と戦っていた。

 

「はぁ~、羨ましいわね~。私もあれ位の潜在能力で生み出して欲しかったわ。我らが父は、平等を謳いながら本当に不平等な世界《システム》を創ったわ。ま、主もこの大戦で死ぬのだしそういう意味では平等なのかしら」

 

瞳に自分よりも優れて生み出された神の創造物に対する嫉妬の炎を灯らせ、カマエルを睨みながら呟く。

 

(っと、いけないいけない。レイナーレの記憶と統合しすぎて自意識が薄くなっているわ)

 

自分はレイナーレでは有るが、人間としての意識を持った別の存在。レイナーレの嫉妬や欲望に沿うままに行動すれば原作のようになるだけ。

他者を羨む暇は無い。少しでも強くなり権力を得て、来るべき三勢力の和平成立時に窓際生活なんて事にならないよう勇往邁進しなければ。

 

「その為にはまず神器を手に入れなきゃね」

 

魔獣独特の力を感じその場所に急ぐ。

 

「うわぁ」

 

私が現場に到着した時、魔獣は食事中だった。

悪魔祓師達に倒されたであろう十数体の魔獣の死体、食い散らされて原型を留めていない人間の死体、そして(辛うじて)生きた状態で食べられている神父の姿が眼下に見える。

 

「あれなら死んだ方がましね」

 

魔獣は苦しむ神父の反応が楽しいのか、ゆっくりと少しずつ咀嚼している。

私は、その様子をまだ残っている屋根の上に座って眺めている。

魔獣の生き残りは、今神父を食っている奴だけのようだ。たぶん神父を苦しめて食べているのは、それに対する怒りが多分に含まれているからだろう。

 

「神父から離れろこの畜生!!!!」

 

声に怒りを滲ませ、三人の影が魔獣に突っ込む。

二人の悪魔祓師達が、祓魔弾《ふつまだん》で魔獣を撃ち注意を自分達に向かわせ、最後の一人が人間では到底不可能な速さ(それでもレイナーレより遅い)で神父を抱き上げその場を離脱する。

 

(あいつが神器保有者ね)

 

「ジャック!! ここは俺達二人に任せて神父を連れてけ」

「守護天使様から、治療術師が俺達の後を追っていると連絡があったのは聞いただろう。お前の神器の能力を使えば死ぬ前に合流できるはずだ」

 

(治療術師? ……あ、私のことね)

 

悪魔祓師二人は、神父を抱えた男ジャックにここを去るように言う。

 

「っ!! 分かった。戻ってくるまで死ぬんじゃないぞ!!」

 

そう言うと、ジャックの靴についた宝玉が光り『Boost!』と無機質な声が聞こえた。

ジャックは来た道を戻って行った。

 

(ふ~ん、靴型の神器か。能力は速度、もしくは脚力の倍化ってところかしら)

 

ジャックの気配が遠ざかって行くのを感じながらレイナーレは光の槍を両手に準備する。

 

「行くぞザッコ!!」

「ああ、サンチタ!!」

 

二人は、巧みなコンビネーションで魔獣を翻弄し傷つけていく。

元々いた悪魔祓師達と戦った後で、魔獣も疲弊しており意外とあっさり倒してしまった。

 

「呆気なく終わったな」

「それに越したことは無い」

「はは、確かに。それじゃ目の前の建物ごと物資を燃やして、さっさとジャックと合流しようぜ」

「ああ、速く行こう」

「いいえ、今すぐ逝きなさい」

 

私はそう言うと、二人を光の槍で串刺しにした。

 

「がぁ」

「あぐぅ」

 

せっかくなので、先に殺した悪魔祓師から奪った祝福された短剣で二人ののど笛を切り裂きその命を絶った。

 

「さてと、さっさと神器を奪いにいきましょう」

 

物資の場所は男達の死体を目印にすればいいので、神器保有者を追いかけるため空へと羽ばたいた。

 

私は、おそらく加速系か倍化の神器保有者に追うために、全力での飛翔で息を切らせるも撤退中の部隊の索敵範囲外で追い抜き待ち構えることに成功した。

 

「はぁはぁ、さすがに追いつくのは楽勝、はぁ、でも、追い抜いて待ち構えるとなるときついわね……」

 

シスターの姿に変化し、息を整えようとするが今までの疲れもあるためなかなか落ち着けずにいた。

 

「はぁはぁはぁ」

「おーい!! 貴方が治療師かぁ!!!???」

 

(疲れた。ようやくすぐ傍まで神器保有者が近づいていたようね)

 

「はぁはぁ、はい、……私がそうです」

 

(さぁ、もっと近づきなさい)

 

「そうか、早速で悪いが神父の治療を頼む。意識は無いがまで生きているんだ」

 

神器保有者からは、私は息切れするほど急いで自分達を追って来てくれたように見えることでしょうね。

 

「わかりました。しかし、あなたは?」

 

(もっと近くに)

 

「俺は置いてきた仲間のところに戻る! 後はまかせたぞ!!」

 

神器保有者は、神父を下に降ろすとすぐさま来た道を戻ってしまった。

 

「え……待ちなさい!?」

 

私の制止を無視し走り去ってしまった。

 

「せっかく追い抜いたってゆうのに」

 

小さくなっていく神器保有者の背中を見つめながら、私は震える手で握り締めた光の槍を神父の頭に突き刺した。

 

「フザケルンジャナイワヨ」

 

堕天使の姿にもどり、最高速度で神器保有者に追いつき首を掴んで空に飛び上がり宙吊りの状態にする。

 

「手間を掻かせないで、あんたの神器をいただくわ」

「びゅあ? なぁ、にを?」

 

状況を理解する暇を与えず、神器を奪い取る術式を発動させる。

 

「があああああああああああああああぁぁぁぁあっぁあぁぁぁあぁあああああああ!!!!!!」

 

アーシアにやった儀式とは違って、即席で発動させているので神器を取り出すのにも時間がかかる。その間保有者は激痛を感じ続ける。

男は、首を掴んでいる手を離そうと両手で掴むがその手もしだいに力を無くし、最後には垂れ下がり動かなくなっていった。

 

「最初からこうしておけばよかった。無駄に時間を使ったわ」

 

当然そんな姿を見ても私は眉一つ動かさず神器を取り出した。

 

「ふふ、初の戦場で神器を手に入れるなんて幸先が良いわ」

 

私の両足には足の甲に宝玉、爪先《ツマサキ》に四本の龍の爪がついた赤色の具足が装着されていた。

 

(なんか、赤龍帝の籠手のパチモンみたいね)

 

「それじゃあ、この神器の能力を教えて貰いましょう」

 

死にかけの男の頭に手を当て、暗示をかける。

 

「包み隠さず、知っている全ての能力を開示なさい」

「……神器名、龍の足。能力身体能力の倍化、一部に力を集中すればさらに多く倍化する」

「能力は龍の手とたいしてかわらないのね。亜種かしら」

 

用は済んだので男を捨てる。

 

「さぁ、部隊に戻りますか」

 

そう言って後、直に悪寒を感じ最速でその場から離れる。

 

(何? この感じ、知らない!? こんな感覚は知らない!!!???)

 

「どこに行く? 堕天使」

 

私が振り向くと、ラミエル様の部隊と戦っているはずのカマエルが、私が捨てた男を片手で抱いた状態で佇んでいた。

 

「……カマエル、何でお前が?」

「分からんか? いや、理解したくないのか。ラミエルとその他の堕天使共はお前を除いて全て片付けた。だからここにいる」

 

カマエルは、私を見下しながら私が考えないようにしていた事実を告げた。

 

「嘘よ!!」

 

私はこの状況に酷似した映像《原作》が頭に過ぎり、悲鳴をあげるように否定の言葉を続ける。

 

「ふん」

 

カマエルは、私に漆黒の羽を見せる。

 

「本部にラミエル討伐の証として回収した羽だ。同じ堕天使ならわかるだろう」

 

ラミエル様の羽かなんて判断つかないが、それが堕天使の物だということだけはわかる。格下の私に心理戦をする理由も無い、信じられないが部隊が殲滅した事実を私は信じざるおえなかった。

 

「さて、我らが信徒を殺した罰を受けてもらう」

「いやよ!! こ、こんなところで死んでやるもんですか」

 

カマエルが空いている手を私に向けるのを見て逃げようとした瞬間、私は大地に叩きつけられていた。

 

 

自身を襲った衝撃を感じて直自分が土の上で倒れているのを感じた。

体は動かず、力を入れても指を動かすことくらいしかできない。

ああ、私はここで死ぬのね。原作よりはるか前だというのに、カマエル《格上》の手によって。

まだ、憑依して一日もたってないのに死亡フラグを立つなんて私くらいかしら。

私は、体を動かすのを諦め瞳を閉じた。

 

「お……、おき……くだ」

 

せっかく神器を手に入れたのに直に死ぬなんて……もしかして、レイナーレが神器を手に入れること事態が死亡フラグだったのかしら。

原作でも神器を盗ってから殺されているし。

 

「起きてくださいっす! 気づいてほしいっす!!」

「うっさいわね!! 人がせっかく最後の思考に耽ってるの……に」

 

死を目の前にして閉じていた瞳を開けると、目の前に赤い鱗の鯉がいた。周囲を見渡すと真っ暗でさっきまで居た場所ではないことだけは分かる。

 

「……」

「やっとこっちに気づいてくれたっす」

 

鯉が口をパクパクさせながら私の周りを回っている。よく見ると鯉の背中に龍の翼のようなモノが生えており、顔には角が一対ついている。

 

「あんた何?」

 

うれしそうにパタパタ羽ばたいている羽を掴み問いかける。

 

「はい、堕天使様!! 自分は憎い神の下僕から堕天使様が奪った神器に宿った竜鯉《りょうり》っす」

「竜鯉? 聞いたこと無いわね。それよりここは何処?」

「ここは神器の中っす」

「そう、それで竜鯉って何の竜なの?」

 

原作で主人公がドレイクと話した時と同じことが私にも起きているってことか。

 

「自分は鯉の竜っす。自分等竜鯉は主人(=飼い主)に懐いて、主人に対して愛情を持った鯉が成るっす。竜鯉に成った後は、主人を天災や事故から守るっす」

 

やっぱり鯉なのか。でもドラゴン系の神器は珍しいし掘り出しものなのかしら。

 

「そう、それと憎い神の下僕ってどういうこと?」

「うっす。ある日主人の家に宣教師が着て、オイラを渡すよう迫ったっす。当然、主人は拒んだっす。竜鯉の主人は皆自分等に愛情を持ってるっすから」

「ふ~ん」

「そしたら、宣教師の奴ら主人からオイラを無理やり奪っていったっす。もちろんオイラも抵抗して……でも、まだ成り立てで弱かったから駄目だったっす」

 

(人間に負けるようじゃ戦力には期待できそうに無いわね)

 

「連れて行かれた先で、教会の天使に捧げられたっす。あの宣教師共、主人は快く譲ってくれたとかほざいてたっす」

 

竜鯉は、体を揺すって怒りをあらわにしている。

 

「そんでオイラはキリストの神によってこの神器に宿らされたっす。オイラ達は主人を守ることを至上にしてるのに、それを邪魔されて恨まない竜鯉はいないっす」

「よく分かったわ」

 

私は、羽を放しで竜鯉を抱き(拘束)しめた。

 

「で? なんで私をここに呼んだの?」

「ああ、この胸の感触、ここが安住の地……天なんすね」

 

先ほどまでの怒りはどこへやら、竜鯉が赤い顔をさらに赤くしている。

 

「ふん!」

 

さらにキツク抱き絞めてやった。

 

「お、オイラ、堕天使様がやられそうだから、手助けしようどぉ~」

 

もがき苦しむ様に満足して、開放する。

 

「具体的には?」

 

鯉にただ手助けされただけで、カマエルが倒せるなら苦労は無い。

 

「オイラ、幻覚が操れるっす。それ使って逃げるっす」

 

なるほど、幻を見せて逃げるのね。

 

「はいっす!! それと神器の元々の能力で堕天使様の身体能力を倍化したから動けるはずっす」

 

そう竜鯉が言って直に意識が、現実に戻った。

 

「は、早く逃げないと」

 

今だ鈍い体に鞭打って立ち上がる。

 

「まだ立てるか。見苦しく生きるより潔く浄化されればいいものを」

 

(竜鯉、どうやって幻覚見せるの?)

(今回はオイラが主導で発言させるっす。見せる内容は再び飛んで逃げる感じでやるんで、堕天使様は走って逃げてくださいっす)

(それって気づかれない?)

(一応迷彩はかけるすから、がんばってくださいっす)

 

「うおおおおおお」

 

私(の幻覚)が、雄たけびをあげて空へ逃げていく。

カマエルはそれに向けて光の槍を投げ仕留めてしまった。

 

(ちょ、二行で終わっちゃったわよ)

(ま、まって、天使を見るっす)

 

「ふう、ようやく全員倒したか」

 

カマエルは、臨戦体制を解いて信徒を両手で抱え直すと飛び立っていった。

 

(き、効いてた~~)

(よ、良かったっす~~)

 

一瞬ラミエル様の幻視を退けた奴に効くのかしらとか、やった後に思ったけど。結果オーライね。

まぁ、全て終ったことだし天使の陣地を漁るとしましょう。

私が、陣地に戻るとそこには部隊の堕天使達が思い思いに寛いでいた。

 

「へ?」

「お、よーやく戻ってきたか。隊長ー、カマエルと戦ってた奴が帰ってきましたよ」

「ち、よく生きて戻ってきたな」

 

(今、舌打ちした!!)

 

予想外の光景と、ラミエル様の態度に目を白黒させる。

 

「天使の幹部と戦いよく戻ってきた。お前が見つけた物資の倉庫はまだ手をつけていないからさっさと漁れ」

 

ラミエル様は言うことだけ言って去ってしまう。

 

「ははは、驚いているな」

 

一人の紳士風の堕天使が話しかけてくる。

 

「あんた誰よ?」

「おっと、我が名はドーナシーク。以後お見知りおきを」

「……」

「どうかしたか?」

 

ここで原作キャラと会うとは思わなかったわ。

 

「な、何でもないわ。私はレイナーレよ。それより、どういうこと」

「カマエルが戦っていたのは全てラミエル様の幻覚の部隊だった。本物の部隊はずっと空で高みの見物だったのだよ」

「え」

「いや、一人で天使の陣地に突っ込んで行くところを見た時は、皆唖然としてしまった」

「本当に?」

「ああ、しかし、よく生きていたものだ。部隊では貴方が生きるか死ぬかで賭けていたのだよ」

 

ちなみに掛け金は私の見つけた物資で、ラミエル様を含め全員君の死を賭けていて賭けは成立しなかった。そう言うとドーナシークは去っていった。

 

「……物資を見に行こ」

 

項垂れながら、私はとぼとぼと歩いて行った。


 
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