「こんなに雨が降っているんですもの。散歩に出かけましょうか。藍、散歩に行ってくるわ。留守番よろしくね。」
「動機がおかしいと思うのですが…まぁ分かりました。いってらっしゃいませ、紫様」
こうして、大抵の者には理解できないような理由で散歩に出かけた"八雲 紫(やくもゆかり)"は出てきたはいいものの行く場所が無いので、博霊神社に行くことにした。お得意の"スキマ"を使い、博霊神社までやってきた。考えても見ると、散歩にも"スキマ"を使うため、天気など紫には関係ないのだが。
そして、博霊神社までくると、いつものように博霊の巫女である"博霊 霊歌(はくれいれいか)"の真上にスキマの出口をセットし、驚かす用意をしていた。
そして、スキマから出ようとしたときに見えたのは、霊歌が二人の赤ちゃんを抱いていたことであった。
「は~い、霊歌。その子たちは誰かしら?」
「あら、紫。ちょっと待っててね。後でお茶を出すから」
「ちょっと、驚いてくれないの?それと、質問に答えて頂戴。お茶はいらないから」
「しょうがないわねぇ。まずは、この子達のことなんだけど…」
霊歌は二人の赤ちゃんのことを、紫に説明した。
時折、赤ちゃんが泣いて、説明が中断されるということもあったが…
この二人の赤ちゃんは、神社の外に置いてあった箱の中にいたとのこと。男の子と女の子。詳しいことは、箱の中にあった紙に書いてあったとのこと。
ちなみに、双子で男の子が兄、女の子が妹だそうで…
「そう…それで名前は決めたのかしら?もし決めてないのなら私が決めたいのだけれど」
「残念。もう決めました。兄のほうが"零悟(れいご)"それで、妹のほうが"霊夢(れいむ)"って言うの」
「あら、いい名前じゃない。きっと、この子達も報われるわよ」
「…どうしたの?紫。なんか悪いものでも食べた?」
「どういう意味よ」
「だって、貴女が素直に褒めるなんて、殆ど無いじゃない。だから・・・」
「じゃあ、その"殆ど"が今だったのね。よかったじゃない。私に褒めてもらえて」
相変わらず、嫌みったらしく物をいう胡散臭い紫。それを、華麗に流す霊歌。
そして、この二人のことを話していると・・・
「うええぇぇぇぇぇぇえええん!!」
「あらあら霊夢、お腹がすいたのかしら」
「そうみたいね。ご飯作ってくるから紫。ちょっと、面倒見ててもらえないかしら」
「あら、母乳は出さないのかしら?」
「出るかッ!!」
「分かってるわよ。早く作ってらっしゃい」
「後で、覚えていなさい・・・」
そういって、霊歌は台所へと向かった。そして紫は・・・
「ん?この子…霊夢のほうには中級妖怪以上の霊力があるみたいね。この年で、この霊力とは…将来が楽しみね。霊歌はそれを知っててこの子達を拾ったのね。
でも兄のほうには毛玉程度の霊力しかないわね。鍛えれば、中級妖怪程度にはなるでしょうけど、妹の実力に届くことは無いかも…いえ、"かも"ではなくて"無い"か。残酷な話ね」
「は~い、れいむ~ ご飯ができましたよ~」
「すごい、キャラが変わってるわね」
「だって、二人とも可愛いんだもの。もう、零悟もお婿には出さないし、霊夢もお嫁になんか出さないわ」
「じゃあ、本人が『この人と結婚したい』って言われたらどうするのよ」
「そのときは、本人の自由にさせるわよ。そこまで、縛るつもりは無いから。まぁ、『この人をください』って来たやつは妖怪の山に頭だけ残して埋めてやるわ」
「怖いこといわないでよ。貴女なら本当に出来そうなんだから」
「それよりも、霊夢はすごい霊力ね。能力まで一緒とは。さすがに、驚いたわよ」
「それに比べると―――」
「ええ、やっぱり紫も気づいた?零悟の霊力が…残酷ね」
「能力も無いみたいだし…博霊の御子としてやっていくには相当鍛えないといけないわよ。霊歌、大丈夫なの?」
これは、相当つらいこと。才能の無い兄。才能しかない妹。将来は、兄が相当厳しい立場になるだろう。此処で、親がしっかりしていないと、零悟は将来グレるだろう。
才能の無い兄の劣等感。それに、妹は耐えられるのか。
逆に、妹の優越感。これが、兄にプレッシャーと不信感を与える。
「最大限の努力はするわ。」
「そう、がんばってね。じゃあ、私はここら辺で帰るわね。さよなら、霊歌。あと、零悟も霊夢も」
紫が零悟と霊夢のほっぺたをつつく。そして、二人はキャッキャと笑い声を上げる。
「ええ、またね。紫」
それから、十年の月日が経った…
Tweet |
|
|
2
|
2
|
追加するフォルダを選択
先代の巫女、博麗霊歌が赤ちゃんを二人拾った。双子の兄には才能がなかった。それに比べて、妹のほうは才能の塊であった。そんなのがいたらという、自分よりも優れた妹のいる兄の話。