第三章 過去との邂逅
第二十三話「潜む影」
任務中の短い休憩を利用し、スパをそれぞれ堪能し、日頃の仕事を訓練の疲れを癒した
機動六課前線メンバー。
特に地球に馴染み深い隊長陣は、以前にもこのスパを利用したのか、やっぱりここの風呂は最高だとか、現地協力者達と昔話に花をさかせていた。
そんな時なのはは一瞬ヴァンと目が合うが、直ぐに反らしてしまう。
自分が先程、露天風呂でやらかした事を思い出して、今になって恥ずかしさが回ってきたのだろう。
「・・・まァ、こうなるとはわかってたがなァ」
『どうかしましたか?』
風呂に入る際にヴァンは自分のデバイスであるルーチェを脱衣場に置いて風呂に入ったので、
ルーチェは露天風呂でなのはと自分の主に起きた出来事を知らないのだ。
なんとなくルーチェに知られると面倒な事を言われると感じた為、ため息を吐き、適当にはぐらかす。
少々ルーチェはヴァンの言葉を怪しんだが、それ以上は追及しなかった。
主が話さない事を、無理に聞き出すのはデバイスとして反するからだろう。
長風呂になった為に身体全身が暑い。
冷たい夜風に当り、熱を冷ますのと、さっきあった出来事を風に乗せて忘れたいと思っていた時に、
ケリュケイオンとクラールヴィントから警告音が鳴り響き、一同に緊張が走る。
「これは・・・リインちゃん!!」
「ロストロギア反応を捕捉!今回の目標ですぅ!」
魔力反応を元に場所の特定をし、全員に伝える。
「お仕事だね」
「みんな、頑張って!」
「フェイト、エリオ、キャロ、気を付けてな」
「「はいっ!」」
美由希、エイミィ、アルフがそれぞれ応援の言葉を送り、エリオとキャロはアルフに気をつけるよう
言われ、嬉しそうに返事を返す。
そんな二人を見たフェイトは、短い時間で自分が想像してるよりも二人が
成長している事を知り、微笑む。
「先にコテージに戻ってるね」
「皆、しっかりね!」
「「「「はいっ!」」」」
先にコテージに戻る事を伝え、すずか、アリサは六課メンバーを応援する。
「ティアナ。シャマル先生とリイン、はやて隊長はオプテックハイドに」
「はいっ!」
作戦はこうだ。
シャマル達サポート組は。
件のロストロギア反応がある地点の上空から決界を張り、対象を閉じ込め、安全に捕まえ、
封印をするという、もっとも効率的なものだ。
これなら経験が不足している新人達でも遅れを取る事はない。
「じゃあ、皆気を付けて「ちょっと待てなのは」どうしたの?」
いざ作戦を開始する時になって、ヴァンがなのはに話し掛け、作戦開始を開始の号令を止める。
「ロストロギアの方はお前達に任せるぜェ」
「えっ?どういう事?」
今作戦では当然ヴァンも前線に入るよう作戦を立てていたなのはは、ヴァンの突然の戦線離脱の言葉に軽く驚く。
他のメンバーもそんな彼の発言に目を丸くしている。
そして直ぐになのはは、厳しい表情をヴァンに向ける。
「自分が何言ってるかわかってるの?こんな時に隊長格の人間が前線から抜けるなんて?」
いつもと違い、真剣で厳しい視線と言葉をぶつけるなのは。
先程まで彼に見せていた照れは一切ない。
「悪いけど、ヴァン副隊長の戦線離脱は「誰かが俺達を見ている」えっ?」
ヴァンの戦線離脱を認めないと話そうとした時、そんな事をヴァンに言われ言葉を話すのを止める。
その言葉でハーナを含めた六課メンバーも驚いてる。
「正確には俺様を見て・・・いや、呼んでやがる」
「お前を呼んでるって?」
ヴィータがそう話すヴァンをなのはと同じく厳しい口調で尋ねる。
そしていつもて違い真剣な表情と口調でヴァンは話し始める。
「スパを出てからずっと俺様だけに気配を送ってきやがる。
言葉に出来ねェが、正直ケッコウ厄介な感じだァ」
「ま、マジかよ?」
「本当なのヴァン?」
ヴィータとフェイトが驚愕する。
あの最狂と謳われているヴァンが自分を呼んでいる相手が厄介な相手だと話すからだ。
少なくとも、二人はヴァンがここまで言った事を聞いた事がない。
「コイツはオモシロでいいなァ。俺様にここまでプレッシャーを掛けてきやがるとはなァ」
そこでヴァンは初めて、いつもと同じ狂気じみた笑みを見せた。
だがいつもと少し違い、緊張をしている感じだ。
それを読み取ったシグナムがヴァンに話し掛ける。
「で、お前はその相手の要求どおりに会いに行くのか?」
「ああァ・・・部隊長サマとなのは隊長サマは反対するだろうがァ、今回は悪いが相手の要求に乗った方が良さそうだァ」
「・・・どういう事や?」
最後の言葉に妙に緊張を覚え、はやてはその意味を知る為にヴァンに応えを求める。
「・・・気配で奴は俺様にこう言っている・・・」
全員が静まり返る。ヴァンの言葉を待っている。
そして次の彼から発っせられた言葉で全員が驚いてしまう。
「・・・・・・俺以外の人間が来た場合、オマエの仲間と、今回の任務でオマエと関わった
人間全てを消す・・・ってなァ」
「な、なんやて!?」
「本当なのかハートネット!?」
「ああァ、念話じゃねェがァ、奴はそう気配で俺様にそう言いやがったァ。こンな奴は初めてだぜェ。思わず背筋が寒くなったァ」
全員が驚きを隠せない。
今この場にアリサ達現地協力者の面子がいなくて幸いだった。
エイミィとアルフは管理局員なので多少のあらごとに慣れているが、アリサとすずかは
完全に一般人・・・そんな話を聞けば恐怖を抱くのは間違いない。
美由希はどうかわからないが・・・
「気配とか、そンな確証の薄いもンかもしれないがァ、俺様のこれまでの経験で言えばかなり
この状況は不味い」
「ヴァン副隊長の言うとおりです。私は長年彼の副官わ務めてきましたからわかりますが、こういう時の彼の感覚は恐ろしいほどに当ります」
「カーティス・・・」
インフェルノから彼の副官をやっていたハーナの言葉を全員を納得させるだけの力があった。
さらに緊張感が高まる。
「民間人にヒヨッコ・・・隊長達だけならどうにか俺様ならできるが、これは流石に無理・・・
選択は一つだァ」
ヴァンははやてとなのはを見る。
この後をどうするか二人に求めているのだ。答えがどうであろうとヴァンは一人で行く気だ。
だが、一応直属の上司である二人に意見を聞かなければならない。
しかし、既にヴァンは二人がどのような答えを出すかわかっていた。
そして・・・
「ヴァン副隊長・・・・・・作戦離脱を許可します。もし副隊長が感じた事が本当の事やったら現地協力者の方々を巻き込む事になります。それは絶対に避けなければいけません」
「ああァ!当然だァ。もしココの奴らと新人共に何かあったら俺様の名に傷が付いちまう。
宣告承知ってヤツだァ」
その言葉を聞き、はやては真剣表情から少し和らいだ表情になり、続きを話す。
「そか。なら後は頼むで?もし今言った事が守れへんかったら、クビじゃすまさへんよ?」
「ハッ!笑止!」
そう言い放ち、六課メンバーに背を向け歩き出すヴァン。
これからどんな奴と当たれるのかと考えると心が踊ってしまう。
やはり彼にとって一番楽しめる瞬間は「戦い」しかないようだ。
そんな事を考えているヴァンに声がかかる。
「ヴァン君!!」
「あン?」
彼を呼び止めたのはなのはだった。
呼び止められ振り返る。
さっきの厳しい表情とはまた違い、今度は彼を心配しているような表情で他のメンバーより少し前に出た場所で立っている。
コロコロよく態度の変わる奴だと内心笑う。
「怪我とかしちゃ嫌だからね?」
「怪我なんざ俺様は気にしねェ。怪我も戦いを楽しむ為のオモシロイベント・・・そンな事で一々俺様を呼び止めンなよ、あげゃ!!」
笑う。
明らかに今から戦いに行く者の顔ではない。だが逆にそれがなのはを安心させてしまう。
「うん。楽しんできてね」
普段のなのはなら絶対にこうは言わないだろう。
ましてや敵地に飛び込む自分の部下には特にだ。
だが今回は違う。
相手がヴァンだからだ。
彼となのは長い付き合い・・・お互いの性格を理解している。
ならヴァンが戦いを楽しみにしている事は当然わかっている。
なのはに続き、同じくらい彼と付き合いがあるヴィータも前に出て、話し掛ける。
「もし、死んじまってたら笑ってやるからな!!あと骨はちゃんと海に捨ててやるよ!!」
「せめて火葬にしてくれよ・・・後ォ、捨てるンじゃなくて埋葬だァ、バァーカァ」
そして今度こそ、彼は歩き出す。
もう六課メンバーも誰も彼を呼び止めはしない。
だが、なのはとヴィータ以外のメンバーは心配そうに彼の背中を見ている。
「大丈夫だよ。アイツは首だけになっても生きる奴だ」
「まぁ、そうやな。そんでクビだけで帰ってきてあげゃげゃげゃって笑いそうやな」
そんなB級スプラッタ映画のような場面を思い描くはやて。
しまいには笑い始める。
そんなはやてをフォワード達はわからない物を見る目で見ている。
(ヴァン副隊長もアレだけど八神部隊長もなんか・・・ズレてるわね・・・)
(そ、そうかな?私はちょと何かの映画を見ている感じでおもしろかったかな?)
(アンタは・・・)
念話で訓練学校からの付き合いの食いしん坊少女に感想を求めるが、
コチラもズレていた事に気付き若干呆れる。
(でも、ヴァン副隊長を見てるとなんか勇気が湧いてくるような感じがするんですよね)
(うん!私はヴァンさんに助けられたから、何だかその気持ちわかる!)
スバルとティアナの念話の内容にエリオとキャロが加わる。
最初から参加していたのだろう。
あとキャロが言っているのはリニアレール事件の時に、ヴァンの言葉を思い出して竜魂召喚を
成功させた事だ。
あれ以来キャロは、ヴァンをある意味目標としている。
戦いの面はさすがに違うが・・・
(いや、気持ちはわかるけど、アレは規格外だから・・・)
子供らしい感想を述べる二人にティアナはワリと大人のツッコミをいれる。
ヴァンを目標にして規格外な局員になって欲しくないのだうか?
「じゃあ皆、そろそろロストロギアの確保に行くよ」
「「「「はいっ!!」」」」
「うん、いい返事。なのは?」
フォワード達に作戦行動に入る事を告げ、フェイトは未だヴァンが歩いて行った道を
見ているなのはに話し掛ける。
「心配?」
「ちょっと・・・ね」
苦笑するなのは。
さっきはあんな事を言ったはずの自分がこれでは、本当にヴァンに笑われる。
たから今は、ヴァンの事を考えるのをやめ、本来の任務に集中する事にした。
「じゃあ皆!気を抜かずにやるんだよ?」
「「「「はいっ!!」」」」
「ほなら、スターズとライトニング・・・フォワード隊出撃や!」
はやての号令と共にヴァンの抜けた前線メンバーは動きだす。誰もがヴァンの事を気になっているが、皆彼を信じる事にした。
だから彼が普通に戻ってくると思っている。
なにせ彼は・・・・・・・・
最狂最悪の管理局員----赤き狂戦士なのだから・・・・
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時空管理局特務殲滅部隊---通称「インフェルノ」。そこには管理局員、次元犯罪者の両方が「赤き狂戦士」と恐れる青年が所属していた。そんなある日彼は、インフェルノの部隊長の命を受け新しく設立された部隊「機動六課」に異動する事になり、狂喜的な笑みを浮かべ素直に異動を受諾する・・・彼の笑みは何を意味するのか?