No.446320

チートでチートな三国志・そして恋姫†無双 

第1章 ”天の御遣い”として

いきなりグロ描写&歴史の堅めな話があります。苦手な方はご注意ください。

一番上は桃香たちの会話だけなのですが、ご勘弁を願います。

2012-07-05 09:40:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4863   閲覧ユーザー数:4207

第3話 出会い ~”周”から”隋”までの中国史を統治の側面から考える~

  

 

 

 

「桃香様、いくら何でも危険です。管輅(かんろ) の他にも様々な占い師が、

 

”乱世治める者現る。この世にはあらぬ白衣の男と金輪の聖女の二人組なり。称して、天の御遣い”

 

と占っていたとはいえ、その中の一人である管輅の占いの

 

”幽州琢郡に現る”

 

を信用してこんなところまで来るなんて。」

 

 

「いいじゃない愛紗ちゃん。この乱世を収める方法なんてもう他に無いんだから。」

 

「……? 空から何か光の玉のようなものが落ちてきているのだ。」

 

「な……。とりあえず、あの岩陰に隠れて様子を見ましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、幽州琢郡……。劉備の生まれた地か……。」

 

「やはり感慨深いものがあるか?」

 

「ああ……。」

 

 

女媧と共に、光の膜のようなものに乗って――いや、”乗る”という表現はおかしいか――で、仙界から”外史”に移動している。眼下には緑の広大な平地が広がっている。といっても、日本の平地とは別世界だ。そして少し経つと、地上に着いた。空の碧さも、空気も、俺の住んでいる日本とは比べものにならない。排気ガスも何もないからなのだろうけど、良い世界だ……。(※1)

 

 

 

「美しい所に来たもんだな……。とりあえず、人の集まっている所に向かうとしようか。地理はだいたいわかっているんだろう? 案内してくれ。」

 

「私はお前のナビゲーターではないのだがな……。向こうに村がある。」(※2)

 

 

女媧は文句を言いつつもあっさり案内人になってくれた。ありがたい仙人だ。

 

それにしても、日が照っていて暑いな……。カバンはそのまま持ってこられたけど、これがなかなか重い。中身は後で確認するか。どうせ、教科書とノートばっかりだろうし。とはいえ、この世界では絶対に手に入らないだろうからきちんと管理しないといけないな……。

 

 

それから少し歩いて行くと、大きな岩が見えた。

 

 

 

「暑くて仕方ないから、あそこで少し休ませてくれないか? ? お前は全然汗とかかいてないな。何でなんだ?

 

「仙人は食事もするし、水なども飲むが、排泄は一切ない。汗もその中に入る。無駄な物はすべて崑崙山のエネルギーとして吸われる仕組みだ。」(※3)

 

「羨ましいような羨ましくないような……。凄い仕組みになっているんだな……。」

 

”仙人”なんて大仰な呼び名だと思っていたけど……。そんなことを考えていると、前方から3人の男が走ってくるのが見えた。何だあいつらは?

 

 

「ウッヒョー。今日はツイてますぜアニキ。上玉の女に高そうな服着た男。どっちもいい金になりそうでっせ。」

 

「全くだぜチビ。おい、やっちまえデク!」

 

「うらみはないけど、いまはらんせ。これもうんめいだとおもってほしいんだな。」

 

 

たどたどしい言葉を言いながら、”デク”と呼ばれた豚のような男が襲いかかってきた。いわゆる”野盗”の類だろううか。真剣を持っているとはいえ、”デク”の動きは緩慢だ。大した敵ではなさそうだな。それにしても、”デク”だけは”タテ”にも”ヨコ”にも俺よりでかいけれど、”チビ”と”アニキ”はガリガリで、ずいぶんと貧相な体型だ。さて、どうするか……。

 

多分、”酔拳”で倒せるだろう。でも、”真剣”を持った奴と最初から”無手”でやるのはちょっと怖いな。と、”上玉の女”という言葉が頭に来たのかそうでないのかはわからないけど、女媧が俺の前に出た。

 

 

「ここは私がやろうか。とりあえずこの豚を片付けよう。」

 

そう言って、剣を振り下ろした。刹那

 

 

3人の首と胴が分断された。

 

 

「おや。」

 

 

後ろの2人は5mくらい後ろに居たのだけど、首は一緒に飛んだ。切ったところから吹き出す大量の血を見ていたら、吐き気がこみ上げてきた。最後に食事をしてからはかなりの時間が経っているから、出てくるのは胃液だけだったけれど。

 

 

「何でだ……。何で殺した! 殺す必要まではなかったはずなのに!!」

 

俺たちを殺そうとしてきた相手だったけれど、その凄惨な光景を見た俺は、思わず女媧につめよってそう言っていた。

 

「仕方なかろう。何せ、力を使うなどというのはかなり久しぶりなのでな。加減を誤ってしまったのだ。

 

だが、この世界は”乱世”だ。これからは”死”と向き合うことが多くなる。”かわいそうだから殺さない”などという甘い考えでは、無駄な敵を増やすだけだぞ。」

 

 

そんなことは考えるまでもなくわかっている。少なくとも頭では。それでも、”他に方法はなかったのだろうか……。” そう思わずにはいられない。ようやく吐き気は収まったけれど、今もあの光景は目に焼き付いている。

 

……。終わったことをずっと考えていても前に進むことはできない。

 

 

 

「ここに死体を放っておいては目立つ。金や武器、その他使えそうな物をいただいて、埋葬することにしよう。」

 

「現実主義者なのだな。こ奴らに埋葬するほどの価値があるとも思えぬが、良かろう。手伝ってやる。」

 

 

まず、哀れな3人の賊が身につけているものを全て脱がせた。次に、女媧が仙術で土を切り取って浮かせることで穴を空けた。その穴に3つの首と胴を入れ、土をまた仙術で戻した。

 

これで、埋葬は終わった。

 

 

「どうか、安らかに……。」

 

そう言い、手を合わせ、服(遺留品とでも言うのだろうか)を調べてみる。と、服の中にコインが入っていることに気づいた。

 

 

「コレは……。まさか”五銖銭(ごしゅせん)”か!?」(※4)

 

 

この前、世界史の授業で「貨幣の歴史」というテーマ史をやって、そこで習ったばっかりのモノが出てきたので、感動してしまった。本当にあったんだな……。

 

 

「さっきまでゲーゲーやってたわりには立ち直りも早いし、感動する余裕もあるとは、人とは面白いものだな。」

 

「う、うるさい! 頼むから思い出させないでくれ……。」

 

 

このコインと剣の他には特に必要なものは無いようだ。野盗になりたくてなったわけではないのだろうけど、これも、彼らの言葉を借りれば”運命”なのだろう。せめて、有効に使わせて貰って弔いとしよう。

 

 

「さて、村に行こうか。まずはご飯を食べよう。”腹が減っては戦はできぬ”とよく言ったものだし。」

 

「そうだな。 ……。 そこの岩陰に隠れている3人、隠れていないで出てこい!!」

 

 

そういえばそんな気配がするな。野盗の末路に頭がいっていたから全く気づかなかった。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。別に隠れてたわけじゃないんです。私たちは、”天の御遣い”という人たちがこの近くに現れるというので、愛紗ちゃんたちと探していたんです。そうしたらお二人が天から降りてくるのが見えたので……。」

 

 

「貴様!! 本当に天の御遣いなのか!? 人を殺し、挙げ句の果てに盗みまではたらくなど言語道断!! 恥を知れ!!」

 

 

出てきたのは3人の少女だった。そのうち、サイドテールの黒髪の少女――めっちゃかわいい――が、ずいぶん怒っているようだ。さて、どうしたものか……。彼女の名前は、”愛紗”さん というのかな?

 

 

「やれやれ……。面倒だな。ここは”お手並み拝見”ということでお前に任せるとするか。命が狙われたら助けてやるが、それまでは見物させてもらうよ。」

 

 

クスクス笑いながらそう言うと、女媧はもう何もする気は無い……という(てい)だ。俺一人で切り抜けろってのかよ。……。頼りっぱなしってのも癪だし、まあいいか。

 

 

「……。愛紗さんでいいのかな?」

 

そもそも、さっきのやりとりを見ていたら”正当防衛”だとわかる筈なんだけどな……。

 

”殺されそうになったから反撃した。ただ埋めるのもアレだから、お金を頂いた。お金がなければ何もできないのだけど、俺は無一文だ。”

 

ということをどう伝えたものかな……。と思いつつ、とりあえずそう呼びかけてみた。すると、彼女はいきなり殺気とともに刀を向けてきた。

 

 

「と、取り消してください!!」

 

「取り消すのだ!!」

 

 

桃髪の少女と小さい赤髪の女の子が慌てたようにそう言った。? 俺は何か気に障ることを言ったのだろうか? 思い当たることは何もないのだけど……。

 

 

「貴様! その上いきなり真名を呼ぶとは何のつもりだ!? 殺されたいということでよいのだな!?」

 

 

真名? ”真名”って、確か漢字のことだよな? 察するに、”愛紗”とやらが問題発言だったようだけど、名前を呼ぶのに何か問題があるのだろうか? (※5)

 

 

「甄、なんのことだかわかるか?」

 

「さあ? さっぱりだ。」

 

 

女媧に聞いてみたものの、そう言って首をすくめただけだった。案外、頼りにならないな……。

 

 

「真名って何? 俺、何か悪いこと言った?」

 

「え……? 今愛紗ちゃんのことを”愛紗”って言いましたよね?」

 

「うん。何か問題あるの? 名前でしょ?」

 

「ち、違います! 真名っていうのは、親しき人、心を許した人だけが呼ぶことを許される、神聖な名なんです。愛紗っていうのは彼女の真名なんです。」 (※6)

 

 

何ソレ? そんな大事な話を、何でそこの仙人様は教えてくれないのだろうか? というか、そもそも”赤の他人”の前で”神聖な名”なんて呼ぶか? 常識的に考えて。

 

 

「お、おい甄、なんで言わなかったんだよ?」

 

「私がいちいち外史の細かいところまで知っているはずがないだろう。万能な辞書じゃないんだぞ。」

 

 

……。”助ける”のが女媧の仕事だし、仕方ないか。イマイチ納得いかないけど、とりあえず俺が悪かったと謝って場を収めることにしよう。しかし、”名前”と思われたものを迂闊に呼んでしまっただけで殺されそうになるのではたまったもんじゃないな……。

 

 

「すまない。そもそも、真名というものの存在を知らなかったんだ。そこの桃髪の女の子がキミのことをそう呼んだから、てっきり名前だと思ったんだ。すまなかった。」

 

「な……。しかし、貴様の目を見る限り、嘘は言っていないようだな。だが、なぜ殺し、その上略奪まで働いた?」

 

 

さっきのやりとりを見てたんならわかるだろ……。と言いたくなるのを堪えるのも大変だな……。そんなことを言ったらまた怒りそうだから言わないけど。

 

 

「そもそも殺すつもりはなかったんだけど、彼女が力の加減を誤ったようで、結果としてああなってしまったんだ。死んだ人が何かを持っていたとしても、もう使うことはできない。それなら生きている俺が有効に使わせてもらったほうがいい……。そう思ったんだよ。俺たちはお金なんて持ってないしね。」

 

 

 

「だが……。」

 

「もういいよ、愛紗ちゃん。ところで、大陸中で広まってる占いの

 

”天の御遣い”

 

っていうのはお兄さんたち2人のことなのかな?」

 

 

黒髪の少女がさらに言おうとするのを遮り、桃髪の少女がそう尋ねてきた。

 

 

「どうやらそうみたいだね。だけど、具体的にはどういう占いが広まっているのか教えてくれないかな?」

 

「えーっと、

 

”乱世治める者現る。この世にはあらぬ白衣の男と金輪の聖女の二人組なり。称して、天の御遣い”

 

というのが大陸中の殆どの占い師のお告げです。その中でも管輅ちゃんは

 

”幽州琢郡に現る”

 

とまで占っていたんです。」

 

 

それを聞いて、ずいぶん仰々しい占いだなあ……と、思わず感心してしまった。しかし、「”天”の御遣い」ねえ……。朝廷に”名目上”は”深く”臣従しておかないと、後々には色々とヤバくなるな……。

 

しかし、早坂さんや藤田さんが「常識外」「あり得ない」と言っていた”白い”ポリエステルの制服がこんなところで役に立つとは思ってなかったな……。女媧のほうは頭のリングが象徴的だから、理解できなくもないけど。とりあえず、彼女達の”名前”でも聞くとするか。(※7)

 

 

「なるほど、ありがとう。俺は北郷一刀。で、彼女は甄姫。俺の護衛だよ。良ければキミ達の”名前”を教えてくれないかな。あと、そんなに大事な真名(モノ)はできれば赤の他人の前で言ってほしくはないな……。」

 

 

「そ、そうですね。ごめんなさい。私は劉備。字は玄徳といいます。」

 

はい!?

 

「私は関羽。字は雲長だ。」

 

はあ!? てことは、まさかコイツが……!?

 

「鈴々は張飛。字は翼徳なのだ!」

 

 

こいつらがあの”劉備”に”関羽”、それに”張飛”だっていうのか!? まあ、”お目当て”の”関羽”がさっそく見つかったことはありがたいけど……。念のためもう一回確認しておこう。

 

 

「えーっと、ホントにキミが劉備さんで、黒髪の子が関羽さん、赤髪の子が張飛さん、でいいの?」

 

「そうですよ? それがどうかしましたか?」

 

 

……。あの仙人が言っていたのはこういうことか。驚いてばっかりじゃ話は進まないな。

 

 

 

 

「いや……何でもない。で、俺たちがその”天の御遣い”ならどうしたいの?」

 

「今、この世は乱れ、匪賊や野盗が跋扈しています。私はそれを見過ごせないんです。中山靖王、劉勝の末裔として、何としてもこの後漢を再興したいと思っています。そのために、”天の御使い”の力を借りたいんです。」(※8)

 

 

 

……。”後漢を再興”ねえ……。「前漢と後漢の違い」や、「”三国志”と呼ばれるまでに国が乱れ、その後、隋が建国されるまで実に300年間も”魏晋南北朝”という動乱が続いた理由」といったものをきちんと学んでいなかったら、俺も頷いていたかもしれないな。

 

 

 

 

 

”古代からの中国史”というものを統治の側面から考えると、「周」の時代は”封建制”を採用したことで、いわゆる”親戚”が権力を持つことになった。そいつらが反乱を起こして「周」は崩壊した。(※9)

 

そこで、「秦」は、強大な”中央集権体制”の国家を作り、”郡県制”と”法家思想”で威圧的に統治をすることにした。ところが、始皇帝の死とともに農民反乱をきっかけとして秦は崩壊してしまった。(※10)

 

 

 

その後、「劉邦」と「項羽」が争い、結果的には人徳の優れた「劉邦」が勝ち、「(前)漢」を建国した。彼は、「周」と「秦」の失敗を考えたのか、”郡国制”を採用した。すなわち、近いところでは”郡県制”を採用して”威圧的”に”厳格”に統治し、遠いところでは”封建制”で”親戚”に統治をさせることにしたわけだ。

 

 

”郡県制”だと、”厳格な統治”の為、農民の反乱が起きやすい。そのために、”すぐ鎮圧することが出来る”近いところだけを郡県制で統治することにしたのだ。

 

ところが、劉邦が封建制を行うときに”劉氏ざるもの、人に非ず”といわれるほどに「劉」性の人を優遇する政治を行ってしまった。この劉邦には「呂后」という后がいた。彼女は大商人の娘であり、劉邦に多大な援助をしたにも関わらず「呂」性であるというだけで彼女の親戚は冷遇されることとなってしまった。(※11)

 

そのため、劉邦の死後に呂后による専横が起こり、

 

呂氏一族(中央)vs劉氏一族(地方)

 

という対立構造ができあがった。これがいわゆる”呂氏の乱”だ。それに勝ったのは劉氏一族であったため、結果として地方の権力が強大化し、後の皇帝の権力は低下することとなった。

 

これを憂い、改革をしたのが6代皇帝の景帝だ。”呉楚七国の乱”となるほどにまで地方との争いは激化したが、景帝はその鎮圧に成功した。そのため、皇帝の権力は強大化し、息子である7代の武帝は”郡国制”をやめて”郡県制”を採用することができた。すなわち、”中央集権体制”の国家になったわけだ。

 

ところが……。”外征”のしすぎで国家財政が火の車となってしまう。これを”売位売官”の制などを採用することによって乗り越えようとした。が、金を持っているのは外戚と宦官だから、そいつらが台頭してくることになる。(※12)

 

そしてついに、10代皇帝「元帝」の外戚である王莽が、前漢を乗っ取り「新」を建国した。

 

が……。彼が熱心な「儒学者」であったことが災いしたのか「周礼」などといった時代錯誤の政策を行うことで民衆の反発を招いた。「王田制」で、土地を全て国有化しようとしたことが致命的な失策となって豪族の反発を生んでしまった。この状況で、悪政に耐えかねた農民が起こした「赤眉の乱」に、豪族が加担して新を滅亡させるという異様な状況が起こってしまった。もちろん、この「赤眉の乱」は、「新」の滅亡後に豪族たちに潰されてしまうことになるけれど。(※13)

 

そうしてできた国家が「後漢」なのだ。すなわち”豪族連合政権”だ。当然のこととして皇帝の権力は弱い。今度は、”宦官”が「党錮の禁」で党人、すなわち儒学者を排除して権力を握ったわけだ。

 

 

 

それに加え、後漢の皇帝の平均寿命は20代だ。つまり、5歳くらいの子供が皇帝に即位する。政治を行うのは皇帝の母親だ。が、女性ということは弱い。そのため、”ボデイーガード”というような人が必要になる。

 

しかし、「後宮」という女の園に男が居たら大変なことになってしまう。それで”去勢”された男が必要になった……わけだ。

 

 

そいつらが権力を握ることに反発した張角が「黄巾の乱」を起こしたけれど、鎮圧する力は地方の豪族にしか残っていなかったわけで、そのうち最後に残った3人がそれぞれ国をつくった。すなわち「曹操」の「魏」、「劉備」の「蜀(蜀漢)」、そして「孫権」の「呉」だ。ところが、「魏」が「蜀」を潰したあとに臣下の司馬一族に乗っ取られ、「晋(西晋)」ができ、その後、「呉」を併合して三国時代は終焉を迎えることとなった。

 

 

が、「西晋」がまたもや”封建制”を敷いてしまったために諸侯の反乱である「八王の乱」が勃発してしまう。このときに諸侯が異民族に協力を要請したために異民族が侵入し、「南匈奴」という連中が起こした「永嘉の乱」で西晋は滅亡する。

 

匈奴・羯・鮮卑の北方系異民族、氐・羌のチベット系異民族を含む連中が支配する「五胡十六国」と、西晋の一族が南に逃れてできた東晋の2つに大きく分かれた。これがいわゆる”南北朝時代”だ。

 

最終的には北の王朝の一つ、「北周」の外戚だった「楊堅」が「隋」を建国して一つの国にまとめることになった。

 

 

この歴史を考えると、どう考えても後漢を再興させるというのは愚策なんだよな。

 

 

 

 

 

「なるほどね……。言いたいことはわかるよ。でも、まず俺から一つ質問していい? 孟子の”易姓革命”ってわかる?」(※14)

 

「え……。その、なんとなくはわかります。」

 

 

「後漢は、そもそもの始まりが豪族によって奉られた国家だ。だから、豪族の力を抑えることが必要になってくるんだけど、今の朝廷にそんな力は残っていない。それどころか宦官が蔓延(はびこ)る世の中だ。だから、もう後漢は滅びるのが決まっているんだよ。

 

そんな国を助けたってどうにもならないよ。それなら、俺たちで新しい国をつくって、そこで漢の理想を体現すれば、それでいいじゃないか。

 

 

”徳”と”法”

 

相反するように見える、”儒家”と”法家”の思想を取り入れて、この国を統一するんだ。

 

”中山靖王、劉勝” の末裔である という”大義”の元に”天の御遣い”を上手く組み込むことでね。」

 

と言っても、実際はいかに”天の御遣い”を消して、”劉備”をクローズアップさせるかが俺の最大の課題だな……。今は”天の御遣い”を利用しないと大変だろうけど、”領地”を手にしてからは”邪魔”にしかならないからなあ……。

 

 

「……。」

 

「ただ、今10人を見殺しにすれば後で1000人が助けられるような状況に直面したら、10人を見殺しにするような覚悟がないと国の統治なんてできないと思うよ。」

 

 

 

いろいろと思い悩んでいる風の劉備さんだけど、それも仕方ないよなあ……。

 

”オマエの考えは間違っている!!”

 

”そんなこと無理だ!! 不可能だ!!”

 

と言われたに等しいんだから。

 

 

「……。わかりました。でも、私は救えるものは全て救いたいと思います。

 

私の真名、桃香を北郷さん、いえ、ご主人様に預けます。どうかいっしょに天下を統一して平和な国をつくりましょう。」

 

それでも、決然とした面持ちでそう言った。

 

 

「桃香さま……。我が真名は愛紗。これからは預けさせていただきます。」

 

「むー。張飛の真名は鈴々なのだ。よろしくなのだ。お兄ちゃんにお姉ちゃん。」

 

 

「お、お姉ちゃんだと……。」

 

 

ご主人様はやめてほしいんだけど、しょうがないか。女媧が目を白黒させている。さすがに”お姉ちゃん”には戸惑っているようだ。

 

 

 

「俺たちの旗印は”風林火山”にしよう。」

 

 

「”風林火山”? ”風林火陰山雷”ではないのですか?」

 

俺が”風林火山”と言うと、愛紗がそう聞いてきた。”風林火陰山雷”か……。

 

「愛紗ちゃん……。何それ?」

 

「……。桃香様……。」

 

「『孫子』第七”軍争篇”……か。」

 

「ええ。

 

 

”故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。故に其の疾きことは風の如く、其の徐なることは林の如く、侵掠することは火の如く、知り難きことは陰の如く、動かざることは山の如く、動くことは雷の震うが如くにして、郷を掠むるには衆を分かち、地を(ひろ)むるには利を分かち、権を懸けて而して動く。迂直の計を先知する者は勝つ。此れ軍争の法なり。”

 

 

 

軍争篇の一部分です、これを考えると”風林火陰山雷”だと思うのですが、なぜ”風林火山”なのですか?」

 

さすが愛紗……。『孫子』を暗記しているのか……。”物は試し”で『孫子』を呼んでいなかったら、俺も ? だったろうな……。

 

 

”そこで、戦争は敵の裏をかくことを中心とし、利のあるところに従って行動し、分散や集合で変化の形をとっていくものである。だから、風のように迅速に進み、林のように息をひそめて待機し、火の燃えるように侵奪し、暗やみのように分かりにくくし、山のようにどっしりと落ち着き、雷鳴のようにはげしく動き、村里をかすめ取(って兵糧を集め)るときには兵士を手分けし、土地を(奪って)広げるときにはその要点を分守させ、万事についてよく見積りはかったうえで行動する。あいてに先きんじて遠近の計

 

――遠い道を近道に転ずるはかりごと――

 

を知るものが勝つのであって、これが軍争の原則である。”

 

 

 

 

「それはそうなんだけど、天界で最強の騎馬軍を率いた武将が”風林火山”

 

 

――疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し――

 

 

の部分だけを抜き取って軍旗にしたんだ。だから、俺もそれにあやかろうか……と思ったんだよ。」(※15)

 

「……。そういうことでしたか。わかりました。」

 

「話を戻すけど、基本的な考えは”法の下の平等”と”天下布武”を根底においておこう。(※16.17)

 

法というものを決めて、違反した者は誰であれ裁かれる……という考えが”法の下の平等”。

 

天下を武力で統一する……という考えが、”天下布武”。

 

”風林火山”はさっき言ったんだからわかるよね?

 

ただ、今の時点で”風林火山”以外は俺たちの心の中にしまっておかないといけないけど。」

 

 

「素晴らしいと思います。でも、今は使えないというのはどうしてですか?

 

桃香は俺の考えに驚いているようだ。だが……。”朝廷”を敵に回したらヤバイ……ってことには気づいてくれよ……。

 

「まだ後漢という国が存在している以上、”名目上は”後漢に従わなきゃいけない。もし、従わないとしたら逆賊になってしまう。そうなったら全ての豪族が敵に回って俺たちは終わりだ。」

 

「なるほど……。ここから少し歩くと村に出ます。そこの桃園で結盟しませんか? そこから、私たちの戦いを始めましょう。」

 

 

「いいね。じゃあ、行こうか。」

 

 

 

 

 

 

解説

 

※1 原作では砂漠みたいな感じでしたが、4000年前のアフリカはものすごいジャングルだったそうですし、ここが緑豊かな大地でも違和感はないのではないか? と思いましたのでこうしました。

 

※2:村・・・正確には”村”ではなく”邑”であったのかもしれませんが、どうもわかりにくい(筆者もよくわかりません……。)ので、村に。

 

※3:崑崙山・・・”仙界”にある山のこと。

 

 

※4:五銖銭・・・前漢7代、武帝が鋳造した貨幣。質が良く、偽造されにくかったため、唐の時代までずっと使用された貨幣。

 

※5:真名/仮名 日本の平安時代において、漢字のことを真名と呼び、ひらがな、カタカナのことを仮名と呼びました。

 

※6:真名・・・恋姫で特にすばらしいと思ったシステム。関羽=女なら違和感タップリだが、愛紗という真名を挟むだけであんまり違和感は感じられなくなる(私だけか?)ように思います。

 

※7:制服・・・制服には”礼服”の意味もあるので、基本的には黒・紺系統が使われます。だが、今作ではなぜか”白”です

 

”聖フランチェスカ学院”の話をやるなら、そっちに入れますけど、今のところはここで解説しておきます。

 

 

 

※8:中山靖王、劉勝・・・前漢6代、景帝の第八皇子。父の景帝ともども絶倫ファイヤー(笑)だったらしいので、子孫は恐らくうじゃうじゃ居たと思われます。つまり、劉備はそれほど希少種ではないです。

 

(ただし、宦官の家系の曹操や出自不明な孫権よりははるかにマシ)

 

後漢の初代、光武帝も景帝の子孫です。

 

※9:封建制・・・中世ヨーロッパの封建制度はいわゆる”地縁的結合”ですが、中国の封建制度は”血縁的結合”です。面倒なので、これ以降は”親戚”と表記します。

 

※10:農民反乱・・・陳勝・呉広の乱のこと。中国史上初の農民反乱。

 

※11:呂后・・・中国史に名高い”鬼妻”の一人。夫である劉邦が死ぬと性格が豹変。身の毛もよだつような処刑法を考案するなど、悪名高い人物として有名。

 

※12:売位売官・・・簡単に説明すると”役職”をオークションで決めようというもの。金さえ持っていれば能力に関係なく地位に就くことができた。

 

※13:周礼・・・儒学の根本的な概念とされるもの。これに基づき、「周」の政治(800年近く昔の政治)を復活させようとした。

 

※14:易姓革命・・・諸子百家の一人である、孟子が唱えた説。ざっと説明すると、王家の徳が落ちてふさわしくなくなったら”禅譲”か”放伐”により王家が変わるというもの。

 

日本の天皇家や欧州の王朝のとにかく血縁を大切にするのとは180°違う考え方。だから中国は王朝がコロコロ変わる。

 

 

※15:風林火山・・・『孫子』第七”軍争篇”。””内は岩波文庫『新訂 孫子』 金谷治訳注 からの引用になります。今回は一刀が言ったとおり、戦国最強の部隊を率いた武田信玄の軍旗を流用しました。※実際に信玄が使っていたのかは諸説ありますが、今作中では”使っていた”ということにします。

 

※16:法の下の平等・・・アメリカ独立戦争やフランス革命でのスローガン。法を破れば王だろうが農民だろうが等しく裁かれるというもの。

 

※17:天下布武・・・戦国時代の英雄、織田信長のスローガン。武をもって天下を制すというような意味でしょうか。


 
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