光弾を拳で相殺しながら一気に接近。ローラーでの加速のまま、思うように蹴り抜きスフィアを破壊。足を下ろすよりも早く軸足のローラーを動かしてその場を離脱し、光弾で此方を狙うスフィアを中心に周りながら、隙を見て接近、全力で殴り飛ばす。きっちり破壊出来たを確認してから後退し、スバルはティアナと合流した。
ティアナはティアナで、担当の分のスフィアは全て魔力弾で撃ち抜いたらしく、辺りに機影は一気も無し。一息つきながら、それぞれ自身のデバイスからカートリッジシステムの空薬莢やシリンダーを取り出し、新しい物に変える。
「次。上がって直ぐに集中砲火だから。クロスシフトで一気に殲滅するわよ」
「オッケー、ティア!カズ――」
ヤと名前を呼びながら振り返り、其処に目当ての人物が居ない事を思い出す。アハハと苦笑いを浮かべるスバルに、ティアナはジト目を向けた。
「スバル……。アンタねぇ……」
「い、いやぁ。つい」
「……まぁ、いいわ。変な感じなのは私も一緒だし」
「そっか……。よし!行こうティア!サクッと合格!三人でご飯!カズヤ、奢ってくれるって言ってたし」
「いいわね。私、一度行ってみたいお店あったのよ。高かったんだけど、会計カズヤなら気にする必要ないわね」
冗談なのか本気なのか。判断しがたい口調のやり取りを終え、ティアナか表情を引き締める。
「決めるわよ。クロスシフト」
「おう!」
***
「ハッ――クシッ」
決意新たに試験へ挑むスバルとティアナ。その一方でM-10に乗りながらゴール地点を目指すカズヤはくしゃみを一つした。バランスを崩しそうになり、慌てて体勢を整える。
「なんだ?誰かが噂でもしてるのか?」
よもやそれが経った今試験を受けているスバルとティアナによる、カズヤの財布を軽くする計画とは露知らず。鼻を擦りながら、やがてカズヤはコース終盤へと差し掛かった。
受験者達の最終関門。今回の設置は大型スフィアと聞いているカズヤは安全圏を飛行していると分かっていても、幾らか警戒してしまう。
(スバルとティアなら大丈夫だろうけど……)
今、どの辺りだろ、見つかるかな?と、下を覗き込もうとした直後、窓ガラスが割れる音がカズヤの耳に届いた。
そしてその直後、真下からの衝撃に危うくM-10から落ちそうになる。
「んなっ!?」
慌てて体勢を整えようとするも、間髪いれず再び下からM-10が撃たれた。今度こそバランスが崩れ、カズヤの体は宙へと放り出される。
「―――ッ!」
少ない魔力を使い姿勢を整えながら、左手中指についた、待機状態のティアナが使うアンカーガンのプロトタイプであるT-03を緊急発動。
放ったアンカーで、煙を上げながら落下していくM-10を捕まえて引き寄せる。
「――よしっ!」
捕まえたM-10に魔力を通せば、問題無く飛行を開始した。
とは言え無傷というわけにはいかないだろうから、カズヤは一度降りようと地面を目指す。
しかし、そんな中でも、大型スフィアはカズヤを目掛け、光弾を吐き続ける。
「当たるかっての!」
しかし、一発目の不意打ちはともかく、残りは正面からの簡易誘導弾。ギリギリまで引きつけながら避ければ、理論上は難なく避けられる。
(速度が上がらねえし!反応感度も悪くなってやがる!)
心中で悪態を付きながらも、だてにM-10を乗り続けていないということか。カズヤはその理論の元、確実に避けていく。右へ左へは勿論、どんな原理か、M-10を中心にカズヤの体が一回転する時もあった。
そうやって必死に避け続けながら、発射地点のビルからは狙えないであろうビルに目星をつけると、M-10から飛び降り、T-03からアンカーを発射。その直後にM-10に光弾がヒット、バランスを崩しながらも振り子の要領で移動してビルへ跳びこんだが、着地に失敗。足に痛みを覚えながらも身を隠す。
暫し様子を見て、狙い通り時折攻撃が来る物の、自分へは届かない事を確認してから、ここでようやく一息ついて、カズヤが手を振れば、何処から出したのか、指の間に大量の工具を握っていた。
「飛行自体に支障は無かったし、魔力伝達回路かな。速度と制御系の二点でどこかやられたって考えるべき。予備パーツは……流石に今は持ち歩いて無い。まあ、なんとでもなるか」
と、そんな事を言っている間に、既にM-10の分解が終わっていた。カズヤの予想通り、魔力伝達回路の速度と状態制御の二点をつかさどる部位が損傷しており、溜息を一つ。
「意外と酷い……。避けられるし、この部分の制御系は捨てて、ここをこうして……。ここをこっちに付け替えて……」
やはり呟いている間に、言葉よりも何工程も先に進んでいる状況。やがて、言葉が終わる前に応急処置を終え、M-01を一見すれば元の状態へ戻す。
動作確認を軽くすませ、カズヤは「さて」と呟きながら物陰からビルの外を伺った。少し首を出した直後、スフィアからの光弾が顔のギリギリの所を通り、慌てて身を隠す。
「理由は分からねぇが、俺も狙われてるっぽいな。どうするか」
最善手はティアナとスバルの二人と協力出来ることだったが、それをすれば彼女達の試験がどうなるかも分からない為、却下。もしかすれば、彼女達に一時的な試験の中断が試験官から伝えられているかもしれないとそう考えていると
『ちょっとカズヤ』
カズヤへティアナからの念話が届いた
* * *
「リボルバー……」
「クロスファイヤー……」
「「シュート!!」」
ティアナのアンカーガンを囮とし、オプティックハイドで姿を消したティアナとスバルによる一斉射撃。事前の打ち合わせ通りにクロスシフトを決め、スフィアを全滅させたスバルとティアナ。
周囲を警戒し、撃ち漏らしが無い事を確認してから、スバルがターゲットを破壊、ティアナはアンカーガンを回収する。
「残り時間も十分あるね」
「そうね。ラスト五分。これだけあれば設置してある大型スフィアの攻撃回くぐりながらでも、余裕でゴール出来るわ」
時間を確認。今後の予定を確認しようと、ティアナがスバルを見れば、スバルは別の方向を向いて、ポカンとしていた。そんなスバルを訝しげに見ながら、ティアナがスバルと同じ方向へ視線を向ければ、何故か明後日の方向へ向かって放たれている対空砲火と、その対空砲火を避けている見知った影。
正直、ティアナとしてはなんであいつがと思わずにはいられない。
「ねぇ、ティア」
「気のせいよ」
「いや、カズヤだったよ。あれ。間違い無く」
「……」
スバルの視力の良さは知っているから、彼女が言うのなら間違いないのだろうけど。
「なにやってるのよ、あいつ」
「危険空域に入っちゃったのかな? とりあえず、避け切って近くのビルに隠れたみたいだけど」
「……試験官からなんで連絡ないのかしら。もしかして続行?」
「カズヤ、大丈夫かな? M-10から凄く嫌な煙が上がってたよ。それに最後のアンカーガンでの移動も、バランス崩してたからもしかしたら」
「……流石にこれで何かあれば後味悪いわね。試験官が何も言ってこないのも気になるけど」
そう言いながら、オープンチャンネルでカズヤへと念話をつなぐティアナ。
『ちょっとカズヤ』
『おお、ティアナ。ちょっと待て、今からあのふざけたスフィアを壊す』
『待ちなさい。いい訳無いでしょ』
『試験官が何も言ってこないんだ。連絡もつかん。このまま隠れてるのもありだろうけど、さっきからスフィアがちょっかい出してきてて、何があるかも分からないからな。ティアナ達は先に進め。コースアウトでルール違反になっちまうぞ。こっちは大丈夫だから』
あくまで冷静なティアナとカズヤの会話。だが聞く者によってはカズヤの言葉はあまりに投げやり。
自身のことを度外視しているように感じられた。
だからだろう。『大丈夫じゃない!』と、スバルはカズヤへと噛み付いた。
『カズヤが危ないって言うのに、私たちだけ、のうのうと試験を続けるなんて嫌だよ!』
『俺の自業自得だ。気にするなスバル』
『でも!』
感情が高ぶり、涙目になりながらなおも食い下がるスバル。
そんなスバルの気持ちは素直に嬉しかったが、カズヤの気持ちはスカラーこそスバルと同じであるが、ベクトルは真逆。このわからず屋がと心中で罵りながら、言葉を荒げる。
『でもじゃない!俺が原因で試験に落ちるなんて事態になったら、それこそ悪夢だ!お前らには夢があるだろ!』
『だけど、その為にカズヤを見捨てるなんて嫌だよ!!』
『大げさだ!別に死ぬわけじゃ『落ち着きなさい二人とも』』
ヒートアップしていくスバルとカズヤ。横やりを入れたティアナは、どこかあきれた様子で。それでもどこか嬉しそう。
『カズヤ。分かってるでしょ? スバルは結局、自分のわがままを通すんだから。此処での口論は体力の無駄よ』
『だけどな!今回ばかりは、スバルのわがままを聞きたくない!俺はお前らの邪魔をしたいわけじゃない!』
『いいわよ。少しくらいの寄り道なんて。私の夢もスバルの夢も、まだ遠い空の彼方なんだから。それに、今は夢よりも仲間を優先したいの。私とスバルでスフィアを破壊する』
『ティア!』
『アンタのわがままに付き合わされるのなんていつもの事でしょ。それよりスバル。何かプランは?』
『え? あ、えーと……』
固まるスバル。それを見ていたティアナと何となく状況を察したカズヤが同時に「まったく」と呟いた。
それに合わせるように、悲痛に歪んで居たカズヤの顔に笑みが戻る。
『……何も考えてねぇみたいだな』
『そうみたいね』
『ったく。……ティア、ルール違反取られても、時間内にゴール位ならして欲しい、ってのが俺の心情で、お前らの言葉、素直に喜んでるのが俺の気持ちだ。だけど、ティアとスバルだけでってのは気に入らない』
カズヤの言葉、気持ちの吐露に、ティアナとスバルの顔が綻ぶ。その事に気がつくことなく、T-03と並列し、指についたデバイスのいくつかを起動、点検をしながら、カズヤは言葉を続けた。
『あのスフィア、破壊するなら俺達三人だ。それなら――俺にプランがある』
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