No.446127 インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#07高郷葱さん 2012-07-05 00:16:58 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3085 閲覧ユーザー数:2965 |
[side:箒]
「はぁぁ…凄いですね、織斑くん。」
モニターを眺めていた山田先生が溜め息混じりにつぶやいた。
確かに、一夏はISの起動が二回目とは思えないほどの健闘をして見せている。
だが、私は苦い顔をし、千冬さんは忌々しげな顔をしていた。
「あの馬鹿者。」
「一夏め。」
「浮かれているな。」
私と千冬さんの声が重なった。
「えっ?どうして分かるんですか?」
山田先生の追及に、私と千冬さんは二、三目配せをしたのち、千冬さんから言うことになった。
「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれはアイツの昔からのクセだ。あれが出る時は大抵簡単なミスをする。篠ノ之、お前はどうしてそう思った?」
「クセもありますけど、先ほどまでは無かった無用の被弾が増えてます。ビットを落して、攻撃に意識が偏ってるんでしょう。」
なんだか"肉を切らせて骨を断つ"と言わんばかりの戦闘に私はハラハラとしていた。
馬鹿者め。ISは
「へぇ…さすがご姉弟と幼馴染ですね。そんな細かいところまでわかるなんて。」
「ま、まあ、なんだ。あれでも一応私の弟だからな。」
「あー、織斑先生。照れてるんですか?照れてるんですね?―――ほぇ?」
ギリギリギリギリ
千冬さんのヘッドロックが山田先生の頭を掴まえて締めあげる。
「いたたたたたたっ!!」
「私はからかわれるのが嫌いだ。」
「はっ、はいっ!わかりました、まかりましたから放し…あうぅぅ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ山田先生とそれを無視して絞め続ける織斑先生は置いておいて、私はモニターに視線を送り続ける。
一夏………
嫌な胸騒ぎを覚えたその時、試合が大きく動いた。
オルコットに接近を果たした一夏が残る二機のうちの一機を斬り伏せ、その返す刃でもう一機を撃破。
本来なら振り抜かれてしまうソレをPICの慣性操作で止め、オルコット本人に向けて刃を返す。
ライフルは長すぎる銃身の為に向けることはできず、攻撃端末は全てが撃破された。
『かかりましたわね。』
そんな一夏にとって絶好のタイミングで、オルコットが嗤った。
「一夏っ!罠だ!」
思わずインカムに向かって叫ぶがもう遅い。
『お生憎様。ブルーティアーズは六機あってよ。』
オルコットの腰部スカートアーマーの突起が外れてその先端を一夏に向ける。
『ッ!?』
急な軌道変更で回避しようとする一夏に、二発の弾頭型ビットが追いすがる。
接触。
赤を超えて白く見える爆炎に白式が包まれる。
「一夏っ!」
黒煙が少しずつ広がり、オルコットは勝ち誇った表情を見せている。
確かに、あの直撃を貰えば一気にシールドエネルギーは消耗する。
「…ふう。なんとか間に合ったみたいだね。」
思わず私が一夏の名を呼んだ時、背後から二十数分間沈黙したままだった空の声がした。
何が間に合ったのか。
「ふん。機体と、千凪に救われたな、馬鹿者めが。」
千冬さんの顔に安堵が微かながら混ざった。
モニターの向こう側では、黒煙が一気に吹き飛ばされて"白"が真の姿で現れた。
* * *
[side:一夏]
ミサイルの直撃を喰らって、『あ、墜ちた』と思った瞬間、それは起こった。
『―
メッセージログが表示されたと同時、意識にデータが流れ込んでくる。
そして、ボロボロになりながらも俺の剣であり続けてくれる白式が光の粒子になって弾けて消え、再構築されてゆく。
新しく形成された装甲は、最初の白さを超え、薄ぼんやりながら光を放ち続けている。
まるで、冬を超えたつぼみが、春に花開いたかのように。
蛹の中で春を待っていた蝶が、羽化するかのように。
ようやく、白式は本当の意味で俺の相棒になった。
「ふぁ、
どこか工業製品的な凹凸があり、直線的だった白式の姿はなめらかな曲線と
「さて、ここからが本領発揮だ!」
生まれ変わった刀――近接特化ブレード《雪片弐型》を握る手に力を込める。
その刀身は『ブレード』と銘打たれているが日本刀、どちらかと言えば太刀に近い。
――好都合だ。今の俺に、刀以外の武器は使えない。
「俺は、世界で最高の姉さんを持ったよ。…いや、姉さんだけじゃないか。」
雪片。
かつて、千冬姉が現役時代にふるっていた愛刀。
そして、その雪片を十全とは言えないまでも、振り回されない程度に扱えるように、剣の感覚を失わないように稽古に付き合ってくれた箒。
足りない知識面を補ってくれた空。
本当に、いろんなものに恵まれたな。俺は。
「だから、俺は…俺も家族を、仲間を守る。」
ずっとアキ兄と千冬姉に守られ、支えられてきて、箒や弾、ここに来てからは空にも支えられてきた。
だから、今度はこっちが支える番だ。
「は?あなた、何を………」
「とりあえず、今は想いに答えなきゃな。」
箒も、空も、千冬姉も。
みんな俺の勝利を願ってくれてる。
「だからさっきから何の話を……ああもう、面倒ですわ!」
弾を再装填したミサイル搭載型のビットがセシリアの命令に従って飛んでくる。
だが…
「ここだっ!」
発射される寸前のミサイルのうち、一発だけを斬り払って一気に詰め寄る。
爆発。
その爆発に巻き込まれて他のミサイルが誘爆する。
その爆発を背に、俺は宙を蹴る。
ここ一週間、ずっとやり続けてきた踏み込みの要領で勢いをつけて跳ぶ。
空は言っていた。PICは『慣性を操るモノだ』と。
ならば、前に向かって全力で働かせればそれは急加速になる。
踏み込み。
背中の爆発も合わせて勢いをつけた俺は一気にセシリアに肉薄する。
「い、
慌てるセシリアに薄青く輝く刀身で逆袈裟払いを放つ。
「これで、終わりだァァッ!」
そして、輝く刃が―――
* * *
「散々持ち上げておいて、この結果か。この大馬鹿者。」
試合が終わり、ピットに戻った俺を迎えたのは千冬姉の辛辣な言葉だった。
セシリアとの試合はどういう訳か俺の負けだった。
おかしいな。シールドエネルギーはまだ一二〇くらいは残ってた筈だし、攻撃は喰らって無かったのにな。
「武器の特性を考えずに使うからああなるのだ。身を以って分かっただろう。明日からは訓練に励め。暇があればISを起動しろ。いいな。」
「………はい。」
頷く。頷くしかない。
なんせ、あそこまで大見得切って負けたのだから。
「えっと、ISは今、待機状態になってますけど、織斑くんが呼び出せはすぐに展開できます。ただし、規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はい、これ。」
どさっ。
そんな重々しい音を立てて『IS起動におけるルールブック』が俺の前に置かれた。
「何にしても今日はこれでお終いだ。帰って休め。」
「それじゃあ、織斑くん、篠ノ之さん、千凪さん。お疲れ様でした。」
千冬姉と山田先生がピットから出て行き、残される俺たち三人。
「それじゃあ、簡単に反省会といこうかな。」
にっこりと笑ってる空。
ただ、無性にその笑顔が怖い気がする。
「とりあえず、『何故負けたか』なんだけど…これは単純に一夏がシールドエネルギーを『使い切った』からだよ。」
「シールドエネルギーを…」
「使い切った?」
俺と箒は訳が分からずにオウム返しのように復唱する。
「そう。それが白式の装備、雪片弐型の特殊能力だと思ってくれていいよ。」
『思ってくれていい?』どういう事だ?
それよりも…
「はい、先生。その特殊能力って何なんですか?」
つい、ふざけてではないが空を先生と呼んだ。
まあ、この場ではそんな立ち位置だから間違いじゃないと思う。
「シールド無効化。相手のシールドを無視して攻撃をする事ができる、ある意味では最強クラスの攻撃力を持つ能力だよ。」
シールド無効化、シールドを無視。
それはつまり、攻撃が当たれば絶対防御が発動するってことか。
「但し、その為には莫大なエネルギーが必要になるんだ。そのエネルギーは何処から調達されているかと言うと…」
「そうか、シールドエネルギーか。」
俺の答えに空は満足そうに笑う。
「そう。雪片の能力はシールドエネルギーを攻撃に転化し、相手のシールドを無視してダメージを与える。そういうものなんだ。」
「だから、シールド残量を食いつぶしてこの
ぐさり。
箒の言葉が刺さる。
「そう言う事だね。まあ、代表候補生相手にギリギリまで喰らい付いたんだから、腐らずに研鑚を積めば何時かは勝てるよ。と言う訳で、箒はしっかりと手綱を握っておくこと。」
「ああ。」
手綱って…俺は馬かなにかか?
「二人は先に戻ってて。データを纏めてから僕も戻るから。」
「それじゃ、言葉に甘えさせてもらうぜ。」
空に促されて俺と箒はピットを出ることにした。
* * *
翌朝、あり得ない事が起こった。
「では、一年一組の代表は織斑一夏君で決定です。あ、一繋がりでいい感じですね。」
嬉々として喋る山田先生と盛り上がるクラスの女子たち。
一方で空は疲れ果てているような様子。
「先生、質問です。」
「はい、織斑くん。」
「俺は昨日の試合に負けて、なおかつセシリアと空の試合もまだやってないのになんで俺が代表になってるんですか?」
「それは」「それはわた」「オルコットが辞退し、千凪は代表に不適切という判断が下されたからだ。」
山田先生のセリフにかぶせるようにセシリアが言い始め、そのセリフを千冬姉が遮った。
憮然とするセシリア。
けど、今はそれどころじゃない。
「空が代表に不適切?」
技術系の授業の時は山田先生の代わりに授業やってた空が?
クラスの中で、早くも委員長的な立ち位置になってる空が?
「千凪の所属する組織は少々特殊でな。クラス代表との掛け持ちは不可能と判断されたからだ。」
そんな特殊な組織って…どんなとこなんだよ。
「詳しい事は機会が有れば教えてやる。とにかく、クラス代表は織斑一夏で決定だ。異存はないな?」
「はーい。」
俺や返事をする余力すらないらしい空を除くクラスメイトたちほぼ全員の返事。
団結は良い事だが、俺にとっては全然良くなかった。
…それにしても空、大丈夫かな。
「さて、授業に集中しろ。この大馬鹿者。」
パァン!
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#07:クラス代表決定戦(後編)