これはイタチがクロノと接触して別れてから、数日後の話…
イタチは唐突にフェイトに対して提案するようにある話しを持ち掛けた
「…フェイト、今度の休日…アルフと一緒に遊びにでも行かないか?」
「…遊びに…ですか?」
イタチの唐突な提案に対して思わず首を傾げて聞き返すフェイト
イタチはそれに肯定する様に頷き、話しを続ける
「…あぁ、フェイトは何処か行きたい場所とかあるのか?」
「…行きたい場所?」
イタチの問いかけにフェイトは色々な場所を思い浮かべながら深く考え込む
そして、何か思いついた様にひとしきり考え込んでいたフェイトは嬉しそうにイタチに自分の行きたい場所を告げる
「…うーん、なら!遊園地に行ってみたいな」
「…遊園地?」
イタチは無邪気に答えるフェイトに対して思わず聞き返す…
遊園地…は確か沢山の乗り物があるアミューズメントパークだったか
イタチ自身、あまりそんな所に…というより今まで一回たりとも足を運んだ事が無いので思わず返答に戸惑ってしまった
まぁ、とりあえずどんな場所かは行ってみれば分かる…娯楽施設なのは間違いなさそうだ
イタチはそんな事に思考を巡らせつつ、遊園地に行きたいと告げたフェイトに優しく微笑み了承した様に頷いた
「…分かった、なら今週の休日に遊園地に行こうか…」
「…ホント! ありがとうイタチ兄さん」
そう言って、フェイトは遊園地に連れて行ってくれると約束したイタチの首元に抱き着き嬉しそうにお礼を述べる
イタチはそんな嬉しそうに抱きついてくるフェイトの頭を優しく撫でてやりながら、リビングに座り雑誌を読んでいるアルフにへと視線を移す
「…なぁ…アルフ、勿論君もくるだろう?」
「ん? そうだね、せっかくだから一緒に着いて行くかな…」
イタチの質問に先程から読んでいた雑誌を手元から机に置きながら答えるアルフ
そんなアルフの返答にイタチはフェイトの頭を撫でながら、優しく微笑んだ
あの一件から、つい、最近までイタチの事を警戒し、厳しく監視していた彼女なのだが…
イタチがフェイトに対して本当に大切にしている事、
そして、自分の事すらも気に掛けてくれている事をこれまでの彼の行動によって逆に悟ってしまった…
ジュエルシードを封印し集める為に行動を起こしている事、
その目的をイタチの口から言い当てられ聞かされた時は肝が冷えたが、
その事に関して、彼は何も咎めないままこうやって接してくれている
勿論、彼女としてもあれ程何も躊躇なく人を手に掛けて殺すイタチを警戒する対象として外すつもりは無いが、
彼自身のそう言った気遣いに触れた彼女はひとまず日常にもそういったピリピリしたものをイタチに向けてギクシャクした関係にしようとするつもりは無かった
イタチとしても、アルフと険悪な関係を作り出してフェイトを悲しませたくはない
そういった互いの思惑があってか、今はこの様に落ち着いた関係となっている訳だ
アルフから、週末の予定の確認が取れたイタチは首元に抱き着いているフェイトに告げる様に話し出す
「…そういう訳だ、今週の日曜日に遊園地に遊びに行くとしよう」
「…うん! 楽しみにしてるね!」
優しく頭を撫でてくるイタチの言葉に満面の笑みを浮かべ頷くフェイト
こうして、三人は休日に遊園地に行く事になった…
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フェイトと約束した日から一週間が過ぎて、彼女が待ちに待った日曜日の休日
三人は交通機関を利用し、一時間程時間を掛けて遊園地にへと遊びに来ていた
フェイトは滅多に見せない無邪気な表情を浮かべて同伴者のイタチの腕を引っ張り先導していた
「…うわぁ沢山色んな乗り物があるよイタチ兄さん!」
「…そう言えば、フェイトと遊園地に遊びに行くのはかなり久々だったねぇ」
イタチを引っ張り先導するフェイトの姿に思い返す様に呟くアルフ
…こういった彼女の表情はやはり、珍しいモノなんだろう、
普段から優しく大人しい彼女はこういった風に振る舞うなんて事は無いに等しい
それは、彼女と長い時間過ごしたイタチにも分かる事であった
イタチは自分を引っ張り先導するフェイトに視線を落とし、やれやれといった表情を浮かべて言葉を掛ける
「…フェイト、まだ時間はあるからそう急かさなくても大丈夫だぞ」
「あ、ごめんなさい…つい二人と一緒に遊園地に来た事が嬉しくて」
畏まる様にして、引っ張っていたイタチの服から手を引き、謝罪するフェイト
確かに、彼女がはしゃぐ気持ちも分かるしイタチも連れて来た彼女が喜んでくれて正直、嬉しく感じる
今まで、こんな風に楽しく遊ぶ子供の様には出来ずに、ずっと容量良く礼儀正しい完璧な娘を彼女が演じる事を自然と強いられていたのだ
イタチはその事に関して、なんとなく理解は出来ていた…
…せめて、自分が側にいる時だけでも、彼女には肩の荷を降ろして貰いたい
だから、イタチは畏まる様に自分の服から手を離したフェイトの頭にポン と手を置くと優しく笑う
「そうか、なら早くフェイトが好きな乗り物に乗りに行くとしようか」
そのイタチの言葉に驚いた様に畏まっていたフェイトが顔を上げる
…彼が自分元に来るまで我儘なんて、出来る訳が無かった
楽しい時間も、アルフと二人で過ごした時間だけ
だけど、今は毎日が楽しい…何故なら、こうやって優しく包み込んでくれる彼が側に居てくれるから
アルフと一緒で私自身にとって、かけがえの無い人…
多分、私は彼の事が本当に好きで、好きで、仕方ない
完璧で礼儀正しくて、母さんが求める様な娘の様に私が憧れる優しいお兄さん
本当に自分は彼に救われている、何度、その彼の温もりが欲しくて甘えた事だろうか…
フェイトは頭に手を置いて優しく微笑み掛けるイタチにゆっくりと口を開いて答え始める
「それじゃ…ーーーー」
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遊園地に入ってからのあのやり取りから数時間程経過した
イタチはベンチに据わっているフェイトに近くの売店で買って来たフランクフルトを手渡していた
あの後から、フェイトから引っ張り回されて色んなアトラクションに同伴で乗り込んでいたイタチだがこうやって昼時になりようやく落ち着けた訳だ
「…ほら、アルフ君の分だ」
「お、サンキューイタチー流石気が利くねぇ」
そう言ってフェイト同様にイタチから手渡されたフランクフルトを受け取りお礼を述べるアルフ
イタチはそんな彼女の言葉にどう致しまして と微笑みながら返す
そんなアルフとのやり取りから暫くして、イタチは自分がして来た腕時計にへと視線を向けた
「もうすぐだな…」
「? もうすぐって何が?」
時計を見て呟くイタチの引っかかる言葉に訊ねるフェイト
だが、その疑問は数分もしない内に無くなってしまった
「…あー! 居たぁイタチさーん!」
何処かで何度も何度も聞いた事のある様な少女の声
しかも、あろう事かその声の主は自分が兄と思っているイタチの名前を呼んでいる
フェイトは思わずその声のした方にへと視線を向ける
「…あの子は!」
そう彼女の視線の先に居たのはなんだか無愛想そうな少年と、何度もジュエルシードを巡って争っていた筈の高町なのはの姿だった
イタチの方へと駆け寄ってくるなのはは言葉を続けながらこちらにへとやってくる
「昼時に待ち合わせって言ってたか…ら…」
…どうやら、向こうも気づいた様だ
フェイトの姿をみつけた瞬間、駆け寄って来た脚が自然とゆっくりとなっていた
そして、イタチはそんな驚愕な表情を浮かべる彼女等を横目に何事も無かった様に振る舞い始める
「…おや、遅かったじゃ無いか、クロノになのは」
「…済まないな、ちょっと着くのに手間が掛かってしまった」
そう言って、何事もなく振る舞うイタチの言葉に何気なく返すクロノ
アルフは何やら警戒した様な面持ちを示し、クロノと何事もなく会話をするイタチをギラリと睨んだ
イタチはそんな彼女に対してすかさず、最近クロノから教えて貰い使える様になった念話というモノを入れる
『…心配なら要らない、俺の友人だ…今回は管理局とは関係なく来てもらっている』
『…信用できんのかい? 大体、あんた私達が戦ってる魔法少女に会わせるなんてなに考えてるんだよ!』
アルフはイタチの釘を刺すような言葉に警戒を強めた様な口調で問いただす
しかもこの時、対面している黒髪の少年が管理局の人間だと、イタチの念話を通して初めて知った
『何…フェイトに危害を加える様な妙な輩なら俺が直ぐに排除する…問題ないだろう?』
至って冷静な口調で警戒を強めているアルフに返すイタチ
まさしく、そう言い張る彼は本当に躊躇無くやってしまいそうで恐い
アルフはそれ以上、冷静な口調で答えるイタチに問い詰める事は出来なかった
そして、そんなアルフの不安を他所に改めてこうやって対面した幼い二人の魔法少女達の間にはなんとも言えない雰囲気が漂っていた
イタチは言葉を互いに言い出せない二人に対して、代わりに話し出す
「…そう言えば紹介がまだだったな、俺の義妹のフェイトだ」
「い、イタチさんの義妹!」
イタチの信じられない言葉に声を裏返らせて驚愕するなのは
それと、他に隣にいたクロノも同じ反応をしていた
すかさず、クロノはイタチに対して念話で呼び掛ける
『…イタチ、聞いてないぞ』
『まぁ、成り行きでこうなった気にするな』
イタチの冷静なその言葉に黙り込むクロノ
確かに大して気にする事では無い様な気もしない訳では無い
これ以上、深く聞き入る必要性が無いとクロノは判断したのだ
イタチは屈み込んでフェイトと同じ程の視線に合わせると優しく微笑みながら話し出す
「そう言う訳だ…今日は俺の友人達が同伴してくれるみたいだから、いっぱい遊んでくるといい…それに俺もちゃんと付き合うさ」
イタチのその言葉に少しだけ動揺した様な素振りを見せるフェイト
確かにいきなり、先日まで戦っていた相手と親しく遊ぼうと提案された所で躊躇してしまうのは当たり前である
だが、そんな彼女の心情を察してか、それとも元々彼女に興味があったのか、
イタチが呼んだ少女の方からフェイトに対して右手を差し出し嬉しそうに微笑みながら自己紹介を始めた
「えっと、これで会うのは初めてじゃないよね、私、高町なのはっていうんだけど、貴女の名前聞かせてもらえるかな?」
「…フェイト テスタロッサ」
恥ずかしそうに手を差し出してくるなのはに名乗るフェイト
そんな様子を見ていたクロノはイタチに対して再び念話を使用する
『全く…彼女を説得して連れてくるの大変だったんだぞ、ユーノから友人として紹介してもらったから信じてもらえたものを…』
『恩にきる、クロノ…』
そう言って、念話で愚痴を溢す彼にお礼を述べるイタチ
そして、同伴していたアルフはなのはの身体を見てある事に気づく…
「…そう言えば、あの喋るフェレットの姿が今日は見えないね」
「あー、えっとユーノ君はちょっと用事があるみたいで今日は家で留守番してるの」
困った様に頬を掻きながら、疑問を口にしたアルフに答えるなのは
実の所、ユーノは今日に限ってなのはの母親や姉から連行され、最近流行りのペット専用の衣類による着せ替え人形みたいにされているだとか、
なんとも、哀れな事だと彼の友人であるクロノは思った、
ちなみに彼が人間だと知っているのはこの場においてイタチとクロノだけである
「…まぁ、それはまた酷い話だ」
クロノから念話でその話しを聞かされたイタチも思わず彼に対する同情を込めて、そう呟いてしまった
すると、そんな呟いていたイタチの視線の先にある女性の姿が入ってきた
「あらあら、クロノ、彼が貴方が話してた友人さん?
ずいぶんかっこいいお兄さんねぇ」
そう言って微笑みながらクロノの後ろからこちらにへと近づいてくる女性
勿論、イタチは面識も無く全く知らない人物だ
この遊園地に呼んだ覚えもなければ接触した経験も無い
自然とイタチは苦難を仕舞ってある自分のジャケットの懐にへとそっと手を忍ばせた
こう言ったイレギュラーはイタチにとっても充分、警戒に値する
幾ら、女性であるとはいえフェイトやアルフに危険を及ぼす様な人物を近寄らせる訳にはいかない
だが、イタチの前にいたクロノが恥ずかしげに真っ赤な顔をして振り返る様子を見るとゆっくりと苦難から手を離す
「…恥ずかしいからそう言う風に呼ぶのやめてくれよ、頼むから」
「いいじゃない、顔真っ赤にして可愛いわねぇ」
互いに親しげに会話を交わしクロノをからかう様に笑み溢す女性
…クロノの姉かなんかだろうかとイタチは思わずその若々しい顔つきを見て考える
見事なプロポーションで黒いスカートに女性用の赤いジャケットが見事に映えてとても魅力的だと言っても過言では無い姿だ
だが、こうしたイタチの考えを覆す様な言葉を次の瞬間に彼女は口にする
「あ、自己紹介が遅れてごめんなさい、クロノの母親のリンディ ハラオウンといいます」
「…え?」
我ながら間抜けな声を上げたなとこの時イタチは思った、
見た目を大きく裏切ってくれる様なその言葉には流石に驚きを隠せないのも仕方が無い
同じく、声を上げたなのはやフェイトも同様に驚きを隠せないでいたらしい、
…まぁ、そうだろう
口にするのは大変失礼だろうが、あの無愛想な顔つきのクロノからは想像出来ない様な人物だ
一般的に見間違えても仕方が無いといえるだろう
…だが、以前見たなのはの母親の桃子さんも随分と若い様な気がしたのだが、まさか若い風貌の母親がこんな風にあちらこちらに居られると…なんというか自分の眼を疑ってしまう
忍として、そういった外見を見抜ける様に精進しなければならない
未熟なものだな…俺も…
イタチは自己紹介を終えた彼女を見て、ふと自嘲気味に笑みを溢しながらそう感じた
そして、自己紹介を終えたリンディは早速、自分前にいるイタチに近づいて優しく微笑みそっと手を掴む
単純に親交を深める為の握手というものだ
「いつもクロノが世話になってるみたいね、ありがとう」
「いえ、彼には俺も感謝してますよ本当に助かってます」
そう言って、警戒を完全に解いて柔らかく微笑みリンディに答えるイタチ
人柄的にも、彼女はここで問題を起こす様な人物でない事もクロノの反応や自分に対する対応を見ていれば分かる
クロノはなんだか、自分とリンディとの会話が恥ずかしい様だがこの際イタチは気にしない事にした
そして、リンディはイタチの手を掴んだまま続けて話しをし始める
「…それで、実はちょっと貴方に聞きたい話しがあるのだけれど少しだけ時間よろしいかしら?」
「…えぇ構いませんよ」
イタチは手を握り提案するリンディに頷き答える
大方、顔には出さないがフェイトとアルフについてだろうとは予想がついていた
管理局の人間なら当然自分から聞き出して知りたい情報もそこそこあるだろう
そして、イタチはリンディの手からそっと手を離して自身の近くにいるフェイトとなのはに優しく微笑みかける
「そういう訳だ…俺は暫く彼女と話しがあるから、アルフとクロノと一緒に遊んで来るといい、
何、あそこのテーブルに俺達は座ってるから、何があれば直ぐに君達の所に駆けつけて来る…」
「…うん、わかった行こ、フェイトちゃん」
「え、う、うんわかった」
屈んだまま話すイタチに対してフェイトの腕をつかんで楽しそうに駆け出してゆくなのは
イタチはそんな二人の後ろ姿を見たのちにすかさずクロノとアルフに視線を移す
フェイトとなのはと違って、二人はなんだか仲はあまりよろしくなさそうだがとりあえず彼女等を今任せれるのは彼等しかいない
「…ひとまず、彼女達をお願いするな二人共」
「…こういう役回りは慣れてるから別に構わないよ私は、でもこいつはねぇ…」
「初対面の人物に対して失礼だな君は…」
そう言って、アルフの言動に顔を険しくするクロノ、
まぁ、なんだかんだで二人は彼女達を見るついでに遊びに行ってくれた…
どうやら、面倒見が良いのは二人共、共通だったらしい
イタチはこうしてリンディと二人っきりとなり遊園地にある野外のテーブルと席に座る
とりあえず、まどろこっしい質問などは面倒なだけだ、
イタチは対面している彼女にバッサリと訊ねる事にした
「…それで、俺に聞きたい事とはなんですかリンディさん」
「あら、単刀直入ね…」
そう言って、訪ねてくるイタチに微笑みながら答えるリンディ
だが、二人の間には既に見えない様な何か重さがあった
互いに貴重な情報を持ち合わせている事は分かる…
ただ、彼等はまだ会ったばかりで信用を置ける人物かと言われればそうでは無い
クロノとは違いこちらは大人だ、彼も優秀であるが彼女は彼の親である
…油断ならない
そんな事を互いに思いあってか、いつしか二人の間には重たい空気と静かな沈黙が流れ始めていた
だが、いつまでもこんな風に沈黙しているだけでは何も始まらない
暫くして、そんな重苦しい沈黙を破る様にリンディはゆっくりと口を開きイタチに向かい話し始める
「…ジュエルシードと彼女、フェイト テスタロッサについてよ…」
遊園地でのクロノの母リンディとイタチとの出会い…
これがもたらす情報は果たして彼にどういったものを知らせるのだろうか…
遊園地での休息はまだ終わらない
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法少女
あらすじ 沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男
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