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ゼロの使い魔 ~しんりゅう(神竜)になった男~ 第十話「報告、そして舞踏会」

光闇雪さん

死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。

第十話、始まります。

2012-07-04 23:28:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9250   閲覧ユーザー数:8936

モンモン達は今、学園長室でフーケの件の顛末を報告していた。

ちなみに俺も学院長室にいる。

寝床に戻っていたのだが、(何故か)モンモンに呼ばれたためだ。

 

まぁ、大方の予想通り、することもないためモンモン達の後ろでプカプカと浮きながら眠っている。

というかモンモンの意図がまるで見えない。なぜ俺を呼んだんだ?

 

そんな事を考えている時、僅かながら何かの物音がした。

目を開け辺りを見回して、モンモンとルイズの後ろに控える才人の足元に小さな穴があるのに気付いた。

その穴を見ると、小さな(ねずみ)が顔だけを出していた。

それだけならただの鼠と片付けて眠っていただろう。

しかし、妙にその鼠の視線が気になった。

視線を辿ると、ちょうどモンモン達四人のスカートにぶつかった。

 

って、何を見てるんだ、この鼠・・・・・・?

 

「おい、そこの鼠。なにをしている?」

「なにをって見て分からないのかい?」

「ああ、分からん。教えてくれると助かる」

「そんなの決まって・・・・・・、え?」

 

鼠はそこで言葉を途切らせると、ギギーッという音が聞こえてくるような動作で振り向き、俺と目があったところで動きを止めた。

 

「決まって、なんだ?」

「い、いいいいいいいえ。な、なんでもないです旦那! 決してスカートの中を覗いていたなんてことはないですよ!! ・・・・・・・あっ」

 

鼠は自爆よろしく自分がやっていたことを暴露した。

俺は『ほぅ・・・・・・』と呟いて、鼠を睨みつける。

鼠はビクッとなって、蛇に睨まれた蛙みたいに硬直してしまった。

 

「スカートの中を覗いていたねぇ・・・・・・。で、どういう了見だ?」

 

俺は睨みつけるの止めながら鼠に訊ねる。

鼠は硬直が解けたのか、もみ手をしながら説明しだした。

 

「は、はい。わたしはハツカネズミのモートソグニルと申しまして、オスマン様の使い魔をやらせてもらっております。スカートの中を覗いてましたのは、ひとえに主人の命でして、はい」

「ほぅ・・・・・・。するとあれか? じじぃ、もとい、ここの学院長であるオスマン氏が自分の生徒のスカートの中を調べて来いと、そう命令したというのか?」

 

俺はコルさんと何か言い争いをしているじじぃを横目に、鼠、もとい、モートソグニルにそう確認した。

モートソグニルはしきりに頷いて、もみ手をしながら笑みを浮かべる。

 

「は、はい。そうでございます、旦那。へへへへ」

 

俺はそれにつられるように笑みを浮かべた。

しかし、実際はそれとは裏腹の気持ちが湧いてきていた。

どんなにスケベなじじぃでも、自分の生徒のスカートの中を探らせるような真似をするはずがない。

 

それをさも命令されたかのように言うとは・・・・・・、このクソ鼠が・・・・・・。

 

「ふざけるなよ、クソ鼠」

「へ?」

 

俺が重低音の声色で言い放つと、笑みを浮かべていたモートソグニルはその言葉を聞き動きを止めた。

俺はモートソグニルを睨みつけると、さらに言葉を続けた。

 

「じじぃはここの学院長だぞ。どんなにスケベでも、自分の生徒のスカートの中を探らせるように命令するワケがないだろうが、クソ鼠。本当のことを言わないと食っちまうぞ」

「ヒィッ!? ホ、ホホホホホントはわたしの独断です、はい! 主人に報告すれば、ナッツをもらえると思いまして!」

 

モートソグニルは悲鳴を上げ口早に話しだした。

試しに何も言わず睨みつけながら牙を見せると、『ホ、ホホホホホホントのことですぅ!』と言って、両手を合わせ拝み倒しながら、許しを乞うてくる。

 

「どうやら本当のコトを言っているようだ・・・・・・。今回は見逃してやるが、次同じようなことをしてみろ。今度は容赦なく食い殺すぞ。分かったか?」

「は、はい! 約束します! もうやりません!」

 

モートソグニルは背筋をピンと立ててそう返事をする。

 

「ああ、それから。じじぃに俺に苛められたという嘘の報告をするなよ?」

「(ビクッ)いやだなぁ、旦那。そんなコトするワケないじゃないですかぁ・・・・・・。は、は、は、は」

 

俺がそう釘をさすと、少しビクッとなってそう弁解するモートソグニル。

 

やれやれ。言うつもりだったんかい・・・・・・。

 

俺はため息を吐くと、再度モートソグニルに一睨みして釘をさした。

モートソグニルは『は、はい!』と言って、何度も頷き穴の中へと引っ込んだ。

俺はしばらくそれを見つめていたが、じじぃの咳払いで視線をそちらに向けた。

 

「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえて、“破壊の杖”を取りかえしてきた」

 

どうやら全員、俺とモートソグニルのやり取りには気付いていなかったようだ。

 

まぁ、気付いてもらっては困るけどな。

じじぃの股間(沽券)に関わる問題だ、うん。

 

俺はそう考えながら、誇らしげに礼をしている四人とその後ろの才人を見つめた。

 

「フーケは城の衛士に引き渡した。そして“破壊の杖”は無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ。君たちの“シュヴァリエ”の爵位申請を宮廷にだしておいた。追って沙汰があるじゃろう。といってもミス・タバサは既に“シュヴァリエ”の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」

 

じじぃは一人ずつ頭を撫でて、そう告げた。

表情は分からないが、後ろ姿の四人は嬉しそうだった。

 

う~ん。タバサは勲章だから分かるが、あとの三人は・・・・・・。

 

「“シュヴァリエ”ねぇ」

 

俺はそう呟きながら、“深く思い出す”を使った。

これは寝床に戻った時に思い出した特技の一つだ。

ほかに“思い出す”,“もっと思い出す”,“忘れる”というのも思い出した。

 

というかあの時は呆然としたね。

だってフーケを捜しに行く前に、これらを思い出していたらフーケの正体が分かってたかもしれないだろ?

まぁ後悔しても始まらないから、すぐに気持ちを切り替えたんだがな。

 

過ぎたことは忘れてこれから活用していこうってことで、今使っているワケなんだが、ちと問題がある。

 “思い出す”,“もっと思い出す”,“深く思い出す”の特技は深く心に刻み込んでいなくても、それぞれ転生後から現在まで、転生する一年前から転生後まで、転生する十年前から一年前までの範囲の見聞きした全てのものを思い出せるようになっていて、その記憶は膨大かつ未整理状態だ。

 

だから探すのにも一苦労というワケだ・・・・・・。

まぁ、愚痴を言っても始まらないがな。

 

そう結論付けた俺は、目的のものを捜していく。

 

・・・・・・・・・・・・シュヴァリエ、・・・・・・シュヴァリエ、・・・・・・。

お、あったあった。えっと・・・・・。

 

【シュヴァリエ】

 王室から与えられる爵位としては最下級の称号。

 しかし、男爵や子爵の爵位が領地を買うことで手に入れることも可能であるのに対して、シュヴァリエ純粋に業績に対して与えられる“実力の称号”である。

 

ふむふむ。それならば、三人が嬉しくなるのは頷けるな、うん。

 

「・・・・・・オールド・オスマン。サイトには、何にもないんですか?」

 

元気がなさそうに立っている才人に気付いたのか、ルイズがおずおずといった感じで訊ねた。

じじぃは一度、才人を見つめるが、残念そうに首を振り答えた。

 

「残念ながら、彼は貴族ではない」

「何もいらないですよ」

 

才人がそう言うと、じじぃはぽんぽんと手を打った。

 

「さてと今日の夜は“フリッグの舞踏会”じゃ。このとおり“破壊の杖”も戻ってきたし、予定通り執り行う。今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

 

その言葉で、まずキュルケとタバサが、次に才人を心配そうに見つめていたルイズが、そして最後に俺が巻きつくのを待っていたモンモンが、礼をしてドアへと向かい、才人を残して部屋を出たのだった。

 

*****

 

「スー、スー」

 

俺は(たてがみ)を布団代わりにぐっすりと眠っているロビンの寝息を聞きながら、記憶の整理をしていた。

なぜロビンがいるのかというと、今“フリッグの舞踏会”という宴が開かれており、モンモンがそっちにいっていないため寂しがったロビンがこっちに来たというワケだ。

 

ああ、そう言えばモンモンが“フリッグの舞踏会”で一緒に踊ったカップルは、将来結ばれるという言い伝えがあると言っていたっけ。

はてさて主は誰と踊っているのやら。

 

「お前、さっきから飲みすぎじゃねぇのか」

 

どうも気になって寝られないため、ロビンを起こさないようにモンモンの部屋に寝かせた後、舞踏会が行われている食堂の上の階の大ホールに向かうと、デル公の声が聞こえてきた。

視線を向けると、バルコニーに才人とデル公がいた。

 

「うるせぇ。家に帰れるかも、と思ったのに・・・・・・、思い過ごしだよ。飲まずにいられるか」

 

あれは相当、飲んでるなぁ。しかもやけ酒だし。

まぁ、気持ちは分からんでもない。

帰れる手掛りがあると思ったのに、期待はずれだったんだからな。

才人じゃなくても、ああなる・・・・・・・。

ただ、あれは飲みすぎだ。ここいらで止めないと身体に毒だな。

 

小童(こわっぱ)。そんなに飲むと身体に毒だぞ≫

 

俺はそう言いながら身体を最小サイズにして、バルコニーの枠に乗った。

才人は赤くなった顔をこちらに向けると、ワインをグラスに並々と注ぎ、それを飲みほしてから答えた。

 

「ほっといてくれよ。今、飲みたい気分なんだ」

 

やれやれ。・・・・・・これは相当重症のようだ。

こりゃ、俺が何を言っても止めないな。

どうすっかねぇ・・・・・・。

 

「こりゃ、おでれーた。韻竜どもの神さまじゃねぇか。どうしてこんなとこにいるんだい?」

 

苦笑しながら才人を見ていると、デル公がそう訊ねてきた。

 

韻竜の神・・・・・・?

何を言ってんだ、こいつまで・・・・・・。

 

≪我は韻竜の神ではないぞ≫

「そうか? う~ん、違ったか。それにしても似てるんだがなぁ」

 

はっ? 俺が韻竜の神に似てる?

 

≪それはどういうこ――≫

『ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~~り~~~~!』

 

デル公に詳しく訊こうとした時、ルイズが到着したことを衛士が告げてきたため、反射的に視線を扉に向ける。

 

「ほぅ」

 

思わず言葉がもれてしまった。

ルイズは長い桃色がかった髪をまとめて、白のパーティドレスに身を包んでいた。

肘までの白い手袋がルイズの高貴さを演出して、胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を宝石のように輝かせている。

 

あれ? 俺は何をデル公に訊こうとしてたんだっけ・・・・・・・?

まいっか。それほど、重要ではないんだろう。

ここで“思い出す”を使ってもいいんだが、一々それを使っていると、それに頼りっきりになってしまうからな。

極力使わない方がいい。

それに整理も全然終わってないしな。

 

「さて、才人はルイズに任せてモンモンでも探すとしよう」

 

俺は寂しく佇む才人に近寄ってくるルイズを見て、そう呟き当初の目的であるモンモンを探すため、その場を離れた。

 

「お、いたいた・・・・・・」

 

ある程度離れたところで、目的のモンモンを見つけた。

モンモンはギーシュと食事をしていた。

 

で、まぁ、それは良かったんだが・・・・・・、何というか、こう、その二人の様子が、ね・・・・・・。

『素直になろうよ、モンモランシーさん』と言いたくなる雰囲気を醸し出してるんだよ。

 

説明するとこんな感じだ。

 

話しかけるギーシュ

素っ気ない態度をとるモンモン

隣にきた他の女生徒に話しかけるギーシュ

怒ったような悲しいような表情をするモンモン

再び、モンモンに話しかけるギーシュ

素っ気ない態度をとるモンモン

 

それを繰り返しているワケだ。

 

な、皆も思うだろ? 素直になれって・・・・・・。

 

「やれやれ。やっとか・・・・・・」

 

それから十数回繰り返したモンモンは渋々といった感じでダンスを申し込むギーシュの手をとり、ダンスを踊り始めた。

俺は苦笑し呟くと、その二人のダンスを見守っていく。

その二人の近くにはルイズと才人がダンスを踊っていた。

 

「一応はフッきれたようだな。良かった良かった」

 

しきりに『おでれーた!』と繰り返しているデル公の声を聞きながら、俺は笑っている才人を見てそう呟いた。

 

「りゅ、竜がいるなんて聞いてないの。ど、どうしよう・・・・・・」

「ん?」

 

その時、後ろから声が聞こえてきた。

振り返るとそこには、一羽(ひとり)のフクロウがいた。

そのフクロウは何かを器用に掴んでいた。

 

あれは、紙か・・・・・・?

ああ、誰かに書簡を届けにきたのか。

で、俺に気付いて往生してるってワケね。

 

「で、でもでも。これを届けるのがボクの仕事なの。な、何があっても届けないといけないの。で、でもでも。やっぱり竜は怖いの~」

 

フクロウは俺が見てることに気付いていないのか、独り言をつぶやいている。

 

「やれやれ・・・・・・」

 

俺は苦笑すると、バルコニーの枠から身体を浮かせた。

そして、サイズを三段階大きくしながらその場を移動していく。

 

『あ、あれ? ボクに気付いてない? よ、良かったの。これなら届けられるの』

 

フクロウは俺が移動していることに気付いて、素早く舞踏会場へと飛び込んでいった。

俺はそれを見届けると、寝床へと戻った。

 

「さてさて、記憶の整理でも再会しましょうか、と・・・・・・」

 

*****

 

「・・・・・・神竜さま・・・・・・神竜さま・・・・・・」

 

寝床で眠りながら記憶の整理をしていた俺の耳に、小さく俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

薄目を開け辺りを見回した。

(ひげ)の先に視線を向けると、一疋(ひとり)の小動物が倒れているのが見えた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

慌てて顔をあげて呼びかけるが、その小動物は目の焦点が合ってはおらず、“神竜さま”と繰り返しているだけだった。

それもそのはず、その小動物には無数の傷ができており、瀕死の状態だったのだ。

 

「・・・・・・まだ息があるな。よし、これなら・・・・・・」

 

俺は小動物が死んでいないことを確認すると、“ベホマ”の呪文を唱えていく。

 

死んでいなのなら、これで助かるはず・・・・・・、間に合ってくれよ・・・・・・!

 

〔ベホマ〕

 

呪文を唱えている途中で、小動物が気絶してしまったが、何とか呪文を完成させることができた。

効果はすぐに現れる。

無数にあった傷が消え、息絶え絶えだった呼吸も整っていった。

 

「〔ダモーレ〕・・・・・・・・・・・・、ふぅ・・・・・・」

 

俺は“ダモーレ”の呪文を唱えて、小動物に異常がないのを確認し一息つくと、小動物を見つめていく。

小動物は心地よく寝息を立てていた。

 

こいつはイタチのようだな。

・・・・・・それにしてもこんな小さな身体で、あんな傷まで負ってまで、俺に会いにきたのはどういうワケがあるんだろうな。

まぁ、考えても分からんし、こいつが目覚めるまで待つしかないな。

もし急を要する事だったら、非常にマズい事になるが、その時はその時だ。

 

そう思った俺は小動物が目覚めるまで、記憶の整理をしながら待つことにした。


 
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