No.445899

ISジャーナリスト戦記 CHAPTER14 混沌日和

紅雷さん

マジで奇跡も魔法もあって欲しい。

2012-07-04 22:13:42 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3563   閲覧ユーザー数:3360

 

「・・・あー、ミスった」

目覚めてすぐに頭を抱えて呟いた第一声がそれだった。爆発後に意識が遠のき気絶してしまった事まで覚えているので誰かに試合の結果を聞かなくとも大体の今の状況を把握することは簡単だ。・・・そう、自分は負けたのである。

敗因もわかっていた。圧倒的な稼働時間の差を埋めようと必死になってしまった事による疲労とも言うべきモノが主な原因であった。

「素人がISに慣れていないってのに瞬時加速を二度も使うなんて無茶だったか・・・・・・情けねえ」

自分では奮闘したつもりだったがあと一歩及ばなかった。流石は代表候補生、タダでは勝たせてくれはしない。

落ち込んだまま不貞寝でもしてやろうかと時計を見ると時刻は夜の7時半頃。・・・道理でお腹が空くわけだ。適当に何か口へ入れに食堂にでも行くかな。

ISの操縦の反動でぎこちない動きではあるものの何とかベットから起き上がり非情なことに誰もいない保健室を後にする。まだ頭が若干クラクラするけれども歩けないほど辛くはなかった。

「・・・ん?ようやく起きたか、一夏」

その道中で職員室から出てきた千冬姉に出くわす。えーと、名字で呼んでないから今は千冬姉って呼んでいいのか?

「そう堅くならんでもいい、周りに人がいるわけでもないのだからな」

成程。俺以外の存在がいる時は教師の顔になるわけね。一日中姉としてでなく担任として接するのはなかなか慣れないもんだから嬉しい話だ。・・・でも、厳しいのは変わんないんだけどさ。それが千冬姉らしいと言えばらしいんだが。

これから寮へと向かうというので横に並んで歩きながら会話をする。

「体調の方はどうだ。無理のし過ぎでまだ痛むだろう?」

「まあ、寝てたおかげで多少は回復したから歩けるまでにはなっているけど・・・明日が怖い」

筋肉痛で起きれないって事態が一番恐ろしい。授業に遅れでもしたら困るのは自分だ。部屋に戻ったら湿布をありったけ貼ることにしよう。

「だが、得られたものも大きいな。初戦にして代表候補生相手に善戦する一般生徒は早々いない。お前にしてはよくやったと私は思うぞ」

「・・・お褒めの言葉として素直に受け取っておきます」

前情報もある程度手元にあったからこそあんな戦い方が出来たけれどね。追加武装がなかったら無駄にエネルギー消費して自滅していたんだろうなって思う。何よりもそっちの負け方はかなり後味が悪い。

気づけばもう寮の前へと辿り着いていた。千冬姉は既に夕食は済ませたというので寮長室へと一人向かっていった。別れ際にスポーツドリンクを一本だけ俺に残して。

自分もノロノロとしていたら夕食にありつけないのでさっさと食堂へと歩を進めることにした。なるべく消化の良いものを選んで食べよう。

閑散としている食堂で俺は久々に一人で静かにご飯を口にした。

 

 

 

◆今回のアイキャッチ◆

 

 

 

 

 

 

―――地球は狙われている・・・じゃなくて、事態は思いもよらぬ急展開を迎えていたっ!!(迫真)

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あっ、一繋がりでいい感じですね!」

全然良くありませんから。・・・てか、どういうことなの?俺は負けてオルコットさんが代表になったんじゃなかったのか。

もしかしたらこれは幻聴か幻覚、もしくは夢なのかもしれない。きっとそうに決まっている・・・よし、SAN値チェックだ!ダイスロールッ!

 

しかし SAN値は 至って 正常であった !

 

「解せぬ・・・」

嬉々として喋っている山田先生を横目にクラスメイトの様子を確認すると案の定大いに盛り上がっていた。こっちはわけわかめ状態なのに勝手に盛り上がるなよ。

「せんせー、質問です」

事の真相を確かめるべく織斑探偵は聞き込み調査を行なった。

「はい、織斑くん」

「俺は確かに負けたって聞いたんですけど・・・・・・何でクラス代表になってんでしょう?」

勝者がいるなら勝者がクラス代表になるべきだろう。これ常識でしょう。

「それは―――」

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

ガタンと立ち上がり皆の視線を集め中心線を作り出したのは腰に手を当てて『わたくしの考えたカッコいいポーズ』をしているセシリアさんであった。何か『説明しよう!○○は○○なのだ!』って言いそうなほど妙にテンションが高く上機嫌みたいだ。何があったし。

「代表候補生であるわたくしを相手にあれ程まで懸命に戦い、そして追い詰めた才能をここで野放しにしておくのは勿体ないと思ったのですわ。私は立場上いつでもISの運用時間は与えられていますが“一夏さん”はそうでないでしょう?」

確かに。開発先の企業にテストしてーとか特に連絡は受けていないしそもそも何処の会社が造ったのかも知らないから、ISを動かす機会というものはクラス代表にならない限り最低限しか訪れないな。・・・って、あれれ、今下の名前で呼ばれたような気が。

「やはりIS操縦には実践が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いに事欠きませんし、少しでもISの稼働時間を伸ばし慣れる機会があったほうが良いと思いましたの」

ぐぬぬ。的確に俺の今回の敗因を突いてくるではないか。全くもって正論だ。時間って大事なんだって改めて認識できたよ。

「いやぁ、セシリアはわかってるねー!」

「だよねー。せっかく世界で唯一のレア存在的男子がいるんだから、同じクラスにいる以上持ち上げていかないとね」

「私たちは貴重な体験を積める。他のクラスの子に情報を売れる。一つで二度美味しいね、織斑くんは」

ついでにクラスメイトが俺をどうしようと思っているのかも認識できたよ。人を商売の道具に使うな。

「まったくもってその通りですわね」

畳み掛けるように肯定しないでくださいよセシリアさんや。また皆が調子に乗るでしょ、煽らないで煽らないで。お願いしますから。

「織斑、オルコットには代表を辞退した代わりにお前のサポートをするように言っておいてある。私のクラスにいる以上適性経験やランクはゴミ並みに関係はないが差があるのは事実だ、しっかり技術を学んでおくように」

代表候補生って大体適性がAじゃないとなれないらしい。俺は確かBだって言われたから女に生まれていたらまずなれなかっただろうな。いや、そもそも女に生まれていたらどんな姿なんだろう・・・・・・千冬姉(小)って感じなのか?

容姿が似るのはいいけど中身は似たくないな・・・だって、他人に厳しいくせして自分に甘いというかだらしないし。この入学前家に帰ってきた時だって自分の下着ぐらいネットに入れてくれればいいのに適当に洗濯機に突っ込んで生地を傷ませていた。それをさらに俺のせいにするような二十四歳の社会人にはなりたくはない。

バシン!

「・・・・・・お前、今何か失礼なことを考えていただろう」

「出席簿で叩いてから尋ねないで下さい、織斑先生。入学してから家を暫く空けているので掃除とかしなくて大丈夫か気になっただけですから」

今咄嗟に思いついたが本当に気になっている。ええい、最後に見た光景を思い出すんだ!家を出る前日、部屋には実の弟が目の前にいるというのに羞恥心を持たず堂々と着替え出した姉の脱ぎ散らかした・・・そう、脱ぎたてホカホカと言ってもいい黒いパンストの類が散乱していた!入学準備で忙しかったために洗濯機に入れそこなったんだ。

やべえ、こうしている間にも雑菌は繁殖していくじゃないか。終いには虫が食って穴を開けているかもしれない。一刻も早く家を清潔にせに戻らなければ。

この後、本日の授業が全て終わるまで俺は家の事を脳裏から一時もこびり付かせたまま離さずにしていて、放課後に強制的に千冬姉を連れ出し家へと帰宅させ協力して掃除と洗濯を行なった。その際に溜まりに溜まった学園でのストレスをキレ気味口調で語り形勢がいつもと逆転した状態で説教をしまくったのは少々やりすぎだったのかもしれない。

何はともあれこれから代表として頑張っていこうと心に深く誓った。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、試しに飛んでみせろ」

毎日が慌ただしかったせいで本当に四月下旬なのか頭が混乱しかけてきた頃。出来れば代表決定戦前に行なって欲しかった授業を鬼教官こと千冬姉の下で俺は真面目に受けていた。・・・ただし、周りにはISスーツを着たクラスメイトの女子がいる状態で。

チラリと横目でその姿を観察すると『これが新しいスク水です!』って言われても信じてしまえるほど露出度が高い、僅かに垣間見える脇とニーソックスが創り出す絶対領域が目に映る。そして何よりも男として気になってしまう女子の胸だ。ISを操縦するにあたって下着は付けられないそうでスーツの下は当然生肌である。気にならないはずがないじゃないか、だって男の子だもん。

「早くしろ、熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」

でも自分、未熟なIS操縦者ですから。無理難題を次々と押し付けないでください。結局はするんだけどさ。

急かされて意識を高め集中する。普通はアクセサリー形状になるはずのISの待機状態は俺の場合、何故かガントレットと化していた。変更とかは出来ないそうなので永遠に防具な状態のISから抜け出すことはできないというのには微妙にショックを受けた。

文句を言っても仕方がないので右腕を突き出しガントレットを空いている左手で添えるように掴む。中二病で封印された俺の腕が云々みたいな姿だが試行錯誤した中で一番しっくりしたのがこれだった。展開というか侵食されているイメージが働きやすいというか何というか。

(来い、白式)

心の中でそう念じるように呟く。その刹那、右手首から全身を包み込む勢いで薄い膜が広がっていくのを感じる。約0.7秒の展開時間で体から光の粒子が解放されるように溢れていき、続けて再集結するが如くまとまってIS本体として形成されていく。

ふわりと体が浮いて軽くなる。各種センサーが意識的に接続されて世界の解像度が格段に上昇しているのがわかり、瞬きを一度すると俺の体は『白式』を装着した状態で地面から十数センチぐらい離れて浮遊していた。同じくセシリアも前の試合で損傷したビットを完全に修復させて『ブルー・ティアーズ』と共に浮かんでいる。

「よし、飛べ」

促されるままに急上昇し遥か頭上のある程度の高さで静止する。スタートはセシリアと同じだというのにスペック上機動性が高いおかげなのか体三つ分引き離す形で先に到着してしまった。・・・特に注意されないから気にしなくていいようだが。

しっかし、翼が直接生やして動かしているならまだしも固定されたまま離れた状態で二対あるとどうも自分で飛んでいるイメージというか実感が薄い。まるで操られて飛ばさせられているような感覚がしてならないのだ。そんな俺のぎこちない顔から察してくれたのかセシリアはアドバイスをくれる。

「浮遊するのに違和感があると思うのは誰もが操縦し初めて最初に考える事でしてよ。次第に慣れていけばなくなりますから訓練あるのみですわね」

「結局は時間の問題か。まあ、ボチボチやっていくのがやっぱり無難な方法だな」

悩み事は時間が解決してくれるというし焦らずやればいい、それがいい。

「そうですわね。ふふっ」

楽しそうに微笑むセシリア。その表情は何時ぞやの自己中なお嬢様とは思えないほど楽しげな笑顔だった。

あの試合以降、何かと理由を付けては俺のコーチを買って出てきてくれる。千冬姉に頼まれたからっていうのもあるんだろうが、どうしてここまで心境が変化したのかね。心理学を学んでいない今の俺には理解できないぜ。

もっとも、代表候補生から技術を学べるだけありがたいからあまり気にしないけどな。

「一夏さん、よろしければ放課後にまた指導してさしあげますわ。その時は二人きりで――――」

「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」

彼女が何か言いかけたところで突然の怒号が間に挟まる。見れば、遠くの地上では山田先生がインカムを箒に強奪されておたおたしているではないか。あっ、千冬姉の恒例の出席簿アタックが炸裂して奪還された。人のモノを許可なく取るのは良くないぜ箒さんよ。

「うーん、ハイパーセンサーがあれば望遠鏡は役目を追われて涙目だなこりゃ」

頭抑えてしゃがんでいる箒を見て思ったんだが、ハイパーセンサーと望遠鏡の単体での値段ってどちらが高いのかね。当然前者が高いと俺は予想する。後者ならとっくに望遠鏡は忘れ去られているに違いないからな。

「ちなみに、これでも機能制限がかかっているんでしてよ。元々ISは宇宙空間での稼働を想定して開発されたもの。何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するためですから望遠鏡なんて比較の対象に成り得ませんわ」

だろうね。けどさ、現実問題でISは宇宙で一度も使われていないんだよなー・・・想定通りに使っていれば今頃月に国際都市や宇宙ステーションでも造られて宇宙旅行が夢じゃなくなる時代になっていたと思うんだが、何処で世界は・・・いや、あの人は間違えてしまったんだろうか。白騎士事件があんな形で起こりさえしなければよかったものを・・・・・・。俺も箒も振り回されぱなっしである。

「織斑、オルコット、次は急降下と完全停止をやれ。目標は地表から十センチだ」

「了解です。では一夏さん、お先に」

言ってすぐさまセシリアは地上へと向かって行った。段々と小さくなっていく姿を俺はちょっと感心しつつ眺めた。そして難なく二つともクリアーしたようだ。―――次は俺の番か。

再び意識を集中させる。イメージ的にスラスターの上部部分だけを真下に行くように噴出させて脚部または腰部のスラスターでバランス調整だ。慎重に慎重に・・・・・・今だっ!

 

 

ギュンッ――――――――――――キキィーンッ!!!

 

 

「・・・地表から三センチ。墜落ギリギリだ、加減がまだまだ甘すぎる」

ですよねー。というか、墜落しなかったのが奇跡に思えるぐらいだ。てっきりグラウンドにクレーター作ってもおかしくはなかったんだが、たまたま運が良かったのだろうか?

再度挑戦させられ二回目は五センチ。う~ん、もう少しタイミングの調整が必要だな。機動性が高い分、細かな調整が必要になってくるみたいだ。

授業は次のステップへと移る。今度は武装の展開で既に幾度となく繰り返した動作だ。展開できる武装は多くはなく非常に限られているのでイメージがしやすいというか印象に残りやすい。

正面に誰もいないことを確認し、IS自体を纏った時と同様に右腕を左手で押さえ構える。

 

―――白く、鋭く、研ぎ澄まされた刃。自分の為だけの、強力な武装―――。

 

(来い・・・!)

瞬く間に手に剣を握っているという感触を覚える。同時に現れる際に放出されていた光が徐々に収まっていくと俺の手には≪雪片弐型≫が間違いなく握られていた。

「遅い。もっと速く出せるはずだろう、0.5秒以内に武装を想像して展開できるようにしろ」

んな無茶な・・・そこまで脳の処理は早められないんですよ。戦いの中じゃ咄嗟の判断で思い浮かべられるけど、そうじゃない場でこうして意識的に出現させるのとは違うんです。わかってくれとは言わないけど。

「オルコット、今度はお前だ。メイン武装を展開しろ」

「はい、わかりましたわ」

返事をしたその瞬間にセシリアの左手の手元には、何というか「ぺかー」といった感じで光が集まり筒状の狙撃銃が形成された。俺のように光の奔流が溢れ出すことがない分、圧倒的な速さがそこにはあった。

しかも、既にマガジン装填済みとは何が何でも早過ぎる。もうセーフティーを外すだけで撃つことが可能とか俺には到底真似できないな。

・・・などと感心していたら、ここでも千冬姉のダメ出しが炸裂した。

「流石は代表候補生・・・と、言いたいところだが、そのいかにも自己を表現するようなポーズはやめろ。お前は横に立つ人間を狙い撃つ気か」

「そ、そんなつもりは―――」

「ないのはわかっている。兎も角だ、直せ。正面に常に展開しろ」

「・・・はい」

渋々と従い頭を下げたセシリアはまだ何か言いたそうにしていたが、千冬姉の加減を間違えば人を一瞬で気絶させられる強烈な眼力によって阻止される。

この時怯えてしまった為に集中力が削がれてしまったのか、彼女は続いて近接武装を展開するのに時間をかけただけでなく、わざわざ武装名を叫ぶという初心者が用いる手段とやらを使ってしまった。

そこで更に怒られたのは少し可哀想に見えた。

「織斑との対戦の時のように懐に飛び込まれたくなければ下らんプライドなど捨て去れ。同じことを繰り返していては代表候補生として情けないぞ」

「・・・・・・」

もう止めてっ!セシリアの心のライフはもうゼロ寸前よ!

これ以上言っちゃったら泣くって、絶対。だから、教師として言わないといけないのはわかったから抑えて抑えて。

授業の最中に女の子の涙など見たくはないという一心で俺は話を一旦区切ろうとするも、なかなか上手く終わってはくれない。・・・まさか、こちらの意図を読んでわざとやってるのかよ千冬姉。

『・・・あ、貴方のせいなんですからねっ!』

え、セシリアからプライベート・チャネルからの通信?

・・・てか、泣いてるよ!?正確にはまだ涙を垂らす寸前で目元に涙が溜まっている状態だけれども、僅かな動作ですぐに頬をつたっていくぞ。どーすりゃいいんだよ!!

『せ、責任は必ずとってもらいますわよ! 元はと言えば貴方が突っ込んでくるから―――――(ごにょごにょ)』

「はあ?」

責任って何のことだよ。俺が対戦の時に突っ込んだことに関してごにょごにょと言っているのはわかるんだが、それと千冬姉の説教がどう関係あるのさ。

疑問に対して大いに悩みに悩んだ末に答えは出ず、終いには泣かせる直接の原因を作った千冬姉が何の後処理をすることなく授業を終わらせてしまった。

「・・・まったく、やれやれだ」

仕方なくフォローを入れる羽目になった俺は、ハンカチを渡すなりしてまずセシリアの涙を止めることに専念した。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

『―――おかけになった電話番号は現在、邪神召喚の儀式に使われているためお出になることが出来ません。留守電の方は発信音の後に「(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!」とメッセージをどうぞ』

「本気で本物と声を同じにしなくていいですから真面目に応答してくださいよ、灯夜さん・・・・・・」

すっかり慣れた学園での放課後に定時連絡を入れた私、魂魄妖夢を待っていたのはよく相手が留守電の時に聴く女性のアナウンスそっくりの声色にした所属する組織の中心人物のお巫山戯だった。

それに対し呆れ気味で私は真面目に返答し、いつもの・・・何というかシリアスさを出そうと頑張ってみる。だが、それでもなお異常にテンションが高いジョークは続行された。

『バカな・・・早すぎるっ!! ワルプ○ギスの夜がこんなにも、こんなにも――――』

『・・・狼狽えないで、戦う前から動揺していてどうするのよ。ここは冷静になって行動しなさい』

『彼女の言う通りだ、こちらの準備は既に整っている。様子を見て全員で波状攻撃で仕掛けるぞ』

『おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! 野郎、ぶっ殺してやらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

「だから、勝手に壮大なバトルを演出しないでくださいよっ!! 何で今日に限ってそんなに暴走気味なんですか!!」

冷静な判断で行動しているいつもの貴方は何処へ行ったんだ、と思わず勢いに任せて大声で怒鳴る。

ちなみに何事かと誰かが駆けつけてくる恐れがあるかもしれないが、幸いにも此処は自室であり同居人の咲夜さんは現在外出中だ。加えて隣部屋に聞こえることがないよう防音設備は万全に整えられているので、叫んでから周囲に気を配ることはしなくてよかった。

私の怒号から数秒経過し受話器越しに溜息が聞こえる。今度こそまともな会話が成立するような気がする。・・・あくまで気がするだけだ。

『・・・仕方ないだろう、演技でもして無理矢理テンション上げなきゃやってられねえんだから。というより、俺が今何処にいるかお前、わかっているのか?』

「いえ、知りませんけど・・・・・・」

多分、本業の雑誌の取材でもやっているんだろうと思うけど違うのかな?灯夜さんならたとえ何処へ行こうと環境に適応できて気持ちを一定に保てるはずなんだけど・・・・・・。

『静岡だよ、静岡』

「あれ、割りと普通じゃ―――」

『―――静岡にある、富士の樹海だ』

前言撤回。全然普通じゃない。完全にテンションが下がるスポットでした。無理にでも気分高めたくなって暴走するのも仕方がない。

『オカルト関係ならまだしも、現在進行系で人が死んでる場所になんか本当は行きたくねーよ・・・・・・近づくだけで陰鬱な気分になる。このご時世なら尚更な』

「男性の行方不明者も増えましたしね、一時期ではありますけど」

行く先々で高飛車で傲慢な女性に絡まれては男性も精神的に追いやられてしまう。その果てに生きている意味を見失って死を選ぶという悲惨な結末を迎える事態は、今もなお歯止めがきかずにいるのだ。

しかし、どういう都合で自殺の名所と名高い富士の樹海なんてところにいるのだろうか。雑誌の取材場所や待ち合わせ場所には全くもって適さないのは言わないでもわかる。別の理由があるのなら是非ともその詳細を事細かく教えて欲しいものだ。

『話せば長くなるんだが・・・・・・色々端折って言うとタレコミがあったんだ。「樹海の中に違法研究所がある」ってな』

「!! ・・・信憑性の方は高いんですか?」

『ああ。それに伴って内容の方もヤバさが半端じゃない。人体実験は当たり前で、条約やら法律を完全に無視しているんだとよ。―――例えば、VTシステムが良い例だ』

VTシステム。正式名称、ValkyrieTraseSystemヴァルキリー・トレース・システムというそれは、ブリュンヒルデである織斑千冬の戦闘データなどをISの動きにそのまま反映させ、再現し実行する仕様のシステムのことだ。

現在はあらゆる企業・国家での開発及び研究が禁止されている決まりなのだが、話を聞く限りでは平気に破られているようだ。とはいっても社会全体ではなく一部の連中のみらしいが。

『使っている人間の規模は不明だ。だが、最近何やらごたついたようで活発に使われていた頃と比べて静けさがあるそうだ。・・・調べるなら今しかない』

「一人では危険ですよ、ただでさえ樹海は迷うと有名ですから」

SASがあると言えども危険は危険だ。もしもの時のことを考えれば一人では行かせたくはない。いくら大丈夫そうな人でもだ。

『安心しろ、今回はいつもと違って単独行動はしない。同伴者が二人もいる以上派手な行動は慎むさ』

「えーっと、にとりさん達がご一緒で?」

『そうだな、にとり一人に関しては正解だ。ただし、もう一人の同伴者は・・・・・・知り合いのドイツ軍人だ。名前はクラリッサという』

「・・・ちなみに、そのクラリッサという人物からこちらの情報が漏れる恐れは?」

『ない。これははっきりとそう言える。特殊部隊に属しているとはいえ完全にドイツに従順しているわけじゃない。まあ、実を言うと彼女は親日派なんだ。・・・主に趣味的な意味合いで』

成程、よくいる日本愛好家のようなものなのか。ISが広まった世界においても日本が誇る文化が依然として健在しているのは良いことだと私は思う。そしてそれを好いてくれる外人がいることもだ。

『出会った経緯はさて置き、進展があれば今度まとめて報告するからな。そちらの方も引き続きよろしく頼む』

「はい、了解しました。咲夜さんにも伝えておきますね」

こちらから通達することは特にないのであと二言三言話したら終わりにしようと別れの挨拶を私は先に切り出そうとした。

だが、そこへ追いかけるようにして灯夜さんからの知らせが耳に入る。

『―――ああ、そうそう。言い忘れていた事が別にあった』

「? 何でしょうか」

『何でも、中国の代表候補生がそちらに転入するそうだ。―――――それも、一夏に関係のある人物らしい』

「・・・それはまた、奇妙ですね」

『だろう? 諸に警戒心を剥き出しにする必要はないが、気にはとめておいてくれ。っと、それじゃあな』

そう言って灯夜さんは電話を切った。微かに車と女性の声が聞こえていたからちょうど待ち合わせていた二人が来たのだと思う。

私も耳に近づけていた携帯を降ろすと座っていたベットの上にころりと横になった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

―――翌朝。授業が終わった放課後から夕食にかけて開かれた代表就任パーティーに出席した俺は、眠さに負けそうになりつつ机に突っ伏していた。

ついでに言うと頭が超痛い。夕べは卑猥な意味ではなく、本当に純粋にパーティーを楽しんだもんだから覚めない興奮が抜け切らずろくに寝付けなかった。

「だ、大丈夫なのかな、織斑君・・・・・・」

「眠気覚ましに栄養ドリンクでも差し入れたほうがいいかもしれないわね。今の調子じゃ授業を乗り切れないわよ」

「あっ、私持ってるよ~♪ せっかくだから渡してくるねー」

おおぅ、サンクス。恩にきるぜ。持つべきものはクラスメイトだな。

ゆっくりと手を挙げて、近寄ってきた布仏さんことのほほんさんから手のひらに収まる程度の大きさのドリンクを受け取り、ふんぞり返るようにしてそれを一気に飲み干す。幸運にも自分好みの味だったのはとても嬉しかった。

「おお~、良い飲みっぷりだね~」

「飲まなきゃやっていけなそうだったからな。何もせずにこのまま授業なんて受けていたらいつか居眠りしちゃうぜ」

「怒られたくはないですものね、織斑先生に・・・まあ、痛いのを承知でわざと出席簿で叩かれて眠気を覚ます、というのもアリかもしれませんけれども」

いや、脳細胞を犠牲にするのは勘弁して欲しい。必死に覚えたことが抜け落ちるかもしれないだろうから。

出来うる限り出席簿アタックを回避することを俺は―――――強いられているんだっ!!!

「そうそう、ねえ皆、転校生の噂聞いた?」

「んん? 初耳だけど、時期的に中途半端というかおかしくねえか。まだ4月の中旬になったばかりだぞ」

「常識的に考えて転入してくるならもっと後なんだろうけど、何でも代表候補生らしいよその子。中国の」

「・・・へー」

道理で転入条件の厳しいIS学園に入ってこれるわけだ。クラスの方はどうなるんだろうね?

「気になるの? 織斑君」

「まあな、気にならないほうがおかしいよ。この先何処かで戦うかもしれないし、クラスメイトになるのかもわからないし」

特に1クラスにつき何人までという規約はないため、どのクラスに配属されるかは教師を除き誰にもわからない。

確率的には代表候補生が在籍していないクラスが優先的に選ばれるのだろうとは思うが、生徒である自分がいくら考えてもしょうがないことだった。

「今は来月の代表対抗戦対策に集中するか。手っ取り早く出来る模擬戦闘で積極的に経験積まないとマズイもんな」

「その意気だぞ、一夏。クラス代表に抜擢されたお前が簡単に負けるようなことがあれば皆に迷惑がかかる。何事も全力で取り組むんだぞ」

「「「「目指せ優勝! 恵たまえ、我らが望む食堂のフリーパスを!!」」」」

「お、おう・・・」

やっぱりノリがいいなこのクラスの女子は。変態が多いけれど、楽しそうで普通の高校とまるで大差ないように思える。同性のクラスメイトが存在しない環境に適応できるのかとかつて不安だったのが嘘みたいだ。

こうなったら期待に応えるのが筋というものであろう。男としての威厳、プライドその他諸々に賭けて必ずや優勝を勝ち取ってみせてやる。

「油断しないで慎重にね。一組と四組だけが専用機持ち=クラス代表らしいけど、そこそこのやり手なら訓練機でも十分戦えるって言うから」

貴重なアドバイスをありがとうという意味を込めて「ああ」と俺は返事をする。・・・さてと、眠気もなくなってきたことだし恒例の授業前復習と洒落こみますか。

そんなことを思い始めて真面目に実行へ移そうとしたその時、既にクラスメイトが揃っていると確認済みの我らの教室のスライドドアが開かれる。

「―――!?」

てっきり、一足早く担任の千冬姉達がやって来たのかと思い身構えてみると、そこに居たのは肩を出すデザインに改造された女子の制服に身を包んだツインテールの少女だった。

彼女は言ってはなんだがそれ程大きくはない胸の前で腕を組み、灯夜さん曰くガイナ立ちで構えて言い放った。

「―――一組と四組だけが専用機持ち? ・・・ハッ、その情報は古いわよっ!!」

「だ、誰だお前はっ!?」

俺が何となく言うべきセリフを箒が目の前で代弁する。そして、突然現れた少女は体勢を全く崩さずに猛然と自らの名前を告げてきた。

 

 

 

「―――――私は中国から来た代表候補生、凰鈴音ファン・リンイン。新しい二組のクラス代表よ!!」

 

 

 

 

 

「・・・おいおい、何の運命の悪戯だよ?」

ISに関わるとは思いもしなかったセカンド幼馴染の少女が名乗ったことで俺は、自分が置かれている状況についてこれまでよりも更に頭を悩ませることとなった。

・・・眠さだって? そんなもん完全に吹き飛んじまったよ。

 

 

 

唐突ですが、ISとロックマンエグゼのクロスを考えたりしますた。

いやなに、あくまで設定しか出来ていませんよ。ただ単に白式(女の子型ナビ)=ロックマン、光熱斗=一夏って感じに置き換えただけですから。

 

そんなのはさて置き、次回予告。

「CHAPTER15 重罪残骸」

お楽しみに。

 

:追記、にじファン終了のお知らせに伴い、ここで頑張ります。

 

 

 

 


 
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