試行錯誤と取らぬ狸の皮算用
自分がハイスクールD×Dの世界で、最初の悪役レイナーレに憑依していると気づいてから一時間位たった。
俺は現実を認め、ベットの上で天井を眺めていた。
(堕天使、ドラゴン、戦争、このキーワードから考えるに今は原作よりかなり前、魔王も神も存命中ってこと。つまり、レイナーレの死亡フラグはまだずっと先、俺がこの戦争で死ぬ確立はかなり低い)
現状を受け止めた後、これからどうしていくかを考え始めた。
レイナーレとしてこの大戦を言われるがまま戦っても、原作同様地方回りの神器保有者狩りをやらされる毎日が待ているだけだ。
せっかくファンタジーの世界に来てそれだけの堕天生ではつまらない。
(そういえば、光の槍出せるのかな?)
俺は、手に槍を持つイメージを浮かべてみた。
ブゥン。
手の中に、赤く光る槍が現れた。
(堕天使としての能力は使えるようだ)
これで能力不足で戦死ってことや、役立たずになることはないようだ。
といっても、レイナーレの基本スペックじゃ中級悪魔を倒せれば良いほうだろうし、どうしますかね。
(そうだ、この世界では神器《セイクリッド・ギア》があった!?)
特定の人間に宿る規格外の力『神器』、これを使えれば格上の敵とも戦える。
だが、神器をどうやって手に入れるかが問題だ。
強力な神器や、希少性がある物は運よく手に入れても取り上げられるだろう。
何より神器が大好きなアザゼル様がそういった神器を見逃すはずがない。
(ありふれた神器、龍の手《トウワイス・クリテイカル》なら持ってても馬鹿にされるか、変人扱いされるだけだろう)
原作でもレイナーレは龍の手を馬鹿にしていたから、それほど目立つことはないんじゃないかな?
それに今は大戦中、神器保有者が参戦しているはずだ。そいつ等から奪えばいい。
(あれ? ナチュラルに人を殺そうとか考えることに嫌悪感が全く無いな。思考がレイナーレに影響されているみたいね)
(ね? おいおい『ね』ってなんだよ。オカマじゃあるまいし、いや、体は女性ですよ。もしかして精神が肉体に引っ張られてる?)
このままでは……
「完全に女になっちゃうじゃない!?」
「安心しろお前は最初から完全に女だ」
何時の間にかさっきの医者堕天使がベットのすぐ傍に立っていた。
「あら、まだ何か用なの?」
(もはや完全に女言葉になっている。くそ、腹をくくるか)
「ああ、上がドラゴンを迂回して天使と、悪魔共の陣地に強襲することにしたらしい」
「それで?」
「前線で動ける戦闘員は全員参加が決定している。この野戦病棟で完治している奴はお前だけだ」
「私だけ?」
これだけ広そうな病棟で私だけってありえないでしょう?
「さっきも言ったが、お前はドラゴン共の戦闘の余波で怪我した訳だ。だが、それはお前だけじゃない。この病棟にいる堕天使全員がそうなのだ」
私の不思議そうな顔で分かったのか医者はため息をつきながら教えてくれた。
うそ!? どんだけ被害出してるのよ二天龍!?
「むしろ何で動けるんだ? ここに運ばれてきた奴らは皆戦力外通告されて後方に搬送されるような奴しかいないはずなんだが?」
なるほど、ここでレイナーレは戦線離脱して出世街道を逃したのね。
「私が知るわけ無いでしょ」
本当にわからないのだから答えようがない。
「ふん、まぁいい。お前は天使の陣営に向かうことが決まった。外に迎えが来ているさっさと出ていけ」
「はいはい、わかったわ。それより着替えはどこかしら? 病院服で戦場に行く気は無いのだけれど?」
「すぐ隣の台に置いてあるだろう」
そう言って隣の台を指差す。
そこを見ると確かに原作でレイナーレが着ていた露出過多の戦闘服が置いてあった。
私はそれを取り着替えようと……
「どうした、着替えないのか?」
(当然のように見てんじゃないわよ!)
私は無言で、医者を殴り飛ばした。
着替えて外に出ると、すぐに部隊の所まで案内された。
「お前達はこれから天使の陣地に強襲をかける。お前達の仕事はそこで神の下僕と信徒を皆殺しにすることだ!?」
歴戦の戦士って感じの堕天使達の後ろで私は大人しくかつ目立たないよう整列している。
部隊の出発前に、指揮官ぽい背中に六枚の翼を持つ堕天使が戦意鼓舞で声を張り上げている。
どうやら好評のようで皆、好戦的な笑みを顔に浮かべている。
対して私は、自信なさげに下を向いていた。
いや、皆殺しはさすがに無理でしょうね~。
しかし私にとって初めての実戦、まずは生き残ること、次に経験を積むことに重点をおきましょう。
「なお、倒した相手から奪い取った物は好きにしていいとのアザゼル総督から許可が下りている。全員奮起せよ!!??」
なんですって!!!!!!!?
思わぬ言葉に私は、目を大きく見開いた。
「し、指揮官様!? それは神器もでありますか?」
私はつい質問してしまった。
(し、しまったわ。目立たないつもりだったのに)
「うん? ああ、例外は無い。手に入れた物は各自の好きにしていい」
指揮官は、珍しそうに私を見たあと答えてくれた。
「はい、有難うございます」
(よし、言質は取ったわ。思わぬ展開ね。必ず神器を手に入れてやるわ!!)
私は、これから向かう場所が戦場だと忘れ、ただ自分の都合の良い未来を想像していた。
後方に下がらず前線に残るということが、原作のレイナーレと違い死ぬ可能性があることに気づかないまま。
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目覚めるとハイスクールD×Dの最初の敵レイナーレに憑依していた。将来たいした出世もできないうえ死亡フラグがあることに悲観せず、絶対に生きようと決意する。