No.444855

三人の御遣い 獣と呼ばれし者達 EP12 嫌いなんだよ

勇心さん

前回の兵衛の話の続きです
ほとんどがオリジナル要素強いので
オリキャラ苦手な人はすいません

2012-07-03 00:46:53 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1929   閲覧ユーザー数:1686

 

 

 

 

あの人は……俺にとって『光』だった

 

 

 

大袈裟ではなく本当に……

 

 

 

俺の真っ黒な人生を幸せなものへと変えてくれた一人の女性

 

 

 

彼女は俺に力を与え

 

 

 

彼女は俺に人を愛する心をくれた

 

 

 

そして、そんな彼女を俺は―――どうしようもないほどに愛してしまった

 

 

 

彼女の笑顔も

 

 

 

怒った顔も

 

 

 

小さな仕草も

 

 

 

その何もかもを

 

 

 

彼女の全てを

 

 

 

一途に

 

 

 

ただひたすらに

 

 

 

愛し抜いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……彼女もそんな俺を愛してくれた

 

 

 

それが俺にはどうしようもなく嬉しくて

 

 

 

どうしようもなく幸せだった

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、俺は気付いていなかった

 

 

 

 

そんな人並みの幸せなど

 

 

 

俺みたいな男には

 

 

 

 

俺みたいな『化け物』には

 

 

 

 

そんな人並みの幸せなど―――分不相応でしかないのだと

 

 

 

 

彼女を失うあの日まで―――俺は愚かにも気付くことが出来なかったのだ……

 

 

 

 

 

 

兵衛の慟哭が戦場に響き渡ったあの日―――

 

 

 

結果として黄巾党を殲滅することは叶わず、その日を終えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――そんな何もかもが悪い方へ向かってしまった原因を作った男

 

 

 

巽兵衛のいる天幕に

 

 

 

江東の小覇王は静かに歩み寄り、事の真相を問いただした

 

 

 

 

 

 

孫策は兵衛のいる天幕に近づき、中にいる兵衛に声を掛ける

 

 

 

孫策「……兵衛?私だけど……入ってもいいかしら?」

 

 

 

しかし、中にいるはずの人間からは返事が返ってこない

 

それがより一層彼女の不安を掻き立てた

 

彼女は男の返事を待たずに天幕の入り口に手を掛ける

 

 

孫策「……兵衛……入るわね―――っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして天幕の中に入った彼女は男の姿に絶句した

 

 

 

 

 

 

男は天幕の柱にもたれ掛るように座りながら……天井を眺めていた

 

 

 

その目には何を映すこともなく

 

 

 

ただ漫然と

 

 

 

喪失的に

 

 

 

まるで魂のない―――いや、『人でいること』に絶望したような

 

 

 

そんな危うさを感じさせるほどに

 

 

 

巽兵衛の瞳には生気というものが現れていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孫策「……兵衛」

 

 

 

そんな兵衛の『見るに堪えない』姿を見て孫策は静かに―――無意識の内に彼の名前を呟いた

 

その言葉は本当に無意識で

 

だけど、同時にその言葉は必要だったのだと

 

孫策は言った後に気が付いた

 

 

それは目の前の兵衛が―――

 

 

 

呆然と天井を見つめていただけの兵衛が

 

 

 

孫策が天幕に入ってから初めて彼女に視線を移し、その存在を認識したからに他ならない

 

この時、孫策の直感が自身に最大限の警報を鳴らし、囁きかける

 

 

 

『話をしたいなら今しかない―――』

 

 

 

『だが、話しかけるなら覚悟しろ―――』

 

 

 

『お前の選ぶ言葉次第で仲間たちの命運も、目の前の男の存在も―――同時に失うかもしれないぞ』

 

 

そう……孫策の直感が囁きかける

 

 

 

 

しかし、そんなことは孫策自身も理解していた

 

彼に話しかけるには視線が交わった今しかないということも―――

 

今の自暴自棄に近い兵衛に話しかける危険性も―――

 

 

そんなことは直感(おまえ)に言われなくてもわかってる

 

 

孫策は内心、自身の直感に悪態を吐く

 

 

そして、彼女は次の瞬間―――

 

 

自身を幾たびも救ってくれた直感に背を向けて

 

 

危険だとわかっていながらも

 

 

目の前の心無き獣に―――巽兵衛に話しかけた

 

 

 

 

孫策「……兵衛。話があるんだけど……いいかしら?」

 

 

孫策は窺うように声を掛ける

 

 

そして、兵衛の返答を待つ

 

 

その時間が

 

 

その行為が

 

 

まるで悠久の時のような果てしなさを感じながら……孫策は兵衛の答えをただひたすらに待ち続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、幾ばくかの時間が過ぎた時、今まで黙秘を貫き続けた巽兵衛が初めて口を開いた

 

 

 

兵衛「……ああ、わかってる。昼間のこと……だろ?」

 

 

 

それはまるで諦めたかのような―――自嘲するかのような―――そんな無様な様子を晒すような心のない言葉だった

 

孫策はそんな兵衛の姿に唇を噛み締めながら毅然とした態度で話を続ける

 

 

孫策「……そう、わかっているなら話は早いわ。……昼間の事、説明してくれない?」

 

 

兵衛「…………」

 

 

孫策の問いに再度兵衛は口を噤む

 

 

孫策「……また、黙るの?あなたがしてくれたことで、うちの兵士達は動揺してる…将の子達もね。本来ならば今日にでも黄巾党の奴らを殲滅出来る予定だったのに、貴方が起こした騒ぎの所為で全てが悪い方向に進んでしまったわ」

 

 

兵衛「…………」

 

 

孫策「……貴方言ったわよね?『本当に困ったときは手を貸してやる』って……あはは、ふざけないでよ?何が手を貸してやるよ……困った状況を作ってるのは―――他でもない貴方じゃない!」

 

 

兵衛「……すまん」

 

 

孫策の言葉に兵衛は静かに頭を下げる

 

 

孫策「……っ!」

 

 

孫策は兵衛の姿を見て更に唇を噛み締める

 

違う……本当はこんなことが言いたいわけじゃないのに

 

本当は兵衛の悩みを聞いてあげたい

 

一緒に悩んで、一緒に泣いてあげたい

 

でも、今の私にはそれが出来ない

 

私はあくまで王なのだから

 

孫呉の王として貴方のことを糾弾しなければならない

 

だから……『ごめんなさい』

 

 

孫策は心の中で兵衛に謝罪し、事の真相を追及する

 

 

孫策「……『すまん』って言うくらいなら事情を話しなさい。あれだけのことをしたのだから……この期に及んで言えないでは済まないわよ?」

 

 

兵衛「ああ、わかってる。全部話すよ……何で俺が孫権を見てあれほどまでに不様に狼狽えてしまったのか―――その全てをな」

 

 

そして彼は語りだす―――自身の過去を

 

 

決して思い出したくなかった過去の過ちを……

 

 

 

 

 

巽兵衛はごく普通の家庭に生まれ育った

 

 

 

優しい両親

 

 

 

仲のいい友達

 

 

 

何不自由ない暮らし

 

 

 

兵衛たちの世界でいう『普通』の中で

 

 

巽兵衛は健やかに育った

 

 

 

しかし―――そんな『普通』の中で幸せに暮らしていた兵衛を

 

 

 

ある日、悲劇が襲った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両親が殺されたのだ……

 

 

 

死んだのではなく、殺されたのだ

 

 

 

 

何の前触れもなく

 

 

 

何の予兆もなく

 

 

 

雨の降る夜に家に押し入った強盗によって

 

 

 

巽兵衛の両親は

 

 

 

息子を愛してやまない優しい両親は―――あっさりとその命を無残に散らした

 

 

だが、そんな無残な死を遂げた彼らにも唯一つだけ守ったものがあった

 

 

それが兵衛だった

 

 

突如として押し入ってきた強盗から我が子を守るために、両親はまだ幼い兵衛をとっさに近くのクローゼットに隠し―――彼を守った

 

 

兵衛はクローゼットの中から強盗に蹂躙される両親の悲鳴を聞きながら恐怖に震えながら泣いていた

 

 

 

そして、幾ばくかの時間が過ぎた時、兵衛がクローゼットから這い出ると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前には両親の死体が転がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが巽兵衛の『最初』の破滅の始まりだった

 

 

 

 

両親が殺されたことで兵衛の生活は一変した

 

 

 

あれだけ仲の良かった友達は兵衛をまるで疫病神の様に遠ざけ―――

 

 

 

あれだけ幸せに暮らしていた自分の家も財産も親戚達が盗賊の如く奪っていった

 

 

 

 

そして、何より残酷だったのは両親の死が―――あの無残な死を

 

 

警察は『事故』として処理したのだ

 

 

後にわかったことだが、どうやら犯人は警察官僚の息子だったらしく、それが理由で両親の死を事故としてもみ消したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵衛は人生に絶望した

 

 

 

何も悪いことはしていないのに

 

 

 

何も間違ったことはしていないのに

 

 

 

何故、自分がこんなにも悲しい思いをしなければならないのか……幼い兵衛にはわからなかった

 

 

 

 

しかし、そんなある日―――人生に絶望していた兵衛の前に一人の初老の男が現れた

 

 

 

名は―――『村雨 仁』

 

 

 

後に兵衛が学ぶ戦国時代に名を馳せた殺人武術『無双流』の先々代の当主であり、兵衛の遠縁の親戚だった

 

 

 

彼は幼い兵衛に尋ねた

 

 

 

『……力が欲しいか?』

 

 

 

ああ、欲しい

 

 

 

欲しいとも!

 

 

 

力さえあれば、あの日…俺は押し入ってきた強盗を殺し、両親を守ることが出来たかもしれないのだ

 

 

 

『ならば……私の下に来るか?私の下に来ればお前はお前が死ぬほど欲する力を与えてやれるぞ。その覚悟が本物ならば私の手を取るがいい』

 

 

 

 

 

 

 

そして兵衛は彼の手を取った

 

 

 

 

兵衛が連れて来られたのはどこにでもある一軒家だった

 

 

唯一つ違うのは家の横に古ぼけた小さな道場がぽつんとあるだけ

 

 

兵衛は仁に連れられるまま、その古ぼけた道場に足を運ぶ

 

 

そして、兵衛が道場に足を踏み入れると中には―――

 

 

 

自身と同じ年くらいの……人形のような女の子が正座をしていた

 

 

 

整った顔立ち

 

 

 

綺麗な桃色の髪

 

 

 

健康的な褐色の肌

 

 

 

そのどれもが兵衛の眼には美しく見えた

 

 

 

それが彼女との―――

 

 

 

後に兵衛の師匠となり、恋人となる

 

 

 

『村雨 葵』との

 

 

 

儚くも悲しい出会いだった……

 

 

 

 

 

兵衛が仁と葵に出会ってから

 

 

 

毎日を地獄のような修行に明け暮れた

 

 

 

体中の骨で折れたことのない部位はなく

 

 

 

血を流さない日はない程に苛烈なまでの修行を兵衛は続けた

 

 

 

毎日が苦しくて、痛くて、どうしようもなかったがそれでも兵衛は耐え続け

 

 

 

そしてそんな兵衛を葵は献身的なまでに支え続けた

 

 

 

誰よりも優しく

 

 

 

誰よりも強く

 

 

 

巽兵衛という男を支え、救ってくれた

 

 

 

そんな苦しいけれど家族のような日々を送れることに兵衛は再び幸せを感じることが出来た

 

 

 

 

 

 

しかし……その四年後―――

 

 

兵衛が十六、葵が十七になり、葵が正式に『無双流』を継承したことで

 

 

 

 

兵衛は更なる幸福と

 

 

 

 

更なる絶望を

 

 

 

 

同時に味わうことになった……

 

 

 

 

葵が無双流を継承したことで二人の関係は大きく変わった

 

 

 

一つは姉弟子と弟弟子と言う関係から師匠と弟子という明確な上下関係への変化

 

 

 

そしてもう一つは……高校入学の際に兵衛が葵に告白をしたことをきっかけに

 

 

 

二人は晴れて恋人同士になったことだった

 

 

 

師匠であり恋人である二人は傍から見たら異質とも思える間柄だったが

 

 

 

兵衛はそれでも幸せだった

 

 

 

初めて会ったあの日から―――あの瞬間から兵衛は彼女を愛していたから

 

 

 

その思いが成就したのだ

 

 

 

これを幸せと言わず何と言う

 

 

 

今まで大切な人を奪われるだけの地獄のような人生だったんだ

 

 

 

そんな自分がもう一度大切な人を―――愛する人を見つけたんだ

 

 

 

今度はもう手放さない

 

 

 

今度こそ大切な者を守るのだと

 

 

 

巽兵衛は決意した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし―――

 

 

 

 

そんな彼の決意でさえ……

 

 

 

この数か月後、国家特別戦力に二人が加入することをきっかけに―――『あの事件』をきっかけに

 

 

 

あっさりと終わりを迎えた

 

 

 

そして彼は二度目の破滅を―――

 

 

 

愛する者をその手で殺めるという最悪の結末で

 

 

 

味わうことになり―――

 

 

 

 

結果……彼は『人を愛すること』を―――やめた

 

 

 

 

 

それが巽兵衛という-――

 

 

誰を救ったわけではなく

 

 

 

何を得たわけでもない

 

 

 

どうしようもない程に無力な殺人鬼の

 

 

 

 

 

下らない人生の結末だった

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「―――これが……俺という―――巽兵衛という男の下らねえ人生の大筋さ、笑えんだろ?」

 

 

兵衛は自嘲気味に呟いた

 

 

いや、自嘲というよりも―――むしろ自傷と言う方が正確かもしれない

 

 

それほどまでに……そう思ってしまうほどに

 

 

今の彼は自分を傷つけようと必死なように見えた

 

 

孫策「…………」

 

 

 

そんな彼の様子が手に取るように分かったからこそ孫策は何も言葉が出なかった

 

 

出るはずもないのだ

 

 

 

 

ただの一人の―――力無き子供でしかなかった彼が

 

 

 

突如として愛する家族を無残に奪われ

 

 

周囲の者に見放され

 

 

 

 

 

そして、力を求め……新たに手にした愛する者すら

 

 

 

 

 

最後は自身の求めた力によって失ったのだ

 

 

 

 

言葉など出ようはずもない

 

 

 

笑えることなどあろうはずもない

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「……どうしたよ、孫策?言葉が出ないほど馬鹿らしかったか?」

 

 

しかし、そんな孫策の悲痛な心情すら今の兵衛には感じ取ることが出来ず、吐き捨てるように言葉を続ける

 

 

兵衛「どうした?呆れたか?失望したか?お前らの言う『天の御遣い』とか大層に崇め奉られてる俺が……愛した家族も……愛した女性も……誰一人として守ることの出来なかった無力な奴だったことに……さすがのお前も―――絶望したか?」

 

 

 

そして最後に兵衛は悲しいまでにそんな言葉を孫策に叩きつける

 

 

 

孫策「……っ!そんな…こと―――」

 

 

兵衛「……まぁ、お前がそう思うのも無理ねえよな?『子供たちが笑って暮らせる世の中を作ってくれ』―――とか『困ったら手を貸してやる』―――だの散々偉そうにほざいていたのに蓋を開ければこの様さ……偉そうにほざいていた男が―――実は愛した人達を誰一人として守ることの出来なかった屑なんだからな……失望しない方がどうかしている」

 

 

孫策「だから…そんなことは……」

 

 

兵衛「……気にすんな。失望されるのにも―――見放されるのにも慣れている。こんな疫病神でしかない―――人を『愛する資格』なんてない俺が……いっぱしに誰かのためになろうだなんて考え自体がおかしかったんだ。だから、お前がここで俺を見限ったとしても誰も責めやしねーよ。むしろ良い判断だったとみんながお前を褒めるだろーぜ?」

 

 

孫策「そんなこと……出来るわけないじゃない」

 

 

そう……出来る訳ないのだ

 

 

孫呉のためと言うだけじゃない

 

 

目の前の男が

 

 

目の前の少年が―――自身の心を……自身の存在の全てを否定しようとしているのだ

 

 

そんな悲しい姿を目にしたらとてもではないが

 

 

そんな言葉を口にできる訳もない

 

 

そんな悲しいこと―――出来る訳がないのだ

 

 

兵衛「いいのかよ?後悔するぜ。折角孫呉の再建に利用しようとした男が『天の御遣い』……神の使者だと思ったら―――実はただの『死神』だったなんて笑い話にもならないぜ?」

 

 

そして同時に腹が立った

 

 

こちらの気も知らずにそんな言葉で突き放そうとする彼の態度が

 

 

孫策にはどうしても我慢がならなかった

 

 

だけど、今の彼女には兵衛にその怒りをぶつけることは出来なかった

 

 

ぶつける資格がなかったのだ

 

 

それほどまでに二人の歩んできた道のりは違っていた

 

 

片や一家庭に生まれ、平凡な人生を歩んできたにも関わらず、神の悪戯とも言える不幸の所為で望まぬ力を求め、更にその力の所為で今も尚苦難の道を歩み続ける少年と―――

 

 

片や王族として生まれ、幼少時から何不自由なく暮らし、幼いころから王として……武人として生きてきて……得ることも、失うことも、自身が納得した……自らが望んだ道を歩んできた彼女とでは―――

 

 

二人の歩んできた道のりにはあまりにも大きな壁とも言える差異があった

 

 

そんな彼女が兵衛に対して言えることなど、掛ける言葉などあるはずもなかったのだ

 

 

そして、そんな彼女の様子を余所に兵衛は尚も言葉を続ける

 

 

兵衛「……やっぱりお前には答えが出せないよな?お前と俺との関係なんて所詮は契約の上でしか成り立ってないんだからな。お前は俺を利用して……俺はお前らを利用して……そんな薄っぺらな関係でしかないんだからな。そんなお前には―――いや、お前らには俺の気持ちなんか理解できないし、理解してほしくもない。お前は所詮『王様』で―――俺はただの『死神』で―――どう足掻いたってこの差が埋まることなんてないんだよ」

 

 

孫策「……私は……貴方のことを…理解したいと思っているわ」

 

 

兵衛「そら無理だな。お前が『王様』で―――国や思想だのそんな曖昧なもののために動いてるお前らとじゃ一生交わることなんかねーよ。……この際だから言っておくが俺がこの世で一番嫌いなものは『人殺し』と―――『人の上に立つ人間』だ。お前らはその両方を満たしているんだ、俺との良好な関係を築けるなんて阿呆な勘違いはするな、迷惑だ」

 

 

兵衛の刃のような言葉は孫策の胸を貫いた

 

 

完全な拒絶―――それを孫策は感じ取ったからだ

 

 

孫策は何も言えず、その場に立ち尽くす

 

 

 

 

兵衛は何も言えずに呆然とする孫策の横をすり抜けるようにすれ違うと天幕から出ようと入り口に手を掛ける

 

 

呆然としていた孫策は我に返ると出て行こうとする兵衛に叫ぶ

 

 

孫策「―――兵衛!!」

 

 

孫策の声に兵衛は足を止める

そして振り返らずに彼女に問う

 

 

兵衛「……何だよ?」

 

 

孫策「……どこに行くつもりなの?」

 

 

孫策は弱々しくも問う

 

 

そんな孫策の問いに兵衛は短く一言だけ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「……ああ、ちょっとあの城まで―――『死神』しに行くんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――驚愕の言葉を口にした

 

 

 

孫策「……『死神』って……まさか貴方―――『戦いに行く』つもりなの!?」

 

 

兵衛「ああ……それがどうした?」

 

 

孫策「どうしたって……貴方自分が言ってることを理解してるの?今さっき貴方は私に言ったじゃない!?俺がこの世で一番嫌いなものは『人殺し』だって……そんな貴方が今から一番嫌いなことをしに行くですって!?矛盾だらけにも程があるわ!!」

 

 

兵衛「おいおい、何をいきなり寝言こいてんだ、孫策よ?元はと言えばお前が俺に言ったことだろう?この状況を―――『困った状況』を作ったのはこの俺だって……だから俺は俺のケツを拭きに行くんだよ。お前らにとっては願ってもないことだろうが」

 

 

孫策「それはそうかもしれないけど……だからってさっきまでの貴方の様子を見ている私としては……それを許すわけにはいかないわよ?」

 

 

兵衛「……何回言わせるつもりだ?俺はお前らの部下じゃない。さっきも言ったが俺とお前らは契約上の関係でしかない。だったら、必要以上に俺に干渉するんじゃねーよ?俺は俺の殺りたいように殺る」

 

 

孫策「嫌よ……私は貴方に干渉する。今の貴方はとてもじゃないけど正常な精神状態ではないわ。貴方の言ってることはさっきからちぐはぐよ!人殺しは嫌いだと言っておきながら自分はその嫌いな行為をしに行くと言い……私達のような人間を嫌いだと言っておきながらその嫌いな人間の得になる行為をしに行くと言う……そんなのまともな人間の思考じゃないわ―――今の貴方はただ『自棄になって誰かに八つ当たりをしようとしている』だけよ!」

 

 

兵衛「…………」

 

 

孫策「そんな貴方の今の姿を見たら―――貴方が愛した人たちはどう思うの?貴方が愛した『葵』という女性はどう感じると思うの!?」

 

 

兵衛「…………」

 

 

孫策「……そんな情けない自分を―――貴方は本当に好きになれるの?」

 

 

 

押し黙る兵衛の背中に孫策は悲痛な思いをぶつける

 

 

しかし、兵衛はそんな孫策を一度も見ることもなくその場を後にしようとする

 

 

 

孫策「―――兵衛!!」

 

 

 

孫策の叫びに兵衛は再度足を止めると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「……本当に自分を好きになれるのか……か―――ありがとうな、孫策。お前のその言葉……有難く心に留めておくよ。だけど、さっきも言っただろう?俺は『人殺し』が嫌いだって……だから俺は―――」

 

 

 

 

 

 

そこで深く息を吸うと―――続く言葉を口にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵衛「だから俺は―――この世で一番、最高に、死ぬほど……俺は俺のことが『嫌い』なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い残し

 

 

 

 

悲しそうに

 

 

 

 

辛そうに

 

 

 

 

静かにその場を後にして黄巾党が籠城する城に向かって歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

 

どうも、勇心です

 

 

 

 

 

今回は予告どおり兵衛の過去を大まかに説明しました

 

 

 

 

細かい詳細は今後明らかになるので、今回の話を少しでも興味を持っていただけたら

今後も飽きずに見ていただけると助かります

 

 

 

 

次回はついに兵衛が戦います

 

 

自身を『死神』、『殺人鬼』など意味深かつ大げさな言い回しをしていた訳は次回の話で明らかになると思います

 

 

たぶんですが……

 

 

 

 

最近は皆様のありがたい優しいコメントをいただけて大変励みになっております

 

 

今後もこの自己満足のssを書いていきたいと思うので何卒よろしくお願いします

 

 

 

それではまた…


 
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