No.444235

Baskerville FAN-TAIL the 3rd.

KRIFFさん

「剣と魔法と科学と神秘」が混在する世界。そんな世界にいる通常の人間には対処しきれない様々な存在──猛獣・魔獣・妖魔などと闘う為に作られた秘密部隊「Baskerville FAN-TAIL」。そんな秘密部隊に所属する6人の闘いと日常とドタバタを描いたお気楽ノリの物語。

2012-07-01 17:25:54 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:359   閲覧ユーザー数:359

「う〜ん。できたできた」

焼き上がったばかりの目玉焼きを器用に皿に盛りつける。

「……さて、おねぼうさん達を起こしに行かないと……」

コーランは、まだ起きていない同居人(というのは少し違うが)のグライダ・セリファの姉妹を起こしに向かった。

「……あ、コーラン。おはよ」

珍しく自分から起きて来たグライダが声をかけてくる。

「あら。自分から起きて来るなんて、随分珍しいんじゃない?」

「……な〜んか悪い予感がしてさ。目が覚めちゃったのよ」

「う〜ん。変ねえ。セリファのぬいぐるみにかけた呪いは解いた筈なんだけど……」

「…………」

不機嫌さをあらわにして、大きく溜め息をつく。そんなグライダを見て、

「悪いんだけど、セリファを起こして来てくれない?」

「は〜いはい」

コーランに言われ、セリファを起こしに彼女の部屋に向かう。

 

  『せりふぁのおへや』

 

と、彼女の字で書かれたボードのついたドアの前で立ち止まり、開けると同時に、

「ほら、セリファ。早く起きな……」

しかし、最後まで言う前に、彼女の動きがピタリと止まる。ボケーと口を開け、入り口に突っ立ったままだ。

「…………」

今までこらえにこらえていた彼女の怒りが、とうとう爆発した。

「コーラン! ちょっとこーいっ!」

「何よグライダ。こんな朝から大声出さないでよ。近所迷惑よ」

のんびりと歩いてくるコーランにつかみかからん勢いで、

「あれ! セリファの部屋! 何なの?」

コーランは、セリファの部屋をちら、と覗くと、

「ああ、あれ? セリファのリクエスト」

「リ、リクエスト……」

グライダの目が完全に点になった。

さて、その彼女の目が点になったセリファの部屋とは、カーテン。時計。布団。枕。スリッパ等々……。

部屋の中の総てのアイテムがグライダのキャラクターグッズになっていたのだ。

常日頃、「おねーサマ」と言われて懐かれてはいるものの、こうまでされたくはなかった。

「あ。おねーサマ。コーラン。おはよ」

ベッドを抜け出したセリファが、グライダのぬいぐるみ(さっきコーランが言っていた呪いをかけていたぬいぐるみはコレ)腕に抱え二人の元へ来る。

「……セリファ。これ、全部コーランが作ったの?」

「うん。コーランにね、『おねがいっ』て言ったら、いーっぱい作ってくれたの!!」

ぬいぐるみにほおずりして、ニコニコ笑顔でそう答える。

「それでね、今セリファがはいてるぱんつにも、おねーサマの絵がかいてあるの。ほら」

そう言って、はいているグライダの似顔絵入りパジャマのズボンを下げ、おしりの所にプリントされているグライダの似顔絵を二人に見せる。

「…………」

朝早くなのに、全身全霊が疲労しきった表情で部屋を後にするグライダ。一方、セリファの方は極上のニコニコ笑顔で、

「ごはん食べたらクーパーにも見せたげよ」

「それだけはやめてちょーだい」

押し殺した低い声でグライダが言った。

 

世界で最も不可思議な港町として名高いこのシャーケン。

ここにも、朝はきちんとやってくる。

同時に、面倒な騒動までやってくる。

平穏な日は、一日としてなかった。

この広い町のどこかで、必ず誰かがはた迷惑な騒動を引き起こし、巻き込まれるのだ。だからこそ、ここへ来れば——どんな職種であれ——仕事にあぶれる事はない、とまで云われている。

 

「な〜。ク〜パ〜。め〜し〜」

ここは海に面した高台の上に建つ小さな教会。若き神父オニックス・クーパーブラックの住む所だ。

聖堂の掃除をしている彼に向かって、かなり情けない声を上げているのがバーナム・ガラモンド。乱暴者というわけではないのだが、気性の荒い武闘家である。

「な〜。ク〜パ〜。めしくれよぉ〜」

これで何度目かもわからない彼の声が聖堂に小さく響く。クーパーは、掃除の手をしばし休め、

「バーナム。給料はこの間出た筈でしょう?」

完全に呆れた様子を隠しもせず、クーパーが言った。

彼等バスカーヴィル・ファンテイルの給料は、仕事内容が危険きわまりないものである上に不定期なので、普通の仕事に比べ、給料は格段に高い。一般的な公務員の十倍はある。

しかし、通常兵器で対処し切れない事態などそうそう起こるわけはない。その為、他の仕事をかけもつのが普通である。

「給料が出たばかりなのに、もうお金が無いんですか? 一体何に使っているのです?」

「ん〜な事、おめーに言う義理はねーよ」

バーナムがボソッと言う。

と、そこへ……。

「クーパー。あっそぼ」

グライダのぬいぐるみを抱え、セリファがやってきた。

「クーパー。あそぼ、あそぼ」

クーパーの手をグイグイ引っ張ってせかす。

しかし、クーパーはセリファの背に合わせて少ししゃがむと、

「ごめんなさい、セリファちゃん。ボクは今、この聖堂の掃除をしているんです。もう少しで終わりますから、待っていてくれますか?」

「はーい」

そう言って、クーパーの掃除している様子をじーっと見ている。

「よぉ。グライダとコーランはどした?」

「……おねーサマもコーランも、お出かけしちゃったの。だから、セリファさみしいの」

ぬいぐるみをギュッと抱きしめ、ポツリと言う。

ジリリリーン。

突然電話が鳴り、クーパーが応対に出る。セリファもトコトコと彼の所へ向かう。

「……はい。どうしたんですか?」

応対に出た彼の表情が、だんだんと厳しいものになっていく。

「……わかりました。すぐそちらへ向かいます」

そこまで言って、ふと思い出した様に、

「あ、ちょっと待っていただけますか?」

そう言ってから、隣に立っていたセリファに受話器を渡す。不思議そうな顔でそれを受け取り、応対に出る。

「もしもし〜」

『セッ、セリファ?』

クーパーに電話をかけてきたグライダがすっとんきょうな声を上げる。

「あ、おねーサマだぁ。ねーねー。今どこにいるのぉ?」

が、すぐに気を取り直し、

『あたしは今、コーランと港の管理事務所にいるわ。詳しい事はクーパーに話しておいたから、バーナム捕まえて港まで来てね。わかった?』

強く念を押すグライダに、

「は〜い。わかったよぉ」

と、にこやかに返事をし、電話を切った。

「ねーねークーパー。おねーサマ、何て言ってたの?」

「それは、港に向かいながら話しますよ」

 

グライダとコーランが彼等を呼んだ理由。それは、対人外生物用特殊秘密戦闘部隊。バスカーヴィル・ファンテイル出動の為だった。

先日、この町の浜辺に、一体のロボットが流れ着いた。

そのロボットは、発見後すぐに近くの工場へ運ばれたが、破損した装甲から入り込んだ海水が内部の機械を完全にダメにしていたばかりでなく、内部構造そのものが数世代以上も昔の物だった為、修理をしようにも部品そのものが少なく修理は不可能だった。

それでも、どうにか取り出した人工頭脳のデータによると、このロボットは、この町の沖に浮かぶ小さな島の地下深くにある都市の廃墟から来たらしい。

そこで同じ様なロボット達と戦っていたが、突然現れた謎のモンスターによって殆どのロボットが破壊され、このロボットは、救助を求めてここまで来た様なのだ。

しかし、そのデータから割り出したロボットの能力は、数世代以上も昔の物とは思えない程高い物だった。数少ない現存する物と比べても、何ら遜色ない。

そんな高性能のロボットを殆ど滅ぼしてしまうモンスターの存在を、バスカーヴィル・ファンテイルが許す訳がなかった。

「みんな。早く早く!」

港で待っていたグライダが、ようやくやって来たバーナム、クーパー、セリファの三人を誘導する。その先には、借り物のモーターボートに乗ったコーランがいた。

「みんな乗った? 行くわよっ!」

全員が乗ったのを確認してからコーランはモーターボートを発進させた。ボートはやや波の高い海を滑るように駆けていく。

「コーランさん。この巨大なライフルは何なのですか?」

クーパーが、ボートに積まれていた物を見て尋ねた。

「話していたロボットの所持品。何かの役に立つかな、と思ってね」

コーランの言葉を聞きながら、その二メートルはあろうかというライフルを調べ始めるクーパー。

「……このライフルは、魔力をエネルギーにしている物の様ですね」

いろいろと構造を調べ、そう言った。

「魔力を?」

すかさずグライダが尋ねる。

「ええ。おそらく。魔力を弾丸の様に飛ばす術があるのはご存じですよね?」

「ああ。オレの龍哮(りゅうこう)みてーなヤツか?」

それを聞いたバーナムが、自分の技——気を手に集めて投げつける技——を引き合いに出した。

「ええ。バーナムの技と殆ど同じです。これは、魔力を破壊力の高いエネルギー弾に変えて打ち出すものです。という事は、これを持っていたロボットは、魔力をエネルギーに動いている様ですね」

「それじゃあ、魔法使いがいちいちロボットに魔力を注ぎ込むっていう訳?」

不思議に思ったグライダが、クーパーに尋ねる。クーパーは、少し考えて、

「そうだと思いますが、それでは非能率的な気がしますね」

「オニックスの言う通りね」

ボートを操縦しながらコーランが口を挟む。

「魔力を人工的に造り出す事は不可能だし、そんな非能率的なロボットを開発するっていう訳も……」

そこまで言って、何かを思い出したらしく、

「そうか。ストーンキューだったら……」

「ストーンキューですか?」

言われてクーパーも思い出したらしい。

「おい。ストーンキューだかバタンキューだか知らねーけど、それがどーしたってんだよ」

謎の言葉が出てきて、バーナムが尋ねた。

「ストーンキューっていうのは、魔力や魔法を一定量貯めておく事の出来るマジックアイテムの事よ。一回の儀式で魔法を貯めておけば、たとえ使い切ったとしても、丸一日経てば元通り使えるようになるっていう、結構便利な物よ。ただ、そのストーンキュー自体が極端に少なくてね。ロボットを大量生産出来る程採れたかどうかまでは……」

と、コーランが説明する。

そんな説明をしている間に、ボートは島に到着した。

この島は、ちょっとしたグラウンド程の大きさしかない小さな無人島だ。無人島とはいえ、漁をする船が嵐などで避難できる様、簡素な港がある。ボートをそこへ止め、一行は島へ上陸した。

グライダは、強く降り注ぐ太陽の光を恨めしそうに見つめる。

「この仕事が終わったら、ぜ〜ったいに休み取って泳ぎに行ってやる」

「じゃあじゃあ、セリファもいっしょに行きますぅ」

グライダの腕にもたれかかったセリファが笑顔を浮かべる。

「おーい。観光旅行じゃねーんだからよ。早いトコ来いや」

そんな二人を見てバーナムが怒鳴る。

島中を散策すると、島のほぼ中央に直径二メートル程の穴が地面に開いているのがすぐに見つかった。

「結構深そうね……」

その穴を覗き込んだグライダが呟く。

「わー」

わー。わー。わー。わー……。

セリファの声が穴の奥へと降りていく。

「……どうやら、ここから入るっきゃねーみてーだな」

しょうがない、といった感じでバーナムが言った。

「じゃあ、オレにつかまってくれ」

グライダがバーナムの首をしっかり掴む。

「……グライダ。お約束のボケはやめろや」

ボソッと言い、皆がつかまったのを確認した後、穴に飛び降りた。コーランも、自分に浮遊の魔法をかけ、それに続く。

一行は、長い穴の中をエレベーター程のスピードで降りて行く。

バーナムが今使っているのは、四霊獣龍の拳の技の一つ・龍舞(りゅうぶ)である。

本来は単に宙に浮く為の技だが、この様に落下速度を遅らせるのにも使える。しかし、宙に浮くだけなので、鳥の様に空を飛べないのが欠点である。

「ねー。まぁだ着かないわけぇ?」

だいぶ下まで降りた所でグライダが声を上げる。彼女は、セリファにもしがみつかれているので、限界が近づいていたのである。

「……どうやら、下は水みたいね」

夜目の利くコーランが下を見てそう言った。

「なぁ、グライダ。このまま下に落っことしてやろうか? 泳ぎたいんだろ?」

冗談半分でバーナムが言うと、

「何よ、その言い方!」

いつもの様に突っ込もうと腕を上げた時、

「しまったあぁっ!」

バランスが崩れ、二人が落ちていった。

「グライダ!」

「セリファちゃん!」

バーナムとクーパーの声が重なる。

一秒程で水音が二つ。これなら、命に別状はないだろう。

「自分の状況考えないから……」

コーランが落ちていった二人に聞こえない様にボソッと言った。

 

「まさか、本当に泳ぐハメになるとはねー」

ずぶ濡れのグライダとセリファの二人を見て、コーランがしみじみと言う。

濡れた服がピッタリと身体に張りついているのは、はっきり言って気分のいいものではない。

心身共に幼稚園児のセリファは全く気にした様子はないが、一応、そこそこのスタイル(ナイスバディというには少々胸が足りない気もするが)を持つグライダは、服が張りついて身体の線がくっきり出ている為、ジロジロ見ている訳でもないバーナムとクーパーの視線でも、かなり気にしていた。

「二人とも、サッサと着替えなさい。風邪ひいたって知らないわよ!」

コーランは何処から出したのか、二人分のタオルと着替えを放ってよこす。

二人は、ガレキの陰で手早く着替えを済ませ、戻ってくる。二人ともTシャツにジーンズというラフないでたちだ。ちなみに、セリファの方にはグライダの似顔絵が入っている。

「ねーねーコーラン。おねーサマのぬいぐるみがびしょびしょになっちゃったの……」

と言ってぬいぐるみをつき出す。

「ごめんね、セリファ。家に帰るまでガマンしてくれる?」

そう言ってセリファの頭を撫でる。

「そういえば、セリファ。カードはどうしたの? びしょぬれなんじゃないの?」

「あのね。このカード、ぬれてもだいじょーぶなんだよ」

グライダは、セリファの持つトラッドカードのことを心配して聞いたのだが、いらぬ心配だった様だ。

一行は、そこで、改めて辺りを見回した。

崩れた壁。薄暗い天井。辺りに散らばるガレキの山……。

ここが、あのロボットがいたという地下都市の廃墟に間違いなかった。

「…………!」

「どうしたの、コーラン?」

「何か来る!」

彼女が崩れかけた通路の奥を睨みつける。

クーパーが抜刀術の構えをとり、グライダも両手に剣を出現させる。バーナムとコーランも自然体で身構えた。セリファは、グライダの後ろに隠れる。

ガシャン。ガシャン。ガシャン。

小さく機械音が響いてくる。

ガシャン。ガシャン。ガシャン。

やがて、音の正体が姿を現わした。

それは、身長二メートル近いロボットだった。

頭部は日本の忍者を思わせ、左目だけが望遠レンズの様に突き出ている。

ボディはブラックメタリックで弱い光を放っている。そこから出ている両腕は、ボディに比べ少し大きめで、緑色の右腕から剣の刃が飛び出ており、紅い左腕には上腕部に細長いシールドがついている。

下半身はやや寸胴で、焦げ茶のふくらはぎの所が、銃のホルダーになっていた。

「何者だ、お前達は」

言うと同時に左の手から先がスッと伸びて銃を掴むと、あっという間に元に戻って、銃口が一行に突きつけられた。

「返答無き場合、敵と見なし即刻射殺する」

冷静な印象の低めの声が響いた。

「あたしは、グライダ・バンビール。見ての通りの剣士よ」

グライダが、場違いな位落ち着いた口調でそう答える。

「……では、剣士グライダ。一体何の用でここへ来た?」

「ここにいるっていう謎のモンスターを倒しに来たのよ」

こちらに向けられたままの銃口を睨みつけたまま答えを返す。

ロボットは、しばらく無言だったが、

不死の合成生物(アンデッド・キメラ)の事か?」

ロボットは小さく言うと、

「それを……何処で知った?」

そのロボットが疑問を投げかけてきた時、コーランが、何処にしまっていたのか、あの巨大なライフルを出して、

「私達が住んでいる町に、これを持ってきたロボットがいてね。それで知ったのよ。あいにくそのロボットは壊れたけど」

コーランの言葉を聞いて、

「そうか。アンブラが救援を求めたか……」

呟く様に言うと、銃をホルダーに収め、刃も腕の中に収納した。

「不必要に疑った事は謝ろう。自分は、開発コードE−2794。戦闘用特殊工作兵で、シャドウと呼ばれている」

と、自己紹介した。

「シャドウさん」

「シャドウ、で結構だ」

「……シャドウ。ボク達は、この地下都市の廃墟にいる謎のモンスター。貴方の言うアンデッドキメラを倒しに来ました。ここの事情を話してはもらえませんか?」

いきなり尋ねてきたクーパーを一瞥したが、余り上手とは言えない語り口調で話し始めた。

詳しくは、シャドウ自身も知らなかった。

ただ、戦闘用特殊工作兵として作られ、仲間と共に戦い続けてきたのだ。

そんな毎日が、謎のモンスター・アンデッドキメラの手によって狂わされた。

戦いに長けている筈のロボット達が、次々と倒されていったのである。そればかりでなく、倒したロボット達や小動物を体内に取り込んでいったという。

かろうじて生き残ったのは、シャドウを含めてたった数体のロボットだった。

その壮絶な戦いの中でシャドウ自身の身体も傷つき壊れ、倒された仲間の武器やパーツを奪い取って、今日まで生き延びてきたのだ。

「……シャドウってかわいそう」

セリファが目に涙を浮かべポツリと言った。

「確かに、パーツを奪われた仲間達には済まないと思っている。しかし、自分はどんな事をしても生き延びて、あのアンデッドキメラを倒さねばならないのだ」

シャドウのその言葉が、その場にズシッと重く響いた。

だが、その雰囲気も長くは続かなかった。

ドガアァッ!

突然天井が破れ、醜悪な何かが降ってきた。

「みんな、散れっ!」

バーナムの号令一下、素早く四方に散った。

その何かは、今まで皆がいた所に落下。

初めて見るが間違いはない。シャドウが言っていたアンデッドキメラだった。

「よおぉっし。やるか!」

バーナムが。グライダが。セリファとコーランも、一度にアンデッドキメラめがけ攻撃を加える。

だが、思った以上にあっけなく、アンデッドキメラは四散してしまった。余りのあっけなさにコーランが、

「あんた、こんなのに苦戦してた訳?」

「冗談じゃない。あの程度で倒れてくれるのなら苦労はない」

と、シャドウが答えた直後。

ずる。ずるる。ずるるるっ!

辺りに飛び散った破片が地面を這い、転がっていた石や機械の破片などを巻き込み、あっという間に再生してしまったのだ。

「うげっ。んなバカな」

一回り大きくなったそれを見上げ、表情が引きつるバーナム。

「倒しても倒してもこれではな。しかし、攻撃せねば話にならん」

シャドウは両手に銃を構えるが、

「待ってよ。このままじゃいくらやったってムダよ。ねえ、クーパー。何か良い手は……あれ、クーパーは?」

グライダが辺りを見回す。が、彼の姿は何処にもなかった。

「まさか……。あいつに飲み込まれたの?」

その時、アンデッドキメラの身体と同化した銃火器が一斉に火を吹いた!

 

「……ほう。この我輩の芸術作品を倒そうと言う気か?」

大きなモニターに映るこの戦いを、冷たい笑みを浮かべて見つめる男が一人。

「何をしているのですか? こんな所で」

いきなり後ろから声をかけられ、驚いて振り向くと、そこにはクーパーが立っていた。

「バカな! ここに人間が入って来られる筈は……」

「『神の力』と言えば、信じていただけますか?」

いつもの調子で答えるクーパー。

「その昔。ある一人の神が一つの生物を造り上げた。強大なる力と、驚異的な回復力・復元力。そしてあらゆる物質を取り込んで己の物とする吸収力を持った究極の生物だった。しかし、それは邪悪な魔法で無理に合成させた生物だった為に他の神々から嫌われ、造り上げた神と共に神の世界を追放されたという……」

朗読の様な雰囲気のクーパーの声が響く。

「ええい。ごちゃごちゃうるさいっ!」

その男は、隠し持っていたピストルでクーパーを撃った。が、彼はそれを首だけ動かしてかわすと、

「その究極の生物は嫌われ者(オクギ)と呼ばれ、現在に至る……。まだ生きていたとは思いませんでしたね」

クーパーがやや悲しげに語った。

「その筈だよ。その嫌われ者(オクギ)を造ったのは誰あろう、この我輩なのだからな」

「すると……貴方が堕ちし神・ゴーディ」

「その通り。さすがは神父と言った所かな」

ゴーディは、見下した目でクーパーを見つめる。

「……して、お前のような神父風情が、この我輩に何の用かな?」

明らかに見下した態度でクーパーに尋ねる。

「あの生物・オクギが、どうしてこんな所にいるのですか? 神の世界を追放された恨みとも思えませんし……」

「それも、最初は考えた」

ゴーディは、意外にもすんなり事情を説明し出した。

「しかし、この我輩の考えを聞こうともしなかった連中に構う程暇ではない。そんな時、この地下都市で己の造ったロボット同士を戦わせ、生き残った者を大量生産して世界征服をしようと企んでいた男を見つけてな。あやつを使って葬ったまでだ」

冷たいが、楽しそうな笑みまで浮かべ淡々と説明をするゴーディ。

「……では何故、葬った後も、オクギを放したままにしているのですか? いえ、何故、問答無用で葬る様な真似をしたのですか?」

クーパーの声に次第に怒りがこもってくる。

「確かに、世界征服をしようとしたその男は、許される存在とは言えません。しかし、だからといって問答無用で葬り去るのは、神の諸行とはとても思えませんよ」

「ほう。神父風情が我輩に意見する気か?」

と言うゴーディの言葉を無視し、クーパーは続けた。

「神ならば、葬り去るのではなく、その行ないを諫め、止めるべきです。問答無用で葬り去るなどとは、単に破壊を楽しんだとしか考えられません!」

クーパーの威圧感に押され、わずかに怯んだゴーディ。

「ええい、うるさいっ! たかが人間風情が、神である我輩に意見するなど言語道断! 法の道を外れた男を葬り去って何が悪い! 逆に感謝してもらいたいものだな!」

「……ボクは、決して貴方を許しはしない」

クーパーが鋭い目でゴーディを睨みつけた。

「そんな事をしていていいのかな? そこのモニターに映っているのは、お前の仲間ではないのか?」

モニターには、かろうじて結界で身を守っている皆の姿が映っていた。

「……ならば、貴方を倒してでも、オクギを止めます。創造主が死ねば、オクギもただでは済まない筈です」

そう言いながら、ゆっくりと抜刀術の構えをとる。

「確かに、我輩が死ねばあやつもただでは済まぬが、そんな細い剣一本で何ができる? 正義の味方の真似でもすると言うのか?」

ゴーディは、クーパーを完全になめきっていた。その為、クーパーが一気に間合いを詰めてきても、微動だにしなかった。

シャアン!

すれ違いざま刀を抜き、斬りつけ、振り切った状態で止まる。

そのまま、しばしの時が流れる。

やがて、クーパーは溜めていた息を細く吐きながら、

石井岩蔭流(いしいいわかげりゅう)抜刀術奥義・椿之太刀(つばきのたち)。奥義で葬る事を、せめてもの敬意と思って下さい……」

ヒュッ、と血糊を払い、ゆっくりと刀を鞘に収めた。

「ボクは、正義の味方なんかじゃない……」

悲しげなクーパーの呟きが、シンとした部屋に響いた。

その直後、ゴーディの首だけが、ボトリと床に落ちた……。

 

ドドドドドッ!

アンデッドキメラの身体の銃火器から、たえる事なく弾丸やレーザーが飛んでくる。

「……どうする? このままじゃいくら何でも持たないわよ」

結界を張っているコーランが舌打ちしながら言った。

「結界を解けば全員ハチの巣だし、このままじゃ何の進展もないしな……」

降り続けるレーザーやビームの雨を恨めしそうに見ているバーナム。

「せめて、止んでくれりゃ一気にカタつけんのになぁ」

と言っている間に、何故かレーザーの雨がピタリと止んだ。

「今だっ!」

バーナムは迷わず一気に結界の外に出ると、

「シャドウ! てめーの銃はエネルギー弾だな?」

「そうだ」

「なら、最大出力で、オレめがけてぶっぱなせっ!」

「えっ!」

バーナムの言葉に一同が驚きの声を上げる。

「何やってんだ、さっさとしろっ!」

バーナムが再び怒鳴る。

「そ、そんな事したら、バーナムは……」

グライダが彼に向かって何か言おうとした時、シャドウの両手が伸び、銃を掴んで構えると、バーナムめがけて撃った!

「バーナム——ッ!」

グライダの鋭い叫び声が響く。

ドォッ!

シャドウのビームマシンガンとレーザーキャノンのエネルギー弾が一つになり、バーナムの全身を包んだ。間違いなく、普通の生物は生きてはいない威力だ。

「……ぉぉぉぉおおおおおおおおっ!」

しかし、エネルギー弾は彼の全身を包み込んだまま。彼はその中で平気な顔をしていた。

「へっ。わかんねーって顔してんな」

バーナムは口の端で笑うと、

「オレが使う四霊獣龍の拳の技の基本は『(エネルギー)の吸収』だ。これだけのエネルギーにてめーの気を加算すりゃ、かなり強力な技が使えるぜ」

説明しながら、自分の両手に気を集中させ始める。全身を包む気が彼の両手に集まる。

バーナムは、その気の固まりを両手で高く掲げた。気の固まりはフワフワと宙に舞い上がる。すると……。

気の固まりからいくつもの龍の頭が飛び出し、アンデッドキメラめがけて次々と突っ込んでいく。

龍の頭は後から後からアンデッドキメラに群がり、あちこちに喰いついている。

しかし、アンデッドキメラ自体には何の変化もない。

やがて、龍の頭は現れた時と同じく唐突に消え失せた。

「四霊獣龍の拳・龍饕(りゅうとう)。ちっとばかり派手だったか」

大きく息を吐いたバーナムが気まずそうな顔でそう言った時だった。

ザザザザザ……。

突然アンデッドキメラの身体がボロボロと崩れ出したのだ。

この世界最強の存在・龍に喰われた者は、もはや滅ぶ以外の道は残されていなかった。

一行は、完全に崩れ、ただの屍肉と機械の山となるまで呆然と見つめていた。

「皆さん、ご無事ですか?」

突然後ろからクーパーが声をかけてきた。

「あーっ! てめーっ!」

バーナムが彼に素早く飛びつき、怒鳴りながら首を締め出した。

「こっちが死ぬ様な思いで戦ってたっつーのに、なぁにやってやがったんだ?」

握る手に力を込め、手加減なしでグイグイ絞めている。それから逃れたクーパーは、

「す、すみません……。ちょっと」

「何が『ちょっと』だ! だいたい変身ヒーローじゃねーんだから、全部終わってからひょっこり顔出すんじゃねーっ!」

怒鳴り疲れたのか、息を切らしたバーナム。

「でもぉ、どーしてきゅうにこんなになっちゃったのかなぁ?」

「……神のご加護かもしれませんよ、セリファちゃん」

「……おめーは。何でもかんでも『神のご加護』ですますなっ!」

再び怒鳴りつけるバーナム。

「……ま、いいわ。これで終わったんだし」

努めて明るくグライダが言った。

「さて。シャドウ。貴方はこれからどうするんですか?」

クーパーの突然の問いにシャドウは、

「自分は、この都市を守らなくてはならない。それが、自分の受けた最後の命令だからな」

機械的に、そしてやや悲しげにそう答えた。

「こんな廃墟になった、誰もいない都市をですか?」

「……守る意味がない事は、自分にも分かる。だが、自分は機械。命令は絶対だ」

淡々と語るシャドウ。

「それは分かります。ですが、貴方に命令を下した人は、既に亡くなっています。もし、貴方が望むのであれば、ボク達の住んでいるシャーケンの町へ来ませんか?」

クーパーの口から出たのは、余りにも意外な言葉だった。

「しっ、しかし、自分は機械だ。人間の社会で生活できるとはとても思えない」

「……ボクは、大丈夫だと思いますよ」

いつもの調子でクーパーが答える。

「確かに、機械だという事で、理不尽な扱いを受ける事はあるかもしれません。しかし、貴方は、人間と同じ思考を持っています。その思考を持ち続ける限り、姿形は違っても、人間達は、貴方を受け入れてくれる筈です。それが、人間の持つ『優しさ』だと、ボクは考えます」

クーパーがいつもの口調で、しかし、いつもよりも説得力のある調子で言う。

「……」

シャドウは黙って立ったままだった。

こんこん。

セリファがシャドウのボディを叩く。

シャドウが彼女を見下ろすと、彼女が悲しそうな瞳でシャドウを見上げていた。

「シャドウ、ここにのこるの? シャドウ一人ぼっちになっちゃうよぉ」

重い沈黙が流れた。

「……そうだな」

不意にシャドウはしゃがみ、セリファを自分の肩に乗せ、立ち上がった。

「誰だって、一人は嫌、か……」


 
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