No.443985

深層のIb

Ssumetさん

イブ一人だけの生還ENDからの開始です。
筆者は共有主義者ですので、二次的著作物の著作権は執筆直後から放棄され、全人類の共有財産になります。
この作品はフィクションですが、一部事実と同じところがあります。

2012-07-01 01:42:19 投稿 / 全20ページ    総閲覧数:1073   閲覧ユーザー数:1058

 第一章 プロローグ

 

 夢の中の夢。

 絵画の夢を見始めると青い髪の人が私を起こしてくれる。

 そして、目を覚ますと、また夢の世界が広がっている。

 何度も何度も繰り返される夢から覚める夢。

 この長い夢は、いつも一人の女の子が涙を流す場面で終わりを迎える。

 

 いつもの長い夢から覚めて、山々の緑と空の青いコントラストが賑やかな彩りを見せている窓を開けると、朝の涼しい風が私のほほをくすぐり、私の目を一層覚ましてくれました。

 7月29日の今日はお父さんとお母さんと一緒に17世紀のオランダで活躍した画家の絵画を見に市立美術館へと行く日でした。私は朝食を済ませると外着に着替えて、家族と一緒に市立美術館へと向かう市バスに乗りました。

「今日はとても混んでるね」

 私はそう云って片道1時間も掛かる曲がり道を進むバスに揺られながら、外の風景やバスの人々についてお母さんと少し雑談をしました。そうして、バスがいくつかのトンネルを抜けると、世界の底が田園の緑でいっぱいになり、バスは直進する道路に出て、アスファルトで覆われた都会の方へと速度を上げていきました。

 バスの揺れが止まり、美術館の隣にある公園に着くと、色取り取りの光で輝いた秋桜(コスモス)向日葵(ヒマワリ)が私達を目的の場所へと案内してくれました。

 美術館の展示は二部構成になっていて、私はチケットの半券で午前中に一部を見終わると、美術館の中央にある休憩室でお父さんとお母さんを待つことにしました。そうしていると、薔薇が彫刻された杖を持った一人のお婆さんが苦しそうに歩いているのを目にしました。私は直ぐに駆け寄ってお婆さんを支え、「大丈夫ですか?」と声を掛けました。

 お婆さんは「ありがとう」と云うと、私の見た画家とは違う人の展示が開催されていて、それを見に来たのだと話してくれました。

 

 『ゲルテナ展 深窓の世界』

 私はお婆さんを目的の場所に連れていくと、入り口の直ぐ近くで青い髪の人の肖像が目に入りました。

 私は一瞬頭の中が真っ白になり、随分(ずいぶん)経った後に、お婆さんが心配そうに私の顔を覗いているのが分かりました。

 私はお婆さんに「大丈夫です」と笑顔で伝え、入り口から出て行こうとしました。その直後、大きな揺れと眩暈(めまい)が私を襲い、美術館が一瞬真っ暗になったと思った後、嵐の前の黒雲が空を覆った時のような薄暗く静かになった美術館にひとり私だけが居ました。

 

「ここはどこ? 何が起こって、私は何をしたの?」

 

 第一章 プロローグ 終わり

 第二章 ゲルテナの世界

 

 美術館の大きな窓から外を眺めると、地面から深く掘り下げられた地階であることが分かりました。

 地上の方を眺めると、少しずつ明るくなるグラデーションが掛かるように階段が作られおり、私の周りは演劇が行われる劇場のような作りになっていることが分かりました。周囲を見回していると、世界はさらに暗くなり、数多くの小豆が地面に叩きつけられるほどの音がしたかと思うと、外の世界と美術館を隔てる窓にたくさんの波紋が広がって、やがて大降りの雨が降り始めました。そして、雷が鳴り、雨脚が一層強くなると、美術館の床は急激に冷え、私の腕や足を痛めていきました。

 私は窓を開けて外へ出ようとしましたが、窓はしっかりとはめ込まれており、私の知識ではとても開けることはできませんでした。窓から外へと向かうことを諦めた私は美術館の入り口に向かうことにしました。

 入り口の扉は開かず、重い扉を何度も強く動かしても、扉は震えるだけで動く気配はありませんでした。大きな音がなるまで扉を強く開こうとしたとき、大きな雷の音とともに美術館の天井や壁や床に赤銅色の文字が浮かび上がりました。

 

 『当館では防犯のため、入館者は出口からご退出していただくことをお願いしております』

 

 雷鳴が終わった一瞬の静寂の後、雨脚(あまあし)の音が一層、美術館内に響き渡りました。そして、赤い色の手形が私の進む道を示すかのように美術館内の通路の至る所についていきました。

 赤い色の手形が怖くて私は他の出口を探しましたが、どれも結果は同じでした。幾つか館内を歩き回ると、次第に赤い色の手形は消えていき、最後に残った場所は『ゲルテナ展 深窓の世界』の入り口だけでした。

 チケットを持っていないのにいいのかな?

 そんな思いとは裏腹に、ポケットの中にあったチケットの半券はいつのまにか『ゲルテナ展 深窓の世界』へと変わっていました。私は覚悟を決めると展示会場の奥へと進んでいくことにしました。

 

 地下へと続く階段。この下に行くほかに進む道はありませんでした。

 13の階段を下りると、そこには4枚の絵画が並んでいました。

 1枚目:タイトル『**の世界』

 2枚目:タイトル『**の自白』

 3枚目:タイトル『心*む*判』

 4枚目:タイトル『*罪』

 絵画の合間には、いくつかの絵画が引き抜かれた抜かれた跡が見え、さらに先に進むと、紐で吊るされた人形がたくさん転がっていました。その人形の首は全て紐で引っ張られた跡があり、首は()げかかっていて、とても痛々しく思えるものでした。さらに、その先を進んで行くと、行き止まりになっていました。私はこれ以上先には進めそうにないと思い、諦めて元来た道に引き返そうとしたとき、人影にぶつかりました。

 

『えっ?!』

 その声には私のものと、もう一人、別の声が混じっていました。

 

 第二章 ゲルテナの世界 終わり

 

 第三章 尊敬のゲルテナ

 

 その人影は、私と同じくらいの背丈で、白い服を着た白銀の髪に琥珀色の瞳を持った女の子でした。

 その女の子は、私の持つ赤い薔薇を目にして安心して喜び、手にしていた白い薔薇を両手に持ち替えて私に差し出して見せてくれました。

「私の名前はドロシー・リリエンタール。みんなは私をドロシーやリリーて呼ぶわ。あなたは?」

「私の名前はイブ」

「いつからここに居るの?」

 そう言って、ドロシーは幾つか通路を見回しながら私に問いかけました。

「今日の午後から」

「私と同じだね」

 ドロシーは満面の笑みを浮かべながら、これまで見てきた部屋のことを話してくれました。

 そして、一緒に私が元来た道を戻る途中、4枚の絵画の前に差しかかりました。

「これ、どういうタイトルなのかな?」

 私がドロシーにそう尋ねるとドロシーは絵画のタイトルを読み上げてくれました。

 1枚目:タイトル『脅迫の世界』

 2枚目:タイトル『虚偽の自白』

 3枚目:タイトル『心悩む審判』

 4枚目:タイトル『冤罪』

「新聞やニュースでよく聞く話だよね。無実の人が罪を背負うという悲しい出来事」

「幾つか絵画が飾られていない部屋があったから、その絵画をここに並べてみたらどうかな?」

 私はドロシーの提案に従って、幾つかの部屋を調べてみることにしました。そして、連作と思われる幾つかの絵画を見つけました。

 1枚目:タイトル『疑わしきは被告人の不利益に』

 2枚目:タイトル『疑わしきは被告人の利益に』

 3枚目:タイトル『極刑を求める世論』

 4枚目:タイトル『中傷と獄中死』

 5枚目:タイトル『最高裁裁判官になれない良心の判事』

「このどれかが正解なのね。イブ、どれがいいのかな?」

私は新しく見つけた絵画の5枚目を既に飾ってある4枚の絵画の次に飾りました。そうすると、それと同時に扉が一度開きましたが、また直ぐに閉じられました。

「駄目みたい」

 ドロシーはとても残念そうにその扉を見つめていました。

「イブ、絵画を並べなおしてみるのはどうかしら?」

 私達は幾つか並べ方を替えてみました。そして、ついに正解にたどり着きました。

 1枚目:タイトル『脅迫の世界』

 2枚目:タイトル『虚偽の自白』

 3枚目:タイトル『心悩む審判』

 4枚目:タイトル『疑わしきは被告人の利益に』

 5枚目:タイトル『冤罪』

 『心悩む審判』と『冤罪』の絵画に描かれた人物達は年老いていましたが、みなとても嬉しそうな顔になり、私に鍵を渡してくれました。私達は直ぐに閉じられた扉をその鍵で開いて先に進んでいきました。

 

 次の部屋は『嘘つきの部屋 一枚の真実』と書かれたプレートが飾られていました。部屋の中央には扉があり、左右には複数の絵画が備えてありました。

 1枚目:タイトル『西都電力(14.9%の節電が必要です)』:「3枚目と4枚目は本当のことを言っているよ。銅像を上へ1マス動かす」

 2枚目:タイトル『市民(節電すれば乗り越えられます)』:「1枚目と3枚目はウソを言っているよ。銅像を下へ1マス動かす」

 3枚目:タイトル『東都電力(余力は4.5%あります)』:「2枚目はウソを言っているよ。銅像を左へ1マス動かす」

 4枚目:タイトル『政府(原発の再稼動が必要です)』:「1枚目と3枚目は本当のことを言っているよ。銅像を右へ1マス動かす」

 

 私達は奥にある銅像を下へ1マス動かしました。その直後、前にいた部屋から「嘘つきーー!!」と声が上がり、絵画が動かされる音と共に扉が開いた音がしました。

 1枚目:タイトル『窓際に追いやられた市民(……)』

 2枚目:タイトル『西都電力(嘘つき!)』

 3枚目:タイトル『東都電力(嘘つき!)』

 4枚目:タイトル『政府(嘘つき!)』

 

 さらに進むと『後に非難区域に指定された地域での結婚式』と書かれた部屋が見つかりました。

 1枚目:タイトル『専門家Ⅰ(この放射線量なら子どもを産んでも大丈夫です)』

 2枚目:タイトル『産婦人科医(現状では、奇形児が平時の数十人からさらに数人増えるだけです。そして、セシウムはカリウムと異なり少量が臓器に蓄積します』

 3枚目:タイトル『憂慮する医師達(2.5mSvで直線関係が成り立ちます。ガン死以外にもリスクがあります。多寡が重要で一部の鉱山病はラジウムによるものであることが分かっています)』

 4枚目:タイトル『専門家Ⅱ(ホルミシスで逆にガン死が減ります。ラジウム浴は良いですよ!)』

 ドロシーは数値的な説明がなされて「良薬は口に苦し、良言は耳に痛し」の提言をしているものを探すと良いと私にアドヴァイスしてくれました。私は、2枚目と3枚目の絵画を新郎新婦に渡し、喜んだ二人から花束を受け取って、さらに奥の部屋へと進んでいきました。

 

 第三章 尊敬のゲルテナ 終わり

 第四章 運命の再開

 

 扉を開けて先に進むと、ブロンドのウェーブの掛かった髪で緑の服を着た女の子が倒れていました。

「ここは?」

 その女の子は私達にそう問いかけましたが、私やドロシーもここがどのような場所なのかは分からなかったので、ゲルテナの作品に関係した場所なのかもしれないと答えることしかできませんでした。いくつか緑の服を着た女の子と話をしたことで分かったことは、女の子はメアリーという名前で、暗闇や人影に酷く怯えているように見えたことだけでした。

 メアリーは常に黄色い薔薇を手に握っていて、でもその手は常に震えていました。私達3人は好きなものの話をしたりして気を紛らわそうとしましたが、それも余り長くは続きませんでした。

 幾つか通路を進むと、絵画がたくさん展示された場所に出ました。そこでは、綺麗な服を着た塑造やウサギのような可愛い動物の彫刻、色取り取りのパラソルや街が描かれた絵画が飾られていました。みんなでウサギ達が可愛いねと話しながら、少しこの広い場所で休むことにしました。

 ドロシーは幾つか絵画を見てまわり、私とメアリーは傍にあった腰掛に座りました。メアリーは家族のようなウサギの彫刻を見つめて私にこう聞いてきました。

「イブのお父さんとお母さんはどんな人なの?」

「とっても優しい人だよ」とメアリーに返答して、私は病気になったときに大切に看病してくれたときの話をしました。

「私の両親もイブのお父さんとお母さんみたいに優しいといいな」

 そうメアリーは呟いて、期待と不安に苛まれながら、これまでの記憶がないことを嘆いていました。

 そうこうしている中、メアリーは「ひっ!!」と怯えて声を上げたかと思うと扉の置にある遠くの人影を指差しました。その人影は青い髪をしていたように見えたかと思うと直ぐに姿を消しました。

 私の夢の中に出てきた人にその人影は似ていて、私はその人影を追おうとして腰を浮かそうとしました。その途端、「だめー!!」と叫んだメアリーに服の裾を引っ張られ、目の前にドロシーが現れました。

「えっ? 何が駄目なの?」

 ドロシーはキョトンとして、至って冷静な面持ちでメアリーと私に質問をしました。

「えっと、あの、その、イブがどこかにいってしまいそうだったから」とメアリーは私の後ろに隠れて、恥ずかしそうにしながら、精一杯勇気を振り絞ってドロシーに答えました。

 ドロシーは頭に疑問符がついているように見えたので、私はいま起きたことをより詳しく説明しました。

 

「そう、夢に出てきたような人影が向こうの通路の影に現れたので思わず追ってしまいそうになったのね」

 ドロシーはいま居た部屋には何も無かったので、「もしその人影が気になる人ならば、その影を追ってみない?」と提案してくれました。メアリーももしかしたら何か意味があるんじゃないかと云って、その影の後を追うことを進めてくれました。そして、私はみんなに感謝して、その影の後を追って先の通路を進んで行くことにしました。

 

 第四章 運命の再開 終わり

 第五章 深層の扉

 

 通路の先に進むと中央に地下へと続く螺旋(らせん)階段のある大きな部屋へと出ました。部屋の奥にはエレベータらしきものがありましたが、扉は開いたままで真っ暗な空洞になっていました。

 部屋の中へ入り数歩だけ歩みを進めたとき、突如大きな地震が起きて中央の階段が金属が悲鳴を上げるように音を立てて地下深くへと崩落していきました。

「余震があったのね」

 ドロシーは大事なことを忘れていたというように頭を抱えて少し考え込みました。

「エレベーターで下へは行けないのかな?」

 メアリーの問いにドロシーは直ぐに「それは無理でしょうね」と答えました。

「どうして?」と問うメアリーに対して、ドロシーはエレベータの中にある切れた3本のワイアーを指差しました。

「複数のワイアーが同時に切れることは現実の世界では本当に希なの。ただ、絶対に切れないということはなくて、現実の世界でも何度か切れて大事件になってたことはあったわ。今では覚えている人は少ないでしょうけれど」

 ドロシーはそう云って、壊れた階段の方へと歩みを進めました。

「無限に続くかと思う地下の奥深くのフロアーの所々に(つる)がある」

 私がドロシーとメアリーにそう云うと、メアリーはうなずいて、前に居た部屋にロープがあったことを教えてくれました。そして、3人でロープを取りに行こうとしたとき、「危ない!」とドロシーの声が聞こえたかと思うと地面が崩れ始め、私とメアリーはドロシーに押されて前の部屋に向かう通路へと投げ込まれました。

「大丈夫? ドロシー!」

「ええ、私は反動で後ろに飛んだから大丈夫だけれど、これ以上動くのは不味いかも。二人はロープを取りに行って、探せばきっと見つかるから。それと、出来るだけたくさんのロープを持ってきて」

 

「ロープはどこだろう?」

「これじゃないかな?」

 メアリーは左側、中央、右側にある三つの銅像に結ばれて束になったロープを指差しました。

 左側の銅像:タイトル『企業』

 中央の銅像:タイトル『政治』

 右側の銅像:タイトル『専門』

 さらに銅像達の前方には『この紐(「縦割りと利権」という名のロープ)の結び目を解くことが出来たものが世を制するだろう』と記述されていました。

 

 部屋をさらに見回してみると、部屋の左側の片隅に、水とプラスチックと鉛ガラスで覆われた暗闇で微かに光る石があるのを私は見つけました。

 

 選択肢

 1.石を取る  → BAD END 1へ

 2.石を取らない→ 続きを読む

 

 私達は何とか紐の結びを解こうとしましたが、紐はとても頑丈に絡んでいたため、このままではどんなに時間を掛けても紐を解くのは無理そうでした。

「何かで紐を切れないのかな?」

 メアリーは私にそう云うと「別の部屋も見てみませんか?」と右側にあった扉を指差しました。

 

 隣にある部屋へ向かうと、そこには剣とペンがありました。

『すべて剣をとる者は剣にて亡ぶるなり』『ペンは剣より強し』

「どういう意味だろう?」

 

 選択肢

 1.剣を取る  → BAD END 2へ

 2.ペンを取る → 続きを読む 

 

 ペンを取ると、前に居た部屋から歓声が聞こえ、三つの銅像は紐から退いていました。

 私達は手に入れたロープを持って、地震で壊れた部屋へと向かいました。

 

「これで大丈夫」

 ドロシーは紐を結び終わると、一人ずつ私達を地震で壊れた部屋に導いてくれました。

 

「これからこの石のように硬い(つる)にロープを巻きつけて地下に降りていくよ」

 ドロシーはそう云って私達の覚悟を確認した後、下へと降りて行きました。

 

 第五章 深層の扉 終わり

 第六章 深層の世界

 

 祖母の階:

 下の階に下りると『嘆きの小児』と書かれた銅像が置かれていました。

 1枚目の絵画:タイトル『政府』(より近い距離にある病院と学会で認定される専門医の増加で多くの人々の功利は増加しています)

 2枚目の絵画:タイトル『名医』(大変希なケースのガンに対してより良い医療を行なう体制を作るには、情報の共有や希なケースのガン患者を集めて治療するより集約的な病院が必要です)

 3枚目の絵画:タイトル『記者』(佐渡島では、地元の医師会が中心となって、島民らの診療情報を一元管理する新たな情報システムを構築し、病院や診療所、歯科医院、調剤薬局、介護施設を巻き込むことで、大学などの研究機関や製薬会社への開発力や疫学上の成果を上げる可能性があります)

 私達は2枚目と3枚目の絵画を『嘆きの小児』の両脇に架けました。『嘆きの小児』は嬉しがり、奥にあった下の階へと続く扉を開けてくれました。

 

 祖先の階:

 さらに下の階へと降りた私達は、幾つかの部分が粉々にされた『訴える人』とタイトルが書かれた像と4枚の絵画が置いてある部屋にたどり着きました。

 『訴える人』:「低線量被爆でもガン死以外のリスクの可能性が報告されております。「黒い雨」や「死の灰」を受けた広島や長崎の人々の悲劇を繰り返さない為にも問診票への記入と返送をどうかお願い致します」

 1枚目の絵画:タイトル『記入が方法が分からない県民』(どう記入すれば良いのか分からない。返信したいが教えて欲しい)

 2枚目の絵画:タイトル『福島地裁・厚労省』(放射性降下物による内部被爆での健康被害は、問診票などによる高度な蓋然性の立証が尽くされておらず、福島の原発事故から数年以上後の記憶によっていることから正確性を十分明らかにできないため、被爆者健康手帳の交付などを求めた集団訴訟における原告の訴えを退けざるを得ない)

 3枚目の絵画:タイトル『政府』(政府が提示する放射性物質の拡散を福島第1原発事故後のように精密に測定したこれ以上のデータはない。そのため、被爆者の放射性ヨウ素における影響においては更なる「科学的・合理的根拠」の立証が必要だが、被爆者側がそれを立証できないなら医療費の窓口負担は原則的に許可できない)

 4枚目の絵画:タイトル『キング牧師と良心の医師団と被爆体験者と記者達』(このままでは被爆での健康被害への影響が見極められず、県民の将来的な健康を守ることができせん。次の世代のためにも、どうか問診票を記入して返信して下さい。お願い致します)

 私達は、『記入方法が分からない県民』の絵画の下に備えてあった問診票の空欄を、隣の部屋にあった『友人達の絵画』の記述を助けにして詳細に記入してあげました。そうすると、下の階へと続く階段への扉が開かれました。

 

 猫の階:

 『踊り狂う猫(374と400号)』と題された銅像が飾られている。

 1枚目の絵画:タイトル『企業』(排出しているのは無機水銀であり、問題となる有機水銀ではありません)

 2枚目の絵画:タイトル『協会』(海外で同じ製法を採用していても水俣病ほどの被害は引き起こされていないため、有機水銀起源説が否定されるのではないか?)

 3枚目の絵画:タイトル『専門Ⅰ』(1865年に有機水銀中毒の例がエドワーズによって報告されており、1930年時点でツァンガーらによって本件と同じプラントで水銀が有機化して中毒を起こすことが知られている。また、1940年にはハンターらのメチル水銀中毒の報告がなされている。これを無視することはできない)

 4枚目の絵画:タイトル『専門Ⅱ』(本件の問題では、企業がこれまでと異なり、生産プロセスにおいて触媒を変更したために、有機水銀が中間物として生成されています)

 5枚目の絵画:タイトル『常識にとらわれた医者』(母親の胎盤は毒を通さない。それが医学の常識だ)

 私達は『踊り狂う猫(374と400号)』と隣の部屋にあった『症状を知る人々』(魚は食べとらんとです。妊娠中に水銀がこの子にいったとじゃなかでしょうか)の絵画を5枚目の絵画の横に並べました。5枚目の絵画は涙し、下の階へと進む扉を開けてくれました。

 

 薔薇の階:

 私達はチューリップや桃の花が咲き乱れる階にたどり着きました。僅かに流れる風で桃の花弁は舞い散り、草木の緑と土の茶色で彩られていた床を、その薄桃色の花弁が点描を描くようにゆっくりと埋めていきました。

 私達は鳥達の飛ぶ姿がはっきり見えるかのような青空の下を歩いて地下へと続く道を探しました。

 幾時間か歩いたと思われた頃、地平線上から夕暮れの橙と黄色と白と青色でコントラストが掛けられた空を見渡せる丘に立ちました。一つの大木がその丘にあり、地平線から下は霧で覆われているのが分かりました。私達はその丘に腰を下ろして小休止すると、ドロシーは「チャイコフスキーの交響曲第6番が聞こえてきそうな風景ですね」と私達に語り掛けました。

 私はその言葉の意味が『悲愴』であると分かると、これまでの疲労とこれ以上先に進めないのではないかという思いで、顔をうつ伏せにして涙を流しそうになりました。

 『大丈夫、イブ、私が傍についているから』

 夢でいつも会う青い髪のお姉さんの声が微かに聞こえたかと思い、ふと上を向くと、群青色の空に星の明かりが輝いていくのが分かりました。私はその星々を眺めていると、一羽の青い鳥が私達の前方を飛んでいるのが分かりました。その青い鳥は私達の周りを(さえず)りながら何度か旋回し、幾つか落し物をしていることが分かりました。私はその鳥の飛ぶ方向へ向かい、花弁の無い茎だけの薔薇や綺麗に種だけになったアーモンドが落ちているのを見つけました。私は青い鳥の落し物を拾い集めると、メアリーやドロシーにそれを見せました。

 メアリーは綺麗に種だけになったアーモンドとその青い鳥の飛ぶ方向を見て、この霧の下に人が住んでいるのではないかと云いました。ドロシーはメアリーの推察に深く頷くと霧が掛かった崖を丹念に注意深く調べ始めました。

 辺りが完全に暗くなる前に、私達は大昔に舗装されたような道を見つけることができました。注意深くロープを使いながら、その曲がりくねった道を降りて行くと小高い山に囲まれた平地にたどり着きました。その近くの建物にはアーモンドが詰められた入れ物が掛けられており、その傍に地下へと続く階段がありました。

 

 聖処女の階:

 『聖女の処刑』と書かれた銅像が置かれている。

 1枚目の絵画:タイトル『信者』(処女でないと処刑してはならない)

 2枚目の絵画:タイトル『非信者』(子を産んでいない人を処罰しないために設定したと思われる一見人道的に思える制度だが、それを覆す方法が存在し、それを行うことで非人道的な行いがさらに生じる可能性は否定できない。この制度は即刻止させるべきだ)

 3枚目の絵画:タイトル『処刑』(目の赤い老婆は魔女だ。処罰せよ)

 私達は『法的権利と人権センター』(目が赤い理由が貧困地で使われる料理用の燃料によるものである)と書かれた絵画を3枚目の絵画に隣に置きました。銅像は地下へ進む扉を開けてくれました。

 

 竜の記述:

 1枚目の絵画:タイトル『投機の魔術師』(投資家は空売りと買戻しで二度儲けることが出来る)

 2枚目の絵画:タイトル『賢明なる提言者』(新しい技術や方法の導入は株価上昇の可能性を見せるが、バブルでない保証は無い)

 3枚目の絵画:タイトル『黒い白鳥』(神の手は存在しない。全てのものはガウス分布に従うわけではない。自然界にはポアソン分布やカイ二乗分布、T分布などの多くの統計的な分布に従う事象が存在している)

 私達は『報道』(バブルに成っていないことを確実に判断できる指標は存在しない)という像をこれらの絵画の中心に配置しました。そうすると、部屋の中央から地下へ進む扉が開いていきました。

 

 冥府の階:

 この階の中央には一枚だけ『転生と死の天使』とタイトルの書かれた絵画が飾られていました。

 私達がこの絵画に近づいたとき薄暗かった部屋はさらに暗くなり、体の大きさもある刃の大きな鎌を持った天使が輪郭だけを示して私の前に現れました。

「私は死の天使、人々は私を死神と呼びます」と云うと、私の直ぐ前に立ち「まだ魂を必要なところへと導いていく必要はありません」と伝いました。

 私はさっきまで一緒にいたメアリーとドロシーの状況を死の天使に尋ねると私と同じ状況にあり、同じ魂を持つ死の天使達が違う場所で2人に会ていることを私に伝えると「下の階で同じ場所に皆さんを連れて行きますので、私の後をついてきてください」と云って私に手を差し伸べました。

 私はいくらか迷った後、死の天使の後についていくことにしました。

 死の天使の進む通路の両側には教科書で見るような人々の歴史的な写真が飾られており、記事も数多く並べられていました。中には時間の経過と共に写真の内容や記事が書き換わるものも多くありました。

 ときおり吹く風によって、写真や記事のいくつかは通路の脇から吹き飛び、私の体に被さりました。

 通路を進む間に、死の天使は、私の体に被さった写真や記事で気に入ったものがあれば、魂を集める為にもう必要ないものなので持って行っても良いと私に云いました。

 私は悲しそうに見える記事や写真を持って行く気にはなれず、丁寧にその写真や記事を体から取り除いて通路の脇に置いていきました。

 通路の先が少し明るくなって出口に近くなったと思われた頃、体に被さった記事で「メアリー」と「殺」の文字が書かれたものを見つけました。その記事は、私に読めない漢字が使われていたため、何が書かれているのかはっきりと理解することができませんでした。私はこの記事でメアリーが悲しんだらどうしようかと思い悩み、記事をいったんスカートのポケットに入れて、メアリーの居ないときにドロシーに相談することにしました。

 そうこうして、出口へと進んだ後、私はみんなと再会することができました。

 

 風の谷の階:

 部屋には野生動物の銅像が飾られている。

 1枚目の絵画:タイトル『市民』(巨大風車の場合、低周波音による健康被害が心配です)

 2枚目の絵画:タイトル『県』(渡り鳥や高原にすむ鳥が風車にぶつかって死ぬバードストライクの危険性を減らす為に、風力を環境アセス法の対象に致します)

 3枚目の絵画:タイトル『動物達』(風車は自然保護のイメージが強いので、野生動物保護についてよく発言してくれている環境派の有名な方が風力発電に無批判になびいたりしていることを聞くと、とても悲しいです)

 私達は別の部屋にあった『自然保護団体との共同調査』(自然保護団体がもっと関与できる仕組みで根気よく集めたデータを基にして冷静に評価と議論を推進したい)と描かれた絵画を野生動物の銅像の傍に置きました。『動物達』は地下へ進む扉を開いてくれました。

 

 大地の階:

 1枚目の絵画:タイトル『農水省』(米60kgの生産費、つまり、肥料や農薬、農業機械などの経費は9600円である。それに、農村での建設業や製造業などの労賃を稲作労働時間に掛けて計算した労働費約4500円を足したのが、米の生産費16500円の内訳である)

 2枚目の絵画:タイトル『与党』(労働費の8割だけ補償する。そのため、戸別所得補償額は、それを考慮した生産費15600円から実際の販売価格12000円を引いた額となる)

 3枚目の絵画:タイトル『記者』(かつて農業政策を転換したEUが、販売価格を下げて所得保障に切り替えたのと異なり、日本は減反{補助費約2170億円}で価格を維持しつつ戸別所得補償{補助費約3340億円}を行っている)

 私達は部屋の片隅にひっそりと掲げられていた『研究員』(コメ農家のなかで兼業農家は9割を占めており、選挙では兼業農家も主業農家も一人一票である。そのため、大勢の兼業農家の利益を損なう政策をこれらの票に頼って当選した議員や政党は打ち出せない)を部屋の中央に置きました。そうすると、部屋の奥から扉が開く音がしました。私達はその音がした方向へと向かい、地下へと進んでいきました。

 

 海の階:

 海岸の模型が飾られていました。その模型は黒く濁った津波で襲われており、3階建ての建物が鉄骨だけになっていました。

 1枚目の絵画:タイトル『研究員Ⅰ』(気象庁のマグニチュードは過小評価になるが、Wフェーズと呼ばれる手法を用いればマグニチュードを早く正確に計算できる。さらに、地震発生後の10分間のデータを用いればほぼ正しい津波の高さが予測できる。しかし、現状では浸水予測の計算に30分以上掛かることから、計算機の更なる高速化やアルゴリズムの改良が望まれる)

 2枚目の絵画:タイトル『研究員Ⅱ』(地震発生によって、海水面が上下したことで音波が発生し、電子の密度に濃淡が生じることで、津波の発生源のほぼ真上で電子の数が減少し、その周辺でも電子の数が増減する現象が観測された。この変動範囲は津波発生域とほぼ同じである。今後、変動量から津波の規模を予測できれば、津波の早期避難の呼びかけに役立てる可能性がある)

 私達は1枚目と2枚目の絵画を海岸の模型の傍に掛けました。その直後、模型が動き、さらに下へと続く穴が開きました。私達はロープを使ってさらに下へと進んでいきました。

 

 夜の階:

 下の階に降りて直ぐにメアリーの悲鳴が聞こえたかと思うと、メアリーは逆さになって頭から胸の近くまで砂で埋まっていました。私とドロシーは足場を確認してメアリーの近くに駆け寄り、近くに居たウサギさん達に助けを求めました。

 近くに居たウサギさんたちはコクコクと頷くと、役割分担をして、頭に水の入った小さなコップを載せて、メアリーから少し離れた場所に撒き、砂を掘り出すのを手伝ってくれました。

 そうして、私達がメアリーを砂から引き出すまでに約4分が経過していました。

 ドロシーは直ぐにメアリーに外傷と出血が無く胸への圧迫が軽微であることを確認しました。そして、メアリーを仰向けにして、胸に耳を当てて心臓が動いていること、脈が僅かにあるが呼吸をしていないのを見てとると、直ぐにメアリーの口の周りを調べました。その結果、メアリーは砂で埋もれる前に口と鼻を手で覆っていたため、口内への砂の混入は軽微であることが分かりました。

 私はドロシーに教えられたようにメアリーの顎を上に向け、鼻を摘んで口にゆっくりと深く2回息を吹き込みました。そうすると、胸が動き、気道が確保されていることが分かりました。

 ドロシーは脈を取りながら、心停止の場合に備えていました。

 私達が人工呼吸を開始してから十数分が経過した後、メアリーが意識を回復しました。

 私達はウサギさんたちに感謝をして、メアリーの回復を待った後に、下の階へと進みました。

 

 原始心像の階:

 私達は美術館に設置された地図からこの階が最深部であることが分かりました。私は区切りとなるこの階の先を進む前に、これまでに手に入れた朽ちた薔薇についてメアリーとドロシーに私自身の意見を伝えました。

「このバラも誰かのものだとしたら、このバラの持ち主は大丈夫なのでしょうか? もし、可能ならば、その誰かを救ってあげたい。助けられる方法はあるのでしょうか?」

 メアリーとドロシーもこの薔薇の持ち主を助けたいという私の意見と一致しましたが、その方法はこれまでに得られた情報から思いつくことはできませんでした。

 ドロシーは幾らか悩んだ後、「完全な保証は出来ませんが、もし、この薔薇がまだ完全に朽ちておらず、これまでの私達の行いが正しければ、この原始心像の階にある薔薇の助けを借りて、この薔薇を助けられるかもしれません」と私達に云いました。

 私達はドロシーから伝えられた僅かな希望を胸に抱いて、この階の奥へと歩みを進めていきました。

 

 第六章 深層の世界 終わり

 第七章 福音の聖文

 

 原始心像の階の奥には、五亡星が書かれた床とその周りに散りばめられたカードがあり、五亡星の中心には朽ちた薔薇が横たわっていました。

 ドロシーは、その薔薇の近くに駆け寄り、地面に手を添えて、ゆっくりと目を閉じ、片耳を大地に当てていました。その様子はまるで地下深くの様子を伺っているように見えました。

「鼓動がある。大丈夫、まだ生きている」

 ドロシーはそう云うと、カードを五亡星の縁に並べ直し「光よ、我は求め訴えたり」と天へと届けるかのように語りかけ始めました。

 そうして時が過ぎていくと、闇で包まれた天井に星が瞬きました。そして、一筋の光が、蛍のように私達への頭上へと舞い降りてきました。その光の玉は透き通った光り輝く翼を広げて羽根を舞い散らし、人の姿を形成していきました。

「我は 正義の天使 アーシャ。我々と契約を為すための訴えか?」

「契約って?」とメアリーは心配そうにドロシーを見つめいいました。

「メアリー、心配しなくても大丈夫。契約は私達が正義と公平に生きること。でも、それはいままでと同じようにとても辛く苦しい道でもあるのだけれどね」

 ドロシーはメアリーから正義の天使の方に向きなおすと手を差し出して訴えはじめました。

「これまでの正義の行いを記した書状をここに持って、光に一つの願いを訴えたり。大切な人を救う為、この地に光と慈愛の恵を齎したまえ」

 正義の天使は訴えに誤りが無いかをドロシーに確認した後、「あなたの訴えは理解した。訴えを光に届けるゆえ、しばし待たれよ」といい残して消えていきました。

 ドロシーはそれを聞くと、朽ちた薔薇に花弁のない薔薇を接木して、訴えが叶えられる時を待っていました。

 (すずめ)(さえず)りが木霊した直ぐ後、闇で覆われていた天井の壊れたステンドグラスに光がさし、これまでとは違って温かい雨が降り始めました。朽ちていた薔薇は驚異的な速さで緑色の花と枝を生やし、それとともに接木した花弁の無い薔薇は徐々に瑞々しさを取り戻して枝を生やし、ついには青い薔薇の花を咲かせ始めました。

 完全に青い薔薇が咲いたとき、突然、ドロシーが地面に倒れこみ、世界に静寂(せいじゃく)が訪れました。

「ドロシー!!」と、傍らにいた私とメアリーが叫んで部屋中に響き渡った木霊を除いて……。

 

 第七章 福音の聖文 終わり

 第八章 真実への道

 

「そんなに悲しまないで、イブ、メアリー。大丈夫、私は少し疲れただけだから。それよりも先に進みましょう」

 ドロシーはそういうと別のフロアーに続く奥の道を指差しました。

「私を置いていって、直ぐに後を追うから」

 ドロシーは虚ろな目で私達を見つめていいました。私とメアリーは首を横に振って、ドロシーを両側で抱えて奥へと進んでいきました。

 いつしか見覚えがあるようなクレヨンで描かれた世界に変わり、休む場所があると思われる教会へと進みました。

 通路を進むとその先に青い髪の人影を見つけました。

「ここは、んっ、イ、イブじゃない!! 私は確かっ……て、そんなことより、隣にいるその子は? 大丈夫なの? 顔色が酷く悪いけど? その隣はメアリー!! あれ? でも雰囲気が少し違うわねって、そんなこと言ってる場合じゃないわ!!」

 青い髪のお姉さんはドロシーを抱えると別の部屋に添えられたベッドへと寝かせてくれました。

 メアリーはとてもドロシーのことを心配していて傍に付き添っていると云いました。

 

 私と青い髪のお姉さんが部屋から出たとき、青い髪のお姉さんが語りかけてきました。

「それにしてもイブ、お姉さんなんて、どうしたの? 改まって?」

 私は青い髪のお姉さんが不思議がっていた理由が分からず、いまの世界に迷い込んでからの話をしました。

 

「記憶が無い。もしかして、この世界を出るとここでの記憶を失ってしまうのかしら」

「いえ、イブは夢ではあなたのことを覚えていました。心の奥底ではまだあなたを覚えています」

「ちょっと、ドロシー、大丈夫なの? それにメアリーは?」

「メアリーは寝ています。私のことよりも、私の中のもう一人の方が深刻です。私はやることがあります。私をどうか燃えたメアリーの絵画の前に連れて行ってください」

 ドロシーは真っ先に焼けた絵画の前に膝から倒れこみ、僅かに残っていた気力で丹念に周囲を調べていました。

「良かった。まだ燃え残っていた。このラピスラズリを使えば……」

 そういってドロシーは少し微笑んだ後、私達にこうお願いをしました。

「メアリーの記憶と魂を僅かでも元に戻すためにみなさんの協力が必要です。どうか、燃え残った顔料と宝石を一緒に集めて下さい」

 

 第八章 真実への道 終わり

 第九章 メアリーの過去

 

「メアリー、メアリー」

 夢見心地のような世界で、うさぎさんにそう声をかけられた私は、果てしなく続くかと思われる書棚の中に置かれていた1冊のゲルテナの伝記を見つけました。その伝記には次のように記されていました。

 

 いまでこそゲルテナの作品は正統な評価がなされ多くの賞賛を勝ち得ているが、その世界を鋭く描いた風刺の強烈さから生前に1枚しか絵が売れなかった。ゲルテナが風刺を込めた作品を数多く描くようになったのは娘の死が原因だとされている。ゲルテナは、生まれこそ王侯貴族の末裔であったが、周囲の反対を押し切って芸術への道を志し、それと平行して行われた市民活動のために生活は貧困のどん底にあった。そのため、生まれた娘であるメアリーはゲルテナの親元に引き取られた。ゲルテナが、若い頃のメアリーの肖像を描いていたのは、このときまでの記憶しか残っていなかった為だと云われている。

 成長したメアリーは親の意思を継ぐかのようにシスターとして世の中の平和に貢献した。しかし、悲劇は起こった。旧支配層であった少数派民族への恨みが消えていなかった多数派民族により虐殺が勃発。その国の政府は多数派民族が政権を握っていたため、国際紛争としての処理が遅れ、国際連合による虐殺の対処は遅きに失することになった。

 外国の軍隊が駐留する教会で慈善事業を行っていたメアリーは虐殺の始まった日に「ここに残ります」と駐留軍と共に教会を去ることになっていた記者に伝えたのが最後の記録として残っている。多くの国際報道記者による国際世論形成の努力にも関わらず、国際連合軍が紛争の仲裁に入った時点で時は既に遅く、メアリーは少数民族と多数民族の争いに巻き込まれた子ども達を助けようとして後ろからナタで切られて絶命していた。

 『メアリー、私達は市民活動家としても芸術家としても、何も為すことができませんでした。私達は無力でした。許して欲しい、あなたを救えなかったことを』

 そう願いを込めて、そして、生涯を掛けて贖罪(しょくざい)の祈りをするために、ゲルテナはメアリーの肖像を描いたとされている。

 

 『お父さん、お母さん……』

 

 第九章 メアリーの過去 終わり

 第十章 別れの時

 

「これでいいのね?」

 眠っているメアリーを私達が集まっている部屋に運んできたギャリーさんがドロシーにそう確認しました。その後、残りの顔料を集めた私達はドロシーの作業が終わらせるのを待つことにしました。

 私はその間にメアリーに関する記事をギャリーさんに読んで貰うことにしました。

 ギャリーさんは記事を読み終わると、もう少しメアリーのことを知ってから私にアドヴァイスしたいと云いました。

 私はギャリーさんから記事を返して貰うとそれをポケットに戻しました。

 そうした後、私とギャリーさんはドロシーの作業を見守ることにしました。そして、いつしか私達はドロシーの独白に耳を傾けていました。

「私はゲルテナのアニマとアニムスです。かつてゲルテナ展に迷い込んだ絶命寸前の女の子に力を貸して外の世界で寿命を全うし、再び此処へと帰ってきた『物』です。イブ、あなたが見た老婆の姿はその子の最後の姿です」

 ドロシーはこれが自らの使命だというように淡々と続きを話していきました。

「その当時、絶命寸前の女の子は、まだ魂の形成と自我の芽生えていなかったメアリーに助けられ、外の世界へと戻ることが可能でした。そして、ゲルテナのアニムとアニムスの私達は、老賢者と大母をメアリーに預け、絶命寸前の女の子の生命を支え続けました」

 ドロシーは大切なものの跡を思い出すかのように、胸に手を当て話を続けていきました。

「天寿を全うしたその女の子は、私達とメアリーに恩返しをしたいと、ゲルテナの世界に付いて来てくれたのです」

「魂がここから出て行く数は入った数と等しくないといけないから、その女の子はメアリーのために犠牲になるつもりだったということなの?」と、ギャリーは犠牲になることには納得がいかないという面持ちでドロシーに尋ねました。

「いいえ。とても長い月日が掛かる方法ですが、それ以外の方法が一つだけありました」

「それが魂の形成?」

 私がそう云うと、ドロシーは頷いた後、話を進めました。

「そうです。私達は、魂が生まれる前の顔料や宝石達を連れて外に向かいました。彼女の天寿が全うされる間にそれらに魂が形成され、いま一人分の魂がこの世界に入ってきています」

「でもそれじゃ、その魂が誰かの身代わりになるということなんじゃない?」

「大丈夫です。それらの魂は元の場所に帰ることができて喜んでいます。この他に、もう一つ大切なことがあります」

 ドロシーはそう云って、ドロシーがこの世界に来たときから私に会うまでの間に修復していたという絵画のメアリーの瞳にラピスラズリの輝く青を添えていきました。

 そのドロシーの真剣な姿は、メアリーの母親と父親かと思えるような姿が薄っすらと重なってるように見えました。

「あなたが救った女の子がゲルテナの世界の外で集めてきてくれた私達の思いと魂の欠片がいまここにいます。そして、そのおかげであなたの絵画を少しでも修復することができました」

 メアリーは眠りから覚めてゆっくりと目を開くとドロシーの方へと寄り添って行きました。

「お母さん、お父さん、わたし……」

 ドロシーはメアリーの口を人差し指で塞ぐと、メアリーを抱きしめました。

「メアリー、あなたはあなたの人生を歩んでいいの。私達が本当の娘に出来なかったこと。それをいまならあなたにしてあげられるから」

 ドロシーはメアリーの頭をさすり、その姿は慈愛に満ちつつも、直ぐに訪れることになる別れを惜しんでいるようでした。 

「私はお母さんとお父さんが知っている本当の娘じゃないけれど、でも、きっと本当の娘も優しいお母さんとお父さんを愛していたと思います。きっとどんなことがあっても」

 そう云ってメアリーはそっとドロシーから離れると、別れの言葉を伝えていました。

「お母さん、お父さん、ありがとう。そして、さようなら」

 そう云い終えると、メアリーは大粒の涙を流してその場に座り込みました。

 私はギャリーさんに提案されて途中で拾った新聞記事を姿が消えかかっているメアリーのお母さんとお父さんに手渡しました。メアリーのお母さんとお父さんは微笑むと、「ありがとう」と云うかのようにその姿を完全に消して行きました。

 

「これで終わりなのよね?」

 ギャリーさんはそうメアリーに尋ねると今後のことについて何か思案しているようでした。

「そうですね。後は皆さんがこの先を進んでいくだけです」

 ドロシーはそう云うと外の世界への道筋を私達に教えてくれました。

 

「ねえ、イブ。これまでの話からするとこの世界での記憶を忘れないようにするには幾つか思い出せる材料が必要みたいだけれど、私は顔料を集めているときに貰ったハンカチがあるわ。けど、イブやメアリーはどうするの?」

 ドロシーとも相談の上で、私はメアリーの造花を、メアリーはドロシーからの手紙を持っていくことにしました。そして、ドロシーと最後の別れを交わして、私達は現実へと向かう絵画の中へと身を投げ入れていきました。

 

 第十章 別れの時 終わり

 最終章 新世界へ

 

「この薔薇の作品、とても心に来るのよね。イヴ」

 私は青い髪の人が持っていた私のハンカチを見てこれまでのことを完全に思い出しました。

「ギャリー」

 私がそう云うとギャリーは微笑んで頷き、メアリーを一緒に探しましょうと手を差し伸べてくれました。

 

 私達が『アニマ・アニムスの願い』とタイトルの書かれた像の前に佇んでいたメアリーを見つけたとき、メアリーは涙を流していました。

「この像を見ていると、まるでそこに亡くなったお母さんとお父さんがいるような、そんな思いで胸が痛むの。どうしてなのかな。私にはイブと同じお母さんとお父さんがいるのに」

 メアリーはそう云った後に、私達の方を向くと手に持っていた手紙を私達に見せてくれました。

 

 『新しい人生を、どうか、幸せな人生を』

 

 そう書かれた手紙の最後には「あなたに助けられた女の子より」と書かれていました。

 私達はこの手紙を大切に黄色い薔薇と一緒に折り畳むと、ギャリーと一緒に私達を待つお母さんとお父さんの元へと向かいました。

 

 「「ただいま、お父さん、お母さん」」

 

 最終章 新世界へ 終わり

 6XXX年7月4日 朝刊 14版 34面

 ゲルテナの娘の遺書 当時生き残った子孫の納屋で見つかる

 これまで存在されていないとされていたゲルテナの一人娘であるメアリーの遺書が見つかった。分析を担当した文芸員によると、多数派民族による少数派民族への虐殺事件があった当時、肥溜めに逃げ込んで生き残った子どもが必死に遺書を守り抜いた痕跡が遺書の至るところに残っていたという。遺書の挟まっていた書籍には当時の様子が記録され、死体の下に身を隠して生存した子ども達も遺品の保存に協力していた形跡が見つかっている。遺書には貧しくも温かかった両親への感謝の言葉が(つづ)られており、ゲルテナの作品を理解するのに重要な第一級の資料となっている。この遺書は市立美術館で7月29日から一ヶ月間公開される。関連記事 1面、2面、3面、10面、国際面、文化面、社会面、29面、32面、35面

 ××大学 芸術史 ××教授の話「発見された遺書の状態は、これまでに少数派と多数派の民族関係を問わず、生き残った子ども達とその子達が遺書を守ったという数々の断片的な記録と合致している。この遺書を守り抜く為に生存後も大変な労力が払われたことが分かる。この遺書は、メアリーが人々から愛されたと共に彼女が両親を深く愛していたことを裏付けており、ゲルテナの人物像に迫る貴重な第一級資料である。このような資料が完全な状態で現代に発見されたことは幸運だ」

 

 ここから先は掠れて読めない。

 新聞に緑色の薔薇と黄色い薔薇が寄り添っている。

 

 この続きは記されていない。

深層のIb エンドロール

 

原作 Kouri「Ib」

 

脚本 Ssumet

 

取材地

名古屋市美術館

愛知県美術館

東京都現代美術館

名古屋市立鶴舞中央図書館

 

参考文献 HP

Harvard University's JUSTICE with Michael Sandel

メルクマニュアル18版 日本語版

メルクマニュアル家庭版

フリー百科事典「Wikipedia」

weblio英和和英

 

参考文献 書籍

鑪幹八郎、「夢分析入門」、創元社

鑪幹八郎、「夢分析の実際」、創元社

ハンス・クルト、「夢分析」、自由都市社

東條真人、「タロット大事典」、国書刊行会

広辞苑

 

参考文献 学術雑誌

科学

化学

 

参考文献 雑誌

音楽の友

週刊現代

週刊ダイヤモンド

週刊ポスト

週刊文春

日経ビジネス

DAYS JAPAN

ダ・ヴィンチ

星ナビ

歴史街道

 

参考文献 新聞

朝日新聞

科学新聞

河北新報

神戸新聞

原子力産業新聞

産経新聞

東京・中日新聞

長崎新聞

日刊工業新聞

日本経済新聞

日経産業新聞

日本物流新聞

福島民報

毎日新聞

北海道新聞

讀賣新聞

47NEWS

 

参考文献 放送事業社

日本放送協会(NHK)

 

スペシャルサンクス

国連難民高等弁務官事務所

国際連合世界食糧計画

 

本作品を執筆するにあたり、上記の文献を参考に用いました。ここに感謝申し上げます。

あとがき 7月7日のイブ(まだ本文が完成していませんが、本筋は大体書き終わりましたので記述します)

 本作品を執筆するにあたり多くの参考文献を参照しました。その多くの記者及び研究者並びに国際公務員の皆様の報道が本作品を執筆する動機となっております。新聞社の報道内容もバラエティがあり、資金に余裕のある方々は是非とも数多くの新聞を購入して読んで頂けたらと思っております。無料で読むことが可能な朝日新聞社の国際報道 Twitterを拝見すると、胸を痛めることも多いですが、このTwitterが無ければ知らずにいた事実も多くあります。国際報道記者の取り組みと共にツールであるTwitterの大切さを身を持って感じている次第です。現在、日本は震災からの復興や財政問題など様々な問題が山積みしていますが、多くの人々に海外での問題や(国内での)難民の問題を知っていただき、より力強い国際世論の形成や平和な世界の構築への助力や声援を頂けましたら幸いです。本作品におけるような風刺や社会問題を強く直裁的に扱った文芸作品は経済的にも政治的にも商業紙では難しいと思います。私達は今後も様々な形で、声を発することが難しい人々の声を芸術という形で、多くの人々に少しでも伝えていければと考えております。最後になりましたが、「Ib」でこのような二次創作の作品を執筆できましたことを原作者及び関係者の皆様に感謝致します。

 追伸1:正義の天使アーシャの登場場面の音楽は※カッチーニ作曲 アヴェ・マリアが似合いそうですね。

 追伸2:Ssumet創作ノート全11冊(もしあれば);註「この(甲状腺癌の)検査は続行を切望したが出来なかった」

 この提案を蹴って医師会に影響を与えている人物は--(擦れて読めない)福島医大副学長(『チェルノブイリ事故による調査の結果を報告』{M. Ito et al., Thyroid, 5 (1995) 365}← 10万人規模で調査しなければならないところを、約5万5千人程しか診断していないが、甲状腺癌は4例観測されており、私が読むと影響があるようにしか見えない。なぜ?)である。

「医師会に属する医師は、国と医師会の役にたつことをすればよいと言うが、私はそうは思わない」

 

※ カッチーニ作曲ではなく、現在ヴラディーミル・フョードロヴィチ・ヴァヴィロフが作曲したと言われている。

 

記事解説

ゲルテナの記事について:

1. 生前に1枚しか絵画が売れなかった実在の人物としてゴッホが存在する。

2. 生前において高い評価を得られなかった芸術家は数多く存在する。上記のゴッホなども有名だが、バッハもその例に入る。19世紀におけるバッハの認知度は現在とは比較にならないほど低かった。そのため、名曲である「平均律クラヴィーア曲集」などは練習曲のように扱われていた。この他、無伴奏チェロ組曲はパブロ・カザルスが蘇演するまで長く忘れ去られたままになっていた。

3. 後にメアリーは親元で育てられることになったが、この実在の例としてはリストの子ども達が該当する。リストはマリー・ダグー伯爵夫人と恋仲になり、彼には長女ブランディーヌ、次女コージマ、長男ダニエルが生まれた。しかし、リストとマリーの恋仲は許されないものであった為、子ども達はいずれも里子に出されている。次女と長男は、里子に出された後、リストの母アンナがパリで育てたことが知られている。

4. メアリーが亡くなった場所は教会としているが、実際に存在した事例では公立技術学校が該当する。しかし、サレジオ会系のセカンダリースクールであったことと、別の場所にある教会において大変悲しい事例が存在したため、双方に関心を持って頂く為に断腸の思いで事実とかなり異なる記述をした。

5. 最後の新聞記事に近い実在の事例は、「震災から1年4ヵ月」、中日新聞、2012/7/12 で報道された壁に書き込まれた記述が該当する。私達の中では大変心に残る記事でした。そして、見つかって良かった。

文献のより詳細な記述

 

取材地

名古屋市美術館

愛知県美術館

東京都現代美術館

名古屋市立鶴舞中央図書館

 

参考文献 HP

Harvard University's JUSTICE with Michael Sandel

メルクマニュアル18版 日本語版

メルクマニュアル家庭版

フリー百科事典「Wikipedia」

weblio英和和英

 

参考文献 書籍

鑪幹八郎、「夢分析入門」、創元社

鑪幹八郎、「夢分析の実際」、創元社

ハンス・クルト、「夢分析」、自由都市社

東條真人、「タロット大事典」、国書刊行会

広辞苑

 

参考文献 学術雑誌

科学

化学

 

参考文献 雑誌

音楽の友

週刊現代

週刊ダイヤモンド

週刊ポスト

週刊文春

日経ビジネス

DAYS JAPAN(「立ち上がる医師たち」2012/6月号)

ダ・ヴィンチ

星ナビ

歴史街道

 

参考文献 新聞

朝日新聞(& 国際報道 Twitter)(「(ニッポン人脈記)水俣は問いかける」2011/6/17-7/7、「津波浸水域、10分間の地震波で予測 北大が開発」2012/4/7、「(ザ・コラム)風力発電「水と油」混ぜるために」2012/6/10)

科学新聞

河北新報

神戸新聞

原子力産業新聞

産経新聞(& 法服の王国{単行本の発売日を強く待ち続けています})

東京・中日新聞(「福島 健康調査進まず」2012/7/8,「震災から1年4ヵ月」2012/7/12)

長崎新聞

日刊工業新聞

日本経済新聞

日経産業新聞

日本物流新聞

福島民報(「【県民健康調査問診票】15万人線量推計難航 行動記録整わず 29万人は処理手間取る」2011/5/13, 「【問診票回収進まず】先行地区以外は15% 県民健康調査」2011/11/29)

毎日新聞(「記者の目:「被爆体験者」訴訟が問うもの」2012/7/3)

北海道新聞

讀賣新聞

47NEWS

 

参考文献 放送事業社

日本放送協会(NHK)

 

スペシャルサンクス

国連難民高等弁務官事務所

国際連合世界食糧計画

注意:以下は僅かですが、BAD ENDが書き込まれています。大変心を痛める記述もありますので、若い方はご両親の方に許可を頂いてからBAD ENDを読んで下さい。

BAD END 1

 私は、水とプラスチックと鉛ガラスの箱を退かし、暗闇で微かに光っていた石を手に取ろうとしました。そうすると、箱の中の気泡が一斉に無くなり、突然石は青く輝きました。私は気分が悪くなって箱を閉じましたが、直ぐにその場に倒れ込んでしまいました。

 私の意識が朦朧としている中、メアリーが私を部屋から出してくれると、僅かなロープの切れ端を持って、ドロシーを呼びに行ってくれました。

 私が意識を回復したとき、ドロシーは横になって動けなくなった私を診察してくれていました。

「40℃の高熱。鼻と口と目と肛門と女性器から血がだーっと出ていて周辺が血の海になっています。そして、扁桃腺に腐敗臭、皮膚に血液の病気の末期症状である紫斑がところどころに見えます。典型的な急性放射線障害の症状です」

 ドロシーは私とメアリーにそう云うと、「おそらく、半数致死量(LD50)の4.0Svを超えた被爆をしています。骨髄移植をしても多臓器不全で彼方を助けることはできません。申し訳ありません」と何度も私に謝りながら、私に最後に言い残したいことは無いかどうかを聞きました。

「もし、私のお父さんとお母さんに会えたら、いままでありがとうと、そして、娘が両親より先に死んでごめんなさいと伝えてください。どうか、このような被害は私で最後に、世界に……」 

 メアリーとドロシーは涙をいっぱいに目に溜めて私の傍で泣き続けていました。

 そして、数時間後、私は頭が気になり、手で髪の毛を掬いました。手には抜け落ちた髪の毛が多量に絡みついていました。驚いた私は声も普段のように出せないような状態なのに「私の髪の毛がーー!!」と大声で涙を流して泣かずにはいられませんでした。

 そして、私の意識は次第に無くなっていきました。

 

タイトル『裏マニュアルとマニュアル無しで対策が不十分な原子力の光、希望の光』

 

BAD END 1 終わり

BAD END 2

 私は剣を取って、前に居た部屋にあった三つの銅像に絡み付いていた紐を切ろうとしました。紐を剣で切りつけて、グサッと音がしたかと思うと、私の全身は数多の剣で貫かれハリネズミのようになっていました。

 私はヒューヒューと息をして、全身の痛みに苦しみながら、次第に意識を無くしていきました。

 メアリーが「イブ!!」と、私の名を呼んでいた記憶だけが最後となって。

 

タイトル『冷凍庫に保管された死体、剣を手に取った者の末路』

 

BAD END 2 終わり


 
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