No.442918

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 二十九話

TAPEtさん

一刀キラー現る。
その名の通りに、ある意味この外史で一番○してるキャラに

何故かなった。
反省はしている。

続きを表示

2012-06-28 18:12:42 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5782   閲覧ユーザー数:4626

一刀SIDE

 

そう、例えば見えたものの一つでも違っていたとしたら…

 

文遠が袁紹の二枚看板を甘く見ずにさっさと退治していれば、無駄な負傷を得ることもなく、

 

夏侯元譲が妙才や許褚を差し置いて先に突っ走ってそこにたどり着いて居なければ二人が戦うこともなく、

 

二人が互いの力に感服してないでもう少し周りに気を使っていれば上官を守るために打った張文遠の部下の矢に気づかないこともなく、

 

孟徳が典韋が妙才の補佐に付くことを許可していれば姉の大したこともない傷に冷静さを失って妙才が俺の命を狙うこともなく。

 

……そう、そういうすべての選択が集まって出たこの結果。

 

……見えていた。

それでも俺はその場に居た。

それが俺の選択だ。

他の何かの力によって強制されていない俺の意志で……

 

俺は左腕の傷を追って、そして……

 

左目を失った。

 

見えなかった。

そういうことがあるだろうとは予想していたが、そのタイミングまでは判らなかった。

そしてその瞬間、視力が失われた左の方から妙才は現れ、射撃した。

 

そして俺が意識を取り戻したのは……その日の夜のことになる……。

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

 

「……の?」

「だ………あ………すか?」

「し……………う………し…」

 

……

 

視界が狭い。

 

「…しゃああらへん。とにかく今日の被害で向こうも暫くは動かんはずやで。今の隙に洛陽に戻って……」

「今になって逃げるなんて選択があるわけありませんぞ。袁紹軍が大きな被害を受けたことに比べこちらの被害は微々たるもの。この好機と恋殿を以てすれば連合軍なんておちょこちょいなのですぞ」

「……油断しちゃ駄目…強い奴らもいた」

「強い連中って…誰なん?」

「…劉備軍の人」

「ああ、あそこか…アイツもあっちの人間やからな」

「そもそも味方のはずが恋殿を攻撃するなんておかしいのですぞ」

「あっちもあっちの事情があるんやろ。アイツだって他の軍でも味方に打たれたんやし」

「先に味方に打ち込んだんだから当たり前ですぞ」

「いやだからそれは事情が……」

 

 

「張文遠」

 

話は大体わかった。

 

「うおっ、なんやあんた起きてたんか」

 

目の前に文遠の顔が見える。そして、その横には呂布と、知らぬ顔も一つあった。

 

「先ず聞こう。俺を助けた理由は?」

「あん?」

「計画は既にお前が負傷した状況で夏侯惇が現れている時点で失敗していた。切り札もお前に渡した。俺を助ける価値なんてなかったはずだ」

 

左腕は痛みが少しあるがそれほどではない。ちゃんとした治療が行われているようだ。

もしそのまま放置された場合、おそらくそのまま妙才に殺されただろう。

 

「好かんやっちゃなぁ。ちょっとは感謝してくれてもええんちゃう?」

「…そうだな。礼をいっておこう」

「…なんか素直に感謝されると逆に妙やな」

 

ところで

 

「俺の外傷は肩だけのはずだが、何故俺は動けないんだ?」

「うん?ああ、恋、そろそろ退けって」

「……何?」

 

俺は上にあった視線を前に移す。そこには……

 

呂布が俺の上に乗っかっていた。

 

「……」

「…退け、呂布」

「……恋」

「何?」

「恋」

「呼ばん、退け」

「恋。呼ばないと退かない」

「意味が分からん。退け」

「…いや」

「退け、呂布奉先」

「恋」

「……」

「……」

 

……

 

「聞こう、何故こんなことをする」

「…お前が言った通り」

「…俺がお前になんと言った」

「……恋はお前に『興味』を持っている」

「んなっ!」

「なんですと!」

「……」

 

余計なことを口にしたか。

 

「作戦は失敗したな」

「ああ、わりぃ、ウチのせいや」

「…孟徳が動いた時から計算が狂った」

 

いや、そのうち一つでも俺の思った通りに動いてくれたなら、話は違ったかもしれない。

でも、俺の手から離れた場所では、何一つ俺の思惑通りには動いてくれない。

世はそういうものだともう一度実感した。

俺が二、三人は欲しいぐらいだ。

 

………

 

「これからどうするん?」

「…お前が俺を助けたせいで、桃香…劉玄徳の立場が危うくなった。孟徳はあの日俺がお前に会ったことを知って動いていた。このままだと、劉玄徳が連合軍から自分たちを裏切って逆賊に手を貸したと処刑されるやもしれない」

「………」

「…お前たちが俺を殺したなら話は別だが…」

「!」

 

文遠は驚く。

後ろの二人も驚く。

 

「俺を殺してその頸を関上に吊るしたまま虎牢関を空にしろ。そして全速で洛陽へ向かえ。今回の戦いで連合軍が立ち直るに3日ぐらいは稼げるはずだ」

「アンタを殺したら月はどうなるんや」

「お前たちは元の計画を実行しろ。既にお前たちを殺そうとした袁本初の戦意は折れた。袁紹が居なければ、洛陽を手に入れる次第連合軍は解散する」

「でもそれじゃあお前からもらったその書簡は…!」

「…袁紹を捕まえられなかった時点でその書簡は意味がない。仮に効果があるとしても、それだけで連合軍は止まらない」

「……っ!!」

「…俺を殺せ。そうすれば劉玄徳は生き延びる。彼女にはこれからもっと伸びてもらわなければならない」

「……そんなの駄目」

 

そう言ったのは、俺の上にまだ乗っかっている呂布だった。

 

「……死んだら駄目」

「お前たちには関係ないことだ」

「……死んでも誰も喜んでくれない」

「前に言ったことと話が違うぞ」

「……大切な人は守る。死んでも守る。でも、守って死んでも守ってくれた人が悲しむ」

「………」

「だから、死んだら駄目」

「恋の言うとおりやで。他の何か方法があるはずや」

 

文遠が呂布の肩を持つ。

 

……

 

……

 

「…今何時だ」

「もう子時(夜11時から1時頃)ですぞ」

 

後ろのチビが答えた。

 

「…素早い者を闇に忍び込ませて袁紹軍の死体を持ってきてくれ。頸で良い」

「何する気なん?」

「………」

「…分かった。手配しておく」

「急げ。そして今夜で虎牢関を空く。準備しておけ」

「戦わへんの?」

「これ以上戦うだけ無駄だ。この時点で連合軍の勝利は明らか」

「………」

「ならば、勝った方がもっと貶められるようにしてやれば良い」

「!」

 

……お前ら、今回は道を外すな。

 

「ところで、そろそろ退け、呂布」

「恋って言ってる」

 

しつこい奴だ……

 

 

 

 

張遼SIDE

 

 

急ぎで命を下して、脚が早くて気配を隠せる奴らが何人かが外に出て北郷の言うとおりに死体の首だけをいくつか持ってきた。

 

持ってきた首たちを北郷の前に見せると、北郷はそれまでも上に乗っかっていた恋を無視して無理矢理体を起こした。

…そんなん嫌なん?恋のこと真名で呼ぶのが……いや、初見で真名で呼びなって言われても困るのは分かるけどな……。

 

「…これは駄目」

 

並べた首らを一つ見て、北郷は次の首を見た。

言っとくけど、虎牢関の下を昼中転がっていた死体やから、もう変色してたり、いろいろ偉いことになってるんやけど…コイツはそんなこと気にせんみたいや。

 

「これも駄目……おい、ふざけんなコレは髪色も違うだろうが」

「暗いから良く見えんかったんだろうよ。つうか一体何に使うんや?」

「ちっ……これは…顔に傷が……いや…いっそのこと目玉と髪色だけ合えば言いように……」

 

北郷はそう言って、ある首をあっちこっち転がしながら調べた。

 

「うぅぅ…ねねは気持ち悪くなってきたのですぞ」

「………霞、あれは何してるの?」

「分からん…いや、待って」

 

さっき自分殺せっちゅう言ったな。

 

「アンタ、まさかソレを自分の首の代わりにする気なん?」

「そうだ。今気付いたか」

「なんですと!」

「そこまでする必要あるん?」

 

敢えて自分が死んだとしておく必要ってあるのか。

 

「俺が生きているままここを去れば、劉玄徳に被害が行く可能性が大きくなる。今晩はなんとかなるとしても、明日この関が空いていれば、孟徳も黙っちゃいないだろう」

「でも、そんなんでええの?直ぐにバレんちゃう?」

 

北郷が選んだ顔って、ほんまに髪色しかあってないんやけど……

 

「……死体の顔の皮を剥がせば良い」

「…は?」

「残酷な方法で殺された、といったらさすがに詳しく確認しようとする者も居ないだろう」

「そんなことまでやるん…?」

「…お前が殺した兵士たちだ。今更非道とか言われる筋合いはない」

「………」

 

ウチは北郷が持っている首を見た。

目を閉じれないまま死んでやがる……

今更憐れみだと思ってるつもりはないけど…ロクな死に方じゃねえな。

アイツもまた自分が守るべき家族や大切な人間があってここまで来たはずやのに……

 

「胴体は……確かこの大陸には殺した人間を漬けにして食わせるというものもあったはずだ。胴体はなくてもおかしくはないだろう。後は……」

 

北郷は首を置いて、寝床の横にあった自分の上着を手にした。

 

「この服を首と一緒に関上に吊るしておこう。上下全部…着替える服を用意してもらえるか」

「服…?戦争中やからな…死んだ奴らとか、全部火葬させたんよ」

「……ほう……」

 

北郷は関心するような目でこっちを見た。

 

「戦時中に死んだ兵を火葬できるぐらいの暇があったと…」

「いつまでも死んだまま転がせるわけにゃ行かんかんな。今日は死者はなかったけど、昨日まで死んだ奴らは皆燃やしとる。可哀想やん?こんな所でこのまま死んでたら、いつまで経っても誰も埋葬とかしてくれないんやで」

「…そうか……それはなかなか興味深い」

「……まあ、月っちの考えなんやけどな」

「…それは更に興味が湧くな。是非とも董卓には会ってみたいものだ……とにかく、服に関してはなんとかしてもらおう。でなければ俺は下着だけで行くことになるだろうからな」

 

そう言いながら北郷は袴を脱ぎはじめた。

 

「て、ちょっ!」

「なっ!いきなりなんてことするんですか!」

「…見てるのは自由だが、俺としてはさっさと出ていって撤退の準備と後服の手配をして欲しいものだな」

「わ、分かったから今脱ぐな」

「と、とんだ変態野郎なのですぞ」

 

ちょっと迷えっちゅうねん。ええい、仕方ない。

やることは大雑把だけど、アイツの言うとおり時間が惜しい。

 

「ねね、服の手配頼むわ」

「いやですぞ。ねねはもう二度とあんな奴と関わりたくないですぞ」

「くぅ…しゃあない。とにかく、今は撤退準備の方が先やな」

 

そう思いながら、ウチとねねは急いで外に出ていった。

 

……うん?誰か忘れてね?

 

 

 

 

一刀SIDE

 

「消えたな」

 

と言いながら俺はズボンから手を離した。

少しは暫くは静かに今後のことを考え……

 

「……何故残っている」

「……?」

 

呂布…まだ俺が寝ていた寝床の上できょとんとして顔でこっちを見ている。

 

「着替えるのだ。さっさと出ろ」

「…着替える服ない」

「後で文遠辺りが持ってくるだろう。それともこのまま行くことになろうけど」

「…恋…知ってる」

「何をだ」

「…服あるところ」

「なら持ってきてもら……だから真名で呼べと」

「…うん」

「断る」

「…どうして?」

 

お前の執着が今まで見てきた連中以上に強すぎて逆に反発してるんだ。

 

「俺は俺が認めた人間の真名しか呼ばない」

「……恋はお前に興味がある」

「お前が俺をどう思うかには俺は興味ない」

「…興味がない人相手にあんな質問しない」

「…………」

 

………痛い所を突く。

 

「恋がお前に興味を持っているように、お前も恋の興味を持っている」

「言葉の意味が違う」

「…どう違うの」

「…………」

 

…呂布奉先、侮れない。

 

「呂布奉先」

「恋」

「俺がお前の真名を呼んだら、もう俺を面倒くさくしないんだな」

「……恋のこと、面倒くさい?」

「すごく」

「………しゅん」

「………」

 

こいつ、本当にあの呂布奉先なのか。

戦場での勢いはどこへ行った。

 

ぐぅーー

 

「……」

「……お腹すいた」

「この関は兵糧も不足しているのか」

「…違う」

「じゃあ何だ」

「恋が食べていないだけ」

「…俺の経験によると、お前みたいな力持ちは大食いなのが鉄板だが」

「………」

「丁度良い。食いに行け。さっさと行け」

「…嫌」

「何でだよ」

「お前も、まだご飯食べていない」

「それがどうした」

「…ご飯は一緒に食べた方が美味しい」

「それがどうした」

「………ご飯は一緒に食べた方が美味しい…から……」

 

なんだってんだ……。

 

ちっ、そういえばもう一週間もお菓子が食えてない。

何が砂糖が切れただ。ふざけるな。これだから長期戦になるのは嫌だったんだ……

 

「おい、食料はどこに保管してある」

「…ご飯食べるの?」

「お腹空いてるんだろ、丁度良い。俺も糖分補充しないとそろそろきつい」

「……一緒に食べる?」

「そうなるな」

「……うん」

 

呂布はパッと起き上がって俺の傷んでない腕の方を引っ張った。

 

「こっち」

「……」

 

俺は呂布に引っ張られて外へ向かった。

 

 

 

 

恋SIDE

 

恋は男を厨房に案内した。

 

「……もうお前はそこに座れ」

 

中に入った男は恋をそこにあった椅子に座らせた。

でも、食材の居場所とかは分からないはず。

 

「…恋が手伝う」

「お前が手伝うことは厨房の前でお前が入れないように監視していた兵士を密かに倒したことだけで十分だ」

「……なんで分かったの」

 

恋は厨房に入っちゃ駄目って言われた。

いつも肉とかつまみ食いしてねねに怒られた。

でも霞はここに来て最初から倉庫には絶対入れないことになってる。

だから、恋の方がお得。

 

「一人目倒した時二人目の兵士が『呂布さま』と言った。不特定多数を監視するためだったとしたら最初に『誰だ!』とか『奇襲だ!』とか叫んだはずだ。それはつまり、お前がつまみ食いすぎて他の将から厨房や倉庫に出入り禁止を食らったということになる」

「………」

 

そう言いながら男は厨房の器具を取り出して兵士たちの食事を作って残ってあった食料を使って料理を始めた。

 

「何作るの?」

「食えるもの」

「炒飯がいい」

「……」

「早く」

「……ちっ、砂糖はねえのか」

 

なんで炒飯に砂糖が入るの?

 

「お前、人並み食わないな」

「……沢山欲しい」

 

でも、ふと思っていたら男は腕に怪我をしていた。

料理なんて作れる状態じゃない。

 

「……お前」

「あ?」

「無理したら怪我が酷くなる」

「今更そういう心配は不要だ。後腕に怪我してても炒飯は作れる。経験者のいうことだ」

「………」

 

私は、男が座っていろと言ったのを無視して近くに行ってみることにした。

怪我していない腕を使って、ナベの中の具を炒めている男の目は初めて会った時とは少し違った。

 

…曇ってる。

 

「退け、邪魔だ」

「……いい匂い」

「人の話を聞かない奴だな」

「…お前こそ、恋のいうこと全然聞いてくれない」

「何の義理があって俺がお前の要望に答えなければならない」

「………」

「…昼のアレはこの炒飯でチャラだ」

「……じゃあ食べない」

「は?」

「食べないから、恋って呼んで」

 

そう言ったら男は手を止めた。

 

「勘違いするなよ」

「……」

「俺が昼にお前に聞いたのは、お前が特別だったからとかそういうんじゃない。ただ目の前にお前が居て、だからお前に聞いただけだ」

「……」

「だから気安く俺と親しくしようとするんじゃ…」

 

恋は男の胸に押して後ろに倒した。

 

「ぐぅっ!」

「…恋って呼べ」

 

恋は倒れた男の上に跨って言った。

 

「っざけん…な!」

 

男は傷んでない方の腕に拳を作って恋に投げた。

でも、恋はそれを片手で塞いだ。

 

「……っ!はっ!」

 

そしたら男は、脚で思いっきり厨房の調理台を蹴った。

そしたら火の上にあったナベが落ちた。

 

「っ!!」

 

恋は慌ててそれを避けた。

ほぼ同時に男も立ち上がって立ち直った。

誰もナベや具に火傷はしていない。

でも、ナベは大きな音をしながら落ちて、中の炒飯も全部地面に散らばって食べられなくなった。

 

「……食べ物、粗末にしちゃ駄目」

「お前が売った喧嘩だ」

「…私は恋って呼んで欲しいだけ」

「………」

「恋に近づいたのはお前。恋に変なこと言ったのもお前。恋はお前が怒る理由が分からない」

「………」

 

恋は男を見た。

男は恋を見ていない。

 

「お前、悩んでる」

「………だったら何だ」

「恋に言って欲しい」

「お前とは関係のないことだ」

「でも、話したらすっきりする」

「……」

「お前が苛立ってるのは、一人で悩んでも分からないことを悩んでるから」

「…苛立ってなどいない」

「嘘」

「……」

「初めて恋と会った時は、もっと清々しい顔だった。でも、今はちょっと曇ってる」

「お前に俺の何が分かる」

 

……たしかに、恋はお前のこと良く分からない。

でも、それでも恋にも何かできることがあるはず。

 

「…恋はお前に興味がある」

「……」

「お前のことをもっと知るためにも、お前の相談に乗りたい」

 

男は何も言わずに恋を見つめる。

恋は待った。

待って、待つと…

 

「…呂布奉先」

「恋」

「あの戦場でお前が言ったことを聞いて、俺は行動し、今のような結果を生んだ。袁紹を捕まえるという計画は失敗し、劉玄徳は危険に陥るだろう」

「……」

「もちろん、このまま悪化させるつもりはない。が、今回ほど選択に迷ったことはなかった。俺は違う選択をするべきだったかもしれない」

「……」

「もちろん、どんな選択をしても、それは俺が生み出した結果だ。だが無理矢理引き返すこともできた。夏侯元譲の負傷を見逃していれば、計画は成功していただろう。数々の邪魔があったが、結局計画を失敗させたのは俺自身だ。しかも俺自身も負傷し、認めた人間を危険に陥れた」

「……」

「お前の言う通りかもしれない。俺は苛立っていた。だが…だが、俺は俺が望む道を選んだはずだ。結果も知っていたはずだ。なのに、何でこんなに苛立つ」

 

男が言う言葉の意味は、うまく判らなかった。

でも、男が言うことが恋に関係があるのは分かった。

恋は何か言わなきゃいけない。

 

「後悔してる?」

「……分からん」

「…恋はお前が間違った選択をしたとは思わない」

「何故だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうしてたら、恋はお前に会っていなかった」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「お前が言ってる違う方法がどんなものか恋は分からない。でも、その違う方法で、恋がお前に会えなかったら…恋はこっちの方が良い。恋はお前に会って良かったと思っている」

 

 

 

 

 

 

 

「………おい、お前俺の名前覚えてないだろ」

「……うん」

「北郷一刀だ」

「……北郷一刀」

「北郷でも、北郷さんでも、お前でも好きに呼べば良いが、人の名前は忘れるな」

「……うん、一刀」

「……お前周りから疲れるとか言われないのか」

「…『癒される』って言われる」

「……ありえん」

「恋って呼んで欲しい」

「まだ言うか」

「恋は一刀の名前覚えた。だから恋って呼ばれても良いはず」

「お前みたいにしつこく来る奴も見たことがない」

「…それに免じて呼んでくれても良い」

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちんきゅーーーーきーーーっく!」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、どこからかちんきゅが飛んできた。

一刀はそんなちんきゅの脚を間髪の差で避けた。

そしたらちんきゅの脚は地面の炒飯の盛れに落ちた。

油っぽいご飯粒のせいで、ちんきゅはそのまま滑った。

 

「うわっ!ねねのお気に入りの服がーー!なんてことしてくれるのです!」

「俺は何一つお前がそうなることに手を加えていない」

「ふざけるんじゃないですぞ!!大体、何恋殿と妙にいい雰囲気作ってるのですか」

「…いつから見ていた」

「恋がアンタの上に跨っていた所から?」

「……お前も居たのか」

 

霞も居た。

全然知らなかった。

 

「いやー、恋がまた厨房に潜り込んだと聞いて来たんやけどな…なんか入りづらくてな……」

「……ちっ…服の用意はできたか」

「あ?ああ…さっきの部屋に置いといたぜ」

「じゃあ俺の服渡すから、さっきの首の顔の皮剥いて一緒に関上に吊るしておけ。そしてさっさとここを去るぞ」

 

そう言って一刀は、逃げるように厨房を出て行った。

…結局、呼んでもらえなかった。

なんかもやもやする

 

「なんか…わりぃ」

「…霞が謝ることじゃない…あ」

「なんや?」

「…お腹すいた」

「……手配しとくわ。もうすぐ回軍やから程々にな」

「うん」

 

…でも、一刀も一緒に行く。

一刀に恋と呼んでもらう時間はまだある。

そう呼ばれたら…あの時一刀を目の前にして殺さなかった理由が分かる気がする。

 

『お前は俺に興味を持っている』

 

この『興味』の意味が……何か分かるかもしれない。

そう思ったら恋は胸が何故か苦しくなって、胸辺りをぐっとしめてみた。

 

 

 


 
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