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IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~第四十一話

カリスマ(笑)

2012-06-28 17:46:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2580   閲覧ユーザー数:2328

 

「むふぅ~…♪」

「おっ、何だミコト。今日は朝からご機嫌だな」

 

朝食の時間。皆で揃って朝食を食べている中、何やらご機嫌にサンドイッチをパクついているミコトが気になって俺は訊ねてみる。すると、ミコトはこちらに顔を向けると嬉しそうに笑顔を浮かべた。その笑顔を浮かべるその頬は、昨日の痛々しく赤くなっていた腫れも今ではすっかり引いて、いつもの白い雪のような頬へと戻っていた。女性陣は跡が残ったらどうしようかと心配していたが、そうならなくて良かった良かった。

 

「ん♪イカロス、直せるって」

 

そう笑顔で告げるミコトの言葉を聞いた俺達は食事の手を止めて、おお!と声を上げる。

 

「まあ!それは朗報ですわね!」

「わぁ~♪良かったね~みこち~♪」

「ん♪」

 

ぽんっ!手を叩いて我がことのように喜んで見せるセシリアと、同様に喜びをだぼだぼの袖でばんざいをして表すのほほんさんに、ミコトは更に嬉しそうに微笑む。喜びを分かち合えるってのは良いものだよなとこの光景を見て俺は実感する。

 

「良かったじゃない。あれだけの破損だから修理は大変なんじゃないかなって少し不安だったんだけど、これでもう安心ね」

 

そう言って鈴はラーメンの麺をずずずっと音を立てて啜る。しかし、幾らラーメンが好きだからと言って朝飯にそれは無いだろと俺は思う。しかし、その光景も毎日のように続けば慣れたもので、俺も周りの人間もそれを思ってはしても口に出そうとはしない。

 

「……でも、可笑しな話だよね。専用機を渡しておきながら修理するパーツが不足してるだなんて。普通なら最優先に手配する筈なのに。確か、ミコトの専用機ってIS委員会が管理してるんだよね?パーツが入手出来ないって事は考えにくいんだけど…」

「委員会にも事情があるのだろう。あそこは色々と複雑だからな……そう、色々とな」

 

―――“色々”と、か…。

 

実際、イカロス・フテロを含めたミコトを取りまく謎は多い。ミコトが何処の出身なのか、何故千冬姉に似ているのか、数少ない貴重なISをどうして所有しているのか、数えていけばきりがない程に俺はミコトの事を全然知らない。そして、それを知ろうとするのを千冬姉から禁じられている。恐らくそれも委員会の指示なんだろう。あれだけ世界規模の組織だ。俺なんかじゃ知る事の出来ない色々な思惑が渦巻いているに違いない。

そんな意味深なラウラの言葉に場の空気が少しだけ重くなりそれに気付いたラウラ。折角、イカロス・フテロが直せるかもしれないとご機嫌なミコトと、朝食の爽やかな雰囲気を台無しにさせまいと、ミコト至上主義のラウラは慌てて話題を変えようと慣れないことに必死に頭を悩ませて、そして必死に悩んだ末にその口から出てきた話題は今日の一時限目の事だった。

 

「そ、そういえば今日は一時限目に全校集会があるのだったな!?」

「うん。とりあえず落ち着け」

 

そんな慌てて話す様な話題でもないだろ。気持ちは分かるけどさ…。

 

「学園祭についての話だっけ?なんだろうね?」

「IS学園の学園祭は少々他の学校とは異なる。それらについての説明ではないか?」

 

箒の言う他の学園と異なると言うのは恐らく招待券制のことだとだろう。何処のお嬢様学校だよと突っ込みたくなるが、国家レベルの機密情報やISを多数保有してる学園なのだから当然と言えば当然。寧ろそれでも甘いとも言える。普通ならそんな場所に部外者の立ち入りを許すなんて思わない。けれど、そう出来ないのはまがりなりにも学園を名乗っているため、仕方なく招待券制という方法を取ったのだろう。学園側としては本当は部外者なんて一人もいれたくないのが本音なんだろうな。

 

「学園祭か~。楽しみだね~。みこち~」

「? 学園祭ってなに?」

「あ~そっか~。みこちーがここに来たの冬の初めごろだもんね~知らないか~」

 

聞いた話だとミコトがIS学園に来たのは冬。成程、学園祭の時期はとうに過ぎているな。とは言っても、学園祭を知らないと言うのはこれはまた可笑しな話だがミコトだし今更か。

 

「ミコト、学園祭と言うのはこの前のお祭りの学校版だ」

「? 学校で、お祭りするの?」

「そうだよ~♪でもね~でもね~それだけじゃないんだ~♪学園祭はね~、私達がお店を出すんだよ~?」

「……お~」

 

…うん。驚いてはいるもののあまり理解出来てない様子だな。自分達でお店を出すって言われてもイメージが湧かないか。前にシャルロット達と一緒に喫茶店でバイトをしたらしいけど、それとは少し違うしなぁ。

 

「一年生は殆どが飲食店になるんじゃないかな?2年生3年生は整備科の人達が色々すごい出し物やりそうだよね」

 

なんと言ったってIS学園が誇るエリート集団。それに、各国の軍事関係者やIS関連企業に人間も多く来場するらしいからアピール出来るこの機会を逃す手は無い。きっと盛大に才能の無駄遣いをしてくれる事だろう。

 

「ある意味生存競争ですものね。技術系はこういうイベントか、優秀な操縦者と組まなければ企業の目には止まりませんし、オファーなんて来ませんから」

「見てくれる人は~見てるなんて~甘いものじゃないからね~。大変だね~」

 

何を他人事みたいに言ってるのかな?こののほほんさんは…。

 

「私達操縦者は操縦技術で、整備科は整備技術で競い合っている。来年はどの専攻を選ぶかは分からないが他人事じゃないぞ?本音」

「ぶぅ~…。ラウっちは気が早すぎだよ~。来年の事は来年考えよ~?」

「まったく、お前は仕方が無いな…」

「えへへ~♪」

 

そう呆れながらも、のほほんさんの笑顔にラウラも釣られて笑みを浮かべる。

 

しかし、来年か。確かに全然想像出来ないよなぁ…。

 

きっと、専攻やクラスが分かれてもこのメンバーで朝飯を食ってるのは変わらないんだろうなと、そう苦笑しながら味噌汁を俺は啜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第41話「各部対抗織斑一夏争奪戦開幕」

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑一夏

 

 

所変わって体育館。朝食堂で話していた通り全校生徒を体育館に集めて、一時限目の半分を使い全校集会が行われた。

しかし、体育館に訪れたのは入学式以来で今回が二回目なのだがこれは圧巻だ。体育館を埋めつくす女子、女子、女子……。入学式は一年生のみだけで行われたけど全校生徒を集めるとこんなに居たのか、初めて知った…。すごい……と言うか、怖いな。これは…。

 

『それでは、生徒会長から説明をさせていただきます』

 

生徒会役員と思われる生徒がマイク越しでそう告げると、先程までざわめいていた体育館はシン…と静まり返る。

 

『やあ、みんな。おはよう』

「あっ!?ボロボロの人!?」

 

壇上で挨拶する女子を見て思わず声を上げると、静まり返っていた体育館に俺の声が異常な程に良く響き渡る。服はあの時とは違って綺麗だが間違いない。昨日ロッカールームに現れた人物だった。

周りの生徒達の「ボロボロの人?」「え?ボロボロって何?」とひそひそ話し声が体育館に満ちて、その時やっと俺は自分の失態に口を塞ぐように手を当てた。しかし、もう時は既に遅し。壇上を見れば…。

 

『………』

 

恥ずかしいのを必死に耐える様にぷるぷると震えて、顔を真っ赤にして、けれど決して顔を俯かないでいる健気なボロボロの人の姿が…。

 

あ゛あ゛~~~っ!?すんません!ほんっと~にすんませんっ!?

 

そんな名も知らぬボロボロの人の痛々しい姿に罪悪感で潰れそうになる俺は、只管心の中で詫び続けた。

 

『し、静かに!静かにしてください!生徒会長のお話の途中ですよ!?』

 

先程の役員の人がざわめく生徒達を静めて何事も無かったかのように、話を再開。

 

『こ、こほん――――さてさて、今年は色々と立て込んでいて一年生には挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君達生徒の長よ。以後、よろしく』

 

あれだけの事があったのに、扇子を口元に当てて満ちた笑みを浮かべる生徒会長。そんな彼女が相変わらず放つカリスマオーラは異性同性問わず魅了するらしく、体育館の彼方此方で熱っぽい溜息が漏れた。

 

『今回の全校集会のテーマは皆知ってるよね?そう、今月の一大イベント学園祭!その学園祭なんだけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容は―――』

 

手に持った扇子を横へとスライドさせる。それに応じるように空間投影ディスプレイが浮かび上がった。

 

『名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!』

 

ぱんっ!と小気味の良い音を立てて、扇子が開く。それと同時にディスプレイに俺の写真がデカデカと映し出された。

 

「……………は?」

 

静まり返る体育館に俺の間の抜けた声が妙に高く響いた。そして、その直後―――。

 

「えええええええええええええええええええええ~~~~~~!?」

 

割れんばかりの叫び声に、体育館が冗談ではなく揺れた。

そんな、騒音の中俺は唖然と立ち尽くし。報復か?報復なのか?とそう思い、こっそりとISのズーム機能を使って壇上に立つ生徒会長の表情を窺うと、こめかみ辺りに青筋が浮かんでいるのが確認出来た。あ、怒ってらっしゃる…。

 

『静かに。学園祭では毎年各部活ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い―――』

 

びしっ!と扇子で俺を指す生徒会長。

 

『織斑一夏を、一位の部活に強制入部させましょう!』

 

再度、年頃の女子には似つかわしくない雄叫びが上がる。

 

「うおおおおおおおおおおっ!」

「素晴らしい、素晴らしいわ会長!」

「こうなったら、やってやる……やぁぁぁってやるわ!」

 

おいおいおい…。

 

周りが盛り上がってる中、俺一人状況について行けないでいた。何が一体どうなってるんだ…?

 

「というか、俺の意志はどうなるんだ…?」

 

勝手に景品にされているが、俺は了承なんてした覚えなんて無いのだが…。そう思い壇上にいる生徒会長へ目をやると…。

 

『m9(^Д^)プギャー』

 

……イラッ。

 

「よしよしよしっ、盛り上がってきたぁ!」

「今日は放課後から集会するわよ!意見の出し合いで多数決するから!」

「最高で一位、最低でも一位よ!」

 

置いてけぼりの俺を他所に、周りの女子生徒達は勢いを増していく。もう俺がなんと言おうと止められないのは目に見えていた。

かくして景品である俺の意思を完全に無視した、俺争奪戦は始まったのだった。

 

 

 

 

 

同日、放課後。教室にてクラスの出し物を決めることとなり、教室ではわいわいと盛り上がっていた。俺一人を除いて…。

 

「………」

 

クラス代表である俺は皆の意見をまとめなければならない立場なのだが、黒板に書かれている文字に凝視して、たらりと汗を流す。

黒板に書かれていた内容とは、『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏とツイスター』『織斑一夏とポッキー遊び』『織斑一夏と王様ゲーム』などなど…。ぶっちゃけ、全部俺関連だ。もう訳が分からない。

 

「却下」

 

問答無用で却下すると、黒板に書かれた文字を黒板消しで消す。

しかし、それと同時に教室には大ブーイングの嵐が巻き起こる。

 

「やかましい!認められるかこんなもんっ!?」

 

学園祭の出し物だぞ。それを分かって言ってるのかお前等は!?

 

「横暴横暴!クラス代表の横暴!」

「クラス代表なんだから、クラスの幸せのためにその責務を全うせよ~!」

「そうだそうだ~!」

 

なんと勝手な…。

しかしそんな意見を通す訳にはいかない。仮にさっきの中のどれかに決まったとして、それを『時間がかかりそうだから、私は職員室に戻る』と去って行った千冬姉に報告しないといけないのは俺なんだぞ?どんな目で見られると思ってるんだ…。

 

「と・に・か・く!まともな意見を出せ!学園祭だぞ!?外来客も来るんだぞ!?」

「一夏、一夏」

 

手を一生懸命に上げて俺の名前を繰り返して呼ぶのはミコトだった。

 

「どうした?ミコト。何か良い案でも思い浮かんだのか?」

「学園祭って、どんなことする、の?」

 

ああ、そこからか…いや、仕方が無いと言えば仕方ないよなぁ。

 

「んー…一般的には飲食店か。あと、フリーマーケットとかもあるな」

「フリーマーケット…?」

「家でいらなくなった物…えっと、古着や家具とかそういうのを売る市場のことだよ」

「んー…古本屋?」

「のほほんさんに連れて行ってもらったのか?まあそれに近いけど」

 

実際、フリーマーケットでも古本専用の店と言うのも存在する。そう店が沢山あるからフリーマーケットと言うのは楽しいんだろうな。

 

「あっ、でも駄目だよ織斑くん。ウチ全寮制だからフリーマーケットに出す売り物なんて集められないよ?」

「実家にいらない物送ってくれって頼んでも、本当にいらない物送られてきそうだしねぇ…」

 

確かに、俺みたいにみんな家が近い訳じゃないもんな。北は北海道、南は沖縄まで、セシリア達見たいに海外組だっている。フリーマーケットは無理と考えるべきか…。

 

「となれば残るは飲食店か…。ま、一番妥当だよな」

「え~、普通のお店なんてつまんな~い!」

「そうそう!ここはやっぱり織斑君のホストクラブを!」

「まともなのだって言ってんだろ!?」

 

そしてまたブーイングが巻き起こり振り出しへと戻る。

 

「ならば、メイド喫茶などはどうだ?」

 

『………えっ?』

 

静かにそして騒音の中でも澄み渡る様に響いたその呟きに、ブーイングで騒がしかった教室がしんと静まり返ると、クラスの全員がぽかんとしてその声の主を見た。

 

「む?何か変なことを言ったか?客受けいいだろうし、休憩場としても需要があるだろうから、我ながら良い案だと思うのだが?」

 

自身に視線が集まっていることに怪訝そうな表情を浮かべるラウラ。

 

「い、いや……なんというか意外だったから、さ…」

 

俺の言葉にクラスの皆もうんうんと頷く。

 

「むっ…悪かったな、似合わない事をして」

 

ぷいっとそっぽを向くといった見た目相応の可愛らしい態度を取るラウラに、俺は慌てて謝罪する。

 

「す、すまんすまん!そういうつもりで言ったんじゃないって!」

「ふんっ………ああ、そうだ。もう一つ良いことを思い付いたぞ」

 

すると、何を思ったのか。次第にふくれっ面からサディスティックなどす黒い笑みへと変貌し、俺はまるで肉食獣に睨まれたかのような錯覚を覚えてゾクリと身体を震わせた。

 

「メイドにあと執事も追加しよう。このクラスには一夏が居る。これを利用しない手は無いからな」

 

そう言ってラウラはニヤリと口の端を吊り上げて黒い笑みを浮かべる……ってこら待て!?

 

「おいおい!?俺を客寄せパンダにするつもりか!?」

「そうだ、一夏。名実ともに客寄せパンダとなれ」

「ひっでぇ!?」

 

入学当初は正にその状態だったけど、誰かに言われたのはお前が初めてだよ!?

 

「織斑君の執事姿……いい!それすごくいい!」

「それでいこう!うん、決定!」

「メイド服はどうする!?私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」

 

一気に盛り上がりを見せるクラス女子一同。それを見て俺は思う。ああ、これは決まったな、と……。

今、この状況で俺が反対すれば、俺は空気の読めない人間として見られてしまう。それに、代わりの案を思い浮かばない以上、俺にラウラの意見を反対する権利は無かった。まあ、ホストクラブなどと比べれば幾らかはマシだと開き直ろう。うん。

 

「いや、待て。学園祭までの短い期間で衣装は人数分揃えれるのか?今日からやるにしてもかなり厳しいだろ」

「う゛っ……正直ギリギリかなぁ?洋服を改造するって手もあるんだけど、それだと衣装の統一性がねぇ…」

 

それはそれで客受けはするかもしれないが、やっぱり衣装を統一させた方が見栄えは良いのは確かだ。

 

「なら、借りてくればいい」

 

そんなクラスの皆が頭を悩ませている中、その解決の突破口を切り開いたのは意外にもそう言うのにはとても疎そうなミコトだった。

 

「借りてくるって……衣装をか?」

「ん。作れないなら、完成してるもの、借りてくればいい」

 

う~ん…。間違った事は言ってはいないんだが、肝心の貸してくれる人がいないとなぁ…。

 

「ふふ、流石はミコトだな。私も同じことを考えていた」

「あ~っ!そっか~!そういうことか~!」

「えっ、まさか三人とも、あそこにお世話になるつもりじゃあ…?」

 

しかし、数名ほどその借りるあてに心当たりがあるようだ。

ラウラやシャルロット、のほほんさんにミコト……うん?このメンバーって、先月街に買い物に出掛けたメンバーじゃないか?

 

「ほ、本気…?あれ以来一回もあの店に行ってないんだよ?僕達の事覚えてないかもしれないし」

「大丈夫だろう。あれだけの事があったのだ、忘れたくても忘れられん。それに、あっちは此方に借りがある」

「(強盗事件の取り調べで私達の事を話さないでくれただけでも十分借りは返してくれてると思うんだけどなぁ…)」

 

乗り気なラウラを対称にシャルロットの方はあまり乗り気ではない様子。しかしそれ以外方法が無いのも事実。シャルロットは諦めたかのように深く溜息を吐いて頷いた。

 

「しょうがないなぁ…。訊いてみるだけ訊いてみるよ…」

 

ガクリと肩を落として承諾するシャルロットに、教室には歓声が沸いた。

こうして、一年一組の出し物はメイド喫茶改め『ご奉仕喫茶』に決まったのだった。

 

 

 

 

「………というわけで、一組は喫茶店になりました」

 

職員室。千冬姉の言いつけ通り、俺はHRで出し物が決まった後に、その決まった出し物について千冬姉に報告に来ていた。

 

「また無難なものだな。まあ一年目はこんなものか。来年辺りから学園に染まって来て此方の想像の斜め上をいく出し物を出す様になるからな」

 

染まるって…。

 

「い、いや、そうでもないですよ?喫茶店と言っても所謂コスプレ喫茶ですし」

「成程、まあ客受けはするだろうな。立案者は誰だ?田島か、それともリアーデか?あの辺りの騒ぎたい連中だろう?」

「え、えーと…」

 

流石の千冬姉もこれには想像が出来なかったか。まさか、あのラウラがこんな案を出すなんて…。

しかし疑っていても仕方が無い。事実は事実。俺は真実を明かす事にした。

 

「ラウラです」

「…………」

 

予想外の回答にきょとんとしている千冬姉。

それから二度瞬きをして、千冬姉は盛大に吹きだした。

 

「ぷっ……ははは!ボーデヴィッヒか!それは意外だ。しかし……くっ、はは!あいつがコスプレ喫茶?よくもまあ、そこまで変わったものだ」

「やっぱり意外……ですか?」

「くっ、くははっ!……ああ、それはそうだ。私はあいつの過去を知っているからな。昔のあいつからは想像も出来ん。あいつの副官なら分からないでもないが……しかし、あいつがな」

 

千冬姉は一頻り笑うと、息を整えてから話を戻す。

 

「これもお前達の影響なのだろう。なに、悪い事じゃない。寧ろ良いことだ」

「俺達と言うより、ミコトの影響だと思いますけどね」

 

俺達の輪には常にミコトが中心にいた。もし、ミコトが居なければ、その輪にラウラが加わる事は無かったかもしれない。それだけミコトは俺達に無くてはならない存在だった。

 

「………そうかもしれんな」

 

千冬姉は窓に映る景色へ顔を向ける。その時の千冬姉の表情を俺は夕陽に光で見る事は出来なかったが、その声が何処か悲しそうに聞こえたのは、俺の気のせいなのだろうか…?

 

「……報告は以上か?」

「あ、はい。以上です」

「ではこの申請書に必要な機材と使用する食材を書いておけ。一週間前には出す様に。いいな?」

「はい。分かりました」

 

出すメニューとかも後日相談しないとな。色々面倒そうだ。

先程の千冬姉の態度が気にはなったが、千冬姉への報告は既に終わっているので、用事が無い以上ここに留まる訳にもいかず。俺は一礼をして職員室を出た。

ドアの閉じる音を背中で聞いて、ふぅと溜息を洩らす。しかし、緊張を解いてすぐ視界に映ったのは―――。

 

「やあ」

「……………」

 

ボロボロの人改め、生徒会長。更識楯無その人であった。

触らぬ神に祟りなし。これ以上関わってまた何か起きるのは堪ったものじゃないので、無駄にキメてる生徒会長の脇を通り抜けてそそくさと撤退。しかし、そうは問屋が卸さないと先輩も横に並んでついて来る。

 

「ちょっとちょっと、無視しないよもう。お姉さん泣いちゃうぞ?」

「……何か?」

 

ジト目で警戒しながらそう訊ねる。

 

「ん?どうして警戒してるのかな?」

「それを言わせますか…」

 

この前の遅刻といい、今回の騒動といい、騒ぎの元凶なのはこの先輩なのは誰が見ても明らかだ。それを警戒するなと言うのは無理がある。

 

「ああ、最初の出会いでインパクトがないと、忘れられると思って」

「ええ、インパクトは凄かったですよ?あれだけボロボロの格好で現れたら誰だって忘れませんって」

「うぐっ……」

 

そう少し皮肉を返すと、余裕に満ちた笑みに少し亀裂が生じる。それを見ただけで俺は仕返しとまでとはいかないが少しだけ気が晴れた。

 

「ふ、ふふふ…。言うね、君?というか、君のおかげでも私も恥ずかしい思いしたんだけどな~?」

「げっ…」

 

しかし、俺がささやかな勝利に浸っていると即座に反撃を受けてしまう。

先輩が言うのは全校集会の時の事だろう。全校生徒が見てる中であれは悪いことをしたと俺も反省している。でも、あの後の騒動を考えるとお互いさまじゃないか?

 

「お、俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!?」

「悪い!悪いよ!君のおかげでどれだけ恥ずかしい思いをしたと思ってるのかな!?」

「自業自得じゃん!?」

 

そもそも、なんであんなにボロボロだったんだよ!?着替えろよ!常識的に考えて!

ああ、駄目だ。今のこの人にあのカリスマは微塵も感じられない。

 

「はぁ…ところで、何の用なんです?」

「あっ、ああ、うん。そうだったね。すっかり忘れてたわ」

 

そう言ってケラケラ笑う先輩だったが、額には汗が浮かんでいた。

どうやら本当に忘れていた様だ。本当にあの壇上に居た人と同一人物か?この人…。

 

「実はね、当面君のISのコーチを私が見てあげることになったから。というか私が決めた」

「は、はぁ!?何を急に……てか、コーチは間に合ってますから!」

 

箒に鈴、セシリアにシャルロット、それにラウラとたまにミコトもアドバイスをくれる。ぶっちゃけ一年の専用機持ちの殆どが俺の専属コーチ状態だ。改めて思うけど贅沢過ぎる。

 

「うーん。そう言わずに。私はなにせ生徒会長なのだから」

「はい?」

 

それは承知しているが、それがどうしたって言うんだ?

 

「あれ?知らないのかな?IS学園の生徒会長というと―――」

 

そう先輩が何かを言いかけたその時。前方からドドドドッ!と地響きを響かせて此方へ向かって走って来る女子の姿が…。よく見れば片手には竹刀を持っているじゃないか。体力作りに防具を着てランニングというのはした事はあるが竹刀なんて初めて見るな。どう考えたって走るのに邪魔だろ、竹刀が人に当たって危ないし。

―――と、呑気なことを考えている俺だったが。次の瞬間、とんでもない物を目にする。

 

「覚悟ぉぉぉぉっ!」

「なぁっ!?」

 

重りと勘違いしていたそれは、あろうことか先輩目掛けて振り下ろしたのだ。

咄嗟に俺は先輩を庇うように二人の間に割り込む。が、しかし、そんな俺の気遣いを無下にして、先輩は俺をするりとかわし扇子を取り出す。

扇子なんか取り出して気でも狂ったのか、「危ない!」俺がそう叫ぼうとしたが先輩が次にとった行動に言葉を失う。

 

「迷いのない踏み込み……いいわね」

 

なんと、振り下ろされた竹刀を扇子で受け流し、バランスを崩した女子を空いた左手で擦れ違い様に手刀を叩き込んだのだ。

がくりと崩れ落ちる女子。何が何だか状況が呑み込めないが、とりあえず襲ってきた女子の無力化に成功……と思いきや、女子が倒れたと同時に、今度は近くにあった窓ガラスが破裂した。

 

「今度は何だっ!?」

 

一息吐く間も無く新たな襲撃に半ばヤケになりながら俺は叫ぶと、俺の顔を何かが掠めて背後の壁からドスッ!と何かが突き刺さる様な音が聞こえてくる。そ~っと後ろを振り向くと、そこにはコンクリートの壁に刺さった矢が…。

 

こ、殺す気かっ……!?

 

慌てて矢の飛んできた方角を見ると、隣の校舎から和弓を射る袴姿の女子が見えた。

 

「あらら、あっぶないなぁ…。ちょっと借りるよ」

 

倒れた女子の側にあった竹刀を蹴り上げて浮かせ、空中でキャッチすると同時に放る。割れた窓を通り抜けて槍投げの用に曲線を描いて飛んでいった竹刀は、見事隣の校舎から弓を射た女子の眉間に命中し撃沈。しかし、謎の刺客はまだ続く。

 

「もらったぁぁぁ!」

 

バンッ!と廊下の掃除道具ロッカーの内側から、ボクシンググローブを装備した女子が飛び出してくると、華麗なフットワークと共に体重を乗せたパンチで襲い掛かって来た。今度はボクシング部か。

だんだんこの人達の正体が分かってきた。一人目は剣道部、二人目は弓道部、そして三人目がボクシング部。どれも体育系の部活の先輩方だ。それが何でこんな事をしてくるのかは不明だが…。

 

「ふむん。元気だね……ところで織斑一夏くん」

「は、はい?」

「知らないようだから教えてあげるよ。IS学園において、生徒会長という肩書きはある一つの事実を証明しているんだよね」

 

ボクシング女の猛ラッシュを紙一重でかわしながら、先輩は少しだけ開いた扇子で口元を隠して涼しげに笑っている。さっきまでの戦いっぷりから分かっていた事だが、この人尋常じゃない。

 

「生徒会長、即ち全ての生徒の長たる存在は―――」

 

大振りのストレートを円を描く様に避け、とんっ、と地面を蹴って舞う様に身体を宙に跳び上がる。俺はその光景を魅了された様にぼーっとしてそれを目で追う。

 

「最強であれ」

 

鋭いソバットの蹴り抜き。ボクシング女は、登場したロッカーにまるで逆再生したように叩き込まれて沈黙した。

 

「……ってね♪」

 

パンッ!と扇子を全開に広げて先輩は見惚れる程に綺麗な笑顔を浮かべる。その貫禄は間違いなく最強を名乗る生徒会長に相応しい物だった…。

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

バリーンッ!

 

整備室に訪れていた私と簪が耳にしたのは、何処からか響いて来たガラスの割れるような音…。随分遠くから聞こえてきたみたいだけど、校舎の方からかな?

 

「? 何か、あったのかな?」

「……騒がしいのは……いつものこと…」

 

んー…そうなのかな?

 

簪に言われて今までの事を振り返ってみると、確かにそんな気がしないでもないかもしれない。

 

「そんなことより……今後について決める…」

 

そう言って簪は投影ディスプレイを展開して、イカロス・フテロの設計データを表示する。

 

「……予備パーツを調べたけど、規格はあってるんだけど大部分に修正が必要みたい」

 

パネルを操作して画面を切り替えて、翼の部分を拡大させる。そして、予備パーツのデータを照らし合わせると、本来の機体のデータとは微妙に異なる部分があった。

 

「このパーツを取りつけても飛べるには飛べる……でも、スラスターの出力が強すぎて本体のフレームの方がその速度に耐えられないみたいなの……だから、本体の方は再設計が必要…」

 

だから、≪展開装甲≫を使用した時にイカロス・フテロは速度に耐えられなくて壊れちゃったんだ…。

私は大破したイカロス・フテロを見る。銀の福音での損傷が無くても、こうなのは必然だったのかもしれない。それでも、この子は一緒に飛んでくれた。あんなに怯えていたのにそれを必死に我慢して…。いくら感謝しても足りない。

 

「……でも、予備パーツがスラスター部分のパーツで良かった。翼は設計が特殊過ぎて直せなかったかもしれないから」

「そうなの?」

「飛ぶだけならPICがあるから、わざわざ鳥の翼を模する必要なんてない。変則的な機動を出す事が目的でも形なんて幾らでもやり用はあるもの……」

「でも、イカロスには、PIC搭載されてない」

「あの翼を最大限に発揮させるのはそうしないといけなかったのかもしれないわ……機動は目を瞠る物があるけど。どちらにせよ、ISとしては欠陥―――」

 

そう言い掛けて慌てて簪は口を手で塞ぐと、私を表情を窺う。

 

「……ご、ごめんなさい……そんなつもりで言ったんじゃ…」

「? 何が?」

 

突然謝られても私が困る。

 

「お、怒ってないの……?」

「どうして?」

「だ、だって……自分の専用機を欠陥呼ばわりされたのに…」

「? 他の人がなんて言っても、この子は私の翼。関係無い」

「そ、そう……」

 

例えイカロス・フテロが欠陥だって言うのなら、その欠けた部分を私が補えばいい。それだけのこと。私とあの子は一心同体なんだから…。

 

「……話を戻すね…大まかな構想は私達でも出来るけど、設計は整備科の人達に任せるしかない……ミコトは整備科の人に心当たりあるの?」

「ん。あとで薫子に相談してみる」

 

たっちゃんも薫子に相談してたみたいだし、きっと力になってくれると思うから。

 

「(二年生整備科のエース……ミコトの人脈って本当に凄い…)」

「でも、私が優先で、本当にいいの?」

「え?う、うん。構わない……直接触ってみた方が構造を理解出来るから…」

「ん。簪がそれで良いなら、私もそれで良い」

 

そう口で言いながらも、心の中ではイカロス・フテロが早く直ることになって喜ぶ私だった。

 

「それじゃあ、今日はここまでにしましょう……ミコトもどんな機体にしたいかイメージを纏めておいてね…?」

 

そう言って、簪はそそくさと帰る支度を始める。まだあんまりお話ししてないのに…。そう思った私は先程のHRを思い出して簪に訊ねてみることにした。

 

「……あっ、今日、学園祭の出し物決めた。簪のクラス何するの?」

「………」

 

帰り支度をしていた簪の身体がピタッと止まる。

 

「私のクラス。喫茶店する。簪は?」

「し……なぃ…」

「う?」

 

何か言ったみたいだけど聞きとれなかった。

 

「知ら……ない…」

「?」

 

知らない?クラスの皆で決める筈なのに、どうして知らないんだろうと首を傾げると、簪は気まずそうに顔を背けて答える。

 

「……授業が終わってすぐにここ着たら……HR参加して無いから…知らないの…」

「…………ちゃんと、皆と一緒にがんばろ、ね?」

「…ご、ごめんなさいぃ…」

 

 

後日、簪はクラスの皆に謝罪して出し物を確認したら。1年4組のクラスは様々な種類を楽しめるサンドイッチショップする事が分かり、ミコトはそれを知って大層ご満悦だったそうな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

カリスマ(笑)生徒会長爆誕!どうしてこうなった!

え?扱いが酷いが楯無さんが嫌いなのかって?HAHAHA!まさか!アニメに登場しなかったのがとても悔しくなる程大好きですよ!w本当にどうしてこうなった!?

 

次回は大人ミコトの番外編を書こうと思います。


 
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