No.442745

真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 47:【動乱之階】 そこへ至る道

makimuraさん

やっとお話が動き出します。(少しだけ)

槇村です。御機嫌如何。


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2012-06-28 00:48:54 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:6601   閲覧ユーザー数:5188

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

47:【動乱之階】 そこへ至る道

 

 

 

 

 

 

鳳灯に華祐、そして呂扶らが呉にやって来てしばらく経った。

呉での滞在は洛陽に報告してある。孫堅にも話を通しておくため、ということであれば、至極当然といっていい行動だ。

とはいえ、本来、鳳灯らの役割はただの伝達役だ。そう長い間居続けることも出来ない。

そろそろおいとまして洛陽へ戻ろうか、ということになり。

鳳灯と華祐、そして華雄の三人は洛陽へ。一刀と呂扶は仕入れた荷と共に幽州へと帰ることとなる。

 

わずかな期間の滞在ではあったが、その間にいろいろなことがあった。

 

 

孫策と華雄は、とにかく毎日得物を交わし、立ち合い続けだった。

 

ふたりが組み華祐と呂扶相手に仕合いをしてからというもの、1対1はもちろんのこと、組み合わせを変えた2対2の勝負が繰り返された。

孫堅、華祐、呂扶、それに華雄や孫策、ほかにも我こそは望んだ将兵らも入り乱れ立会い三昧である。

 

とにかく数をこなしていく。しかもひとつひとつ容赦なく。

孫策や華雄を始め、参加した面々が疲れ果て手をついてしまうほどだったという。

対して孫堅、そして華祐に呂扶などは平然としている。このあたりは地力と経験値の違いかもしれない。

 

 

 

数え切れないほど行われた立会いの中で、これは、と、見応えのある勝負がふたつあった。

 

ひとつは、孫堅と孫策の母子組と、華祐と華雄の同名組との一戦。

 

戦場において集団戦となった際、まっ先に狙われるのはその中で弱い者だ。削げるところから戦力を削ぎ、戦況を少しでも有利な方へ持って行こうとするのは常套手段といっていい。

この立会いの場合、まず狙われるのは孫策と華雄になる。

互いにそれが分かっているからこそ、孫策と華雄がまず飛び出し、ぶつかり合う。

そして、その隙間を狙って孫堅と華祐が手を出そうとし。牽制をしながらも互いに相手の手を止めようとする。

2対2でありながら、実情は孫策対華雄、孫堅対華祐。それでいて双方がもう片方のぶつかり合いに手を出そうとして場は入り乱れる。

咄嗟の連動、目の前の相手を意識しながら他にも気を配る。そんな状況に対するお手本といって過言ではない立会いになった。

事実、その立会いを見る呉の将兵たちは食い入るようにして見入っていたという。

立ち回る主の姿を自らに置き換え、あれこれ試行錯誤しているのだろう。

やり方次第で、状況はいくらでも変えられる。そう思わせられる一戦だった。

 

 

 

もうひとつは、華祐と呂扶、そして孫堅と黄蓋のふたり組のぶつかり合いだ。

 

姓を黄、名は蓋、字が公覆。真名を祭。孫堅と同年代の武将であり、孫呉勢力の古参、支柱のひとりといっていい人物である。

武においても孫堅に勝るとも劣らないものを持つ。彼女の弓を前にすれば味方であろうと、いやさその威力と速さと正確さを知るからこそ、将兵らは思わず尻込みしてしまうほどに。

そんな彼女は、鳳灯と華祐がやって来た際、呉から離れていた。先にも触れたが、揚州は土着宗教が多く根付いており、先の黄巾賊の蜂起よりも前から大小さまざまな騒動が多発していた。このところは落ち着いているとはいうものの、たまたまこの時期ちょっとした蜂起騒ぎが起こり。その鎮圧に、黄蓋が指揮する呉軍の一部が出向いていたのだ。

 

ほどなくして戻った黄蓋が目にしたものは、見知らぬ武将ふたりと、友であり主でもある孫堅に蹂躙される呉軍将兵らの姿だった。

いったいなにごとかと目を瞠った黄蓋だったが、孫堅から経緯を聞き、納得。

 

「ならば儂も混ぜい」

 

そんなやり取りが交わされ。

総当りの組み合わせのひとつとして、前述した仕合が行われることとなった。

 

剣を振るう孫堅を、弓を持つ黄蓋が後方から補佐する。

前衛の者を、後衛に立つ者が補助し支援するということ自体は、特別なことでもなんでもない。

だが、前衛に立つのは"江東の虎"と呼ばれる孫堅である。その動きを十全に活かすために支援するということが、どれだけ難度の高いことか。

理を解しその上で勘に任せもする孫堅。黄蓋の放つ矢はその動きを遮ることなく、むしろその動きの幅を広めるかのごとき働きをみせる。俗に露払いというが、遠方から放つ矢が、正に孫堅の動く先を切り開いていた。

 

黄蓋の射た弓を避けた先に、すでに剣を振り上げている孫堅がいる。

はたまた、孫堅の剣撃から逃れた先に、予定調和のように黄蓋の弓が襲い掛かってくる。

息の合った連携、などという言葉では表しきれない、一体となった攻め様が繰り返される。

 

そこらで見られるような簡単な代物では、決してない。

事実、身内であるはずの孫家の面々が一番目を瞠っていたのだから。

 

曰く、

「あんな動きをみせる孫堅と黄蓋は初めて見た」と。

 

同時に、

「あんな楽しそうな孫堅と黄蓋は初めて見た」とも。

 

前者は純粋に驚愕から、後者はやや恐怖を覚えたという理由から漏れた言葉だ。

孫堅と黄蓋は、剣を振るい、弓を射ながら、それはそれは楽しそうな、それでいて物騒な笑みを浮かべていたという。

 

自らの主や身内に対して思わぬ戦慄を与えられたと同時に、そんな一面を引きずり出した華祐、呂扶という武将に対しても一様に目が集まる。

誰もが、孫堅や黄蓋は特別な存在だと捉えていた。しかし鍛えようによっては"あの"孫堅と立ち並ぶことさえ可能だ、ということを、華祐と呂扶の存在は示したといえる。主の気風もあり、武に重きを置く傾向のある呉の将兵にとって、この上なく発奮する刺激となったという。

 

 

 

蛇足ではあるが。

 

一刀が幽州へ帰ると聞き、元錦帆賊の兵たちと一部の孫呉軍一般兵らがこの上なく別れを惜しんだ。

正確にいえば、もう彼の作る料理が食べられないという事実に対する嘆きだったりするのだが。

その点を正面から指摘した一刀と、彼のツッコミに逆ギレを起こした錦帆賊たちの間でつかみ合いになりかけた。

彼らなりの、親愛の示し方、といえばそういえるのかもしれない。

といっても、その場にいた者を甘寧が全員しばき倒すことで場は収まった、というのはなんとも締まらない話ではあったが。

なお、一部始終を見ていた孫権は必死に笑いを堪えていたという。

 

 

鳳灯らが呉に滞在したしばしの期間は、実に平穏なものであった。

慌しく生傷が絶えない毎日でもあった、といっても、それは平穏であるからこそのものだろう。

笑顔の満ちる、普通の日々。

そんな時間が流れていたといっていい。

 

いなかった人物がいる。ただそれだけで、争いは減り、対立もなくなり。戦どころから小競り合いさえ少なくなっている。

それでいて、個人の武であるとか、多くの将の能力が伸びずにいるということもない。有事に備え、日々の研鑽や切磋琢磨を無駄だと思わない、そういった精神が培われている。

そういったあれこれが積み重なり、気がつけば、かつて関雨、鳳灯、呂扶、華祐らが生きた"世界"とはまったく異なる時を刻んでいる。

 

世の流れをいい方向へ変えようと、些事から手をつけ変化を促した。

その甲斐あってか、反董卓連合は結成されず、原因となる権力闘争も鎮圧され、王朝中枢の腐敗も排除できた。

懸念するところはまだあるものの、概ね"民が穏やかに生きていく御世"に向けて動けている。

 

これでいい。

鳳灯たちは、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

世の平穏を望んでいるのは、なにも彼女たちばかりではない。

 

青州・平原を治める、劉備。彼女もまた、同じような志を胸に抱いている。

「より多くの人々が、笑顔で過ごせるようになって欲しい」

そんな想いを秘めてはいても、自分自身がまだ未熟であることは重々承知していた。

 

義勇軍を立ち上げ。黄巾賊の戦乱に身を投じ。救うべき民を救えない、自分の力量を知った。

そうして彼女は、臨む未来像に向けてどうすればいいのかを考えるようになり。そのためになにをすればいいのかを模索するようになった。

彼女は至らないなりに頭を使い、考えを重ね、仲間の声に耳を傾けながら、新米領主として精進を重ねている。

 

彼女の大きな転換期ともいえるのが、平原の領主に任ぜられたことだろう。

すべてを救うことは出来ない。ならばまず、自分の手の届く限りを救ってみせよう。そして少しでも広く、伸ばす手が遠くまで届くようになろう。

劉備はそう考えながら、慣れない領主生活に奔走している。

 

これまで統治に携わっていた官吏たちの助け借りながら、仲間である関羽、張飛、諸葛亮、鳳統を中心に治世を布く。

また自身の未熟さを知る彼女は、領主としての技量を磨き学ぶべく、隣接する冀州へ定期的に出向いていた。

冀州を治めるのは、名家として名高い袁家。その良政ぶりを取り入れたいと、劉備は自ら考え、実行に移している。

その想いは立派なもので、自ら学ぼうとする姿勢もまた治世者として好感が持てる。

折から冀州へ戻っていた袁紹の許可を得ることもでき、差し支えのない範囲内ではあるが、劉備は袁家の執り行う治世を目の当たりにし吸収しようと努めていた。

 

想いに繋がる具体的な行動が実を結ぶ、と、すぐさまそうなるほど世の中は都合よく出来ていない。

だがそれでも、平原の治世は上向いているように見えた。

 

平原の新米領主・劉備の名はそれなりに知られるようになっている。

民のことを考え、領主自身が学ぶことを怠ろうとしない態度。

また先だっての黄巾賊の騒乱では、かの陳留太守・曹操と共に武勲を立て。

治世の良さでは随一ともいわれる幽州の州牧・公孫瓉とも真名を交わすほどの間柄だという。

耳にするこれだけの風評が、民の耳に心地よく響かないわけがない。

 

それが更に巡り巡って、劉備自身の耳にも入る。

赤面するやらなにやら、彼女はただ取り乱すばかりではあったが。

内心、もっとがんばろう、と、想いを新たにしたりもする。

 

ともあれ。

そんな想いが伝わっているのか、はたまた彼女の持つ人徳ゆえか。

劉備は領主として、平原の民に好意的に受け入れられている。

一部では、熱狂的なほどに。

 

 

「ねぇ朱里ちゃん、太平要術の書って知ってる?」

 

きっかけは、劉備がそう尋ねた言葉。

なにかと頼る軍師のひとり、諸葛亮に向かい、彼女はなにげなく口にした。

敬愛する領主、自ら仕える主の言葉に、諸葛亮はわずかに身を固くする。

劉備はその変化に気付かないまま、話を続ける。

 

「あのね、袁紹さんのところで、ほら、曹操さんと一緒にいた夏侯淵さんに会ったの」

 

今回の勉強で学び得た内容を報告する一端として、彼女は、夏侯淵から聞いた話をそのまま伝える。

書の存在。

黄巾賊拡大の原因と見られていること。

その書が行方知れずであること。

放置すればまた騒乱の火種になりかねないことなど。

 

ひとつひとつ告げられるごとに、諸葛亮の顔が固くなっていく。

やがて表情というものがなくなるにまでなり、劉備もさすがに彼女の変化をいぶかしむに至る。

 

「朱里ちゃん?」

「桃香さま」

 

劉備の話をひと通り聞いた後。

諸葛亮は、鳳統と目を合わせ。

それに応えるようにうなずく彼女に押されるようにして、主に告げる。

 

「太平要術の書は、ここにあります」

 

 

 

諸葛亮がそれを手にしたのは、劉備と共に平原にやってきて程なくした頃だろうか。

太平要術の書。それは彼女が仕入れた書物の山の中に知らず紛れていた。いつ入手したのかも、彼女自身覚えていない。

初めは、それがなんなのか分からなかった。

いぶかしみながら手にしたその書。読み始めると、彼女は、書を繰る手を止めることが出来なかった。

これからの治世に、劉備が民を統べ率いるに有用であろうことが事細かに記されている。

興奮が抑えきれず、諸葛亮は没頭し、書を読みふけった。

 

知的興奮の波が静まった頃、彼女は今更のように、手にしている書について疑問を感じる。

 

これはいったいなんなのだ?

 

このときの彼女はもちろん、太平要術の書、などという言葉を知るはずもない。

だがその名を知らずとも、その書がどういったものなのか程なく想像することができた。

 

つまり、「読む者が望んでいることについて記される」ということ。

 

鳳統に書を見せても、書かれていた内容が異なっていたことからその結論は導き出された。

 

親友が持ちかけてきた内容に、鳳統もまた書に対して興味を示す。

だが諸葛亮とは反対に、彼女は読み進める途中で書を閉じた。

曰く、「危険だ」「怖い」と。

書に夢中になる自分が、"自分"ではなくなってしまうような錯覚に陥り。

その恐怖が、書に没頭しかけていた自分を引き戻したのだ。

 

すべてに目を通してしまった諸葛亮と違った反応。

いうなれば、知識を取り入れるのではなく、知識に捕り込まれるかのような感触。

親友の感じたそれを、諸葛亮は充分に理解できた。

なにより同じものを、彼女もまた感じていたのだから。

 

諸葛亮はそれを肯定し、鳳統はそれを否定した。

ただ、それだけの違いだ。どちらが良い悪いという話では、ない。

 

 

 

諸葛亮は自分が読んだ内容を書き留めながら、本当にこれが有用なのか確かめたい、と、親友に告げる。

つまり、劉備が統べる"笑顔の溢れる御世"の足掛かりにしたい、と。

 

書き写された木簡を眺めながら、鳳統もまた未来図を頭の中に描く。

確かに、劉備の名の下にこれらが実践されれば、領主としての名声はより上がっていくだろうことは想像に難くない。

そう思わせるものが、彼女の手の中にある木簡には記されていた。

 

だがこれは、"あの書"から生まれたものだ。

その一事が、鳳統にわずかな不安を生じさせる。

一方で、確かに"これ"は有用だ。頭では、それが十分に理解できる。

 

「だからこそ、わたしは"これ"を確かめたい」

 

木簡を握りしめながら、諸葛亮は小さく、それでいて意思と意志を込めたつぶやきを漏らす。

劉備の描く理想、それを成す具体的な手段を得た。

出所に不安と不審を感じながらも、その中身を吟味した上で、使える、と考える。使いこなしてみせる、と決意する。

 

「雛里ちゃん。もし私が書に取り込まれたと思ったら、どんなことをしてでも止めて」

 

例え、わたしを殺してでも。

 

親友の手を取りながら、諸葛亮は告げる。痛いほどに込められた力の程が、彼女の決意の強さを感じられる。鳳統には、そう取れた。

鳳統がそれ以上書に触れることを拒否したことで、却って釣り合いが取れるようになったいえる。

暴走したなら止めろ、と。

同等の知識を持ち、同じ未来図を臨み、それでいて違う基準を持って判断を下せる親友に、なによりも辛いだろう役割を諸葛亮は託す。

強く握られた手を、鳳統は、同じくらいに強く握り返すことで応えた。

 

 

 

 

「……名前までは知りませんでした。

しかし、お聞きした限りでは、おそらく、あれが"太平要術の書"だと思います」

 

報告もせずに隠していた、申し訳ありません。と、深々と頭を下げる諸葛亮。その後ろで、鳳統も同じように謝辞を示す。

 

報告とも告白とも取れる言葉を聞きながら、劉備は思う。

 

主に話を通さずにいたことは確かに褒められたことではない。いいか悪いかでいえば、良くはないことだろうとは思う。

しかし実際に報告をされたとしても、今の劉備にどれだけ理解することができたかは分からない。結局は軍師ふたりに丸投げしてしまう、ということになったろう。それは彼女自身よく分かっていた。

ならば、余計な手間など省いて動いてもらったほうがずっといい。

劉備はそれだけ、目の前の軍師たちを信用し信頼している。

諸葛亮と鳳統のふたりが、よからぬ思いを持って黙っていたとは露ほどにも疑っていない。

ゆえに、不都合が起きたときはすべて自ら泥を被ろうとしていたのだろう、ということにも気付いていた。

 

「ねぇ朱里ちゃん」

 

だからこそ。劉備は、すべてをふたりだけに背負わせることを好しとしなかった。

彼女もまた、新たに決意を見せる。

 

「わたしにも、その本を見せて欲しいの」

 

自らが望み、臨む世界を目指すため。

劉備は、もう一歩、踏み込んでいく。

そんな主の姿に、諸葛亮と鳳統は、嬉しいのか悲しいのか、複雑な表情を浮かべた。

 

 

 

彼女が踏み出した道がどんなものになるのか。

それは、まだ誰にも分からない。

 

 

 

 

・あとがき

隔月刊「愛雛恋華伝」ってーノリな更新ペース。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

 

ご無沙汰しております。

本当にすいません。

 

おまけに短くて、書こうと思っていたところの半分くらいですよ。

いや本当にすいません。

 

でも、短くてもいいからインターバルを空けずに、コンスタントに更新していった方がいいかなぁ。

と、考えていたりもします。

 

今度の日曜日までにどれだけ書けるか、にもよるな。

来週になるとまた仕事詰めになってしまう。

 

 

 

さてさて。

そんなこんなで、桃香さんたちの出番です。

なにやらきな臭い感じがしますが。

 

鈴々さんや愛紗さん(関雨に非ず)の出番も追々入れていくつもり。

 

 

 

 

……おかしいな、書きたいのは主に戦闘シーンのはずなんだけど。

心情表現の場面が多くなっている気がする。

 


 
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