数分前までは平和そのものだった。しかし、いまは地獄だ。海面には味方の残骸とオイルが漂流している。なぜこうなってしなったのだろう。
数分前
「フリゲート艦オルフェース艦橋」
艦橋には俺一人しかいない。いまは昼食のため、ほかのみんなは食堂にいる。すると、背後から足音がする。後ろを見ると、通信長のトム・ホークスが入って来た。
「食った、食った、お、ガレ、もういらしゃっていましたか。」
「ああ、俺はいつも早く食べるからな。」 そう言うとホークスは持ち場に座って、話を続ける。
「そうだ、ガレ、聞きました?例の話。」
「え、例の話?」
ホークスは驚いた顔をした。
「聞いていなっかたんで。けっこう食堂で話題になっていたんだけどな。」
すると、ホークスから衝撃的なことを聞いてしまった。
「実は国内に国籍不明機が二度にわたって侵人して来た、という話ですよ。」
「それは本当か!」俺は驚いた。国籍不明機が最後に現れたのは、15年前の戦争、ベルカ戦争以来だ。
「いえ、まだ噂か本当かわかりせまんけど、これが本当だったらこわいですねえ。」
「ああ、せっかくの平和だ。大事・・・」
突然、隣の艦が爆発、炎上した。あわてて、艦橋から周りをみると、上空に見知らぬ戦闘機が飛んでいる。まさかと思った。だが、次の瞬間その戦闘機が攻撃して来た。その攻撃でまた停泊中の艦が爆発、炎上した。そのまさかだ。
「ホークス、IFFを起動させろ。あと通信をすべて開け。それと艦内放送をかけろ」指示を出していると、いつのまにか航海長のポール・スミスが艦橋に来ていた。さっきの爆発は何かと聞きに来たんだろか。
「何があったんですか。」
「スミス、ちょっうどいいところに来た。敵の奇襲だ。艦を出航させろ。」
「奇襲って、いったどこの国が」
「知るか。そんなことより早く艦を出航させろ。」
「わかりました!ただちに出航の準備をします。」
スミスはあわてて自分の持ち場につき、出航の準備をはじめる。そして俺は急いで艦内放送のマイクにむかって奇襲のことを知らせる。
「総員、戦闘配置、総員、戦闘配置、これは演習ではない。繰り返す。これは演習ではい。」
そう言っている間にも味方の艦は次々に敵の攻撃によって撃沈および大破していく。もう航行可能の艦は残りわずかだった。そんな中、砲術長、デービット・ホワイトと他数人の艦橋勤務の人達がようやく来た。
「遅いぞ。早く、自分の持ち場につけ。ホワイト、お前はさっさと対空システムを立ち上げろ。」
「でも、ガレ艦長、これって本当に実戦なんですか。」
なんて奴だ。外の情況を見て気づかないのか。平和ボケとはこのことだ。
「ホワイト!周りの情況を見て演習だと思うか。外はすでに火の海だ。これは演習ではないんだ。実戦なんだ!わっかたな、さっさと対空システムを起動させろ!」
「わ、わかりました。対空システムを起動をします。」
ホワイトも持ち場につき対空システムを立ち上げる。
「3時方向に敵機。」
「何!」全員が3時の方向を見た。そこには低空でいるA-6Eの姿があった。その翼の下には対艦ミサイルを装備している。もはやこれまでか。艦内全員がそう思った。だが次の瞬間上空から無数の弾丸が降って来た。その弾丸はA-6Eに容赦なく降り注ぐ、A-6Eはあっといまに穴だらけになった、そしてほどなく燃料に引火したのか、A-6Eは真中からへし折れて爆発した。その数秒後、爆発の煙の中からF-14が出て来た。F-14は急上昇していった。 「こちらは第7空母航空団第206戦術戦闘飛隊、スノー大尉だ。そこのフリゲート艦、大丈夫か。」
通信が入ってきた。どうやらさっきのF-14のパイロットらしい。
「第三艦隊所属フリゲート艦オルフェウス艦長ガレだ。スノー大尉、さっきは助かった。乗組員に代わって感謝する。」
「いや、そちらが無事ならいい。では、私は引き続き敵部隊を迎撃する。君達の幸運を祈る。」
「了解した。スノー大尉こそ幸運を。」
そして、スノー大尉は敵部隊を迎撃しに行った。ちょうどそのころ、やっと軍港コントロールから演習ではないことを知らせる。
「艦長、たったいま、軍港コントロール室から演習ではないことを知らせました。」
「見りゃわかる、馬鹿野郎ーー!」
俺の怒鳴り声で艦橋は一瞬静かになった。俺はハッとしてあわてて首を振り冷静さを取り戻す。しかしさっきのホワイトといい、軍港コントロールまで平和ボケとは。
「艦長、出航準備出来ました、いつでも出航出来ます。」
「よし、よくやったスミス。すぐに出航しろ、まずは湾外へ出ろ。」
「了解、出航!」
そして、艦はゆっくりと動きだし湾外へと向う。
「ホワイト、対空ミサイルは使用できるか。」
「まだです、しかしファランクスと主砲は使
用可能です。」
「わかった。早く対空ミサイルを使用できるようにしろ。」
「艦長、新たな機影を確認、戦闘機3機さらに後方にAWACS1機!」
「味方か敵か」
艦内に緊張が走る、これ以上敵が増えると制空権は完全に敵に奪わられるからだ。
「識別信号、受信。味方です!オーシア国防空軍第108戦術戦闘飛行隊サンド島分遣隊ウォードッグ です。」
「援軍か。」
俺はほっとした、少なくてもこれで制空権は敵に奪われる可能性は減った。だがそれ以前に問題があった。それは味方の混乱だった。
「敵だ、ファランクス、撃て、撃て!」
「馬鹿、やめろ、あれは味方だ、IFFちゃんと見ろ!」
「消火中の消火船が爆発に巻き込まれた。二隻、いや三隻、燃えているぞ!」
「10時方向に敵機。」
「無線が錯綜している、いったいどの艦から見て10時方向だ!」
「このままではやられるだけだ、艦を捨てよ。」
「馬鹿野郎!味方の進路をふさぐつもりかあ!」
味方の混乱は一向に納まる気配も無い、無論本艦の乗り組員も例外では無い、未だホワイト達が混乱している。
「艦長、いくら制空権を取り返しても、この混乱では全艦がやられます。」
ホークスの言う通りだ、このまま混乱が続けば、たとえ制空権を取り返しても全艦がやられてしまう、何か打つ手・・・。ふっと左を見ると。空母「ケストレル」を中心とした一団がいた。その一団は、混乱している。軍港中で、いまだ整然と航行している。
「上空の友軍機及び、軍港内の生き残った艦隊に告ぐ。こちらは第三艦隊所属、空母「ケストレル」艦長アンダーセンだ。これより本艦隊はセントヒューレット軍港を脱出すべく突破作を試みる。上空の友軍機はできる限り本艦隊を支援してもらいたい。また航行可能艦は、本艦隊に続き航行せよ。」
アンダーセン艦長の落ち着いたその声で、ホワイト達と他の僚艦も混乱が収まろうとしていた。航行可能の艦はケストレルの周に並んでいく。
「艦長、どうしますか。」
「無論、ケストレルに続く。スミス、本艦をケストレルの左舷に。」
「新たな、敵編隊が接近中!」
艦隊前方からA-6Eが接近する。くそ、奴ら意地でもこの軍港を俺達の墓場にしたいらしい。
一体何機の敵が襲って来たんだろう。そのたびにウォードック隊とスノー大尉を中心とした部隊が迎撃して行く。たまに抜けてくる敵機もいたが、そこは本艦隊のファランクス攻撃で迎撃した。気付けばいつのまにか湾外へ出ていた。しかし、湾外に待ち構えていたのは敵艦隊の海上封鎖線だった。
「上空の友軍機および全艦隊に告ぐ。本艦隊は無事に軍港の脱出に成功した、だが今度は敵艦隊の海上封鎖線だ。これに対し本艦隊は強行突破する。上空の友軍機、もう一度支援をしてもらいたい。」艦隊に再び緊張が走る、あの封鎖線を強行突破するとは。だがこの封鎖線突破に成功したらこれ以上の敵部隊はいないはずだ。
「全乗り組員に告ぐ。これより本艦隊敵艦隊の封鎖線に対し強行突破する。極めて危険だが。突破に成功すれば敵部隊はいない筈だ。ここが踏ん張りどころだ、全乗組員の健闘を祈る。」
「了解!」
すでに上空の友軍機は敵艦隊に攻撃している。その結果、敵艦隊の陣形が乱れた。いまなら封鎖線を突破できる。
「艦長まもなく封鎖線に入ります。」
「わかった、いまなら突破できる。ホワイト、主砲、発射用意、目標、左舷フリゲート艦。」
「りょ、了解、目標、左舷フリゲート艦!」
そして、いよいよ敵艦隊の海上封鎖線に入ろうとしていた。
「艦長、敵封鎖線に入りました。」
「よし、撃ち方、始め!」
激しい轟音と、ともに主砲から二発の砲弾が発射された。一発目は外れたが、二発目は艦橋に直撃した。さらに追いうちをかけるようにウォードッグ隊から発射されたミサイルが命中し、ほどなく轟沈しあっという間に海の藻屑と消えた。
「フリゲート艦、ミトラ轟沈!」
「くそ、陣形を立て直せ!」
フリゲート艦が1隻を轟沈した結果、さらに陣形が乱れた。これならたやすく封鎖線を突破できる。俺達は全力で封鎖線を突破する。上空の友軍機も全力で支援してくれた。気付けは敵艦隊の姿は洋上になく、オイルと残骸と脱出した乗組員達のボートが海面を埋め尽くしていた。
「こちら空母ケストレル艦長、本艦隊は安全海峡な脱出に成功した。海そして空の勇士達に感謝する。」
この通信を聞いた瞬間、艦隊から歓声が響きわたる。俺はホッとしてため息をついた。ふっと海面を見ると、そこには別の物が映った。ぴくりと動かない人の姿を。その光景を見て15年前の戦争を思い出した。
「艦長、どうかしましたか。」
「いや、15年前の戦争を思い出しただけだ。」
ホークスは俺の言葉を聞いて海面を見た、おそらくホークスもあの海面を見て15年前の戦争のことを思い出したに違いない。
「たしかに、あの海面を見たら思い出しま
す。」
「ああ、新人達にあの海面を見せるなよ、刺
激が強ぎる。」
「分かりました。」
ホークスはそう言と、ホワイト達に海面を見せないように、うまく会話に入る。ホワイト達はホークスに任せて俺は先まで停泊中だったセントヒューレット軍港を見た。まだ煙が上がっていた。恐らくあの煙は出航できずに沈んだ艦だろう。一体何隻の艦が出航出来ずに沈んだだろう。そして、あの敵部隊は一体?そんなことを考えながら、軍港を遠ざかって行くのを見ていた。
その後、情報がようやく入って来て情況がはっきりした。ユークトバニアが宣戦布告し、そして、軍港を奇襲した部隊はユーク軍の宣戦布告同時攻撃部隊だった。しかも、セントヒューレット軍港以外にも他の軍港及び海上にいった艦隊にも攻撃受け、海軍の損害は大きかった。しかし、ユークトバニアはベルカ戦争以来は友好国だったのに、なぜ、いまごろになって宣戦布告したのか、今は知る余地もなかった。
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第一話