No.441788

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 二十八話

TAPEtさん

結果を呼び寄せた原因があった。
或者にはそれが偶然の集合体に見えた。

だが青年は、それを必然の塊に見た。

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2012-06-25 17:14:44 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5250   閲覧ユーザー数:4414

呂布SIDE

 

………

 

「ちんきゅー」

「ここにおりますぞ」

 

下の雰囲気が変わった。

 

「……出る」

「今からですか?霞はまだちょっと待てって言ってましたけど」

「…今が良い」

「…分かりましたぞ。霞にもそう言っておきますぞ」

「…うん」

 

昨夜、霞はどこかに出掛けて帰ってきた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「恋、明日動くでー」

「……?」

「霞はどこに行ってきたのです?」

 

霞は何も言わずにちんきゅに持っていた書簡を投げた。

それを読んだちんきゅは…

 

「なっ!」

「分かるやろ?狙いは袁紹の頸や。外に協力してくれてる奴がおるから明日何かしら動きがあったら直ぐにしかけるで」

「むむ…しかし、信用できるのですか?」

「人としてはあんまりやけど……でも月を助けられるかもしれん」

「うーん……」

 

…よくわからない。

ちんきゅが持っている書簡をひょこっと見たけど、恋は字が読めない。

でも霞は確かに言った。

 

月が助かるかもしれない。

 

それだけ分かったら、後はどうだって良い。

月を苦しめた奴らを倒す。

恋にはそれしかないから……それで月を助けられるのなら…やる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「………」

 

下の兵たちが動き出す。

整列された動きじゃなく隙だらけ。

今なら行ける。

 

「恋殿ー、霞から許可が出ましたぞ。存分に暴れまくるのですぞー」

「…うん」

 

行く。

 

「って、恋殿、ちゃんと関門から…恋殿ーーーー!!!!」

 

恋はそのまま関から跳んだ。

 

地面がどんどん近くなって、恋は武器を地面に差し込んで安全に着地した。

周りが砂塵だけでうまく見えない。

でも、この先にあるのは月を苦しめる『悪い奴』だらけ。

何も迷うことはない。

 

「全部……殺す」

 

 

 

 

凪SIDE

 

桃香さまの命令通りに、関羽殿と張飛、趙雲殿と100ぐらいの騎馬隊を連れ、私たちは撤退する袁紹軍の兵の中を突っ切って本陣に向かっていました。

 

「くっ、こいつら。主人の危険も知らずに逃げるとは…!」

「知らないわけではないだろう。ただ自分が生きたいと思っているだけだ」

「それでも一軍の兵か」

 

関羽殿がそう愚痴るのも仕方ありません。

ある兵士は進行先にいる我々に剣を向ける者も居ました。

関羽殿たちは一瞬慌てたが、一刀様は何の迷いもなく、持っていた不思議な形の弓(水平で、そして片手で持っても打てるものだった)を向かってくる兵の肩に打ちこみました。兵士は一瞬叫び、その場に気を失って倒れました。

 

「……敵意を向ける奴に情けをかけるな。お前の情けがお前の部下たちを傷つける」

 

そう言われると怒鳴っていた関羽殿は静かになりました。

 

しかし、この兵たちの恐怖に満ちた顔。

幾ら奇襲を受けてるとしても、幾ら訓練されていない雑兵だとしても異常です。

あの先で、きっと何かが起きています。

 

「うわあああああああ!!」

 

その時、袁紹軍の向こう側から、この騒ぎの中でも確かに聞こえるような叫び声が聞こえてきました。

それはとてつもない恐怖に満ちているような声で、私は一瞬身を震わせました。

 

「な、なんだ?」

「…あっちに行ってみるのだ」

 

張飛が先に馬を走らせて叫びがした方に馬を走らせました。

それと同時に声がした所から人が飛ぶ姿が見えました。

 

「我らも行くぞ!」

「ああ」

 

関羽殿と趙雲殿も部隊を連れ先に向かいました。

 

「一刀様、我々も……」

「……………」

「…一刀様?」

 

一刀様は止まっていました。

止まっていて、前を見ず下を向いて何かを考え込んでいました。

考え……というよりは、悩み?

まさか、一刀様に限って悩むなどということは…

 

「一刀様」

「…うん、なんだ?……他はどこに行った」

 

一体一刀様はいつからこっちに意識になかったのでしょうか。

 

「向こうから何か危険な気配を感じます。皆さんそっちに向かいました。

「…この狂気を作っている源ってわけか……呂布だな」

「呂布?」

 

あの飛将軍呂布……。

 

華琳さまの所に居た時聞いたことがあります。

一人で三万もある黄巾党を蹴散らしたことがあるとか……

あれほどの者があの向こうに……

 

「一刀様、私たちはこのまま戻りましょう」

「……」

「相手があの呂布なら、恐れながら、私は一刀様をお守り出来る自身がありません。ですから……」

「行くぞ」

 

私は一刀様を説得しようとしましたが、一刀様はそのまま馬を進ませました。

 

「一刀様」

「…お前が俺の行く道を定めるつもりか」

「っ………」

 

私はそれ以上何も言うことができませんでした。

ですが、もしあそこに居るのが本当に呂布で、一刀様が危険に陥ることがあれば

 

命を賭けてでもお守りいたします。

 

 

 

 

愛紗SIDE

 

強い。

異様の強さを感じていた。

それは近づく程どんどん強くなってきた。

 

「待て、これ以上は劉玄徳の家臣、この関雲長が許さん」

「………」

 

私たちが感じた気配の持ち主は、赤い髪に、全身に刺青をした女だった。

 

「…お前、何者?」

「貴様が呂布か」

「……関係ない」

「っ!!」

 

その女は何も言わず私に向かって武器を振るってきた。

 

「きゃっ!」

 

乗っていた馬が驚いて暴れたせいで、私は中心を崩して馬から落ちた。

 

「愛紗!」

 

鈴々がそんな私を見て馬から降りて呂布の前に立った。

 

「お前の相手は鈴々なのだ!」

「……」

「へやああぁっ!」

 

鈴々が自分の武器の丈八蛇矛を振るった。

でも、呂布はあまりにも軽い動きでをれを受け止めた。

 

「にゃにゃっ!」

「…弱い」

 

鈴々の蛇矛を振り切る呂布の力に鈴々は一瞬姿勢が崩れそうになるもなんとか後ろに引いた。

 

「にゃっ…手が痺れるのだ」

「愛紗、鈴々!」

「ああ、こいつ…」

 

強い。

強いという言葉だけでは足りないぐらい強い。

 

「……三人で来るの」

「…ああ、悪いが、そうしてもらわねばならぬようだな」

 

いや、寧ろ三人で相手しても太刀打ちできるのか?

袁紹軍の兵たちの恐怖も理解できた。

今目の前にいるのは、人間ではないようだった。人間の強さではないようだった。

 

これが……呂布!

 

「愛紗、どうする」

「ここで引くわけには行かない。名を名乗った以上、ここで逃げれば桃香さまの名に恥をかかせる」

「それに、こんな奴これ以上暴れさせたらもっと被害が出るのだ」

 

周りは既に奴に殺された兵の死体が散らばっていた。

放っておけば、虎牢関の前がすべて袁紹軍の兵の死体で満ちるだろう。

 

「だから、こいつをここで押させる」

 

私は立ち上がって私の得物、青龍偃月刀を構えた。

 

「……お前たち、弱い」

 

弱いか……そう言われて怒る気にもならない。

それ程そこに居る相手の強さと私のそれの差が分かる。

だが、それでも引かない。

 

「早く片付ける」

「そう簡単にやられるか!鈴々!星!」

「おう!」

「わかったのだ」

 

私たちは同時に呂布に取り掛かった。

 

「その勝負待った!」

 

その時、後ろから聞き覚えのある声がして私たちはビタッと止まった。

 

「なんだ、北郷!貴様は引いてろ!」

「そうは行かないな」

 

奴はそう言って自分の馬から降りてこちらに向かって歩いてきた。

 

「呂布奉先か……興味深い」

「一刀様、危険です。ここは関羽殿の言うとおり」

「悪いが俺もそいつに用がある。ちょっとだけで良い」

 

そう言いながら奴は私たちを通りすぎて呂布に近づいた。

馬鹿かあいつは!戦う術もない貴様が行っても袁紹軍の兵士の二の舞だ!

 

 

 

 

呂布SIDE

 

目の前に居た弱い奴ら……

 

こんな奴らが月を苦しめていた。

……弱い。

 

そう思っていたら、ちょっとマシな三人が現れた。

弱い。でも、逃げないで立ち向かうぐらいマシ。

 

でも、そんな三人を差し置いて他の奴が現れた。

男。

戦いなんてしたこともなさそう。

でも、なんか……違う。

こいつ…弱いのに…強い。

 

「呂布奉先か」

「……誰?」

「北郷一刀。お前に聞きたいことがある」

「…」

 

恋は何も言わずに得物をその男の頭を胴体から離れさせる感じで振るった。

 

「一刀様!」

 

後ろに居た奴が叫んだ。

 

だけど、頸の寸前で武器を止めるまで、男はビクッともしなかった。

 

「…なんで避けない?」

「お前は俺に興味を持った」

「…興味?」

 

何のこと?

 

「その興味の奥に何があるのか知るまで、お前は俺を殺さない」

「…お前弱い。お前なんかいつでも殺せる」

「そうだろう。でも俺もタダでやられるつもりはない。それに、俺もお前には随分と興味がある。例えば…そうだな。これほどの人をなんともない顔で殺せる人間が……人を乗せた馬が傷つくのが嫌でわざと空振って馬が驚くようにして乗ってる者を落馬させた」

「………」

「動物が好きなのか」

「…家族いっぱい」

「そうだな。動物は良いな。飼っているのか」

「……うん、家族…沢山」

 

セキトと…他にもいっぱい居る。

犬、猫……鳥とか…

 

「他の人間は俺たちを遠ざける。それに比べて動物は親しいからな」

「……」

「人にさんざん化物扱いされてきただろ」

「……月は違う。霞や…ちんきゅも…詠も…」

「…………」

「だから、恋は皆を守る」

 

恋のこと、わかってくれるから……皆のこと、守りたい。

 

皆恋のことを恐れている顔で見た。

でも、月はいつも優しい。いつも優しい顔で、恋が眠い時なんて膝枕してくれる。

すごく柔らかくて…直ぐに寝てしまう。

 

「その人たちを守って、お前が傷ついてもか」

「…恋は強い。…誰にも負けない」

「………そうか。そのようだな」

「……?」

「でも、もしお前が大切にするものを守るために、修復出来ない傷を背負うことになるとしたら、どうする」

「……なんでそんなことを聞くの?」

「お前に興味があるからだ」

 

………

 

「恋は、恋に何があっても、月を守る」

「……そうか」

 

そしたら、男はそのまま振り返った。

 

「用は済んだ。返答に感謝しよう」

「……どういたしまして?」

 

恋はよく分からなくて頭を傾げた。

でも、あまり殺したい気にならなかった。

なんで?

 

……『興味を持ってる』から?

 

分からない。

 

…名前…なんと言ったっけ。

 

 

一刀SIDE

 

何があっても守る……か。

 

 

 

「雲長、ここは任せた。俺は本陣で向かう」

「頼む…というか、何故平然とあんな化物じみた相手と話なんて出来るんだ」

 

雲長はあっけない顔で俺を見ていた。

その顔はあいも変わらずまるで人間でない他の何かを見ている顔。

その顔はもう慣れた。

 

「……同じ『化物』だからな」

 

結局、俺は言い訳が欲しかったのだ。

俺自身の選択から逃れる選択肢を……

 

俺は逃げたかった。

 

だが、

 

最初からそんなこと、俺の持論に反する。

 

「凪、雲長たちと一緒に呂布を止めろ」

「何を言っているんですか。私は一刀様と…」

「命令だ、ここに残れ」

「しかし」

「…お前は俺がお前にやれって言ったことをやれ…じゃあ」

「私がやること……って、一刀様!」

 

俺は北郷一刀だ。

 

生まれた時から、俺を動かせる者は俺自身だ。

 

だから……この道も、

 

俺が決めた道だ。

 

 

 

 

 

張遼SIDE

 

「邪魔やーー!!」

「うわっ!」

「文ちゃん!」

「ええ加減しつこいわ!」

 

最速で袁紹軍の本陣にたどり着いてみると、まだ逃げれてない袁紹と将二人が居た。

部下たちはそこら辺で荒らすように言っておる。ここにはウチ一人や。

普通敵本陣にまで独りで突っ込むことは危険やけど、こんな兵相手なら、本陣に居るのはこの3人以外にないと見てもええ。

しかし……

 

「はぁ…はぁ……」

 

こいつら、しぶとい。もう随分戦っているのにまだ立つ。

他の兵たちは皆腰抜け野郎どもばかりだったから甘く見てたけど、この二人はちゃう。

一人倒おしてもまた一人た立ち向かって、そいつをどかせたらまたいつの間に倒れてた一人が助太刀してくる。

連携も完璧で…勝てない相手じゃあらへんけど、このままじゃ時間食い過ぎちまう。

 

「文ちゃん、大丈夫!」

「はぁ…ああ、まだへっちゃらだぜ」

 

どうも……

 

「殺さんとならんちゅうわけや!」

「っ!」

「斗詩!」

「せいやああああっ!!」

 

刀がボロクソになった金槌持ちの奴の鎧を壊して入った。

 

「はうっ!」

「斗詩ぃ!!貴様ぁ!!」

 

横に跳んだ仲間が短い断末魔を上げて倒れるのを見て、大剣を持っている奴がウチを縦に斬りかかった。

だけど、遅い!

 

「まだまだー!」

「なにっ!」

 

横に避けたと思った途端、奴は大剣の軌道を無理矢理変えてきた。

奴の大剣がそのままウチの腰を狙った。

 

「くたばれー!」

「ちぃっ!」

 

直ぐ様得物で防いだけど、奴の大剣の勢いが余っていて、あとこっちも急に防御に変えたせいで力で負けた。

勢い余った奴の大剣は防御した飛竜偃月刀の柄を越して腰に響いた。

 

「いってーな!」

「斗詩がやられた分返すにはまだまだだ!」

「阿呆!そうやられてて溜まるか!」

 

二度はない。

 

「へやぁっ!」

「うっ!」

 

ウチの薙ぎ払いを、奴は大剣で塞いだけど、無理矢理使い込んでた大剣はもうガタが来てた。

ウチの勢いを塞ぎきれず、大剣の身はヒビが入って、やがて壊れた。

 

「うっそ!」

「今度はおとなしくぶっ倒れてろや!」

「うぐっ!」

 

峰打ちで相手を地面に叩き込んだ。

もう起き上がる様子はあらへん。

 

「さて……」

「ひっ!!」

 

そこに腰抜けて震えてるのが袁紹やな。

 

「が、顔良さん!文醜さん!いつまで寝てらっしゃいますの!わたくしを守りなさい!」

「もう無駄や。二人とも限界越えて戦ったんや。あんた守るために……」

「っ…わ、私を誰か知ってこんなことを…」

「知ってやってんよ。袁本初、袁家の当主、この連合軍を集めた張本人で…自分の欲望のためにウチの可愛い月を噛ませ犬にしようとした悪党野郎だって」

「な、何を馬鹿なことを…元を言えばあなたの主人が都を制したのが悪かったのですわ!」

「それの何が悪いん。月が皇帝を守ろうと十常侍どもと命賭けて戦ってる間、漢の忠臣とかほざいてたアンタらは何一つせずに見てばかりやったくせに。今更気に食わないって逆賊扱いかいな。大した身分やないか」

「っ……田舎者の分際で、相国なんて地位が身分に合うとでも…」

「そんなんはウチは知らへん。ただ分かるのは、アンタにはアンタの罪償わせてもらわんとアカンってこった」

「ひぃぃいいい!!……うっ」

 

構えた偃月刀を振るった。。

もちろんここで殺すつもりはあらへん。

こいつには、沢山恥かかせて、最も苦しみながら死んでもらわんとアカン。

 

「気絶したか」

 

その方が運ぶんは楽やな。

 

「こんな奴馬に乗せるのもヤやな。縄で縛って地面這わせるか?」

 

…うん?何や、この気。さっきの奴らとは違っ…

 

「はあああああああっ!!」

「とわっ!」

 

あぶねぇ!!早く反応しなかったらヤバかった。

 

「ほほう、今のを防ぐか。華琳さまに目を付けられるぐらいはあるな」

「……何や、お前は」

「我が名は夏侯惇、字は元譲。我が主曹孟徳の命に従い、貴様をぶっ倒す!」

 

孟徳のとこの……そう言えば見覚えあるな。

 

「せやか。あの黄巾党との戦いの時の……」

「あん?」

「…お前、ウチのこと覚えてへん?」

「知らん!」

 

忘れとるんかい…

まあ、ええわ。あの時は官軍としてやったから覚えてなくても仕方あらへん。

 

「で、何や?ウチは今忙しいんやけど」

「言ったはずだ!貴様を華琳さまの元へ連れていく」

「…あれ?言ったっけ」

「言っただろ!」

「いやいや、言ってないって」

 

ウチのことぶっ倒すってしか言ってないやろ。

 

「ぶっ倒してから縄巻いてジリジリ引っ張って行くのだ!」

「なんてことしようとしてくれてんねん!」

 

いや、ウチがやろうとしたこととあんま変わらんか。

 

「ええい、ごちゃごちゃ文句の多い奴だ。良いから今直ぐ私と戦え!」

「あぁぁ…面倒やな…」

 

ほんと、面倒だわ。

今ウチ、ちょっと疲れてるんやけどな……こうなると思ったらもうちょっと早く片付けるんやった。

 

「まあ、仕方ないな」

「やっと戦う気になったか」

「まあな、というか、アンタ結構強そうやん?」

 

少なくともあの二人よりは戦い甲斐ありそうや。

 

「当たり前だ。私は華琳さまの剣、誰にも負けることはない」

「大した自身やな…んじゃあ、お手並み拝見と行こうか!」

 

 

春蘭SIDE

 

豪快に叫んだ張遼は速やかに私にかかってきた。

何度も何度も続く連続攻撃、これが神速の張遼か…だが。

 

「この程度で!」

「うぉっと!」

 

隙を見て剣で張遼を離れさせて攻撃を凌いだ。

 

「へー、やるやん」

「今度はこっちの番だ!」

 

正面から堂々と斬りかかる。

張遼は塞ぐもまだまだ終わらん!

 

「はぁっ!せやぁっ!」

 

一撃、一撃に渾身を込めて打ち込む。

華琳さまの命令だ。なんとしてでもコイツを連れて帰る。

 

最近の華琳さまはずっとご乱心だった。

理由は…一つだけだ。

アイツだ。北郷一刀…

アイツが華琳さまを振り回しているのだ。

アイツは離れていても尚華琳さまの邪魔になるというのか…!

 

華琳さまを元に戻す方法を私は知らん。私は頭が悪いから華琳さまがどうすれば以前のような華琳さまに戻れるか良く分からん。

だが、華琳さまが私に求めたこと。

それをこなすことは出来る。

だから……

 

「くたばれ!!」

「殺す気かい!」

 

最後の一撃の所で張遼は防御を辞めて後ろに引いた。

 

「ふん!大したことないじゃないか!」

「ちぃっ…本調子やったらな…アンタ程の相手に会う機会もなかなかあらへんのに…運が悪いわ」

「どういう意味だ」

「いや、こっちの話」

 

ん?

良く見たらアイツなんか腰を隠してるな……。

ここに来るまで怪我をしたのか…。

 

「ふん、確かに運が悪かったな」

「………」

 

これほど戦える奴が本調子でない状況で戦うというのは勿体無くはあるが…

華琳さまの命令だ。私個人の拘りを言っては居られない。

 

「悪いが、怪我してるからって手加減するつもりはない」

「…わあってるって。最初からそんなん期待してへんわ。寧ろ、そんなことされたら、武人としてのウチの名が傷つくってもんよ」

「ふっ!武人の心がけが分かる奴だな」

「あったりまえや。だけど、勿体無いな」

「ああ、勿体ない」

 

こんな奴と十分の力で戦えないということは……

 

「おしゃべりは終わりだ。行くぞ!」

「来いや!」

 

私はそう叫んで張遼に襲いかかった。

 

その時……

 

 

 

 

 

 

「夏侯元譲!!!」

 

シュッ

 

な……!

 

「くぅぅっ!」

「なっ!!」

「姉者!!」

 

 

一瞬で…すべてが変わった。

 

 

 

 

張遼SIDE

 

さて…本気で困ったことになっちまったな。

この調子だと、こいつにまともにやりあって勝てそうじゃあらへん。

 

けど……ここでコイツと戦う機会を失うというのも勿体無いのは同じ……

どうせここで逃げた所で袁紹を捕らえなかったらウチの負けや。

せやったら、命賭けてでも戦った方がええってもんよ!

 

「おしゃべりは終わりだ。行くぞ!」

「来いや!」

 

ウチは襲いかかってくる夏侯惇の姿を見ながら構えを正した。

 

でも、その時後ろから……

 

「張遼将軍!!!」

 

そんな叫び声が聞こえた。

それと同時に、ウチの後ろから一本の矢が過ぎて行くのを見た。

 

一瞬思った。

アレは誰に向かっていく矢か。

きっとウチが不利なのを見て、近くの部下が夏侯惇に向けて打った矢だ。

馬鹿な真似をしやがって!

誰がそんなんやれって言ったんや!

ウチは武人や。ウチの戦いを邪魔した奴は一体誰や!!

 

でも、

そう思って前を見た時、ウチは目を疑った。

 

「くぅぅっ!!」

「なっ、夏侯惇!」

 

夏侯惇は地面に脚を崩して地面に座り込んでいた。

だが、ウチが思っていた場面と違ったのは、

血を流してる夏侯惇の脚の傷を作りながらを掠って行った矢は、ウチの後ろから、つまり夏侯惇の前から来た矢ではなく、後ろから来ていた。

しかも脚に刺さることもなく、ただ掠っただけで地面に刺さったその矢のおかげで、夏侯惇は姿勢を崩し、ウチの方から放たれた矢の軌道から離脱した。

 

一体あの矢を打ったのは誰だ……

 

矢の刺さった模様を見て目で追った先には……

 

「………」

「北郷…一刀?」

 

矢はそこから来ていた。

馬に乗った北郷が手に持っている奇妙な形の弓は、どういう仕組かは分からなくても、構え方を見て確かにいまさっき放ったばかりだということは分かった。

 

なんやあれ。

今どうやって『コレ』ができたん?

単にウチを邪魔する夏侯惇を邪魔するためだけ?

単に偶然運が悪くで外れて、それがたまたま夏侯惇を助けるハメになっただけなん?

でもそれだけだというにはあまりにも……

 

「貴様ぁ、北郷一刀!!」

 

そう思っていた時に耳に刺さりそうな怒り染みた声が聞こえた。

そして、次の瞬間、肩に矢が刺さって、北郷一刀は落馬した。

 

「なっ!」

「良くも……良くも姉者を…!」

「しゅ、秋蘭さま、ちょっと待ってください!」

「………」

 

弓を構えた女。

夏侯惇の妹か…!

 

 

「ちっ、これぐらいで……でも、これで同等に戦えるってわけだ……張遼!」

「……悪いが、この勝負はお預けだ」

「何?」

 

そう言ったウチは夏侯惇の前で後ろを向いた。

そして乗ってきた馬に乗っかかって北郷一刀の方に走った。

既に北郷一刀を打った将は二度目の矢を射ていた。

 

「死ね、北郷一刀!」

「させんわ!!」

 

倒れている北郷一刀を馬の上でありったけ体を傾けてひったくった。

間髪の差で、北郷が居た地面に矢が刺さる。

 

「何っ!」

「弓矢使いか。状況も確かに見れない出来損ないが!持ってる弓が泣いとるわ!」

「なんだと…!」

「おい、しっかりしろや!」

「………」

 

返事がない。落馬する時頭でも打ったんか?

とにかくここに置いておいたらこいつはココで死ぬ…!

済まんが、ここはもう退かせてもらう!

 

「春蘭さま!」

「季衣!」

 

……これじゃあ袁紹の方は無理やな。

 

「袁紹の代わりにこいつをもらっていくで!次会う時は洛陽や!」

「待て、逃げるつもりか!」

「文句は貴様の妹に言い!」

「何」

 

ウチはそれだけ行って関の方に走った。

恋と他の部隊も撤退させよう。この計画は失敗や。

 

「何秒分の命。借りは返したぞ、夏侯元譲」

 

後ろに乗せてる北郷の唸り声に混ざってそういう呟きが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の戦いにより、連合軍の総大将であった袁紹は軍の3分の1を失い、また残りの3分の1ぐらいが脱営。

更に袁家の名将である顔良が重傷、文醜が軽傷。これにより袁紹は連合軍に置いて発言力を大幅に失うことになった。

 

尚、夏侯惇の傷は微々たるものであったが、劉備軍所属、北郷一刀が味方に矢を打たれて昏絶。以後張遼に攫われた。

 

そして次の日、何時の間にか立てられていた虎牢関の関上に北郷一刀の頸と着ていた服が槍に刺さったままなびかれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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