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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第44話

葉月さん

第44話投稿完了です!

うぅ~、それにしても段々と投稿スパンが伸びてきてるな……
別に書く気が起きないとか飽きたとかではないんですが、やっぱり仕事が忙しいとどうしても体の疲れが……

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2012-06-24 23:44:52 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:8368   閲覧ユーザー数:6703

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第44話

 

 

 

 

【再登場、華蝶仮面!正義vs月見酒?】

 

 

 

(こんこん)

 

「失礼しますぞ、主よ」

 

朝早く、部屋に入ってきたのは白い服を着た青髪の少女、星だった。

 

しばらく待ってみるが一向に部屋の中から一刀の返事は無かった。

 

「……ふむ、まだ寝ておいでのようだな……♪」

 

星は、顎に当てて少しばかり考えた後、なんとも不敵な笑みを浮かべていた。

 

「失礼しますぞ、主よ」

 

もう一度声をかけ、星は一刀が寝ている部屋の中へと入っていった。

 

「すー、すー」

 

「まったく、天下無双の主だが、なぜこうも無防備なのだ?」

 

呆れる星だったが、すぐに口元は少し釣り上がり、楽しそうにしていた。

 

「では始めるとしよう。主の寝床に忍び込むのは久々だが、前回のように私を楽しませる結果になると良いのだがな」

 

星はにやにやと笑いながら一刀のそばまで近づいた。

 

「ん、んー……こほん」

 

声の調子を確かめて小さく咳払いをする星。

 

「お兄様、朝ですよ。起きて下さい」

 

星は普段の声よりも高めの声で一刀を起こし始めた。

 

「ん~……もう少し寝かせてくれ……」

 

「ダメですよ。お兄様、起きて下さい」

 

「そんなこと言わずに、頼むよ一姫……」

 

一刀はそう言うと布団を頭から被ってしまった。

 

「ふむ……今回は中々手ごわいですな……そう言えば、以前起こしに来た時も中々起きては下さらなかったですな」

 

星は以前にも一刀を起こしに来た事があった、その時も星は今と同じように声を変えて一刀を起こしていたのだった。

 

「……ふむ、少々面白いことを思いついてしまった」

 

星はニヤリと笑い、布団を被った一刀に近づいていった。

 

「お兄様、お兄様。聞きたいことがあります」

 

揺すりながら一刀を呼ぶ星。

 

「ん~~……眠いから手短に……」

 

「……(にや)」

 

星は『しめた』とばかりにニヤリと笑った。

 

「お兄様は一姫の事、好きですか?」

 

「好きだぞ~~……一姫は俺の可愛い妹だからな~~……ぐぅ~」

 

寝ぼけながらも答える一刀。

 

「うれしい、お兄様。でも、一姫はそれだけじゃ満足できないの」

 

「う、う~ん?……すー、すー」

 

聞いているのか居ないのか、一刀は布団の中で寝息をたてていた。

 

「一姫は、一姫はお兄様の事を愛しています」

 

(ごそごそ)

 

「?……っ!?どわっ!」

 

「……」

 

「せ、星?」

 

「……いやん♪」

 

「いや、『いやん♪』じゃなくて、俺の布団の中で何しているんだ?」

 

「……主が私の手を取り、嫌がる私を布団の中へ引きずり込んで……」

 

星は恥じらう乙女の様に頬を赤くして一刀に説明をする。

 

「待て待て待て!それ、嘘だろ!」

 

「はい」

 

「はぁ~~~~~~~」

 

きっぱりと答える星に一刀は深いため息をついていた。

 

「出来ればそう言う嘘は吐かないで欲しいんだよ。あらぬ誤解を受けるだろ?」

 

「ほう、それは誰にですかな?」

 

「誰にって……例えば、愛紗とか」

 

「私が如何しましたかご主人様?」

 

「っ!」

 

背後から聞こえてきた声に一刀は肩をびくっと震わせた。

 

「もう起きておいででしたか。今日は珍しいですね」

 

「そ、そうかな?たまには俺だって早起きはするぞ」

 

星と愛紗の対角線上に一刀が居る為、お互いの姿は見えていなかった。

 

だが、星だけはにやりと笑い、また何かを企んでいるようだった。

 

「あん」

 

「っ!」

 

「ご主人様?今何か聞こえたような気が」

 

「き、気のせいだよ!気のせい!」

 

「は、はぁ、そうですか」

 

一刀は慌てふためきながら誤魔化していた。

 

「星!お願いだから、声を出さないでくれ!」

 

一刀は愛紗に聞こえないように小声で星に話しかけた。

 

「それでは、面白くないではありませぬか」

 

「面白くなくていいから!」

 

「ご主人様?何をぼそぼそと話しておいでなのですか?」

 

「独り言、独り言!気にしないで!」

 

一刀は何とかばれないようにと振舞う。しかし、星はそれを許そうとはしなかった。

 

「ひゃんっ!お兄様、そこさわっちゃだめっ!」

 

「んなっ!」

 

「……ご主人様?」

 

一際大きな声に、流石の愛紗も気のせいではないと思い、目を吊り上げて一刀の事を睨み付けた。

 

「そこに誰か居るのですか、ご主人様」

 

「いや、これはその……あの……」

 

「居るのですね……」

 

「お、落ち着いてくれ愛紗。これには訳があってだな!」

 

「どんな訳ですか!いいからそこをどいてくださいご主人様!」

 

一刀の後ろに居るであろう人物の顔を見るべく、愛紗は一刀の部屋に入り一刀と星が居る寝台へと向かっていった。

 

「お兄様、この人怖い」

 

(ぎゅっ)

 

「なっ!」

 

星は掛け布団を頭から被り一刀の背中に抱きつき隠れてしまった。

 

「~~~っ!ご、ごごご主人様っ!!」

 

「は、はいぃいっ!!」

 

愛紗の剣幕に一刀は背筋を伸ばして返事をした。

 

「な、ななな何なのですか、その者は!」

 

「落ち着いて愛紗。ちゃんと説明するから」

 

「当たり前です!納得行く理由をお聞かせください!」

 

「俺の後ろに居るのはせっむぶっ!?」

 

「ご主人様っ!?」

 

一刀が説明しようとすると布団を被っていた星が一刀の口を塞ぎそのまま寝台へ押し倒してしまった。

 

「(ちょっ!せ、星!何を!)」

 

「(ふふふっ、こんな面白い展開を私が何もしないとでも?)」

 

星は巧みに一刀の足に自分の足を絡ませ、身動き出来ない様にしてきた。

 

「(まだ抵抗をなさいますか?)」

 

「(あ、当たり前だろ!?)」

 

「(では、これは如何ですかな?)」

 

「(っ!?!?)」

 

なんと星は自分の胸を一刀の胸に押し付けてきた。

 

「(さ、流石にこれはまずいだろっ!)」

 

「(はて、なにがまずいのか私には分かりかねますな)」

 

一刀の慌て様を見て、星はニヤリと笑っていた。

 

「え、ええい!この不届き者め!ご主人様から離れろっ!」

 

(ばさっ!)

 

「……」

 

布団を剥ぐ愛紗。すると目に飛び込んできたのは一刀に抱きついている星だった。

 

「おや。折角、主と楽しんでいたと言うのに、無粋だぞ愛紗よ」

 

「~~~~~~っ!」

 

肩を震わせる愛紗。なんとか我慢をしようとするが……

 

「さあ、主よ。続きを……」

 

「っ!いい加減にしろーーーーーーーっ!!」

 

(がちゃーーんっ!!)

 

「おっと」

 

「うぉ!?」

 

愛紗はどこからとも無く取り出した堰月刀を一刀たちの居る寝台に振り下ろし、真っ二つにしてしまった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「危ないではないか愛紗よ。行き成り襲い掛かってくるとは」

 

「黙れっ!朝からな、なんて事をしているのだ!」

 

「良いではないか、今日は私は非番なのだ」

 

「だからご主人様に絡んでいたと?」

 

「ああ」

 

「~~~~っ!」

 

きっぱりと答える星に愛紗はまたも肩を振るわせ始めた。

 

「おっと、良いのか愛紗よ?こんなところで怒りをあらわにして、主に嫌われてしまうかもしれないぞ?」

 

「なっ!?」

 

星の言葉に慌てて一刀を見る愛紗。

 

「だ、大丈夫だから、嫌いになんかならないから安心して」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ああ、だからもう少し落ち着こうよ、ね?」

 

「は、はい……ふぅ、さて、せ、い……」

 

気を落ち着かせて、星に話をしようと振り返ったときには既に星の姿はそこには無かった。

 

「ふ、まだまだ修行が足りないぞ愛紗よ」

 

「なっ!待て、星っ!」

 

「待てと言われて待つ馬鹿がどこに居ると言うのだ。はーっはっはっはっはっ!」

 

星は一際大きな声で笑いながら一刀の部屋から逃げ出してしまった。

 

「まったく……ご主人様もですよ、もう少し警戒心と言うものを」

 

「でも、相手は星だしな、別に刺客ってわけでもないんだし」

 

「そう言う問題ではありません。城の中とて油断は禁物です、いつどこで狙われているのか分からないのですよ」

 

「俺の周りにそんな事をする人は居ないと思うけどな」

 

「ですから……はぁ、もういいです」

 

愛紗は一刀の説得に諦めたのか溜息を吐いた。

 

「それにしても星はなぜご主人様の寝室へ?」

 

「さぁ、何でだろうな」

 

「まったく心当たりが無いと?」

 

「あ、いや……」

 

一刀は心当たりが合ったのか顎に手を当てて考え始めた。

 

「何かあるのですね」

 

「うん、まあ。月見酒をしようって誘われてた」

 

「月見酒、ですか?」

 

「ああ。数日前だけど、執務室に星が来たことがあったんだ。その時、一日開けてくれって言われたんだけど、桃香が……まあこれはいいか」

 

「?」

 

「兎に角、月見酒を前々から誘われてたんだ。多分、その催促だと思う」

 

桃香の事を話そうと思った一刀だったが、桃香の為とあのときの事を説明するのをやめて、話を結論づけた。

 

「なるほど、そう言うことでしたか」

 

「うん。これは今日当たり、月見酒に誘わないと、誰かに被害が及びそうだな」

 

「そうですね……特に雪華や朱里たちなど、格好の獲物ですからな」

 

「え、獲物って……まあ、確かにそうか、雪華の慌てたり恥ずかしがる姿は可愛いからな」

 

「……っ!」

 

(ぎゅっ)

 

「いへへへっ!ほっへがいひゃいひょ!」

 

愛紗は一刀の頬をつねり上げて自身も口を尖らせていた。

 

「いてて……何も抓らなくても」

 

「だらけた顔を引き締めて差し上げただけです」

 

「愛紗だって雪華のそう言う仕草は可愛いと思うだろ?」

 

「うっ……た、確かに可愛いとは思いますが……」

 

「だろ?」

 

愛紗は無類の可愛いもの好きだった。小動物のような仕草をする、雛里や雪華を見て何度も心ここに在らずになっていた。

 

「と、兎に角っ!我らの主として、気を引き締めていただきたい!いつ、いかなる時もです!」

 

「わかった。気をつけるよ」

 

「それと、町へ出る時は必ず、お供を付けてください。どれだけ、私たち家臣が心配しているか分かっておいでですか」

 

「わ、わかった……善処する」

 

「善処ではなく、絶対です。いいですね!」

 

「はい……」

 

一刀は愛紗の強い押しにただ頷くことしか出来なかった。しかし、それでも一刀の一人歩きは治ることは無かった。

 

「とりあえず、星を見つけないとな」

 

一刀は星を探しに城の中を歩き回っていた。

 

(あたし)はまだまだいけるぜ?」

 

「鈴々だってまだやれるのだ!」

 

「ん?今の声は、翠に鈴々か?鍛錬でもしてるのかな?」

 

一刀は翠達の声の聞こえるほうへと足を向けた。

 

「はっ!てやぁあっ!」

 

「うにゃっ!にゃ、にゃぁあっ!」

 

(ガキンッ!ガキンッ!)

 

中庭に向かう一刀はそこで声の主である鈴々と翠が鍛錬しているのを発見した。

 

「がんばってるな、二人とも。星の場所を聞こうかと思ったけど、邪魔しないほうがいいかな」

 

一刀は二人の邪魔をしないように静かにこの場を離れようとした。

 

「にゃっ!お兄ちゃんなのだ!」

 

「お、おい鈴々!どこに行くんだよ!って、ご主人様!?」

 

この馬を離れようとする一刀の背中を発見した鈴々は翠との鍛錬を放り出し、一刀に駆け出していった。

 

「お兄ちゃーーーんっ!」

 

(どすっ!)

 

「ぐはっ!り、鈴々……」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!ここで何してたのだ?鈴々たちの鍛錬を見に来てくれたのか?」

 

鈴々は一刀に抱きつき質問攻めをしていた。

 

「おい、鈴々!ご主人様が困ってるだろ!一旦離れろ」

 

「分かったのだ」

 

「「……」」

 

すんなりと言うことを聞く、鈴々に一刀も翠も苦笑いを浮かべていた。

 

「それでご主人様、ここに何しに来たんだ?」

 

「ああ、剣戟の音と翠と鈴々の声が聞こえてきたから、星を見なかったか聞こうと思ってね。でも、真剣に戦ってたから聞くのを止め様と離れようとしてたんだよ」

 

「そうしたら鈴々に見つかったって事か、行き成り走り出すから何かと思ったぜ」

 

「にゃはは♪」

 

一刀の説明を受け納得する翠。その横では鈴々が両手をを後頭部に当てて笑っていた。

 

「星はここには来てないな。城壁にでも居るんじゃないか?」

 

「城壁?」

 

「ああ。非番の時は大方、あそこで町を見下ろしながら酒を飲んでるぜ」

 

「そっか。ありがとう、行って見るよ。邪魔してごめんな、鍛錬頑張ってくれ」

 

「おう。任せとけ。鈴々には負けるわけにはいかないからな」

 

「にゃにお!鈴々の方が一勝多く勝ってるのだ!このまま翠には抜かせないのだ!」

 

「はん!今までのは準備運動だ。これからが本番だぜ!」

 

「鈴々もこれからが本番なのだ!」

 

「と、取り合えず。程ほどにな」

 

「おう!」

 

「わかったのだ!」

 

「(絶対分かってないな……まあ、お互い怪我をするまではやらないだろう)」

 

一刀は気になりながらもこの場を後にした。

 

ちなみに一刀にあるまでの間に鈴々たちは既に十戦以上行っていた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ん~。いつ来てもいい眺めだな……さてと、星はどこに居るかなっと……」

 

「あれ?ご主人様」

 

「げっ!なんであんたがここに居るのよ」

 

星を探しに城壁に登った一刀はそこで二人の女の子に声を掛けられ振り向いた。

 

「月。それと詠か、こんなところで何してるんだ?」

 

「それとって何よ!、ボクは月のオマケじゃないんだからね!」

 

「ごめんごめん。それでここで何を?」

 

「ふん!あんたに教える義理は無いわよ」

 

「もう、詠ちゃんたら……」

 

腕を組み顔を背ける詠に月は苦笑いを浮かべていた。

 

「お天気が良かったので恋さんを誘ってここでお茶会をやろうと思っていたんです」

 

「確かに、今日は天気も良いし、風も程よいからね。確かに絶好の日和だ」

 

「はい。あ、ご主人様も如何ですか?」

 

「ちょ!何でこんな奴を誘うのよ!」

 

月の提案にすぐさま異議を唱える詠。

 

「お誘いありがたいんだけど、今日早めておくよ」

 

「そうですか……では、またの機会にお誘いしますね」

 

「ちょっと!なに月の誘いを断ってるのよ!あんたも男なら甲斐性くらいみせなさいよね!」

 

「さっきと言ってる事が逆だぞ、詠」

 

「詠ちゃん……」

 

「う、煩いわね!ボクは嫌だけど。月があんたを誘いたがってるみたいだから仕方なくよ!ボクは全然、これぽっちも、まったくもって、一緒に居たいなんて思ってないんだからね!」

 

「それで、月。詠は本当はなんていいたいんだ?」

 

「詠ちゃんもご主人様とご一緒にお茶がしたいってことだと思いますよ」

 

「ちょ!何でそうなるのよ!どこをどう聞いたらそう思うのよ月!」

 

「だって詠ちゃん。興味の無い人が相手だと、そこまで強く言わないもん。もし、嫌いな人だったら口も利かないと思うし」

 

「うぐっ!ま、間違ってはいないけど……こいつに限っては例外なんだから!」

 

「ふふふっ」

 

顔を赤くして否定する詠に月は笑っていた。

 

「ごめんな、詠。今日は無理でも次は一緒にお茶会しような」

 

「だから違うって言ってるでしょ!」

 

「ところでご主人様、それならなんで城壁に来たのですか?」

 

一刀に対して怒鳴る詠の横で、月は一刀に質問をしてきた。

 

「ああ、星を探してるんだよ。さっき、翠たちにあった時、非番の時はここでお酒を飲んでいるって聞いてさ」

 

「あんた、月より星を優先してるわけ?」

 

「え、詠ちゃん……」

 

ギロっと一刀の事を睨む詠、困った顔をする月。

 

「いや、そう言うわけじゃないんだけど。なんだか星の様子がおかしかったからさ。話を聞こうと思ってね」

 

「おかしい、ですか?」

 

「星はいつもおかしいじゃない。どこがおかしいって言うのよ」

 

「詠、流石にそれは言いすぎだろ」

 

「普通よ」

 

詠の発言に苦笑いを浮かべる、一刀に月。

 

「ま、まあ星が普通、普通じゃないは置いておくとして。前々から約束してたことがあってさ。でも、町の整備とか引継ぎとかでその約束が実行できなくてね」

 

「なるほど、あんたの甲斐性の無さに星も呆れて何をしでかすかわからないってことね」

 

「いや、まあ、うん……ごめんなさい」

 

詠の言葉に反論できなく謝る一刀。

 

「詠ちゃん、言いすぎだよ」

 

「そ、そんなこと無いわよ」

 

「詠ちゃん」

 

「うっ……わ、わかったわよ……ちょっと言い過ぎたわ、ごねんなさい……」

 

最後の方は小さな声だったが謝る詠。

 

「まあ、本当の事だし、詠は気にしなくてもいいよ」

 

「~~~っ!と、兎に角、ここには星は来てないわよ!町に居るんじゃないの!」

 

一刀は微笑みながら答えると、詠は顔を赤くし、そっぽを向いて星がいそうな場所を教えてくれた。

 

「町か……そうだな、行って見るか」

 

「行ってらっしゃいませ、ご主人様。お気をつけて」

 

「ふん。まあ、あんたの事だから平気だとは思うけど、精々気をつける事ね」

 

「ありがとう、月、詠」

 

「あっ、ご主人様!もし、町で恋さんを見かけたら私たちが探していたと伝えて頂けますか?」

 

「ああ、伝えておくよ」

 

一刀は二人にお礼を言って城壁を降りていった。

 

「もう、詠ちゃん。ご主人様に強く当たりすぎだよ」

 

一刀が居なくなった城壁では月が困った顔をして詠に話しかけていた。

 

「そんなこと無いわよ。普通よ、普通」

 

「詠ちゃんって、ご主人様の前だと素直になれないよね」

 

「ボクはいつだって素直に答えてるわよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなの」

 

「でも、詠ちゃん。私と話してるとき以上に嬉しそうにしてるよ?」

 

「そ、そんなこと無いわよ!」

 

「本当に?」

 

「本当よ!」

 

「う~ん?」

 

「~~~っ!ああもう!早く恋を見つけてお茶会するわよ!」

 

首を傾げながら見てくる月に詠は耐えられなくなったのか声を出して話を終わらせた。

 

「ふふ、そうだね。でも、どうやって恋さんを探せば良いかな?」

 

「恋なら、肉まんの匂いでも漂わせてれば、勝手に現れるわよ」

 

「もう、詠ちゃんたら」

 

苦笑いを浮かべるも確かにそうだろうなと思う、月であった。

 

「さてと……町へ来て見たけど、どこから探すか」

 

一刀は町を見回しながらどこから探そうかと思案していた。

 

「ふぇ~~ん」

 

「ん?今の声は……」

 

一刀は聞き覚えのある泣き声に辺りを見回し、声の主を探した。

 

「朱里ちゃ~~ん、どこ行っちゃったの~~」

 

「やっぱり、雛里だ。一人で何してるんだ?」

 

一刀は遠くで一人ウロウロしている雛里を見つけた。

 

「雛里、こんなところでどうしたんだ?」

 

「あっ、ご主人様~~~~~っ!!」

 

(ぼふっ!)

 

一刀は雛里に声をかけると、雛里は一刀に向かい駆けて行き、抱きついた。

 

「ひぐっ、怖かったです。ご主人様~~~っ!!」

 

「よしよし。もう大丈夫だぞ」

 

一刀は雛里が泣き止むまで頭を撫で続けた。

 

「ぐす……もう大丈夫です。ありがとうございました、ご主人様」

 

「どういたしまして。それで、何で一人でここに居たんだ?」

 

「はい、実は……」

 

雛里は一刀に事情を説明し始めた。

 

雛里の経緯はこうだ。

 

朱里と雛里で買い物をしに待ちに来たのだが、いつの間にか朱里が居なくなっていたそうだ。

 

そして、朱里を探しているうちに自分もどこに居るのか分からなくなり迷子になってしまった。

 

と、言うことだ。

 

「なるほど、そういうことか」

 

「はい」

 

「よし、それじゃ、一緒に朱里を探すか」

 

「よ、よろしいのですか?ご主人様も何か用があって町に来たのでは?」

 

「俺も人探しだよ。そうだ、雛里は星を見なかったか?」

 

「星さんですか?そう言えば、朱里ちゃんと何かお話していたような……」

 

「朱里が?」

 

「はい。あ、そう言えば、その後から朱里ちゃんを見てない気がします」

 

「ということは、星と一緒に居る可能性があるって事か」

 

「でも、私に何も言わないで星さんに着いて行くとは思えないです。いつもは何か一言言ってくれますし」

 

「う~ん。ここで悩んでても仕方ないな。取り合えず探そう」

 

「はい」

 

「雛里、どこで星とあったか覚えてるか?」

 

「はい。市場で見かけました」

 

「市場か……よし、まずは市場周辺から探そう」

 

こうして、一刀は雛里と共に星と朱里を探すことにした。

 

………………

 

…………

 

……

 

「見つからないな」

 

「はい。見た人も居ないみたいですね」

 

市場についた一刀たちは露店を開いている人たちに星たちを見なかったかと聞いて回っていた。

 

しかし、誰もその姿を見た人は居なかった。

 

「もう、ここには居ないのかもな」

 

「では、違う場所を探して見ましょうか」

 

「そうだな……でも、人手がなり無さ過ぎるな、もう少し居ると助かるんだけど」

 

「ここに居るぞーーっ!」

 

「い、いるぞぉ~~っ」

 

腕を組み悩んでいると一刀の背後から大きな声と遠慮しがちな声が聞こえてきた。

 

「蒲公英、それに雪華」

 

振り向くとそこには腕を天に上げて大きく手を振る蒲公英と遠慮しながら手を振る雪華が居た。

 

「ごっしゅじんさま~♪何か困り事?」

 

「ふえ、蒲公英さん、声が大きいですよ。もっと声を抑えた方が、周りの人たちが見てます」

 

「え~。だってこれくらい大きな声じゃないと、ご主人様たちに聞こえないでしょ」

 

「いや、十分聞こえてるけど。なあ、雛里」

 

「はい」

 

「ちぇ~、ま、いいや!それでそれで!何の話をしていたの?」

 

蒲公英は口を尖らせていたが直ぐに切り替えて一刀に何の相談をしていたのかを聞き始めていた。

 

「星と朱里を探してるんだけど、二人じゃ人手が足りないなって話してたんだよ。って聞いてなかったのか?」

 

「うん!なんだか呼ばれてるような気がして、そうしたら前にご主人様たちが居たから取り合えず名乗っておこうともって」

 

「そ、そうか……」

 

蒲公英の説明に一刀たち一同は苦笑いを浮かべていた。

 

「それで、蒲公英達は星か朱里を見てないか?」

 

「たんぽぽは見てないよ」

 

「私も見ていません。すみません」

 

「いや、謝ることじゃないよ。それにしても、どこに居るんだ?星の行きそうな場所……う~ん」

 

「あ、あの。ご主人様」

 

一刀が悩んでいると雪華が遠慮しがちに話しかけてきた。

 

「ん?なに?」

 

「えっと、ご主人様は氣で気配を探れるのですよね?なんでそれで探さないのですか?」

 

「……あっ」

 

「も、もしかしてご主人様。忘れてたの?」

 

「も~、ご主人様、しっかりしてよ」

 

「い、いや~。ははは……面目ない」

 

蒲公英に指摘され苦笑いをするも頭を垂れて謝る一刀。

 

「それじゃ、気を取り直して星と朱里の気配をさが」

 

(ガシャーーーンッ!!)

 

一刀が星と朱里の気配を探ろうとしたその時だった。大きな音を立てて何かが割れる音が聞こえてきた。

 

「なんだ!?」

 

「あわわ」

 

「ご主人様、あそこです!」

 

「こんなまずい飯に金なんか払えるか!」

 

「兄貴の言う通りだぜ!」

 

「なんだな」

 

雪華の指差す先で黄巾党の残党なのか黄色い頭巾を被った男たちが暴れて店から出て来るところが見えた。

 

「行くぞ、みんな!」

 

「「「はい!」」」

 

一刀たちは急ぎ暴れている賊たちを捕らえる為に駆け出した。

 

「雪華と雛里は住民の安全確保!蒲公英は俺について来てくれ」

 

「「御意です!」」

 

「任せてよ!」

 

一刀は走りながら三人に指示を出していた。

 

しかし……

 

『はーっはっはっはっ!はーっはっはっはっ!』

 

「な、なんだ!?」

 

行き成り大きな笑い声が聞こえ一刀たちは足を止めた。

 

「っ!ま、まさか……」

 

一刀は何か思い当たる節があったのか辺りの気配を探り始めた。

 

「ご主人様?」

 

一刀を見て首を傾げる蒲公英。

 

「……やっぱり。こりゃまずいぞ」

 

「なにが、まずいのご主人様」

 

「あ、ああ。実はな……」

 

一刀が蒲公英に説明氏としたその時だった。

 

「どこに嫌がる!出てきやがれ!」

 

「あちゃ~、それ言っちゃダメだよ!」

 

「え?え?」

 

一刀の態度を見て蒲公英はただただ、困惑するばかりだった。

 

『いいだろう!とくと見るが良い!華麗に舞う華蝶の姿をっ!……はっ!』

 

声と共に高く跳躍する黒い影が屋根の上から現れた。

 

(すた)

 

「何者だ、貴様は!」

 

「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる!我が名は華蝶仮面!混乱の都に美と愛をもたらす……正義の化身なり!」

 

「華蝶仮面。ただいま参上っ!」

 

(どーーーーーんっ!!)

 

颯爽と登場し台詞を叫ぶ華蝶仮面。なぜかその後ろからは戦隊ものでお決まりの登場での爆発が起きた。

 

「あ、あの爆発どこから起きてるんだ?」

 

一刀は登場シーンよりもその後方で起きている爆発が気になっていた。

 

「……」

 

「……ね、ねえ。ご主人様。あの華蝶仮面って」

 

「な、何も聞かないでくれ」

 

「あ、うん。分かったよ」

 

蒲公英は一刀に事情を聞こうとしたが一刀の返事で全てを悟ったのかそれ以上聞こうとはしなかった。

 

「屋根の上に登りやがって、卑怯だぞ!」

 

「ふっ!正義の味方は常に高い位置から登場するものなのだ!」

 

「ぐっ!そ、そうだったのか!」

 

「くそっ!俺たち悪党だから……」

 

「な、なんだな……」

 

「いや、あんたら何納得してるんだよ……」

 

星華蝶、あらため、星に真顔で力説され、なぜか納得して悔しそうに膝を着く賊たちの姿に一刀は思わず突っ込みを入れていた。

 

「ね、ねえねえ。ご主人様。捕まえなくて良いの?」

 

「あ、ああそうだな。俺たちも加勢しよう」

 

蒲公英に言われ我に返る一刀は頷き賊を捕まえようと前に出ようとした。

 

「これは何の騒ぎだ!」

 

「あ、愛紗だ」

 

一刀たちの反対側から人垣を掻き分けて愛紗が兵を連れて現れた。

 

「くそ!お前達、ずらかるぞ!」

 

「へ、へい!」

 

「わかったんだな!」

 

「覚えてやがれ!仮面野郎め!」

 

兵を連れて現れた愛紗に分が悪いと思ったのか捨て台詞を吐いて逃げて行った。

 

「失礼な!私は野郎ではないぞ!れっきとした女だぞ!」

 

捨て台詞を吐いて逃げていく賊に屋根の上から文句を言う星。

 

「逃がすな!お前達は逃げた賊を追え!」

 

「はっ!」

 

そんな中、愛紗は兵達に指示を出し、星に向き直る。

 

「お前の相手は私だ。華蝶仮面!また性懲りも無く現れよって!」

 

「ふっ。悪事あるところに華蝶の姿あり!文句があるのであれば、私より早く賊共を捕らえてみるのだな!」

 

「くっ!言わせておけば!その減らず口、黙らしてくれよう!」

 

「やれるものならやってみるがいい!貴様の正義と私の正義、どちらが上か試してみようではないか!はっ!」

 

星は屋根から飛び降りて龍牙を構えた。

 

「天の加護を得ている私が負けるわけが無いであろう!」

 

愛紗も天龍堰月刀を構え星と対峙する。

 

「ね、ねえ。ご主人様。もしかして愛紗って……」

 

「ああ、星だと分かってないぞ」

 

袖を引いて聞いてくる蒲公英に一刀は困った顔をして事実を伝えた。

 

「なんで分からないの?」

 

「俺が聞きたいくらいだよ。まあ、仮面を付けただけで身分を隠せると思ってる星も星だけどさ」

 

「服も得物も同じだから直ぐばれちゃうよね。普通」

 

「だよな……」

 

愛紗と星が戦いを繰り広げている間、一刀と蒲公英はただ見守るだけだった。すると……

 

「がんばれ~、華蝶仮面さ~~ん!愛紗ちゃんも負けないで~~~っ!」

 

「と、桃香!?」

 

いつの間に来たのか桃香は一刀の横で二人を応援していた。

 

「あっ!ご主人様も居たんですか!二人とも凄いですよね!」

 

「そ、そうだけど、一人出来たのか?」

 

「ううん、ちゃんと白蓮ちゃんも一緒に……あれ?どこ行っちゃったのかな白蓮ちゃん?」

 

後ろを振り返る桃香だったが、一緒についてきたはずの白蓮が居ないことに気が付きあたりを見回していた。

 

………………

 

…………

 

……

 

その頃、白蓮は

 

「うぉ!何だこの人だかりは前に進めないじゃないか!」

 

白蓮は野次馬達に道を遮られ桃香の下へ行けなくなっていた。

 

「すまないが道を開けてくれ~~~~つっ!!」

 

………………

 

…………

 

……

 

「取り合えず、一人じゃ危険だから俺たちと一緒に居ような」

 

「は~い♪」

 

「ちょ!と、桃香?」

 

桃香は返事をすると一刀の腕に抱きついて愛紗と星の戦いを観戦し始めた。

 

「……ご主人様、そう言うのは誰も見て無い所でやって欲しいな~。こんな大勢の前でイチャイチャだなんて」

 

「お、俺は別にイチャイチャなんてしてなっ、うぉ!?」

 

「ほらほら!ご主人様!二人を応援しないと!がんばれ~!」

 

呆れながら答える蒲公英に一刀は慌てて反論しようとしたが、桃香に腕を引っ張られそれは叶わなかった。

 

「はっ!でやぁあああっ!」

 

「ふっ!はい、はい、はぃぃいいいっ!!」

 

(がきんっ!がきんっ!)

 

愛紗も星も一歩も引かない攻防を続けていた。

 

「華蝶仮面さんも私たちの仲間になってくれれば心強いのにな~。そう思いませんか、ご主人様?」

 

「そ、そうだな……」

 

華蝶仮面の正体を知っている一刀にとっては既に桃香の願いは叶っているのだと心の中で思っていた。

 

「ご主人様、もしかして桃香様も?」

 

「ああ、星だと分かってない。それと、鈴々もな」

 

小声で話しかけてきた蒲公英に一刀は頷きながら答えた。

 

「ふぇ~~~。ご、ご主人様、助けてくださ~い」

 

「あわわ~~~。ちゅ、ちゅぶれちゃいましゅ~~~」

 

「わわっ!雪華ちゃんと雛里ちゃんがあそこで揉みくちゃにされちゃってるよ!」

 

「雪華に雛里!?ごめん、桃香。ちょっとここに居てくれ!蒲公英、桃香の護衛よろしく」

 

「了解♪」

 

「気をつけてね。ご主人様」

 

一刀は雪華と雛里の助けを求める声に慌てて雪華たちの下へ向かった。

 

「す、すみません!ちょっと通して……」

 

一刀は人をかき分けて二人の下へと向かっていった。

 

「大丈夫か二人とも?」

 

二人の下へ辿り着いた一刀は野次馬達に潰されない様に抱き寄せて庇った。

 

「ふぇ~。ありがとうございます、ご主人様」

 

「はぅ~、酷い目にあいました~。ありがとうございます、ご主人様」

 

「いや。俺も二人に住民の避難を任せたのが間違いだったんだ。ごめんよ」

 

「そんな。私たちこそ、ご主人様のご命令をちゃんと実行できなかったのに謝らないでください」

 

「(こくこく)」

 

悔しそうに答える雪華に同意するように頷く雛里。

 

「そんなこと無いよ。二人はがんばってくれたよ」

 

「ふぇ~」

 

「あわわ~」

 

二人を励ますように微笑みながら頭を撫でてあげた。すると二人は恥ずかしそうに頬を染めた。

 

「よし、桃香達の下へと戻ろう」

 

「「はい」」

 

一刀は人混みの中を二人を庇いながら桃香達の下へ戻って行った。

 

「お帰りなさい、ご主人様。二人とも大丈夫だった?」

 

「は、はい。なんとか、ご主人様が助けてくれましたから」

 

「はぅ、危ない所でした」

 

「それは良かったよ。でも、なんで二人とも顔が赤いの?」

 

「「~~っ!」」

 

桃香に指摘され、さらに顔を赤くする二人。

 

「あわわ、そ、その……」

 

「ふぇ、そ、そんなことより、あのお二人をどうするのですか?」

 

戸惑う雛里と雪華だったが、なんとか話を逸らす雪華。

 

「中々やるではないか」

 

「ふっ、仮面を着け、身分を晒さぬ貴様に負けるわけにはいかぬ!」

 

「そうか、だがっ!」

 

「なにっ!?」

 

星はいきなり大きく飛び上がり再び屋根の上に乗った。

 

「逃げるつもりか!」

 

「逃げる?ふっ……違うな!」

 

愛紗の言葉に鼻で笑う星。

 

「ここからが本番ということだ!……来い!我が戦友(とも)よ!」

 

「よいしょ……はぅ」

 

「………………………………」

 

「なに!?仲間が居たのか!」

 

星の声と共に蝶の仮面を着けた二人が現れた。

 

「……朱里に恋、何してるんだ。二人とも……」

 

一刀は新たに現れた二人の華蝶仮面を見て呆れていた。

 

「天知る、神知る、我知る、子知る!」

 

「悪の蓮花の咲くところ、正義の華蝶の姿あり!」

 

「朱華蝶!」

 

「………………………………?」

 

「と、恋華蝶!」

 

「星華蝶!」

 

「かよわき華を護るため!」

 

「華蝶の連者、三人揃って」

 

「………………………………ただいま」

 

「「参上!」」「………………さんじょう」

 

(どーーーーーーーーーーんっ!)

 

再び登場の掛け声とともに背後で爆発が起こる。

 

「……まさか、軍費から使ってるわけじゃないよな?」

 

「わわっ!新しい華蝶仮面だよ、ご主人様!」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「あわわ……華蝶仮面が三人に……」

 

「ふぇ……あ、あれってしゅっ」

 

「雪華、それ以上言わないでくれあのこの為にも」

 

「あ、はい。わかりました」

 

一刀は雪華にそれ以上言わない様に肩に手を置き、首を振った。

 

「わ~~っ!カッコいい!星姉様!」

 

蒲公英一刀の横で目を輝かせて星を見上げていた。

 

「さあ、どうする!これでも、まだ我らに挑むか?」

 

「相手が増えようとも、お前たちのような無法者をのさばらせるわけにはいかないのだ!」

 

「ならば来るがいい!」

 

「………………ねむい」

 

「もう少し頑張れ!あとでたらふく肉まんを食わせてやる!」

 

「……わかった」

 

星に奢ってもらえるとわかった恋は少しやる気を見せたようだった。

 

「……愛紗一人じゃ分が悪いな。手助けに行ってくるよ」

 

「でも、ご主人様。危険じゃ?」

 

「大丈夫だよ。それにちょっと用事もあるしね」

 

「用事?」

 

「そ、用事」

 

桃香の言葉に一刀は微笑みながら答え、愛紗の下へ向かった。

 

「愛紗っ!手助けさせてもらうよ」

 

「ご主人様っ!危険です、ここは私一人で!」

 

「一対三じゃ、不利だろ?それに愛紗が怪我したら大変だしね」

 

「ご主人様……わかりました。ではご主人様は、赤髪の方をお願いします。私は青髪の方を」

 

「ああ。それじゃ、お互い怪我をしない様に気を付けよう」

 

「はい。ですが、もう一人の華蝶仮面は如何いたしましょう。見たところ、それほど手練れには見えませんが」

 

「多分、華蝶仮面たちの軍師なんだろう。それにしゅ……彼女なら俺たちに危害を加えるようなことはしないと思うよ」

 

「なぜです?」

 

「ん~~。勘、かな」

 

「か、勘。ですか」

 

一刀の答えに少し戸惑いながら答える愛紗。

 

「兎に角、早くこの場を収めよう。人が集まりすぎて二次被害の恐れがある」

 

「わかりました。ご主人様、ご武運を」

 

「愛紗も……」

 

二人はお互いの無事を願い、華蝶仮面たちに挑んでいった。

 

「やあ、俺が相手だよ」

 

「……………………ご主人様」

 

仮面を着けた恋の前に立つ一刀。

 

「恋はなんで星と一緒に居るんだ?」

 

「……………………ちょうちょう」

 

「蝶々?ああ、仮面の事?」

 

「……(こくん)」

 

「気に入ったのか?」

 

「……(こくん)」

 

「そうか……」

 

「……」

 

恋の返答に頷く一刀。

 

「……戦う?」

 

「できれば戦いたくないけど」

 

「…………肉まん」

 

「肉まん?」

 

「……(こくん)星がくれるって」

 

「な、なるほど……」

 

恋が星に着いた理由を聞いて思わず納得する一刀。

 

「……行く」

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

得物を構える恋に一刀は待ったをかけた。

 

「…………なに?」

 

「戦う前に、月からの言伝を聞いてくれ」

 

「……月から?」

 

「ああ。城壁の上でお茶会をするから恋を見かけたら伝えてくれって言われたんだ」

 

「…………おちゃかい?」

 

「ああ」

 

「………………食べ物いっぱい?」

 

「きっと沢山用意していると思うぞ」

 

「……戻る」

 

恋は構えた得物を降ろし城へと戻って行こうとしていた。

 

「なっ!れ、恋華蝶!どこに行く!」

 

「………………月が待ってる」

 

「なっ!?」

 

愛紗と戦っていた星だったが、恋が戻って行くのを見て慌てて話しかけた。

 

「…………ばいばい」

 

恋はそれだけを言うと城へと戻って行ってしまった。

 

「さあ、どうする。残りはお前と、戦力にならない片割れだけだぞ」

 

「くっ!だが、こんなことで挫ける華蝶仮面ではないぞ」

 

「はぁ……」

 

まだあきらめようとしない星に一刀は溜息を吐いた。

 

「愛紗、ちょっといいかな」

 

「ご主人様?」

 

星に対峙していた愛紗に一刀は話しかけた。

 

「少し二人だけにさせてもらえるかな」

 

「ですが……」

 

「大丈夫、愛紗が心配しているようなことはないよ」

 

「わかりました……ですが、少しでも相手におかしな挙動を見せたら、私は直ぐに動きます。それでもよろしいですね」

 

「ああ。その時は頼むよ」

 

一刀はそう言うと星の前に立った。

 

「いや~。それにしても困ったな」

 

「?何を言っておいでですかな?」

 

「いやさ。こうして問題が起これば愛紗や他のみんなが駆けつけてくれるんだけど、君が現れた時だけに限って一人だけ来ない人が居るんだよね」

 

「っ!ほ、ほう」

 

一刀の話に一瞬だけ動揺を見せる。

 

「これは罰を与えないといけないかな~。取り合えず、お酒が好きだからしばらく禁酒で対応しようかな」

 

「なっ!そ、それは少し酷過ぎでは?」

 

「そうかな?愛紗だったら非番でも賊が現れたら直ぐに現れてくれるぞ?」

 

「だ、だからと言って、その者が現れないだけで怠けているとは早計では?ど、どこかで賊を捕まえているかもしれませんぞ?」

 

「それもそうか。なら、禁酒は止めておこうかな」

 

「ほっ……」

 

「でもなぁ、君が現れるたびにどこかで賊が暴れてるっていうのも偶然過ぎると思わないか?」

 

「そ、それは……」

 

「それに、君が現れるたびに報告書を書かないといけないんだよ。そうなる度に夜遅くまで報告書を書く羽目になるんだ」

 

「ほ、ほう……」

 

「はぁ、これじゃ、今日は星と月見酒をしようと思ってたんだけどお預けかな」

 

「な、なんですと!?それは困りますぞ!」

 

一刀の話に声を上げて驚く星。

 

「ん?なんで君が困るんだ?」

 

「あ、いや。な、なんでもない」

 

「ふ~ん」

 

「……」

 

「それでまだ戦うのかな?」

 

「……え?」

 

黙ってしまう星に一刀はさらに話しかける。

 

「君がここで引いてくれるなら。月見酒は何とかできるんだよね」

 

「そ、それは真か?」

 

「ああ。俺も徹夜はしたくないからね。嘘は言わないよ」

 

「……」

 

一刀の話に考え込む星。

 

「……あい分かった。今日の所はこれで引かせてもらおう」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

「うむ……私も諍いを冒してまで正義を貫こうとは思いませんからな。あくまで民たちの平和の為に行っていること」

 

星はそれだけを言うと屋根に飛び乗った。

 

「私は華蝶仮面!かよわき華を護る、正義の使者!悪が蔓延るところに私はまた現われるであろう!さらばだ!」

 

「はわわっ!ま、待ってくださぃ~~っ!!」

 

星は去り際の台詞を言って姿を消した。

 

「くっ!逃がすか!」

 

「愛紗。追いかけなくてもいい」

 

追いかけようとする愛紗に一刀は追いかけなくても良いと指示を出す。

 

「まずは、ここに居る人たちを解散させるのが先だ」

 

「……わかりました。雪華!蒲公英!お前たちも民を解散させるのに手伝え!」

 

「「は、はいっ!」」

 

少し納得がいかない顔をしていた愛紗だったが、桃香達と一緒に居た雪華と蒲公英に指示をだした。

 

「ご主人様は桃香様とご一緒に先に城へお戻りください」

 

「了解。それじゃ、ここの事は頼んだよ」

 

「はっ……それと、護衛の為に数名兵を付けます。寄り道せず、まっすぐに!城へお戻りください」

 

「……了解」

 

愛紗に力強く念を押され、機嫌が悪いことを悟った一刀は素直に兵を護衛に着けまっすぐに城へと戻って行った。

 

「ふぅ~~。これで報告書は終わりっと」

 

昼間の騒動の報告書を書き終えた一刀は筆を置き、椅子にもたれ掛かる。

 

外は既に日が落ち、空には綺麗な月が上っていた。

 

(こんこん)

 

「ん?は~い。どうぞ~」

 

(がちゃ)

 

「失礼しますぞ主よ」

 

ノックをして執務室に入ってきたのは星だった。

 

「やあ、星か。朝見かけただけで昼間は姿を見なかったけどどこに居たんだ?」

 

「少々所用がありまして城を空けていました」

 

「……そ、そっか」

 

一刀は星に見えないように笑いを堪えながら頷いた。

 

「それで俺に何か用か?」

 

「主が私を探していたと聞きましてな。こうして現れたのですが……」

 

星はそう良いながら机の上に広げられた書簡に目を向けた。

 

「少々、時機が悪かったようですな。後ほどまた伺うとしましょう」

 

「ん?ああ、これ?大丈夫だよ、丁度終わったところだから」

 

「そうでしたか……して、私に何か様ですかな?」

 

表情は変わっていなかったが内心では少しホッとしている星であった。

 

「実は星を月見酒に誘おうと思ってね。前々から誘われてただろ?」

 

そう言うと、一刀は酒の入った徳利とお猪口を二つ取り出した。

 

「覚えていてくださいましたか。いやはや、主の記憶力には感服しますな」

 

「それりゃ、あれだけ言い寄られたらね」

 

「何か仰いましたかな?」

 

「いや、なんでもないよ。それじゃ、この報告書を朱里に提出してから月見酒といきますか」

 

「では私が先に行き、場所を取っておきましょう。主には私のお気に入りの場所をお教えしますぞ」

 

「お気に入りの場所?」

 

「本当でしたら城を出たいところですが、流石にこの時間からですと愛紗にばれると煩いですからな。今宵は城壁で見ることにいたしましょう」

 

「わかった。それじゃ、場所は星に任せるよ。城壁に行けば良いんだよね?」

 

「ええ。お待ちしておりますぞ、主。おっと、酒は私が持っていきましょう」

 

星はニヤリと笑い一刀から酒を受け取り、部屋から出て行った。

 

「よし。俺も朱里に報告書を渡して城壁に行くか」

 

一刀は部屋から出て行く星を見届けてから報告書を手に首里の下へと向かった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「さてと……星はどこに居るのかな?」

 

朱里に報告書を提出してきた一刀は城壁に上り星を探していた。

 

「主、ここですぞ」

 

「え?ここって……どこだ?」

 

声は聞こえど、星の姿が見えず辺りを見回す一刀。

 

「主、上ですぞ」

 

「上?……」

 

星に言われ、上を見上げると見張り台の更に上、屋根の上に星はいた。

 

「どこに居るかと思えば、危ないぞ」

 

「これくらい平気ですぞ。ささ、主もこちらへお越しください」

 

星は言い終えると顔を引っ込めてしまった。

 

「はぁ、仕方ない……よっと!」

 

(トッ、トッ、トッ!)

 

一刀は軽快な足取りで飛び上がり見張り台の屋根の上に登った。

 

「ようこそ、おいでくださいました主よ。今宵は良い月が出ていますぞ」

 

一刀に礼をとり、月を見上げる星。

 

「確かに、今日は雲一つ無い月見日和だね。それにしても、いつもここで呑んでいるのか?」

 

「そうですな。邪魔されたくない時は良くここで呑んでいますな」

 

「……仕事中に星が居なくなるって愛紗から偶に報告があるんだけど、まさかここで……」

 

「はっはっはっ!何のことですかな?ささ、そんな些細なことは忘れ、一献如何ですかな主」

 

星は話を笑って話を逸らし、一刀に酒を勧めてきた。

 

「はぁ~、文句を言われるのは俺なんだけどな……」

 

一刀は溜息をつきながらもお猪口を受け取り、酒を注いで貰った。

 

「溜息をついては幸運が逃げてしまいますぞ主」

 

「誰がそうさせていると思ってるんだ?」

 

「さぁ、誰でしょうな?」

 

「まあいいや……今度、愛紗から星が居なくなったって聞いたときはここを教えればいいんだし」

 

「むっ!主は愛紗に私を売ろうとお考えですか!」

 

「売るって……星がちゃんと仕事をしてればそんな事する必要も無いんだけど?」

 

「はぁ、主にこの場所を教えたのは失敗だったか……趙子龍、一生の不覚!」

 

「は、ははは……」

 

大げさにうな垂れる星に一刀は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「まあ、ここもあと数日でお別れだからな。愛紗にここを教える必要も無いかもしれないな」

 

「そうですな……出発はいつごろに?」

 

「今、朱里たちと調整してるよ。でも、二・三日の内にはここを立つつもりだ」

 

「なるほど……では、あと二・三日はここで酒を楽しめるということですな」

 

「おいおい。それは勘弁してくれよ」

 

「ふっ、冗談ですよ主……んっ」

 

星は笑うと酒を呑み月を見上げた。

 

「綺麗な月ですな」

 

「ああ。本当に……」

 

一刀も星を見習い月を見上げた。

 

「綺麗な月に旨い酒。贅沢だな~」

 

「主よ。それは違いますぞ」

 

「え?」

 

「旨い酒に綺麗な月はもちろんですが、ここに良い女が居るではありませんか」

 

「自分でそう言うこと言うか?」

 

星の言葉に思わず呆れてしまった一刀。

 

「これでも女として魅力があると自負しているのですがな。それとも主から見れば私はまだまだということですかな?」

 

「いや、まあ。魅力的な女性ではあるけど……そう言うのは自分で言うものじゃないと思うぞ」

 

「ふっ、主は鈍感でおりますからな。少しはこうして主張をしなければ」

 

「うっ……俺ってそんなに鈍感か?」

 

「ええ。桃香様や愛紗が主に色目を使っているのに当の本人が気づかないほど鈍感ですぞ」

 

「うぐっ!」

 

星の言葉に言葉を詰まらせる一刀

 

「まあ、桃香様も愛紗も主に思いを遂げられたようで良しとしましょう。ですがまだ……」

 

「まだ何か!?」

 

「いえ。あれはあれで見ていると面白いので秘密にさせてもらいましょう」

 

「ちょ!」

 

「はっはっはっ!……おや。空ではないですか。ささ、主よ。酒はまだありますぞ」

 

一刀のお猪口が空なのに気が付いた星は酒を並々と注いだ。

 

「俺、そんなに酒強くないんだけど」

 

「なにを弱気なことを言っているのですか。男の見せ所ですぞ主よ」

 

「本当に弱いんだって……てか、俺が用意した酒より強くないか?」

 

「あれのどこをどう取れば酒というのですか、あれではただの水と変わりませぬぞ」

 

「み、水って……俺からしてみればあれでも十分強いのに……」

 

星の酒の強さに呆れる一刀。

 

「仕方ありませんな。では少しずつでも良いので私が満足するまで付き合ってもらますぞ。私を月見酒に誘ったのは主なのですからな」

 

「ああ。星が満足するまで付き合うよ」

 

「よろしい……んっ、ぷは」

 

星は頷くと酒を呑みほした。

 

「それにしても今宵は本当に綺麗な月ですな」

 

「ああ。俺の居た世界とは大違いだよ」

 

「天の世界にも月はあるのですか?」

 

「ああ。でも、今と違ってこんなに綺麗な月じゃないかな」

 

「と、言いますと?」

 

「俺の居た世界は今よりも夜が明るいんだ。今だと、所々で商店の光りがある程度だけど、天の世界は暗い夜でも電気っていう技術を使って、明るく照らしてるんだ」

 

「ほう。それは便利ですな」

 

「うん。でも、街中の至る所で明かりを灯しているから、星の輝きは今見ている月より綺麗じゃないかな」

 

「なんと……それは風情がありませぬな」

 

「星の言う通りだね、んっ」

 

一刀は酒を一口呑み、月を見上げていた。

 

「ふむっ……何か足りないと思えば肴を用意し忘れてしまいましたな」

 

「あっ……そう言えば、酒の事だけしか考えてなかった」

 

「まあ、月を肴にして呑むのも一興ですが、気づいてしまうと少々口が寂しいですな」

 

「それじゃ、今から厨房に行って何か持って来ようか?」

 

「……いえ、もっと良い肴がありますぞ、主よ」

 

「え?」

 

「知りたいですかな、主よ」

 

星はニヤリと笑い一刀に言った。

 

「えっと……」

 

「知りたいですよね、主」

 

「あ、あの星?顔が近い……」

 

「知りたいですよね?」

 

「……はい」

 

星は一刀が頷くまで顔を近づけ、何度も問いてきた。

 

「ふふふっ、主がそこまで言うのであれば仕方ありませんな。では、お教えしましょう。最高に美味しい肴を」

 

星は仕方がないと言った風に頷き笑っていた。

 

「せ、星?なんだか怖いんだけど……」

 

「ふっふっふ……何を怖がるのですか主よ」

 

「いや、星が何か企んでるような笑いをするから、何かあるんじゃないかと」

 

「なんと!私が主に向かって謀反を起こすとでも御思いですか!私は主に信用されていなかったのですね!」

 

星は大げさに仰け反り驚いて見せた。

 

「いや、そこまでは言ってないけど」

 

「主に信用されていないのでしたらここに居る意味はありません。私は主に陣営を離れ別の陣営に……」

 

「わああっ!わ、分かった!信用してる!信用してるからそんなこと言わないでくれ!」

 

一刀は陣営から離脱する言われ慌てて止めに入った。

 

「言葉ではいくらでも言えますぞ主よ。いえ、北郷殿?」

 

「うぐっ!……わ、わかった!もう星の好きにしてくれ!煮るなり、焼くなり、

 

一刀は自棄になったのか屋根の上で大の字になって寝ころんだ。

 

「流石は主、では、絶品の肴をご賞味ください……んっ」

 

「え!ちょ、ちょっと星っ!なにをっ……んんっ!?」

 

星は何を思ったのか口に酒を含み、一刀に迫り口を塞いできた。

 

「んっ……んんっ、ちゅ」

 

「ぐっ、んんっ……んんっ!?(ごくん)」

 

星は一刀の唇に舌を無理矢理中に入れ、そして酒を流し込んだ。

 

「んっ……ふふっ、如何ですかな、主よ。肴と共に呑む酒のお味は」

 

「えっ……あ、いや……うん。すごかった……」

 

一刀は今の行為に整理が出来ぬまま、うわの空で頷いていた。

 

「そうですか。では、今度は主が私に肴を食べさせていただけますかな?」

 

「え?あ、うん……?……っ!ええぇぇぇええっ!?ちょ!な、何言いだすんだよいきなり!それに今の行為が肴!?」

 

我に返った一刀は慌てふためき星を見た。

 

「そうですぞ。美味だったと先ほど主も言っていたではありませぬか」

 

「いや、あれは驚いてて……」

 

「ほう、味が分からなかったと?よろしい、でもはもう一度ご賞味ください。今度はしっかりと味わってくだされ、主よ」

 

「ちょ!まっ!んんっ!?」

 

星は一刀の静止を聞かず、口に酒を含み、また一刀の口に押し付けてきた。

 

「んっ……ん、ちゅ……じゅる……」

 

「ちょっ、んんっ!ごくっ……ごくっ……ぷはっ!」

 

「ふふっ……今度はちゃんと味わっていただけましたかな、主よ」

 

「あ、ああ……とても美味しい肴だったよ」

 

「おや?主よ、顔が赤いですぞ」

 

「えっ!よ、酔ったのかな?は、はははっ!」

 

一刀は頬を赤くして恥ずかしそうに答えた。

 

「では、次は私に肴を食べさせてくださいますかな主よ」

 

「ええぇええっ!?」

 

「何を驚いているのですかな、主よ」

 

「お、俺に星がやったことをしろと!?」

 

「はい」

 

「さ、さすがにそれはちょっと……それに良いのか?」

 

「はい?何がですかな?」

 

「そ、その……俺と口付するんだぞ?」

 

「……はっはっはっ!何を今更!そんなこと承知していますぞ」

 

「そんなことって……大事なことじゃないか」

 

「はぁ……主よ。私は既に主に口付をしているのをお忘れですかな?」

 

「あっ……」

 

「それに主よ。私は認めた者でなければ体を許しませんぞ」

 

「星……」

 

「主よ、私の胸を触ってください」

 

「ちょ!?」

 

星は一刀の手を取り、自らの胸に触れさせた。

 

「わかりますかな。主よ……私の鼓動の速さが」

 

「……あ、ああ……すごく速い」

 

「私も女。好いた者に自らの唇を貰って頂きたいと思うものなんですぞ」

 

「っ!そ、そんな大事なものを俺なんかに使っちゃダメだろ!?」

 

「……はぁ~~~~」

 

星は一刀の発言に呆れた風に深い溜息を吐いた。

 

「な、なに?」

 

「主よ……どこまで鈍感なのですかな?それとも言葉にしないと分からないのですかな?」

 

「え?え?」

 

「はぁ……やはり、分からないようですな……」

 

星は一刀の鈍感さに改めて思い知らされていた。

 

「はぁ……では、言わせていただきますぞ。主よ……私は貴方様の事を主従関係以上に男として愛しております」

 

「……」

 

星の告白に固まる一刀」

 

「これは悪戯ではありませぬぞ、主。私の嘘偽りのない気持ちです」

 

「うん……すごく嬉しいよ」

 

「ふっ……こんな形で主に私の気持ちをお伝えするとは思いませんでしたぞ」

 

「ごめん」

 

「別に主が謝ることでは……いや、主の鈍感さが原因か……」

 

「ぐっ……」

 

「はっはっはっ!まあ、それを含め主の事を好きになったのです。気に無さらないでくだされ。それより、そろそろ私に肴を食べさせてくださいませんかな?」

 

「あ、ああ……本当に良いのか?」

 

「もちろんです。むしろ是非に」

 

「わかった……んっ」

 

「主……んっ」

 

一刀は酒を口に含み、星の肩に手を置き、口付をした。

 

「んっ……んふっ……じゅる……んっ、んっ……ぷはっ……ふふふっ、大変美味でしたぞ、主」

 

口移して飲ませて貰った星は嬉しそうに答えた。

 

「それは良かった」

 

「さぁ、次は私の番ですぞ、んっ」

 

星は口に酒を含み、一刀に口移しをしようとした。

 

「あらあら……そんなところで何をしておいでですかお二人とも」

 

「んぐっ!?けほっ!けほっ!」

 

口付しようとした瞬間、見張り台の下から声が聞こえ驚いた星は思わず呑んでしまい、咽てしまっていた。

 

「す、菫!あ、あのこれは……そ、そう!月見!月見をしていたんだ!」

 

「あらあら、そうでしたか」

 

「……」

 

一刀は見張り台の下に居た菫を見て慌てた様子で言い訳をし、星は良い所を邪魔されたとばかりに菫を睨んでいた。

 

「ふふふっ、あらあら、星さん?(わたくし)の顔に何か付いていますか?

 

「ええ。憎らしく微笑む表情が張り付いていますな」

 

「あらあら」

 

「え、えっと……」

 

星と菫が見つめ合う横で、どうすればわからず戸惑う一刀。そこへ……

 

「旦那様?(わたくし)もご相伴に預かりたく思うのですがよろしいでしょうか?」

 

菫はあろうことか、酒の場に誘ってくれと言ってきた。

 

「なっ!す、菫よ!それはいくらなんでもそれはっ!」

 

「えっと……」

 

「主!まさか、菫を誘うつもりではありますまいな!」

 

「えっ!そ、その……」

 

「あらあら、二人だけでこんな綺麗な月を肴にお酒とはずるいですわ」

 

「ううぅ……」

 

星と菫の板挟みにあう一刀は低く唸り声をあげていた。

 

「旦那様?」

 

「主!」

 

「ううっ……ええい!ならこうしよう!みんなで月見だ!」

 

「主!?」

 

「あらあら?」

 

一刀は立ち上がったかと思うと見張り台から飛び降り、城壁を駆け下りて行ってしまった。

 

「「……」」

 

取り残されてしまった二人は一刀が降りて行った階段をただ見つめていた。

 

「……ふふっ」

 

「はぁ……菫よ。まったく良い所で邪魔をしてくれるな」

 

「あらあら。それはすみませんでしたわ」

 

「……わざとであろう?」

 

「ふふふ、何のことでしょうか?(わたくし)は城壁の上で月見をしているお二人を見かけて声をかけただけですわ」

 

「……」

 

「ふふふ」

 

「はぁ。まったく……敵いませんな。あなたには……よっ」

 

星は諦めた風な口調で答え、見張り台の屋根の上から飛び降りた。

 

「それと、先ほどの『旦那様』とは、どういうことか詳しく聞きたいものですな」

 

「ふふふっ。それはご主人様と(わたくし)の秘密なのでお教えすることはできませんよ」

 

「これは手ごわい好敵手になりそうですな。私も本気にならねばいけないようですな」

 

星は口元を吊り上げニヤリと笑い答える。

 

「あらあら、お手柔らかに頼みますね。でも、負けるつもりも(わたくし)はありませんよ」

 

「ふふふっ……」

 

「ふふふっ♪」

 

お互いに見つめ合い笑いあう二人。

 

『おーいっ!二人とも!早く降りておいでよ!みんなで月見をしよう!』

 

『星ちゃ~~~ん!菫さ~~~~んっ!早く降りてきてくださ~~~い!』

 

「おやおや。全員勢ぞろいですな」

 

「そのようですわね」

 

一刀と桃香に呼ばれ下を見下ろす二人。そこには既に、全員が集合していた。

 

「では、(わたくし)も参りましょうか」

 

「ああ。こうなれば朝まで飲み明かすぞ」

 

「あらあら。ですが、(わたくし)は辞退させていただきますわ」

 

「なんとつまらん!仕方ない、ここは愛紗に標的を変えるか」

 

「程々になさってくださいね、星さん」

 

「善処しよう」

 

「あらあら」

 

まったく、守る気が無いのか星はニヤリと笑って答えた。それを菫も微笑んで答える。

 

「では、参りましょうか。これ以上ご主人様を待たせておく訳には参りません」

 

「うむ」

 

二人は階段を下りて一刀たちの下へ向かった。

 

そこでは既に星と菫を待たずして宴会が始まっていた。

 

一角では恋を囲み点心を与えて恍惚の表情を浮かべる者たち。

 

また別の場所では大量の点心の前で早食い勝負をしている者たち。

 

そして、それらを見ながら微笑む者たちがいた。

 

「風情もなにもあったものではありませんな……」

 

そんな光景を見て呆れながらも微笑む星。

 

「それが俺たちの良い所だろ?」

 

星の言葉に答える一刀もまた、微笑んでいた。

 

「まったく……折角の二人きりの月見が台無しになってしまいましたな」

 

「ごめん」

 

「まったくですぞ。この借りは高くつきますぞ?主よ」

 

「うぐっ……どうしたら許してくれるかな?」

 

「そうですな……でしたら」

 

星は一刀の耳にそっと語りかけた。

 

「また、私を月見に誘ってくださいましたらお許ししましょう」

 

「ああ、必ず誘うよ。約束だ」

 

「期待しておりますぞ、主よ……ちゅ」

 

「あ~~~っ!星ひゃんがごしゅじんひゃまにくちじゅけしてる~~~~っ!!ずる~い!わたひもごしゅじんひゃまにちゅ~する~~~♪」

 

「と、桃香!?なんでそんなに酔ってるんだ!」

 

「酔ってなんかにゃいもん!わたひは~……ひっくっ!酔ってなんかいにゃいのら!らから……えへへ~……ちゅ~~~~~♪」

 

「完璧に酔ってるだろ!あ、愛紗!桃香を止めて!」

 

「ああ~♪恋よ。この点心も美味いぞ」

 

「ん……はぐ、もぐもぐ」

 

「あ~~!可愛いな恋!まだまだいっぱいあるぞ!」

 

「ダメだ!愛紗は恋に骨抜きにされてる!他には……翆!」

 

「くっそ!鈴々に負けてたまるか!はぐっ!はぐっ!もぐもぐ……ごくん!次!」

 

「翆には負けないのだ!はぐっ、はぐっ、はぐっ!もぐもぐもぐ……ごくん!次なのだ!」

 

「こっちもか!他には!?」

 

「行け行け桃香様~~!ご主人様を押し倒しちゃえ♪」

 

「ふぇ……あ、あのその……」

 

「ほらほら雪華も!桃香さまを応援しないと!がんばれ~!」

 

「ふえ!?あ、が、がんばれ~」

 

「はわわっ!桃香さまが」

 

「あわわっ!ご主人様を」

 

「「押したおしゅ!?」」

 

「こっちも駄目か!ほかは!」

 

「いいんだ……どうせ、(あたし)なんて……目立たない存在なんだ!ごく、ごく、ごく!ぷはっ次だ!」

 

助けを求めようとする一刀だったが誰も一刀を助けようとする者はいなかった。

 

「えへへ~♪ごしゅひんひゃま、ちゅっかまえた~♪」

 

「桃香っ!?」

 

「あらあら、お熱いですね。お二人とも」

 

「す、菫!見てないで助けてくれ!」

 

「そうですわね……如何いたしましょう、星さん」

 

「そうだな……先ほど、どちらかを選ばなかった罰として、ここは傍観するというのは如何かな、菫よ」

 

「あらあら、それは名案ですわね♪と言うことで、ご主人様。頑張ってくださいね」

 

「男の見せ所ですぞ主よ」

 

「そ、そんな~~~~~っ!!」

 

一刀の助けに手を出すどころか、崖から突き落とす二人の顔はとても良い笑顔をしていた。

 

《To be continued...》

葉月「はい!どうもこんばんは葉月です」

 

愛紗「愛紗だ。それにしても今回はまたすごい話だったな」

 

葉月「本当はもっと短い話になる予定だったんですが、予想より長くなってしまいました」

 

愛紗「それもそうだが、内容がまた……何とも言いようのない話だったな」

 

葉月「まあ、最初のコンセプトからはラストが全然違う方向に行っちゃいましたからね」

 

愛紗「と言うと、最初はどうする予定だったのだ?」

 

葉月「二人寄り添い、良い雰囲気の中、月を見上げて終わりにしようとしたんですけど、まさかの最初から最後までドタバタになってしまいました」

 

愛紗「確かに、全然違うな」

 

葉月「まあ、書いてると、書こうとしていた内容が全然違うものに変わってるってことは今まで書いていた作品で何度もありましたからね」

 

愛紗「そうだったのか?」

 

葉月「はい。例えば……一刀と愛紗のエッチシーンなんて当初、全然考えていませんでしたし。最初はやっぱり桃香かなって思ってたくらいですからね」

 

愛紗「な、なんだとーーっ!?」

 

葉月「知られざる真実、今ここに!って感じです」

 

愛紗「まったくだ……内容が変わってくれてよかった……」

 

葉月「はい?今、何か言いましたか?」

 

愛紗「い、いや!何も言っていないぞ!何も!」

 

葉月「そうですか?何か喋ってるように見えたんですけど……」

 

愛紗「そ、そんな事より!次回の話はどうなっているのだ!」

 

葉月「え?あ、はい。次回はいよいよ、また進軍を開始します」

 

愛紗「ほう。と、言うことはいよいよ、次の砦に向かうのだな」

 

葉月「はい。次の砦は……もうみなさんお分かりですね。そうです、あの人の砦です!」

 

愛紗「そうか……いよいよか」

 

葉月「はい。いよいよです」

 

愛紗「楽しみだ……ふふふっ、私の活躍の場だ……」

 

葉月「……」

 

愛紗「ふふふっ……我が得物の手入れはしっかりとしておかねばな」

 

葉月「えっと……愛紗が怖いので今日はこの辺でお暇しようと思います。それではみなさん。また次回お会いしましょう」

 

愛紗「ふ、ふふふっ、ふふふふふ……」

 

葉月「怖っ!」


 
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