No.441158

STAY HEROES!

オリジナルSFライトノベルです
挿絵は素人のものですので大目に見てやってください。

追記:11月24日 一話の推敲を終えました。さほど変わってませんけども 
今見返すとなんだか恥ずかしいもんです

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2012-06-24 06:20:53 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:758   閲覧ユーザー数:748

 

これから、私の知っているヒーロー達について話そう。

始まりはずっとずっと昔のこと。

軌道エレベーターが墜落した事件をきっかけにして、いくつもの大国が全面戦争をやりだした。

 

賊軍の侵略が故郷にまで及んだ時、若者たちは機動装甲と呼ばれたパワードスーツを着込み、

義勇軍として闘った。自分達の大切なものを守るために。

何十億もの人命が散ってゆく戦火の中、彼らは闘い抜き、未来を次の世代へと託す。

 

やがて半世紀に渡る戦争が終わった後、各地の義勇軍は機装パイロットを育てるための教育隊へと再編された。

教育隊は都市防衛の傍ら、機動装甲を使った都市対抗競技という別の舞台で活躍してゆく。

教育隊が互いに競い合ったその時代に、

それぞれの大切なものを守る為に奮闘したヒーローがいた。

彼らのことを私は何でも知っている。なぜなら ―― 私、いやボクもその一員だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

  第一章 ストレンジャー・レンジャー

 

 

 

 

ボロボロのディーゼル車が、東海道線のレールの上を歩くように進む。

その後ろには連結された牽引車がずっと連なっていた。

 

 

その中の一つ、薄暗い三等客車のベニヤ板で出来た座席で、僕は浅い眠りから揺り起こされた。

 太平洋から顔をのぞかせた朝日が眩しくて目が覚めた。

僕はガタンゴトンと揺れる車内から、だだっ広い水平線をぼうっと眺める。

 

戦争が起こる前はこの路線を、流線型の弾丸列車が時速300キロ走っていたと聞く。

そう言われても全く実感が湧かない。

だって、山奥育ちの僕が初めて目にした列車は、このオンボロディーゼル車だったのだから。

 

『学費全免除で高校進学』という誘惑につられて、故郷を出てきた田舎もん。

それがこの春から遠州市教育隊に入隊する僕、安形征正である。

 

やがて目がハッキリと覚めるにつれ、喉の渇きを覚えて咽た。

けれども売り子は居ないし水筒の水は飲み干している。

どうしたものか、と眉間に皺を寄せた時だった。

 

「よろしければいかがですか?」

 

と、向かい合う座席から行商人らしきお姉さんが声を掛けてくれた。

彼女の手にはブリキのコップが握られているじゃないか。

渡る世間に鬼はいないというのは本当だ。

僕はありがたい申し出にお礼を言い、コップを受け取るとお茶をのどへと一気に流し込んだ。

 

僕がお茶を頂いている間、お姉さんは僕の服装を物珍しそうに眺めていたようだ。

灰色の四つボタン制服と官帽を身に着けたノッポ。

それが村の家族に『馬子に衣装』と爆笑された僕の出で立ちだ。

 

僕から返却されたコップを背嚢へと仕舞った時にお姉さんはこう聞いてくる。

目を輝かせながら。

 

「お兄さんは教育隊のパイロットですよね! すごい偉いんですね! 感激です!」

 

お姉さんの羨望のまなざしが突き刺さり、僕は凍りつく。

何を言うとるんや、このお人は。

確かに、教育隊員は普通、エリートのみが選ばれるものだけども。普通は。

 

「いやとんでもない!僕はたんなる……」

 

「いやいやそんなに謙遜なさらなくてもー。実は私の弟が遠州市教育隊『プラネットスターズ』のファンでしてねっ!」

 

そうして到着駅までの間、僕はお姉さんの勘違いと付き合うはめになった。

最後、駅を降りる際には握手まで求められてしまう。そんなの生まれて初めてだ。

 

 

荷物を背負い、新天地のプラットホームへと降り立った僕の顔色は冴えなかったに違いない。

とりあえず僕はまず、朝方の冷たい空気を大きく吸いこんだ。

どこか旅行気分で浮ついていた気持ちを切り替える為に。

実のところ僕は、エリートでもパイロットでもない。

パワードスーツで木こりをやっていただけの叩き上げだ。

その経歴を買われて僕は弱小チームに勧誘されたのだ。それも整備員として。

 

 

 

 

 

 

 

東海道管区、遠州市。

人口10万を超える街では、駅を囲むように『びるでぃんぐ』が並び立ち、ホーローや木の看板がしきりに自己主張している。

アスファルトで舗装された道路にはまだ珍しい乗用車の群れが朝から走り回っていた。

その賑やかさは人口千五百人、牛馬とトラック数台しかない僕の田舎とは何から何まで違う。

 

だから、僕は街中をひどく迷い歩くはめになる訳で。

そうしてトロリーバスの路線を間違えたり装甲車に轢かれかけて

目的地へ付く頃には手元の懐中時計が午前九時を指していた。

 

 

 

なんやねんコレ。それが、これからの学び舎と対面した僕が抱いた第一印象である。

目的地はコンクリートで出来たでっかい高台の上にあったのだ。

しかもその上で、馬鹿じゃないかと思うばかりに林が青青と茂っている。

 

『教育隊を持つ高校はもしもの時に備えて、要塞並みの防御で固めている』

ふと、送り付けられてきた資料に書いてあったことを思い出した。

なるほど、ジャングルとコンクリに覆われているおかげで、

校舎への入口はどこかさっぱり分からない……。

 

「校門どこや?」

 

感心しとる場合ちゃうがな。

だが、この日僕は校門を見つけられなかった。

じゃあどうしたかって?

鉈と麻縄で、灰色の崖を登ることにしたのだ。

馴染みの道具を持ってきていてよかったなあ……じゃなくて!

 

「やっとることが村におった頃となんちゃ変わらんやないけ」

 

自然と、僕の口から田舎訛りの愚痴が洩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

壁を登り切って、林を10メートルほど進んだぐらいだったと思う。

延々と続く緑のカーテンの先から、やっとこさ違う景色が姿を現して来てくれた。

 

垣根を鉈で切り開くと、開けた平地が視界に飛び込んできた。

だだっ広い空間には向かい合う木造校舎と鉄骨校舎、運動場が広がっている。

そして、僕から見て運動場の反対側に求め人たちがいた。

一人は小さな女の子、そしてもう片方は女の子より少し背の高いパワードスーツ……

間違いない、あれは教育隊の機動装甲だ。

機動装甲は声変りもしてない男子の声で、女の子に文句を言っているようだった。

言葉までは聞き取れなかったけれども、険悪そうな雰囲気は遠目からでもすぐ分かる。

……出ていき辛い。姿を見せるチャンスを窺うしかないな。

と、おじけた僕は身をかがめ、林の日陰に隠れた。

 

少しの間遠目から二人を眺めていた僕だったが、ふとおかしなことに気付いた。

僕は荷物から双眼鏡を取り出し、運動場の向こうにいる機動装甲を観察してみる。

 

ヘルメットとフェイスマスク、それにパイロットの全身をぴったりと包む鎧。

尖った直線で構成された黒い外装は、マンガ本の忍者のようでパッと見、一丁前だ。

だけれども。

 

「やっぱりか」

 

 正直、機体がボロい。

塗装のハゲとヒビが機体の整備具合を物語っている。

あれじゃあ電磁装甲もアビリティデバイス固有能力も機能しないだろう。

他にも人工筋肉が露出していたり、冷却液が漏れていたりと色々酷かった。

そんなナリの機装の部品で、なにより目を引くのは。

 

「忍者に、猫の耳?」

 

集音機の役割を果たすのだろうその耳は、角ばったヘルメットの上で不機嫌そうに揺れていた。

 

 

 

 

 

とうとう口論に嫌気がさしたらしく、機装は女の子の説得を振り切って、運動場のコース上に立つ。

どうやらトラックコースを走るつもりらしい。

 

面喰った。

未整備のパワードスーツで走っても、人の歩く速度よりも遅いくらいだ。

無茶が過ぎる。下手したら転倒してまう。

 

そんな僕の心配を知ることない猫耳の彼は、全力を込めて地面を蹴ってしまった。

 

その時目を逸らそうかとも考えた。見てられん、と。……次の瞬間までは。

 

パイロットの神経電流を捉えた両脚は驚くことに砂埃を上げた。

そして彼は20メートルの直線をものすごい速度で一気に走り抜けたのだ。

その速さは村にいたどの駿馬にも勝る。

遠くから覗きこむ信じられない光景に、僕の目は釘づけにされた。

 

もし、万全の状態であったら彼はどれだけ速く走れるのだろう……

そう考えて、僕の気分は高ぶった。

自分の手であの機装を甦らせれるなら、パワードスーツ乗り冥利に尽きる。

 

だが、傷だらけの機体は第一コーナーを曲がるあたりで姿勢を崩してしまい、

だんだん前のめりになっていく。

高性能とはいえど無理があるのは変わりない。それに、パイロットの操縦が素人くさいぞ?

 

と、邪推していると突然、僕の双眼鏡からコーナーを曲がっていたはずの機体が消えた。

虚を突かれて、双眼鏡から両目をおそるおそる離してみた。

 

 

 

 

「うおああああああああああ!」

 

 

なんですぐ逃げなかったんだろうな。

コーナーをオーバーランした機体は、僕目掛けて突っ込んできていた。

パイロットは僕に気付き、喚き散らしてくる。

 

 

「誰だ!?どけやあああああああああああ!」

 

「へっ、うええええええええええ!?」

 

 

考えるまでもない。

装甲の塊が車以上のスピードで人体に衝突したら。

死ぬやん?

いきなりのことに何もできず、僕は尻もちをつくしかなかった。

真っ白な頭の中でしょーもない未来予想図が浮かび始める。

 

 

『安形征正隊員。機体の暴走に巻きこまれ、配属三分で名誉ある殉職』

 

 

なんて死亡通知が親元に届く様子……絶対に嫌やが!何が名誉なんじゃ!

 

が、そんな間抜けなお便りが発行される事態は起こらなかった。

僕と衝突を迎える寸前、機動装甲は僕とぶつからまいとして思いっきり足を踏み込んだのだ。

だが止まるのには力が強すぎたらしい。

右足はカタパルトのようにその体を空中へ打ち上げ――

 

「聞いちゃねえぞこんな話しやああああああああ!」

 

 晴れ上がった青空へと、半円を描いて飛翔した機装。

僕はそれを茫然と見上げた。

そのまま、機装は半円の終着点である林へと墜落し、辺り一面に木の葉と埃を飛び散らせる。

 

 

 

 

 

 

九死に一生を得た僕はしばらく、葉っぱと小枝にまみれながら呆けていた。

しばらくたって、呼びかける声が真横から聞こえてからやっと僕は我に返る。

 

「あのっ、私は櫛江 幸といいましてっ!ええっと、だいじょうぶですか!?」

 

振り向くと、小柄な女の子が僕の隣でおろおろしていた。

教育隊の制服を着た、ショートヘアのかわいらしい子。

心配の色を鳶色の瞳いっぱいに浮かべた彼女が僕の表情を覗きこんでいる。

 

「えーと、心配ないよ。大丈夫」

 

「本当ですか、もし怪我をされてたらどうしようかと……よかったです」

 

 僕が引きつった苦笑いで頷き返すと、彼女の頬は安堵で緩む。

ほんの少しの間、僕はその笑顔に見蕩れた。

村でこんなに綺麗な子を見たことが無い。村の友達には悪いけれど。

 

「ごめんなさい、私がしっかりしてないせいで驚かせてしまって。新しい隊員さんですよね?」

 

「こっちも隠れててごめん、出ていき辛くてさ。僕は安形征正、整備隊員です」

 

そう返事をすると、彼女はぺこりとお辞儀をして、僕へ手を差し伸べてくれた。

その暖かい手を遠慮がちに握って、僕はほとんど自力で立ち上がる。

すると、僕の図体を見上げた彼女の目が、驚きで丸くなった。そんなに驚かなくても。

 

 

「そうだ、あの機装の方はどうなって、」

 

林を振り返って絶句する。

一番立派だったろうクヌギの木。

それが根元からへし折られていたのだ。

というかへシャゲとった。

もしアレが直撃してたならどうなってたんだろうね。

やっぱ死ぬやないか!

 

 

「あの、その、機装に異常は出て無いので吉岡さんも大丈夫なはず……です、かも」

 

また、おろおろしだす櫛江さんの答えを聞いて、僕は青空をもう一度仰ぐ。

どうやら整備士向けの仕事はたんまりと用意されていたようだ。

まず、あの機装の応急修理に取り掛かろう。

僕は自分の頬をぴしゃんと叩いて気合いを入れた。

 

 

それが僕と仲間との最初の出会いであり、ヒーローとして歩み始めた最初の一歩だった。

 

 
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