No.439987 fortissimo//Ein vergessen erzählung鳥待夏初さん 2012-06-21 04:49:05 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:6547 閲覧ユーザー数:6442 |
※注意※
この作品はfortissimo//Akkord:Bsusvier並びにEin wichtiges recollection、Wiederbelebung der Seeleのネタバレ要素を多分に含みます。
【Prologue】
その日の相楽家の夕食は、いつにない緊張感に張りつめていた。
「………」
その理由たるモノから目を反らし、芳乃零二は食卓を挟んで右を見る。
ルビー色の鮮やかな瞳が期待にキラキラと輝いている。その視線に宿る純粋な好意が今は痛い。
「………」
左を振り返る。血の繋がらない妹の黒羽紗雪が怯えた目で食卓の上を見つめていた。
おそらく自分も同じような顔をしているのだろう。
「えへへー。マスターも、紗雪ちゃんも、たくさん食べて欲しいんだよ」
へにゃっとした笑顔でそう言う少女、零二と二心同体のパートナーであるサクラに、兄妹は揃って『天使のような悪魔の笑顔』とはこんな物だろうなぁ、などと現実逃避に走っていた。
事の起こりは今朝。
「たまには私も何かお手伝いしたいんだよ」
朝食の席で、どこか不満げにサクラは呟いた。
学校に行く零二や紗雪と違い、居候の身であるサクラは昼の間何をしているかと言えば、ひなたぼっこか散歩に出かけるかの二択である。
居候にあるまじきニート生活だが、さすがにサクラも感じるところがあったのだろうか。
「って言ってもなぁ」
零二は頭を掻きながら考える。
以前バイトを薦めたときは「一日中外でぼーっとしてお金がもらえる仕事がいいんだよ」とのたまったサクラである。その時はつい小一時間ほどお説教してしまった。
またろくでもないことを言い出すのではないか。そう思った零二だったが……
「マスター、何か私にもできることないかな?」
そういって零二を覗き見るサクラの顔は、いつにもなく真剣だった。
「……紗雪。何かしなきゃいけない家事ってあったか?」
とりあえず言うだけ言ってみて、できるかどうかはサクラに任せよう。そう考えた。
「うーん。買い物はこの間済ませちゃったし、掃除もすぐにって感じじゃないから」
しかし零二も紗雪も、特に任せるような仕事は持ち合わせていなかった。
せっかくサクラがやる気を出したのに、このままでは少しばかりかわいそうだ。
「ん、待てよ」
ふと、冷蔵庫を見る。
そうだ。たとえ買い物がなかろうと、掃除の必要がなくとも、必ずしなければならない家事がある。
「それならサクラ、お前に今日の夕飯を任せるぞ。いいな?」
零二のその言葉に、サクラは喜びから、そして紗雪は驚愕から目を見開いた。
「ホントっ? 任せて欲しいんだよ!」
満面の笑みで胸を叩くサクラ。その勢いで軽く咽たのはご愛嬌。
一方で、紗雪は落ち着かなさげに兄を繰り返しチラ見している。
――そういえば、紗雪は知らなかったな。
初めてサクラが料理をしたとき、紗雪が監督しながら出来上がったのは暗殺者が通販を頼みかねないほどに味覚を刺激するカレーだった。
しかしその後、ある事情でひどく参っていた零二を励ますため、サクラは一生懸命頑張って充分に美味しいカレーを作ったのだ。
「ま、何とかなるだろ。あれでサクラもやるときはやるんだぜ」
「……兄さんがそういうなら」
すっかり舞い上がってるサクラを、紗雪は未だ不安げに、しかしどこか暖かい目で見つめていた。
その結果がご覧のありさまである。
「サクラ、これは……何だ?」
零二が指したのはメインディッシュらしき物。おそらく肉、いや魚かもしれない。ローストされた何かなことだけは確かだ。
上にかかっているのは、玉ねぎをふんだんに使ったディアボラ風ソースだろう。なぜかカレーの芳醇な臭いがするが。
極め付けは副菜。ゴーヤチャンプルーと思われる。月読島を囲む碧海より真っ青なゴーヤがあれば、の話だが。
味噌汁と白米は朝の残りなので普通だった。
「えへへ。マスター、はやくた・べ・て」
「うっ」
あまりにも屈託のない笑顔。
「兄さん……」
一方の紗雪はすでに涙目だ。
――まともなのはカレーだけか。それとも浮かれて変な方に突き抜けたか?
考えてみれば、家主ともう一人の半同居人が姿を見せない時点で気付くべきだった。昼のうちに危険を察して雲隠れしたか。
後悔してもすでに時遅し。自分から頼んだ以上、食べないという選択はない。
それになにより、かわいい恋人が頑張ったのなら、それが目に見えた地雷原でも無碍にするような発想は零二の中になかった。
「いいか、紗雪。俺が先に食うから、お前は少し待ってろ」
決断し、箸を取る。先に食べてなにかあればさすがにサクラも戻ってくる、はずだ。
「っ! いただきまーす!」
やけくそ気味に、零二は謎の食材を口に放り込んだ。
【Sakura Side】
「はぁ~っ」
気の抜けた溜め息がマングローブ林に抜けていく。
「ううっ、失敗しちゃったんだよ……」
月読島が誇るマングローブ林の奥、アウロラの滝。
精霊が憩う場所として知られるそこで、独りサクラは項垂れていた。
最初の一口を飲み込んだ零二は、椅子ごとひっくり返ってしまった。
浮かれていたサクラもそこで正気に戻り、紗雪と一緒になって介抱した。その甲斐あって零二はすぐに目を覚ましたが、その顔は真っ青を通り越していた。
「マスター……レイジはずるいんだよ」
心配して顔を覗く二人に、零二はぎこちない笑顔で「大丈夫だ」と答えた。
だからこそ、サクラとしては申し訳なさでいっぱいなのだ。
大好きな人の役に立ちたいのに、どうしてもうまくいかない。それはやはり、自分が『人間ではない』からなのかと、つい考えてしまう。
いじけた子供がするように、ぱしゃりと足で水をはじく。
サクラは人間ではない。いや、厳密に言うなら『人間の姿で顕現した兵器』である。
『
ただ彼女は特別で、月読島の万年桜の精霊と零二の母が残した想い、そして零二自身の膨大な魔力によって、完全に人間としての機能を持ってこの世界に生まれた。
そして、かつてこの島で行われた〝
全てが終わり、平和な時間を取り戻した今、サクラは自分なりに恋人らしいことをしてみようと考えてみたのだが……
「はふぅ」
出てくるのはアイディアではなく、溜め息ばかり。その度に湖水を蹴りあげ、キラキラと月光を反射して煌めく。
今、サクラは魔力で編んだ服を解き、一糸まとわぬ姿だった。憂いに満ちた顔で水浴びをするその姿は、伝承にある女神のように神秘的な美しさがある。
ふと、背後の茂みがわずかに震えた。
「っ、誰?」
こんな夜中に人が来るはずもない。そう油断していたサクラは慌てて大事な場所を隠し振り返る。
声に応えず現れたのは、よく見知った青年。
「マスター……もう、驚かさないでほしいんだよ」
相手がわかって緊張を解くサクラ。
だが。
「マスター?」
零二は応えない。それに、何かがおかしい。
見た目は零二で間違いない。だが、何かがおかしい。その何かがわからない。
喉に小骨がひっかかったような不快な違和感に、サクラは再び警戒する。
しかし。
「えっ?」
気付いた時には、サクラの視界は暗闇に覆われていた。
【Reiji Side】
「紗雪、サクラのやつは?」
まだ本調子とはいかないまでも回復した零二は洗い終わった皿を片づけながら尋ねた。
「ん、まだ戻ってこないみたい」
「そっか。どこまで行ったんだか」
月読島が平和な島で、サクラが普通の人間程度は軽く返り討ちにできるとはいえ、若干心配な零二だった。
この島は様々な要因で〝召喚せし者〟や〝
それに、万が一にもサクラが殺されでもすれば、それは〝召喚せし者〟である零二の死を意味する。いや死よりももっとひどい、存在の消失という結末が待っている。
それを抜きにしても、恋人が殺されるという未来は考えたくもない。もう少しして帰ってこなければ呼び出そうと思い――
――刹那。
世界が一変した。
「!?」
兄妹は驚きに顔を合わせる。
世界が淡い光に包まれるこの現象に心当たりがあった。
しかし、それはもう二度と起こりえないはずのもの。
慌てて家を飛び出す。やはりぼんやりと輝く世界に、人の気配がまるでしない。
「兄さん、サクラちゃんを」
「分かってる……〝
サクラを召喚した時に零二が得た能力。それは事象を二十四時間前まで巻き戻す力。
破壊された物を復元し出会った人物を呼び戻す。戦闘には一見向かないが応用の利く能力だ。
だが……
「……なんだ?」
いつまで待ってもサクラが現れることはなかった。
「どういうことだ……」
サクラが相楽家を出て一時間と少し。召喚できないはずがない。
試しに生垣の枝を折って、そこに能力を使う。枝は元通りの姿になる。
そこに零二は言いようのない違和感を覚えた。
「もしかして、誰かがサクラちゃんを……」
紗雪がつぶやく。確かに誰かがサクラを捕らえ、零二の能力を妨害しているとすれば辻褄は合う。
だが、それは最悪に近い想定だった。零二は喉元にナイフを突き立てられているに等しいということになるのだから。
「とにかく、足で探すしか……っ!?」
嫌な予感がして、紗雪を抱え飛び退る。
直後、それまで零二が立っていた場所が爆炎に包まれた。
「なっ!」
「今の攻撃は」
ゆっくりと土煙の向こうから歩み寄る影。その姿は……
「こんばんは、れーじ」
クラスメイトの小悪魔少女、里村紅葉だった。
【Ryuichi Side】
皇樹龍一は走っていた。誰もいなくなった商店街を。
「どうして、今さら『
この変容した世界を苦々しく見つめ吐き捨てる。
『悠久の幻影』、それはかつてマホウ戦争で使われた〝召喚せし者〟のための異空間。
〝召喚せし者〟のみが存在を許され、十三時間以内に一人以上の〝召喚せし者〟が斃されなければ現実を侵食する、規格外の概念魔術空間。
これを生み出した男は現在能力を失い、それと同時にこの悪魔の空間も消滅したはずなのだが……
「龍一!」
名前を呼ばれ振り返る。そこにいたのは細腕に見合わぬ大剣を持つ少女。
幼馴染みであり、今では恋仲でもある鈴白なぎさだった。
「どうなってるの、戦争はもう終わったはずでしょ!?」
「わからない。だけど今こうして『悠久の幻影』は起動している」
とすれば、ここには自分たちを含め十人以上のマホウ関係者がいるはずだ。
まずは彼らと合流して状況を確認するべきだろう。特に、龍一の養父でもありかつて『悠久の幻影』を創造した男と。
「ねぇ龍一、誰か来るよ」
なぎさが指さす先に、人影が見えた。遠目には龍一と似た体格に見える。
「零二? よかった、合流できて」
わずかな違和感を覚えながら、こちらからも駆け寄る。
だが近づくにつれてその違和感は大きくなる。
そういえば、なぜ隣にサクラか、あるいは紗雪の姿がないのか。
そして、はっきりと視認できるようになって、二人はその人物が誰なのか把握した。
と同時に、感じていた違和感の正体を把握した。
「そん、な……」
なぎさが絶句する。それも当然だろう。
右腕を覆う雷光纏いし手甲、真紅のバンダナに皮手袋。
その男は、隣に立つ皇樹龍一と何一つ変わらない姿をしていたのだから。
【Reiji Side】
「いきなりずいぶんな挨拶じゃねーか。里村」
皮肉っぽく零二は苦笑する。冷や汗が背中を伝うのを感じる。
紅葉はといえば、普段と変わらぬ笑顔。しかしその周囲に自らの〝戦略破壊魔術兵器〟たる七つのクリスタルを展開している。一目でわかる臨戦態勢だ。
「いきなり攻撃してくるなんて。やはりあなたは危険すぎる」
気付けば紗雪も二挺の愛銃を構えている。戦争が終わったところで元より遺伝子レベルで仲の悪い二人の関係は変わっていなかった。
だが。
「ふーん、どっちも本物か」
納得したように頷くと、紅葉は構えを解いた。
予想外の展開に呆気にとられる。
「どういうこと? 説明して」
紗雪は照準を反らすことなく問い詰める。
「ねえれーじ、私が来るまでに誰かに会わなかった?」
そんな紗雪を華麗に無視して紅葉が問いかける。
「いや、お前が最初だ。それがどうした?」
「んー。ちょっと私もよくわかんないんだけどさ」
薄青い空を仰ぎながら紅葉は言葉を紡ぐ。
「れーじ、あの暴走巫女のこと覚えてる?」
「梶浦? そりゃ忘れようにも忘れられないさ」
梶浦海美も〝召喚せし者〟の一人である。
大切なものを守ろうと独りで戦う決断をし、たった独りでここにいる三人を追い詰めた実力者だ。
「どうにもアイツと似たよーなのが相手っぽいんだよね」
「それはどういう――」
「兄さん、危ない!」
言うが早いか、紗雪は引き金を引いた。
魔力の弾丸は紅葉をかすめるように線を描き、その後ろの人物に被弾した。
「って、もう追いついてきたのね」
呆れ顔で振り返る紅葉。そこにいたのは――
「なっ……」
「嘘……」
紗雪の攻撃は、空中に漂うクリスタルによって防がれていた。
その中心に立つのは、特徴的な帽子を被った小柄な少女。
二人の里村紅葉が、まるで鏡のように相対していた。
【Ichigo Side】
「ふむ」
更地となった眼前を見据え、相楽苺は顎に手を添えた。その表情はいつになく真剣だ。
「これは、お主と関係ないんじゃな?」
しばらく思案し、隣に立つ男に問う。
男――芳乃創世は肩をすくめる。
「既に言ったはずだ、ワンコ。私はもう〝オーディン〟としての力は失っていると」
「うむ、そうじゃったな」
納得したように頷き、苺は再び前を見やる。
「しかし、だとするといったい誰が『悠久の幻影』なんぞ作りだしたというんじゃ」
創世は一度目のマホウ戦争によって愛する女性、零二の母でもある桜を喪った。
ただ魔力が強いだけの、出来損ないの〝召喚せし者〟だった創世は、しかしそれを切っ掛けとして最強の〝召喚せし者〟となった。
最愛の桜を蘇らせるために長い時間をかけ、他の全てを捨て最高神オーディンを名乗った創世は、自ら仕組んだ戦争の中で実の息子である零二に敗れた。
その零二のおかげで、今は再び桜との生活を取り戻しているのだから、世の中というのは何があるかわからない。
「この空間は、〝召喚せし者〟の持つ魔力を一人に集め、究極魔法を発動させるために私が用意した箱庭だ」
「そして、〝ニーベルングの指環〟が力を失っている今、二度と発現するはずがなかった、ということじゃな」
状況を確認するが、結局なぜ今再びこの空間が形成されているのかは見当もつかない。
それに。
「今しがた出てきて、私が消し飛ばしたもの。あれについては?」
「それはさっぱり。なぜなら――」
言葉の途中で創世は半歩下がる。
するとその先にあった建物が跡形もなく消滅した。
「――私の能力に、『人物の創造』は含まれていなかったからな」
それまでなにもなかった更地に、一人の女性が立っていた。
黒い帽子に黒い外套、幼い顔立ち。
それは、創世と共に立つ相楽苺瓜二つだった。
「………」
もう一人の苺は無言で二人を見つめる。だが、それがどういう意味かを二人はよく理解していた。
機を読み互いに反対の方向へ跳躍。それまでいた大地が音もなく消滅する。
「ワンコに姉妹がいるという話は聞いたことがなかったが?」
「私も知らんわ。そもそもアレを使えるのは世界でただ一人、私だけじゃ!」
苺がもう一人の自分を視界に収める。
「――〝
その瞳が煌めく。一拍置いてもう一人の苺は弾けるように消滅した。
苺は〝召喚せし者〟ではない。
科学者としてマホウという超科学に挑み、人のまま神の力を御すことに成功した世界で最も〝
その視界にあるものは、たとえどんなに強靭な〝戦略破壊魔術兵器〟であろうと一瞬で無へと帰る。そこに例外はない。
「……しかし偽物とはいえ、知人が消えるというのは精神的によくない」
「一度私を殺しておいて、よく言うわ」
軽口で言うような内容ではないが、二人はこともなげに言ってのける。
しかしどちらも緊張は解かない。今のが二人目なら、三人目もありうるのだから。
「とにかく、ここは遮蔽物がなくなりすぎた。一度移動して零二たちと合流すべきだろう」
「じゃな。もっとも、出会えてもそれが偽物ではないといいきれんのが辛いところじゃ」
元『究極の〝召喚せし者〟』と『史上最強の人間』
無敵に思える二人組も、内心この不気味な夜が早く終わることを望んでいた。
【Kengo Side】
霧崎剣悟はとくにアテもなく『悠久の幻影』を徘徊していた。
「おーい、陣やーん、鋼ーん」
先の戦争で共に行動していた有塚陣も轟木鋼も、今回は影も形も見えやしない。
「おっかしいなぁ。陣やんやったらすぐに見つけてくれる思ったんやけど……」
陣は人間を超越する〝召喚せし者〟の中でも特に別格の能力を持っている。さらに前回の戦争ではゲームマスターとして幾つもの特権を与えられていた。
彼と合流できればとりあえず安心と思ったのだが。
「見つからんもんはしゃあないか。とりあえず……」
「あら、霧崎くん?」
聞き覚えのある声に振り返る。そこには霧崎たちの通う星見学園の生徒会長、雨宮綾音が立っていた。
ただし、その姿は簡素な黒のウェディングドレスに彼女の〝戦略破壊魔術兵器〟である手袋を纏った戦乙女の姿だったが。
「会長さーん。ワイ一人で心細かったんやでー」
「あら。今日はあの二人とは一緒じゃないのね」
おちゃらけた態度を崩さない霧崎も大概だが、こんな状況においても常の優雅さを維持する綾音には強者としての貫録があり、味方にできれば頼もしい。
――それに女の子と一緒やったらワイのモチベーションもあがるっちゅうもんや。
それがたとえ歪んだ愛情に身を焦がす女神であっても。
「ところで霧崎くん、零二くんを見なかった?」
「……相変わらずですなぁ。見とったら一人でおりませんって」
「そう。残念ね」
と言う割に全然残念そうではなかったが、あえてつっこむような真似はしない。
「会長さん、ワイも芳やんたちと合流しよか思とったんです。よければご一緒しません?」
「そうね。私も一人はちょっとさびしかったし」
くすくす笑いながら答える綾音。だがその言葉に嘘はなかった。
綾音の持つ探索能力が今この時に限ってはまるで機能していないのだ。
ここはかつての『悠久の幻影』と似て非なる空間。この僅かな間に綾音はそう結論を出していた。
「じゃあまずは彼のおうちから――」
そう言いかけて。
その言葉は、彼方で輝く鮮烈な雷光と極光に遮られた。
「……とりあえず皇樹はんと紅葉ちゃんの居場所は分かりましたな」
「そうみたいね。探す手間が省けたわ」
雷光は商店街の方、極光は相楽家の方で立ち上がった。
――なぎさは彼と一緒だとして、紅葉はまぁ、考えるまでもないか。
目指すは七色に光る断罪の光だ。
【Reiji Side】
「〝
紗雪の二挺拳銃から放たれる魔力弾。音を追うそれは狙い違わず目標に命中する。
しかし、威力の低さからクリスタルの破壊には至らない。
「………」
相対する紅葉は天敵である紗雪に対して、常のような挑発的な言葉はおろか一言も発さない。
「自分でいうのもアレなんだけど、黙りっぱなしの私ってしょーじきかなりキモイわね」
「認めたくないけれど、それについては同感」
たまに思うが、この二人は互いを蛇蝎のごとく嫌っている割に息だけはぴったりだ。だからこその同族嫌悪ともいえるが。
「ああもう、偽物相手はあの暴走巫女だけでじゅーぶんだっての!」
紅葉が〝
縦横無尽に空を舞う七つの魔導砲は、相変わらずのキレを見せつける。
だが、それは相手も同じこと。技量に関してはほぼ互角ではないだろうか。
十四個のクリスタルが宙を駆け、時にレーザーを放ちあるいは防御に徹する。
紗雪が放つ援護射撃も物ともせず、三人相手に同等以上の応戦をするというのは尋常ではない。
「〝復元する世界〟!」
隙を見て飛んでくるレーザーを、零二はその能力で戻すことで回避の隙を作る。
紅葉の能力〝
紅葉自身はその罪を赦すことができるが、零二たちはそうもいかない。
「〝
瞬間的に魔力を纏い、紗雪が神速の動きでもう一人の紅葉の背後に回る。
しかしそれを見越していたかのように照準を合わせる魔導砲。仕方なしにもう一度紗雪は跳躍する。
「強い……下手をするとオリジナル以上」
「は? アンタもしかしてケンカ売ってんの!?」
こんな時にも口論を始める二人。しかしその表情に余裕はない。
そして、それは突然現れた。
「っ!?」
紅葉が〝七つの大罪〟を呼び戻し防御する。
飛来したのはレーザーではなく、白と黒の魔力弾。
「ちょっと、不意討ちなんてアンタいい根性してるじゃない」
「違う。私はしていない」
「じゃあ誰が……ってまさか!?」
紅葉が振り返る。
無表情に佇むもう一人の紅葉。さらにその向こうに、拳銃を手にする紗雪が現れた。
「マジかよ」
「ただでさえ面倒だってのにっ!」
「………」
サクラのいない今、近接特化の零二は攻撃において頭数に入らない。そのうえで独りで二人分の攻撃を捌き、三人を狙ってなお互角だった相手に援軍の登場である。
――いよいよマズイな、これは。
嫌な汗が背中を伝う。一度退却するべきか。しかし海美の時は龍一の援軍があったが、この状況では龍一もどこかで戦っているかもしれず、今回もと期待はできそうにない。
「あーもう! ちょっと二人とも、力貸して!」
〝七つの大罪〟を円形に並べ、紅葉が叫ぶ。
「どうするんだ!?」
「一か八か、アイツらにデカいのお見舞いする! やられてくれればよし、ダメでも逃げる時間くらい作れるでしょ!」
円陣の中心に魔力が集まる。極光の輝きは徐々に強さを増していく。
「よし、やってみるか!」
「不本意だけど、それしかなさそう」
零二は右の拳に、紗雪は愛銃にそれぞれ魔力を集中させる。
――嫌なこと思い出させてくれるじゃない。
紅葉はかつて自分の〝戦略破壊魔術兵器〟が複製された時のことを思い出す。
妹の形見であるそれを勝手に使われた怒りが再燃する。しかしその時に見た、複数の神話魔術を同調させるという発想に、今この状況を打開する可能性を託す。
「……っし、準備完了!」
「こっちもいつでもいいぜ、里村!」
「私も問題ない!」
準備は万端。しかし相手も同じように魔力を集中させ始めていた。
「先手必勝! ――〝
「〝
「〝福音の魔弾〟!」
三人各々の必殺の一撃が放たれる。それらは渦を巻くように一つの奔流となって敵に迫る。
いうなればそれは――〝
一呼吸と置かず、相手も同じく神話魔術を放つ。
だが、七つと二つがバラバラの攻撃と、一つになった十の攻撃では、比べるべくもない。
正面から衝突した二つの光は、ほんの一瞬でさえ拮抗しえなかった。
土煙が晴れた先には、地に伏せ薄い光に包まれる紅葉と紗雪の姿があった。
「あんま気分のいいものじゃないわね。アンタの消える姿はいつ見ても快感だけど」
「それはこちらの台詞」
変わらぬ応酬を繰り広げる二人も、緊張が解けたからか疲れからか覇気がない。
やがて、偽物二人の姿が完全に消えるのを待ち、零二は空を仰いだ。
「……〝召喚せし者〟が消えても、『悠久の幻影』に変化はなし、か」
消えたのが偽物だったからか。あるいはここが『悠久の幻影』によく似ているだけで、実はまったく異なる空間だからか。
「とにかく一度移動すべきじゃないかしら」
「そうだな。それにサクラも心配だし……って」
まるで最初からいたように提案する綾音を半眼で睨む。
「どこから湧いて出た?」
「零二くんのいるところなら、いつだってどこにだって現れるわ」
にこやかに笑う綾音を見ていると、いろいろなことが馬鹿らしくなってくる。
「ところで、サクラちゃんがいないみたいだけど?」
「あぁ。雨宮でもいいや。アイツのこと見なかったか?」
綾音は頭を振る。本当に何処へ行ったのだろう。
「それより、さっき商店街の方で光が上がったの。皇樹くんたちはそっちにいるかもしれないわ」
「分かった。二人とも、移動するぞ」
しかし、二人は呆れたような顔で見るばかりで返事をしなかった。
「兄さん」
「れーじ、さすがにそこまでするのは可哀想じゃない?」
「……俺にだって、怖いものくらいあるさ」
あえて言及せず視界から無理矢理排除していたが。
綾音の後ろには、魔力の糸で蓑虫にされた二人の霧崎が宙づりにされていた。
【Ryuichi Side】
「〝
雷光に変換した魔力を纏い、龍一が疾走する。
しかし相手も同様に、雷となって拳を突き出す。
「くっ!」
「………」
殴り合う自分は常に無言、無表情。それがより一層不気味に感じる。
そして。
「龍一……」
二人の龍一の応酬を、混乱した様子も露わになぎさは見守っていた。
二人が遭遇した龍一は、突然雷光を纏うと龍一に向かって殴りかかってきた。
状況が把握しきれぬまま、それでも龍一は本能のようなもので応戦、そして今に至る。
身のこなし、技のキレ、挙動に見られるわずかな癖まで、相手は完全に龍一を再現していた。
だからこそ、長年培ってきた自分の技術であればこそ龍一は常に先を見て戦える。
しかしもう一人の龍一はそれでもなお互角の戦いをして見せた。
――先が読めるのは向こうも同じということか……!
せめてなぎさが加わってくれれば、優位を確保できていただろう。
しかし彼女は今、剣を手に狼狽えるばかりだ。
「ぐっ!」
なぎさを気にした一瞬の隙。そこを突いた一撃が脇腹をかすめる。
僅かな怯みが均衡を崩し、少しずつだが後手に回り始める。
――まずい、このままだと押し負ける!
どうにかして逆転の布石を見出そうとするも、相手は自分自身。そう簡単に隙を見せるはずがない。
いっそ相討ち覚悟で必殺の一撃を……。そう思った時だった。
「なっ!?」
不意に攻撃が止み、反応が遅れる。
しかし、それは攻撃の手を休めたのではなく。
「しまった、なぎさ!」
対処に専念して気が付かなかったが、いつの間にか龍一はなぎさのすぐそばにまで誘導されていたのだ。
そして、もう一人の龍一は雷光の如き速度で、なぎさへと迫る。
「え?」
一心に見守っていたなぎさもまた、強化された視覚による未来視が追いつかない。
「………」
閃光を放つ雷神の槌が、なぎさの胴を貫こうとしていた。
「〝
しかし僅かに早く、二人の間に結界が生み出される。
龍一の拳はその堅固な障壁によって阻まれた。
「これは……」
その結界に、そして高らかに響いた声に龍一は覚えがあった。
「よかった。間に合って」
かつて自分を追いつめた籠の鳥。その片翼たる少女。
「陽菜子ちゃん!」
空の鳥籠を従え、高嶺陽菜子が姿を見せた。
【Reiji Side】
「芳やんの薄情者―」
「だから、悪かったって言ってんだろ」
解放された霧崎は不満顔で文句を言っていた。
「だいたい、なんでお前まで拘束されてんだよ」
「そ、それは……」
恐怖に顔をひきつらせ、綾音を振り返る。
「急に霧崎くんが二人に増えて攻撃してきて、面倒だったからまとめて取り押さえたのよ」
綾音が悪びれもせず言ってのける。
「馬鹿いちょー、アンタ普段は私にもっとお淑やかにとか言ってるくせに」
「あら。暴漢を撃退する術も淑女の嗜みの一つよ。それに……」
色っぽい視線で零二を見る。
「零二くんは、どちらかというとお転婆なくらいが好みのようだし、ね」
「あいにく、今はじゃじゃ馬だらけでな。お前までそうなられるとさすがに困る」
どうにも恋人がいようと綾音には関係がないようで、むしろ最近は愛人の地位を狙っている節さえある。
「で、こいつはどうする?」
未だ吊し上げられているもう一人の霧崎を見やる。どうやら完全に気絶しているらしい。
と、そこに。
「おお、まだここにおったか」
苺と創世も姿を現した。
「苺さん。それに……親父も」
「無事なようで安心した」
親子というよりは兄弟に見えるほど、二人の外見的な年齢にそう差はない。それもそのはず、創世は自ら定義した永遠により、ここ十年以上全く歳をとっていなかった。
それは桜も同じようなもので、零二も若すぎる父母に慣れるまではまだ時間がかかりそうだと感じていた。
「で、そんなものをぶら下げてどうするつもりじゃ」
ちらりと苺が上の霧崎を見上げる。次の瞬間には塵も残さず消えていた。
「あー! ワイが殺された!」
「いや、そういうボケはいいから……」
とにかく、これでこの島にいる〝召喚せし者〟の内およそ半分が揃った。
しかし相変わらずサクラの行方は知れない。
――サクラ、どこにいる……?
二心同体のパートナーとの繋がりを感じられないことがこんなにも寂しいのだと、零二は初めて知った。
【Ryuichi Side】
思わぬ助っ人の参上に、もう一人の龍一が無表情のまま硬直する。
ようやく生まれたその隙に、龍一が追撃しようと構える。
しかしそれよりも疾く。
「せいっ!」
なぎさが白銀の聖剣の一振りで、目の前に突き出された手甲を鮮やかに両断した。
「龍一は、私を本気で傷つけようとなんてしないもんっ!」
恋人であり、共に研鑚を積んできた好敵手だからこその信頼。その絆がなぎさに倒すべき相手を認識させた。
偽物の龍一はそのまま淡い光に包まれ消えていった。
「……助かったよ。大丈夫かい、陽菜子ちゃん」
一番の功労者を振り返る。少し急いだのか体の弱い陽菜子の顔色は若干優れない。
「ううん。陽菜子は平気。それよりお兄ちゃん、真田さんを見なかった?」
「真田さん? いや、見てないけど……」
真田卿介は陽菜子の保護者であり、〝召喚せし者〟の一人でもある。
普段から陽菜子を何よりも大事にし、彼女のためなら他人の犠牲をも厭わないを実際にやってのけた彼がこの状況下で陽菜子を放置するなど、天地がひっくり返ってもあり得ないことのはずだ。
陽菜子の顔色が悪いのは、恋慕する守護者がいないというのも理由かもしれない。
――もしかして、ここに〝召喚せし者〟が全員いるわけではない?
仮にそうだとするなら、この『悠久の幻影』に似た空間は誰が何のために創造したのか。
「と、とりあえず、陽菜子ちゃんも私たちと一緒に行動しよう? 真田さんだって探してるかもしれないし、芳乃くんや紅葉たちがいて、そっちと合流してるかもだから」
表情が翳りだした二人を気遣うようになぎさが提案する。
ちょうどそこに。
「おーい、龍一!」
「なぎさー! 怪我してない!?」
こちらが探すよりも先に、零二たちが姿を現した。
【Reiji Side】
「真田のオッサンがいない!?」
互いの状況を確認して、零二たちも目を丸くした。
面識がある程度の間柄とはいえ、陽菜子に対する真田の溺愛ぶりはここにいるほとんどの人間が理解していたからだ。
「それに、サクラちゃんもいないっていうのは」
「あぁ。〝復元する世界〟でも呼び戻せないし、どこに行ったんだか……」
言葉では軽く言うものの、顔にでる心配を隠せるほど零二は器用ではない。
少なくともこうして零二が無事でいるということはサクラが生きているという証明でもある。それがせめてもの救いだった。
「ねえ、これは私の仮説なんだけれど」
それまで一人思案していた綾音が口を開く。
「ここが『悠久の幻影』を真似した、全く別の概念空間という可能性はないかしら?」
衝撃的とも言える発言に、しかし驚いた者は一人もいない。
その可能性には全員が感づいていた。なぜならこの悪夢の空間はかつて全員が身を以て体験している。
そして、今夜の『悠久の幻影』には不自然な点が幾つも見受けられた。
「もしここが本当に本物の『悠久の幻影』なら、私たち以外の〝召喚せし者〟もあわせた十六人が揃ってなければならないはず」
「ただしそれは、あくまで黒幕ないし関係者ではないことが条件だけれど」
綾音の言葉を紗雪が補足する。
もっとも、ここにいない誰かが犯人というのはかなり薄い線だ。
一時的に嘘を真実にする陣の〝ギャラルホルン〟
馬鹿らしい強度を持ち重力感覚を支配する鋼の〝エッケザックス〟
生命力を略奪する真田の〝ミスティルテイン〟
そして、ある意味ではそれら全ての能力を有する海美の〝きらきらメモリーズ〟
この中で『悠久の幻影』を模倣できるのはかろうじて陣くらいだが、あの自尊心が強い狼少年が行動を起こしながら誰の前にも現れないというのは考えづらい。
「それに、もう何人も〝召喚せし者〟が消えてんのに、いつまでも解除されないってのもおかしな話よね」
「まーそれについては偽物やからノーカンっちゅうのも考えられるけどな」
『悠久の幻影』は〝召喚せし者〟が敗北すると、その魔力を勝者に与えた後解除される。
偽物たちは消滅の兆候を見せていた。その機能は今も作動していると考えていいはずだ。
しかし解除はおろか、誰一人として魔力の底上げされた感覚はなかった。それはつまり、解除の対象とされなかったか、あるいは――
「それと、これは俺が直感で感じたことで、確証はないんだが」
零二は己の右手を見る。そこには確かに魔力、生命力が流れている。
「紗雪と里村の偽物だけど、あいつら、まるで『生きている』感じがしなかった。生命力だけじゃない。魔力すらも感じられなかった」
「ふむ。つまり偽物たちはただの傀儡で、どこかに操り主がおるということかの」
「いや、そうじゃなくて……いるけどいないっていうか、目には見えるのに存在が信じられないっていうか」
うまく言語化できないが、しかし零二の言うことは実際に相対した龍一たちにも理解できた。
それは例えるなら、実体のある幻、あるいは現実に受肉した悪夢。
ずっと感じていた違和感は、視覚と直感の乖離。
「とにかくまだ確証が足りない。もう少し島を回ってみる必要がありそうだ」
創世の視線の先には、鬱蒼と茂るマングローブ林が広がっている。
月読島が誇る豊かな自然が、今は犯人を隠すヴェールのように疑心暗鬼を駆り立てる。
――そういえば、あの奥に滝があったっけ。
滝といっても緩い段差が長く続いているだけで、実際は泉に近い。
普段は人も寄り付かず、精霊が憩うという伝承そのままの神秘性を湛えている。
以前サクラが水浴びをしているのを見つけた零二は、普段の言動からは想像できない美しさに見惚れたものだ。
――案外そこにいるかもしれないが……
そこで、零二はある事実を思い出す。
ここにいないサクラ。
ここにいる〝召喚せし者〟
ここにいない〝召喚せし者〟
その違いは、共通点は――
「っ、どうして今まで気が付かなかった!」
「零二? 何か気付いたのかい?」
自分に腹を立てるのは後回しにして、零二は端的に纏める。
「サクラだ。今回の異常の中心はサクラだったんだ!」
「落ち着け零二。いったいどういうことじゃ?」
「ここにいるのは、全員サクラが友達とか、身内と思ってるやつだけだ」
マスターであり恋人である零二。
その父である創世。
家主である苺。
一緒に海や温泉に出かけた仲間たち。
「なるほど。僕ら自身が友人同士でもあるから気付かなかったけど、確かにみんなサクラちゃんと友達か」
「そして、ここにいない〝召喚せし者〟で、サクラが友達だと思ってるやつが一人だけいる」
学園のアイドルと聞いて、サクラ自ら友達になろうと誘った少女。
「梶浦神社。次になにかあるとすれば、あそこだ」
【Umi Side】
月読島で唯一の神社、梶ノ浦宮。
そこの一人娘である海美は、境内で独り困惑していた。
「どうしよう……」
いきなり発生した『悠久の幻影』。馴染みの巫女姿で家業を手伝っていた海美はそのまま途方に暮れる。
前回の戦争では追われる身に始まり、自らの大切なものを守るために能力を覚醒させ、そのまま疑心暗鬼に飲まれて暴走してしまった。
今では反省し、無用な争いを自ら起こす気はこれっぽっちもない。
無論、襲いかかる輩は問答無用で消すつもりだが。それだけの実力を海美は持っているのだから。
一度遠くで光が昇るのが見えた。きっと誰かが戦っているのだ。
しばらく境内をうろうろしていると、鳥居をくぐる気配を感じた。
「えっ……なんだ、俊くんか」
振り返ると、そこにいたのは幼馴染みで海美の想い人、櫻井俊介だった。
「あれ? でもなんで俊くんがここに……」
その疑問は次の瞬間に弾き飛ばされた。
666本のナイフに。
七条の閃光に。
【Reiji Side】
「やっと見えたか」
島のはずれにある神社までは、魔力で身体強化をしても存外時間がかかった。
ちなみに身体の弱い陽菜子は創世が背負い、魔力のない苺は後から追いかけるという。
夜の神社というのは、遠目にもなかなか雰囲気がある。
「なんかさー、あの巫女が関わるって時点でヤな予感がすんのは私だけ?」
紅葉の言葉に、しかし誰も答えない。
答えればそれが現実になるような、そんな気がしたから。
だが、嫌な予感というのはよく当たるもので。
「――ぁああああぁあああああああぁああああああああああああああぁあああああああああああああぁぁああああああああああああああああああぁああああああああああああ!!」
人間の声帯が出したとは思えない絶叫が、境内から響き渡った。
「この声、梶浦の!」
「あぁもう、だから言ったのに!」
さらに加速する。そしてようやく鳥居をくぐった先には――
「なっ!?」
そのあまりの惨状に、零二たちは言葉を失う。
境内の中心は血で染まり、その中心で海美が何かを抱きかかえていた。
それは人の形で、無数のナイフが突き立ち、あちこちが焼け焦げている。
石畳と海美の巫女服を朱に染める血は、その誰かが流したものか。
「梶浦、いったい何が――」
と言いかけて、海美の様子がおかしいことに気付いた。
だらりと首が下がり、その肩は小刻みに震えている。
それは、笑っているように見えた。
「なんで……どうしてよ……」
抱いていた誰かを優しく寝かせ、海美がゆらりと立ち上がる。
その顔は血と涙に塗れ、幽鬼のような笑顔が張り付いている。
「守らなきゃって思った……でも、ダメだった……」
その顔の中心には、彼女が忌み嫌う自身の〝戦略破壊魔術兵器〟がすでに乗っていた。
「だから……独りじゃダメなんだって思った……そしたら俊くんが……」
――壊れてる。
その不気味さに、全員が臨戦態勢を取る。
しかし恐怖心から失念していた。
「返してよ……私の大事な人を……」
一呼吸の間に、海美の後ろに空の鳥籠が現れる。
そう、彼女にとって敵は強ければ強いほど良いのだ。
「マズい! 皆、今すぐ〝戦略破壊魔術兵器〟をキャンセルしろ!」
零二が叫ぶ。しかし、それももう遅い。
「俊くんを……返してよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
憤怒と絶望の咆哮と共に、海美がどす黒い光に包まれた。
そして、光が収まった先に現れたのは……
「なんだ……あいつは」
そこにいたのは、異形の『怪物』だった
全身を覆う鎧は所々バチバチと電気を帯びている。
その鎧は規則性もなく滅茶苦茶に七本、それぞれ色の違うクリスタルが突出し、肩からも黒白の銃身が聳えている。
まるで特撮の怪獣のように背中には無数のナイフが林立し、さらに何本かは触手のように蠢く糸の先にも繋がれている。
そしてその右手は直接剣が延び、左手には小さな指環が見える。
ここにいる全員の〝戦略破壊魔術兵器〟を一つにして、狂気という鋳型に流せばこんな形になるだろうという姿そのままだった。
『グゥウウ……ウガァア……』
くぐもった呻き声。それは鎧の中から響いている。
それは人型でありながら、どこまでも獣、狩る側の存在だった。
「なんやなんや! 日曜朝の特撮タイムかいな!?」
「ボケてる場合じゃないでしょ! なんなのよアイツ!?」
紅葉が一も二もなくレーザーを放つ。しかしそれは右手の剣であっさり弾かれた。
海美の〝きらきらメモリーズ〟は視界に入った〝戦略破壊魔術兵器〟を複製するという他人任せながら強力にすぎる能力を持っている。
経験そのものはコピーできないまでも、海美が持つ圧倒的な魔力総量と生来の観察眼、内に秘めた強かさで運用されるそれは本来の持ち主をして厄介と言わしめるだけの武器となる。
さらに自己流のアレンジを加えることでより状況に適した、まったく別種の〝戦略破壊魔術兵器〟として呼び出すこともできる。
唯一の欠点は本体がただのメガネという脆さだが、今それは鎧の奥に潜りとても手出しできそうにない。
「〝スイートホーム〟の創造力と、もともとのアレンジ能力を組み合わせてああなった、ってところか」
「おそらく。そしてなにより危険なのは、あれもまた一つの〝戦略破壊魔術兵器〟であるということ」
〝スイートホーム〟は結界の作成だけでなく、想像による創造こそが本領である。
アレンジにアレンジを重ね、海美は『敵の全てを取り込んだ自分』として創造したのだ。
それは〝戦略破壊魔術兵器〟でしか破壊できない鎧であると同時、〝召喚せし者〟への攻撃手段でもある。
「でもなんで梶浦は……」
タネがわかっても、なぜ海美は以前にもまして暴走し、自分達に牙をむくのか。
「あのー、芳やん?」
牽制に幾らか〝ストリームフィールド〟を放ちつつ、霧崎が困り顔で振り返る。
「あっちのホトケさん、よう見たらワイのナイフに似たのが刺さってるっぽいんやけど……」
確かに、霧崎の周囲に漂う666本のナイフと、骸に突き刺さるナイフは同じ形をしている。
「れーじ、私もあの焦げ方見覚えが……つーか私の攻撃が作る傷に似てるっていうか」
「……やられた」
零二は頭を抱えた。
つまり、ここにたどり着く前に紅葉と霧崎の偽物が現れ、攻撃を仕掛けたということだ。
先の言動から察するに、おそらくは海美にとって代えがたい人物……の、こちらもおそらくは偽物だろう。
もし本物ならば、大切な人の死によって起動する〝ニーベルングの指環〟が創造する純粋な力によって、全員とっくに消し飛ばされている。
とにかく今、紅葉に霧崎、ついでに行動を共にする零二たちは海美にとって百万回殺しても足りない仇ということになる。
「なんとか取り押さえないと……!」
「って無茶言うな。あれがどういうものかお前が一番理解しているだろ」
海美の全身を覆う鎧。基となった龍一の手甲〝
銃身から二色の魔弾が放たれる。紗雪は冷静にそれを射抜き、相殺する。
魔力なしで押さえるのは不可能に近く、かといって魔力は使っても全て海美の糧となる。
完全な八方ふさがり。
確実な勝機は海美の消耗を待つことだが、それまでこちらが保つかというと、かなり微妙だ。
今も無数のナイフが飛び交い、それを攻撃できる者が迎撃し、海美本人の接近は陽菜子が結界で押し留めている。
せめて動きを封じることができれば……
「なんだかおもしろそうなことになってる?」
不意に響く、場にそぐわぬワクワクした感情を隠さない声。
「これのどこをどう見れば面白いんだ……って九理!?」
いつものようにいつの間にか、姫白九理が零二の脇に現れていた。
「ようやくみつけたと思ったら、なに? ケンカ?」
「あー、まぁそんなところだ」
なぜ〝召喚せし者〟でない九理がここに、とは訊かない。
もう今夜はこれ以上何が起きても驚きもしないだろう。
「ふぅん。あれを止めればいいのね」
九理は今なぎさと鍔迫り合う海美を見る。
「アレはしょうじきシュミじゃないけど、わかった。やってあげる」
「できるのか?」
半信半疑の零二に応えず、九理はふわりと浮かんで海美に近づいた。
【Kuri Side】
姫白九理は〝召喚せし者〟ではない。それどころか人間ですらない。
いつからか魂が憑依した少女姿の生き人形。それが今の九理という存在である。
だが彼女は人形ながらも超越者としての力を持っていた。
〝見習い術師〟の中でも強力な異能を有する〝
不死でない代わり、複数の能力を発現することもある。九理の場合、空中を浮遊する力と雲隠れする力、そして――
「なぎさ、選手こーたい」
「九理ちゃん!? え、それってどういう……」
海美と斬り結んでいたなぎさが答えるよりも先に、九理が二人の間に躍り出る。
『グ……』
突如現れた得体のしれない少女を警戒して、海美の動きも止まる。
『……〝
メガネ越しに海美の視線が九理を捕らえる。どのような能力を持っているか知らないが、どんな〝戦略破壊魔術兵器〟を持っていようとそれは海美の手数を増やすだけ。
しかし。
『……?』
いくら待てども複製はされなかった。
「むだだよ。だって私〝しょうかんせしもの〟じゃないもの」
そう、海美の能力はあくまで〝戦略破壊魔術兵器〟のコピー。能力の行使はその結果であり、武器として顕現しない〝超能術師〟の能力を模倣することはできないのだ。
『………』
忌々しそうに九理を睨む海美。二人の視線が交差する。
「今度はこっちのばん……おいで、〝
その瞬間、海美の身体が頭から指先に至るまで完全に硬直した。
「いまからあなたは私のお人形。お人形は言うことをきかなきゃだめなのよ」
九理の能力〝這い寄る混沌〟は、他者の身体の自由を奪う。それが〝召喚せし者〟ならば〝戦略破壊魔術兵器〟の行使権さえ奪取できる。
敵にすると厄介極まりないが、味方にすればこうも心強い。
「まぁ、あなたはべつに私の好みじゃないから、今だけだけど」
九理の目には能力の性質ゆえかその人間が持つ魂の輝きが見える。
今目の前にいる鎧の魂は、零二たちと同じ人間離れしたきらきらした輝きを持っているのに、それが真っ黒な靄ですっかり隠れてしまっていた。
――でも、もしちゃんときれいに光ってるならおもちゃにしてあげてもいいかも。
内心そう考えながら、人形遣いの人形少女は零二を振り返った。
【Reiji Side】
苦戦すると思われた海美だったが、九理のお手柄であっけなく片が付いた。
「これでいい?」
「ああ。サンキューな、九理」
どこか誇らしげな九理の小さな頭をぽむぽむと撫でる。
しかし、ここにきてわざわざ本物をぶつけてくるとは。
「どうもこの先になにかあるっぽいな」
それに、ここに着いてからというもの零二は言いようのない居心地の悪さを感じていた。
あえて例えるなら、慌てて隠した大事なものが、誰かに気付かれないか心配でしょうがない時の焦燥に限りなく近い。
だから、ある種の確信があった。
――この先の本殿にサクラがいる。
「よし、とにかくこのまま中へ」
海美の横を通り過ぎ――不意に背筋がざわめくのを感じ大きく飛び退く。
『ガアッ!』
瞬間、目の前を白銀の一閃が駆け抜けた。
それまで彫像のように微動だにしなかった海美が、再び動き始めていた。
「な、なんで!?」
これには九理自身も驚愕に目を見張る。
「くそっ」
一番近くにいた零二に狙いを定め、海美が滅茶苦茶に剣を振るう。
しかし怒涛の連撃は、雷光によって阻まれる。
「零二、先に行くんだ!」
一瞬のうちに飛び込んできた龍一が、拳で剣を受け止めていた。
「龍一……わかった、絶対死ぬんじゃねえぞ!」
今の零二は海美に対してまるで無力だ。
だから、自分のできることを、あのぽんこつ兵器を迎えに行ってやろうと、夜闇に浮かぶ本殿へと疾駆した。
【Ryuichi Side】
「はっ!」
防御されるのを見越して強めの攻撃を加え、その反動と身体強化で距離を取る。
そこに雨あられと放たれるレーザーと魔弾とナイフ。
「〝高潔なる処女〟!」
それを陽菜子が結界を張り防ぐ。かつて龍一を追いつめただけあってその堅牢さは折り紙つきだ。
「大丈夫!?」
なぎさが剣を構え隣に立つ。
「ごめん、私のせいで……」
「どうしてなぎさが謝るのさ?」
「拘束が解けたのはたぶん……ううん、絶対に私のせいだから」
なぎさの気高い心に呼応して覚醒した彼女の大剣〝スウァフルラーメ〟
魔剣とも呼ばれるそれは、しかしなぎさの想いに対し彼女の道行を切り開く聖剣として、あらゆる状態異常を打ち払う〝
そしてそれをコピーした海美もまた、九理の呪縛を解除する術を持っているということ。
「なぎさが謝ることじゃない。それより今は、どうやって梶浦さんを止めるか考えないと」
そう、それこそ今最も重要な問題。
魔力攻撃は対処され、物理攻撃では破壊できず、封印も効かない。
単純に見れば、それは死角のない無敵城塞であろう。
だが、龍一はそれが自分の相棒であるがゆえに、長所だけでなく短所をも熟知している。
「父さん」
振り返らず創世を呼ぶ。
「父さんは今、オーディンだった時のような能力は使えないんだよね?」
「ああ。あれは『最愛の人間の死』を条件とする。桜のいる今、私は昔と同じ魔力だけが高い出来損ないの〝召喚せし者〟だ」
永遠、空間、理、力。四つの概念を創造する〝ニーベルングの指環〟は、究極の力に見合う代償を要求する。
今の創世ではここにいる誰にも勝てはしない。〝戦略破壊魔術兵器〟は同じく超常の兵器によってのみ破壊されるという理の前には、どれだけ魔力が高かろうと意味をなさない。
だが龍一はその身を以て体験した。
どんなルールも、たった一つのイレギュラーで覆ってしまうことを。
「父さん、それにみんなも。今から梶浦さんにありったけの魔力をぶつけてほしい」
無限の運動量を持った糸が空を薙ぐ。それをしゃがんで回避。
「はぁ!? ちょっとりゅーいち、アイツに魔力は効かないって……」
「効かないんじゃない。自分の魔力に変換するから通っていないように見えるだけなんだ」
「それって同じやないん?」
確かに、その二つは外目には同じ結果だろう。
だが、結果が同じでも過程が同じとは限らない。
それを説明しようとして、しかし龍一は口を閉ざす。
龍一だけでない、紅葉も、霧崎も、暴れまわっていた海美ですら、口はおろか指先一つ動かせずにいた。
「なんにせよ、それしか方法がないのだろう?」
全員の視線を受けて、創世が静かに拳を構える。
彼の気迫に呼応して溢れる、濃密な魔力が光さえも屈折させ視認を可能とする。
月読島にいる全ての〝召喚せし者〟の魔力を結集させた零二。その零二さえも上回る規格外に過ぎる魔力の持ち主は、神の座から堕ちようともその力は健在だった。
普通の〝召喚せし者〟が惑星なら、彼は太陽。そもそも比べるという次元をとうに超越している。
「――〝
それはあくまで名残から言ったまでで、真に能力を振るったわけではない。
だが、拳の一点に凝縮され放出された特大級の魔力は、並の神話魔術など比較にならない破壊力で空間を斬り進む。
『〝高潔なる処女〟!』
無敵の鎧をまとっているはずの海美も、直感的に防御に徹さねばならぬと感じる波動。
だが、動いたのは海美だけではない。
「〝高潔なる処女〟!」
不滅の結界に、まったく同じ結界が衝突する。
「お姉ちゃんが教えてくれたんだよ。どんなに丈夫でも同じ力なら、壊れるんだって!」
陽菜子が両手をかざす。それは以前複製した能力で鉄壁の防御を崩した海美への意趣返し。
さらに、
「〝七人の断罪者〟!」
「〝福音の魔弾〟!」
すでに限界が近い防御壁に、九つの魔力が打ち付けられる。
『アァアアアアアアアアッ!』
それを絡め取るように、海美の背中から無数の糸が放たれる。
運動エネルギーを自在に支配する〝ストリングロード〟の糸は、攻防一体の力。それに触れればいかな攻撃も先へ進むこと叶わぬ守り。
だが、海美は気づかない。
蠢く糸に、何本か己のものでないものが紛れていることに。
「はい、これでいいかしら?」
わずかな力で効率的に。真の所有者として綾音は最少の力で贋作を絡め取り道を作る。
「フフッ。〝
優雅に微笑む綾音に対し、海美は恐怖を覚える。
――なによ、これ?
自分は最強の力を、最強の形で創りかえた。
なのになぜ、こうも圧されているのか。
いよいよ結界が不吉な音をあげる。このままではあの攻撃を直に浴びてしまう。
それだけは避けなくては。海美は逃げの算段に入って……
「にがさないわ」
その先にいた九理と目が合ってしまった。
一瞬動きが制限される。慌てて右手の剣を振るい解除するも、その一瞬が九理の狙い。
「〝
最後に龍一が右手の手甲より雷光を打ち出す。それを受けてついに難攻不落の結界は音を立てて砕けた。
『アァアッ!』
光を越える速さで迫る魔力の怒涛に対し、防御の姿勢が取れたのは全くの偶然だった。
空気をも蒸発させるその力を、しかし鎧の〝雷光を打ち砕くもの〟は受け止め、己が雷光に変換し続ける。
――そうよ、効くわけがないんだわ。
それが魔力であるなら、この鎧は貪欲に喰らって喰らって喰らい尽くす。そうして得た力で反撃すればいいのだ。何を焦っていたのだろう。
だが。
――ピシッ
攻撃を最前で受ける右腕に亀裂が入る。
それは右腕に留まらず、脚、背中、腹部。ついには全身にまで及ぶ。
――うそ!? なんで!?
海美は知らなかったが〝雷光を打ち砕くもの〟とて絶対ではない。
あまりに膨大すぎる魔力を受け止め変換の許容量を超えたとき、内部から崩壊するという弱点を孕んでいたのだ。
たとえばこれが、無効化や反射といった拒絶による耐性ならば、あるいは防ぎ切ったかもしれない。
満腹になってもなお
むしろこの渦の中心にいて、ここまで耐え続けた海美のポテンシャルこそ賞賛に値する。
そして、その時は訪れた。
パリン、とガラスの砕けるような音と共に、海美の視界は大きく広がった。
ほんの刹那の後、海美の意識はふっと闇に落ちた。
「さて、間一髪じゃったの」
気絶した海美を横に寝かせ、苺はうむうむとうなずく。
海美の鎧が砕けた瞬間、苺は〝摂理なる終焉〟で魔力の奔流を消し去っていた。
それでも攻撃を受ける恐怖にか、海美は気を失ってしまっていた、というわけだ。
「しかし創世、お主もこんなか弱い少女に本気を出すとは情けないのう」
「いや待てワンコ。お前は途中参加だから知らないだろうが、そうでもしなければ我々が負けているところで……」
「さーて、桜に言いつけたらどんな顔をするやら」
「そ、それだけは……!」
大人二人がくだらないやりとりをする間、龍一たちは僅かばかりの休息を取っていた。
魔力の全放出をした面々はもとより、なぎさと霧崎も一歩間違えば殺される状況で、精神的にだいぶ消耗していた。
「さて、はやく零二を追わないと……」
未だ疲れの取れぬ体を龍一が持ち上げる。
――ジュッ
耳元をかすめるいやな音。
「!?」
音の方へ振り返る。
そこにいたのは……
『………』
境内を埋め尽くす鎧、鎧、鎧――
今しがた倒したばかりの鎧姿の海美が、悪夢の群れがごとく歩み寄っていた。
「そんな……」
たった一人ですら手を焼いた敵が、数えられないほど湧き出ている。
この光景を前に、誰が絶望せずにいられようか。
「〝摂理なる終焉〟」
呆れたような『史上最強の人間』の声に、視界が開ける。
たった一瞬で九割がたの鎧たちが消滅していた。
「なんじゃ、何かしかけてくるかと思ったが……少し単調すぎやしないか?」
「ってゆーか、相楽さんがチートすぎ。私たち必要ないじゃん」
紅葉が半眼で溜め息をつく。
「いや、私とて文字通り目の届く範囲に限られるからの。取りこぼした分は自分でどうにかしてくれ」
そう言っている間にも鎧の大群は姿を消す。しかしどれだけ消そうとも次から次に現れる。
「たぶん兄さんがなんとかしてくれる。それまで持ちこたえれば」
「そうね。頑張れば零二くんに褒めてもらえるかもしれないわね」
「マジ!? よっしゃー! まだまだ私も頑張っちゃうわよ!」
女三人寄れば何とやら。
「ええなぁ芳やん。彼女持ちの癖にこないにかわいこちゃんらに慕われて……ええいこうなったらヤケや! ワイもやったるで!」
「お願い、〝スイートホーム〟……みんなを守って!」
「めんどうくさい……でも、あれで遊ぶのはおもしろいかも」
全員が疲れを押して戦闘態勢に入る。
「みんなも、それになにより、なぎさは僕が守る」
「私だって、龍一に守られてばかりじゃないんだから!」
雷光の拳士と白銀の剣士。その目に熱き闘志が宿る。
これだけ頼もしい仲間がいれば、負けるはずがない。そう自身を鼓舞して。
――頼んだぞ、零二!
絶対的な消滅を掻い潜った鎧を、神速の拳が殴り飛ばした。
【Reiji Side】
「サクラ!」
本殿の扉を押し開け、探し求める相棒の名を叫ぶ。
すると、暗闇の中に灯が点り視界が開かれる。
「………!」
その先。賽銭箱の前に、見慣れた金髪の少女が裸身のまま横たえられていた。
それはこの場の雰囲気もあって、どこか供物のようにも見える。
「……やっと来たんだね、零二」
気配もなく背後からかけられた声に振り返る。
その声、そしてその姿。それはここにいるはずのない少女のもの。
だが、零二に驚きはなかった。
「やっぱりお前もいたのか……美樹」
昔からの幼馴染みで、かつての恋人で、今もかけがえのない友人。
水坂美樹がいつもと変わらぬ笑顔でそこにいた。
「いや、正確には違うな。美樹の皮を被った誰か、か?」
「それも分かっちゃうんだ。やっぱり零二は凄いね」
今、目の前にいる美樹はどこからどう見ても、一部の隙もなく水坂美樹そのものだ。
だが、零二には今まで見てきた偽物と同じ、空虚さをその美樹からも感じ取っていた。
「一応、お前もサクラの友達だからな。それに〝召喚せし者〟が揃っていないこの世界で、逆に一般人のお前がいても不思議はない」
美樹は応えない。ただその微笑が肯定を示している。
「サクラが友達だと思っていて、かつこの『悠久の幻影』で合流できなくても誰も気にしない人間。二つの条件を満たしているのは九理と、あとはお前くらいだろう?」
「正解。本物の私は今頃寝てるだろうから、安心していいよ」
零二の推理に満足したように頷く。
だが、そこで零二はさらに一つの問いを投げかける。
「本当に、美樹だけか?」
「え?」
余裕だった美樹の顔が凍りつく。零二は「やっぱりな」とため息を吐く。
「眠っているのは美樹だけじゃない。俺、いや俺達も、なんだろ?」
「どう、して……?」
驚く顔も細かな挙動も、本物の美樹と寸分たがわない。
だからこそ、零二は自分の考えに確信を持てた。
「最初におかしいと思ったのは、偽物の紗雪と里村だ。あいつらにはと気配とかがまったくなかったからな」
たとえ偽物でも、そこにいるなら生命力なり気配なりで存在しているということが感覚的にわかる。
だがあの二人には、そういった存在感と呼べるものがなかった。
「それで最初は幻影かとも思った。この空間に質量のある幻を生み出す効果がある、とかな」
しかし、本来それで納得できるところを、零二は小骨が喉に引っかかったような不快感から納得できずにいた。
「それから、思い出したんだよ。この『悠久の幻影』になって最初に〝復元する世界〟を使ったときのことを」
生垣の枝を再生した時に覚えた妙な違和感。
「今思えば簡単だ。あの枝も、見た目は治ってるように見えたけど、そこに存在している感じがなかったんだ」
偽物だけでなく、そこに生えた木すら幻影だとするなら、答えは一つ。
「この世界そのものが幻……夢の中なんじゃないか、ってな」
美樹は黙っている。その顔は逆光になって表情を読み取ることはできない。
だが、
「……ぷっ、あは、あはははは。うん、やっぱり零二には全部ばれちゃったね」
美樹は笑った。愉快げに、心から楽しそうに。
「それがお前の能力なのか?」
「そう。幻影を見せる力と夢を結ぶ力――〝
それは幻影を司るの王の名前。
美樹――『
「目的はなんだ。サクラを媒介に俺達を集めた理由は?」
「もちろん、戦ってもらうためだよ。サクラちゃんを選んだのは、この島にいる〝召喚せし者〟と一番仲良くしていたから」
『そこに在らざる影』は、いつの間にかサクラの横へと移動していた。
「私の夢を繋ぐ力は親しみを持つ相手しか呼び出せないの。それに精神的に参っちゃってるほうがアンテナになってもらうには都合がよかったし」
たとえばこれが紗雪なら、天敵である紅葉を呼び寄せることはできなかった、ということだろう。
さらに料理に失敗してへこんでいたサクラは、『そこに在らざる影』にとって最高の媒介に見えたはずだ。
「私は影で幻。ここにいるけどどこにもいない、夢の中でしか生きられない。だから現実の身体が欲しかった」
「なるほど。読めたぜ、お前の目的ってやつが」
実体なき存在『そこに在らざる影』が現実で活動するための依代。その候補として零二たちは集められたのだ。
夢を夢と思わず死ぬというのは、すなわち心、精神の死。
抜け殻になったその器を自らの身体にする、そのための箱庭がこの夢の世界。
「けど、実際そううまくはいってないみたいだな」
「それはね。やっぱり〝超能術師〟レベルじゃ〝召喚せし者〟の相手は難しいよ」
幻影は所詮幻影ということか。
「この夢はここに呼び寄せたみんなの記憶でできているの。それは零二たちと戦った幻影も同じ。本体である私はそれなりに真似もできるけど、他のみんなは見た目だけ」
「わざわざ本物にぶつけてきたのも、自分の能力を理解しているだけ正確に再現できるからか」
仮に零二が一人で紅葉の幻影と戦っても、正確に〝七つの大罪〟の能力をイメージすることはできない。七つのどれがどの罪を与えるか把握しているのは紅葉だけだからだ。
逆にその場に紅葉がいれば、無意識にその攻撃が持つ意味を意識するため、夢でリンクした全員に同じ結果をもたらす。
「サクラちゃんをそのまま乗っ取らなかったのも、サクラちゃんの器が私には大きすぎたから。零二も凄く強い魔力を持っているけど、それとは格が違うの」
サクラの頬をそっと撫でる。一瞬反応したけれど、サクラは目覚めない。
「それで、俺達を帰すつもりは?」
ダメ元で訊いてみる。美樹は笑って頭を振る。
「今の零二はここが夢だって気づいてるから、死んでもそのまま目覚めるだけ。でも、他のみんなはそうじゃない。だから……」
ふっと右手を振るう。するとそこから猫が飛び出した。
「私の目的が済むまで、零二はここにいて」
猫は零二の足元で大蛇の姿になり、その体を締め付けた。
「足止めか」
「ごめんね。でも私も邪魔はされたくないの」
本当に申し訳なさそうな顔で謝る『そこに在らざる影』
嘘偽りのない謝罪に、けれど彼女は歩みを止めない。
「言っておくけど、〝復元する世界〟は使えないよ。どのイメージを反映するかの決定権は私にあるから」
「だから、今さらあいつらの能力を封印するわけにもいかないんだろ?」
既に零二ほどではないにしろ、全員が違和感に気付いている。もしここでさらなる違和感を与えて夢だと気付かれれば、計画が水の泡になる。
だから消耗戦に持ち込むしかないのだが、それだけ長い間ここにいれば真実に行き着く可能性も高くなる。
『そこに在らざる影』の計画は、かなり綱渡りと言わざるを得なかった。
「それでも、そこに可能性があるなら私は……」
「そうか……」
説得は無理。零二も身動きはとれないし、そもそも姿だけとはいえ美樹を攻撃するのは気が引ける。
「なぁ、今の俺は半分起きてるようなものなんだろ?」
「そうだよ。言ってみれば白昼夢みたいなものだね」
その言葉に零二は笑みを浮かべる。
「そうか。それなら――」
意識を集中。魔力の深奥へ心を沈める。
「――これでどうだ」
零二を中心に、蒼い魔力が迸った。
【Ryuichi Side】
「っ、なんだ!?」
鎧の軍勢を相手に奮闘していた龍一は、ふいに止んだ大群の侵攻に警戒を強める。
未だ残る鎧たちも、その場でぴたりと静止し動く気配もない。
「ひょっとしてこりゃ……」
「れーじがどうにかした、ってこと……?」
紅葉と霧崎が顔を合わせる。
「……上!」
周囲を見渡していた紗雪が頭上を示す。
「あれは……」
「ヒビ、かのう」
天球に走る亀裂。そこから空間が崩壊しはじめていた。
「あらあら。零二くんってば、豪快な方法で解決させたみたいね」
「か、会長~。なんでそんなに余裕なんですか~?」
崩壊は亀裂の拡大にあわせて加速度的に進む。
「こりゃ逃げなあかん! ってどこにや!?」
「とにかく本殿の方へ――」
と、龍一が言いかけて。
足元がふっと消滅した。
「なっ!?」
「ちょっ、れーじ恨むわよぉ!」
「あれ、飛べない?」
「さて、どうしたものかの?」
「……とりあえず、あとで説教だろうな」
底の見えぬ深淵へ落ちながら。
いつの間にか全員の意識も闇に飲まれていた。
【Reiji Side】
「何をしたの!?」
驚愕に目を開いて、『そこに在らざる影』が尋ねる。
零二はこともなげに答える。
「戻したのさ。お前が夢を繋ぐよりも前に」
「嘘。だって〝復元する世界〟は――」
単体へ作用する事象の巻き戻し。それが零二の能力だったはず。
こんな結界級の能力に対して影響を及ぼすものではないし、そもそもなぜ能力を使っているのか。
「――〝
それは零二の能力の根源。
あらゆる事象を巻き戻す力。戻った先にあるのは、すべての始まりである無。
この夢の中で能力を使うのではなく、『そこに在らざる幻影』の能力をかけられていることを利用した、現実からのアプローチ。
終わらない幻夢の舞台に幕を引く終焉の光。
「そんな……」
「諦めろ。もうすぐこの夢も消える。お前がどうなるかまではわからないけどな」
自身を拘束していた蛇も消え、零二は『そこに在らざる影』に歩み寄る。
「俺もダチを見捨てるわけにいかないからな」
「……うん。知ってる。零二はそう、昔からどんな時でもびっくりするような方法で解決しちゃうんだよね」
美樹の顔が微笑む。寂しさを隠しきれぬまま。
「あーあ。失敗しちゃった」
世界が崩れるのに合わせ、『そこに在らざる影』もまた、手や足の先から砂のように崩れていく。
「悪いな」
「零二が謝ることじゃないでしょ。これは私が自分でやったことなんだから」
既に半分が消えた姿で、『そこに在らざる影』は振り向く。
「たぶん、私が消えても夢は完全には解けないと思う。だからサクラちゃんを……」
「おう。そろそろ叩き起こさないとな」
勝者と消えゆく者の会話とは思えないが、それでも二人は笑っていた。
「じゃあね。……最後に。サクラちゃんは幸せ者だね」
その言葉を残して、『そこに在らざる影』と夢の世界は音もなく消えた。
後には零二とサクラだけが残った。
「おいサクラ、起きろ」
ぺちぺちと頬を叩く。柔らかい。
「ん~」
しかし身じろぎしただけでそのまま眠り続ける。
「おら、起きろへっぽこ」
軽くつねってみる。餅みたいな弾力。
「んにゅ~……ますたぁ、もう朝ぁ?」
寝ぼけた様子で、しかしそれでも目は開かない。
「まだ夜だ。いいからさっさと起きろ」
「ん~、マスターのイケズぅ」
渋々といった態度で目を覚ます。
「? あ、あれ? 服着てないんだよ!?」
「あ」
そういえば、ここに来たときからサクラは全裸だった。
「もぅ、寝てる間に脱がさなくても、マスターが言ってくれたら私……」
「ていっ!」
「痛ぁ!」
調子に乗って体をくねらせるサクラにチョップを喰らわす。
「いいからさっさと着ろ」
「はーい、なんだよ。んしょっと」
魔力で服を生成。そうして立ち上がる。
「ところでマスター、ここどこ?」
「あー。そりゃたぶん、夢の中、か?」
「あれ、私今起こされたよね?」
「いいから、ちょっと手伝ってくれ」
何もない黒一色の空間。
その中で、天頂に赤く光る点を見つける。
「あれか」
「あれ?」
「サクラ。あれを撃ち抜けるか?」
「えっ。うん、それくらい簡単なんだよ!」
「よし、それじゃ思いっきり頼む」
しかし、サクラは「うーん」と悩んだ風で、いつもの構えを取らない。
「ねえマスター」
「なんだ?」
「正直に答えて欲しいんだよ。……マスターにとって、私ってなに?」
「は?」
なんとも抽象的な問い。しかしサクラは真顔だった。
「そりゃ、俺にとってお前は二心同体のパートナーで、頼りにしてる相棒で……なにより大切な恋人、だろ」
「でも、私はマスターの武器で、人間じゃないんだよ? それでも?」
――ああ、なるほど。
サクラのいつものあれが始まったと、零二は苦笑して、サクラの頭をわしゃわしゃ乱暴に撫でる。
「わわ、マスター!?」
「お前な、前にも言ったろ。俺はお前が好きで、お前じゃなきゃダメだって」
「でも、私マスターのためになにもしてあげられないし……」
「今すぐじゃなくていい。一ヶ月でも一年でもかけていいから、少しずつ上達すればいいだろ」
「そう、なのかな……」
「そうだ。紗雪もそういうだろうさ。あいつもお前の世話を焼くのは嫌いじゃないみたいだしな」
そしてその言葉は、そっくり零二にも言えることだ。
サクラとの生活は始まってまだ二ヶ月も経っていない。これから先のほうがずっと長いつきあいになるのだから。
ゆっくり自分達のペースで進んでいけばいい。
「……えへへ。わかったんだよ、マスター!」
「よし。それじゃその元気で一発やってくれ、サクラ!」
「うん!」
略式の服が正装へ変化する。
二人を中心に桜色の魔力が渦を描く。
「あ、そうだ。マスター」
「ん。どうし――」
いきなりサクラの顔が正面に現れる。
唇に柔らかい感触。
「……ん、ぷはっ。充電完了なんだよ!」
魔力が暴風のように舞う。それだけ気合が入っているということだが……
「ったく、だったら本気で一撃ぶっ放せ!」
「もちろんなんだよ!」
手を真上に掲げる。狙いはあの赤い光。
「〝
手のひらに魔力が凝縮される。
それは九つある世界、その一つを滅ぼすと語られる、終末の魔導砲。最高位の神話魔術。
「――〝
解き放たれるは、無垢なる桜色の閃光。
絶大な威力を誇るそれは、天頂の赤星をいともたやすく貫いた。
黒が砕け、世界が白で包まれる。
「さて、これで終わりか。よくやったぞサクラ」
「マスターの剣として、当然のことをしたまでなんだよ!」
そういうサクラは目に見えて誇らしげだ。
「それじゃ帰るぞ。俺達の家へ」
サクラの手を取る。〝穢れなき桜光の聖剣〟の影響か春の陽だまりのように暖かい。
「うん! マスター。私頑張るからね!」
並んで歩みを進める。二人の視界がやがて白に包まれ――
【Epilogue】
「マスター、何か私にもできることないかな?」
――ん、あれ?
気が付くと、零二は食卓に着いていた。
「兄さん、どうかしたの? ぼーっとしてる」
紗雪が心配そうに見つめてくる。どうやら今は朝食の途中だったようだ。
「いや、なんていうか夢を見ていたような……」
「兄さんまだ寝ぼけてる」
苦笑して食事を再開する。
内容は忘れてしまったが、ひどく長い夢を見ていた気がする。
「マ・ス・ター! 無視しないで欲しいんだよ!」
サクラがずずぃと詰め寄ってくる。
「あ、あぁ。そうだな。っていっても家事はもうだいたい済んでるしな」
買い物も掃除も休日だった昨日までにあらかた終わらせている。
ふと、サクラに夕飯を任せるというアイディアが浮かんだが――
「よし、サクラ!」
「はいっ」
「……今日の夕飯、お前は紗雪の補佐をすること。わかったか?」
「……え?」
「兄さん?」
呆気にとられる二人。
「サクラ。お前もまだできないことは多いだろ?」
「う、うん」
「だったら、今から少しずつ覚えていけ。俺も紗雪も教えてやるから。それでちゃんとできるようになったら、いろいろ任せるから」
「そ、それでいいのかな?」
おそるおそる紗雪を見る。そんなサクラに紗雪は慈愛の籠った笑みで頷いた。
「大丈夫。サクラちゃん頑張り屋さんだから、きっとすぐに覚えられるよ」
「うん! 紗雪ちゃん先生、またお願いしますなんだよ!」
はしゃぐサクラを見て、零二はふと思う。
――ま、これが俺達なりのやりかただよな。
ようやくたどり着いた平和。ゆっくり進んでいけばいい。
焦らなくても、まだまだ時間はたくさんあるのだから。
【Ichigo Side】
「やれやれ、こんなものがまだ動いておったとはな」
「それは?」
「『
「それで結果は?」
「まぁ全滅と言ってよいじゃろ。せいぜいが〝見習い術師〟レベルで私と同程度に至るものは一つとしてなかったからの」
「お前を引き合いにだすのは間違っている気がするが……」
「とにかく、この機械はさっさと破壊せんとの。……む」
「どうした?」
「いや。どうもこれから零二の気配を感じた気がしての。まあ気のせいじゃろ」
「そうか。それでこの宝石はどうする?」
「とりあえず封印して私のほうで保管しておこう。……しかしこんなもの、アウロラの滝なんぞに誰が持ち込んだんじゃろうな?」
【あとがき】
ここから先は作者の自己満足的な駄文です。本編とは全く関係ないので興味のないかたはそのまま読み飛ばしちゃってください。
最初に謝っておきます。海美ファンの皆様と美樹ファンの皆様、すいませんでした!
えー、はい。では改めまして初めまして。
このたびはfortissimo//Ein vergessen erzählungをお読みいただき、大変ありがとうございました。
ちなみにこれ、私自身が今までに書いた作品の中で最長です。高校大学と文芸部でしたがこれの半分にも届きませんでしたよ(400字詰め原稿用紙34枚、字数でいうとおよそ29000字。どう考えてもSSじゃなくて短めの中編くらいの長さですって)。
おまけに真面目に二次創作に取り組んだのってこれが最初なんですよね。しかも今回プロットの類もなし。うわーよく考えたらすごい恥さらしな気がしてきた……
気を取り直して。
今回は大好きなfortissimoの創作コンクールということでしたので、少しばかりやる気を出し過ぎてしまったかなー、と。
ちなみにぶっつけなのですが、書き上げるのに10日ちょっとかけたので結構書き換えたりした部分はあります。
あと、最初は春香や比嘉姉妹を出して紅葉を精神的にフルボッコにする案もあったのですが……タイミングがないのと「海美と美樹のファンだけじゃなくてfortissimo人気ナンバーワンの紅葉ファンまで敵に回せるか!」ということで没にしました。
碌な推敲もしてないので、お見苦しい文章だとは思いますが、ご容赦願いたいところです。
今回これを書くにあたって悩んだことを幾つか。
まず一番は創世の扱いですね。出すか出さぬか、出すにしても口調とかはどんな風にすべきか、と。
アクエリアンエイジで思いっきりネタバレかましてたんで出すことにしましたが、原作に創世の日常描写がほとんどなかったのでかなーり当たり障りのない感じに……
あと、表現で少しばかり。読者さんは基本知識やルビは知ってる前提で書くか、それとも一見さん向けに簡単な説明も入れるか。
最終的に後者で決めました。でもこんなネタバレ全開の二次創作、未プレイで読む人いるんでしょうか?
あと、本編にできるだけからまないようにするにはどうしたらいいのかとも。まあその結果が夢オチ(?)になっちゃいましたが。
ちなみにサブタイトルのEin vergessen erzählungはドイツ語で「忘れられた物語」になります。みんな忘れてるので問題ないっていう。
あとまぁ、夢の中ならだいぶ原作と矛盾が出来てもごまかせますし(身もふたもない)。
それと、今回はいわゆる「誰のルートでもない」ではなくあえてサクラルートの後という形にさせていただきました。
これから頑張って練習して、一年後にはサクラも上手なお弁当が作れるレベルに至るわけです。
あ、でもおまけ小説はサクラルートではないから若干矛盾が……
暴走巫女の話。
今回海美に頑張ってもらいました。
原作プレイ時も思いましたが彼女の能力って仲間よりボス向きなんですよね。今回は独自解釈で超強化させちゃいましたが……夢だから問題ないよね!
ちなみにあの鎧姿のイメージは某バーサーカーと某赤龍帝(覇龍)です。
俊介は犠牲になったのだ……海美を暴走させる、その犠牲にな。
戦闘描写の拙さは……精進したいところです。はい。
オリキャラのこと。
今回調子に乗ってオリジナルキャラを出してしまいました。といっても姿は既存のキャラですので、オリジナル能力といった方が正しいですが。
ウトガルデロック、ウートガルザ・ロキと言ったほうが一般的でしょうか。幻術を操る巨人の王と伝承にはあります。
原典ではトールとよく絡むのですが、今回龍一との接点はありません。猫と蛇はありますけど。
もう一つのワイナモイネンは竪琴によって奇跡をおこした詩人から。
もともとオリジナルで使おうと思っていたのを流用してみました。漢字表記は九理にならってクトゥルー神話からに変更しましたが。
人気投票について。
今回のこれ、公式の人気投票とリンクしているわけですが。
このあとがき書いてる時点で速報の上位12人、全員登場してるんですよね(汗)。
創世(謎の男)と陽菜子はともかく、トップの順位にまるで影響しないっていう。
いいんです。そりゃ私だってサクラが一番好きですし、彼女だけ出てくるようにして短いのたくさんかけば順位に影響するでしょう。
でもそうじゃないんです。サクラがいて、サクラのマスターである零二がいて、零二の仲間である龍一たちがいて初めてfortissimoの世界があると、私個人としてはそう思ってるんです。だから一人のキャラに焦点を当てても、作る側も読む側も面白くないと思うんですよ。
ちなみに最初はサブキャラ含め全員出す計画もありましたが、それはさすがに無理があるな、ということで「サクラの友達」で妥協しました。
っていうか漫画版と小説版のキャラは枠ないんですか? あとまお太も。
あ、あと男性キャラなら零二と霧崎が好きです。今回霧崎が出てるシーンは書いてて楽しかった。三枚目はいいものです。
最後に。
ここまで長々書いてきましたが、興味を持って読んでくださった方々を満足させることはできたでしょうか?
最後まで読んで下さった方には本当に頭の下がる思いです。
これを機に少しずつでも上達しながら、創作活動を続けていけたらいいな、と思っています。どこかで見かけられましたら暖かく見守ってやってください。
それでは読者の皆様、並びにfortissimoシリーズと開発スタッフの更なる発展を願って。
またどこかでお会いしましょう。それでは!
8/15更新
気が付けば閲覧者数も400を越えていました。目を通してくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
結果は落選でしたが、良い経験になりましたしtwitterで神夜氏とも少しお話させていただきました。本当にありがとうございます。
今回のあれこれを、次の創作に生かしたいと思います。
6/26更新
この作品を投稿してから一年と数日が経ちました。
この作品も1000人以上の方の目に止まったようで、恥ずかしいやら、誇らしいやら……
私はただいま完全オリジナルの作品を執筆中です。機会があればこちらの方にも投稿してみようと思いますので、もし見かけられたその時はどうぞ一読お願いいたします。
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
突然発生した『悠久の幻影』に現れるもう一人の自分。サクラ不在の中零二たちの運命は!?