No.439664

Masked Rider in Nanoha 十三話 決着

MRZさん

転生機能を使い甦る邪眼。それでも光はもう闇に屈する事なく輝きを放つ。
なのはとフェイトの魔法が邪眼を貫く時、アギトとクウガの技もまた炸裂する。
光と闇の最初の戦い。その幕が落ちようとしていた……

2012-06-20 12:11:16 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3451   閲覧ユーザー数:3311

「転生機能を……」

 

「こ、こいつが……」

 

 はやての口から語られた事実。それを聞き、なのは達は愕然となった。転生機能を邪眼が得ている。それはもう邪眼を倒す事は出来ないと告げられたようなものだったからだ。

 しかし、もうそれで絶望するなのは達ではない。そう、いるのだ。不可能を可能に変える存在が。その証拠に、彼らはそれを聞いても諦めたようには欠片も見えない。

 

「倒せないのなら、倒せるまでやるだけだ!」

 

「そう。みんなで力を合わせれば、絶対に大丈夫!」

 

 アギトの言葉にクウガが続いて断言する。両者共、邪眼から視線を外さずサムズアップをなのは達へ向けて。それに全員がサムズアップを返す。その表情はみな凛々しい。

 その雰囲気に邪眼は苛立ちを隠せない。誰も不安や恐れを抱かない。自分が再生したのにも関わらず、それを意にも介さないクウガ達。絶望を叩きつけても尚、希望の灯を消さない仮面ライダーという存在へ。

 

「おのれおのれおのれぇぇぇぇ!!」

 

 有らん限りの声で周囲を威嚇する邪眼。それに対し全員が構える。恐れはしないと。全員の姿勢が、瞳が物語る。決して闇に屈したりしない。その想いをありったけ込めた心が、その全身から希望という名の光を放つ。

 

「転生するのなら、その能力を封印すればいい!」

 

「そうよ。ロッテが言う通りだわ。クウガの力なら……絶対に!」

 

「そうだな。仮面ライダー、援護する。必ず邪眼を封じてくれ!」

 

 ロッテ、アリア、クロノの三人が邪眼に啖呵を切るように声を掛ければ―――。

 

「翔一、お前の援護は我らに任せろ」

 

「おう! しっかり助けてやっからな!」

 

「安心して戦って」

 

「ヴォルケンリッターの名に賭け、勝利への道を切り開く!」

 

 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがアギトを励まし―――。

 

「アタシらがついてるから、しっかりやんなよ、雄介!」

 

「僕らも全力で支えます!」

 

 アルフ、ユーノがクウガへと声援を送り―――。

 

「翔にぃ……五代さん……絶対、絶対勝つって信じとるから!」

 

「うん。私達も出来る限りの無理をします!」

 

「だから、頑張って! 仮面ライダーっ!!」

 

 はやて、フェイト、なのはが二人に向かって想いを託す。

 

 そして、それを受け取りクウガとアギトは力強く頷いた。その手に見せるはサムズアップ。絶対の安心感と信頼を与える仕草。それを見た全員が即座に動き出す。邪眼への対応は既に分かった。だが、うかつに手を出せない事には変わりない。

 だからなのは達がやや慎重に邪眼の周囲に展開した。電撃を考慮し、いつでも避けたり逃げたり出来る距離。それをそれぞれが測っていた。

 

 そんななのは達と違い、クウガとアギトは邪眼に対し攻撃を開始した。格闘戦を挑むものの地力ではやはり邪眼にやや分がある。だが、それを二人も分かっている。

 だからこそ邪眼を挟み込むようにして対峙していた。クウガが正面に、アギトが背面に回り邪眼に攻撃を仕掛けていたのだ。

 

 クウガの蹴りを受け止める邪眼。だが、その直後にアギトが足払いをかける。それに邪眼が体勢を崩しかけたところでクウガが残った左足で蹴りを放つ。その衝撃で邪眼がややよろめいたのを見てアギトが跳び上がり、右足で蹴りを叩き込む。

 それでクウガが更に攻撃を仕掛けようとしたところで、邪眼が手を突き出し電撃を放った。それをまともに喰らいクウガが飛ばされる。

 

「ぐっ!」

 

「五代さんっ!」

 

「貴様もだ!」

 

 そんなクウガへアギトが一瞬意識を向けたのを見逃さず、邪眼がアギトへも電撃を放つ。それを同じようにまともに受け、アギトも大きく飛ばされる。更に追撃をかけようとする邪眼だったが、そこへ青い閃光が走った。

 それを受け僅かに体を揺らす邪眼。そして、その攻撃が来た方へ視線を向ける。そこではデュランダルを手にしたクロノが目付き鋭く構えていた。ブレイズキャノンを使ったようで、その顔には険しさが見える。

 

「大丈夫か、津上翔一っ!」

 

「助かったよ、クロノ君!」

 

 邪眼がクロノへ注意を向けた隙を突いて、アギトは体勢を立て直し邪眼と距離を取っていた。それに邪眼が気付いた瞬間、クウガが再び立ち向かった。飛び掛りながらのパンチが邪眼に当たり、そこから更に左、右と腹部へ拳と打ちつける。

 そんな中、ユーノはずっとある事を考えていた。邪眼が使った魔法とその無力化についてだ。邪眼は何故かプラズマランサーではなくフォトンランサーを使っていた。今のフェイトはプラズマランサーを使っているにも関わらずだ。

 

(何故だ? どうして威力の低い魔法を……それになのは達の魔法を合わせた時も何故か無力化していない。この共通点は…………そうか! そういう事かっ!)

 

 ユーノが気付いたのは思考の死角。勝手に思い込んでいた発想。それに気付きユーノは叫んだ。それが現状の打破に繋がると信じて。

 

「なのは! フェイト! 邪眼は蒐集以後の魔法は使えないし無力化出来ないっ!」

 

「え?」

 

「どういう事、ユーノ君」

 

「つまり、蒐集された後から使えるようになった魔法には対応していないんだ! さっきの合体魔法を無力化出来なかったのはフェイトが蒐集後の魔法を使ったからだ! それにプラズマランサーやアクセルシューターを使ってこなかったのもその証拠だよ!」

 

 それを聞いたなのはとフェイトに変化が現れた。先程までは牽制や支援ばかりを考えて動いていたのが途端に攻撃に移ったのだ。

 言われた通りアクセルシューターやプラズマランサーなどを主体に邪眼を攻撃する二人。それを邪眼は受け止めもせず、電撃で相殺したりかわしたりするだけだった。

 

(本当だ!)

 

(これなら……やれる!)

 

 手応えを感じて表情をより凛々しくするなのはとフェイト。そこでなのはは思い出す。それは、まだフレームが完璧ではないから使ってはいけないと言われたもの。その名は、エクセリオンモード。最大出力を出す事が出来るが、制御に失敗すれば現状ではレイジングハートが壊れてしまうという諸刃の剣。

 大切な相棒とも言えるレイジングハートを危険に晒す事は出来ない。そう思い別の手を考えるなのは。だが、そんななのはの心を読み取ったのかレイジングハートが声を上げる。

 

”マスター”

 

「どうしたの?」

 

”エクセリオンモードを使ってください”

 

 驚くなのはにレイジングハートは告げる。確かに制御は難しいがなのはならやれる。そして、自分を信じて欲しいと。そう言われてもまだ決意を決められないなのはだったが、そこにレイジングハートがこう断言した。

 

”信じてください、マスター。私を、そして貴方自身を”

 

「レイジングハート……うんっ!」

 

 なのははその言葉に感謝し、力強く告げた。

 

「エクセリオンモード、ドライブ!」

 

 それに呼応し、形を変えるレイジングハート。更になのはは続けた。

 

「エクセリオンモードACS、ドライブっ!!」

 

”ドライブ・イグニッション”

 

 ストライクフレームが展開し、その先端になのはの魔力光が刃を成す。そして周囲に光の羽を展開し、なのはは邪眼目掛けて突撃した。

 それを見てフェイトもザンバーを振り上げそれに続く。その途中でフェイトはバリアジャケットを薄くしていく。元々高くない防御力。それを極力下げる事で速度を求めたフェイトの決戦用の姿。その名は―――。

 

「ソニックフォームでなら……バルディッシュ!」

 

”ソニックムーブ”

 

 音速の名を冠する姿。それは確かにフェイトに従来以上の速度を与えた。更に高速移動魔法を使い、突撃するなのはへフェイトは追いつく。そこで一瞬だけ互いを見やり頷いた。

 

「ぬ?」

 

 そんな二人に気付いた邪眼だったが、既になのはもフェイトもその懐に入り込んだ。そしてそのままなのははレイジングハートの先端にある魔力刃を突き立てる。

 

「エクセリオォォォン……」

 

「な、何ぃ?!」

 

 知らぬ魔法攻撃に動揺する邪眼。フェイトはそんななのはの上に行き、ザンバーを両手で振り上げた。なのはに続けとばかりに。

 

「プラズマ!」

 

 その声に邪眼が視線を上げれば、ザンバーを大上段に構えたフェイトの姿がある。それを迎撃しようとする邪眼だったがその体が動かない。見れば、全身隈なくバインドで拘束されていた。その色は二色の異なる緑。シャマルとユーノの魔力光だった。

 

「させません!」

 

「二人共、今だ!」

 

 その言葉に頷くように二人の声が大きく響く。今の自分達に出来る最大の攻撃。それに全てを込めるかのよな叫びが。

 

「バスタァァァァ!!」

 

「ザンバァァァァ!!」

 

 二つの魔法が重なり合い、邪眼を襲う。その間にクウガとアギトはそれぞれ邪眼を封印すべく動いていた。アギトが必殺の蹴りを放つので、そこへクウガが封印エネルギーを込めた一撃を叩き込む事を決め、二人はそれぞれ散開する。

 なのは達の攻撃で邪眼が弱ったのを確認したからだ。まずアギトが動く。頭部の角―――グランドホーンが展開し、その足元にアギトの紋章が浮かび上がる。そこから前段階の構えを取り、その紋章がアギトの足へ集束されていく。それを感じ取り、アギトはその場から高く跳び上がり———。

 

「はぁっ!!」

 

 ライダーキックを放つ。幾多の悪を倒してきた必殺技だ。それが二人の魔法で大ダメージを負った邪眼へ追い打ちをかける。堪らず大きく後退し、膝をつく邪眼と着地するアギト。それを見たクウガが構えて走り出す。地面を踏み締める度にその右足が熱を増す。一心不乱に邪眼目指して走る。走る。走る。

 

「っ!」

 

 そして、その勢いを持ったまま両足で大地を力強く蹴り跳び上がった。空中で一回転し、そのままクウガはその右足で邪眼へ蹴り込んだ。

 

「おりゃあぁぁぁっ!!」

 

 それはマイティキックと呼ばれる必殺の一撃。しかも、ズ・ザイン・ダを倒した際の強化型。それが片膝をついていた邪眼を更に蹴り飛ばし、その体を大地に横たわらせる。地面に着地するクウガ。その右足から煙を出しながらも視線は邪眼へ注がれている。

 すると受けたダメージに耐えながら邪眼が何とか立ち上がった。その体に浮かび上がる封印の文字。それに全員の期待が注がれる。苦しむ邪眼。だがクウガもアギトもそれを見守りながらまだ気を抜いていなかった。

 

「ふぬっ!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「っ?!」」」」」」」」」」」」」」

 

 期待の眼差しが注がれる中、邪眼が気合を入れた瞬間文字が完全に消えた。全員がそれに驚愕し動きを止める中、それに即座に反応した者がいた。クウガだ。再び構え走り出す。それを見てアギトは何かを思いついたようにマシントルネイダーへと走る。

 それと同時にクウガが跳び上がり、邪眼へ蹴りを放った。それをあろう事か邪眼は叩き落した。その光景を見て全員に戦慄が走る。アギトとクウガの全力の蹴りを受けて尚、邪眼が封印されなかった事だけではない。あれだけのダメージを受けても邪眼がクウガを相手出来る事に驚きを隠せなかったのだ。

 

 しかし、その時クロノがデュランダルを掲げて告げる。まだ諦める訳にはいかないとの想いを込めて。

 

「悠久なる凍土。凍てつく棺のうちにて永遠の眠りを与えよ……凍てつけ!」

 

”エターナルコフィン”

 

 その唱えられた魔法は邪眼だけを完全に氷の中に閉じ込めた。それを見たクウガはクロノへ視線を送る。そこには疲れた表情のクロノがいた。魔力のほとんどを今ので消費したためだ。だが、それを知らないクウガでさえそんな様子に申し訳なく思うも、気にするなとばかりにクロノが見せたサムズアップにやや驚きながらも嬉しく思ってそれを返した。

 

「ありがとうクロノ君。助かったよ」

 

「だが、これもおそらく長くは持たない。五代雄介、何か手はないのか?」

 

「……フェイトちゃん、俺に魔法を当ててくれないかな?」

 

「え?」

 

「電気が……いるんだ」

 

 実は先程の一撃でクウガは金の力を使うつもりだった。だが、何故か金の力が発動しなかったのだ。クウガは知らない。それは、無意識で自身がそれをどこかで迷っていたためだと。邪眼が弱っていたため、もしかしたら恐ろしい金の力を使わずとも勝てるのでは。そう思った事が原因だったのだ。

 それを知らず、クウガはフェイトからプラズマランサーを受ける。その魔法の電撃は確かにクウガの中へ吸収された。それに全員が驚きを示したが、クウガは構わず氷付けになった邪眼を見据えた。今度こそ倒してみせる。その決意を抱いて。

 

「五代さん!」

 

「翔一君? どうしたの」

 

 突然聞こえた声に反応してクウガが振り向くと、そこにはスライダーモードのマシントルネイダーに乗ったアギトがいた。アギトはクウガの蹴りが邪眼に防がれたのを見て考えたのだ。これに乗って加速をつけ、その勢いのまま蹴りつければ更に威力が出ると。

 加えてクウガと同時に自分も蹴りを放つ事で今度こそ封印出来るはす。そうアギトは自身の考えを告げた。それにクウガも最後の一押しには最高だと判断する。金の力だけでも倒し切れない場合があれば、クウガには正直使える手がないにも等しかったのだ。

 

「……そうだね。それでいこう!」

 

「はいっ!」

 

「でも、氷が少し壁になるかもしれない」

 

 二人の立てた作戦を聞いて、ユーノは誰に言うでもなくそう呟いた。それにアギトが自信満々に告げる。

 

「俺に任せてください!」

 

 そう言ってアギトは普段の変身とは違う構えを取った。それは、右手を前に出してそこに左手をバツを作るように重ねるもの。それは彼の秘めたる姿への変身手段。強力な力を使える更なる姿の解放方法だ。

 

「変身っ!」

 

 その声でアギトの体が真っ赤に変わる。マイティフォームにも負けない程の赤。角も赤くなり、その体は先程よりも盛り上がっていて見る者全てに力強さを感じさせた。

 バーニングフォーム。アギトの新たな力であり、真なる力を封じている姿でもある。その名の通り、体は炎を纏っていて力と防御力は全フォームの中で一番を誇る。

 

「俺がこれで蹴ります! なら、きっと氷があっても……」

 

「貫ける……だね!」

 

 その声に全員が頷いた。ここまで来た以上、頼れるのは最早二人の仮面ライダーしかいない。その想いを込めて全員がクウガとアギトを見つめる。希望と信頼、そして期待。その輝きを確かに感じ、二人は頷いた。

 そしてクウガがマシントルネイダーへ飛び乗る。それを確認しアギトが上昇を開始させた。どんどん高く上がり、ある程度離れたところで一気に加速をつけ急降下させたのだ。

 

 その時、邪眼を閉じ込めていた氷が震動し始めた。それになのは達が振り向き、念話である事を伝え合う。そして、氷が砕けて邪眼が動き出そうとした。だが―――。

 

「くっ! 何だと?! 体が……動かんっ!」

 

「残念でした!」

 

「いくら貴方でも!」

 

「これだけのバインドは破れまい!」

 

 リーゼ姉妹とクロノが胴体を。

 

「観念しろ!」

 

「もう終わりだっ!」

 

「夜天の魔導書の悲劇も!」

 

「その過ちも全て!」

 

 守護騎士達が両腕を。

 

「お前みたいなのが巣食ったから!」

 

「闇の書なんて呼ばれたんだ!」

 

 アルフとユーノが両足を。

 

「でも、今日ここで!」

 

「私達が終わらせる!」

 

「だから勝って!」

 

 三人の魔法少女達が頭部を。それぞれが邪眼の体を完全に封じる。そして、そんな邪眼の視線の先には凄まじい勢いで向かってくる二人の仮面ライダーの姿があった。

 

「「「仮面ライダーっ!!」」」

 

 なのは達三人の少女の声が二人に届く。それを受け、二人は眼下に見える邪眼を見据え声を掛け合った。

 

「行くよ、翔一君っ!」

 

「はい、五代さんっ!」

 

 同時に跳び上がる二人。クウガはその最中、全身に電流を走らせ体を変化させる。それはライジングフォームと呼ばれるクウガの強化された姿への超変身。金の力ともいい、これは全フォームを飛躍的に強化するものだ。

 そして、その中でも一番強い力を誇るのが赤の金のクウガ―――ライジングマイティだ。空中で一回転するクウガとアギト。その姿勢を同じくし、邪眼へ向かって突撃していく。その姿はまさしく闇を焼き尽くす炎。

 

「うおりゃあっ!!」

 

「はあっ!!」

 

 二人はそのまま邪眼を蹴り飛ばし、反動で空高く舞い上がって大地に降り立つ。その先で邪眼は轟音を立て地面に激突した。舞い上がる砂煙。静まり返る空間。そして、ややあってからその砂煙が晴れていくと邪眼が立っていた。

 その胸を手で押さえ、ゆっくりとクウガ達へ向かって歩いていく。それを驚愕の表情で見つめるなのは達へ邪眼はゆっくりと残った手を構えた。電撃を放つために。

 

「残念だったが我は不滅よ。これで……ぐぬっ?!」

 

 だが、その時邪眼に変化が起きる。何故か後ずさると恐る恐る押さえていた手を離していった。するとそこには―――。

 

「文字が……浮かんでる」

 

 呆然とユーノが呟いた。そう、封印を意味する文字がくっきりと浮かんでいた。しかも、そこにアギトのマークも重なっている。

 

「ば、馬鹿な……こんな、こんな事が……」

 

 信じられないと言ったような邪眼の声。それは明らかに今までとは違うものだ。それに誰もが確信した。これで勝ったと。転生機能があるとしてもおそらく再生出来ないだろうとも。

 そう、文字を中心に邪眼の体にひびが生じていたからだ。それを見てクウガは小さく心から呟いた。

 

「これで……クウガがいらなくなるといいけど」

 

「え……?」

 

「死なん! 我は死なんぞぉぉぉぉ!!」

 

 それを聞いたのは隣にいたアギトだけ。すると、その呟きがキッカケのように邪眼が爆発していく。それになのは達は残った魔力を使い、防御魔法を展開する。そのまま爆発は周囲に広がり、灼熱の炎で包み込んだ。

 

 やがて炎が消え、周囲に落ち着きが戻る。そこへアースラから通信が入った。邪眼が現れてから今まで一切の連絡が出来なかったので、エイミィは全員の無事を聞いて安堵の涙を流した。

 

『良かった……本当に、良かった……っ!』

 

「エイミィ、気持ちは嬉しいがまだ邪眼の消滅を確認した訳じゃない。そちらで何か妙な反応がないか探ってくれないか?」

 

 涙ぐむエイミィへどこか笑みを浮かべながらもクロノはそう冷静に指示を出す。それを聞きながらはやてはユニゾンを解除した。いや、正確にははやての負担を無くすためにリインから解除しただろう。

 そのままリインの腕に抱かれる形ではやては安堵の息を吐き、その視線を彼女へと向ける。その顔は少し不安そうに曇っていた。邪眼の生存を恐れているのだ。

 

「リイン、どうや? あいつ、まだ生きとるか」

 

「……いえ、完全に消滅したようです。あの文字は奴の転生機能を封印、もしくは破壊したのでしょう」

 

「本当に……終わったんだ」

 

 リインの言葉にアリアがそう言ってその場に座り込む。それをキッカケになのはやフェイトも地面に座り込んだ。全員、疲労困憊という状態だった。だが、その顔は揃って笑顔だ。その視線も同じ者達へ注がれている。

 

「つっ……かれたぁ」

 

「ですねぇ」

 

 その相手―――五代と翔一は地面に寝転がっていた。その顔は疲れは見えるものの、どこか嬉しそうだった。そんな二人を見て全員が笑う。先程までとは大違いの雰囲気だったからだ。だが、それこそ二人らしいと思ってなのは達は笑う。

 そんな笑い声に二人も笑みを浮かべ、ゆっくりと体を起こして無言のサムズアップ。それに全員がサムズアップを返す。こうして後に闇の書事件と呼ばれる戦いは幕を閉じた。だが、それは新たなる戦いの幕開けでもある。

 

 そう、この戦いを後に関係者はこう呼ぶ事になる。『第一次邪眼大戦』と。

 

 ジェイルラボにある廃棄所。そこに置かれた一つのケース。その中に僅かに時空の歪みが生じて”何か”が入り込んだ。それは、そのケースの中身を取り込み、いくつもあった中身は最初からそうだったかのように一つになった。

 そして、それはそのまま静かに眠るように沈黙するのだった。闇は簡単には滅びぬ。そんな言葉がどこからか聞こえてきそうな雰囲気を漂わせて……

 

 その日、ジェイルの研究室に真司はいた。理由は一つ。今後目覚めるナンバースの事を相談するためだ。トーレに言われてから色々考えてはいるのだが、中々良い案が浮かばない。そのため、天才と自称するジェイルの意見を聞こうと思ったのだ。

 

「で、考えてきたんだけどさ」

 

 そう言って真司が見せたのは『セッテ、オットー、ディード淑女計画』と日本語で書かれた紙。さり気無く淑女の淑が訂正されている痕跡がある。間違えたのだ。

 ジェイルは既に日本語をある程度読めるようになっていた。というのも、真司が一向にミッド文字を覚えず、情報疎通に難があったためである。それにジェイルは目を通し、呟いた。

 

「……ふむ。淑女、ねぇ……」

 

「今、家にいるので近いのはウーノさんとディエチかな。チンクちゃんもそう言えない事もないけど、結構過激な部分もあるしさ」

 

 真司は訓練の時に受けたチンクのIS―――ランブルデトネイターの事を思い出しながら言った。あの爆発を自在に操り、真司に勝とうと躍起になるチンクに彼が内心で人は見た目によらないと改めて思わされたのはここだけの秘密。

 ジェイルは真司の書いた内容を見つめ、やや何か考えてから一言呟く。

 

「無理だね」

 

「そうそう、無理……って、おい」

 

「いや、何せセッテ達も戦闘型だよ? 元々から支援を考えて生まれたウーノやディエチとは異なるんだ」

 

 ジェイルは真司にも分かるように丁寧且つ簡単に説明していく。それは、三人のコンセプトと製作背景。更に、残りのノーヴェやウェンディに関しても話した。そう、残った少女達は皆戦闘機人の名に相応しい存在なのだと。

 それを聞きながら、真司は余計彼女達を人として生きさせてやりたいと思っていた。戦うために創られた命。だが、その使い方や生き方を決めるのはその本人だ。だからこそ真司は思う。様々な選択肢を教える事。それこそが自分がセッテ達にしてやれる唯一の事じゃないかと。

 

 そんな風に真司が決意を新たにしている時、ジェイルはジェイルで思う事があった。彼は今まで誰かのために動かされてきた。だから己のために世界を変えようと考えたのだ。しかし、真司と出会い、それが間違いだと気付いたのだ。

 

 本当に変えるべきは世界ではなく、自分。自分が変われば世界が変わる。そう気付くとどうだ。嫌々していた仕事は自身が好きな事をするための必要事項と思えるようになり、ただ体のためにと考えていた食事が今では三度の楽しみに変わり、研究しかする事がなかった生活に真司が持ち込んだ将棋―――考えとルールのみで、実際はチェスで代用―――を真司と指す事が加わり、趣味と呼べるものが出来た。

 

(世界を変革する力っていうものは、案外誰もが持っているんだろうね)

 

 今を懸命に生き、楽しもうとする。その生きる事の原点ともいえる考え。それに気付く者こそ世界を変えていくのではないか。そんな事を思いながらジェイルは笑う。それを真司は不思議そうに見つめる。

 今の話で笑うようなところはなかったからだ。そんな真司の視線にジェイルは何でもないと言って話を続ける。

 

「だから、三人を淑女には出来ないと思うよ。ま、不可能とは言わないけどね」

 

「そっか……じゃ、俺とりあえず頑張ってみるよ」

 

「くくっ、そう言うと思ったよ」

 

「ん? 何か言った?」

 

「いや、気のせいさ」

 

 いつもの表情でジェイルがそう言うと、真司はどこか釈然としないものを感じているようだったが、それでも頷いて部屋を後にした。その閉まったドアを眺め、ジェイルは呟く。

 

―――真司は、本当に見てて飽きないね。

 

 そう呟くジェイルの顔には心からの屈託のない笑みが浮かんでいた。

 

 

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A's編最終決戦終了。だが闇は消えず。ただ今は静かに眠るのみ。

 

クウガとアギトはこのまま海鳴には残りません。どうなるかは次回をお楽しみに。


 
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