No.439022

真・恋姫無双~推参! 変態軍師~ 第二話

マスターさん

第二話の投稿です。
一話の(仮)も外しておきます。
朱里と共に水鏡学院にまで来た北郷一刀。そこは大陸を代表することになる智者たちがお互いに研鑽する場であった。水鏡先生こと司馬徽に門下生にしては、という提案があったのだが……。

やりすぎでした。キャラ崩壊させ過ぎです。閲覧にはご注意を。詳しくは注意書きとあとがきにて。それではどうぞ。

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2012-06-18 21:54:27 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4033   閲覧ユーザー数:3372

 

 漢王朝末期。国は乱れに乱れていた。

 

 ときの皇帝である霊帝は政に一切の関心を見せず、官位の売買すら認めており、その許では十常侍と呼ばれる宦官により政治の実権を握られた状態であった。官匪の横暴により国は疲弊し、各地で民たちが喘ぎ苦しむ。

 

 史実によると、光和七年(百八十四年)に大賢良師張角による黄巾の乱が起こるのだが、これはその少しばかり前の時代である。大陸に不穏な空気が流れ始め、乱世の匂いが漂い始めた時期であった。

 

「……変身」

 

 荊州のとある屋敷の中庭にて、一人の青年が静かにその言葉を告げた。

 

 髪の毛は寝癖で少しだけ乱れているが、端正な顔つきの持ち主で、彼の身につける聖フランチェスカ学園の白い制服と同様に、日焼けしていない真っ白な肌はまるで女の子のようにも見える。

 

 北郷一刀。それが彼の名前であり、この物語の主人公である。

 

 彼が言葉を綴ると、彼の周囲の空間に俄かに異変が起こる。

 

 空を見上げれば雲一つない青空で、春風が心地良く肌を撫でるような好天にも関わらず、彼の周囲の空間だけはピリリと弾けるような電気が走る。それは瞬く間に彼の身体を包み込み、次の瞬間、彼の身体は眩いばかりの光に包まれた。

 

 その光の中で、一刀は己の身体が何かに包まれていくのを感じた。全身を覆う鎧はきっとどのような攻撃も通さず、彼の身に傷一つ付けることすら許さないだろう。だが、それだけの絶対の防御を誇りながらも、彼自身には何の重みを感じられなかった。

 

 溢れ出る力。

 

 それまで自堕落的な生活を送っていた青年には信じられないような圧倒的な力。

 

 拳を軽く握りこんだだけでも、巨大な岩を一撃で粉砕出来るだろうと確信した。弱気を助け、強気を砕く、そのような理想的な力を彼は手にし、またそれとは逆に、人が手にしてはいけない力を手にした自分に恐怖する。

 

 風のような身軽な身体。

 

 それまでスポーツなどが得意と思ったことは一度もない彼であるが、今は違う。

 

 鎧の重さどころか、体重すらなくなってしまったかのように思えた。今ならば鳥の様に大空を自由に飛ぶことも、今この場に流れる風と共に駆けることも出来るだろう。足が今すぐ駆けさせろと疼いているとすら感じられた。

 

 光が治まる。

 

 彼は一歩を踏み出した。

 

 光はゆっくりと淡い残光となり、その中から彼の全容が露わになる。漆黒に塗られた鎧は、明らかにこの時代に――否、彼が元いた時代にも存在せず、彼の身体にフィットしている。腰に巻かれたベルト、それこそが彼の力の源。

 

 これから始まるのは元の時代で過ごしたような平穏な日常ではなくなるだろう。

 

 この時代に忍び込む悪の化身との壮絶な戦い、身を切り裂かれんばかりの悲しみの連続、しかし、その非日常的な暮らしの中で、きっと彼は大きく成長することに違いない。多くの仲間と共に壮大な物語が始まるのだ。

 

 そう彼こそは……。

 

「俺……参じょ――ってあっれぇ!?」

 

 彼の素っ頓狂な声が中庭に響いた。

いや、勿論、そんなことが起こるわけもなく、彼の身体には何の変化もなかったのだが。

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。異世界に急に飛ばされたら、神様みたいな爺さんが突然現れて、『ゴメンゴメン、送る奴間違いたわ、てへぺろ』とか言ってチート能力くれるのが定番だろうがっ!」

 

 悔しそうに表情を歪めて、地団太しながら尚も続ける。

 

「変身出来て化け物みたいな力を手に入れたりとか、裸エプロン先輩みたいな能力を手に入れて俺無双出来るんじゃないのっ!? パラメータとかで全ての能力がSSで、しかも覚醒すると呂布とかも雑魚扱いとかそういうのはっ!?」

 

 そんな能力があるはずもなく、元の世界と同様、木刀すらまともに触れない貧相な身体であることに変わりはない。

 

「そうかっ! じゃあ魔法だなっ!? 氣という名の便利なあれだなっ!」

 

 魔法もありません。

 

「うっそっ! マジでっ!」

 

 絶望に打ちひしがれてその場に崩れ落ちる一刀。

 

 しかし、すぐに身体を起こして言った。

 

「わかったっ! チート能力や魔法は諦めようっ! だが、ここが古代中国ということを考えれば 宝具(パオペエ)だけは譲れないぞっ! やっぱり主人公らしく 打神鞭(だしんべん)がいいか、いや、 傾世元禳(けいせいげんじょう)でハーレムを作るのも――」

 

 勿論、ありません。

 

「もう嫌だお家帰りたい」

 

 完全に地面と一体化してしまった。

 

 どうやら自分が本当に三国志の世界に――しかも、自分の知る本当の三国志という訳でもない異世界に飛ばされたことが真実らしいということを知り、加えて自分に所謂チート能力すら備わっていないという現実を知った。

 

「くっそぅ……。一度でいいから変身とかしてみたかった。登場のときに厨二っぽい台詞も言ってみたかった。二重鍵括弧で『僕は悪くない』とか言いたかった」

 

 さてさて今にも涙でも溢しそうな表情を浮かべている北郷一刀はさて置き、彼の現状について振り返っておきたい。

 

 彼がいるのは荊州にある水鏡学院という私塾であり、この世界に来たばかりの彼は朱里こと諸葛孔明に出会い、この場に来たわけだ。そこで彼は朱里を含め、六人の美女、美少女に出会ったわけでだが、それからどうなったのか、以下は回想である。

 

 

「……くぁwせdrftgyふじこlp;@:」

 

 彼が彼女たちを見て発した最初の言葉である。

 

 舐め回すように一人一人の全身を隈なく全て余すところなく、それだけで妊娠させることが出来るくらいにじぃぃっと凝視してから、彼の瞳は二人の女性の前で止まった。拡大機能があるかのように、何度もピントを合わせ確認する。

 

「こ、これは……」

 

「ん? 孔明、そちらの御仁は? お前の知り合いなのか?」

 

「見知らぬ方ですねぇ~。着ているものも見たことないですよねぇ~、冥琳様?」

 

「ふむ……」

 

 冥琳と呼ばれた女性は、腰まで伸びる黒髪に理知的な顔つきが特徴的である。そのままメガネに指を添えて一刀の顔を見つめると、彼女の知性の豊かさが更に際立つ。彼女こそ後に孫呉の大都督として知られる周公謹その人である。冥琳とは彼女の真名である。

 

 隣に立つ冥琳とは打って変わってぽややんとした表情が可愛らしい女性は、名を陸伯言、真名を穏という。エメラルドグリーン色の髪と瞳の色が、更に彼女のぼんやりとした雰囲気に拍車をかけるが、その頭脳は正に大陸有数のものである。

 

 そして彼女たちには共通しているものがあった。

 

「何と峻厳な山々であることか……」

 

 一刀は絞り出すようにそう呟いた。

 

「ん?」

 

「ふぇ?」

 

 一刀の言葉に反応し、冥琳と穏がその身体を僅かに揺らせる。だが、それだけでも胸にある巨大な二つの果実が、その存在感をアピールするように揺れているのだ。しかも、二人は共通して胸から臍にかけて露出するような衣服を身に着けているのだから、一刀の視点に立てばその破壊力も分かるだろう。

 

「し、しかも 無防備(ノーブラ)……だとっ!?」

 

 ごはぁ、と一刀は驚愕に震えた。

 

 ――え? え? なにこれなにこれ? あれか? 露出狂の類か何かですか? それともここではこれが普通なの? 俺が異常なの? 間違っているの? 落ち着け、頭を冷やすんだ。π=3.14159――あぁっ! πってなんでこんなにエロいんだよっ! パイって何だ、パイってっ! しかも、数字の『3』が上から見たおっぱいにしか見えねーぞっ!

 

 完全に我を忘れて取り乱す一刀であるが、彼にもたった一つだけ分かっていることがあった。男として、北郷家に生まれた嫡男として、取り乱しながらも目の前の女性に対して感謝だけはしないといけないのだ。

 

「この世の全ての乳に感謝を込めて……いただきます!」

 

 目にも留まらぬスピードで彼は冥琳と穏に向かって――否、正確には冥琳と穏のおっぱいに向かって突撃を敢行した。身体全身でその温もり柔らかさを堪能しようと、既に掌は臨戦態勢に入っていた。

 

 それを誰も止めることは出来なかった。あまりのスピードに驚くばかりで、抵抗しようとする者すら存在しなかったのだ。

 

 ただ一人を除いて。

 

「ひゃっはぁぁぁぁっ! お乳は消毒――あべしっ!?」

 

 彼の隣に立っていた朱里の後ろに隠れるようにいた雛里と呼ばれた少女が、一刀のスピードすら上回る速度で彼の前へ躍り出ると、見事なまでの水平蹴りで足を掬い、彼はそのままの勢いで地面へと突き刺さったのだ。

 

「あわわ……おっぱい垂れろ」

 

 魔女っ娘帽子で顔を隠そうとしながらも、その奥に潜む瞳は冷気を放たんばかりに冥琳と穏を射竦めている。決して幼女に出来るような鋭い視線ではなく、冥琳と穏は戦慄に震えた。

 

「めめめめめ冥琳様~、士元ちゃんが、士元ちゃんが~」

 

「おおおおおお落ち着け、穏。軍師たる者、如何なる状況でも冷静に対処をだな――」

 

「あわわ……眼鏡割れやがれですぅ」

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 お互いの身体を抱き合いながら悲鳴を上げる二人。

 

「おやおやー、賑やかなところ申し訳ありませんが、このお兄さんの首があり得ない角度に曲がって、風がかつて見たことないようなくらいにビクンビクン痙攣してますけど、これは良いんでしょうかー」

 

「風っ! そんなこと言いながら、身体を木の枝で突くのを止めなさいっ!」

 

「おや? じゃあ稟ちゃんにもお兄さんのこの腰の突き上げっぷりを体験していただきましょうねー。はーい、お手てを貸してくださいねー」

 

「ちょっ、風、ダメっ、そんな、どこを……ぶはぁぁぁっ!」

 

「きったねぇ花火だな」

 

「こら宝譿、そんなこと言っちゃダメなのですよー」

 

 水鏡学院の門前はカオスを極め始めてきて、どうにも収拾がつきそうにない。

 

「はわわぁっ! はわわぁっ!」

 

 その中で一人だけ騒ぎの渦中にない朱里は、この場をなんとか自分が収めなくてはと謎の使命感に駆られていた。荒ぶる友人、怯える巨乳、吹き出る鼻血、それらの原因はおそらくは今にも天に召されようとしている一刀に違いない。

 

 どうすればよいのか、彼女は必死に考える。

 

 そこで、思い出したのだ。水鏡学院までの道中で一刀から教わった、異国の言葉を。彼曰く、その言葉を解き放つだけで、如何なる事象をもなかったことに出来るという。彼女は思い切り息を肺腑に入れ、叫んだ。

 

「はわわ……、『ふぃくしょんでしゅ』!!」

 

 その言葉が全てを救ったのだった。

 

 

 場所は再び、一刀がいた水鏡学院の中庭に戻る。

 

 ちなみに彼は一晩中昏睡状態であったのだが、奇跡的に意識を取り戻し、何の後遺症のないまま今に至るのだった。だが、あのときに何が起こったのかはほとんど憶えておらず、記憶にあるのは六人の美女、美少女と合計四つの果実だけである。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 口からエクトプラズムでも出るのではないかと思われるくらいに、盛大に溜息を吐いている。それもそのはず、彼が直面しているのは、異世界に来てしまったという非現実的な事象であり、自分の行く末すら定かではないのだ。恐怖を感じないという方が異常であり、さすがの彼であっても怖くて仕方がないのだろう。

 

「何故、憶えていないんだ。俺はこの手でおっぱいを触れたのか? あのむちむちぷりんの感触が脳みその奥の奥まで探っても思い出せない。こんなのってないよ、あんまりだよ……」

 

 前言撤回。

 

「それにしてもどうやら三国時代っぽいんだけど、これって結構やばいんじゃないだろうか」

 

 どうやら彼もやっと事の重大さに気づいたようだ。三国時代、正確には漢王朝末期であるのだが、冒頭の通りに今は大陸を乱世の雲が覆わんとしている時代。彼のような貧弱虚弱な男子高校生など、外に出てしまえば三秒でお陀仏である。

 

 彼を取り巻く状況はほとんど未知のものであり、どのようにすれば元の世界に帰れるのかすら分からないのだ。とりあえずはこれから先も生き延びるために、彼に備わる唯一の力を使わなくてはいけない。

 

 チート能力やら氣などといった都合の良い力に頼ることなく――さっき魔法のような言葉があったような気がするが、それは置いておいて、とにかく、そんなところで乳のことなどを考えてないで、考えることが始めるべきである。

 

「まぁ何とかなるっしょ。とりあえず――」

 

 と言って、彼はゆっくりと立ち上がると、屋敷の壁際に這うように進んでいった。

 

「風呂を覗こう」

 

 茂みに隠れて、見えないように細心の注意を払いながら、彼は壁に開いた穴を覗き込もうとする。さっきまで絶望感の漂う悲壮な表情はどこへやら、既に瞳を爛々と輝かせている。

 

「てか、覗くために中庭に来たんだっけ。どれどれー。くっ、湯気め、仕事しすぎだろう。昔はゴールデンタイムでも平然とおっぱい出してたぞ。ガキの頃にバカ殿で興奮したのは俺だけじゃないはずだ」

 

「ほーほー。それでお兄さんはどんな身体が好きなのですかー? やはり冥琳ちゃんや伯言ちゃんみたいなのが好みなのですかー?」

 

「はぁ? ふざけるな。乳に貴賤などがあるものか。語らせてもらえば長いけど――」

 

「じゃあいいです」

 

「聞けよ――って、おおぅっ!?」

 

 いつの間にか、彼の横に一人の少女が立っていることに気付き、彼は驚いた。

 

 全体的にふわふわした衣服を身に纏い、その可愛らしい金髪の頭頂部には何故か人形を乗せている。手には飴を持ち、自分の存在が気付かれたことに、ふふふと悪戯そうに笑う。

 

「君は……確か仲徳ちゃん……だったよね?」

 

 隣に立っていたのは程仲徳、真名を風という少女である。ちなみに彼が意識を取り戻してから、既にお互いに自己紹介などは済ませている。他の娘たちも同様で、身体が全快するまではゆっくりしていけと言われていたのだ。

 

「そうなのですよー。こんにちはです、お兄さん。ほれ、宝譿も挨拶をするのです」

 

「おうおう。よろしくな」

 

「こちらこそよろしく」

 

 宝譿の台詞に即座に挨拶を返し、固い握手まで交わす一刀。

 

「おや、お兄さんは宝譿がしゃべることを不思議に思わないのですかー?」

 

「はん、当り前だ。持っているストラップが話す女の子はとっくに攻略済みだぜ。あれ? そういえばあのストラップ、士元ちゃんと声が――」

 

「おっとそれ以上は言わせねーぜ」

 

 早く元気になって戻って来られることを切に願うばかりである。

 

「まぁいい。それよりもさっきの続きだ。いいか? 乳とはな、この世の全てを象徴するだな――」

 

「ほう、それよりも北郷殿。乳の話よりも、私はそこで貴様が何をしているかに興味があるのだがな」

 

「ああ、もう、邪魔するなよ。見て分かるだろ? これからおっぱい談義に華を咲かせながら、風呂を覗くに決まって――」

 

 話の腰を二度も折られ、少しイラつきながらも、声のした方に振り向くと、そこに立つ人物に背筋が凍る。

 

「ふむ、なる程、風呂を覗こうとしているのだな。確かに貴様はそう言ったな?」

 

 そこに立っていたのは冥琳であった。

 

 半目で一刀を見下ろす冥琳に対して、一度は見なかったことにしようとした一刀であるが、彼女から放たれる冷たいオーラを前にして、何とか逃げ道はないかと模索し始める。

 

「え? あ、いや、浮浪(者)を除こうとだな」

 

「ふむ、浮浪者か。ならば私が除いてやろう」

 

「こ、公謹さん? どうして鞭なんか……俺、まだ、そんなプレイは体験したこと――え? ダメダメ、そんなの無理――」

 

「問答無用だっ!」

 

「ひぎぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 一刀の悲鳴が中庭に響いた。

 

 

「らめぇ……そんな太いの挿入(はい)らないよぅ――んん?」

 

 目覚めると、そこは屋敷の一部屋であった。

 

 辺りを伺うと、少し広めの部屋に布団に寝かされていて、彼を意識不明の重体及び訳の分からぬ夢を見させた張本人である、冥琳を始めとして、朱里、雛里、穏、風、稟が勢揃いしていた。

 

 こんなところで何をしているのかと思っていると、パチン、パチン、という小気味良い音が響いていて、どうやら六人で何やら盤上遊戯(ボードゲーム)を楽しんでいるようだ。

 

「ん? おう、北郷殿、目を覚ましたか」

 

 一刀が意識を戻したことに気付いた冥琳が彼に声を掛けた。

 

「あ、あれ……? 何で、俺はこんなところで寝ていたんだ? それに公謹さんを見ると身体が急に震えて――」

 

「おぉっ! それはきっと恐ろしい夢を見ていたに違いないっ! 門前で倒れられたのだから、まだ身体も本調子でなかったのだなぁ、きっと」

 

 仰々しく頷きながらそう言う冥琳に、とりあえずは納得しつつも、一刀は皆が何をしているのか気になり、身体を起こしてそちらまで行く。どうやら将棋のようなものらしいが、駒が一刀の知るものとは違った。

 

「皆で何をしているの?」

 

「象棋だが、知らんか? そういえば、北郷殿は異国から来たとか? どうだ? やってみるか?」

 

 冥琳の誘いを喜んで受ける一刀。彼は、元の世界でも祖父と毎日のように将棋をやっていたことから分かるように、こういうゲームが好きだった。特に囲碁や将棋の様に戦略的思考が必要なものは、特に好んでいた。

 

 ルールを教えてもらいながら、実際に冥琳と朱里の対局を見る。それ以外にも、雛里と風、穏と稟が対局をしており、さすがはこの後に大陸を代表する軍師陣となる人物だけあり、凛々しい表情で盤上を見つめている。

 

 大方のルールを教えてもらった後、一刀はこの水鏡学院についても教えてもらった。水鏡先生こと司馬徽が経営している私塾で、各地の名家の子弟が多く通っており、また立地が市街地から離れていることもあり、寝食も共にしているそうだ。

 

「私は穏の付添として来ただけなのだが、水鏡先生から誘われて、臨時で講師をしているのだ。まぁ講師といっても、実力はここにいる者と大して変わりはないがな」

 

「風と稟ちゃんも大陸を旅しているときに偶々ここに立ち寄ったのですよー。丁度どこかで腰を据えようと思っていたので、短期間ですがここの門下生になったのです」

 

 元からここの門下生だったのは朱里と雛里だけのようで、残りの四人は一時的に門下生になっているだけのようだ。知略に特に優れているため、通常の門下生とは別格扱いで、水鏡先生から教えを乞うというより、その手伝いなどをしているらしい。

 

 と、そのときであった。

 

「失礼します。水鏡先生がお帰りになりました」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 部屋に門下生らしき少女が、水鏡先生が帰宅したことを告げると、冥琳が象棋を切り上げて、一刀に水鏡先生に会って欲しいと願い出た。朱里をここまで護衛してくれた礼をしたいとのことである。

 

 冥琳に案内されて、一刀たちは水鏡先生の許へと向かった。

 

 部屋に入ると、そこには小柄な老人が何かを(したた)めながら座っていた。

 

 その老人こそ、この水鏡学院の学長を務める水鏡先生こと司馬徽である。

水鏡先生は一刀たちが入ってきたことに気付くと、手を止めてそちらに向く。落ち着いた風貌と顎に蓄えられた長い白髭が特徴的だが、その表情には鋭い知性を感じさせられた。一目で賢人であることが一刀にも分かった。

 

「おぉ、そなたが孔明を送って下さった方か。誠に申し訳ない。何もないところではございますが、どうかお茶でも飲んでごゆるりと御寛ぎ下され。荊州の街に向かうならば、地理に詳しいものに送らせましょう」

 

「あ、あぁ、これは丁寧にどうもどうも」

 

 人懐こい笑みを浮かべながら感謝する水鏡先生に対して、一刀はどう答えて良いものかどうか悩んでいた。彼には目的地など存在せず、また言葉は通じようにも、一銭たりとも持っていないのだ。

 

「水鏡先生、一つ提案があるのですが……」

 

 声を発したのは冥琳である。

 

「北郷殿は異国から参られたそうで、しかも、共の者とはぐれ路頭に迷っているそうな。孔明を助けてくれた恩もあり、また異国の文化に触れる良い機会ですので、彼をこのままここの門下生にしてはどうでしょうか」

 

「え?」

 

 一刀には寝耳に水であった。

 

 しかし、行く当てもない彼にとっては、ここは非常に都合が良い。多くの門下生と共に下宿出来ると共に、将来的にも仕官する当てが出来ることを意味しているのだから。

 

 冥琳たちにとっては、彼は興味の対象なのだろう。異国の者――しかも、見たこともない衣服を身に纏い、文化的にも中華に匹敵するような国からの訪問者である。彼から学ぶことが多いと考えたのだろう。

 

「好々」

 

 水鏡先生は笑顔のまま言った。これは彼の口癖であるのだが、そんなことを知るはずもない一刀は、水鏡先生が冥琳の提案を好意的に受け入れたと思った。

 

 だが、しかし。

 

「何を言っておるんじゃ。駄目に決まっておろう」

 

 水鏡先生はそれに対して即座の否定を告げた。

 

 

「えぇ~?」

 

 一刀の素直な感想である。

 

「し、しかし、水鏡先生――」

 

「公謹や、我が私塾は各地から名家の子弟のみを受け入れておる。この屋敷に多くの門下生を下宿させるのは不可能じゃからのう。そなたたちのように何かに秀でた一角の人物でなければ、簡単に受け入れるわけにはいかんのじゃ」

 

 表情を変えぬままそう告げた。

 

 水鏡先生の言うことも尤もである。一刀は確かに冥琳たちにとってみれば、珍しい異国の者であるかもしれないが、実力の未知数の人間をおいそれと門下生に出来るわけもない。例外を作ってしまえば、それに続こうとする者が現れてもおかしくはないのだ。

 

「だが、まぁ北郷殿は孔明を助けてくれた恩義ある御方。しかも、行く当てのないという境遇ならば、それを捨て置くというのも実に無情な話には違いあるまい」

 

「で、では――」

 

「門下生にはせぬ。しかし、街での仕事の斡旋位はしても良いじゃろう。丁度良く今日は街の若い衆が来ておる。彼らに仕事を教えてもらいなされ」

 

 一刀は困った。

 

 彼は何度も言うように、木刀すらまともに振れない貧弱者だ。街での仕事といっても、この時代ならばおそらくは何かしら肉体労働になることは違いなく、そんなことを出来る筈はないと思っていたのだ。

 

 彼は自分がそのような仕事ではなく、頭脳を使った仕事の方が向いていると思っているのだが、そうなるとどこかの城に仕官せねばならず、それにはある程度の金や家柄などを必要とするだろう。

 

「おーい、入ってきなさい」

 

 水鏡先生の呼びかけに数人の若者たちが姿を現した。

 

「お呼びですかい、水鏡先生」

 

「うむ。この者に街の仕事を紹介してくれんかの? それから仕事が出来るようにいろいろと教え込んでもらいたいのじゃが」

 

「へいっ! お任せくださいっ!」

 

 現れた若者たちは誰も彼も筋骨隆々の、肌が日によく焼けた者ばかりであった。身体には薄手のシャツを身に着けただけで、その余りある筋肉を惜しげもなく晒しており、実に爽やかな好青年たちである。

 

「おぉっ! お前だな、水鏡先生の言っている奴は」

 

「よしっ! 俺たちが何から何までいろいろと教えてやる」

 

「うむっ! 全て俺たちに任せておけ」

 

「ウホっ!」

 

 一刀は恐怖した。

 

 何から何まで教えてやるとか、全て任せておけ、とか、悪い想像しか浮かばない。このままこの男たちに連れて行かれれば、一生元の世界に戻れないのかもしれないと思ってしまった。

 

「い、いや、待ってくださいっ! 働くならこの屋敷で働きたいっ! 孔明ちゃんと士元ちゃんの布団に描かれた世界地図を記録したり、公謹さんや伯言ちゃんの胸の成長を観察したり――」

 

「馬鹿者。そんな仕事があるなら儂がとっくにしておるわい」

 

「てめぇっ! 爺、やっぱり単なる変態じゃねーかっ!」

 

「ここは儂の楽園じゃっ! 男なんぞ――しかも、若い奴など入れるものかっ! ほれっ! さっさと連れて行ってしまえっ!」

 

「働きたくないでござるっ! 働きたくないでござるぅぅぅぅっ!」

 

 男たちに身体を取り押さえられる一刀。

 

 今日はやや気温が高かったためか、男たちの逞しい身体には汗の粒が浮かんでおり、それが一刀の肌に触れるために、ぬるぬるとした感触を生んだ。その温もりが気持ち悪いと思っても、何故か一刀は自分の頬が赤くなるのを止められなかった。

 

 ――どうして、嫌なのに、嫌なはずなのに……。

 

 彼は自分の身体がどうかしてしまったのかと思った。男たちに触れられる度に、触れられた箇所が痺れ熱を持っていく。生理的には嫌なのに、肉体的には喜んでいるとでも言うのだろうか。

 

「おいっ! 嘘のナレーション入れるなっ! やめろっ! 俺に乱暴する気だろう!? エロ同人みたいにっ! エロ同人みたいにっ!」

 

 この時代にエロ同人なんてあるはずないでしょう。

 

「はわわ、胸が熱くなるね、雛里ちゃんっ!」

 

「あわわ、薄い本も厚くなるね、朱里ちゃん」

 

「おいぃぃっ! 聞こえたぞ、今、聞こえたぞっ!」

 

 無邪気な笑顔を浮かべながらとんでもない発言をする幼女二人に突っ込みを入れながら、一刀はどうすればよいか必死に対策案を講じようとする。しかし、身体を筋肉ムキムキの男たちに触られ、頭が上手く働かない。

 

「ほれっ! 暴れるんじゃない」

 

「そうだっ! もう諦めて俺たちに身体を預けろ」

 

「さぁっ! 優しくしてやるから」

 

「ウホっ!」

 

「さっきから、最後の男おかしいだろっ! 『ウホっ』って何だっ! 『ウホっ』ってぇぇ!」

 

 彼の身体は次々と伸ばされる男たちの大きな手に捕まる。そして、ついに彼の身体は男たちに完全に虜となってしまったのである。

 

「アッーーーーーーーーー!!」

 

 彼の最後の叫びが屋敷に響いたのだった。

 

 

「って終わらせてたまるかぁぁぁっ!」

 

 何とか身体を男たちの悪の手から振りほどくと、彼は必死の形相で水鏡先生の許まで駆けた。ぜぇぜぇと息を荒くしながら、机と掌でどんと乱暴に叩くと、指を差しながら水鏡先生に言った。

 

「俺が孔明ちゃんたちのように優れた人物なら受け入れるんだなっ! よしっ! だったやってやろうじゃねーかっ!」

 

「……ほう、面白いことを言うの。ならばどう証明するのじゃ?」

 

「象棋だっ!」

 

「何じゃと?」

 

 彼はそう言うなり、周囲を見回し、今度は冥琳の方に視線を向けた。

 

「俺が公謹さんに象棋で勝ってやるっ! これなら文句ないだろっ!」

 

 高らかにそう宣言したのだ。

 

「ほ、北郷殿……正気か? 象棋で私に勝つと本気でそう言うのか?」

 

 冥琳の方が先に困惑を示したのだ。

 

 彼女は将来的には一国を支える軍師となることを志しており、史実にもそうなっている。象棋は暇つぶしを兼ねてよく行うが、彼女の実力はこの場にいる五人がもっともよく知っているのだ。

 

「構わないさっ! 本気で来いっ!」

 

 一刀はびしっとポーズを決めながらそう言った。

 

 周囲の者もざわめき始めた。もしかしたら冥琳の実力が全く分かっておらず、自分を門下生に勧めた冥琳ならば、故意に負けてくれるのではないかと、一刀は考えているのかもしれないと。しかし、冥琳はそんな甘い人間ではない。

 

 実際にどれくらい強いのかといえば、並みの者なら一瞬で勝負を決めてしまう程に鋭い手を打つ。かと思えば、腕の立つ者と対局すると、じりじりと相手の駒を削り取るような用意周到な手も使う。

 

 そんな冥琳と、さっき初めてルールを覚えたばかりの一刀が勝負になるはずがないのだ。

 

「好々。良いじゃろう。公謹は儂が見込んで臨時講師を願い出た稀代の人物。それをそなたが万が一にも倒すことが出来たのなら、そなたは相当に優れたる人物ということになろう。そのときは儂の門下生になることを許そう」

 

「す、水鏡先生っ!」

 

「公謹や。すぐに象棋の準備をするのじゃ。そなたが手を抜かぬように儂も見ておる故に、この場で対局をしてもらう」

 

「私はいいのですが……」

 

「別にそなたが勝ったところで、何も変わりはせんよ。北郷殿が孔明を助けてくれたことにも変わりはないのじゃから、儂が無下に扱うこともない」

 

「ならば……」

 

 しぶしぶといった感じで冥琳は首を縦に振った。

 

 だが、この場にいる誰も知らなかったのだ。

 

 この北郷一刀という人間がどれくらい頭の切れる人間であるのかということを。

誰もが彼は何も考えずに冥琳に象棋を挑んだのだと思っている。あるいは彼女が負けてくれると信じていると思っている。

 

 しかし、彼の勝負はこの瞬間から始まっているのだ。

 

 彼は一つの考えを元に行動していると、誰が想像出来たであろうか。

 

 彼は最初チート能力がないことに絶望したが、そんな必要など最初からなかったのだ。何故ならば、彼には最初から能力が備わっているのだから。武に秀でる必要のない力を持っているのだから。

 

 変態軍師北郷一刀。

 

 彼の実力が初めて披露される瞬間がやっと訪れたのだ。

 

 

おまけ

 

 今回のプロット。

 

1、 中庭にてスタート。

2、 前回のシーンを回想する。冥琳、穏の紹介。

3、 再び中庭。風登場、紹介。

4、 象棋出す。

5、 水鏡先生登場。爺さん。適度に変態?

6、 冥琳から一刀を門下生にと提案されるが、即座に拒否。

7、 一刀が冥琳との象棋勝負を申し込む。

 

およそ五千時目安。

 

 

あとがき

 

 第二話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 あ、ありのままに今起こったことを話すぜ。俺はプロットが出来たから、休日を使って変態軍師を書こうと思った。まだほとんど肉付けしてないから、ゆっくりと一週間くらい使ってプロットを詰めながら書こうと思ったんだが、昼位から始めて、気付いたら夕方になっていて、目の前にこの作品があったんだ。な、何を言っているのかわからねーと思うが自分でも(ry

 

 さて、この作品はタグにもありますように、プロット1%、勢いが99%の作品となっております。どうしてこうなった。

 

 普段は熱い展開を書こうと頭を捻りまくって唸りながら執筆しているのですが、今回はリフレッシュするためにとりあえずは書きながら詳細は詰めていくつもりでした。どうしてこうなった。

 

 前話を書いたのが結構前だったので、雰囲気自体を忘れてしまっていたのですが、コメディタッチの作品だから細かいことをいいやと思っていました。細かいこととかそんなレベルじゃねー。どうして(ry

 

 五千字目標にいつのまに倍になっていました。

 

 さてさて、では中身に関して。

 

 まぁ言うことありませんね。狙いとしては一刀の力の片鱗を見せるところを引きにすることまでは考えていましたが、それ以外はほとんどノープランでした。

 

 コメディなど上手く書ける自信もなく、本当に面白いギャグはよく練って考えられているものだと思うのですが、作者には勿論考えれば面白いギャグが思いつくほどの才能があるはずもないので、勢い任せにしました。

 

 水鏡先生及び水鏡学院、また象棋のルールに関してもオリジナルの要素を盛り込んでいますのでご注意を。

 

 前項のプロットは本物です。

 

 普段作品を書くときはもう少し細かいシーンまでプロットに起こすのですが、今回は本当に気楽に書こうと思っていたので、最初の段階はこれでした。

 

 そういうわけでさすがにこれを人前に晒すというのはどうかと思いましたが、前回のあとがきに投稿すると宣言してしまったので、お気に入り限定という扱いで投稿することにしました。

 

 注意書き+お気に入り限定ということですので、批判中傷は受け付けません。全て自己責任にてお願いします。

 

 さてさてさて、何とも酷い作品を描きましたが、作者的には非常に楽しく、時間も我も忘れて執筆作業に勤しむなんて久しぶりのことでしたので、随分とリフレッシュすることが出来ました。

 

 次回からはまた『君を忘れない』の執筆に戻り、雪蓮たちの戦いについて描きたいと思います。また胃痛との戦いになりますが、少しでも読者の方に喜んでもらえるように努力致しますので、温かい目で見待って下さい。

 

 では、今回はこの辺で筆を置かせて頂きたいと思います。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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