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IS-W<インフィニット・ストラトス>  死を告げる天使は何を望む

第16話 白き翼、漆黒に染まる

2012-06-16 17:59:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5139   閲覧ユーザー数:4953

シャルルが女だと発覚した翌日の朝、一夏とヒイロはシャルル(男装)と共に教室に向かっていた。シャルルの顔はどこか笑顔でとても機嫌がよさそうだった。

 

「そ、それは本当ですの!?」

「う、嘘はついてないでしょうね!?」

 

教室からセシリアと鈴の声が廊下まで届いてきた。近所迷惑だろうがお構いなしでだ。

ヒイロも一夏、そしてシャルルも不思議そうな顔でお互いを見る。何の話をしているのだろうかと…

 

「本当だってば!月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君とデュノア君とユイ君と交際――」

「俺達が何だって?」

「「「きゃああっ!?」」」

 

教室に入ると案の定セシリアと鈴、そしてクラスメイトの女子が話していた。その話の中に自分の名前が出た一夏は近づいて声をかけてみたら、ものすごい勢いで驚かれた。

一夏はなぜ驚かれたのか分からないまま話を続けた。

 

「で?何の話なんだ?俺達の名前が出ていたみたいだけど」

「う、うん?そうだっけ?」

「さ、さあ?どうだったかしら?」

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

「そ、そうですわね!私も自分の席に着きませんと」

 

 その声を皮切りに集まっていた女子達が蜘蛛の子散らすようにその場を離れていく。

 

「一体何なんだ?」

「さあ?」

「……………」

 

 

 

 

 

 

(ど、どうしてこのようなことに…)

 

窓側の席に座る箒は平静を装いつつも内心頭を抱えていた。

というのも読者の皆さん覚えていると思うが寮の部屋の引っ越しの後、一夏の部屋に行き本人に学年別トーナメントで優勝したら付き合って貰うと宣言したからである。

あの場には二人以外にはヒイロしか居なかったはずだがもしかしたら声が大きくて誰かに聞かれたかもしれない。ヒイロはそういうのを言いふらすようなやつではないと箒もわかっていた。

とりあえず、いえることはそれが紆余曲折とあって先程の噂となったと言うことだ。

 

『学年別トーナメントの優勝者はこの学園の男子三人のいずれかと交際出来る』

 

一夏だけでなくシャルルやヒイロが巻き込まれている辺り間違いない噂は学園中の殆どの女子生徒が知っており、上級生がクラスの情報通に確認に来ていたくらいだ。

 

具体的内容としては、

 

『それは一年生のみか』

『他学年の優勝者も含まれる場合、交際したい相手がダブったらどうするか』

 

等といった内容である。

 

ただでさえセシリアや鈴という強力なライバルがいるのにこうなっては周りの『意識しているが行動に出れない』女子生徒達が意気込み、一夏争奪戦が大変なことになってしまう。

箒は内心ものすごく慌てていたのだ。

 

(いや、優勝だ。優勝すれば問題ない)

 

頭を左右に振って嫌な考えを追い出す。

 

(今度こそ、今度こそはあの時とは違う。大丈夫。大丈夫……なはずだ)

 

『あの時』。それは箒が小学四年生の時だった。

小学四年生の時、剣道の全国大会でも同じ約束を一夏にした事がある。

小学生の部という括りで上級生も多数いる中実家が道場でありキャリアもある箒は優勝候補であった。

だがその大会当日、姉の束の所為で引っ越しとなり大会不参加で優秀を逃してしまったのだ。束が発表したISは兵器への転用が危ぶまれ、政府の要人保護プログラムによって政府主導の転居を余儀なくされた。

一夏からの手紙も情報漏洩防止という名目から政府の圧力で返事が出来なかった。

そして気付けば両親と別居となり元凶である束は行方を暗ますという顛末である。

繰り返される監視と聴取で心身共に参っていた箒が剣道を続けていたのも同じく剣道をやっていた一夏との繋がりを感じての事だった。

だが実は違った。それは『只の憂さ晴らし』に過ぎなかった。

 

――誰かを叩きのめしたい。

 

その頃の箒の太刀筋はそれを物語っていた。

太刀筋は己を映す鏡。それは古くから謂われてきた言葉であり、まさしくそうであった。

そしてその後の全国大会で優勝し、決勝戦で負かした相手が涙を流しているのを見て自己嫌悪と絶望に陥った。

 

――私は何をしているのだろうか…。

 

それは只の暴力だった。思いも信念も無い、強いとは言えないモノだった。

 

――こんなのは、本当の『強さ』ではない…。

 

『強さ』とは、こんなモノではない。それは自分がよく知っているはずだった。

 

(今度こそ、私は……『強さ』を見誤らずに勝つ事が出来るだろうか……)

 

いや、勝たなくてはならない。己自身に。

 

(ヒイロ・ユイ…お前は何を迷ってるんだ…いや何故迷いを受け入れられているんだ…)

 

自分も強さの事で迷った時期があった、いや今も答えを探しているのだが見つからず、苦しんでいる。しかし、明らかに自分より上の…それも最強と言っても過言ではないヒイロの目には常に迷いが見えていた。そしてその迷いさえも受け入れているように見えたのだった。

箒は知らない。かつてヒイロが仲間の張五飛に言ったヒイロの本当の心のうちを…

その後、千冬に質問され、答えられず、出席薄アタックを喰らったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

 

二人揃って間抜けな声を出しているのはセシリアと鈴だ

 

「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

「奇遇ですわね。わたくしもまったく同じですわ」

「……丁度良いわ。ここはアリーナだし、どちらが上かこの際はっきりさせとく?わざわざトーナメント当日まで待つ必要なんてないし」

「あら、珍しく意見が合いましたわね。丁度わたくしも同じことを考えてましたの」

 

気付けば互いにISを展開し終えており、いつでも戦闘が始められる状態で対峙していた…。

今回のこの二人のやる気…理由は言わずもがなの一夏との交際権がかかっているからであろう。

 

「ふふ、そう言えばこうして戦うのは初めてでしたわね?」

「そうね。放課後のアリーナじゃ人が多くて戦えたもんじゃないし。それに、候補生同士の戦闘は色々と問題があるしね」

 

候補生同士の戦闘が禁止されているという訳ではない。しかし戦闘の際にもし致命的な損傷が発生した場合、それが国際問題に発展しかねないのだ。だからこそ、問題事を避けるために学園行事以外での候補生同士の戦闘はなるべく控える様に学園側から指示されている。

 

「では―――」

 

いきますわよ、と言い掛けた時。突如セシリアの声を遮って超音速の砲弾が二人の間の地面に着弾した。

 

「「!?」」

 

2人のハンパ―センサーからの警告に、緊急回避行動をとると、セシリアと鈴は揃って砲弾が飛んできた方向を睨んだ。そこにあるのはあの漆黒の機体が佇んでいた…。

機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』、登録操縦者―――。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

表情が憎しみに歪む2人。初対面で一夏の顔面を叩こうとし、その存在を認めないと言う少女。

 

「…そういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

連結した≪双天牙月≫を肩に置き鈴はいきなりの襲撃者にそう訊ねる。口ではまるで友人と話しかける様な明るさを感じさせてはいるが、衝撃砲は既に発射準備の体勢で、彼女から発せられる敵意はぴりぴりと伝わってきていく。

しかし、国家の所属のセシリア、軍部と言っても開発部の所属の鈴と違い、戦場にでて実践を経験しているラウラには鈴が放つ敵意などかゆくもなかった。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。…ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

予告も無しの砲撃に続いていきなりの挑発に、セシリアも鈴もプツンと何かが切れた。それと同時に何とか衝突するのを踏みとどまっていた理性もこの瞬間吹き飛ぶ。だがまだ冷静であった。

 

「なに? やるの? わざわざドイツくんだりからボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのも流行ってるの?」

「あらあら鈴さん。どうもコチラの方は共通言語をお持ちでないようですから、あまり虐めるのは可哀そうですわよ」

 

さきほどまで挑発し合っていた二人は共通の敵を見据えて話す。しかし、ラウラにとって二人は雑魚でしかなかった。

 

「ふっ……。二人がかりで量産機にボロ負けする程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数ぐらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国はな二人掛かりで来たらどうだ?下らん種馬を取り合う様なメスにこの私が負けるものか」

 

とラウラが言った。その時セシリアと鈴の何かが切れた。

 

「今何て言った!!私の耳には『どうぞ好きなだけ殴って下さい』って聞こえたけど!」

「この場にいない人間の侮辱までするなんて、その軽口 二度と叩けぬようにして差し上げますわ!!」

 

怒りに支配される2人をよそにラウラはこう言う。

 

「ふん。とっとと来い」

「上等!!」

「上等ですわ!!」

 

そして、イギリス&中国VSドイツの戦いが始まったのだった。

 

 

 

放課後、一夏はシャルルと箒の3人で特訓の為アリーナに移動していたのだが、どうもアリーナの様子が慌ただしかったので、ステージの様子を見ようと観客席に行く。

 

「何だろうね?」

「ああ、一体何があるのや…ら……っ!?」

 

シャルルと箒が話していた時だった。何かが爆発するような音が聞こえた。3人は慌ててアリーナの観客席に向かう。そしてそこで見たのは…

 

 

 

「くうっ!」

「ああっ!」

「鈴!?セシリア!?」

 

一夏の叫びとともにアリーナのステージに爆発が起こり、その煙の中からISを展開した鈴とセシリアが吹き飛ばされる様に出てくる。

機体は所々亀裂や破損し、アーマーの一部は完全に破壊されていた。

そして爆発の後、そこから漆黒のISを纏ったラウラが飛び出してきた。二機に比べると損傷は圧倒的に軽微である。

 

「このおっ!!」

「無駄だ」

 

鈴が衝撃砲を撃つもラウラは回避もせず右手を前に突き出すだけで、砲弾が届くことは無かった。その場で消えたのだ。

 

「くっ、こうも相性か悪いだなんて……!」

 

バリアーでも展開しているのかもしれないが衝撃砲が元から不可視なので一夏には分からなかった。

 

「あれは…AIC!!ドイツは完成させたの!?」

 

一夏の横に現れた皐月がそう言う。

 

「AIC…」

「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの事だよ」

「慣性停止結界ともいう」

 

と一夏、シャルル、箒が話す中でも戦いは続く。

ラウラは衝撃砲をAICで無力化した後、肩からワイヤーで接続されたブレードを射出、複雑な軌道を描き鈴の右足に絡み付いてソレを捕えた。

 

「そうそう何度もやらせるものですかっ!」

「ふん……、理論値最大稼働の《ブルー・ティアーズ》ならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型兵器とは笑わせる」

 

セシリアがスターライトmkⅢで狙撃しつつビットで視界外攻撃援護を行うもその両方を躱しさっきと同じように、今度は両手を交差させ突き出すと見えないナニカに捕まったようにビットが静止した。

動きが止まったラウラをセシリアが狙撃するも肩のレール砲で相殺され、狙撃態勢で止まってしまっているセシリアにラウラはワイヤーブレードで捕獲した鈴を振り子の原理でぶつけた。

「「きゃああああああ!!」」

 

2人は地面に叩きつけられた。

その後ラウラは爆音と共に一瞬で二人との距離を詰める。

瞬時加速《イグニッション・ブースト》だ。一夏の十八番であり近接格闘技能であるそれをラウラは使ったのだ。もっとも…一夏はついにやってはならないことをするようになったのがだが…

ラウラは両手首からプラズマ刃を展開、ワイヤーブレードを六つ射出して三次元的強襲で鈴に襲い掛かる。

鈴は立ち上がって双天牙月を分離させ二刀流で凌ぎながら衝撃砲の準備を行う。

 

「この状況でウェイトのある空間作用兵器を使うとはな」

 

衝撃砲は発射される前に実体砲で吹き飛ばされ、そのままプラズマ手刀で鈴の胴体を突こうとするが割って入ったセシリアがスターライトmkⅢを盾代わりにし近距離で弾頭型ビットを射出した。

 

ドカァァァンッ!!と大きな音と煙で包まれる。一足早く離脱した鈴とセシリアは言いあう

 

「無茶するわね、あんた…」

「苦情は後で。けれど、これなら確実にダメージが……」

 

自殺行為ともとれる近距離でのミサイル攻撃。当然二人は爆発に巻き込まれ床に叩きつけられたが、煙が晴れたそこには殆どダメージを負った様子のないラウラが佇んでいた。

 

「終わりか?ならば――私の番だ」

 

そこからは一方的な暴虐。瞬時加速で地上へと移動、近距離で砲撃、ワイヤーブレードで二人を捕獲しひたすら殴り付ける。またワイヤーで首も絞める。

シールドエネルギーは残り少なく操縦者生命危険域デッドゾーンに達する。

 

「ひ…ひどすぎる」

「このままエネルギーが尽きればISは強制解除され二人の命に関わるぞ」

 

皐月と箒の会話を聞き、一夏は遮断シールドを叩き付けながら叫ぶ。

 

「やめろ!!ラウラ…ラウラ!!」

 

しかし、ラウラは辞めることなくさらに鈴の装甲を破壊する。ラウラの顔が無表情から愉悦に口元を歪めた瞬間、一夏はついにキレた。

 

「おおおおおっ!!」

 

白式を緊急展開すると同時に雪片弐型に最大出力でビーム刀を発生させ、そして金色のオーラを出して『零落白夜』を発動させる。

そのまま観客席とステージを隔てるバリアーを破壊し瞬時加速《イグニッション・ブースト》でラウラに突っ込んだのだ。

 

「その手を、離せえええっ!!」

「ふん……。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」

 

雪片弐型を振り下ろそうとする腕が見えないナニカに止められる。

これこそがAIC《アクティブ・イナーシャル・キャンセラー》の力であった。「停止結界」と呼称し、もともとISに搭載されているPICを発展させたもので対象を任意に停止させることができる。つまり実弾も完成で動いている以上止めることができるのだ。まさに反則な力である。

ラウラの眼帯をしていない右目が一夏を捉えてる。

 

「やはり敵ではないな。この私と『黒い雨《シュバルツェア・レーゲン》』の前では、貴様も有象無象の一つに過ぎん。――消えろ」

 

肩の大型カノンが一夏へと砲口を向けた瞬間、

 

「一夏!!離れて!!」

 

シャルルがマシンガン二丁を手にラウラに上から攻撃した。一夏の自由が解かれる。

一夏はその間に鈴とセシリアの方に向かい連れだす。

 

「ちっ……雑魚が……」

 

シャルルが銃による牽制は一切休まない。武器の切り替えは本来最初の展開よりも時間がかかり1~2秒必要とする。しかし、それをほぼ一瞬で行った。すでに今撃っているのは3丁目の銃で弾雨は降り続ける。これこそ、シャルルの特殊技能…『高速切替(ラピッド・スイッチ)』である。

 

「面白い。世代差というものを見せつけてやろう」

 

しかしラウラはそれさえも弾丸を避け、反撃の為に体を低く屈める。

 

「行くぞ…!」

「くっ!」

 

ワイヤーブレードでシャルルを捕獲し、大型レールガンを放とうとする

しかし、その時ラウラのハイパーセンサーに警告が発せられる。再び上から実弾…しかも狙いが正確な攻撃が来たのだ。仕方なくAICでガードするラウラはこんな攻撃ができる奴は教官を除き、一人しかいないと考えていた。そう…

ラウラの上にはあの『告死天使』…ヒイロ・ユイのウイングガンダムゼロだった。

 

「く…ヒイロ・ユイィィィィィィィィ!!」

 

ラウラはシャルルを投げ飛ばし、ヒイロに向かって飛翔した。ヒイロもサーベルを抜き、動く。プラズマブレードとサーベルがぶつかり合う。ラウラが優勢でヒイロが防戦状態になっていた。抜き胴や様々な方向から攻撃が来る。がそれをすべて防御しかヒイロはしない。

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ、もうやめろ!!」

「その白き翼!!我が黒い雨《シュバルツェア・レーゲン》で漆黒に染めてくれる!!」

「……」

 

ヒイロはついに反撃をした。一瞬でラウラの後ろに回り込み、大型カノンをサーベルで斬ろうとする。しかし、ラウラは右手でヒイロの動きを止めた。そう…AICである。

 

「くっ…」

「私が反応できないと思ったのか!?この目には完全にとらえていたぞ!!」

 

いつの間にかラウラの眼帯は外されており、その左目は眼帯をしていなかった。右目は赤色で左目は金色…

 

「……越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)か」

 

それはラウラの瞳に移植された、疑似ハイパーセンサー。IS適合性の向上のための処置の一環で、脳への視覚信号の伝達速度の飛躍的な高速化と、超高速戦闘下での動体反射を向上させた。理論上不適合などのリスクはないと言われたが、移植されたラウラの左目は変色し、制御不能となった。その後、あらゆる訓練において後れを取ることとなり、出来損ないという烙印の象徴となったのだが…いまはそれを使いこなしている。

ヒイロの超人的な反応をラウラはその目でとらえたのだ。

 

「相手がお前だからな…容赦はしない!!」

 

そして…右肩の大型レールカノンがヒイロに向かって炸裂した。

 

「ヒイロ!!」

「大丈夫よ…ガンダニュウムはそうヤワじゃないから」

 

箒と皐月は観客席から叫ぶ。箒は専用機がなく行くことができず、また皐月も新しく届いたパッケージの実験中でISを使用できなかった。着弾による煙が晴れるとそこに現れたのは…

機体から火花が出ていてボディーがへこんだガンダムであった。

 

「そんな!!ガンダニュウムが!!」

 

皐月は叫んだ。倉持技研がヒイロのウイングガンダムゼロを元に生み出した世界最高の装甲のガンダニュウム合金のフレームを一撃でへこませたのだ。

 

「ふ…すでにその装甲については我が国では研究が進んでいる。私の装備のこのレールガン『ブリッツ』とプラズマ手刀は対ガンダニュウムとして威力が少し上がっている。もっとも絶対防御は突破できないが、装甲にはダメージは与えられる!!」

「ぐう!!」

 

いまだにAICを使われ動けないヒイロ。ラウラの攻撃を受け続けウイングゼロはボロボロになる。すでに胸元からは火花が出始めている

 

「何故だ……」

「………」

「その強さ、お前も私と同じ兵士だろう!なのにっ!それ程の強さを持っておりながら何故、そんな奴等と馴れ合う!!」

 

ラウラが叫ぶ。それは自分と同じ戦うだけの存在である兵士であろうヒイロが愚図の集団と思っている一夏達と共にいる事に対しての憤りだった。さらにヒイロはその一夏を守っている。

 

「…兵士は戦うためだけの存在じゃない。平和をつかむための者たちのことだ。……お前は兵士ではない!!」

「黙れ!!」

 

再び砲撃をくらうヒイロ。普通ならもう気絶しているであろうがまだ意識があった。

 

「俺もお前と同じだった…戦うだけの存在、そのためだけに様々な技術を教えられた。だが…お前のような考えはいつか…世界は間違った歴史をたどらせる!!悲しく惨めな戦争の歴史をな!!」

「兵士は戦うのが仕事だ!!それ以外に何がある!!それは弱い者の考えだ!!」

「違う…強者など存在しない、人類すべてが弱者なんだ!!お前も千冬も弱者なんだ!!」

「教官が弱者だと…ふざけるな!!」

 

その時AICが解除された。実はAICを維持するには集中力が必要なのである。今のセリフで取り乱したのだ。焦ったラウラはプラズマ手刀でヒイロを切ろうとする。

しかし…ヒイロは避けようとせず、くらったのだ。胸元には大きく切り裂かれた跡が残る。

 

「貴様っ!!」

「…人類に絶対というものはないんだ。戦争が起これば、千冬が死ぬこともあり得る。」

「…」

 

ラウラは戸惑った。ヒイロの言ってることは正しい。自分も戦場で人の命を奪ったことがある。そう…かつては自分より上だった存在さえもISによって倒せた。そう考えると千冬より上回る存在が出てくるかもしれない。

今まで考えたこともない考えにラウラは混乱し始める。

 

「ラウラ……教えてくれ。俺たちは……あと何人殺せばいい?」

「!!」

「俺は、あと何回あの子とあの子犬を……そして“アイツ”を…殺せばいいんだ…」

 

そう言ってウイングゼロの手に持ったサーベルが光を失い、そして墜落し始める。

地面に落ちながらもヒイロは言う。

 

「ゼロは“いまだに”何も答えてはくれない……教えてくれ…ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

ものすごい音と砂埃が巻き起こる。そしてラウラが地上に戻るとそこにはガンダムを解除して気絶したヒイロ・ユイがいた。

ラウラの頭には先ほどの言葉が駆け巡る。

 

『俺たちは……あと何人殺せばいい?俺は、あと何回あの子とあの子犬を……・そして“アイツ”を…殺せばいいんだ…』

 

「うわ…うわあああああああああああああああああああああああああ」

 

ラウラがプラズマ手刀でヒイロにトドメを刺そうとする

流石にそれを食らったらヒイロでも死ぬだろう。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

その時、白式で鈴とセシリアを安全なところに置いてきた一夏がラウラに向かって瞬時加速《イグニッション・ブースト》で突っ込んできた。

 

「織斑 一夏か!!」

(このままだとレールガンに当たる。…白式、俺に力を貸してくれ!!)

 

ラウラは一夏に向かってレールガンを発射する。しかし、一夏には当たらなかった。なぜなら…

 

「瞬時加速《イグニッション・ブースト》中に方向転換だと!?」

 

そう、一夏は瞬時加速《イグニッション・ブースト》中に右に曲がったのだ。これはヒイロとの訓練によって体が覚えてしまったのだ。しかし、それは白式と一夏の体にとてつもない負荷がかかる。これが一夏にもたらされたヒイロによる強くなるための弊害だった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

再び瞬時加速《イグニッション・ブースト》中に方向を変換し、ラウラの大型レールガンを雪片弐型で切り裂く。

 

「貴様ァァァァァァァァ!!」

 

プラズマ手刀の突きが一夏に向かってくる。先ほどの攻撃のせいで大きな隙ができてしまった。一夏のシールドエネルギーを考えるとこの攻撃は致命傷になる。

ガンダニュウムを傷つけるとなるといきなり絶対防御が発動するからだ。それが命があぶない場所ならなおさら…

 

(マズイ…当たる!!)

 

当たると覚悟した時、白式が勝手に動きだし、自らの左腕の装甲を楯のように使用したのだ。ラウラも防がれるはずはないと踏んでいたので予想外だった。左腕の装甲は完全に吹っ飛び壊れたが、エネルギーは減らなかった。二人とも予想外だったのでお互いに一度距離を取った。

 

(勝手に腕を楯にされた…白式、お前なのか?)

 

「貴様さえいなければァァァァァァァァァァァァァ!!」

「ラウラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

お互いの剣を手に再び接近して攻撃をしようとした時だった。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

と声が聞こえた。そして、ガギンッ!とぶつかる音が聞こえ…

 

「「!?」」

「模擬戦をするのはいいが、アリーナのバリアーが破壊された上にそのまま戦闘を続ける行為までは教師として黙認出来んのでな」

 

それを拒んだのは千冬だった。いつもと同じスーツ姿で生身にも関わらず素手で170㎝を超えるIS用近接ブレードを片手で軽々と扱っている。そしてもう片方の手で一夏の手首あたりを掴み上段からの攻撃を止めたのだ。

 

「この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

「し、しかし教官」

「…警告は一度までだ」

「っ、了解しました…」

「一夏…お前もそれでいいな」

「わかった」

「では、学年別トーナメントまで私闘を一切禁止する。解散!」

 

パァンッ!っと千冬が手を鳴らした音が、拳銃を発砲したかのようにアリーナに響き渡り,この場は終結したのだった。

 


 
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