俺にはハルヒ達には言えない秘密がある。 例の事件以降、俺と阪中は付き合っているのだ。
「ねえキョン。明日久しぶりに皆で不思議探しに行こうと思うの」
「……どうしても、明日か?」
「あんた、暇じゃないの?」
「少し予定があってだな……」
思わず少し考え込んでしまう。 不思議探しのみでなく、毎週のようにSOS団の活動を行っているのだから。
たまたま開いた1日に俺と阪中はデートをする予定だった。 いや、今回ばかりは阪中と一緒にいたい。
「まあいいわ、許してあげるけど、どういう用事か教えなさいよ」
「……」
古泉が俺に向けて手話で『お願いします』と伝えてくる。 よく見ると少しやつれている様子なので、
閉鎖空間が発生しつつある状況なのだろう。
「いや、よく考えたら大したことじゃなかった、明日も参加する」
「そう、じゃあ明日は北野辺りに行くわよ。」
「え……。」
北野……明日のデートの予定地ではないか。 これなら、阪中と遊ぶチャンスが出来たかも知れない。
こうして俺はダブルブッキングをする事となった……後に大変な事態を招くことも知らずに。
翌日、西宮駅前に集合した俺たちは既に習慣となっているくじ引きでペアを決めた。
頼む、天の神様ハルヒ様、今日ばかりはハルヒと組ませないでくれ。
「何ぼーっとしてるのよ。 キョンの番よ、さっさと引きなさい」
「ああ、すまん」
恐る恐る目を開けると、赤く印の付けられたつまようじが俺の目に飛び込んでくる。
「今日は赤い印の付いた爪楊枝が二つしかないから、キョンはみくるちゃんとペアね」
「ああ、分かった」
「キョン、まじめにやりなさいよ。 あとみくるちゃん、耳貸して」
「はぁい」
ハルヒは朝比奈さんに何かを耳打ちしている。
頷く表情はかなり真剣で、聞かされているのは間違いなく俺に関することだろう。
その様子を眺めていると、古泉と長門がそばに寄ってきた。
「あの……もしかして今日は阪中さんとデートの約束をしていませんか?」
「……」
「間違いないようですが、気をつけて下さいね」
「……涼宮ハルヒはあなたが隠し事をしていることを不審に思っています」
「涼宮さんの事はまかせて下さい、僕たちで何とかします」
ばれていると知ったときは焦ったが、どうやら協力してくれるらしい……助かった。
こうして俺たちは解散し、二手に分かれた。
俺と朝比奈さんはしばらく北野天満神社方面へ歩き、ハルヒ達が居なくなったことを確認した。
意を決して朝比奈さんに話しかけるが、表情から察するに内容は分かっているらしい。
「朝比奈さん、お願いがあるんです」
「……キョン君。 あの……わたし……キョン君の監視を任されているんです」
「ええ、何となく察しています。 お願いします、今日は阪中とデートをさせて下さい」
「そう、わかりました」
朝比奈さんはとたんに笑顔になり、ハッキリとそう答えた。
「あのね、キョン君。 もし少しでも躊躇するようなら止めようと思ったけど、そうじゃないみたいだから」
「ありがとうございます」
「でもね、さっき涼宮さんに言われたことがあるの、この三つを守るように気をつけてね」
一つ目は45分ごとに定時連絡を入れること。
二つ目は朝比奈さんとツーショットの写真を必ず添付すること。
三つ目は2時間15分後、必ず駅前に集合することであった。
正直なんとか出来そうなプランであるが……張り切る朝比奈さんを見て少し不安になってしまった。
すみません、朝比奈さん。
「キョン君、わたしは後ろからついて行きますから気にしないで下さいね。 最初の一枚だけは今撮りましょう。」
「はい、ありがとうございます。」
俺と朝比奈さんはツーショット写真を取り、阪中との待ち合わせの場所、北野天満神社の正門へと向かった。
「キョンくん、来てくれたのね!」
「ごめん、阪中さん。 お待たせしてしまいました」
阪中さんが駆け寄って来て俺の両手を覆うが、その手は少しひやりとして冷たい。
きっと長時間待たせてしまったのだろう。
「手、冷たいですね」
「あっ、キョンくんはちゃんと時間通りに来てくれたよ。 大丈夫なのね」
「ありがとう」
俺は彼女の両手を包み、息を掛け暖める。 俯いた阪中さんの頬は少し赤く染まっていた。
「そうだ、俺の手袋がありますから使って下さい」
「ううん、このままが良いのね」
阪中さんは俺の手をそっと握った。
俺は阪中さんの手を引きながら、長い長い石段を登っていく。
「阪中さんって、結構渋いところがお好きなんですね」
「キョンくんは、嫌い?」
「いえ、こういう落ち着いたところは好きですよ」
「よかっ、た。」
石段の頂上に着き、少し息を整える。 体は温まったな。
「阪中さん、温まりますね」
「……キョンくん、後ろを見て」
振り返ると、神戸市街を見下ろす景色が広がっていた。
「一緒にみたかったのね」
「……素敵ですね
「あと、ここは学問の神様だから一緒にお祈りするのね」
「ええ、頑張りましょう」
俺たちはしばらく景色を眺め、石段を下りた。
「阪中さん、飲み物を買ってくるから少し待って下さいね」
「分かったのね」
俺は坂の下にある商店の中で、朝比奈さんとツーショット写真を撮った。
まったく、余計な制限を付けてくれるもんだ。 朝比奈さん、付き合わせてごめんなさい。
残り時間で周辺の異人館で過ごし、俺たちは西宮駅周辺へ向かうことにした。
「阪中さん、この辺りでご飯を食べましょうか」
「……うん、わかったのね」
阪中さんは疲れたのか、少し疲れたような表情だった。
俺たちは駅近くのラーメン屋に入り、奥の席へと陣取った。
「何を食べる? 俺は、特製カツカレーとコーヒーセットだな」
「それなら、わたしはAランチセットを食べるから、それでコーヒーを頼めばいいのね」
「良いの? 阪中さん。 ……あ、ごめん。 少し電話してくる」
「じゃあ注文しておくのね」
「そうだ、ここのカツはこだわっててうまいから、後で俺のを少し食べてくれな」
「……行くのね」
「どうしたんですか、阪中さん?」
「早くしないと、電話が切れちゃうのね」
「ああ、すぐ戻る」
俺は駅へとダッシュした。 移動時間を考えると……どう頑張っても8分が限界か。
朝比奈さんと手はず通り銀行の角で待ち合わせ、駅前へと向かった。
「遅いっ! キョン、8秒遅刻」
「……。 誤差程度だろ……」
「まあいいわ、走ってきたから許してあげる。 お腹空いたでしょ、これからファミレスでご飯ね。」
「よかったぁ、お腹すいちゃいました」
「……沢山……食べる」
「俺は、少しで良いかな……あまり腹は空いてないし」
「あら、みくるちゃんより食べそうなのにね。 それに汗を拭いたら?」
「あ……」
朝比奈さんが気付いたように口元を抑える。 だが大丈夫だ。
「ははは、実は皆の分を奢ったら手元に金が無くて……すまんな」
「今日はワリカンよ、言わなかった? そうだ、先に午後のくじ引きをしましょうか、まずはあたし、次はキョンね」
なんて事だ、俺とハルヒが赤……か。 俺は携帯が鳴った振りをして店を出た。
どう説明すればいいのか、とにかく急がないと。
顔を上げると、阪中さんが泣きそうな顔で俺を見つめていた。
「キョンくん、やっぱりそうだったのね」
「……実は」
「言わなくていいよ、朝比奈さんと付き合っているのね?」
「えっ、そんな事はないんだ、信じてくれ」
「じゃあ、何でわたしを丁寧に呼ぶのね」
「それは、その……付き合い始めるならきちんと始めたくてだな……」
「ふーん、それでダブルブッキングをしたの」
振り返るとハルヒが腕を組んで俺を睨み付けていた。
「キョン……くん。 不純にも程があるのね……」
「ちがっ! SOS団で集まりがあったんだ、どうしても断れずに来ちまったんだ」
「バカね、正直に言えばいいじゃない」
「……今日は、すまなかった」
「まあいいわ、今日はこれからキョンと二人きりだから」
「え……」
「あたし許さないわよ、あたしはあたしのものを取られるのが嫌いなの」
「わ、わたしが付き合ってるのね! あなたみたいな鬼婆と付き合う人なんて居ないのね!」
ハルヒの後ろにいたSOS団の三人は震えていた……これから一体何が起るんだ?
おわり
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阪中成分が欲しいとのレスを見て勝手に書いた一遍