「あれ? ここ、どこ?」
確かに先程まで自分は果てしない青空を見上げながら砂浜を歩いていたはず。そう考えて青年はふとある事を思い出した。
(そういえば、突然目の前がパッと光ったな)
今の場所に来る直前自身に起きた出来事。それがこの現状の理由なのだろうかと考えて青年は周囲へ視線を動かす。どうも公園らしい。平和そのものといった雰囲気の中を、カップルが、家族連れが、老夫婦が歩いている。
それを眺め青年は笑顔を浮かべる。するとその鼻にふと海風が香った。それに誘われるように彼が足を動かしてみるとすぐに視界には広い海が広がる。それは彼が先程までいた場所を連想させ、同時に突然の事に動揺していた気持ちを落ち着ける。
「……いい所だな、ここ」
穏やかで静かな光景。そして見上げれば気持ちのいい青空がある。視線を戻せばどこまでも続く大海原。それを見ているとさっきまでの悩みも途端にちっぽけなものに見えて―――。
「いや、見えないって」
と、つい青年は自分の発想に突っ込んでしまう。そして何を思ったのか、とりあえず自分の頬を抓ってみた。もしかしたら夢でも見ているんじゃないかと考えたのだ。
「っ!」
鋭い痛みが走る。どうやら夢ではないらしい事が分かった。そう認識し青年は公園の外へ出てみる事にした。現在地を確認しようと思ったのだろうか。公園の雰囲気的には日本のようだがまだ分からないと思い、青年は入口へ向かう。そこには公園の名前だろう名前が刻まれていた。日本語のそれを見た青年は安堵すると同時に途方に暮れるのだが。
「海鳴……海浜公園……」
その名に聞き覚えもなく、先程まで自分のいた国は日本からありえない程の距離がある場所。だから彼はどうしてこうなったかを考えて一つの可能性に辿り着いたのかお腹の辺りに手を当てて困った顔で呟いた。
「まさか、アマダムのせい……?」
そう呟く青年の名は五代雄介。戦士を意味する力を手にした優しき男。みんなの笑顔のために拳を振るい、少なからず自分の笑顔をすり減らしていた青年。またの名を、超古代の力を持つ戦士クウガ。そう、仮面ライダークウガだ。
五代は周囲の景色を見渡すと誰にでもなく呟いた。それはある意味で彼らしい行動。五代雄介が知らぬ場所に来たのならまず真っ先にしようと考える事だった。
「とにかくまずはこの街を冒険してみるか。これからの事はその後で考えよう」
そう言って五代は小さく頷くと歩き出す。目指す先は特にない。当然だ。これは冒険なのだから。彼は知らない。この街で出会う者達や出来事がクウガとしても、そして五代雄介としても大きなものになる事を……
平和な一軒家。そこから上機嫌な雰囲気を漂わせて一人の青年が庭に顔を出す。彼はそのまま庭の一角に作った菜園に近付くと雑草を抜き始めた。その菜園は今から半年前、彼がこの家に居候するようになってから作られたものだった。
彼のたっての希望により実現されてからというものこの家の家計を助けてはいるのだが、一つだけ問題もある。それは、彼は野菜しか育てないという事。そして何故かそれが通常よりも大きくなるという事だった。
青年はどうやら菜園の手入れをしに来たようだった。そこで育てられているのは青年が丹精込めて世話をする野菜達。味は保障される無農薬の一品だがそれに不満を持つ者もいるようで……
「よしっ」
「よし、じゃねーよ。いつになったらイチゴかメロン育ててくれんだ」
全ての雑草を抜き終え満足そうに頷く青年に、Tシャツと半ズボンの少女が蹴りを入れつつ文句を述べる。それに青年は怒るでもなく、申し訳なさそうに表情を歪め手を合わせた。
「ゴメン、ヴィータちゃん。今は野菜達で場所が埋まってるからさ。それに、今からじゃどっちも今年中の収穫は無理なんだ」
「ならせめて種植えるとかしろよな。ホントに育てる気あんのかよ」
目を吊り上げて青年に迫るヴィータ。それに青年は困り顔をしながら謝るのみ。するとその光景を眺めていた長身の女性が素振りを止めてそこへ割って入った。
「それぐらいにしておけ、ヴィータ。何だかんだ言って、お前も野菜が美味しくなったと喜んでいたではないか」
「へっ、それはそれ。これはこれだ」
シグナムの指摘にどこか照れながらヴィータは青年から顔を背けた。その仕草が可愛らしく子供のように見える。そう思ってシグナムと青年は笑顔を浮かべた。何せヴィータは子供扱いが嫌い。そんな彼女だが、時折見せる仕草や言動は子供らしいのだ。それを指摘すると猛烈に恥ずかしがるか怒り出すので二人は言う事はしないが。
青年はそんなヴィータに微笑んだままその願いを叶える事を決断する。その右手の小指をヴィータへと差し出したのだ。それを横目で見つめるヴィータへ青年は小さく頷いて告げた。
「じゃ、約束するよ。野菜達を少し減らして、来年からはちゃんと甘いものも育てるから」
「……約束だかんな。嘘吐くなよ、翔一」
照れながら差し出されたヴィータの小指に自身の小指を絡ませて翔一は頷く。それにヴィータは納得したのか小さく笑った。シグナムはそんな二人を見つめ微かに笑みを見せると再び素振りを再開する。
青年の名は津上翔一。人の新たな可能性に目覚めた男。全ての人間とアギトを守るために戦い、神に勝利した存在。光の神から与えられし神秘の力を使う始まりにして終わりの戦士。またの名を、仮面ライダーアギト。
翔一はその後八神家の中へと戻る。ヴィータもそれを追い駆けるように家の中へ戻るためか玄関へ向かった。そろそろ時刻は午後三時。おやつを食べるためだ。それを知っているのだろうシグナムの顔には苦笑が浮かんでいる。
翔一は知らない。この家の者達が背負う忌まわしき因縁を。それが自分がここへ呼ばれた理由なのだとは。そしてあの発電所で知った”仮面ライダー”との名。それを彼はここで強く意識する事になる事も……
ジェイル・スカリエッティは戸惑っていた。天才科学者として名高い彼が戸惑うなど珍しいのだが、今回ばかりはおそらく誰でもそうなるだろう。何故なら、急に何の前触れもなく人間が現れたのだ。それもただの人ではない。全身を鎧のようなもので覆った人物だったのだ。
ジェイルが人物と判断出来るのは先程から色々喚いているからであり、そして動きが本当に人間くさい事もある。ともあれこのままでは話も出来ない。そう考えてジェイルは相手を落ち着かせようとした。
「……まずは落ち着きたまえ。君は一体何者だい?」
「え? おわっ! 誰だ、あんた!?」
どうやら相手はジェイルに気付いてなかったらしい。声を掛けた途端、軽く飛び跳ねジェイルを警戒するように見つめてきたのだ。少なくてもジェイルのはそう見えた。そんな相手の言葉にそれを聞きたいのはこちらの方だと思ってジェイルが頭を押さえる。だが、ふとある事を疑問に思い尋ねた。
「君は……管理局員かい?」
「は? 管理局? いや、ただの仮面ライダーだけど……」
「カメンライダー?」
「あ、そうか。そう言われても普通知らないよな。えっと……」
聞いた事のない名称にジェイルが疑問符を浮かべると彼は何かに納得したようだ。そう言うなり、鎧の人物はベルトのようなものに手を伸ばし、それからバックルらしきものを外した。その途端、鎧が消えて一人の青年が現れた。どこか人懐っこい笑みを浮かべ青年は告げた。
「俺は城戸真司。OREジャーナルのジャーナリストやってます」
そう言ってから思い出したように名刺を慌てて取り出す真司。それを見つめ、ジェイルは久方ぶりの興奮と感動に打ち震えていた。見た事も聞いた事もないシステム。そして、管理局を知らないという事は管理外の人間。つまり、それは何をしても管理局が動く事はないという事だった。
これは面白い研究材料が現れた。そう思ってどこか不気味な雰囲気を醸し出すジェイルに真司は不安そうな表情を見せた。その眼差しは若干引いているのが彼の心境を物語っている。
(だ、大丈夫かなこの人。それに見られたから仕方ないとはいえ、俺がライダーだって教えちゃったけど良かったか……? にしても……何かここ、やな感じがするなぁ……)
彼の名は城戸真司。戦いを止めるために戦いに身を投じた男。自分のために戦うライダーしかいない中、ただ一人誰かのためにライダーとなった存在。龍の力を宿したデッキを使う騎士。またの名は、仮面ライダー龍騎。
不気味に笑うジェイルを眺め、真司は困惑しながらおずおずと現在地を問いかける。それに意外とあっさり答えるジェイルに拍子抜けしたのか真司は軽く首を捻った。まだ彼は知らない。目の前の相手がどういう存在かを。そしてこの世界で仮面ライダーの本当の意味を知る事になるなどとは……
本人達も知らぬ何かに導かれ、異世界に現れた三人の異なる仮面ライダー。
彼らが出会う事は何を意味するのか。
そして、何故彼らが呼ばれたのか。それは誰にも分からない……。
--------------------------------------------------------------------------------
一話。再投稿に際し加筆修正をしてあります。
Tweet |
|
|
10
|
10
|
追加するフォルダを選択
仮面ライダーとリリカルなのはのクロス物です。
五代雄介、津上翔一、城戸真司の仮面ライダーがA'sの時代へ召喚され、クウガとアギトは海鳴へ、龍騎はジェイルラボへと現れます。そして彼らはいずれ甦る闇相手に魔法少女達と共に戦う事に……