No.431645 真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史編ノ十四2012-06-02 20:40:21 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:10825 閲覧ユーザー数:7702 |
「では、改めて聞きますがあなた方が張角・張宝・張梁で間違い無いですね」
「「「…はい」」」
俺の目の前にいる三人の女の子は俺の質問に素直に頷く。
…しかし、これが大陸中を争乱に巻き込んだ黄巾党の首領とは。
とてもじゃないが、そういう事をする人達に見えない。
「あ、あの…」
張角さんが躊躇いがちに口を開く。
「どうしました?」
「…波才さんは、大丈夫なのですか?」
「ああ、それなら心配無い。今は治療中ですが、命に別状無いみたいですよ」
黄巾党の将である波才さんは、姜維より受けた矢傷が思ったより重く、
今は別室で治療中だ。
「良かった…」
俺の言葉を聞いて、張角さんは安堵の息を洩らす。
その姿を見ると、ますますあんな争乱を起こした張本人には思えない。
「では、改めてこちらの質問に答えてもらいます」
途端に三人は体をビクつかせる。
「何故このような争乱を起こしたのですか?漢王朝に不満があったからとかですか?」
「「「……」」」
三人は黙ったままだ。
「どうしました?…申し訳ないですが、黙秘などというものは通用しませんよ?」
「な、何もしゃべらなかったら、拷問するとか言うわけ!?」
「さあ?それはどうだか。俺は拷問なんてものは嫌いですので。でも、このまま何も
話してくれなかったら、そういう事も考えなくちゃならないかもしれませんね」
俺の言葉に三人は明らかに顔を凍りつかせた。実を言えば、例え彼女達が何も話さ
なくても拷問になどかけるつもりは毛頭無い。とはいえ、しゃべってくれるように
仕向ける為にも多少の脅しは必要なわけで…。
「べ、別に漢王朝に不満があったとか大陸を征服しようとかいうわけではないんだ
からね!…そりゃ、役人は何も助けてくれないのに税ばかり取っていく奴らばかり
だったけどさ」
脅しに屈したというわけでも無いのだろうが、いきなり話し始めたのはポニーテール
の娘…張宝さんだった。
「ほう、別にそういう野心があったわけでは無いと」
「そうよ!ただ私達は、私達のような旅芸人が安心して暮らせるような場所が欲しかった
だけなのよ!!」
…旅芸人が安心して暮らせる場所?それが何故あのような争乱になるのだろう?
俺の顔に疑問の色が浮かんでいたのを感じたのか、眼鏡の娘…張梁さんが話し始める。
「私達は今でこそ三姉妹での活動になっていますが、5年前までは両親や仲間の人を含めて
二十人程で活動をしていました。旅芸人の一座としては結構有名で、わざわざ招いてくださる
富豪の方や太守様もいて下さった位で、ずっと旅の日々でしたが毎日がとても楽しいものでした。
でも…5年前のあの日から状況が一変したのです」
~張三姉妹の回想~
「ねえ、お父さん。今回はどこまで行くの?」
張梁は馬車を操る父親の脇に座って景色を眺めながら尋ねる。姉二人は馬車の中で母親と共に
昼寝をしているようだ。
「ああ、今回は荊州の長沙という所に行くんだよ。そこの太守様である孫堅様がわざわざ張一座を
お招きくださったんだよ」
「へぇ~、この間は幽州の劉虞って人の所だったのに今度は荊州か。お父さん凄いね♪」
「ははは、そんなでもないよ。でも、こうやって皆が我々の芸を求めてくれるのはうれしい事だけどね」
父親は娘に褒められて照れながらもうれしそうに答える。
張梁はそんな父親の顔を見ながら、ずっとこんな日が続く事を少しも疑っていなかった。
しかし…その日の夜。
「天和!地和と人和を連れて早く森の中へ逃げるんだ!!」
「お父さんとお母さんは!?」
「すぐに追いかけるから!三人は早く逃げなさい!!」
長沙へ入る手前の山の中にいた張一座の宿営地に山賊が襲い掛かってきたのだ。
本来であればこのような所で野宿をしないようにしているのだが、長沙周辺は太守の孫堅の善政が行き
渡っている為、賊はほとんど出ないという話だったので山の中で宿営したのが仇になったのである。
「ちぃちゃん、人和ちゃん、早く!!」
「「でもお父さん達が…」」
張宝と張梁は父親達の姿を捜そうとしたが…。
「おい!こっちの方から声が聞こえるぞ!!」
「確かガキがいた筈だ!捜せ!!」
三人は賊の声が聞こえると声を潜めて夢中で逃げた。
どこをどう逃げたかわからなかったが、気がつくと長沙の城門の前に来ていた。
必死に助けを求めた結果、話を聞いた孫堅が兵を連れてその場に急行すると言うので、三人も同行した
のだが、そこに広がっていたのは……。
「…お父さん、お母さん…みんな…」
元は人の姿をしていたらしき物が散乱しているが如き状況であった。
抵抗したらしき男性は前後から切り刻まれていた。そして女性の死体は全て裸に剥かれていた。散々
犯された後に惨殺されたのは間違い無いようだ。そしてそれは三人の両親も例外では無かった。
「すまない。私が一座を招いたばかりに……」
孫堅は三人に頭を下げた。そして孤児となった三人を引き取ってくれたのであったが、三人にとって両親や
仲間の死んだ近くに住むのは耐えられる事では無かった。半年後、三人は孫堅に黙って城から逃げ出した
のである。
それから程無く孫堅は戦で死んだという噂を聞いたが、三人には何の感慨も湧かなかった。
その後、三人は生きていく為に再び旅芸人になったのだが…。
「歌うだけ歌わされてタダ同然のお金だけで放り出されたり、歌なんていいから一晩俺の閨に来いとか、挙句の
果てには拉致されて暴行されかけた事もありました…。この大陸は旅芸人にとって住み良い所では無かった。
…だから、私達は旅芸人が安心して芸を披露できる場所を造りたかったんです」
張三姉妹の身の上を聞き、俺は行き場の無い怒りと悲しみに打ち震えていた。…そうか、この娘達も時代の
被害者だったのだな。しかし、それだけでは解決できない疑問がある。
「それが何故、あのような争乱へ広がっていったんです?」
「そ、それは…私達にもわからないんです。いつの間にか、あのような規模になっていて…でも、目的の為にも
途中でやめる事は出来なかった。例え間違ったやり方をしている人達がいても、最後には私達が思い描いた
未来があるって信じてやっていくしか…」
ふむ、張本人達の知らない所で暴走していったのか…。その時、朱里が口を開く。
「張梁さん、最初にあなた方が活動を始めた時からうまくいっていたのですか?」
「…全然ダメでした。何の伝手も力もお金すらも無い私達に耳を傾けてくれる人なんて誰もいませんでした」
「それが何故あのような規模になっていくのですか?何か切欠があったと思いますが」
「切欠?…そういえば」
張梁さんは何かを思い出したようだ。
「活動を始めてしばらくしてから、張角姉さんが応援しているって人からある書物をもらったんです」
「それはどのような書物ですか?」
「題名は『太平要術』と書かれていました。何かの古い書物なら好事家に高値で売れるかと中を確認したら、
そこには私達では思いもつかないような人を集める方法や芸を広める方法とかが書かれていました。試しに
一つ二つやってみたら今までとは比較にならない程の大成功を収めて、それから一気に活動の幅も会員の人達
の数も増えていったんです」
「その本は今どこに?」
「それなら私が焼き捨てました」
朱里の質問にそう答えたのは陣に入って来た波才さんだった。
「「「波才さん!大丈夫ですか!!」」」
三人は波才さんの元へ駆け寄る。
「はい、ここの人達のおかげで、この通り」
「「「良かった…」」」
「ゴホン!無事を喜び合うのはいいけど、ここはどこで今はどういう状況かわかってるのですか」
俺が注意を呼びかけると三姉妹と波才さんは申し訳なさそうに畏まる。
「それで、波才さん?その本を焼き捨てたと言うのは本当ですか?」
「はい、私は三人が活動を始めた当初より補佐して参りました。確かにその本のおかげで活動は大成功
でしたが、同時にだんだんとおかしくなっていったのです」
波才さんの語る所によると最初は純粋に三姉妹の歌を聞く人達がほとんどだったのだが、徐々に暴力行為を
肯定する人や暴力そのものが目的である人達が集まってきて、挙句の果てには全く関係の無い所で黄色の布を
つけた連中が暴れ始めたらしい。そしてその度に、三姉妹の持っている太平要術が妖しい気を発するように
なっていったという。
だが当の三姉妹はその事に気付かないばかりか、太平要術の中に書かれている事にますますのめり
込むようになっていった為、このままではいけないと判断した波才さんが三姉妹の留守の間にその本を燃や
してしまったという事だった。
「それはいつ頃の事ですか?」
「数ヶ月位前、多分北郷殿が南郷郡の太守になられる直前位の事だったと記憶しています。思えば、あの頃から
私達の勢いに翳りが出てきたのかもしれません」
つまり全ての元凶は太平要術なる本だというのか…しかし、それで解決する話でもない。
「しかしそうだとしてもこの争乱を引き起こした責任を免れる事は出来ない。それはわかっていますね、
張角さん」
「…はい。私が黄巾党の首領となっているのは知られている事です。例えそれが太平要術のせいで、私達とは
関係無い人達が暴れてただけだとしても、責任は私が取らなければなりません。私は、ちぃちゃんや人和
ちゃんみたいにいろいろ考える事はできなかったけれど、私の首でこの争乱が収まるのなら、喜んで私は死刑
台に立ちます」
「「天和姉さん!!」」
張宝と張梁が声をあげるが、張角はそれを制した。
「黄巾党が争乱を起こした事により、たくさんの人が死んだの。という事は、私達と同じように両親や仲間を
殺された人達も大勢生まれたという事なんだよ。最初はこんな事から逃げてしまおうと思ったけど、捕まった
事でやっぱり逃げてはいけなかったんだって思ったの。…だから北郷さん、この私『黄巾党首領の張角』の首
を挙げてください。ただ、妹二人の命だけは助けてください。責任は私一人で取ります」
どうやら張角さんの決意は本物のようだ。ならば…。
「わかった。ならば、今ここで処刑を行う」
「「…!!!」」」
俺の言葉に張宝さんと張梁さんの表情が凍りつく。
そして俺は腰に差した明鏡を抜く。それを見た張宝さんと張梁さんは張角さんの前に立ちはだかろうと
するが…。
「霞、岳飛」
「…はっ」
「…了解」
霞が張宝さんを、岳飛が張梁さんを背後より押さえつける。
「何よ、放しなさいよ!!」
「お願い、放して!北郷さん、処刑するなら私を…」
二人は抵抗するが武人相手に敵うはずもない。
「覚悟はいいかい、張角さん?」
「はい、いつでも」
張角さんは胸の前で両手を合わせ、祈るようなポーズをとる。その迷いの無い姿は一種の神々しさをも感じ
させる。
「いや!天和姉さん!!」
「波才さん!!何で止めないのよ!!姉さんが殺されるのよ!!!」
「申し訳ありません、張宝様。ここで処刑を止めても何も解決しません。そしてそれは張角様の望むものでも
ありません。せめて私に出来る事は最期を見届けた後、すぐ後を追って黄泉路の共をする事だけです」
波才さんは迷う事無く答える。その言葉に二人は言葉を失う。
「ありがとう、波才さん。でもそんな事しなくていいんだよ。ちぃちゃんと人和ちゃんの事をお願いね」
張角さんは笑顔で波才さんに告げる。
「では行きますよ、張角さん」
「はい」
張角さんはゆっくりと首を垂れる。
そして俺は刀を振り下ろした。
「「姉さーーーーーーーーん!!」」
ハラリ…地面に落ちたのは張角さんの頭に結ばれていたリボンだった。当然、張角さんの首は落ちていない。
「「えっ……」」
張宝さんと張梁さんは展開についていけていない。
「これで張角さんの処刑は終わりだ」
「どういう事ですか、北郷さん?…まさか私達に情けをかけたのですか!?」
張角さんは憮然とした表情で問いかけてきた。…まあ、確かにこんな終わり方じゃそう思うわな。
「情け?…まさか。張角さん、あなたは責任を取ると言った。ならば、死んではダメだよ。どんなに恥をさら
そうとも、泥水をすすってでもあなたは生き続けなくてはいけない。そしてあなたが起こした争乱がもたら
すものを最後まで見続けなくてはいけない。それがあなたが取るべき責任だ。そして今俺が処刑したのは
黄巾党の首領としてのあなただ。今からあなたは一人の芸人だ…厳密に言えば三人組のね」
俺がそう言い終えると同時に霞と岳飛は手を放す。自由になった張宝さんと張梁さんが張角さんの元へ駆け
寄る。
「「天和姉さん!!」」
「地和ちゃん、人和ちゃん…」
三人は抱き合っていた。
「とはいえ、このままあなた方を自由にするわけにはいかないのだけどね」
俺がそう言うと三人は抱き合ったまま固まる。
「「「ど、どういう事ですか?」」」
三人は怯えたように尋ねる。
「あなた方が今まで通り芸人としての活動は認める。但しその範囲は俺の目が届く所、つまりこの南郷郡のみに
限定させてもらう」
「何よ、それ!!何であんたに勝手に決められなきゃいけないのよ!!」
「待って、ちぃ姉さん…北郷さん、では南郷郡の中では自由にしていていいという事ですか?」
「ああ、人に迷惑をかけない限りはね」
「…わかりました、あなたの言う事に従います。但し、私達三人と波才さんの命を助けてくれる事が条件です」
激昂した張宝さんをなだめつつ、張梁さんが答える。
「ちょっと、人和!何勝手に決めてるのよ!!」
「ちぃ姉さん、元々私達に選択肢なんてないのよ。断れば次は本当に処刑されるだけよ。それでもいいの?」
張梁さんがそう淡々と答えると張宝さんは何も言い返せない。
「なら決まりだね。そうと決まれば君達の活動の拠点を造らなくてはね」
「「「活動の拠点?」」」
三人が声をハモらせて聞いてくる。
「そう、先程張梁さんが言っていた旅芸人達が安心して芸を披露出来る場所をね。そしてその中心にあるのは
君達三人の舞台さ」
「そんな、命を助けてもらっただけでなく、そこまでやってもらわなくても…」
「別に君達の為だけにやるわけではないよ。それがうまくいけば、間違い無く多くの人を呼べる場所となる。
そしてそれはこの南郷郡に大いなる富をもたらす事になるのさ」
俺が考えたのは大陸各地から旅芸人達が集う一種のテーマパークだ。人々はいつの世も娯楽を求めるもの、
ならばそれを叶える場所を提供できればそこに多くの人がやってくる。それがもたらすものは俺達に大きな
見返りとなって返ってくるのだ。…そりゃ警備や他国からの間者が入り込みやすくなるという問題も出て
くるが、それについても考えが無いわけではない。
「つまり私達は自分の理想の為に北郷さんに協力し、北郷さんは自らの領土の繁栄の為に私達を利用すると
いう事ですね」
「そういう事。君達だってただで提供するって言われるよりは気が楽だろう?」
「それは私達、張三姉妹に対する挑戦という風に受け取っていいという事ね!」
張宝さんは半ば踏ん反り返ってそう言った。…挑戦ねぇ、まあいいけど。
「そう思うならそれで結構」
「なら、この話乗ったわ!私達の実力を見せてやろうじゃない!!」
「え~と、つまり私達は助かるという事でいいのかな?」
話の展開についていけなかった張角さんは間延びした声で聞いてきた。
「さっき俺が言った条件を呑んでくれればね」
「うん、わかりました。それじゃ、よろしくお願いします。私の真名は『天和』です」
張角さんはいきなり俺に真名を教える。それに皆、驚いていた。
「ちょ、ちょっと姉さん!?いきなり真名を教えなくても…」
「ちぃちゃん、私達は命を助けてもらった上にこれからこの人にお世話になるんだよ?
その位は当然の事だよ」
張角さんはそう張宝さんに言い聞かせる。そういう所はお姉さんという感じがする。
「う、わかった…私の真名は『地和』!」
「私の真名は『人和』です。よろしくお願いします。北郷さん」
「それなら俺の事は一刀と呼んでくれ。それが真名みたいなものだからね」
「良かった…本当に良かったです、三人共。これで私も思い残す事はありません」
波才さんはそのやり取りを見て、うれしそうに呟く。
「おいおい、何を言ってるんだ波才さん。あなたも一緒にやってもらうんだよ」
「えっ!?私もですか?」
「そうさ、そういう物を造った時に問題になるのは警備だ。あなたにはその任について
もらいたい。無論、三人の護衛も兼ねてね」
「私なんかでいいのですか?」
「あなたこそが適任だと思っている。三人の舞台の警護ならお手の物だろう?」
「…ありがとうございます!粉骨砕身努力させていただきます!!」
波才さんはとてもうれしそうにしていた。彼女が警護の任についてくれれば、こっちから
出す人手も抑えられるだろうし、万々歳だ。
「それでは波才さんもよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ!私の真名は『涼(すず)』と申します。よろしくお願いします、北郷様」
これで黄巾党の首領格の三人と将一人が俺の仲間に加わるのか……あれ?そういえば…。
「ところで何で天和達はこんな所にいたの?中央に集まっている十万の軍勢の中にいると思って
たんだけど?」
「…それが作戦だったんです。十万の兵の所に主要な諸侯の兵を引き付けて、他の場所の兵とで
挟み撃ちにしようって。私達がここにいたのは外側の方が指揮しやすいと思ったのと、中央に
集まったのは山賊上がりの人達ばかりで、もし失敗して失っても痛くないと判断したからです。
でも、まさか一刀さんにここへ攻め込まれるとは思いもよらず…」
人和がそう答えた。…俺がここを攻めようとしたのは、ただ黄巾党の勢力を削って他の諸侯の
負担を減らそうとしただけなのに、結果的に首領を捕まえてしまった…あれ?
「朱里、このままでいいのか?これじゃ争乱に収拾がつかないような…まさか張角を捕まえた
なんて触れ回るわけにもいかないだろうし…」
「それについては考えがあります。お任せを」
朱里は自信満々にそう答える。どうするんだろう…?
明くる日、別行動をとる事になった劉備軍を見送りに出ていた。
「それでは、劉備さんは中央の黄巾党の討伐に加わるのですか?」
「はい。やっぱりこういうのは首領を討ち取らないと終わらないですし、皆さんそちらへ行かれて
いるようですしね。…北郷さんこそ行かないのですか?」
「行きたいのはやまやまなんだけど、領内に賊が出没しているらしいという情報がありましてね。
首領を討ち取るのはそちらにお任せします」
…いくら劉備さん達が事情を知らないからといっても、何だか我ながら白々しい台詞だ。
「本当に欲の無い人だな、北郷殿は。結局、昨日の『張梁』も偽者だったらしいじゃないか。どうせ
首領を討ち取れば、他の賊など雲散霧消するだろうに」
姜維さんはやれやれといった感じに肩をすくめながら言った。その姜維さんに朱里が話しかける。
「姜維さん、役に立つかどうかはわかりませんが耳寄りな情報があります」
「おや、何かな?」
朱里は姜維さんに何やら絵を渡しながら、説明をしている。最初は訝しげだった姜維さんも、
最後の方は目を輝かせながら朱里の話を聞いていた。
「何と、それは良い事を聞いた。向こうについたら早速に役立てよう。…しかしいいのか?ここまでの
情報を持っていながら中央に参戦しなくても?」
「私達には私達の道があるんですよ。姜維さんもいずれわかる日が来ます」
「さあ?少なくとも今の私には理解しがたい話だよ。まあ、この情報はありがたくいただいておく」
そして劉備さん達は中央の黄巾軍の討伐に加わる為に出発していった。
「なあ、朱里?今、姜維さんに言っていた事って何なんだ?」
「そのうちわかりますよ」
そう言って朱里は意味深な笑みを浮かべる。…うう~む、わからん。
それからしばらくして…。
「張角が討ち取られた!?」
中央の方からそのような情報がもたらされた。…でも天和はここにいるのに、何故?
「はい、中央にいた十万の黄巾党の軍勢を各諸侯の軍勢が遠巻きに囲んでいた所へ、劉備殿の軍勢が
なだれ込んで来て、混乱したところを陳留の州牧である曹操殿の軍勢が討ち取ったと。…人相書きと同じ
顔だったので、疑う者もいないそうです」
輝里の報告を聞いて、俺はあの時、朱里が姜維さんに耳打ちしていた事を思い出す。
「そうか!朱里があの時姜維さんに言っていたのは…」
「はい、その通りです。中央の黄巾党の軍勢の方に放っていた斥候より、その賊の頭の中に張角の人相書きに
似た男がいるとの報告を受けていたので、利用させてもらいました。…その人には少々悪い事をしてしまった
かもしれませんが」
そう言って朱里は少し俯いていたが、中央に集まっていたのは山賊上がりがほとんどだと人和が言ってたし、
という事はその男とて今まで散々悪事を働いて来たのだから、そのツケがまわってきただけだろう。人相書き
に似ていたのが運の尽きという事だ。
「…朱里、あまり気にするな」
「はい、わかっています。こうなる事は承知の上ですから」
ともあれ、これにて長い間人々を苦しめてきた黄巾の乱もようやく収束する事になった。
しかし、これはこれから起きるであろう争乱の時代の幕開けである事は間違いの無い事だ。でも、例え一時
でも勝利と平穏の日々を噛みしめよう。それがこれからの生きる活力につながる事を信じて…。
それからしばらくして、遂に芸人達が芸を披露する為の施設が完成した。その完成記念として、張三姉妹が
歌を披露する。
とはいえ、そのまま名前を名乗ったのでは問題があるので三人のユニット名をつけた。今回はそれの初披露の
場でもある。その名前は…。
「「「数え役満☆姉妹で~す!今日は私達のらいぶに来てくれてありがとう!!」」」
『ほわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
「「「これからもみんなの為に歌うので応援よろしくお願いしま~す!!」」」
『ほわぁ!ほわぁ!ほわぁぁぁぁぁ!!』
三人の新しい門出を祝福するかのような大歓声はいつまでも消える事は無かった。
続く(と思う)
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回のお話で黄巾編を終了いたします。
最初考えていた時はあと5~6話位は多かったのですが、いろいろ削っているうちに
このような形になりました。
とりあえず次回から数話程度、拠点のようなお話をお送りした後で反董卓連合軍編に
入る予定でいます。
当然、メインヒロインである朱里は出て来ますが、他に『この人のお話が見たい』
という希望がありましたら、コメントを寄せていただければ幸いです。
全員は無理でしょうが、何人かは実現させたいと思っております。
一応、期限は6月6日迄とさせていただきます。
それでは次回、外史編ノ十五でお会いいたしませう。
追伸 反董卓連合編で一刀をどちら側で参戦させようか大いに悩む今日この頃…。
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お待たせしました。
今回で一応、黄巾編は終了という事になります。
一刀は捕まえた張三姉妹を果たしてどうするのか…。
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