No.431040

Black dream~黒い夢~(10)

C-maさん

PSO2「ファンタシースターオンライン2」の自分の作成したキャラクターによる二次創作小説です。
(PSO2とその世界観と自キャラが好き過ぎて妄想爆裂した結果とも言う)

ラッピーミニドール・・・w

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2012-06-01 18:46:51 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:862   閲覧ユーザー数:831

また、ここに来る事になるとは。

あちらこちらで炎に巻き上げられた空気が、風を作り出している。

埃と、巻き上げられた紙くず、燃えた化学物質の臭いが鼻を突く。

他のアークス達が次々に転送装置から市街地へ散っていく中、エリはその市街地が一望出来る高台の上で立ち尽くしていた。

その姿は「ハニュエール」のまま。

背中のクシャネビュラのフォトンブースターが淡く輝いている。

 

「貴方に聞いていなければ混乱していたわね」

 

見覚えのある光景。

それは十年前のものではなく、『つい先日見たように』鮮明なもの。

 

「だろうな。俺も初めは戸惑った」

 

呆然と、破壊された街並みを見ているエリ。

その隣に並ぶように、リュードが立った。

 

「でも・・」

 

そう言って、エリはふと首元の「戦略OS」のターミナルに手をやった。

自分の背中にある「戦略OS」。

全てのアークスに装備として支給されるもの。

戦闘における敵のモニター及びオペレータとの通信、フォトンブースターのコントロールという名目はあるが、その実は「データ収集」と「監視」の為の装置。

電源を落とす事も出来るが、戦闘時の戦力低下は免れず。

上手く出来ている。

 

戦略OSが『奴ら』の手の内だとしたら、この会話も全て筒抜けなの?

 

エリの表情に、リュードは小さく首を振った。

 

「戦略OSはもう気にしなくていい」

「どうして?」

「総督が手を回してくれた」

「?!」

 

マターボードの効力によって時間を遡り、エリに真実を話した直後、総督からの呼び出しがかかった。

記憶が戻った事が『奴ら』に発覚したかと緊張して総督室に向かったのだが。

その理由はあまりにも思いがけないものだった。

 

「俺達のデータを『改竄』してから『奴ら』に渡るようにプログラムを書き換えてくれたんだよ」

「どういう事?」

「総督は『マターボード』の事を知っていた。ずっと俺の記憶が戻るのを待っていたらしい」

 

エリは驚いて、リュードに向き直った。

 

「でも、どうして?総督は『オラクル』の統括メンバーの一人な筈よ?」

「総督は十年前の事件で、俺と同世代の一人息子を失っている」

 

遙か遠くに見える煙をずっと見据えているリュード。

 

「ひょっとして・・・」

「多分。俺にその姿を重ねているんだと思う。実験体としていいように扱われてきた俺がずっと気になっていたそうだ。あの人もぎりぎりの所に居るんだな」

 

千年に一度蘇る闇。

それを利用しようとする「愚か者達」。

それに対抗するために「マターボード」を生み出した人々。

 

様々な思惑が交錯する中で、人として、親として、黙っていられなかったのだろう。

「仲間殺し」という過去の罪も知った上で、自分の事のように総督は記憶が戻った事を喜んでくれた。

感謝してもし切れない。

エリはリュードの背中にふと視線を送る。

 

「その武器も?」

「ああ、俺に使って欲しいと総督が譲ってくれた」

 

クレイモア。

「あの時」にゼノが己に託した武器が、形を変えて自分の手に届く。

こうして少しずつ、少しずつ「時間軸」が変わっていく。

絶対に「あの未来」へ到達させる訳にはいかない。

 

背後の転送装置(テレパイプ)が、唐突に作動した。

振り返ると、エコーとゼノが飛び出すように転移してきた。

 

「ごめんなさい!遅れちゃった!」

「お前な、こんな時くらいちゃんとしろよ!」

 

慌てすぎて、転びそうになっているエコーが居る。

 

「だってエリアルドが『ローザクレイン』と『グランツディスク』を譲ってくれるなんて思わなかったんだもの!」

 

口喧嘩をしている二人に、エリはリュードと顔を見合わせて苦笑した。

エコーが装備しているのは「あの時」エリが持っていた筈のタリス「ローザクレイン」。

法撃力を底上げする装備も一緒に譲り、ローザクレインが装備出来るようにエリが手配した。

 

「でも良かったの?ご両親の大事な形見なんでしょ?」

「私には必要ないものだから。それにエコーには頑張ってもらわないと。前衛が3人も居るのよ?」

「まあその辺は全然問題ないけど、助かったわ。これでまた少し強くなれたもの」

 

エコーが興奮気味にローザクレインを眺めている。

と、思い出したようにゼノがエリへと向き直った。

 

「そうそう、ローラさんからこれを預かってるぜ」

「え?」

「言う事を聞かない馬鹿娘にあげて、ってさ」

 

尖った耳のようなヘッドギア。

脳の負荷を軽減するもの、である筈。

苦笑して、エリはちらりとリュードを見た。

これも、時間軸を移動した「マターボード」の影響?

リュードは僅かに笑って頷く。

 

「仕方ないわね・・・貰っておくわ」

「そんな事言ってまたローラさんに怒られても知らねぇぞ?」

「いつもの事よ」

 

ヘッドギアを装備した直後。

首筋にちりちりと伝わる「ダーカー発生」のシグナルがエリを襲う。

 

「来たわ」

 

辺りに黒い影が浮かび上がり始める。

ゼノがクレイモアを抜いて、ニヤリと笑う。

 

「さあ、掃除を始めようぜ」

「そうだな、行くか」

「補助はまかせといて」

「まだまだ救助を待ってる人は沢山居るわ」

 

誰一人臆す事無く、彼らは再び戦場へとその身を投じた。

一際目立つ「スフィア・アリーナ」。

廻りに沸いたダーカーを一掃した後、四人はその前で立ち尽くしている。

 

「・・変だな、俺、前にもここに来た気がする」

「ゼノも?」

 

別の時間軸での経験が彼らの言葉を生み出した。

エリとリュードは頷いて、二人に向き直る。

 

「二人とも良く聞いて」

「ん?」

「このアリーナの中に、凄く大きなダーカーが居るわ」

「・・・マジかよ」

「ええ。物凄く凶悪なフォトンを持ってる。だからお願い、力を貸して」

 

「あの時」は二人で戦ってしまった事も、過ちの一つだと確信していた。

だからこそ、未来を変えるために。

絶対に「あの未来」だけは避けなければならない。

改めて協力を願い出たエリに、エコーが頷いた。

 

「任せなさい。言われなくたってとことん付き合うわよ」

「思う存分暴れてやろうじゃねぇか」

 

頼もしい。

ずかずかとアリーナ内へと歩を進め、ロビーに湧き上がる有象無象を蹴散らし。

無言で四人は相槌を打ち、巨大な「転送装置」をくぐる。

 

アリーナ中央に転送された彼らの「眼前」に、それは居た。

鎌で威嚇する「ダーク・ラグネ」。

そのフォトンの禍々しさに、エリの首筋が引きつるように痛む。

 

「・・・うひょぉ・・でけえなマジで!」

 

クレイモアを構えるゼノの声が武者震いで震えた。

エコーが即座にシフタとデバンドを唱える。

前衛の3人がダーク・ラグネを取り囲むように散開した。

 

「脚を狙って!!動きを止めないと!!!」

「よっしゃぁ!!」

 

分散した戦力に、闇の巨蟲は翻弄されているようだった。

撒き散らしたフォトンの弾丸も、殆ど彼らに当たる事はなく。

苛立ったダーク・ラグネはとうとう壁伝いに逃げるように這い上がり。

押しつぶすように飛び降りて来た。

破壊的な音を立てて舞い降りた巨大な蟲に、リュードが叫んだ。

 

「こいつの『咆哮』には催眠効果がある!聞いたら最後『操られる』ぞ!絶対に聞くな!」

 

直後。

地獄の窯のような巨大な口を開けて、ダーク・ラグネが吼える。

 

「う・・わっ!?」

 

反射的に全員が耳を押さえ、それに耐えた。

ぎりぎりの所で、リュードの忠告が間に合ったようだ。

声に呼応するように、わらわらと足元に湧き上がってくるダーカーの群れ。

 

「邪魔だザコどもぉ!!」

 

暴れまわるゼノに呆れつつ、傷だらけになって飛び退ってきたリュードにエコーが駆け寄る。

 

「こいつと戦った事があるの!?」

「随分『昔』にな」

「成る程ね、気をつけるわ」

 

回復を施すと、リュードは笑って頷いた。

 

「ありがとう、助かる」

「頑張ってね」

「ああ」

 

足元の雑魚を蹴散らし、再びリュードは巨蟲へと走る。

その様子に、エコーは肩をすくめた。

 

随分と穏やかになったものね。

誰のお陰かしら?

 

視線の先に、舞うように戦うエリが居た。

クシャネビュラの切っ先が、脚を覆う真っ黒な装甲を引き剥がす。

その衝撃に、ダーク・ラグネは思わず地に伏した。

エリがその背に飛び乗り、叫ぶ。

 

「後頭部!!!」

「了解!」

 

必要最低限の言葉で、意思は通じる。

頭の後ろの「コア」に、全員の攻撃が集中した。

必死に彼らを振り落とそうとダーク・ラグネは身を震う。

半ば弾き飛ばされるように、彼らは間合いを取った。

『キァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』

 

奇声と共に、赤黒い(いかずち)が到る所に発生した。

防御しようとして、エリは唐突に弾き飛ばされる。

 

「きゃぁっ!?」

 

必死に受け身を取り、振り返ったエリは呆然となった。

エリを庇い、雷に打たれたのはリュード。

両手膝をつき、ぎりぎりと歯を食いしばってそれに耐える姿。

全身から、禍々しいフォトンが迸る。

 

「駄目だ、こいつは・・防御(ガード)出来ない・・!!」

「リュード!!」

 

エリはその全身が逆立つような気配に覚えがあった。

彼の目が次第に紅く黒く染まり、その身が諤々と震えている。

思わずリュードを抑えるようにしがみ付き、エリは叫んだ。

 

「駄目よ!今暴走したら・・!!」

「はなれ・・ろ・・」

「旦那!!!エリアルド!」

 

ゼノが彼らとダーク・ラグネの間に割って入った。

エコーもそれを補助するように必死にテクニックを飛ばす。

ダーク・ラグネはまたしても空へ逃げるように舞い上がり、遙か遠くへと舞い降りた。

まるで「器の覚醒」を待つかのように。

エコーとゼノが、蟲を追って走る。

 

「しっかりして!!」

 

闇の意思の器として意図的に作られた存在。

視線の先にある「マザーシップ」からの「気配」。

このままではまた「黒い夢()」が開いてしまう!!

エリはその瞬間、リュードの背中の「戦略OS」が異常な光を発している事に気付いた。

 

「まさか・・・これが?」

 

総督が書き換えたとは言っても、元はブラックボックスの戦略OS。

この「ダーカーのフォトン」に誘引されて何か特別なプログラムが立ち上がっているのかもしれない。

だとしたら。

 

「リュード、ちょっと我慢して」

 

戦力の低下など、気にしている暇はない。

徐に、エリはクシャネビュラを構え。

力任せに、リュードの背中の「戦略OS」を「システムごと」破壊した。

 

「ぐあっ!!!」

 

叩き付けられる様に地に伏したリュード。

背中のOSが停止した途端、彼を取巻いていた赤黒いフォトンが消えた。

我に帰ったように顔を上げると、代わりに尻餅をつくようにエリが座り込んで呟いた。

 

「止まった・・!」

 

その顔は安堵。

 

「君が・・止めてくれたのか?」

 

リュードが驚いて、身を起こす。

エリは思わず、怒鳴っていた。

 

「どうなるかと思ったわよ!何で貴方はいつもそうなの!!」

「・・・すまない」

 

泣いているような笑っているようなエリにリュードは苦笑した。

慌てて口を噤み、エリは立ち上がる。

リュードは首元のターミナルが反応しない事を確認してから、立ち上がった。

自分の背中は見えない。

だが、そこから発せられた「プログラム」が停止した事で『呪縛』は完全に解けたようだ。

 

「もう暴走する事は無いはずよ」

「戦略OS・・・こいつのせいか」

「戦力の低下は否めないけど、そんな場合じゃなかったから・・・」

「また、助けられたな」

 

笑みを浮かべてそう言ってから、足元に落ちていたクレイモアを拾い上げる。

ゼノとエコーが戦い続けている闇の巨蟲に視線を投げた。

 

「さて、戦略OSを使わずにどれだけ戦えるか、試してみないとな」

「・・・リュード?」

「大丈夫。これが多分、本来の俺だ」

 

その表情は今までとはまるで違うもの。

ダーク・ラグネを見据えているその顔に浮かんでいるのは「純粋な強者に対する興味」。

どうやら「好戦的」なのは元からだったようだ。

 

「すまん!待たせた!!」

「おっせぇぞ!俺らで獲物戴いちまおうかと思ってたぜ!!」

 

ようやく復帰してきたリュードに、ゼノがからかいの声を飛ばした。

エコーの苦労が判る気がするわ。

小さく一つ溜息をついて、エリは後を追う様に走り出した。

次々に鎧を剥がされ、次第に体力を削がれて行く闇の蟲。

咆哮も、既に彼らには効かず。

何度押しつぶそうと舞い上がっても、避けられる。

脚をばたつかせ、弾き飛ばそうとしても効かない。

大きな鎌を振り上げて威嚇しようが、誘いに乗ってこない人間達。

 

驚くべきはそのフォトンの刃。

クレイモアに迸るフォトンの輝きは、戦略OSが稼動していた時の数倍にも上った。

どうやら、彼の場合は逆に「戦略OS]が枷になっていたようだ。

 

「ぜりゃあああああああ!」

 

リュードの叫びと共に、最後の「装甲」が引き剥がされた。

脚に力が入らなくなったダーク・ラグネは、地べたに這うように崩れ落ちる。

エリが間髪入れずに叫んだ。

 

「エコー!!!グランツを!!!!」

 

直後。

エコーはローザクレインを「コア」に刺す様に飛ばし。

一気に詠唱を始めた。

前衛の三人は飛び退くようにして巨蟲から離れる。

 

「あたしだって・・・出来るんだからねっ!!!」

 

叫びと共に、光の法撃が発動した。

ダークラグネの断末魔が、アリーナに響き渡る。

光に打ち消される闇。

次々に「グランツ」に引きずり込まれて行くダーカー。

その威力は、エリの発動したものと何ら引けを取らず。

 

気付いた時には、辺りは静寂に包まれていた。

 

「・・・倒した・・よね?」

 

エコーの呟きがやけに大きく聞こえる。

その背中を、ゼノがぽんと叩いた。

 

「美味しい所もって行きやがって、ったく」

「ゼノ」

「流石は俺のパートナー、ってとこかね」

 

柄にもなく褒めるゼノに、思わずエコーは真っ赤になった。

 

「あ、当たり前でしょ!」

 

少し離れた場所でエリは思わず放心したように膝をつく。

 

 

終わった。

 

全員が生き延びた。

 

変わったのだ。

 

未来を変える事が出来た。

 

黒い夢は、閉ざされた。

 

 

遙か彼方に静かに佇む「マザーシップ」。

気付くと、傷だらけの手が差し出されている。

 

「お疲れさん」

「リュード」

「お互い無事で良かった」

 

とても無傷とは言えない二人ではあったが、エリはその手を取り立ち上がった。

何故か自然に笑いがこみ上げてくる。

 

「うふふふっ」

「はははっ」

 

二人はエコー達が呆れるほど、これでもかと大声で笑った。

肩を組み、身体を引きずりながら。

その表情は、目的を達成した充実感に満ちていた。


 
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