No.431030

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 二十五話

TAPEtさん

いろんな…ことがありました。
更新遅れてもうしわけありません。
もうしばらくこんな感じになると思いますので、ご了承ください。


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2012-06-01 18:34:34 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5303   閲覧ユーザー数:4271

凪SIDE

 

一刀様が軍議に出向かった後、私は一刀様の部屋で待機していました。

一刀様のおかげで、ここに居ることを認められては居るものの、まだここの将として扱われているわけでもなく、ただ居座っているだけです。なので自分の天幕を与えられたわけでもないので、今まで一刀様のところで一緒にお世話になっていました。

 

……あ、寝る時はもちろん別です。

 

なのに、そこで突然華琳さまと桂花さまが現れたのです。

予想もしていなかったことだったので慌てて逃げるように出てきましたけど、今になって考えるととんでもないことをしてしまいました。

 

一刀様は私を信用して私をその場に居させたのに、私が居辛いからって勝手に出てきたのです。

それだけではなく、華琳さまにも無礼な真似をしたことになってしまいます。良く考えたら、私が勝手に曹操軍から出て行ったのですから、連れ戻しに来るのは当然なことなのに…

私は…どうすればいいのでしょうか。

 

「凪」

 

その時、後ろを向くと一刀様が居ました。

 

「一刀様、あの、私は…」

「心配するな、凪」

 

一刀様は私の頭に手を乗せながら仰りました。

 

「お前の全ては俺が預かった。お前が居る場所は俺の側だ。その事実を疑うな」

「一刀様……」

 

一刀様の笑顔が私に向けられて、私は一刀様を真っ直ぐ見ることができませんでした。

 

「さて、俺は孟徳たちに出すお茶菓子を用意する」

「私がします」

「いや、お前は俺の変わりに玄徳を監視しろ。自分の天幕から、いや、寝床から一歩出させるな」

「はい?…はい、わかりました」

 

私は命令された通りに、劉備さまの所へ向かいました。

 

行ったら寝床に縛られ口を封じられていましたので、解くべきなのか暫く悩みました。

 

・・・

 

・・

 

 

「ぷはぁ…助かったよ、ありがとう、楽進さん」

「いいえ」

 

口の轡(さすがにひどすぎだと思いました)を外すと、劉備さまはそう仰りました。

 

「しかし、一刀様の考えも察してください。私にはあの方の考えをすべて理解できるわけではありませんが、決して劉備さまに害をなすつもりではないと思います」

「うん、分かってるよ。それにしても、楽進さんは本当に一刀さんが好きなんだね」

「え?!」

 

突然そう言われて私はつい声をあげてしまいました。

 

「わ、私は……」

「だってそうじゃなかったら自分の軍から離れて一刀さんについてくるはずないじゃない。それに、前に来た…確か典韋ちゃんだっけ?一刀さんに追い出されたんだ。なのに楽進さんのことは逆に迎え入れたじゃない。きっと愛されてるんだよ」

「……そ、そうでしょうか////」

 

そう言われるとつい嬉しくなってしまう一歩、少し疑問でもあります。

何故流琉は駄目だったのだろうか。

 

単に幼いから?

一刀様はそういうことを念に置く方ではない。

 

季衣が居たから?

それだったら私にも沙和や真桜が居た。

 

一体私と流琉、何が違ったのでしょうか。

一刀様に聞きたくても、きっとあの方は答えてくれないでしょう。

……いえ、もしかしたら今の一刀様なら…?

 

「楽進さん」

「はい?」

 

そんなことを考えていたら、劉備さまが特有の笑顔で私を見ていました。

 

「私が言わなくてもきっとそうすると思うけど、でも私からお願いしたいことがあるんだ」

「……なんでしょうか」

「一刀さんの力になってあげて」

「…はい」

 

言われなくてもそうするに決まっている。当然のことです。

 

「一刀さんが私たちと一緒に居てもう随分経つけど、まだ他の娘たちとうまく慣れ合ってないんだ。曹操さんの人たちとは典韋ちゃんとか楽進さんとか、皆仲良くしているみたいなのに、ちょっと恥ずかしいよ」

「…一刀様は、その……独特が方ですから。こちらでも人によります」

「それにね、私、一刀さんに真名で呼んでもらいたくても一刀さんが呼んでくれないんだ。だから私、一刀さんが楽進さんのこと真名で呼ぶのも見てびっくりしちゃったよ」

 

それは……きっと一刀様を見た誰が聞いても驚くことだと思います。

 

「一刀さんは私のことが一刀さんが認めるぐらいの良い君主になったら真名で呼んであげるって言ったけど、まだ私、一刀さんに認めてもらっていないよ。だから、楽進さんのこと、ちょっと羨ましい」

「……私も、まだなれませんけど、一刀様に認めてもらえてすごく嬉しいです」

「うん、だからきっと楽進さんは、この軍で一刀さんが心から頼りにできる唯一な人なんだよ」

 

私が一刀様が頼りにできる唯一な人……。

なんと素晴らしい響きでしょうか。

一刀様に頼りにされるだなんて…昔はアレほど一刀様をお手伝いしたいと思っても、私が本当に頼りにされてるのか疑う日々でした。

それが今は……あの方から信用されている。

私は、一刀様のためならなんでも出来ます。

 

「分かりました。必ず、一刀様の力になります」

「うん、お願いね。あ、それと、私のことはもう桃香と呼んでいいよ」

「え?よ、よろしいのですか?」

「うん、一刀さんと一緒に居るのだったら、もう楽進さんも仲間なんだから」

「仲間…ですか?」

 

部下ではなく…仲間。

なんだか、少し違和感があります。

でも、一刀様も劉備さまのことについては事前に話していました。

こういう方なのだと……

 

「分かりました。では私のことも、凪をお呼びください。ですが、私の主人はあくまでも一刀様です。恐れながら、桃香さまの家臣にはなれません」

「うん、それでも良いよ。これからよろしくね、凪ちゃん」

「はい」

 

 

 

 

「ところで凪ちゃん、私ちょっと外の空気を吸いたいのだけど、『駄目です』あうぅ……」

 

 

 

 

桂花SIDE

 

さあ、乗ってきなさい、北郷一刀。

あなたは興味で動く人間でしょ。

こんなおいしい話、あなたが乗らないわけがない。

 

「大変申し訳ありませんが、その話はこちらから切らせて頂きます」

「…え?」

 

でも、その時言葉を発したのは、アイツじゃなくその隣にいた劉備軍の君主、諸葛孔明だった。

 

「荀彧さん、何を勘違いしているんですか」

「勘違い?」

「以前北郷さんが曹操軍でどんな存在だったか、私たちには判りません。ですが、今は北郷さんは我が軍の人です。そんな賭け、こちらでは受け入れることはできません」

「っ…貴方達とは関係のないことよ」

「本気でそう思ってるのですか?」

 

孔明は小柄な姿でも軍師の目で私を見つめた。

 

「曹操軍には最小限の礼儀というものもないのですか」

「なっ!」

「確かに北郷さん自身がこの賭けに乗ると言ったら、私たちにはそれを強制的に止めさせることはできません」

「だったら…」

「ですが、北郷さんは今や私たちの『仲間』です。こんなふざけた賭けを黙って聞いているわけにはいきません。曹操軍で北郷さんのことを欲しがっているように、私たちも北郷さんの力が必要です」

「っ……」

 

しまったわ。

まさか孔明、劉備軍がこんなに強気で出るとは思わなかった。

確か流琉の話だと、アイツが劉備軍の人たちとうまく行かない様子だったから、きっとどうも反応しないと思った。

例え動くとしても、アイツがやると言ってしまえばそれでお終いだと思っていた。

だけど……

 

コッチの様子はどうなの?

 

「……孔明、俺はこの軍に必要か」

「当たり前です。北郷さんは私たちの仲間です」

「俺が行くと言ったらどうする」

「止めることはできないかもしれませんが、全力で止めます」

「……」

 

そう聞いたアイツの顔に笑みが見えた。

これは……

 

「荀彧、どうもその手に乗るわけにはいかないようだ」

「…なんでよ」

「確かにお前がどれほど成長したかは見たいものだ。それはとても興味深いことだ。だが、お前に対してのその興味よりも、俺には今の孔明の言葉にもっと興味を持つ」

「っ……」

「悪いが、その賭けに乗るわけにはいかないな」

 

まさか…コイツが人の言葉で気を変えるなんて…。

離れている間、変わったとでも言うの?それとも単に今の状態に限ってのことなの?

 

「それに、お前の賭けというものもだいたい想像がつくからな。虎牢関での戦功を賭けようとしたのだろう」

「うっ」

 

確かに私はそのつもりだった。

どうせあの袁紹が虎牢関を落とせるわけがないし、せいぜい被害だけ受けて退けてもらった際に、その場をコイツとの勝負の場に使おうと思っていた。

だけど……

 

「…虎牢関は落ちない、荀彧」

「そんなこと分かってるわ」

「いや、分かっていないな、荀彧、孟徳もだ」

「…まさか、あなた」

 

コイツのその言い方、華琳さまも反応した。

 

「……袁紹と袁術じゃなくても、虎牢関が落ちないというつもりなの?」

「当然だ。聞く話ではここでもいろんな修飾語が付くあの『虎牢関』だ。しかも、中には呂布や張遼が居る。攻める側に対して厄介なのはこの上ない場所だ。はっきりと言えるが、『虎牢関は連合軍に落とされない』」

 

 

華琳SIDE

 

一刀が何かを言う時は、この言葉幾ら傲慢溢れていて、ありえない話だと思われても、その理由はとても合理的で、そして大体の場合合う。

そんな彼が発した言葉の意味を理解した私や桂花も、そして横に居た孔明さえも言葉を失った。

 

虎牢関を落とせないことは、つまりこの連合軍の敗北を意味することであり、それはつまり董卓を打てない。天下のほぼすべての諸侯たちが名目上皇帝を救うという使命を持って立ち上がったこの連合軍が敗北してしまっては、麗羽はもちろん、ここに居るすべての君主たちの立場が危うくなる。

 

「あなた、自分が何を言っているのか解ってるの?」

「事実を言ったまでだ、孟徳。俺の目が黒いうちには虎牢関が落ちることはない。この連合軍は負ける」

 

でも、

 

「…フッ、話にならないわ。そんなことあるわけないでしょう?」

 

麗羽が馬鹿なのは認めるわ。麗羽が虎牢関を落とせるわけがない。

でも、だからと言って私にそれができないというわけではない。

 

「この連合軍は始まりにすぎないわ。私はこの連合軍で名をあげて、これからの私の覇道へと繋げる。こんな所で跪く訳ないでしょ?」

「…賭けるか?」

「良いわ」

「連合軍が勝てずに解散した場合、これ以上俺に構うな」

「良いわ。私が勝った場合は、戻って来るのよね」

「…………そうだな。そうしよう」

「北郷さん?!」

「乗ったわ」

「……」

 

一刀は何も言わずに笑った。

一刀が微笑むと言うのもとても違和感のあることだったけど、もっとおかしいと思ったのは、きっと彼のその笑みが、明らかに造られたものだったせいだと思う。

 

「帰りましょう、桂花」

「はい」

 

私が立ち上がっても、一刀は私を送るために立つことはなかった。

まあ良いわ。最初から期待していないし……

 

 

 

 

孔明SIDE

 

曹操さんたちが立ち上がっても、北郷さんは何も言わないまま座ったままで居ました。

私が外の兵士さんにお二人を案内するように言った後戻ってきた後でも、北郷さんはそのまま座っていました。

 

「北郷さん、大丈夫ですか?」

「…孔明」

「はい?」

「虎牢関戦にこの軍が出させることになった場合、他は自由にしてくれて構わないが、張遼とだけは会わないようにしてくれ。会っても彼女を止めるな」

「…理由を聞いてもいいですか?」

「……」

 

暫く黙っていた北郷さんは、私に視線を合わせました。

 

「孔明さっき言ったのは、本気で言っていたのか」

「何ですか?」

「お前は俺のことを『仲間』と言った。その責任が取れるか?」

「え?」

 

何故北郷さんがそんなことを言ったのか、私には理解しかねました。

 

「いや、馬鹿な質問だったな。そんなことより、あそこの机の二番目の棚を開けてみろ。二重底になっている」

「はい?……はい」

 

私は北郷さんの言う通りに北郷さんの机に行って棚の二重底になっている所を開けました。(いつこんな工夫をしたのでしょうか)

中にあったのは竹簡と手紙が一つでした。

 

「……は……はわ…」

 

その内容を読んだ私は驚きのあまりに手から力が抜けてそれを落としてしまいました。

 

「ほ、ほほほ北郷しゃん?」

「……この連合軍が負ける理由が分かったか」

「ど、どどどうしてこんなものが北郷さんの手に入ってるのでしゅか」

「何のために俺程の人間があんな馬鹿と仲良くしていたと思っている」

「ま、まさか、最初からこれを狙って……」

「……孔明、どうだ。俺はこの軍の仲間か?」

 

……判りません。

私はその質問に肯定できません。

でも、これだけは言えます。

 

コレのために、連合軍が始まるずっと前からあんなことをしてきたのだというのなら、

北郷さん、あなたは悪魔です。

 

 

 

 

華琳SIDE

 

「桂花、一刀が言ったこと、どう思うかしら」

 

帰る道中、私は桂花に尋ねた。

でも、

 

「………」

「…桂花?私の話を聞いてるの?」

「え?あ…申し訳ありません」

「私を差し置いて何を考えていたのかしら」

「…華琳さまは、アイツの様子を見てどうとも思いませんか?」

「……」

「以前の私たちと一緒に居たアイツなら、同じ軍の将と言えどあんなに友好的が行動を取るはずがありません。いつもアイツは、それが華琳さまと言えどいつも相手を試して、誑かすことを楽しんでいました。でも、今のアイツは完全に劉備のために動いていると見て間違いないでしょう」

「…劉玄徳、大した者じゃないと思ったけれど、もし彼女が一刀をあれほど変えたのだとすれば……」

 

油断できないわね。

もしかしたらこの先、私と天下を競う相手の中で一番厄介な存在となるかもしれないわ。

一刀が側に居ることを除いてもよ。

 

…いえ、そういう考えは要らない。

この戦いが終わったら、一刀はまた私の元へ帰ってくる。

一刀、あなたは私にもう興味がないように言ったわよね。

なら見せてあげましょう。あなたが見た私が全てじゃないということを……。

これからあなたが見る姿こそが、覇王と呼ばれるにふさわしい人間の姿よ。

 

「桂花、十日でいいかしら」

「はい、それぐらいなら、袁紹も甚大な被害を受けるでしょう」

「お願いね。あなたのことを蔑ろにした一刀にも目にもの見せてやらないとね」

「べ、別に私はアイツが私をどう思うとか関係ありません!」

「ふふっ、一刀が自分の手に乗らなくて悔しいのがバレバレよ。桂花」

「うぅ……」

 

でも、それは多分私も同じでしょうね。

 

私のことより劉玄徳の方に興味があると言われた時、胸のどこかでそこはかとなく悔しい感情が芽生えてきた。

見返すようにしてやるわ。

一刀、あなたは私のものよ。

絶対に取り戻してみせるわ。

 

 

 

 

凪SIDE

 

「一刀様、ただいま戻りました」

 

日が暮れて暗くなった頃、桃香さまの側に居た私に孔明殿が来てかわってもらえました。

桃香さまを孔明殿に任せて一刀様の天幕に来ると、一刀様は寝床で服を来たまま眠っていらっしゃってました。

 

「一刀様……」

「………」

 

言わずとも分かります。

一刀様は、華琳さまや他の私たちに会うことを嫌がっていました。

言葉で言わずとも、私たちを見ること辛いと思っていたのだと思います。

 

……勝手な勘違いかもしれませんが、一刀様が周りの人々にきつく当たることは、結局のその人を思ってのことなのです。

自分が何の興味ない相手にはその人が何をどうしようが全く気にしません。

相手を罵倒したり、挑発するのも、結局そうやって自分い対しての敵対心を芽生えさせて、そこからその人が成長できるようにするためです。

 

そうだと思っていても……

 

「やっぱり、純粋にあなた様に褒められたいという気持ちもあります」

「……うぅぅ…」

「一刀様?」

 

一刀様が小さく呻いているのを聞いて、私は一刀様に近づきました。

そしたら…

 

「うわぁーっ!」

「………」

「か、かか一刀様?!」

 

一刀様の両腕が私を抱きついて私はそのまま一刀様の隣で寝ているような姿になりました。

しかも、ただ抱きついてるわけじゃなくて、抱きついた両腕に力が入っていて、体が密着します。

 

「一刀様、は、離してください」

「………ぅぅ…」

 

ですが目を覚まさない一刀様は、もっと強く抱きしめてきました。

恥ずかしいのを通り越して、ちょっと苦しいです。

 

「か、一刀様…」

「……うっ…!」

「一刀様」

「……凪…っ」

 

目を覚ました一刀様は直ぐに私を離してくれました。

 

「大丈夫か、凪」

「は、はい、私は…それより、一刀様は大丈夫なのですか」

「…俺がいつは大丈夫な人間だったか」

「そういう話ではなく…」

「分かっている。『もう』大丈夫だ」

「………」

「で?いつまで俺の隣で寝ているつもりだ?」

「え?あぁっ!すみません!」

 

私は急いで一刀様の寝床から飛び出ました。

 

「随分と激しい反応だな。よほど嫌だったと見える」

「え?!ち、違います。むしろもうちょっとそうしていたか……あ」

「……」

「////////」

 

うわぁぁ…こんな時はどうすれば……

 

「ふっ、孟徳の気持ちもわからなくはない……出かけるぞ、凪」

「へ、ど、どこへですか?」

「ちょっとした散歩だ。さすがに護衛無しで出かけるとなったら出してもらえないだろ」

「は、はい」

 

私は一刀様が後を追って外へ向いました。

外はもう日が見えなくて、陣には焚き火をつけている時間です。

 

・・・

 

・・

 

 

「この軍の生活はどうだ、凪」

 

本当に散歩のつもりなのでしょうか。

軍から随分と離れた所まで歩いた時、一刀様は私に聞きました。

 

「まだ日が浅いのではっきりとは……しかし、桃香さまは華琳さまとは違う意味で、なかなか見所のある方でした。

「…もう真名で呼ぶか」

「はい」

「…確かに玄徳はなかなか見所のある英雄だ。普段の行動は別としても、そのカリスマ-、人を惹く性質というのは孟徳に劣らない。そして自分自身が足りない所は周りの部下たちの武と知で補う。その結束力が、孟徳のソレよりもこの軍を強くしている」

「だからなのですか。華琳さまを捨てて劉備軍に居るのは…」

「……捨てた…か」

 

一刀様は苦笑しつつ歩くことを止めました。

 

「…言い方が悪かったです。私はただ…」

「いや、凪が見たのは正しい。俺は確かに孟徳を見捨てた。そして、今回もまた玄徳に天下を見させるために孟徳の邪魔にならなければならない。だからこそお前の力が必要だ、凪」

「私の力……ですか」

「……凪、虎牢関が落ちる前に俺は孟徳に殺されるかもしれない」

「!」

 

私は一刀様が突然吐いたその言葉に衝撃を受けました。

 

「か、華琳さまが…そんなことをするはずがありません」

「無理に信じろとは言わない。が、もしお前が戸惑ったら、俺は今回ばかりは自分の命を自分で守ることが出来ない」

 

いつも自信あふれる姿の一刀様がそのような言い方をするのを見て、私は感じました。

これが単に感でそう言っているわけではないと…私のやりようによって、本当に一刀様の生死が決まるのだと。

 

「俺の命、お前に預けても良いか」

「…はい、楽文謙、必ずや一刀様のことを守って見せます」

「……頼りにしてるぞ、凪」

「はい…あ」

 

一刀様の手が私の頭を撫でています。

今日は何もかも幸せすぎて死んじゃいそうで……じゃなく!

 

「か、からかうのはやめてください、一刀様!」

「……ふっ、なかなか楽しいものだな。自分の部下を弄ぶというのも。何ならこれからも俺と一緒に寝るか」

「一刀様!」

 

……はっ!今のは肯定しておいた方が良かったんじゃ……

 

「!」

 

その瞬間、私と一刀様以外の誰かの気を感じ取った私は、その気がこっちに向かってくることに気づいて、一刀様を後ろにして前に出ました。

 

「一刀様!下がっていてください!」

「…心配するな、凪。彼女とは会う約束があった」

「…え?」

「ここに来たのはそのためだ」

 

そして、暗闇の中現れたその人間の正体を定められるようになった時、私は驚きを隠すことができませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

「話は聞かせてもらったでー。アンタの話にのったる。で?ウチはこれからどうすればええの?」

 

 

 

 

 


 
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