真・恋姫†無双~赤龍伝~第102話「武神の帰還」
―――洛陽―――
玄武「仲達様、ただ今戻りました」
張遼「……」
司馬懿「そうか、ご苦労だった」
玄武「早速ですが、ご報告しなければならない事が」
司馬懿「何かあったのか?」
玄武は虎牢関での出来事を司馬懿に報告した。
司馬懿「そうか。孫策が戻ってきたか……」
玄武「はい。もしや風見赤斗や他の者たちも?」
司馬懿「可能性はあるな。だが今更、風見赤斗が戻ってこようとも何の支障もない」
玄武「なら良いのですが……」
司馬懿「それよりも虎牢関が落ちたなら、程なく連合軍もこの洛陽にくるな」
玄武「はい。いかがいたしますか? この洛陽で奴らを一気に殲滅しますか?」
司馬懿「殲滅してしまうのは簡単だが、それよりも我らにはすべき事があるだろう。洛陽には最小限の兵を残して泰山へと向かうぞ」
張遼「逃げるんか? 相変わらず卑怯もんやな」
司馬懿「ん?」
玄武「張遼っ! 無礼だぞ!!」
張遼「貴様の目的はいったい何なんや? 月や華琳の兵や国を奪ってまで戦争を仕掛けておきながら、今更逃げるなんて卑怯もんのする事や! 答えろや!!」
玄武「……お前」
司馬懿「正気を取り戻していたか」
張遼「孫策や太史慈のお蔭やな。もう、お前らの思い通りにはならへんで!」
張遼は叫んで飛龍偃月刀を司馬懿にむけた。
玄武「貴様っ…」
司馬懿「下がれ玄武」
玄武「しかし…」
司馬懿「張遼よ。相手になってやろう。かかってくるが良い」
張遼「喰らえやーーっ!」
張遼が司馬懿に斬りかかった。
司馬懿「おっと!」
司馬懿は張遼の攻撃を躱す。
そして、司馬懿は右手を上にかざし、右袖に隠していた鋼の鞭を張遼に振り下ろした。
張遼「ちっ」
司馬懿「よく躱した。ならば、これはどうだ!」
鋼の鞭を躱した張遼だが、鋼の鞭は次々と襲い掛かってきた。
張遼は司馬懿の攻撃を躱すのが精一杯で、攻撃が出来ない。
そして、身体には傷が増えていく一方である。
司馬懿「どうした? お前の実力はその程度のものだったのか?」
張遼「くっ」
大きく跳躍して、張遼は鋼の鞭を躱した。
そして、すぐ様、司馬懿が次の攻撃に移る前に、司馬懿に向かって斬りかかった。
司馬懿「ふふ……」
張遼「なにっ!」
その時、突如司馬懿と張遼の間に闇が出現した。
張遼は闇の手前で止まるも、闇は張遼を吸い寄せ始めた。
張遼「いったい何なんや!?」
吸い込まれないように必死に堪える。
必死に堪える張遼の姿を司馬懿は、心底楽しそうに眺めていた。
司馬懿「今まで御苦労だったな張遼。暇を与える。ゆっくりと休むがいい」
張遼「司馬懿ーーーーっ!!」
張遼は怨念めいた叫び声を上げながら、闇の中に吸い込まれていった。
玄武「仲達様、張遼は何処に?」
司馬懿「さあな。永遠に闇を彷徨うか。運が良ければ何処かに出られるかもしれないな。運が良ければな…」
張遼を吸い込んだ闇は消えた。張遼とともにその場から消えて無くなった。
―――虎牢関―――
張遼と玄武が居なくなった虎牢関は呆気なく落城した。
藍里「雪蓮様、嶺上! 無事ですか?」
嶺上「藍里か」
雪蓮「私たちなら大丈夫よ♪」
藍里「はぁはぁ、よ、良かった」
雪蓮「そんなに慌ててどうしたの?」
藍里「そ、それは…はぁはぁ」
藍里が息を整えていると後ろから祭と穏が雪蓮に向かって飛びついた。
穏「雪蓮様~~♪」
祭「策殿ぉぉぉーーっ!」
雪蓮「穏、祭! ひさしぶりね♪ 元気にしてた?」
祭「よくぞご無事に戻られた」
穏「本当に良かったです~」
蓮華「ね、姉様……」
祭たちより少し遅れて、驚きを隠せない蓮華が現れた。
雪蓮「あら蓮華じゃない♪」
雪蓮は何事もなかったかのように軽く手を上げて応えた。
蓮華「姉様…お帰りなさいませ……本当に…本当に…」
雪蓮「ちょ、ちょっと、蓮華?」
涙が自然と流れてきて蓮華はうまく話す事ができなくなっていた。
蓮華「す、すみません。ちょっと取り乱してしまいました」
雪蓮「いいのよ♪……私が留守の間、呉の王として頑張ってくれたようね♪ それに髪、切っちゃったのね」
蓮華「これは…王としての私のケジメでして……」
雪蓮「ふーーん。でも、赤斗が悲しむかもね」
蓮華「そ、そうでしょうか? そうだ! 赤斗は一緒じゃないのですか?」
雪蓮「え? 赤斗たちは戻ってきてないの?」
蓮華「はい。帰ってきたのは恋一人だけです」
雪蓮「そうなんだ。いったい何してるのかしらね……まあいいわ。そのうち戻ってくるでしょう♪」
蓮華「そんなお気楽な…」
雪蓮「大丈夫だって、私や恋も帰って来れたんだから♪」
虎牢関での戦いが始まる少し前の建業。
小蓮「退屈~。何でシャオが留守番なのよ~」
月「きっと火蓮さんは安心して決戦に挑めるように、呉の守りを小蓮ちゃんに任せたんだと思うよ」
小蓮「シャオに呉を?」
月「そうだよ♪」
小蓮「そうか~さすがお母様よね♪ お母様やお姉ちゃんたちがいない呉を守れるのはシャオだけだもんね♪」
月「華雄さんや美羽ちゃんたちも居るし、私も詠ちゃんもお手伝いするから、きっと守れるよ♪」
小蓮「ありがと 月♪」
和やか空気が辺りを包んでいたが、空には暗雲が立ち込めていた。
そして、落雷が城に向かって降り注いだ。
小蓮「きゃあああ!」
月「きゃあああ!」
落雷の衝撃が辺り一面に響き渡り、その場に居た二人は頭を抱えて蹲った。
詠「いったい何事よ? 月! 大丈夫!?」
騒ぎを聞きつけて詠が血相を変えて走ってきた。
月「私なら大丈夫だよ」
詠「そう良かった…」
小蓮「もー、いったい何なのよ? めちゃくちゃじゃない!」
周りを見渡して見ると、嵐が来たかのように散らかってしまっている。
月「あれ?」
瓦礫の一部が動いているのに月たちは気が付く。
詠「月は下がって!」
月「う、うん」
次第に瓦礫の動きは激しさを増していく。
小蓮「敵?」
関羽「はあぁぁーーーっ!」
気合の入った声と共に、瓦礫の下から関羽が姿を現した。
関羽「はぁはぁ、ここは…?」
小蓮「関羽!?」
月「愛紗さん!?」
詠「あんた、こんな所で何してんのよ!?」
三人とも驚きを隠せずに、自然と声が多くなってしまった。
関羽「え? 月、詠!? それに孫尚香殿も!?」
詠「どうして此処にいるのよ? 赤壁の戦いの後、あいつと一緒に消えたって聞いてたのに」
小蓮「そうよ! 赤斗や雪蓮お姉ちゃんは何処!? 一緒じゃないの?」
関羽「……」
月「もしかして、何かあったんですか?」
小蓮「そうなの? 赤斗やお姉ちゃんたちに何かあったの!?」
関羽「それが…風見殿たちとは、さっきまで一緒に居たのだが…」
関羽はこの世界に帰ってくる時の事を思い出した。
次元の切れ目の中、元の世界に向けてひたすらに歩き続ていた。
そして、ようやく出口らしき光を見つけて、一同の歩くスピードが速まった。
関羽「まだ、着かぬのか?」
赤斗「もう少しですよ…」
雪蓮「さっきもそう言ってなかった?」
赤斗「……言ったかも」
雪蓮「ちょっとしっかりしてよ。赤斗にしか出口は見えてないんだからね!」
赤斗「わかってるよ」
出口が見えるのは龍の眼を持つ赤斗のみ。
しかし、いくら進んでも出口までの距離が全く縮まない事に赤斗は焦り始めていた。
出口が見えない雪蓮や関羽たちは、本当に出口があるのかどうかすら疑わしくなっていた。
赤斗「どういう事だ?」
赤斗は歩みを止めて考え始める。
冥琳「どうしたのだ?」
赤斗「おかしいじゃないか? いつまで経ってもたどり着けないなんて。みんなには見えてないかもしれないけど、出口はあそこにあるんだ!」
冥琳「うむ。……もしかすると貂蝉が言っていた。司馬懿の妨害ではないのか?」
赤斗「これが…」
冥琳に言葉を聞いて、赤斗は今まで以上に龍の眼に力を集中させて、出口を再度見直した。
赤斗「……あっ!」
雪蓮「どうしたの?」
赤斗「今まで気がつかなかったけど、僕たちと出口の間に透明な壁があるんだよ」
冥琳「壁だと?」
関羽「どうするのだ?」
赤斗「見えてしまえば…壊せばいいだけさ」
龍の眼を開放している為、いつも以上に好戦的になっている赤斗は壁に触れて、壁に気を流しこむのだった。
関羽「なっ!」
冥琳「これは!」
恋「眩しい…」
季衣「うわーー!」
赤斗に気を流しこまれた壁に無数のひびが入った。
そして、そのひびから眩いばかりの光が射し込み、次第に辺りはただ白く染まっていった。
関羽「…ここに帰ってくる途中で逸れてしまったようだな」
月「え…?」
関羽「出口に差し掛かった時に、急に辺りが真っ白になって気がついたら此処に居たのだ」
月「じゃあ赤斗さんは…」
その時、再び瓦礫が動き出した。
どうやら、まだ瓦礫の下に誰かいるようだった。
月「もしかして赤斗さん?」
流琉「よいしょっと!」
季衣「やっと出れたー」
関羽「お前たち!」
姿を現したのは赤斗ではなく、季衣と流琉の二人だった。
流琉「あっ、関羽さんもご無事だったんですね」
季衣「ここって一体どこ?」
小蓮「ここは建業のお城の中よ」
関羽「建業か…。詠」
詠「何よ?」
関羽「今の状況を詳しく話してくれか?」
詠「そうね。わかったわ」
関羽「そうか。司馬懿は洛陽を占拠したか。…それで我が主は洛陽に向かっているのだな?」
詠「そうよ。桃香は孫堅、曹操と共に洛陽を目指しているわ」
関羽「反董卓連合の時と似ているな」
詠「ええ。現在の状況は反董卓連合の時と似ているかもしれないけど、悔しいけど僕たちとあいつらとでは勢力が違いすぎるわ」
詠の顔に悔しさがにじみ出る。
月「詠ちゃん…」
詠「今やこの大陸の事実上の支配者は、司馬懿と言っても過言ではないのだから」
関羽「……わかった。これだけ分かれば充分だ」
詠「やっぱり行くのね」
関羽「当然だ」
季衣「僕たちも華琳様や春蘭様たちのところに戻らなくちゃ」
詠「それなら僕も行くわ」
月「詠ちゃん?」
詠「ごめん月。やっぱり、僕も洛陽に行くわ。司馬懿には借りがあるしね。それにもしかすると、僕にしか出来ない事があるかもしれない」
月「……うん。わかったよ詠ちゃん。それなら私も行くよ」
詠「それはダメ、危険なのよ!」
月「それなら尚更、詠ちゃんだけを行かせられないよ」
詠「でも…」
月「詠ちゃん。もう何を言っても無駄だよ。もう私は決めたの」
月はまっすぐ詠の目を見る。その目には強い決意が宿っていた。
詠「はぁー…わかったわ。好きにしなさい」
月「ありがとう詠ちゃん♪」
小蓮「ならシャオも行くー♪」
詠「あんたはダメよ」
小蓮「ぶー、何でよー?」
詠「あんたまで来たら誰が建業を守るのよ? まさか美羽たちに任せるわけ?」
小蓮「うっ…」
月「シャオちゃん、ごめんね」
小蓮「はあー、しょうがないわね」
さすがに美羽に建業を任せられない小蓮は、大きな溜息をついてあきらめるのだった。
関羽「ならば行くぞ!」
こうして関羽・月・詠・流琉・季衣の五人は洛陽に向かって出発したのであった。
つづく
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タイトル通り、愛紗が帰ってきます。
前回投稿した102話の本文を追加して、タイトルを変更しました。
「司馬懿 対 張遼」⇒「武神の帰還」