No.428877

KOTODAMA

初音軍さん

オリジナルファンタジー3部中3部目の最初の話。
それまでの話はpixivやサイトにあります。
時間があったらここにも投稿したいですね。
凄まじい魔力を秘めるけど、魔法が使えなく格闘技を得意とする
主人公と、先祖の話。視点がちょくちょく変わるので注意

2012-05-27 13:11:07 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:380   閲覧ユーザー数:370

一章:未来からの訪問者

 

【ユール】

 

 悪の限りを尽くした帝国を倒せば世界は平和になると子供の頭で考えていた。

そして、生死を往復するような危険な出来事を掻い潜ってようやく、私は両親の仇を

取ることができた。大きな代償を払って、大事なものを失って。

 

 そうやって得た一時的な平和は数年もすれば音を立てて崩れ去り、私の理想は

完全に消え去ってしまった。法律の元を断ってしまったために、無法者たちや

残った貴族達が、何の力もない町や村の人達を傷つけているのが現状だった。

 

「ユールさん、また村に山賊が・・・!」

「わかりました。今、向かいます」

 

 私の家を訪ねてきた一人の青年が血相を変えて頼み込んできた。これも毎度のことで

私はいつでも出かけられる準備を整えている。色々回っている内に地理には詳しく

なっていて、山賊たちが通るルートよりも早く向かうことができる。

 

 私は訪ねて来た彼を連れて、急いでその村への道の脇を通りショートカットへ道筋を

辿る。抜けた先には民家に火を放って暴れている山賊たちがいた。私が出た場所は

民家の屋根の上にある山なりになってる崖らしいとこに辿りついた。

 

 私は急いで傍にいる妖精達に声をかける。そして、透明なガラス瓶に溜めていた

水を取り出して、妖精たちの力を借りるために言葉を誰にも聞こえないように呟いた。

 

 その後はすぐにそこから滑るように降りて、近くにいる山賊に向かって走る。

途中で両手を手刀の形にして、私の傍に漂っている水の精に声をかけた。

すると、両手にガラス瓶から散って飛び出した水が私の両手に纏わりついてきて

瞬く間に刃物のような形となっていた。

 

「な、なんだお前は・・・!?」

「ふっ・・・!」

 

 ザシュ!

 

 しかもそれはただの水ではなく、もの凄い速度で回転をしているため、石くらいなら

易々と切り裂ける鋭さを持っていた。悪人に聞く耳持たないとばかりに私は

山賊の親玉をあっという間に伸したあと、逃げようとする山賊たちを私の号令一つで

どこからか現れた精霊や妖精達が、自らの持つ自然の力で山賊たちを始末した。

 

 炎、風、水、大地。地形を崩したり、溺れさせたり、高い所まで飛ばしてからの

落下死に悪党の焼け焦げた臭いが辺りを漂わせていた。崩した地形は妖精たちの手に

よって元に戻した後に、私は村長に顔を合わせた。

 

「被害はどのくらいですか・・・」

「あんたが来てくれるのが早かったおかげで、女子供はみんな無事だったよ・・・

だけど、みんなを守るために男衆の幾人かが・・・」

 

「そうですか・・・」

「だけど、あんたが着てくれなければここは全滅だった。ありがとうよ、僅かだけど、

ここにある食料をわけてやるよ」

 

「ありがとうございます・・・!」

 

 気持ちばかりの食料をもらってから、私は村を後にした。村の人たちは喜んでいる

ようだったけれど、私の気持ちは晴れない。全員を救うことができなかったからだ。

 

 いや、それどころか、この大陸中に同じようなことは日々起こり続けている。

そんなことがわかってしまえば、心も曇るというもの。大事な人を失ってまで

やることだったのか・・・。私は後悔しているというのだろうか。

 

 そんな私の気持ちとは反対に、憎たらしいくらいに空が良く晴れていた。

 

 私は無力な村人達に言霊の魔法を簡単にできるやりかたを考えているが

精霊や妖精の力を借りないといけないため、ある程度魔力を持っていないと

使えないのが難点だ。実際、さっきの戦いの後も私の周りについている

妖精たちが見える人たちはいなかった。子供でさえも・・・だ。

 

 私は自分の研究所に戻る途中、何かの気配を感じて横道に逸れて歩いていくと

大きな樹木にもたれかかるように寝ている女の子を見つけた。髪は縛ってツインテールの

茶黒な色をしていて、模様のついた襟にリボンをかけて中と上で重ね着をしている

ように見えた。

 スカートはかなり短めで、太股から足先までかけたソックスが特徴的であった。

それはこの大陸で見たことのない姿である。都会に行けばこの服装が流行しているの

だろうか。

 

 それにしてはこんなとこで寝ているのは理に合わない気がしてならない。

 

「・・・!」

「え、あの子。気絶してるの!?」

 

 私の肩に座って耳元で囁く妖精の可笑しそうに言う言葉に私は驚いて、動かない

女の子の傍に駆け寄って、彼女の口元に耳を当てた。何やらうなされているようだ。

私は女の子を背負って、食べ物を妖精たちに頼んで運んでいくことにした。

 

 背負った女の子から寝言のように、先生、先生と呟いていた。大切な人なのだろう。

その人とはぐれてあそこにいたのだろうか、どちらにしても不可解な状況の中で

出会ったこの子には不思議と私と似たような雰囲気を感じていた。

 

 

【シェスカ】

 

 私はシェスカ・マイスター。大昔、歴史に刻まれてもおかしくないほどの出来事を

犯したユールの子孫であり、彼女に次いで魔力を引いて生まれてきた、らしい。

 

 らしいというのは、私には実感を感じられないからである。なぜか、それは・・・。

 

「今日もあの子、赤点らしいわよ」

「いいとこのお嬢様があれじゃあ、どうしようもないわね。いい気味だわ」

 

 クラスメイト。いや、学園全体の中での私の評判は最悪。イジメに発展しても

仕方ない存在だが、それを守ってくれてるのは私の嫌悪の元である、マイスター家の

血筋によるものだ。

 

 ここは、大昔に先祖であるユールが建てた学校だからである。創設して大きくして

みんなに慕われた先祖の肩書きが私に重くのしかかってくる。イジメられるより

私にはそれが苦痛に感じた。

 

 今日も気晴らしに学校を途中で抜け出して走り出す。発展し続けて自然が少なくなった

学園都市だが、隣には小さめな山があり、そこには古びた小屋があるだけだった。

 

 だけど、何となく私はそこの切り株に座って動物達とふれあうのが唯一の癒しで

日課でもあった。そこで日光浴をしていると、辺りは森に囲まれ、風が吹くと

気持ちのよい感覚と音が私の心を満たせてくれる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 姉達から隠れてこっそりと道具を持ち出して、木に足を怪我しないように柔らかい

素材をちょうどいい高さに取り付ける。そして、気合を入れて回し蹴りを放った。

 

「だりゃあ!」

 

 バンッ!

 

 木は私の蹴りの反動で揺れて枝や葉が音を立てる。そこだけでなく、いくつかに

わけてその素材を木に取り付けるのは、蹴りだけではないからだ。

 

「せええええい!」

 

 ドッ!バンッ!ガッ!

 

 溜まったストレスの解消法、それは動かないものに対しての格闘技練習であった。

小さい頃に基本を学んでから、体を動かすことが大好きになっていた。

 

 一向に使えない、魔法・・・言霊の授業なんかやっていられないっての。

今や発展しすぎて魔術との差がわからなくなっているくらい研究されている。

こんな・・・自然を壊してまで広めたいことだったのだろうか。

 

 まるで自然が泣いている気がしていた。

 

「やぁ、ここにいたのかい?」

「誰だ・・・!」

 

「おぉ、怖い怖い。僕だよ。ゼルクスだ」

「・・・。先生、どうしたの、こんな所に」

 

「こんな所って、僕は学校に頼まれて君を迎えに来たんだよ」

「それはご苦労なことで」

 

 唯一私のことをまともに接してくれる、先生が今目の前にいる。実績もあり、

人を選ばず平等に接してくれる、尊敬できる数少ない大人である。

 

 言い回しは少々厳しいかもしれないが、これでも私は彼のことを好いている。

だが、態度があまりに露骨だと、恥ずかしく感じてしまうために、ちょっとした

憎まれ口を叩いているのは、そんなことをしても先生は私から離れないという

気持ちがあったから。

 

 みんなから煙たがれているこの私を・・・。だから、疑うなんてことは

絶対にしなかった。

 

 仕方なく私は先生に腕を掴まれて引きずりながらも私を学校へと連れ戻した。

その出来事を糧に辛い日々を乗り越える毎日。なんだか気持ちがほわほわして

変な感じだった。これが、好きということだろうか。

 

 しかし、それからしばらくして、学校内での先生の様子が少しおかしい気がした。

挙動というか、そわそわしているというか、そしてちょっと黒い面がチラチラ垣間見えた

ような。そんな感覚。

 

 何があったのかは知らないけれど、その時の私は恋の盲目に近い感覚で先生に

呼ばれた際には何の疑いもなく、近づいていくと。何やら時空を超えてなんたらと

意味がわからないことを言い出した。まるで宗教にのめりこんでいる人間のように

目が通常の状態じゃないことがわかったのだ。

 

 私はよくわからないけど、先生が喜んでくれるのなら、と手伝うことを決めて、

先生が準備を終わらせる辺りまで過ぎた時に、お姉ちゃんたちが血相を変えて

止めに入った。

 

 いつも私のことを見下す、下の姉。上の姉は優しくはしてくれるけど、別段私に

することがない、八方美人にしか見えずに疑っていたから、正直信用できないでいた。

 誰も私のことはわからないんだって、拒絶していたんだ。

 

 血の繋がった姉妹なのに、私は先生のことしか信用できなかったのだ。

魔法を唱えている途中でのアクシデントにその場にいた全員が巻き込まれて

空間に呑まれて、今現在に至る。

 

 

 そんな話を・・・身も知らぬ人間に話すことができるだろうか。しかも文明が発達

していない世界で余計理解できない出来事だろう。だから私は口をつぐむと

目の前にいる、綺麗な女性は微笑むと一言投げかけてきた。

 

「無理しなくてもいいのよ。言えないことなんて人それぞれあるものだし」

「そんな貴女は何者なの?」

 

「うーん、私はね。この辺りでは先生と呼ばれているわね」

 

 名を名乗るというより肩書きで説明をする彼女に怪しさを感じた。

しかし、今の私にここを抜け出しても行き宛なんてなさそうだし、この人に

話を合わせることを心がけるようにした。

 

「ふ~ん、先生ね・・・。何の先生をしているんだか」

 

 ちょっと嫌味混じりで呟くと、目の前の人は目を輝かせながら説明を始めた。

 

「みんなが不便にならないように、平和でいられるように、妖精たちと共存すること」

 

 それを人々に教えて回っていると言うのだ。狂言にも近い内容である。

人間の心がそんな簡単に一つにまとまっていたら、戦争も、争いも何も無いではないか。

今までそれができなかったことを、この人はやろうというのか。

 

「くだらないわ」

 

 到底叶う訳が無い。どんなに努力していても、限界は必ず訪れる。それで志した

結果に至らなかった場合は、虚しいだけではないか。

 

「うーん、確かに難しいし・・・。何から始めていいかわからないわよね」

 

 彼女はちょっと考える仕草をしながら私の前を円を描くように歩き回る。

それで何か閃いたように私の傍に再び近寄ってきた。

 

「そうだ、あなた。私の手伝いしてくれない!?」

「は、はぁ・・・?何でそうなるのよ・・・!」

「説明するより、見て教えるってね」

 

 ベッドの布団を取られて、ほぼ強引に私を立ち上がらると、手を握ってきた。

 

「ちゃんと誠意を込めれば伝わらないことなんてないんだよ」

「まったく・・・おめでたい考えをしてるわね」

 

 頭がお花畑なのか、おめでたいのか、都合の良いほうに必ず行くと信じている

この人の言葉は全く理屈が通ってはいないが、どことなくその言葉に強さを感じて

聞く私の気持ちを悪くない方へ持っていってくれる。

 

「よく言われる」

 

 眩しく見えるその満面の笑みに私も釣られて笑ってしまった。苦笑みたいな

感じになってしまったが、悪くは無い。今まで、人生が辛いだけだったのが

初めて会うこの人に引っ張りまわされるのは苦痛じゃなかった。

 

「あんたは不思議な人だね」

「よく言われる!」

 

 楽しそうに笑うその姿はどこか上の姉さんに面影があった。

 

「さて、今日はもらったご飯食べたら、また明日仕事をしに行かなきゃね」

「仕事?」

 

「私が子供の頃にね。帝国が何者かによって滅ぼされてから、一時的に平和だったん

だけど、帝国の圧力がなくなってからのこの世界は、山賊、野盗が多くなってきてね。

力を持たない人たちを助けるのが最近の日課なのよ」

「へえ」

 

「働かざるもの食うべからず。あなたも手伝ってくれる?」

「え、私が・・・?どうして・・・」

 

「どうせ行くあてとか、ないでしょう?大丈夫、私がちゃんとフォローするから」

「はぁ・・・わかりましたよ」

 

 気は乗らないが彼女の言うとおり、私は知らない世界にいるようだし。

いや、正確には過去と言っていいのかもしれない。

 帝国とかの時代は1000年近く前にあったと記されていたから。教科書とかで。

あんまり勉強していないせいか、はっきりと覚えていないけれど。

 

 そんなオカルト信じたくないが、私は先生の魔術によって時空が歪んで飛ばされていた

ようだ。先生のことも心配だけど、情報が全くない以上、無闇に探すことはできない。

 

 だから、しばらくの間はこの人についていくことに決めた。悪い人ではなさそうだし。

 

「よろしくね。えっと・・・名前は?」

「シェスカよ。シェスカ・マイスター」

 

「・・・」

「どうしたの?」

 

 私を不思議なものを見るような目で向けていたのを感じて、不快そうな表情を

浮かべるとすぐに、笑顔に戻って手を繋いできた。

 

「よろしくね」

 

 そうして、名前も知らない女の人にお世話されるようになった私なのであった。

 


 
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