No.427141 遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・八話月千一夜さん 2012-05-23 21:46:37 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:8727 閲覧ユーザー数:6718 |
一瞬で、理解することが出来たかと言われれば
彼女は、その首を横に振らざるおえないだろう
そんなことが無理だということは、誰よりも、彼女自身が理解していたのだから
それが夢なのかと
そう問われたとしたのならば、彼女ならばこう答えたことだろう
『夢だとは、思いたくない』と
そんな、彼女
華雄こと、夕は今・・・
「なん、と・・・いうことだ」
“震えていた”
その体を、大きく震わせながら
彼女は、小さく声を漏らす
これが夢ではないと
自分に、言い聞かせながら
この想いが、幻ではないと
そう、言い聞かせながら
様々な
それこそ、何年分もの、想いを込め
「董卓・・・様っ」
彼女は、その名を
かつての自身の主の名を、呼んだのだった
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第二章 第八話【再会、衝突、確執】
ーーー†ーーー
「華雄さんっ・・・!」
それは、夕が彼女の名を
この小さな少女の名を、呟くのとほぼ同時のこと
少女は、駆けだしていたのだ
未だ困惑したままの、夕のもとに向って、だ
やがて、少女がその体を抱き締めるのと同時に
夕は、今のこの光景が、夢ではないと
涙を流しながら、実感したのである
「董卓様・・・っ!」
その小さな体を抱き返し、涙する夕
そんな彼女に対し、少女も涙を流しながら、柔らかな笑みを浮かべ言う
「華雄さん・・・よかった
無事だったんですね」
と、少女は笑う
それに対し、夕は“はい”と
万感の思いを込め、頷いた
「董卓様も・・・よくぞ、よくぞご無事でっ!」
と、夕はまた涙した
そんな彼女のすぐ傍
董卓と呼ばれた少女の傍らに、いつの間にかもう一人の少女が立っていた
眼鏡をかけた、目つきの鋭い少女である
その少女の姿に気付き、夕は涙を流したまま笑い言葉を紡いだ
「おお、賈駆ではないかっ!
お前も、無事であったかっ!!」
「ええ、まぁってちょ、ちょっと!?
いきなり抱き着かないでよっ!!」
そのまま、力強く少女を抱き締める夕
一方、“賈駆”と呼ばれた少女は、苦しそうに、しかし若干の笑みを浮かべながら、されるがままになっていた
が、少女は何かを思い出したかのように、咄嗟に夕の口を塞ぐのだった
「ふご!? ふぎぐぐぐ!!?(なんだ!? なにをするのだ!?)」
「い、いいから黙って!!」
“御願いだから”と、少女
その額からは、微かだが冷や汗が流れている
そのまま、少女が見つめた先
夕を除く、残り四人の人物はというと・・・
「「「「董卓って・・・まさか、“あの董卓”っ!!?」」」」
と、見事なハモリをかましていた
同時に、賈駆と呼ばれた少女は“しまった”といった表情を浮かべ
盛大に、溜め息をついていたのだった
対して、夕はというと
自分が“しでかしてしまったこと”に気付いた様子もなく
「ふが?」
ただキョトンと
その首を、傾げるだけであった・・・
ーーー†ーーー
「はぁ・・・はぁ・・・っ!」
荒れた、大地の上
彼女は、いや、彼女達は走っていた
ある者は馬に乗り、ある者は裸足のままで
唯々、必死になり、走っていた
その先頭・・・多くの人々を率いる形で
彼女、“劉備玄徳”は、不安げな表情もそのままに
己について来る人々を見つめ、大きく溜め息を吐き出していた
「桃香様・・・」
そんな彼女の様子を見つめ、その傍らを並走する黄忠こと紫苑は
心配そうな目を向けたまま、彼女のその手を握る
「桃香様・・・お気持ちは、わかります
しかし、今は“耐えるほかありません”」
「うん・・・」
紫苑の言葉
力なく頷き、彼女は力なく笑う
それから、反対側を並走する小さな少女
諸葛亮を見つめ口を開いた
「朱里ちゃん、先に逃げた人たちとはどこら辺で合流できそうかな?」
と、この言葉
諸葛亮こと朱里はそれに対し、若干の不安を、その表情に浮かべる
「実は・・・この辺りで、合流する手はずだったのですが」
「なんですって?」
朱里の言葉
それに、紫苑は訝しげな表情を浮かべた
それから周りを見渡し、再度朱里を見つめ言葉を紡ぐ
「だけど、誰も見当たらないわね?」
「はい・・・ですから、おかしいなと思いまして」
口元に手を添え、朱里は表情を歪める
そんな彼女の言葉に、桃香の表情も歪んでいった
「確か・・・詠ちゃんと月ちゃんも、一緒だったよね」
“はい”と、紫苑は頷く
同時に思い浮かべるのは、件の“二人の少女”の姿だった
「心配、だなぁ・・・」
「桃香様・・・」
少女の身を案ずる言葉
それに、紫苑は表情を曇らせた
「すみませぬ・・・」
と、そんな三人の耳に、声が響いた
ふと、振り向いた先
妙齢の女性・・・厳顔こと桔梗が、ゆっくりと、近づいて来ていた
「儂の・・・儂の、せいじゃ」
「桔梗さん・・・」
“儂のせい”
そう呟き、唇を噛み締める桔梗
そんな彼女の様子に、紫苑は悲しげな、苦しげな表情を浮かべていた
「スマン・・・儂の、せいで」
と、彼女は頭を下げる
それに対し、桃香は慌ててその首を、ブンブンと横に振っていた
「桔梗さんっ、やめてくださいっ!
そんな、“まだ何もわかっていないのに”、桔梗さんのことを責めるなんてっ!
そんなこと、出来るわけないじゃないですかっ!」
「そうよ、桔梗
今は・・・ひとまず、“奴らから離れるのが先決だわ”」
桃香に合わせるよう、紫苑は頷き言った
その言葉に対し、桔梗は顔を上げ反論を試みる
が、その時・・・
「あ、あぁっ!」
と、朱里が声をあげたのだ
其の声につられ、皆が急ぎ見つめる先
その先にいる人物の姿に、桃香は・・・表情を変えた
「月ちゃん、詠ちゃんっ!」
そう
其処にいたのは、件の二人の少女
月と詠
そして・・・見慣れない、五人の女性の姿だった
ーーー†ーーー
「・・・と、いうわけなのよ」
と、眼鏡をかけた少女
賈駆こと、詠は言葉を止める
その言葉に、皆は一様に、驚いたような表情を浮かべているのだった
「まさか・・・そのようなことが、あったとはのう」
そう声をあげたのは、祭だった
彼女のこの一言に、皆は同調するように、頷いている
少女・・・詠が語ったのは、遡ること数年前
世が未だ“乱世”と呼ばれていた頃のこと
そんな時代にあった、歴史的戦い・・・“反董卓連合軍”が起こった時
その時に自分と、そして主君である董卓こと月が、いかにして、今現在こうして蜀にいるのかという話だった
この話に、皆は驚き、そして夕は安堵の溜め息を漏らし、何度も涙を流していたのだった
「うぅ・・・なんだか、申し訳ないのじゃ」
と、その話を聞き、こう言ったのは美羽である
彼女はあの時、私利私欲に走った自身のことを恥じたのだ
無論、七乃も同様である
しかし、これに対し月は、困ったように笑った後に、“もう、いいんです”と言った
「確かに、皆と離れ離れになったのは、凄く辛かったけど
だけど、こうして、一緒に暮らせるようになりましたし
それに・・・華雄さんとも、またお会いできました」
“だから、いいんです”と、彼女は笑う
美羽はこの一言に呆気にとられた後、少し遅れて・・・同じように、温かな笑顔を浮かべるのだった
「ありがとうなのじゃっ♪」
「よかったですね、美羽様♪」
「うむっ♪」
そう言って、喜ぶ2人
そんな二人の姿を見つめ、他の者は皆、つられるよう笑うのだった
「うむ?」
ふと、そんな中、祭は思い出したよう声をあげる
それから詠と月を見つめ、口を開いた
「そういえば、お主ら・・・どうして、あのような連中に追われていたのじゃ?」
「あっ、それは・・・」
詠は、その言葉に反応し、言葉を紡ぐ
と、そんな時である
「月ちゃん、詠ちゃんっ!」
ふと、誰かの声が響いたのだ
その声にいち早く反応したのは、月と詠であった
二人はバッと声が聞こえてきた方に振り向くと、大きく手を振り声をあげた
「桃香様っ!」
「桃香っ!」
其の声につられるよう、皆が見つめる先
其処には、赤茶色の髪を揺らしながら馬を駆る、一人の少女の姿があった
いや、“それだけではない”
「おい、おいおい・・・これはいったい、どういうこっちゃ?」
と、王異は苦笑交じりに声をあげる
そんな彼女の視線の先
其処には、先ほどの少女を先頭にして、多くの“兵士”がついて来ていたのだ
そして、その少女の傍ら
其処には、“劉”と書かれた旗が、高々と掲げられているのだ
「まさか・・・あれが、劉備か?」
夕は驚き、そう呟いた
“どうして、此処に?”と
その表情に、そう浮かべながら
それは、他の者も同じである
そんな皆の疑問などつゆ知らず、劉備こと桃香は、馬から降り、月と詠の傍まで駆け寄ってきたのだった
「よかった、2人とも無事だったんだね!」
「はい、なんとか・・・」
月はそう言うと、チラリと夕達の姿を見つめ
それから、パッと表情を明るくさせた
「実は少々、危なかったんですが・・・其方の方々が、助けてくださったんです」
「そうだったの!?」
驚き、声をあげる桃香
彼女はそれから急ぎ夕たちの傍まで駆け寄り、それから大きく頭を下げた
「二人を助けて下さって、ありがとうございましたっ!」
「む、むぅ!?」
と、突然の行動に戸惑う夕
そんな折、焦ったように、一人の女性が桃香の側に駆け寄ってくる
黄忠こと、紫苑だ
彼女は乱れた息もそのままに、声をあげる
「桃香様、御願いですからお一人で先行なさらないでくださいっ!」
「あはは、ごめん紫苑さん
月ちゃんたちの姿が見えて、安心しちゃって・・・」
“つい・・・”と、桃香
そんな彼女に対し、“まったく”と、紫苑は溜め息をついていた
「えへへ
怒られちゃった」
と、桃香
彼女はそれから、紫苑や朱里、自分についてきた者達に“ごめんね~”と声をかけていた
そんな彼女の姿に、皆はフッと笑みを漏らしてしまう
が、そんな中
夕が、ふと首を傾げ呟いたのだ
「というか・・・蜀の王が、このような多くの兵を率い
いったい、何をしに来たのだ?」
夕の言葉
これに、紫苑をはじめ・・・桃香も黙ってしまう
沈黙、だ
しかし、その沈黙も破られる
「えっと・・・」
蜀の王・・・桃香によって、だ
「あの、ね・・・」
「桃香様っ!?」
「紫苑さん、隠したってしょうがないよ
もう、そんな場合じゃないって・・・みんな、わかってるはずだよ」
「桃香様・・・」
それから、数秒後
桃香の、その口から
信じられない一言が、飛び出すのだった・・・
「成都が・・・“謎の勢力”によって、奪われたんです」
沈黙
再び、流れる沈黙
今度は先ほどよりも長く・・・そして、“重い”
「嘘、だろ?」
と、夕は声を漏らす
それに対し、桃香は悲痛な面持ちで、首を横に振るのだった
「ありえない・・・」
七乃は、そう言って腕を組んだ
しかし、すぐさま何かを思い出したかのように
慌ててその口を開く
「そうだっ・・・一刀さんっ!」
「「「!!」」」
七乃の言葉
夕、祭、美羽、三人は顔をあげた
「そ、そうじゃ!
一刀のことがあったのじゃ!」
「儂らの考え通りならば、一刀は成都へと向かったはず・・・!」
「くっそ・・・なんてことだ」
「これは、困りましたね~」
と、頭を悩ませる四人
“謎の勢力の正体”
“今の蜀の状況”等
他にも、気になることはあるはずなのだが
しかしやはり、彼女達にとって一番の優先事項は、“家族”でもある一刀の安否である
故に、美羽は慌てた様子のまま、桃香に向い言うのだった
「妾達の家族が、成都へ向かったかもしれんのじゃっ!
成都を出る前に、見かけなかったかの!?」
「家族、ですか?」
“それは、大変です”と、桃香
そんな彼女に、美羽は頭に手をあてたまま言葉を紡いでいく
「変わった服を着ておる故、わかりやすいと思うのじゃが・・・」
“えっと”と、美羽
やがて彼女は、思いつく限りの特徴を、言っていく
「髪は長く、茶色がかっているのじゃ
服は白く、日の光を浴びると、キラキラと綺麗なのじゃ
あと、背中には大きな弓を背負っておって・・・」
“それから”と、美羽
一刀の“外見”についての情報は、伝えた
「あとは・・・そうじゃ」
あとは、“名前”である
そう思い、彼女はハキハキと、しっかりと
大切な家族の名を、告げるのだった
「名は・・・鄧艾、字は士載というのじゃっ!」
「っ・・・!!」
その名が、その“言葉”が、その“響き”が
「鄧艾・・・士載?」
彼女達にとって
そして・・・桃香にとって
今現在、もっとも嫌悪している
深い、“憎しみ”の対象だとは・・・知らないままに
「どうじゃ?
聞き覚えは・・・」
「・・・近寄らないでっ!!」
「っ!?」
伸ばしかかった手が、弾かれる
突然のことに、戸惑う美羽
そんな彼女に向い
彼女は・・・桃香は、その瞳に深い“憎悪”を浮かべたまま見つめていた
「りゅ、劉備さん?」
恐る恐る
問い掛ける、七乃
そんな彼女に対し、桃香は冷たく・・・表情を消したまま、言う
「そうですか・・・貴女達も、“あの人たちの仲間”だったんですね」
「あの人たち・・・?」
「させない・・・貴女達の好きには、させない!!」
叫び、剣を抜く桃香
それに合わせるよう・・・いつの間にか
紫苑をはじめ、蜀の名だたる面々が、各々の武器を構え、美羽達を囲んでいたのだ
「・・・これは、いったいどういうことだ?」
驚き、武器を構える夕
同じよう、祭と七乃、王異も武器を構えた
「あの人たちの、仲間・・・じゃと?」
「なんやねん、急に・・・」
「いったい、何が何やら・・・」
「とぼけるな、なのだっ!!」
と、声をあげたのは蜀きっての怪力
張飛こと鈴々であった
彼女は蛇矛を構えたまま、夕たちをキツく睨み付けていた
「お前らのせいで・・・鈴々達の国は、“滅んじゃうのだ”!!」
「滅ぶ・・・!?
いったい、何を言って・・・」
「黙れ!!
黙れ黙れ黙れ!!」
聞く耳を持たない、と
七乃は、諦めと共に溜め息を吐き出した
同時に見つめる先・・・七乃は、言葉を失ってしまう
目の前に立つ
桃香の、その両の眼を見つめたまま
その瞳の中
“ドロリ”とした、深い、深い感情に
「私たちの国を・・・これ以上、好きには、させないんだからっ!!!!」
微かな、“恐怖”を感じながら・・・
☆あとがき☆
さて、いかがだったでしょうか?
謎だらけの展開に、さぞ戸惑ったことでしょう
其処は、徐々に、徐々に明らかになっていきます
では、またお会いしましょう
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お久しぶりです
長い間、音信不通、申し訳ありませぬ
詳しい話は、“なろう”にて、語っております
興味がおありな方は、そちらをご覧ください
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