石畳の町並みを散策する、長い金髪の男が一人。
人ごみの中であろうと人と人の間を器用にすり抜け、石畳であろうと、足音を一切立てる事も無く、歩む。
ふと、足を止めて街の中心にある大木を見上げた。
この国、ハイ・ラガード公国を象徴する、空よりも、雲よりも高く伸びる大樹。中に巨大な自然の迷宮を内包し、様々な冒険者が内部を調査している世界樹。
男もまた、この世界樹を登る冒険者の一人だった。一度の冒険に共に出かけられる冒険者は、5人。男は今回の探索は仲間に任せ、町でのんびり……悪く言えば、居残りであった。
木を見上げ、仲間の無事を思っても、ここからでは何が起こっているか一切分からない。見上げても仕方が無いと思いなおし、休日をどう楽しむかを考え直し、歩き出そうとした時、自分と同じ様に世界樹を見上げる、ショートカットの少女が目に止まった。
茶色のショートカット、背格好といい、見覚えのあるその少女――
「……グラッジ?」
疑問符をつけて呼んだのは、いつもと服装も雰囲気も違ったからだ。ハッ、と、驚いた様にこっちに振り返ったのを見て、疑問は確信に変わった。
いつもの様に、鎧を着けて、上に白衣を着た彼女とは違い、お洒落な服に身を包んで、軽く化粧もしていたから、気付かずに通り過ぎてたかもしれない。
「ウッディさん?」
「やはりグラッジか。いつもと違う服だから、危うく通り過ぎる所だった」
「あ、ハハハ。似合ってますか?」
少女は照れた様に笑い。スカートの裾を軽く摘まんで広げて見せた。
彼女らしい、清楚な格好だが、良く似合っている。「ああ」と一言頷いた。
グラッジは、ウッディと呼ばれた男と同じギルドに所属する、傷を癒す事に長けたメディックだ。ウッディと同じく、今回の冒険ではお留守番として、町に残っている。
「あっ、ありがとうございます。……せっかくのお休みですから、楽しみませんとね」
嬉しそうに笑ったが、どこか無理して笑っている様な、そんな気がした。
ちらりと、心配そうな視線を世界樹に時折向けている。
「……心配か」
「……はい。やはり私も行くべきだったんじゃないかって。相手は強敵でしょうし……シトラスちゃんを信頼してないわけじゃないんですけど…」
短い問いかけに、笑顔を消し、不安そうな顔でぽつぽつと語りだした。ちなみに出てきたシトラスという名は、グラッジとは別の治癒に長けた仲間だ。
ウッディはやれやれと息を吐く。
「信じろ。リーダーもこれ以上攻撃役も防御役も外せないと言っていただろう」
「うう。そうなんですけど、でも、私が至らないばっかりに……私の方が治癒は上手いのに……」
「……グラッジ」
うじうじとしだした少女に、言い聞かせる様に、ゆっくりと言った。
「お前は長期探索型だ。麻痺や毒、瀕死の重傷に対処出来る上に治癒の術式を使える回数も多い。道具袋に空きを大量に用意できる。……が、今回は道を塞ぐボスを一匹倒して戻ってくるだけだ。なら素早く動けて補助の術も使えるシトラスの方がいい、とそれだけの話だ。
俺もお前も、強敵相手に戦わないからといって、役立たずなんて事はない。
……世界樹の危険な内部を探索し、ボスまでの最短で安全なルートを確立した。それでいいだろう」
珍しく饒舌な様子に軽く驚いたか、彼女は目を丸くしていた。
そして、納得がいったのか、柔らかく笑ってみせた。
「えへへ。やっぱりウッディさんは流石です」
「? 俺が?」
「はいっ! 自分の役割をしっかり持ってて、その上パーティで何が必要かとか、大切な事、ちゃんと分かってますもん!」
嬉しそうに、はっきりキッパリ答える少女。男は表情には出さないが、僅かに困惑していた。俺は俺の役目を果たしただけ。
気配を察知して奇襲を防いだり、強敵に注意を払っての戦闘回避や、ダメージ床でのダメージの減少などが得意分野の己にとって、強敵との戦いとなる今回のお留守番は自分にとって、むしろ当たり前の事だったから、ある種当然だ。
少女は一歩近づいて、笑顔で語りかけてくる。
「ね? ウッディさん、良ければ、今日は御一緒しませんか? 一人でいるよりも、一緒にいた方が楽しいですよ!」
「あ、ああ……」
断る理由も特に無かったし、妙に嬉しそうな様子に、思わず頷いてしまった。
「じゃ、行きましょ!」
そう言って、歩き出したグラッジの後を、ウッディも歩き出す。
とりあえず元気が出たなら良し。今日一日、付き合おうと心に決めて。
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別所で書いてたMyギルドSS第二弾です。
この二人をあるボス討伐の際に留守番させましたけれど、アザステレンジャーとメディックの組み合わせは物凄い頼もしいですよね。