No.426754 Fate/Zero おじさんは恋の修羅場に巻き込まれました 完結編2012-05-22 23:40:07 投稿 / 全7ページ 総閲覧数:3165 閲覧ユーザー数:3072 |
おじさんは恋の修羅場に巻き込まれました 完結編
前回のあらすじ
『おおっ! 異次元の幼女よっ! 私は糾弾をもって御身を称えようっ! 傲岸なる幼女をっ! 冷酷なる幼女をっ! 我らは御座より引きずり下ろすっ!!』
天才魔術師ペドネス先生は聖杯くんを乗っ取り、超巨大タコさんウィンナーと化しました。
『だからこの5人で聖杯を破壊しないと冬木が滅んでしまうかも知れないわっ!』
『お父様の分まで遠坂家の魔術師として私が一生懸命に戦いますっ!』
『おじさんっ! 桜達の手でこの世界を守ろうっ!』
『そうよ、雁夜さん。アレとだけは私達の手で決着を付けないとっ!』
ケイネス先生が危険極まる存在と化したので、今までおじさんを巡って対立していた葵お母さん、凛ちゃん、桜ちゃん、ソラウさんが手を組み共闘することになりました。
『魔術を捨てたとはいえ、俺も冬木の管理人の一族の人間。この危機を放って逃げるわけにはいかないよなっ!』
そして4人の美女の呼び掛けに応じてヘタレて日和っていたおじさんも遂にやる気になりました。
巨大な敵の前に反目し合っていたライバルたちが手を組んで戦う。 少年漫画の王道にして燃える展開の最終決戦の始まりです。
「さて、まずあのデカいのが見掛け倒しなのか本当に危険なのか確かめないといけないわね」
葵お母さんは娘が可愛くて妻と愛人を日本に残してドイツに帰った魔術師殺しさんから譲り受けたスティンガーミサイルを構えます。
1発で大型航空機も吹き飛ばせる凄い威力のミサイルです。
「えいっ♪」
葵お母さんは綺麗な時臣お父さんに残虐をするような軽い気持ちでミサイルを発射しました。お茶目な掛け声で愛らしさを表現しています。
発射して10mほど飛んでからロケットモーターが点火。音速を超えて目標である巨大聖杯と化したケイネス先生にぶつかります。
「幼女~~っ! 幼女~~っ! 幼女~~~~~っ!!」
ですがケイ杯は全くダメージを受けていません。大好きなモノを大声で繰り返して叫んでいるだけです。攻撃に気付いてさえいないのだと思います。
「やっぱりこの程度の武器じゃ効かない……わね」
葵お母さんは大きく溜め息を吐きながらスティンガーミサイルをその場に捨てました。
強大な魔力で守られたケイ杯の防御力は桁外れだったのです。
「さて、どうしようかしらね?」
葵お母さんは手を顎に添えながら対策を考えます。
一方、葵お母さん達が手をこまねいている内にケイ杯の存在が人々の目に留まるようになってしまいました。
「ややっ! 面妖な物の怪が川に出現しているっ! 柳洞寺の次男として見過ごせん。喝っ!」
メガネを掛けた凛ちゃんと同い年ぐらいの少年がケイ杯を見つけて駆け寄っていきます。仏様の力を借りて退治するつもりなのです。
「一成っ! 危ない。もどるんだぁ~~っ!!」
メガネ少年の友達が危険を叫びますがその声は既に遅過ぎました。
「幼女~~っ! 幼女~~っ!」
「うぉおおおおぉっ!? 捕まってしまったぁ~~っ!」
メガネ少年はあっという間にケイ杯の触手に捕まってしまいました。そしてもはや幼女か男なのかさえも判断力を失っているケイ杯の触手に全身を撫で回されてしまいます。
「おっ! おおおぅ~~っ!」
メガネ少年が色々な意味で大ピンチです。
「一成~~っ! 気をしっかり持つんだぁ~~っ!」
メガネ少年の友達が岸に駆け寄ってメガネ少年に必死に声を掛けます。
「クッ! 味皇海原雄山の息子士郎よ。触手に嬲られている俺を見ないでくれぇ~~っ!」
触手に無で回されてメガネ少年の顔が紅潮していきます。
「なっ、何故だっ!? とんでもない痴態を晒している筈なのに、士郎に熱い瞳で見られていると思うと堪らなく興奮して来るっ! こ、この気持ちは……ま、まさか…こっ、こ」
メガネ少年が何かに目覚めそれを伝えようとした瞬間でした。
無表情の凛ちゃんと桜ちゃんが拾い直して弾を込め直したスティンガーミサイルを発射しました。ミサイルは見事触手に命中し大爆発を起こしました。
「やっぱり効かないわね」
「効かなかったね、お姉ちゃん」
レンズの片側が溶けたメガネだけが岸辺に落ちてきました。
「一成~~~~~~っ!!」
士郎くんは友の名をあらん限りの大声で叫んだのです。でも、その声が届くことはなかったのです。
メガネ少年は大空に笑顔でキメていました。メガネ少年は今も地上の皆を仏様と一緒に優しく見守り続けています。
「放っておけば、民間人にも被害が出てしまう可能性があるわね」
葵お母さんはメガネ少年が大空に笑顔でキメているのを確認しながら溜め息を吐きました。メガネ少年はカウントされませんでした。
「とにかく、一般人に被害が出るとこの地の管理人である遠坂と間桐にクレームが来るわ。それを避ける為には……少しの間、凛と桜であの変態タコウィンナーの気を引き付けて」
「「えっ?」」
凛ちゃんと桜ちゃんは露骨に嫌そうな顔をしました。あんなケイ杯に捕まったら最後、お嫁に行けない身体にされてしまうに違いありません。まだおじさんと結婚していないのに2人はそんなの絶対に嫌でした。
勿論葵お母さんはそんな凛ちゃん達の反応は予想済みでした。
「ね~雁夜くん?」
葵お母さんは猫撫で声を出しながらおじさんを見ました。
「何でしょうか?」
「雁夜くんは幼い女の子の愛らしさを引き立たせる服装って何だと思う?」
「女の子の愛らしさを引き立たせる服装……ですか? ああ、あの聖杯の気を惹けそうな格好ですね」
おじさんはケイ杯の方を見ながら考えます。あの手の輩が喜びそうな服装を一生懸命考えます。答えはすぐに出ました。
「やっぱり……ブルマとスクール水着、でしょうか」
おじさんは以前書いた『二次元美少女にハマる日本の男達』という題名の記事を思い出しながら意見を述べました。
「雁夜くんって……そういう人なの?」
葵お母さんの冷たい、というか軽蔑の視線がおじさんに突き刺さります。
「ちっ、違いますよっ! 俺は昔書いた記事を参照に幼い少女が好きな男が好むコスチュームを思い浮かべただけでっ!」
おじさんは必死に弁明します。でも、葵お母さんの視線は冷たいままです。
「まあ、雁夜くんがそういう趣味なら……今度から私も雁夜くんと会う時はブルマとスク水にしようかしら?」
「いや、さすがに葵さんにスク水やブルマはキツいですよ。年齢を考え……ブホッ!?」
葵お母さんの腹パンがおじさんに見事に決まりました。おじさんは苦しがってまともに呼吸も出来ません。
そしておじさんの言葉にショックを受けたのは葵お母さんだけではありませんでした。
「雁夜おじさんがそんな犯罪的な趣味をしていたなんて……幻滅ですっ! 不潔です!」
言いながら凛ちゃんは着ていた洋服を脱ぎました。
「まったく、私が偶然にも雁夜おじさんの性的趣向を予測して下にスク水を着ていなかったらどうするつもりだったんですか?」
凛ちゃんは紺色のスクール水着姿を披露しました。ネームプレートには『間桐(予定)りん』と書かれています。さり気なく妻であることをアピールです。
「おじさん……変態っ!」
プンプンと怒りながら桜ちゃんが服を脱ぎます。
「まったく、わたしが偶然にもおじさんの好みを考えてブルマを着ていなかったらどうするつもりだったの?」
桜ちゃんは赤色のブルマ姿を披露しました。白い体操服には『間桐(本物)さくら』と書かれています。やっぱり妻であることをアピールです。
「行くわよ、桜っ! 変態の雁夜おじさんはそこで見ていてください」
「うんっ! 変態のおじさんはそこで見てて」
2人は川に向かって駆け出していきます。そして、2人で最高に天真爛漫な表情を作り上げながら川辺で戯れ始めたのでした。
2人はグルグルと回りながら楽しそうに遊んでいます。
「あの行為は一体?」
訳が分からないとばかりにおじさんは葵お母さんに聞きました。
「強いて言うなら女の意地と戦いね。さすがは私の娘たち。普段から死合に望む覚悟だったとは。私も大人のセクシー黒じゃなくて、雁夜くんに合わせてクマのバックプリントを穿くべきだったわ」
スクール水着とブルマ姿の娘を見て葵お母さんは感慨深けに息を吐き出しました。
そして、そんな2人に心惹かれたのは葵お母さんだけではありませんでした。
「おおおぉ~~っ! 女神が2人、降臨なされた~~っ!! リアルもっかんとまほまほ。ここは地上のパラダイス~~~っ!」
ケイ杯の触手が2人の少女に向かって伸びていきます。
2人の絶体絶命の危機です。ですが──
「イエス・ロリータっ! ノータッチ~~~~~~っ!?」
対ペド野郎最強の防護結界『Yesロリータ Noタッチ』が発動してケイ杯の触手が2人の手前5mの地点で止められたのです。
如何に聖杯の力を得たといっても、ロー・アイアスよりも遥かに堅固な犯罪者抑制の最強結界を破ることは容易ではなかったのです。
「さて、これで少しは時間が稼げるわね」
葵お母さんは予測以上の成果を得たことに少しホッとしながら再びおじさんとソラウお姉さんへと向き直ります。
年端もいかない少女が頑張っているのです。大人が頑張らない訳にはいきません。
「問題は、どうすればあの聖杯を滅ぼせるかだけど……」
葵お母さんはケイ杯を見ます。当初50mだったケイ杯は更に巨大になっています。100mに到達するのも時間の問題です。
「あれだけ大きく、しかも魔力防壁の塊となると……対城宝具か、この世界の理をいじれる特殊な宝具が必要ですね」
おじさんが数少ない魔術知識で対抗策を述べます。
「でも、対城宝具となると……歴史上の大英雄の使った武器ぐらいの魔術礼装が必要になりますよね」
魔術の名門のお嬢さんであるソラウお姉さんが意見を付け足します。
「あんな巨大な聖杯を一撃で吹き飛ばせる宝具となると数は限られているわ。私が知る限りだと3つだけね」
葵お母さんは指を3本立ててみせました。
「まず1つ目は、古代ブリテンの伝説上の英雄である空腹王が所持していたとされるエクスカリパーが挙げられるわね」
「何だかパチモン臭いっすね」
“バー”ではなく“パー”の方です。
「でも、エクスカリパーは時臣を狙って遠投したら力の入れ具合を間違えて大気圏を突破。現在は宇宙空間を漂っているわ」
「それは回収不能っすね」
空腹王の剣は使用できないことが明らかになりました。
「2つ目は、この世の全ての財を手中に収めたという古代メソポタミアの都市国家の慢心王の操った剣とされる乖離剣エアね」
「その乖離剣は今どこに?」
「この間までヤプオクで1980円で出品されていたんだけど、何度も流れている内に出品されなくなっちゃったわ。だから今どこにあるかは分からないわね」
「思ったより安いっすね、対城宝具って」
乖離剣エアには1980円以下の価値しかなかったようです。
「そして残りの1本は、どんな過酷でシリアスな状況であっても固有結界『タイガー道場』に引きずり込み、1太刀の元に強引に解決してしまうという突込剣『虎竹刀』があるわ」
「何か最初の2本とは方向性が違う剣ですよね?」
おじさんが顔から汗を吹き出します。ちなみにエクスカリパーは虎竹刀と同じ方向性の宝具です。
「そうね。同じEX級の武器でも、エクスカリパーやエアとは比べ物にならない程高い力を持った武器だもの」
「高いんですか?」
おじさんの顔から更なる汗が滴り落ちます。
「だけどその破壊力の高さと扱いの難しさから、古今東西虎竹刀を自在に操ったのは冬木の虎と呼ばれる女学生1人だと言われているわ」
「操れないんじゃあ、虎竹刀だけあっても仕方ないですね……」
使いこなせない武器には意味がありません。でも、諦めたようとしていた軟弱な若者の肩を葵お母さんはギュッと掴みました。
「でも、私は雁夜くんなら虎竹刀を扱えると思っているわ。キャラ的にっ!」
葵お母さんはおじさんの肩を砕きそうなほど両手に力を込めながら大声を上げました。
「そっ、それは……俺が汚れキャラということを遠まわしに言っているのでしょうか?」
痛さで泣きそうになりながらおじさんが尋ねます。
「道化でも気にしないの。だって雁夜くんは私の……ポっ」
葵お母さんは頬を赤く染めました。ちなみに500kgの握力で両肩を握り潰そうとしながらです。
「それで、その虎竹刀は今一体どこに?」
死にそうなおじさんに変わってソラウお姉さんが尋ねます。
「冬木市に在住の冬木の虎という女学生がいつも持ち歩いているはずよ。ソラウさんが探して来てくれない?」
「分かりました」
ソラウお姉さんはコクンと頷くと道路へと向かって走り出しました。
「私は冬木の虎を直接は知らないけれど、彼女は虎を深く憎み、そして愛しているそうよ。それをヒントに探し出して」
ソラウお姉さんは駆けて行きながら手を振って答えました。
「さて、それじゃあいつまでも娘たちに聖杯の相手をさせていないで私も聖杯を食い止めるとするわね」
葵お母さんが指を鳴らすと異次元の蔵から様々な重器が出てきました。
「魔術を無効化する弾丸とかも少しはあるから、まあ気休め程度にはダメージも与えられるでしょう」
ドイツに帰国した魔術師殺しさんから譲り受けた特殊な弾丸をライフルに込めながら葵お母さんは述べました。
「じゃあ、俺も一緒に時間稼ぎを」
おじさんが銃を取ろうとします。でも、葵お母さんはそれを制止ました。
「雁夜くんはソラウさんから虎竹刀を受け取ったら、すぐにタイガー道場を発動させて聖杯を消し去るという大事な任務があるでしょう」
背中にバズーカを2丁背負い終わった葵お母さんがニッコリと笑います。
「今は各自が最善を尽くす時。雁夜くんは自分のやるべきことに集中しなさい」
葵お母さんはそれだけ述べるとケイ杯に向かって突撃開始しました。
「アオイサンヘタレノウエニオン(女王の軍勢)っ!!」
対魔術師装備の葵お母さんがケイ杯に対して大火力攻撃を仕掛けます。
「葵さん……っ」
おじさんは初恋の人の男気溢れる背中を乙女な視線で眺め続けていました。
「冬木の虎は一体どこにいるのっ!?」
ソラウお姉さんは冬木の虎と呼ばれる少女を捜して一生懸命市内を駆け回ります。
けれど、目的の女学生は一向に見つかりません。それはそうです。ソラウお姉さんは冬木の虎を知らないのですから例え目の前を通り掛かっても分からないのです。
手掛かりとして竹刀を持った少女を捜していますが、冬木市は大き過ぎて該当する条件の少女を見つけられません。闇雲に走っているだけです。
このままでは探し出せないと思いソラウお姉さんの焦りが大きくなっていきます。
「そう言えば正義の味方の葵さんは他にヒントを言っていたわね」
自分を殺そうとしていた“正義の味方”である葵お母さんの言葉を思い出します。
「確か、虎を深く憎み、そして愛しているって。どういう意味なのかしら?」
ソラウお姉さんは走りながら首を捻ります。
「英語に直すと……深く憎みはhate deeply、愛しているはloveかbe in loveよね。そして虎は……Tigerよね」
ソラウお姉さんが母国語で考え直したその時でした。
「タイガーって言うな~~~~っ!!」
川を挟んだ対岸から少女の大きな声が聞こえました。そして大きな地鳴りの音を鳴り響かせながら何かがソラウお姉さんに向かって近づいて来たのです。
その野獣の突進のような足音はソラウお姉さんに確実に恐怖の感情を植え付けました。
「なっ、何がやって来ると言うの?」
ソラウお姉さんの足が止まります。
そして川幅が悠に100mを超えている川の上を何者かが疾走し、ソラウお姉さんの元へと現れたのです。
「タイガーって言ったのはお前かぁ~~~~っ!?」
長い髪をポニーテールに纏めた中学生ぐらいの歳の少女はソラウお姉さんを見ながら吼えました。
少女の手には竹刀が握られています。虎のストラップが竹刀には括り付けられています。
「……もしかしてこの少女が冬木の虎なのかしら?」
ソラウお姉さんはドキッと胸を高鳴らせました。
「何とか言ったらどうだ~~っ!」
竹刀少女は荒れ狂っています。ケイ杯の横を通り抜ける。しかも川の上を歩いてくるという湖の乙女の加護でもなければ出来ない真似を平然とやってのけたことも覚えていなさそうな勢いです。
そんな吼え狂う少女を見てソラウお姉さんも命の危険を感じました。
「I am the bone of my sword.(あなたが何を言っているのかまるで分からないわ)」
恐怖のあまり日本語ではなく英語で答えてしまいました。
「え、英語~~っ!?」
竹刀少女は猪突猛進な攻撃姿勢をストップさせました。でも、ソラウお姉さんはまだ恐怖で気が動転しているのでその変化に気付きません。
「Steel is my body, and fire is my blood(それで、もしかすると貴方が冬木の虎なの?)」
英語のまま会話を続けます。
「ぐぐぐぐぅ~~っ!」
竹刀少女の上半身がソラウお姉さんから引いていきます。
「I have created over a thousand blades. Unknown to Death. Nor known to Life.(もし、貴方が冬木の虎なら、その虎竹刀を私に貸して下さらない?)」
英語で必死に話し掛けるソラウお姉さんに竹刀少女の全身が激しく震えていきます。
「Have withstood pain to create many weapons. Yet, those hands will never hold anything.(川に化け物が出現したでしょう。あれを倒すには貴方の虎竹刀がどうしても必要なのっ!)」
大きな声で強く訴えるソラウお姉さんに竹刀少女の全身がビクンッと震え上がりました。
「So as I pray, unlimited blade works.(お願いだから、その虎竹刀を貸してっ!)」
ソラウお姉さんは右手を竹刀少女に向かって伸ばしました。
「うっうっうっ……」
竹刀少女の顔が赤くなり震度6以上の激しい揺れを観測し──
「絶対英語上手になって今日のリベンジを果たしてやるんだからぁ~~。うわ~~んっ!」
泣きながら竹刀を捨て、ソラウお姉さんに背中を向けて逃げ出したのでした。
「あ、あの……?」
ソラウお姉さんは慌てて竹刀少女を追い掛けようとしますが、相手は川の上を走って逃げています。そしてあっという間に見えなくなってしまったのでした。
ちなみにこの時の一件が契機になって竹刀少女は英語教師を目指すようになるのですがそれは別の物語の話です。
今大事なのは竹刀少女が虎のストラップがついた竹刀を落としていったことでした。
「ようやく……聖杯を滅することが出来る虎竹刀を手に入れたわ~っ!」
ソラウお姉さんは虎竹刀を掲げて喜びを表現したのでした。
「アオイサンヘタレノウエニオン(女王の軍勢)も後2、3分が限界ね」
葵お母さんは小さく舌打ちしました。
1個大隊に匹敵する武装を隠し持っていた葵お母さんでしたが、その武器の貯蔵ももう尽きようとしています。
しかもケイ杯にはさしたるダメージを与えられていません。聖杯の力を得たケイネス先生の力は圧倒的だったのです。
「凛と桜にはこれ以上無理をさせられないし」
2人の娘は既におじさんの元まで下がらせています。
凛ちゃんのスク水と桜ちゃんのブルマは破壊力があり過ぎてケイ杯をあまりにも刺激してしまいました。その結果、想像を絶する力による触手攻撃が続き、『Yesロリータ Noタッチ』でさえ破られそうになったのです。
葵お母さんは2人を下がらせ、自分1人でペドネス先生を相手にしています。ケイ杯に攻撃を加え続けていないと触手が人々を襲い出しそうな勢いだからです。
けれど、1人で防御を続けるのもそろそろ限界に差し掛かってきています。
そして更にケイ杯は更に巨大化を続けており、既にその全長は100mを余裕で超えています。このまま巨大化を続ければ冬木の、いいえ、日本の、ううん、全世界の幼女たちが大変です。
「雁夜くん、ソラウさんはまだ戻って来ないの?」
携帯を片手で操作しながら雁夜おじさんに尋ねます。
『つい、今、ソラウさんから連絡がありました。虎竹刀を手に入れたそうです。後、2、3分でここに戻って来られるそうです』
葵お母さんは報告を聞いて息を吐き出します。
「本当にギリギリのタイミングね」
ソラウお姉さんの到着が葵お母さんの防衛の限界を1秒でも超えてしまえば多くの人命に関わりかねません。
「雁夜くんはソラウさんから虎竹刀を受け取り易い位置まで移動して。受け取ったらすぐに固有結界『タイガー道場』を発動させるのよっ! ヘタレな雁夜くんならきっと出来るから。キャラ的にっ!」
『分かりました。やってみます』
おじさんの電話が切れました。
「まったく……楽には勝たせてくれないわね。私は雁夜くんと結婚さえ出来れば見せ場は要らないって言うのに」
葵お母さんは両手の指の隙間に8本のアゾット剣を構えてみせました。更に1本を口に加えています。
剣にはそれぞれ宝石が散りばめられており如何にも魔術が込められていますって感じがします。
「行くわよ、娘達を狙う変態さんっ!」
葵お母さんはペドネス先生へと向かって駆け出し──
「九頭龍閃(Unlimited Blade Works )ッ!!」
魔術師としての最強の技を繰り出したのでした。
「ソラウさん……早く戻ってきてくれぇ~~っ!」
おじさんはケイ杯と橋を交互に見ながら焦っています。
「おじさんが焦っても何にもならないよ」
「そうです。雁夜おじさんは作戦の要なんですから、どんと構えていて下さい」
時間を稼ぐという自分の役目を果たし終えた桜ちゃんと凛ちゃんが浮ついたおじさんをたしなめます。
「ご、ごめん」
小学校低学年の少女に叱られているのが様になるのがおじさんのおじさんたる由縁です。きっと結婚したら奥さんの尻に敷かれることは決定です。絶対運命です。
「ほらっ、ソラウさんが戻って来ましたよ」
凛ちゃんの言葉を聞いて橋へと視線を向けます。
「雁屋さ~~んっ! 虎竹刀を持って来ましたよ~~っ!」
ソラウお姉さんは竹刀を振り回しながら駆けてきます。生粋のお嬢様なので走るのは速くありませんが一生懸命こちらに向かってきています。
「よしっ! これで逆転の条件は揃ったな!」
おじさんとっても嬉しそうです。
でも、その顔はすぐに疑問符に埋まりました。
「で、固有結界『タイガー道場』ってのはどうすれば使えるんだろう? ノリとかキャラ的にって言われてもそれだけで固有結界を使うのはちょっと……」
間桐魔術の修行を積んでいないジャーナリストのおじさんに固有結界は難し過ぎる魔術です。どうすれば良いのかまるで分かりません。
「タイガー道場の起動方法……聞いたことがあるわ」
「知っているの、お姉ちゃんっ!?」
凛ちゃんは緊張した面持ちです。桜ちゃんは顔を輝かせながら姉を見ています。
「ええ。およそ魔術に心得のある者ならタイガー道場の名を知らぬ者はいないわ。タイガーとは古代中国語で、他衣我吾、つまりそれを着ることで他の存在になれる衣装、言い換えればコスプレを意味するのよ!」
「「何だってっ!?」」
博識の凛ちゃんによって衝撃の真実が明かされます。
「幸いにして私も桜もコスプレをしているからタイガー道場を発動させる為の準備は整っている」
「えっ? コスプレって、桜ちゃんは普通の体操着姿だし、凛ちゃんも普通の学校指定の水着姿なんじゃ?」
「雁夜おじさんの馬鹿ぁあああああぁっ!!」
「おじさんの馬鹿ぁあああああああぁっ!!」
「ぶべぼぉおおおおおぉっ!?」
おじさんは凛ちゃんと桜ちゃんのビンタを食らって大きく吹き飛びます。
「なっ、何でっ!?」
おじさん涙目で頬を押さえながら美少女姉妹を見ます。でも、桜ちゃん達の怒りはおじさんの涙目の威力を上回るものでした。
「おじさんっ! 今の学校ではブルマ履かないんだよ。だからわたしのこのブルマは勝負服なんだよっ!」
「雁夜おじさんっ! 私の水着は旧式スクール水着です。今の学校では採用されていません。だからこの水着は私の勝負服なんですっ!」
「あっ……そ、そうなんだ。ごめんね」
少女たちの熱き想いにおじさんは謝るしかありませんでした。
みなさんも女の子の衣服に掛ける熱い想いは重々承知するようにして下さい。そうしないと男女間でも同性間でもとても厄介なトラブルに巻き込まれることが多々ありますから。
「そういう訳で、私と桜がいればタイガー道場を構築することは可能なの。でも、それだけじゃあ道場は起動しないっ! タイガー道場発動にはもう1つ鍵が必要なの」
気を取り直して凛ちゃんが説明を続けます。
「その鍵とは?」
「分からない。その鍵が何なのか分からないから虎竹刀の固有結界を作り出せたのは長い歴史上、冬木の虎しかいないと言われているわ」
「鍵……かあ」
おじさんは大きな溜め息を吐きました。凛ちゃんの解説でタイガー道場の謎の半分は解けましたが、肝心な部分は分からないままです。
これではペドネス先生を倒すことが出来ません。
「雁夜さ~~んっ!」
そうこうしている内にソラウお姉さんが戻って来ました。
その手には逆転の必殺武器となる筈の虎竹刀が握られています。
「ソラウさんっ! 早くっ!」
おじさんはソラウさんの名を大きな声で呼んで急かします。
「リアルもっかんとまほまほ~~っ! そこにいたのか~~っ!」
一方、川原にペドネス先生が上がって来ました。変態聖杯は凛ちゃんと桜ちゃんを狙っています。ペドですから他に目的はありません。
「雁夜くん。もう、私の力じゃ持ち堪えられないっ!」
武器がなくなり時臣お父さんが所有していた宝石を投げ付けて応戦する葵お母さん。しかし、ケイ杯の進撃を止めることが出来ず後退を余儀なくされています。
「虎竹刀は到着する。けれど、一体どうしたら固有結界が発動出来るんだ~~っ!?」
おじさんは天に向かって嘆きました。
そして──
その嘆きは天に届いたのです。
「雁夜さ~んっ! 虎竹刀を受け取って下さ~いっ!」
ソラウお姉さんは走ったままおじさんに竹刀を渡そうとしました。
その時、奇跡が起きたのです。
「って、きゃぁあああああああああぁっ!?」
ソラウお姉さんは足元に落ちていたバナナの皮に足を滑らせました。
そして持っていた竹刀をおじさんに向かって全力で打ち込んでしまったのです。
空腹王が慢心王をぶった切った時のような勢いで。
「かはぁああああぁっ!?」
おじさんはソラウお姉さんの一撃で致命傷を負いました。
そしてそれこそが固有結界『タイガー道場』を発動させる最後の鍵なのでした。
「タイガーは……ゾウジル……シ」
ペドネス先生との戦いも遂に最終章を迎えたのです。
「アレ? 俺……死んだんじゃ?」
気が付くとおじさんは木の床張りの室内にいました。見渡すと掛け軸が壁の一角に垂れ下がっており、どこかの道場内という風景です。でも、どこにも扉もなくここは閉ざされた空間になっています。それは不思議な空間でした。
「雁夜くん、さっさと起きて」
「ブホッ!?」
葵お母さんの腹パンで意識がはっきりしておじさんは立ち上がりました。
「葵さん、ここは一体?」
「ここはタイガー道場の中よ。雁夜くんは固有結界の発動に成功したの」
「ああ、なるほど。……って、葵さん。その格好は一体っ!?」
おじさんは固有結界発動よりも葵お母さんの服装に驚きました。
「雁夜くんはブルマが好きなのでしょう? なら、何の問題もないわ」
そうです。葵お母さんは桜ちゃんと同じブルマ姿なのでした。紺色ブルマが眩しすぎます。体操服の上の方はもうパッツンパッツンで見るからに犯罪っぽい服装です。
「いや、葵さんの年齢でブルマはもうイメクラか悪い冗談にしか……ブベヘエッテ!?」
おじさんはまた葵お母さんの見事な腹パンを食らいました。せっかく固有結界を発動させたのにライフは限りなく0に近付いています。
「あの、雁夜さん。この格好……おかしくありませんか?」
葵お母さんに代わって話し掛けたのはソラウお姉さんでした。
「って、何でソラウさんはスク水、しかも旧型仕様なんですかっ!?」
おじさんはスクール水着仕様のソラウお姉さんを見て激しく驚いています。
「それが、分からないのです。目の前が暗くなったと思ってこの空間に突然転移したらこの水着になっていたもので……」
ソラウお姉さんは両腕で身体を隠しながら恥らっています。
「この空間は雁夜くんが作り出したもの。女性はみんな、雁夜くんが望む服装になるのよ」
葵お母さんがセクシーなポーズを取りながら解説します。
「雁夜おじさんが望んだから私達はスク水とブルマ姿なのよ」
「やっぱりおじさん……変態なんだね」
先ほどと同じスク水姿の凛ちゃん、ブルマ姿の桜ちゃんはちょっと表情を暗くしています。大好きなおじさんが変質的な性的趣向を持っていると知って落ち込んでいます。
「凛も桜もまだまだ子供ね。心に決めた男の変態的性癖の一つも受け入れられなくてどうするの?」
対する葵お母さんはブルマ姿を誇らしげに晒しています。ドヤ顔です。
「私は心に決めたわ。これから雁夜くんと会う時はいつもブルマかスク水にしようと」
「いや、だから葵さんの年齢でそれはキツ……ブベラッ!?」
おじさんはまた腹パンを喰らいました。葵お母さんは既におじさんの調教に入っています。大人の愛って難しいです。
「さあ、雁夜くん。私のブルマ姿を堪能する為にまずはあの無力化した変態をどうにかしちゃいましょう」
葵お母さんは道場の反対側を見ました。
「なっ、何故私がこんな姿に~~っ!? リアルもっかんとまほまほが目の前にいるのに全く動けない~~っ!?」
そこにいたのは聖杯と融合したケイネス先生でした。でも、先程までとは違います。
2mぐらいのタコさんウィンナーの頭の部分に先生の顔が張り付いています。タコさんウィンナーの着ぐるみのような状態が今の先生です。
しかも本人の言うとおり、動けないようです。きっと立ち絵のバリエーションが他に用意されていないに違いありません。
「さあ、雁夜くん。アレをひと思いに殺っちゃいましょう。そして私と幸せになりましょう。凛も桜も妹を欲しがっているわ」
葵お母さんがおじさんの右腕をそっと握りました。
「雁夜さん。ケイネスと決着を付けましょう。そして……私と結婚してください」
ソラウお姉さんがおじさんの左腕をそっと握りました。
「雁夜おじさん。あの変態とケリをつけましょう。そして、私と雁夜おじさんが夫婦になることで遠坂と間桐の恒久的融合を図りましょう」
凛ちゃんがおじさんの右手首をそっと握りました。
「おじさん。桜のこと一生守ってくれるんだよね? なら、桜と結婚してちゃんと一生隣で守ってね」
桜ちゃんがおじさんの左手首をそっと握りました。
「えっと……」
おじさんは全身から嫌になるほど汗を掻いています。でも、自分の手を掴んでいる4本の手を振り解くことは出来ませんでした。
「破壊させてもらうぞ、その聖杯をっ! お前の野望と共にっ!」
「やっ、止めるんだぁ~~っ! このおかしな空間に転移されて動くことさえ出来ないマンモス哀れな私に無慈悲にとどめを差すと言うのか~~っ!?」
おじさんは代わりにケイネス先生を攻撃することにしました。攻撃している間は胃に大穴が開くストレスとプレッシャーを忘れていられるからです。
おじさんは大きく息を吸い込みながら剣を振り上げます。
そして、吐き出す息と共に長きに渡る戦いに終止符を打つ最後の一撃を4人の美女と共に打ち出したのです。
「「「「「虎竹刀究極奥義っ! ウェディング・カット(夫婦のはじめての共同作業)ッ!!」
4人の美女と1人のヘタレ男の気迫の篭った一撃が聖杯に炸裂しました。
如何に人智を超えた力を持つ聖杯といえどもこの不条理空間の中では無力な存在でした。
即ち、渾身の一撃を受けて理不尽に滅ぶしかない存在でした。
袈裟斬りにされた箇所から光が溢れ、聖杯が破壊されます。
そして、それと共に聖杯と融合していたケイネス先生が解放されたのです。
それは桜シナリオのラストを思わせるような美しい1枚絵となりました。
聖杯から開放されたケイネス先生は全裸で空中を浮かんでいます。
その顔は邪気が取れてスッキリした顔で目を瞑っています。
そしてその下半身は凛ちゃんと桜ちゃん達の方を向いています。
ケイネス先生は丸出しの股間を幼女に見せつけながら爽やかに宙を浮いていました。
美しい1枚絵と思ったのは大間違いでした。
ケイネス先生はどんな時もケイネス先生だったのです。所詮はケイネス先生ですから。
「「………………っ!!」」
凛ちゃんと桜ちゃんは無表情のまま虎竹刀をもう1度振り上げ、この戦いに終止符を打つべく再び振り下ろしたのでした。
「うわらばぁあああああああああああぁっ!! だが、幼女に倒される。しかも股間を攻撃されるのは悪くない……フッ。最期まで愛らしい幼女達よ……」
凛ちゃん達の一撃はケイネス先生の下半身に直撃し、戦いは終わりを告げたのでした。
ケイネス先生との死闘から1週間が過ぎました。
聖杯は固有結界の中で不条理に破壊された為に冬木市に被害を及ぼすことはありませんでした。
冬木市の人々はおじさん達の活躍により傷つくことはなかったのです。
その意味でおじさんは人知れない英雄でした。
そしてその英雄は現在、かつてない危機、いいえ、幸福に見舞われていました。
「時臣亡き今、凛が成人するまで後見人を私1人で果たすなんて責任が重すぎて出来ないわ。雁夜くん、私と結婚して私と娘を支えて頂戴」
「ケイネス亡き今、一族の重鎮達は私に魔術の名門出身者と結婚するように矢の催促を掛けて来ています。名門間桐の出身の雁夜さんならピッタリです。私と結婚して下さい」
「お父様と臓硯お爺様亡き今、冬木の地の平和を守り続けるには遠坂と間桐の恒久的融合しかありません。そういう訳で雁夜おじさん、私と結婚して下さい」
「臓硯お爺様が死んで、綺麗なワカメお兄ちゃんも行方不明のままで間桐はボロボロ。間桐が血迷ったことを始めない為にもわたしと結婚して間桐家を立て直そう」
おじさんは葵お母さん、ソラウお姉さん、凛ちゃん、桜ちゃんの4人から同時にプロポーズを受けていました。
しかも4人とも真っ白いウェディングドレス姿でです。ちょっとでも迂闊な返答をすればその瞬間に入籍完了されそうな勢いです。
「…………っ」
それが重々分かっていたのでおじさんは何も言えませんでした。
そして、おじさんのそんなヘタレ根性を知らない4人のお嫁さん候補ではありませんでした。
「雁夜くんは1人に決めることは出来ないだろうと思っていたから、選択肢を2つあげるわ」
「1つは雁夜さんがここにいる4人全員をお嫁に貰って下さることです。大丈夫。法律とかモラルとかルールブレイカーすれば何も問題ありません」
「もう1つは私達がガチンコのサバイバル・バトルをして誰か最後1人の生き残りが決まるまで戦い続ける選択よ」
「こっちを選んだ場合、冬木やその周辺の市は全て焦土と化すと思うけどね♪」
4人の美女はニッコリと微笑みました。
それは選択と言う名の脅迫、しかも恐ろしい暴力でした。
「えっと……」
おじさんの額から滝のように汗が流れ落ちます。
「さあ、雁夜くん。選んで頂戴。ハーレムか殺戮かを」
どんな選択肢でしょうかね、これは?
そしてこんな両極端な選択を選べるようなおじさんならそもそも今のような状況に陥ることはなかったのです。
「…………第3の選択肢として、俺は全力で逃げるを選びたいと思いますっ!」
宣言するが早いか、おじさんは全力で逃げ出しました。4人の美女に背を向けて。
おじさんは全力ダッシュで公園から逃走を図りました。女性に求婚されて逃げ出す。どこまでヘタレれば気が済むのか分からない人です。でもだからこそおじさんなのです。
勿論葵お母さん達がおじさんのそんな行動を予測していない訳がありませんでした。
「「「「待ちなさい、雁夜くん(さん)(おじさん)っ!!」」」」
4人はフォーメーションを組みながらおじさんを追い詰めていきます。
1週間前の激闘の地、即ち川原までやって来た所でおじさんはとうとう追い詰められてしまったのでした。
「さあ、雁夜くん。私達全員をお嫁さんにして養って貰う瞬間が来たわよ」
「私達は冬木が焦土になることを望みません。だから、4人で仲良く雁夜さんを共有して愛するのが唯一の平和な道なんです」
「私達の子供達は幸せになれます。だって、素敵なお母さんが4人もいるのですから」
「くすくす笑ってゴーゴー。くすくす笑ってゴーゴー」
「あわわわわわわわ……っ」
4人の素敵なお嫁さん候補という名の飢えた野獣たちに狙われて、ヘタレおじさんは逃げ場を失ってしまいました。
だけど捨てる神あれば拾う神ありです。
その時、おじさんにとっては奇跡にも等しいイベントが生じました。
「聖杯……くん」
聖杯くんが残っていた魔力をかき集めてたった1度だけ再度具現したのです。
そして、聖杯くんの穴から綺麗なワカメが出て来たのです。
“………………っ”
聖杯くんは冬木を守った影の功労者である綺麗なワカメを元の世界に帰そうとしたのでした。心温まる粋な計らいでした。
そしてそれは綺麗なワカメにとっても驚きの、そして嬉しい出来事でした。これで大切な妹、桜ちゃんを直接守ることが出来るからです。
「丁度良かった、綺麗なワカメよっ! 聖杯には俺が入って中から守る。だから、ポジションを変わってくれっ!」
おじさんは4人の美女から逃れる為に聖杯の中へと逃れることに決めました。ヘタレを極めるとはこういうことでした。
でも、そんなおじさんの突飛な行動さえも4人の美女は聖杯くんを見た瞬間にお見通しでした。
「綺麗なワカメくん。ついでだから、遠坂家の頭首を騙るこの赤い粗大ゴミも聖杯の中で預かってくれないかしら?」
言いながら葵お母さんは虫の息になって気絶している綺麗な時臣お父さんを綺麗なワカメに向かって放り投げました。
綺麗なワカメは綺麗な時臣お父さんを見事キャッチします。けれど、その重さの反動で再び膝まで聖杯の穴の中に沈んでしまいました。
「すみませんが、このロード・エルメロイを名乗る変態ペド野郎も聖杯の中で預かって頂けませんか?」
ソラウお姉さんは虫の息になって気絶しているケイネス先生を綺麗なワカメに向かって放り投げました。
キャッチした綺麗なワカメの体が腰の部分まで沈みます。
「綺麗なワカメ。ついでだから、この蟲おじいさんも聖杯の中で預かってくれないかしら?」
凛ちゃんは虫の息になって気絶している臓硯おじいちゃんを綺麗なワカメに向かって放り投げました。
キャッチした綺麗なワカメは頭だけ残して聖杯の穴の中に沈んでしまいました。
“………………っ”
綺麗なワカメは3人の男を放り投げられてとても困惑した表情を浮かべています。
そこに桜ちゃんがやって来ました。
「綺麗なワカメお兄ちゃん。いつも桜のことを見守っていてくれて、ありがとう」
桜ちゃんはとても優しい表情を見せながら綺麗なワカメにお礼を述べました。
「答えは得たから。大丈夫だから、綺麗なワカメお兄ちゃん。わたしもこれから頑張っていくから」
桜ちゃんは今までで一番綺麗な笑顔を見せながら大好きになったお兄ちゃんに誓いを立てたのでした。
「じゃあね。ばいばい」
桜ちゃんがそう述べた直後、葵お母さんがワインを、ソラウお姉さんが美少女アニメのBDを、凛ちゃんが蟲を綺麗なワカメの頭の上に乗せました。
“…………(・3・)アルェー?”
重みにより綺麗なワカメと3人の男達の体は完全に聖杯の穴の中へと沈み込んでいったのです。
そして桜ちゃん達は綺麗な笑顔を見せたまま、聖杯の穴を外側からパタンと閉じたのでした。
全ての魔力を使い果たした聖杯は完全に消失します。聖杯の穴も最初からなかったかのように綺麗さっぱり消失したのでした。
幾多の戦争と惨劇と悲劇を引き起こした冬木市の聖杯はここに完全に消滅したのです。1人の少年の英雄的な犠牲によって。
「さあ、雁夜くん。もう逃げることは出来ないわ。私達と結婚して貰うわよ」
「大丈夫。私達喧嘩しないように協定を結んでいますから。だから、安心して4人とも愛してくださいね」
「まったく、こんな美女4人と結婚できるなんて雁夜おじさん以上の幸せ者はこの世にいませんね」
「綺麗なワカメお兄ちゃんの分まで……幸せになろうね♪」
4人のお嫁さん候補、いいえ、お嫁さんがおじさんに向かって一斉に襲い掛かります。
「嫌ぁあああああああああぁっ! ケダモノぉおおおおぉ~~っ!! 誰か助けてくれぇ~~~~~~っ!!」
幸せ者のおじさんの嬉声が冬木の大空に吸収されていきました。
そんなおじさんと桜ちゃん達の幸せぶりを綺麗なワカメと綺麗な時臣お父さん、臓硯おじいちゃん、ケイネス先生、そしてメガネ少年が冬木の大空から笑顔で見守っていました。
めでたしめでたし
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完結編だよ。
おじさんとケイネス先生に関する物語はこれで一旦区切りになります。
Fate/Zero
http://www.tinami.com/view/317912 イスカンダル先生とウェイバーくん
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